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長崎県における中学校理科教育の現代化推進の隘路

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長崎県における中学校理科教育の現代化推進の隘路

久 保 為 久 麿

 わが国の教員養成の問題は『学校教育全書』中に極めて要領よく,次のように述べられ ている。「わが国の大学教育ははなはだ不幸な状況の下に置かれている。教育の場として の大学は,今日ふさわしい形態と機能とを備えているとはいい難い。科学教育もまたその 例外ではない。教育の改善に関する努力はようやく始められようとしている。これに対す る強力な支持が必要である。」続いて,「教員養成は大学において行なわれることを建前 とするが,教員養成の問題は特に重要な問題を含んでいる。大学教育のうちで最も不幸な ものは教員養成のそれであるといってよい。その原因は大学にあるものと,社会のうちに あるものとの双方であるが現在とられ,もしくはとられつつある方法が,その救いになる とは信じ難い。」Dここに述べられたような貧困な教員養成の現状のなかで,理科の教員 養成は最も深い谷間に窒息していて,現在とられている対策が適切でなく,従って好まし

い結果が充分実っていないものの一つであるといえよう。

 さて我々は理科教育の現代化を推進する途上にある。即ち理科教育においては,自然現 象の内容に重点を置く実質陶冶よりも,自然現象についての学習方法,即ち究明の過程に 重点を置く形式陶冶を目的とし,これによって培われた能力を他の問題に転移できるよう にすることを目指すのである。その方法として,理科の新らしい内容と古い内容を,精 選,集約,系統化したsyllabusを作ることが問題となる。一方現代化を推進する理科教 員は,程度の高い基礎的な理科実験に習熟すると共に,自然現象を合理的に究明する方法

を体得することが要求される。

 筆者は従来毎年夏季に,主として長崎県下の中学校現職教員を対象として,理科教員免 許認定講習会の講師をしている。今年の夏,長崎県下の中学校の現場の実態を知るため,

約60名の受講者にenqueteを依頼した。そこでそれをもとにして,更に長崎県教育委員会.

長崎県理科教育センター,日本教職員組合長崎県支部,長崎大学教育学部付属中学校う長 崎市内中学校の一部,その他と接触して集めた資料を整理した。この論文では,中学校理 科教育現代化推進に直接,且つ,重要な役割を占める教員に焦点を合わせ,現象論,実態 論,本質論にわけて論ずることにより,所期の目的の達成を阻む要因がどこにあるかを探 ることにする。

§1 現  象  論

(a)中学校現職教員免許単位認定講習

 敗戦後,教員免許法が改正されて以来,他の教員養成大学の例に洩れず,長崎大学教育 馨 長崎大学教育学部,物理教室

継 本論文は昭和4ε年10月2日教員養成大学学部教官研究采会,理科教育部会(福岡教膏大学)で講演

  した。

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長崎大学教育学部教育科学研究報告 第16号

学部,(旧称学芸学部)も上級免許状授与のための認定講習会を開講している。一時行な

二われた通信教育講座は現在開かれていない。 (理科の通信教育講座開設の要望がかなりあ

ることを見落すことはできない。)

 下級免許状を所持する中学校教員は,この講習会ならびに通信教育講座で必要な単位を とれば,15力年の教育実績を積むことなしに,中学校の特定の教科の上級免許状を取得す

ることができる。

 また特に長崎県教育委員会の要請により長崎大学教育学部は,理科以外の免許状を所持 する現職教員に,理科の一級普通免許状を授けるための認定講習を行なった。この講習会 は第一次五力年継続のものを終了し,今年は第二次五力年継続のものの第三年目を終了し

『た。

 受講者は一単位としては極めて短時間の受講の後,試験に合格して得た単位の集積によ り,数年がかりで免許状の交付を受ける。 (この種の講習会の受講者の受講態度には真剣 味が盗れている。小学校や幼稚園などの現職教員を対象とする講習会においては,受講者 拡一一般的にいって問題があるやに聞いている。このことは屡々教育学部で認定講習の依頼 を引きうけるかどうかを教授会で決定する際話題になった。)

 このようにして現職教員の中から,新らしく理科教員免許状所持者が生まれる。ところ で,この講習に協力した長崎大学教育学部は,中学課程理科学生の長崎県下の現場への進 出余地が,年々狭くなりつつあることについて矛盾を感じていないわけではない。

㈲ 長崎大学教育学部中学課程理科出身の教員

 大学関係以外の指導者級または幹部級の理科教育関係者に,長崎大学教育学部理科出身 の中学校理科教員に対する評価を求めたところ, 「彼等は学力が比較的高いにもか二わら ず,まだ年令が若いので,将来に期待が持てる。」と云うことである。

 このように将来を嘱望されている若い教員の中においてすら,程度の高い理科実験の基 礎的な事柄が身についていない者もないわけではない。また彼等は物理,化学,生物,地 学の全てを均等にこなすことは難かしいと云っている。彼等と教育学部理科教室のつなが りは,毎年二月に行なわれる学部四年生の卒論研究発表会に際して,彼等が理科教室に集 合することである。しかし,卒業以来一度もこの会合に出席しない者もある。平常理科教 室を訪つれるものに至っては極めて乱れである。このようなものを含む理科教室出身者を 再び理科教室によんで,より高度の学力と指導能力を身につけさせる方策はあるが,その 実現はいろいろの事情によって阻まれている。

(c)理科教員の不足

 一概に中学校の理科一級普通免許状の所持者といっても,その実体は一様ではない。教 員養成大学の中学課程理科,旧制工業専門学校,旧制師範学校,理科専門以外の新制大学

卒業者,その他である。

 長崎県の中学校教員総数は約4400人(男子約3200人,女子約1200人)である。そのう ち理科教員数は約540人, (一級免,男子約340人,女子約25人。二級免,男子約170人,

女子約10人)である。したがって,理科教員数は全教員数の約12%にあたり,標準比率と

いわれる13〜14%より少ないことになる。

 今日民間産業界は非常に好景気で,そこで働らく人たちの給与は教育に従事する人たち

のそれを遙かに上廻っている。このために,ますます,将来有為な教育者になると思われ

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長崎県に於ける中学校理科教育の現代化推進の隆路(久保)

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る青年が中学校の理科教育界から遠去かることになる。この傾向は,大学入学志願者の実

態をみても明らかである。

 最近の高等学校の急増にあたって,高等学校理科教員(高校理科二級免所持者)を引抜 くことで充たされた。そしてそれによって生じた中学校の理科教員の欠員が小学校在職の 中学校理科二級免所持教員で補なわれた。この結果このような一連の人事の連鎖反応で,

中学校の優秀な理科教員数が減少した筈である。

§2 実  体  論

(a)理科教員の仕事

 一般に中学校教員の平均受持授業時間数は,長崎県においては,一人一週約23時間であ る。教員はこのほかに放課後,生活指導(クラブ活動指導や庶務的な事務などの仕事をし なければならない。とりわけ理科教員は実験準備も助手なしで,授業時間以外のときにし なければならない。 (尤も一部の中学校では,P.T.A.のi援助で実験助手を採用してい

るところもある。)

 最近の中学校には種々の教育器具が導入されている。例えば, teaching machine.

answer。 checker,:L,:L装置, V・T. R., overhead projectoちtapecorder, televisiorL set,学校放送機器などの理科授業以外で使う教育器具がある。この方面に比較的明るいと みられる理科教員は,器具の取扱いの相談にのったり,保守や修理を受持ったりする。し たがって,理科教員のうちには,多忙のためにやむを得ず,最も重要な理科実験や,その 準備をおろそかにし勝ちになると告白するものもある。一般にいって,理科実験の器具も 充分とはいえないが,器具があっても実験をしない教員もあるということである。

(b)理科教員の配置

 長崎県の教員配置は,学級編成による配当基準に基づいて,県教育委員会で計画され る。配当にあたっては,地方の教育委員会や教育事務所と連絡をとって行なうのが建前で ある。尤もこれを行なうにあたっては各中学校から年度始め前に提出される教育計画が参 考になる。しかもその際,教員の免許状種類を参考にすることは勿論である。しかし,

下部機構の人事において,教科間または同一・教科内の分野間の教:員比率のbalanceが 崩れることがある。理科教員数と全教員数との比率を調べてみると都市部と地方の中学 校の間では勿論であるが,同一都市,同一地方の中学校の間でも,かなりのunbalanceが

ある。

 教員が一旦ある地方に就職すると,別の地方に移ることが甚だ困難であると云う実情か ら考えると,県全体の教員の人事交流は円滑に行なわれているとはいい難い。

 もともと長崎県全体の理科教員数が不足しているわけだが,特に僻地や離島の小規模中

      ラ

学校では理科教員数と全教員数の比率は至って小さい◎中には理科の免許状を所持した教

員が全然いない中学校もある。

 最近の教育学部中学校課程理科出身者の新任地の殆んどは,僻地や離島の中学校である,

が,これでは都市の理科教育界に新風の吹き込む余地がないことになる。県全体を通じて の人事交流が行なわれないとすれば,この傾向はまだ当分続く可能性がある。

〈c)他教科教員による理科授業の応援

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長崎大学教育学部教育科学研究報告 第16号

 学級編成による配当基準に基づく県下各中学校の教員数の総数に定員不足がない限り,

特定の教科の教員数の不足は,新規採用で補なうことはできない。また余裕のある教科の 教員を教壇から降ろすわけには行かない。そこで一週約23時間の受持時間の枠内で教員不 足の教科の授業が他教科の教員のかけ持ちで行なわれる。この措置は主として,隣接科目 の担任教員間で行なわれる。理科授業が他教科教員によって行なわれるcaseは特に僻地 や離島の小規模中学校に多い。このことは県全体の中学校理科教員の不足が,僻地や離島

の小規模中学校にしわ寄せされていることにも因る。

 教科のかけ持ちをする教員は,県の教育委員会に教科外授業担任許可を申請して,その 教科の臨時免許状または仮免許状の交付を受ける。申請する際の教員の当該科目担当能力 の有無の判定は,所属校長によってなされる。このような臨時または仮の免許状,あるい は下級の免許状所持者に対する講習が§1(a)で述べられた認定講習である。

 実際に彼等が受講のために,その任地を離れようとしても,他の教員に対する気兼ねや 経済的負担などの支障がある。彼等の受講しようとする努力は大いに買わねばならない。

 理科をかけ持ちで担当することは教員に歓迎されない。その理由は彼等が理科に不得手 であるということと,理科を担当すれば多忙になるということである。理科以外の教員の なかには,物理,化学,生物,地学のうち,どれか一つなら大丈夫担当できるというもの もある。実際にそのような教員が理科の一部門を応援することがある。このような応援の 仕方であれば,小学校教員から不足した中学校の理科教員を補充してもよさそうである が,中学校教員の定員の枠に縛られてそれもできない。理科教員の不足,偏在は当分続く

ことが予想される。

§3  本  質  論

 中学校教員は学級編成基準に基づいて,中学校に配置されており,その総:数は定物的に

・は充たされている。県下各地区の理科教員分布のunbala亘ceを適性分布に向わせよう としても,各地区の教育委員会,地方事務所,日教組などの介在による抵抗は無視できな:

い。理科教員の不足という痛手を最も甚だしく受けるのは僻地の中学校である。また物 理,化学,生物,地学がただ一つの理科に統合されているので,理科の一部を指導する能

力をもつ教員を活用することが困難であり,比較的教員層の厚い他教科からの理科教員へ の転換が行なわれても,平衡状態への復元も難かしい。

 教育学部中学校課程理科を卒業すれば,僻地の中学校の理科教員になること,理科教員 の仕事は多忙であるのに,給与はよくないこと,現在の教員の枠が膨らまない限り,卒業 後の就職は難かしいなどのことが予想される現状では,学生も挫折感を抱いている。この ようなことでは,今後新鮮で有能な理科教員の後続部隊を中学校に迎える期待は甚だ薄い

といわざるを得ない。

 われわれは如何にして,中学校理科の教員層を厚くすべきかと云う,理科のsy11abus作

:製以前の問題を抱えている。(1968.9.30)

後 記

 昭和43年度の理科教育法研究集会の席上では,本論文の末語を,「そのsolutionの

hin七のいくつかはこれまでの論議に内蔵されている通りである。」ということにした。そ

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の研究集会の最終日の討議において,筆者の論文に,今後の対策とか,結論めいたものを 書き加えて欲しい。とか,筆者の取扱かった問題は長崎県だけでなく,他の県にも共通し た問題であるから,殊更標題に長崎県を入れなくてもよかろう。と云うような意見もあっ

た。

 筆者はこの論文を発表する以前から,この論文の最後に結論めいたものを書くべきかど うかということを,一応考えてみた。それは,筆者が扱ったのは,長崎県だけであるから である。もしも長崎県以外の各県の実情がはっきりわかったならば,理科教員養成に関し

て妥当な結論が得られるという考えは今でも変っていない。筆者は特に大方の関係者の抱

rいている結論めいたものに関係のある問題点を中心に論じたつもりである。

 最後に本論文作製に関して賜わった各方面の御協力ならびに御助言に対して厚く感謝い 1たします。(1968,11.11)

参 考 図 書

1.海後宗臣,高坂正顕監修:r学校教育全書』 (10)理科教育, (全国教育図書株式会   社版),1966

2。長崎県教職員組合:長崎県教育職員録,昭和43年度版

参照

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