Ⅰ.本報告の目的と視察概要
1 .本報告の目的
筆者らは,2015年8月10日から15日にかけて,ノル ウェーの福祉視察を行い,Oslo 市のソーシャルワー カー(以下,SW)と2か所の病院において医療ソー シャルワーカー(以下,MSW)より,SW の養成と MSW 業務に関するレクチャーを受けた.
そこで本報告では,ノルウェーの SW 養成と MSW 業務の紹介を通して,日本の SW 養成や MSW 業務と の相違点を検討し,日本のしくみを相対的に捉えるう えでの一助になれば,と考えている.
2 .ノルウェー王国の概況
外務省ホームページによると,ノルウェーの面積は 38.6万平方キロメートルで日本とほぼ同じ大きさであ る.2015年1月現在の人口は約515万6,451人で,首都 は Oslo にある.
過去にはデンマークやスウェーデンと同君連合を形 成してきており,スウェーデンの同君連合を解消し独 立したのが1905年という若い国である.公用語はノル ウェー語であり,宗教は福音ルーテル派が大多数を占 めている.政体は立憲君主制で議会は一院制である.
現在の主要産業は,石油 ・ ガス生産業,電力多消費 産業(アルミニウム,シリコン,化学肥料等加工産
業),水産業で,2014年の経済成長率は2.235%,失業 率は3.53%である.2014年現在の高齢化率は16.11% で あり,25.78% の日本に比べて比較的若い国といえよう.
日本では,劇作家イプセン,作曲家グリーグ,画家 エドヴァルド ・ ムンクや,ノーベル平和賞の授賞式の 会場となっていることで知られている.
3 .視察日程と場所
今回ノルウェーを訪れたのは初回であり,教員と大 学院生の4人で,表1の日程で視察を実施した.
* 立正大学社会福祉学部社会福祉学科
* * 立正大学大学院社会福祉学研究科修士課程
* * * 和洋女子大学家政学群家政福祉学類
* * * * 札幌心療福祉専門学校
キーワード:ノルウェー,ソーシャルワーカー養成,医療ソーシャルワーカー,業務
ノルウェーにおけるソーシャルワーカー養成と 医療ソーシャルワーカーの業務
保 正 友 子* 関 井 和 美**
庄 司 妃 佐***
中 村 裕 子****
図 1 ノルウェー王国
Ⅱ.ノルウェーのソーシャルワーカー養 成
1 .ノルウェーのソーシャルワーカー養成課程
①学士課程
ここでは筆者らがレクチャーを受けた,Oslo 市で支 援が必要な若者の相談を受ける部署(委託機関)に所 属している,SW のトーニャさん(修士課程修了,フ ルタイムでの SW 経験1年目)の話をまとめる.
ノルウェーで SW になるためには3年課程の基礎教 育が必要である1). トーニャさんの卒業した学校は140人 定員で,全員が SW を目指して入学する.基礎教育修 了後に,学校の口頭試験と筆記試験に合格すると SW になれるため,日本のような卒業後に行われる国家試 験は設定されていない.
3年間で実習を2回行う.1年次は全8週の日程で,
1日8時間の実習を1週間に4日間行う.3年次には 全3か月間,同じ時間数行う.1週間のうち1日は自 宅や学校で自由に学習する日となっている.実習中,
学校の教員の巡回指導はあるが,実習がきちんとされ ているか確認する程度であり,実習指導は実習施設の 職員が行う.
学生は実習施設の希望を伝え学校が探し,同じ実習 施設に2~3人の学生が行くこともある.トーニャさ んは,1年次には小学校の障害のある子どもの学級で,
3年次には麻薬中毒者の更生病院で実習を行った.病 院実習では一人の患者の支援を行ったが,現職の MSW とは担当する患者数が異なっていた.
この学校には,トーニャさんが進んだコースとは別 に児童福祉士になるコースが設置されている.学習内 容は青少年と子供に関する科目が多く,社会経済など の科目が設定されていない.ただし,現在トーニャさ んの所属する部署では,SW も児童福祉士も業務内容 に差は無いとのことであった.
②修士課程
トーニャさんは同級生140人中,ただ一人ストレート で修士課程に進学した.卒業後に数年働いてから進学 した人は4人いた.修士課程進学時の入学試験は無く,
学部時代の成績が C 以上であれば入学可能である.
修士課程の2年間に実習は無く,理論のみの学習を 行った.学士課程卒業者と修士課程修了者で仕事内容 に差はないが,チームリーダーになれる可能性は修士 課程修了者の方が高いようである.
2 .ソーシャルワーカーが働く機関
①ソーシャルワーカー全体の概要
学士課程の卒業時に,学生達はインターネットを使っ て自分で職を探す.具体的には,以下の機関への就職 が主となる.
日本のハローワークや社会保険や年金事務所の機能 を持ち,中央公務員や国家公務員が働く労働福祉局
(NAV),児童相談所,病院,刑務所,覚醒剤中毒更生 センター,ハンディキャップセンター(障害者,高齢 者対象).一般的には,民間の企業や施設に就職するこ とは少なく,地方もしくは国家公務員が多い.
現在,ノルウェー全体で約27,000人の SW と児童福 祉士が働いている.市役所に就職しても,自治体の経 済的な事情でリストラされることはあるが,基本的に 異動はない.
② トーニャさんの職場:支援が必要な若者の相談に対 応する部署
部署の職員は8名おり,内訳は SW 2名,児童福祉 士2名,犯罪学専門1名,心理学専門1名,公衆衛生 専門1名,今後児童福祉士資格取得予定の1名である.
職員は職場の勧めや自分で希望して,研修を受ける機 会がある.
相談内容としては,不登校,友達がいない孤独,い 表 1 視察日程
日程 視察先
2015年8月11日 ・Moss 市の介護ホーム視察
・ Moss 市における在宅ケアサービス(訪問看護)視察 2015年8月12日 ・Oslo 市 SW のレクチャー
・ Oslo 市の Lovisenberg Diakonale 病院 視察 2015年8月13日 ・ Oslo 市の Sunnaas rehabilitation 病院 視察
じめ,家族との葛藤,覚醒剤,うつ,感情の抑制がで きない等である.相談経路は本人や周囲の人たちが直 接来る場合もあるが,夜に出かけて問題のありそうな 若者に話しかけることや,学校に行き休み時間に生徒 に話しかけるというアウトリーチを行う場合もある.
相談への対応としては,家庭に問題がある場合の小 さな問題では,解決へ向けた話し合いやアドバイスを 行う.生命に危険が及ぶなど緊急性の高い大きな問題 では,福祉事務所へ連絡する義務がある.その日のう ちに連絡し,とにかく早くアクションを起こす必要が ある.緊急性が無い場合は3ヶ月の猶予があり,3ヶ 月後に継続して支援が必要か判断し,分離が必要と判 断した場合は里親や施設へ預けることになる.父が非 常に暴力的な場合は,児童相談所が責任を持って家族 に精神科医へ行くように促すこともある.学校の教員 や警察との連携が多く,医師は少ない.児童養護施設 へは福祉事務所経由で連絡が入る.
トーニャさんは若者達が持っている様々な問題へ関 われることにやりがいを感じており,この仕事をして いる.若者の問題について,「高圧的に決めつけるので はなく,何が問題なのかよく聞き,解決に当たること が大切だと思っている」と語っていた.
③ 日本とノルウェーのソーシャルワーカー養成の相違点 表2は,日本とノルウェーの SW 養成の相違点をま
とめたものである.日本の場合は,4年制大学社会福 祉学部における社会福祉士養成を基準にした.
大きな違いは実習時間である.ノルウェーでは3年 間の養成課程のなかで計5ヶ月の実習が求められてい る.その内容は,人数は異なるが現任 SW と同じくク ライエントへの対応を行うというものである.
学士課程修了後はインターネットで就職活動を行い,
ほとんどが公務員として採用される点も異なっている.
ただし,後述する私立病院の MSW のように,公務員 の立場でない場合もみられた.
Ⅲ.医療ソーシャルワーカーの業務
1 .Lovisenberg Diakonale 病院
①病院概要
ここからは,最初に訪問した Lovisenberg Diakonale 病院での配布資料『Lovisenberg Diakonale Sykehus』
の翻訳と,2人の MSW のインタビューより得られた 結果をまとめる.
病院は,1868年にノルウェーの医療史において最初 に訓練された看護師である Cathinka Guldberg によっ て創設された.個々の雇用者と組織全体のミッション は,全ての患者を平等で尊重しながら,高い質の治療 とサービスを提供することである.南東ノルウェー地 方健康局による長期契約に基づく公的保険の枠組みで 運営されている.
写真はトーニャさんとの懇談の様子
表 2 日本とノルウェーのソーシャルワーカー養成
日本 ノルウェー
養成年限 4年間(社会福祉学部) 3年間
実習 180時間,23日間以上 1年次に8週間,3年次に3ヶ月
SW になる要件 ・社会福祉士国家試験を受験し,合格すること.
・社会福祉士資格がない場合でも就職は可能. 基礎教育修了後に,学校の口頭と筆記試験に合格 すること.
就職活動 ・ インターネット,希望先の説明会等に参加して の職探し,就職試験を受ける.
・公務員になるには試験を受ける必要あり.
・インターネットを使った職探し.
・ほとんどが公務員として採用.
Oslo 市の約25% が居住する4つの行政区(Sagene,
Gamle Oslo,Grunerlokka,Sentrum を 含 む St.Hanshaugen)の居住者に対する医療サービスを提 供している.また,精神科のサービスはいくつかの他 の自治体に対しても提供され,ホスピスでは緩和ケア が行われている.MSW が所属する部署は幅広い専門 家を有しており,スタッフが提供するヘルスケアは他 の医療機関と密接な連携を保ち,Oslo 市におけるヘル スサービスを提供している.
約1,200人のスタッフを抱え,297床を有し,膨大な 外来患者がいる.また,近代的な X 線の部署,臨床実 験室,薬局を設置している.そこでは,ノルウェー語 以外の母語をもつ患者に対する翻訳サービスを行って いる.
手術を行う部署では,整形外科や耳鼻咽喉科の手術 を要する全国からの患者を受け入れ日程調整を行って いる.整形外科では,800の腰や膝の移植術や,年1回 の高レベルの顕微鏡下の関節手術を含む500疾患の患者 を扱っている.これらにより,ノルウェーにおける整 形外科のこの分野を先導する医療機関の一つとなって いる.緊急時や外傷の手術を含まない手術の計画に集 中することにより安定した手術量と低い比率の院内感 染を伴う,大変有能な部署にしている.
珍しい医療状態を伴う口腔ヘルスのナショナル救急 センターも設置されている.患者は全地方からアセス メント,診断,治療計画のために照会される.他の重 要な業務は,卒業前と卒業後のトレーニング,両親や 患者グループへのレクチャー,研究である.センター はまた,歯科治療を要する長期の薬物依存症者や慢性 的精神疾患患者に対する歯科診療所も含んでいる.
人々が病気にならないように指導するための2012年 の医療制度改革2)までは,在院日数は6~7日であった が,それ以降は3~4日である.短いと再入院する割 合が多くなる.
② Oslo 市の東西問題
Oslo 市の西部は,東部よりも12年寿命が長いと言わ れている.それは,経済的格差のためである.西部の 病院は全く異なる問題で悩んでいるが,Lovisenberg Diakonale は東部の病院である.通訳が必要な移民が 多い.89の異なる言語に対して200人の通訳登録があ る.医学用語を教えるための教育や,どの様に患者と 接するかの対処方法,コミュニケーション技術も教え
ている.
患者は自分の社会的問題解決にあまり関心がないの で,MSW がそれに踏み込んで命令口調でなく,サポー トするというアプローチをとるように気をつけている.
肉体的問題と社会的問題は関連しており,医師もそれ を理解している.
③医療ソーシャルワーカーの業務
約300床の病院に,MSW は3人で,精神科に2人配 置されている.主として内科をカバーしている.具体 的には,癌,貧困,覚せい剤,アルコール依存症,ホー ムレス,孤立,暴力,経済的問題,子育て支援等であ る.内科以外のケースは少数である.その理由は政治 的なことにある.人々の社会問題は自治体の問題であ る.整形外科に罹る骨折は社会問題ではない.社会問 題をもった人が外科に来たら拒否はできないがとても 稀である.身体と心の問題は大体内科に来る.歯科治 療を行うセンターから MSW に依頼が来ることもあり,
主にアルコール依存症や覚醒剤中毒と関係している.
業務内容は,問題があった時の話し合い,事故発生 時の保険の問題(外国人の保険),法律や社会保障の情 報提供や対応,書類を一緒に書く等の実践的対応であ る.コンピュータシステムがあり,プログラムが入っ ている.朝来たらまずパソコンを立ち上げ,関わって いる患者の動向をチェックする.
MSW へは,医師 ・ 看護師 ・ 患者から直接コンタク トがある.例えばホームレスが来院した際にはすぐに 連絡がある.また,医師が見てきちんと社会生活がで きているかどうか判断し,うまくできていないと身体 に症状が現れるため MSW に連絡がある. 医師や看護 師は MSW の事を知っているため,一緒に働く良い伝 統がある.医師や看護師は社会的問題解決の教育は受 けておらず,「身体だけを治すのは半分の目で見ている 様なものである」ため,MSW は常に目を開けている 必要があるという.
一人の MSW が2~3の病棟を担当しており,担当 病棟の患者数はパソコンですぐに見ることができる.
患者が何のために入院したのかを電子カルテを見て,
患者のもとへ行く.患者の状態を理学療法等で見るが,
栄養状態もチェックする.その患者の症状についての 検討が必要な時には,医師や看護師とコンタクトをと る.皆でどうやって問題が解決するかを討論する.話 した事を全て電子カルテに書き,皆がそれにアプロー
チして閲覧することができる.
問題があると福祉事務所や近親者に連絡し,チーム で動く.退院後は患者とのコンタクトは行わない.患 者がここにいる間は MSW が対応し,退院すると終了 となる.1日,2日病院に長く入院した方がうまくい くと判断したら入院を延長するが, 入院期間が1日,
2日長くても問題は解決しないため,なるべく早く退 院してもらう.
④ホスピス病棟での関わり
この病院には癌で治らない人を担当する12床のホス ピス病棟が設置されており,入院を希望している人は 申請書を提出してそれを毎週審査した結果,一番適し た入院者を決める.治る見込みのない人しか入院でき ないため,ウェイティングリストは存在しない.14日 間の入院が可能であるが,退院できない場合には14日 を超えることもある.少し良くなると家に帰り,再び 利用したい場合には新たに申請しなおす必要がある.
ノルウェーでは癌患者への手当は手厚く,告知は行っ ているが,もし患者が知りたくないと言えば告知はし ない.
病棟内は,ホスピスがどうあらねばならないのかと いうシシリーソンダースの原則3)に則って,綺麗に整え ている.キッチンには良い調理人がいて特別対応をし ている.その理由は,癌細胞の浸食により吐き気や食 欲がない場合に,上等の食事を提供する事が一種の薬 になるためである.末期の人には4つの痛みがある.
①肉体的痛み,②精神的痛み,③社会的痛み,④スピ リチュアルな痛みである.MSW は③に対応している.
具体的には,心配への対応,財産贈与,家族への対応,
経済的問題,子どもの面倒,遺言についてである.
もう一つの仕事は,2歳から18歳の子どもたちをサ ポートすることである.両親を亡くす時に現場にい合
わせると,それを体験しない子どもよりもうまく人生 に向き合える.親の死に立ち向かって,何がどうだっ たのかというその時の体験を話すようにしている.2,
3歳児にはグループでのプログラムがある.父親を亡 くした5歳の女児を母親がグループに連れて行ったら,
「○ちゃんもお父さんを亡くした」と同じ体験をして笑 顔が戻った体験がある.
MSW としての悩みは,若い人,小さな子どもがい る人に対応することであり,死後の子どもの面倒をど うするかを話すのは辛い.ホスピスに向いている MSW とそうでない人がいる.
2 .Sunnaas rehabilitation 病院
①病院概要
ここからは次に訪問した Sunnaas rehabilitation 病院 について,配布資料『General information about Sun- naas rehabilitation hospital』の翻訳と MSW とのセッ ションより得られた結果をまとめる.
半島の高台にあるこの病院は1954年に創設されたリ ハビリテーション病院であり,32の異なるリハビリテー ションプログラムがある.主に,急性期のリハビリテー ション,コントロール,モニタリングを行っている.
患者は主としてノルウェー東部から送られてくるが,
それ以外の地域からも来院できる.
約750人のスタッフを雇用しており,専門職横断的で 学際的業務モデルをとっている.研究を重視しており,
Oslo 大学と提携している. ヨーロッパにおける最も大 きなリハビリテーション病院の一つである.
②医療ソーシャルワーカーの業務と地位確保に向けて 病院(全てのクリニック)には18人の MSW がいる.
MSW は多職種連携に参加している.MSW は,住宅,
就労,経済,家族状況,依存症等の事柄に関わる.リ 写真は左から病院の外観,インタビューを行った 2 人の MSW,MSW のオフィス(個室)
ハビリテーションにおけるソーシャルワークの焦点は,
患者が対処スキルと資源を入手できるようになること である.SW の業務は教育,地方のサポートシステム についての情報提供,患者を取り巻く他のサポーター に関与することである.また MSW はいくつかのコー スを持っており,過去3年間にわたり MSW がコース 長となり献身してきた.
この病院で働いている MSW は,全てソーシャルワー クの基礎教育を受けて知識を有している.修士号取得 者は多く,その他のコースを履修して高い知識を有す る人もいる.6割の人たちは特別なコンピュータのコー スを受けている.もっと知識を得るための方策を検討 するため,頻繁にミーティングを行い知識を高めるよ うにしている.多くの実習生も受け入れて指導してい る.現在ノルウェーでは「ソーシャルカウンセラー」
として SW に準ずる教育を受けた人を採用しているが,
正規の教育を受けた人を雇うべきであると考えている.
なぜなら,そのような人は「イエスマン」になってし まうからである.
スウェーデンのカロリンスカ研究所には約200人の MSW が働いているが,一緒にプロジェクトを組んで 教授の指導を受けながら, 協働で MSW の業務内容分 析を行っている.他部署の人たちと競争をして頑張っ ており,常に研鑽している.近年,MSW を病院から 減らす傾向があるが,この病院だけが MSW が力を合 わせて頑張っている.そのため,しっかり勉強をする 必要がある.外からは MSW の得意分野が見えないが,
医師達からは MSW がいないと仕事が混乱すると評価 してもらっている.そのためも,MSW は何ができる のかを知らせる義務がある.
③希少疾患患者への対応
この病院には,希少疾患(全体での患者数が500人以
下)の解明 ・ 研究のための研究センターが設置されて いる.自治体では希少疾患患者への対応がわからなかっ たので,患者が自分にはこれが必要だというものを提 供している.自治体の医師は研究結果を参考にして対 応している.ノルウェーには16の希少疾患の研究セン ターがあり,ここはその1つである.国際的にも様々 な研究機関と連携している.
一個人や学校全体を様々な方法で調査する.病気ご とではなく研究機関として一括して研究資金を受けて いる.ある程度,症状が出ている人がいると資金を受 給しやすい.患者宅に訪問したり患者がセンターに来 たりと,協力して原因解明にあたっている.最初は皆 利用するのをためらっていたが今は上手く運営できて おり,この10年程で研究成果が上がっている.
一般的には医師の紹介状がないと受診できないが,
ここでは患者が自分で主導権を握って来ることができ る.同じ症状の人達がいるので患者にとってはとても 良い.
研究センターの MSW の役割は,他部署とほとんど 同じである.患者と密接にコンタクトをとって問題解 決にあたっている.患者と専門医との間に立って,わ からないことを教えたり,ミーティングに立ち会うこ とも重要な役割である.患者は社会復帰の際に,自ら が就職可能な仕事を知らないことがしばしばあるので サポートを行う. MSW はしっかり患者と対話をして,
患者のニーズに対応している.
患者が国のシステムをうまく利用して,生活できる ようにすることが大切である.患者に必要なものが本 当に行き渡っていなければ,システムに無い何かを探 す.研究過程において考えるのは,病理,社会,精神 全ての理解が大切である.もっとその患者が社会から しっかりサポートを受けられるように MSW は努力し ている.病理学的な MSW のネットワークが少ないた 写真は左から病院から見える景色,MSW とのセッション,院内にある噴水
め,ネットワークをつくって情報交換を行うことも大 切である.
研究課題については,この病院と研究センターには 様々な専門家が関係し,そのなかで MSW は重要な役 割を果たす.人々に MSW は何をやっているのかを知 らしめて,位置づけを高めるのに役立つと思っている.
研究をする時に重要なのは,患者本位になり密着する ことである.患者の病気の種類によっては,癌協会と コンタクトをとり一緒に働くようにしている.研究テー マ ・ 作業内容は以下のとおりである.「身体的(肉体 的)ハンディキャップの子ども達へのインタビューテ クニック」「本病院の子ども達の症状と対応のプロジェ クト」「特別な質問用紙を子どもと親に送る」「特別な 患者に特別な質問用紙を作成する」.MSW は患者に接 して問題を引き出して関係機関にコンタクトを行い,
研究課題を決め,内容を書いて提出する.
3 .日本とノルウェーの医療ソーシャルワーカー業務 の相違点
今回訪問した2つの病院と日本における MSW 業務 の相違点をまとめたのが,表3である.
業務内容の違いで感じたのは,昨今日本では退院援 助が MSW 業務の多くを占めるが,そのような話は聞 くことはなかったことである.最初に訪問した病院で は在院日数が3~4日と短く,退院の際には自治体 SW に連絡をとれば,その後の対応をスムーズに行っても らえることが背景にあるためと考えられる.
また,ノルウェーでは依存症,とりわけアルコール
依存と覚醒剤依存の問題について何箇所かで聞くこと ができた4).日本では精神科病院やクリニック,依存症 専門病院で取り扱う問題を一般病院でも取り扱ってい ることがわかり,広く浸透している問題であることを 実感した.
多職種との連携や MSW の学歴 ・ 地位については,
特に日本との差異は感じなかったが,ノルウェーでは 研究を重視しており MSW の学歴が高く,他国の MSW と協働して研究を行っていることは特徴的であった.
そして,いずれの国でも患者に対する水平な目線,
多様な社会資源のコーディネート,他職種と協働して 仕事をするための絶え間ない自己研鑽等を行っていた ことは共通点である. 常に医療と福祉,治療と生活と の媒介者として働く医療ソーシャルワーカーの必要性 は両国で共通している事を感じ,意を強くした.そし て病院内外に MSW の存在意義をアピールすることに 余念がないのは,MSW が少数職種であり業務内容が 見えにくいことに起因すると思われる.この点につい ては,国は違えども共感できる部分であった.
Ⅳ.視察のまとめ
今回,ノルウェーには初回訪問を行った.これまで 筆頭筆者は,スウェーデン ・ デンマーク ・ フィンラン ドの視察を行ってきており,北欧4カ国では最後の訪 問国となった.
日本では北欧は福祉先進国のイメージが強いが,毎 回の視察で感じることは「北欧の福祉」を一括りにし ては論じきれないということである.北欧4カ国で制 表 3 日本とノルウェーの MSW 業務
日本 ノルウェー
業務内容 MSW の業務指針に掲載された6つの業務(療養中 の心理的・社会的問題の解決,調整援助,退院援助,
社会復帰援助,受診・受療援助,経済的問題の解決,
調整援助,地域活動).+その他の業務.
・ 癌,貧困,覚醒剤,アルコール依存症,ホームレ ス,孤立,暴力,経済的問題,子育て支援,就労 等へのサポート.
・ 問題があった時の話し合い,事故の際の保険の問 題(外国人の保険),法律や社会保障の情報提供・
対応,書類を一緒に書く等の実践的対応.
多職種との
連携 ・必要に応じて多職種と連携をはかる.
・ 地域連携室に配属されることも多く,多機関との 連携窓口となる.
・院内では医師・看護師等との連携をはかる.
・ 研究面において学校・大学・他国の研究機関との 連携を実施.
MSW の 学
歴・地位 ・ 学士課程卒業者(近年では修士課程修了者も増加)
が社会福祉士国家資格を取得し就職.
・院内外に MSW の存在意義をアピール.
・ 3年制の学士課程卒業者の他,修士課程修了者,
博士課程在籍者も存在.
・国家資格は存在しない.
・ 多くが公務員となるが私立病院勤務者は公務員で
・院内外に MSW の存在意義をアピール.はない.
度の大枠は同じでも,その国の政策や財政状況,文化 が異なり,多様な現実がある.例えば,昨年度までに 3回訪問したフィンランドでは MSW は公立病院にし か設置されていなかったが(保正 ・ 関井 2014),ノル ウェーには私立病院にも存在することを新たに知った.
そのため,4カ国の共通点と相違点を捉える,木目細 かな視点を持つことが必要なことを感じている.
今後は,まだ実施できていないスウェーデンとデン マークの MSW の実態を把握することが課題である.
最後になりましたが, この場を借りて視察旅行のコー ディネーター小野鎮氏,ノルウェーでの通訳を行って いただいたチャルナス克美氏,ノルウェーの関係者の 皆様に御礼申し上げます.
注
1)ノルウェーの SW になるために必要な科目として,2015年 から2016年にかけては,以下の16科目が設定されている.
①基本的なソーシャルワーク,②心理学,③社会学や人類 学,④コミュニティワーク,⑤コミュニケーションと倫理,
⑥社会政策,経済学,法律,⑦公共の福祉におけるソーシャ ルワーク,⑧個人や家族のソーシャルワーク,⑨クライエ ント志向のソーシャルワーク実践,⑩疎外と反差別のソー シャルワーク,⑪社会集団,⑫組織におけるソーシャルワー ク,⑬オプションの被験者(児童福祉,助祭のソーシャル ワーク,国際ソーシャルワーク,学生が選んだカリキュラ ム,ソーシャルワークの短期的アプローチ,薬物リハビリ におけるソーシャルワーク,家族およびネットワーキン グ),⑭科学的方法や卒業論文,⑮プロとしての訓練,⑯ノ ルウェーの福祉国家への導入.
『Pensumliste for bachelor i sosialt soshel og sosdel stud- ieår 2015-2016』より
2)2012年にノルウェーの保健福祉省は,地方自治体の医療福 祉改革の一環として,24 時間体制の患者受け入れ施設を整 備するための当面の補助金を112の自治体に総額1億2370 万ノルウェークローネ拠出することを発表した.補助金を 受け取る自治体については,2016年までに施設の開設が期 待される.これによって,退院時の患者のケアに対する責 任の大部分は地方自治体に移管された.この改革は,地方 自治体にとって予防医療対策への投資に対するインセンティ ブとなった.この改革の影響により,また人口に占める高 齢者の割合の増加予想を考慮し,多くの地方自治体が地域 の医療施設への投資を行ったことが報告されている.『ノル ウェー政務月報(2012年9月)』『ノルウェー地方金融公社 2013年年次報告書』より
3)シシリーソンダース(Cicely Saunders)は,医療の場,宗 教的な組織,コミュニティづくりという三つの機能のもと 聖クリストファー・ホスピスを創設し,近代的なホスピス の基礎を築いた.シシリーは職員が全てのレベルで理解し ておくべき必要なこととして,次のように話した.「私が申
し上げておきたいのはあらゆる種類のこまごました―ベッ ドがきちんとしていること,健全な娯楽室,すべてにわたっ て快適さと美しさが感じられること,少しも堅苦しすぎる ことなく,いながらにして家庭的に感じられるあらゆる種 類のディテールのことなのです.どのようにして患者たち を心地よくさせるか,ひどい病気にかかるとはどうゆうこ とか,死ぬとはどうゆうことかを理解するように努めるこ となのです.どのようにして静かでいられるか,そしてど のようにして患者さん自らが本当の安寧を神の中に見い出 せるように静かで安全にしていられるような援助をするこ とができるかを学ぶことなのです」(=1989:175). その後,
この考えに基づくホスピスが全世界に広がっていった.
4)ノルウェーでは,アルコール及び薬物研究のための国立研 究所によって,アルコール依存と覚醒剤依存問題の調査・
研究が行われてきている.ノルウェーでは,単独の違法薬 物に関連する個別の法律は存在せず,少量の薬の使用と所 持は医薬品に関する法律の規定にそって対応する.政府は
『薬物問題に関する政府の行動のための指示を提示する白 書』を出し,総合的な薬物やアルコール政策を行っている.
白書は5つの対応に言及している.①予防と早期介入,② コーディネートサービスの協力,③優れた質の良いサービ ス提供,④重度の依存症者をサポートする薬物の過剰摂取 の死亡者数の減少,⑤第三者への危害を減らすことを目的 とした取り組み.なお,2013年に薬物治療を行った患者数 は16,892人であることが報告されている.『ノルウェー国の 概要』より
引用文献 ・URL(引用順)
外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nor- way, 2015.10.02)
『General information about Sunnaas rehabilitation hospital』
(病院での配布資料)
保正友子・関井和美(2015)「フィンランドにおける医療ソー シャルワーカーの業務」『立正社会福祉研究』16(2), pp.77- 83.
『Lovisenberg Diakonale Sykehus』(病院での配布資料)
『ノルウェー政務月報(2012 年9月)』
(http://www.no.emb-japan.go.jp/files/000039172.pdf 2015.10.04)
『ノルウェー地方金融公社 2013年年次報告書』(http://www.
kommunalbanken.no/media/82857/annual_report_2013_
jp.pdf 2015.10.04)
『ノルウェー国の概要』
(https://translate.google.co.jp/translate?hl=ja&sl=en&tl=ja
&u=http% 3 A% 2 F% 2 Fwww.emcdda.europa.eu% 2 F countries%2Fnorway 2015.10.04)
『Pensumliste for bachelor i sosialt soshel og sosdel studieår 2015-2016』(ノルウェーの通訳からの配布資料)
Shirly,B.(1984)The Founder of the Modern Hospice Movement, Hodder and Stoughton.( = 1989,若林一美ら訳『ホスピス運 動の創始者 シシリー・ソンダース』日本看護協会出版)
(2015年10月31日受理)