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第1章 児童養護施設と発達障害

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Academic year: 2021

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1 .児童養護施設と虐待

 2000年(平成12年)11月に児童虐待防止法が施行されて,10年以上の年月が経過した。し かし,幼い子どもが虐待によって大きな怪我を負ったり,命を落とすといった事件は後を絶 たない。2010年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数は,速報値で55,152 件(但し宮城県,福島県,仙台市を除いて集計した数値)で過去最高となった(厚生労働省,

2011)。

 親から引き離された被虐待児の主要な受け皿になっているのが児童養護施設である。

 厚生労働省が行った児童養護施設に入所している児童の実態調査によると,2008年 2 月 1 日現在で,児童養護施設に入所している児童のうち53.4%が「虐待経験」ありとの結果が出 ている(厚生労働省,2009)。現場の職員の感覚としては,被虐待児の入率はもっと高いとい う声が強い。

 このように児童養護施設と被虐待児の関係は切っても切れないものだが,その一方で,虐 待と発達障害の関連性が指摘されている。

2 .虐待と発達障害

 杉山(2007)は,あいち小児センターに「子育て支援外来」という虐待および関連する問 題への専門外来を設置し,そこで対応した自験例575名の被虐待児を分析した結果,子ども虐 待症例には,多くの発達障害が認められたことを示している。この報告によれば,発達障害 の占める割合について,広汎性発達障害(PDD)が全体の24%,注意欠陥多動性障害(ADHD)

が20%と,この 2 つの発達障害ですでに44%を占めるという。さらに何らかの発達障害の診 断が可能な子どもを含めると,全体の54%に達する。その中で知的障害を伴うものは非常に 少なく,「 9 割以上が知的障害でない群であった。つまり,軽度発達障害が,虐待の高い危険 因子となることが示されたのである」(杉山,2007)。

第 1 章 児童養護施設と発達障害

Developmental Disorders in Institutions for

Homeless or Maltreated Children

村尾 泰弘

Yasuhiro Murao

*立正大学社会福祉学部子ども教育福祉学科 キーワード:児童養護施設,発達障害,虐待

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3 .発達障害の定義

 ここで発達障害について整理しておきたい。

 発達障害は新しい用語であり,この用語の対象も定義も専門領域や使用する人ごとに異な り,現段階において,明確な定義や一定の共通認識があるわけではない(羽間,2008)。

 歴史的に,発達障害(Developmental Disorders)という医学的用語がよく使用されるよう になったのは,アメリカ精神医学会の診断基準の DSM-Ⅲ-R(1987)において発達障害とい う上位概念が生まれた後のようである。DSM-Ⅲ-R における発達障害は,「精神遅滞」(知的 障害),「広汎性発達障害」,学習能力障害などの「特異性発達障害」,注意欠陥多動性障害な どの「その他の発達障害」から構成されていた。改訂版の DSM-Ⅳ(1994)になると,発達 障害という上位概念は消え,「通常,幼児期,小児期または青年期に初めて診断される障害」

という用語に変わった。このように,DSM においては,発達障害という概念が続けて使用さ れることはなかったのだが,一般には発達障害という用語は頻繁に使用されている。そして,

多くの場合は,上記の障害のうち,精神遅滞,広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性 障害を総称して,発達障害と言うことが多いようである(羽間,2008)。

 なお,2005年 4 月 1 日に施行された発達障害者支援法においては,発達障害とは,「自閉 症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他こ れに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で 定めるもの」と定義されている。同法において精神遅滞が除かれているのは,知的障害者に ついては知的障害者福祉法などの法律がすでに制定されており,発達障害者支援法がこれま で支援を受けられなかった人たちへの支援を意図したからとされている(竹内,2008)。

 杉山(2007)は,被虐待児の臨床知見から「被虐待児は臨床的輪郭が比較的明確な,一つ の発達障害症候群としてとらえられるべきではないか」と考え,「被虐待児を第四の発達障害 と呼んでいる。第一は,精神発達遅滞,肢体不自由などの古典的発達障害,第二は,自閉症 症候群,第三は学習障害,注意欠陥多動性などのいわゆる軽度発達障害,そして,第四の障 害としての子ども虐待である」(杉山,2007)。

4 .虐待と発達障害の鑑別の困難さ

⑴ 被虐待児と発達障害児

 発達障害著と虐待は密接な関係を有している。遠藤・染矢(2006)は発達障害と虐待の問 題は切り離して考えることは不可能であるとし,たとえば,ADHD 児はその育てにくさのた めにしばしば虐待の被害者となると述べている。

 杉山も継続的にフォローアップしている1000名以上の児童青年のうち,ADHD の診断基準 を満たす者の77%に何らかの虐待の既往があると述べ,受診した虐待被害児575名中の54%の 児童に何らかの発達障害が認められること,しかも広汎性発達障害(PDD)のなかで知的障

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害を伴うものは少なく,85%までは IQ70以上であったというデータに基づき,高機能広汎性 発達障害(HFPDD)をはじめとする発達障害が虐待のリスク要因となっていることを指摘 している(土井,2009)。

 また,被虐待児と発達障害児との鑑別の困難さの問題もしばしば指摘されている。

 ヘネシー・澄子(2004)は反応性愛着障害の観点から虐待の影響を整理しているが,杉山

(2007)は,ヘネシーが被虐待の影響として整理している内容には自閉症や ADHD の症状と して広く知られている症状が含まれていると指摘している。

⑵ 反応性愛着障害と発達障害の類似性

 反応性愛着障害とは,「生後五歳未満までに親やその代理となる人と愛着関係がもてず,人 格形成の基盤において適切な人間関係をつくる能力の障害が生じるに至ったもの(杉山,

2007)」であり,愛着の未形成が及ぼす影響は,単なる栄養不足といったレベルでは収まらな いほど広範なものとなる。愛着者から急に引き離された乳幼児は無反応になり,たとえ十分 な栄養が与えられていても,心身の発達の著しい遅れ,さらには免疫機能の低下までが生じ,

時として死に至ることもある。

 反応性愛着障害は,国際的基準では二種類に分けられている。他者に対して安定した関係 をもつことができず,他者に対して無関心を示すことが多い抑制型と,部分的な愛着関係の 状態に取り残され,他者に対して無差別的に薄い愛着を示す脱抑制型である。

 生後まもなくから極端なネグレクトの状態に置かれた子どもは,抑制型の臨床像をとるこ とが多く,ネグレクトに加え,身体的な虐待,養育者が一定しないなど愛着の形成が部分的 な成立のみの状態に置かれた子どもは脱抑制型をとることが多いと言われている。反応性愛 着障害の抑制型は自閉症圏の発達障害に非常に似ている。特に高機能広汎性発達障害との鑑 別は極めて困難である。一方,脱抑制型は,非常に落ち着かず,他動であることが多く,注 意欠陥多動性障害によく似た臨床像を呈する。

 このように反応性愛着障害と発達障害の類似性が指摘され,これは言い換えれば,被虐待 児と発達障害を有する子の鑑別の困難性が問題になるということでもある。

⑶ 虐待と解離性障害

 このように,虐待,発達障害,反応性愛着障害は,きわめて緊密な関連性を有するといえ る。この 3 つの事項を考えるに当たり,特別な考慮を必要とするのが,「解離」という症状で ある。杉山(2007)は「(杉山らの)外来統計をみると,解離性障害と診断された子どものう ち,実に八割までが被虐待児であった」という。被虐待児と解離性障害の関連性は非常に高 い。解離性障害について説明を加えると,解離性障害は記憶障害と解離過程症状の二群に大 別でき,記憶障害としては,ブラックアウト(記憶が飛んでしまっている現象),とん走エピ ソード(気づいたらまったく別の町に行っていて,その間の記憶がない),技能知識水準レベ

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ルの動揺(あるときは高い能力を示すのにあるときはまったくだめなど,日によって能力が ころころかわる),自己史記憶の空白(ある年齢の記憶がまったくない),フラッシュバック

(突然トラウマ記憶に襲われる)などがある。解離過程症状としては,離人感(もの事の実感 がなくなってしまい,とても苦しい現象),被影響体験(何かに操られているような感じ),

解離性幻覚(お化けが見えたりお化けの声が聞こえたりする),トランス体験(忘我状態に至 る現象),交代人格状態(一人の人間に別々の人格が現れる現象),スイッチ行動(普段とは 違った状態へとスイッチが切り替わる現象),解離性思考障害(内なるお化けなどの声に邪魔 されて考えがまとまらない)などがある。

 これらの症状の中で,児童養護施設で頻繁に問題になる解離性障害は,スイッチ行動であ ろう。突然暴れ出す等,普段とはかけ離れた状態へとスイッチが切り替わる現象である。ま た,そのような行動に対して,職員が注意しても,児童はボーとして話が入っていかないと いう現象もしばしば報告される。このボーとして職員の注意が入っていかない状態になるこ とも解離の症状であることが多い。これは,ともすればふてぶてしい態度として職員に受け 止められ,誤った児童理解へと導かれてしまう。解離の理解はきわめて重要である。筆者は,

被虐待児が誤解される大きな要素のひとつに「解離」を挙げても過言ではないと考えている。

5 .発達障害の二次障害としての少年非行

 児童養護施設で生活する子どもたちについて,もう一つ留意しなければならないことは,

発達障害の二次障害としての激しい問題行動や少年非行である。

 ADHD の子どもは,特に集団教育の場面が多くなる小学校入学後に問題が目立つことが多 くなり,その衝動統制や行動修正の困難さ,多動傾向によってしばしば叱責されたり,疎外 される場面が多くなり,そのことによって自尊感情の低下を招くばかりか,被害的な認知の 固定化によって周囲との関係が悪化するという悪循環に陥ることがしばしばみられる。

 原田(2007)は,ADHD の子どもはその障害特性によって周囲とのトラブルを引き起こし がちであり,その結果,他罰的となって周囲に怒りを抱くなど,ADHD の特性が不適切な方 向に子どもを導いてしまう危険性があることを指摘している。たとえば,衝動性は抱いた怒 りを即自的に表出させるであろうし,言語機能が低ければ,うまく表出されない怒りは行動 として現れやすくなる。また,低い認知機能は状況をうまく把握できなかったり,言動を曲 解するがゆえに,子どもの怒りを増幅させる方向に働く可能性があるのである。

 こうして反抗期になった子どもに対して親がさらに激しい叱責や体罰など不適切な養育を 続けると,子どもの怒りや犯行も持続的になり,性格に根付いていく悪循環が形成される。

こうした状態が場合によっては,非行や犯罪につながっていく。

 PDD の子どもの場合,相手の感情を読みとることが困難であるために,本人にそのつもり はなくとも,結果的に相手に対するいじめや嫌がらせの行為になってしまうことがある。

 PDD に特有の感覚過敏からくる不快体験やいじめなどの被害体験によって不快な記憶の貯

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蔵庫が一度つくられてしまうと,些細な出来事が鍵刺激となって過去の不快な体験と激しい 情動がよみがえり,その結果,「被害的・迫害的認知の固定化」が起きて,対人関係を被害的 に読み取り,トラブルを頻繁に起こす事態も生じてくるという。また,高機能広汎性発達障 害の児童はその集団行動の困難さの問題とも相俟って,激しいいじめの対象となりがちであ り,しかも低学年のうちはいじめを受けても比較的無関心なものが少なくないが,小学校高 学年になると,今度は自閉症圏の発達障害であるタイムスリップ現象によって,ささいなきっ かけで昔の不快場面のフラッシュバックが生じ,大騒ぎを繰り返すようになる。

 ここで注意しなければならないことは,発達障害自体が少年犯罪につながると考えること は誤りであり,あくまで二次的な障害として少年犯罪につながるということである。つまり,

発達障害を有する子どもたちは,その発達特性への適切な理解と対応を欠いたり,いじめや 虐待などのリスク要因が重なると,少年犯罪や非行へと発展する危険性があるわけであり,

そのことには十分に留意する必要があると考えられる。

6 .児童養護施設にける発達障害の課題

 ここまで概観してきたように,児童養護施設での発達障害の問題は,虐待の問題と密接に 結びついている。発達障害を有する子どもは虐待の被害者になりやすく,被虐待児には,当 然,反応性愛着障害が認められることが多い。また,虐待に起因する反応性愛着性障害は発 達障害と近似した症状を呈する。杉山のように被虐待児を第四の発達障害と考える立場であ れば,なおのこと発達障害の問題はまさに虐待の問題として総括できるのである。

 その際,発達障害の障害特性の理解や反応性愛着障害の理解なしには,指導は難しい。さ らにこれに加えて,特に解離の理解が必要不可欠となる。児童養護施設の職員にはこれらの 専門的知識の習得と障害特性を念頭に置いた対応の工夫が課題となろう。また,発達障害の 児童に対しては,特別支援教育との連携が重要となる。本研究では,これらの問題について,

さらに検討を加えていくことにする。

文 献

遠藤太郎・染矢俊幸(2006)多動と子ども虐待.『そだちの科学』 6 号,pp.67-71 土井高徳(2009)青少年の治療・教育的援助と自立支援.福村出版

原田謙(2007)反抗挑戦性障害・行為障害.『里親と子ども』 2 号,明石書店

羽間京子(2008)非行とは Q15.村尾泰弘(編)Q&A少年非行を知るための基礎知識.

pp.134-141,明石書店

ヘネシー・澄子(2004)子を愛せない母 母を拒否する子.学習研究社

厚生労働省(2009)児童養護施設入所児童等調査結果の概要(平成20年 2 月 1 日現在).厚生 労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課

厚生労働省(2011)児童相談所における児童虐待相談対応件数(平成22年度).厚生労働省雇

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用均等・児童家庭局総務課

杉山登志郎(2007)子ども虐待という第四の発達障害.学習研究社

竹内直樹(2008)発達障害関係の臨床.松本雅彦・高岡健(編)発達障害という記号.pp.74

-88 批評社

参照

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