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氏名馬

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Academic year: 2021

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氏 名 馬

ユン

所 属 人文科学研究科 人間科学専攻 日本語教育学教室 学 位 の 種 類 博士(日本語教育学)

学 位 記 番 号 人博 第 133 号 学位授与の日付 平成 30 年 9 月 30 日 課程・論文の別 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 題 名 字順の逆転する二字漢語についての研究

―日中対照の観点から―

論 文 審 査 委 員 主査 教授 浅川 哲也 委員 教授 西郡 仁朗

委員 (埼玉大学) 准教授 劉 志偉

【論文の内容の要旨】

1. 本論文の研究背景と研究目的

中国語を母語とする日本語学習者の作文の中に「こうなるのも命運か」・「労働者は悪劣 な労働条件の下で働いている」・「和平な国」・「彼は朴素な生活をしている」・「昨日演講会 に参加した」するといった誤用例をよく見かける。日本語を母語とする中国語学習者が作 った文の中に「人不能離脱社会(人間は社会から離脱することはできない) 」・「有字数的制 限(文字数に制限がある)」などの誤用例もよく見かける。

なぜこのような間違いをするのか、日本語と中国語とを比較した際、両言語には「運命- 命運」・「劣悪-悪劣」・「平和-和平」・「朴素-素朴」・「講演-演講」のように、字順の逆転す る二字漢語の組み合わせがあることに気づいた。現代日本語の中に「液体-体液」・「会議−

議会」のような字順の逆転する二字漢語の組み合わせが存在している。現代中国語にもこ の二組の漢字語彙がある。しかし、現代日本語の中には「改変—変改」・「習慣—慣習」とい う字順の逆転する二字漢語の組み合わせがあるが、現代中国語にはこの二組の字順の逆転 する二字漢語の組み合わせがなく、語彙としては「改変」・「習慣」しかない場合もある。

また、これとは逆に、現代中国語には「回収—収回」・「期限−限期」のように字順の逆転す る二字漢語の組み合わせがあるが、現代日本語には「回収」、「期限」しかない例もある。

二字漢語の字順の逆転は、中国語と日本語の漢語の間においてのみ生ずるものだけでは

なく、日本語内部、また中国語内部においてもそれぞれに字順が逆転している例が少なく

ない。現代日本語には「語類-類語」・「来光-光来」のように字順の逆転する二字漢語の組

み合わせがあるが、現代中国語にはどちらもない語彙として使用されていないという例が

ある。同じく、現代中国語には「補貼-貼補」・「沈浮-浮沈」のように字順の逆転する二字

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漢語の組み合わせがあるが、現代日本語にはどちらもない例がある。同じ字順で書かれて いる日中同形の二字漢語であっても、日本語の意味と中国語の意味が同じであるとは限ら ず、更に字順が逆転する場合、それぞれの意味関係はいっそう複雑になる。

そこで、本論文は辞書を主な調査対処として現代日本語と現代中国語における網羅的な 調査を行い、両言語における二字漢語および字順の逆転する二字漢語の実態を明らかにし つつ、字順の逆転する二字漢語の有無によってそれを分類することを第一の目的とする。

次に、各分類の実数が辞書の見出し語としてどのくらい存在するかについて調査したう えで、分類ごとに意味関係から分析を行い、日中対照研究の観点から両言語における字順 の逆転する二字漢語の間にどのような意味上の差異および意味上の関係性があるのかを明 らかにすることを第二の目的とする。

また、現代日本語と現代中国語の辞書の見出し語として立項されていない二字漢語が、

通時的な観点から、現代語の辞書に立項されていない二字漢語の初出例とその出典の文献 を調査し、かつては語彙として存在していたにもかかわらず、当該の二字漢語が現在では 使用されなくなった理由について分析と考察を行うことを第三の目的とする。

2. 本論文の研究方法と研究対象

本論文では、現代日本語と現代中国語に存在する字順の逆転する二字漢語の語例を網羅 的に抽出するために、 『岩波国語辞典 第七版』 (以下、『岩波』 )と、 《現代漢語詞典 第 6 版》(以下、 《現代》 )を用い、それぞれの辞書のすべての見出し語にある二字漢語を抽出す る。抽出したすべての二字漢語を現代日本語・現代中国語それぞれにおける字順の逆転す る二字漢語の有無により分類する。各分類それぞれのデータを収集した後、実数を調査し た上で、主に意味の相違から分析し、データの傾向を分析し考察する。

本論文は、意味関係の相違について主観的な判断を避けるため、その分類に当たっては、

辞書の記述を基準として判断を行った。意味分類としては、文化庁(1978)の分類方法を 参考にしつつ、現代日本語の内部と現代中国語の内部における字順の逆転する二字漢語の 意味上の相違について、以下のとおりに分類した。

(1)「S型」は、「AB」と「BA」の意味が極めて近いものである。

(2)「O型」は、「AB」と「BA」の 意味が一部重なってはいるが、両者の間にずれの あるものである。

(3)「D型」は、「AB」と「BA」の意味が著しく異なるものである。

現代日本語および現代中国語における二字漢語の使用実態を調べるために、字順が逆転 しても両語の意味が近似している語に関してはコーパスを使用してそこでの出現回数によ り調査した。つまり、現代日本語・現代中国語として実際につかわれているかどうかを確 認するために、現代日本語は『書き言葉均衡コーパス 中納言』 、現代中国語は『北京大学 CCL 語料庫』を使用して実態調査をした。

通時論的観点では『岩波』と《現代》の見出し語として立項されていない字順の逆転す

る二字漢語の存在や用例およびその出典を、主に『日本国語大辞典 第二版』(以下、『日

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国』)と『大漢和辞典』(以下、『大漢和』)とを使用し調査する。 『日国』と『大漢和』での 見出し語として立項されていない場合、また立項されているが出典や用例などが示されて いない場合、《漢語大詞典》・『現代に生きる幕末・明治初期漢語辞典』・『新潮国語辞典−現 代語・古語 第二版』 ・『明治のことば辞典』を用いて補完的に調査した。

現代語として実際に使われているかどうかを確認するために、日本語の場合「書き言葉 均衡コーパス 中納言」、中国語の場合、「語料庫在線」を使い、調査を行った。

3. 本論文の概要

本論文は、まず、共時的な観点から現代日本語と現代中国語における字順の逆転する二 字漢語を研究対象とし、意味関係から分析を行った。字順が逆転しても意味の相違が生じ ない語について、二つの語形が同時に存在する理由を述べた。次に、通時的な観点から現 代日本語と現代中国語の辞書の見出し語として立項されていない字順の逆転する二字漢語 を研究対象とし、古代日本語、または、古代中国語として使用されていたかどうかを調査 し、使用されていた語の初出時期を辞書の用例の初出年によって概ね推定し、現代語の辞 書の見出し語として立項されていない理由について検討した。そして、用例の初出が日本 の文献に典拠している語について、それが和製漢語である可能性について論じたのである。

本論文の章立ては次のように構成された。本論文は、全 15 章からなる四部構成をとり、

検討を進める。各章で検討した内容は以下のとおりである。

まず、第一部の序論は、第 1 章から第 3 章までである。

第 1 章では、本論文の研究背景と研究目的、本論文の構成について述べる。

第 2 章では、中国語と日本語における字順の逆転する二字漢語に関する先行研究を概観 した後、先行研究にある研究方法上の問題点や、本論文の独自性について説明する。

第 3 章では、本論文で扱う基礎的データの収集方法、および、調査方法について説明す る。

第二部は、第一部で示された基礎的なデータについて、共時的な観点から、日本語と中 国語における字順の逆転する二字漢語の分類ごとの実数を調査し、分類ごとに字順の逆転 する二字漢語相互の意味関係について分析を行った。

字順の逆転する二字漢語の抽出については、日本語の場合『岩波』を使用し、中国語の 場合《現代》を使用した。意味関係の分析にあたっては、『講談社中日辞典』・『講談社日中 辞典』・『類語大辞典』などの辞書を参考にした。現代語としての使用状況を調査するため に、日本語と中国語双方のコーパスで検索した。

先行研究でも述べられているとおり、これまでの研究は、字順の逆転する二字漢語の抽

出は、日本語の場合、明治時代の文献資料から収集するものが多く、辞書から網羅的に収

集する研究としては田島(1985)があるが、それは日本語のみであり、中国語については

言及されていない。中国語における字順の逆転する二字漢語の悉皆調査は、これまでに行

われておらず、漢籍または近代の文献から用例を抽出する研究がほとんどであり、辞書か

ら網羅的に収集する研究は見当たらない。日本語と中国語における字順の逆転する二字漢

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語の有無による分類研究は、これまで、竹中(1988) 、張(1989)などがあるが、竹中(1988)

では日本語・中国語の両方に逆転現象のあるもの、日本語には逆転現象があるが中国語に はないもの、中国語には逆転現象はあるが日本語にはないもの、日本語に対応する中国語 が逆転するもの、の四種に分けている。張(1989)では六分類に分けているが、竹中(1988)

の四分類のほか、和語があるがそれに対応する漢語もあるもの、和語があるがそれに対応 する漢語がないものであり、当該論文の研究対象となるのは漢語のみであるため、分類に 入らない。日本語だけにおける逆転現象と中国語だけにおける逆転現象という観点と分類 とが欠けているため、調査としては十分ではないものと考えられる。

そこで、本論文では、辞書の見出し語の悉皆調査により、網羅的に日本語と中国語の二 字漢語を抽出し、日本語と中国語における字順の逆転する二字漢語の有無によって分類し、

それぞれの実数が何例あるのかを調査したのである。その結果を次の【表 1】に示す。

【表 1 現代日本語・中国語間での字順の逆転する二字漢語の分類と実数】

分類 日本語 中国語 語例

日本語 中国語 実数

a AB BA AB BA 愛情 情愛 愛情 情愛 126 b AB BA AB 階段 段階 階段 260 c AB AB BA 相互 相互 互相 375

d AB BA 語類 類語 122

e AB BA 愛心 心愛 461

f BA AB 胃腸 腸胃 339

【表 1】で抽出した語について、主に両言語内部それぞれにおける「AB」と「BA」との相 互の意味関係から分析を行った。その結果、いずれのグループにおいても、字順が逆転す ることによって意味の相違が生じている語が多いことが明らかとなった。字順が逆転して も意味の違いが生じない語については、両語形が同時に存在する理由をさぐるため、コー パスを用いてその使用状況を調査した。調査した結果、日本語の場合、一方の漢語はよく 使用されるが、もう一方はあまり使用されていないことが明らかとなった。また、意味に おいては相違がないが、用法やニュアンスの違いがあり、相互に交替が不可能な語が多い ことがわかった。

中国語の場合も、一方の漢語がよく使用され、もう一方の漢語があまり使用されていな いという傾向があるが、用法上の違いはあまりなく、相互に交替可能な語が多いことが明 らかになった。また、両語形が同時に存在する一つの理由として、同様の意味を表すには、

中国語の標準語では一方の語形が使用され、方言ではその字順逆転語が使用されているこ とがわかった。

第三部では、通時的な観点から、《現代》と『岩波』の見出し語として立項されていない

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二字漢語を調査対象として、その漢語が古代中国語として使用されていたかどうか、また、

その初出例を確認するため、 『日国』と『大漢和』、 《大詞典》などを使用し、調査を行った。

《現代漢語詞典》の見出し語として立項されていない語の調査方法を【図 1】に示す。

【図 1 調査手順の流れ】

《現代》の見出し語として立項されていない語を『大漢和』で調査した。『大漢和』の見 出し語として立項されている語が多くあり、古代中国語の語彙として使用されていたこと がわかる。『大漢和』に立項されている語をその用例と出典について調べ、立項されていな い語を『日国』と《大詞典》でその用例と出典を確認した。その結果、日本語の文献に典 拠している語と中国と日本の両方の文献に典拠している語とがあった。用例の出典が日本 の文献のみである語は和製漢語の可能性が高いものと考えられる。また、その初出時期が 明治時代以降の文献に拠る語が多いことから、辞書の見出し語として立項されていない語 の欠落している理由の一つとして、その漢語の出自が日本の近代以降の文献によるもので あるのではないかと考えられるのである。

中国の文献と日本の文献の両方に典拠している語は、その用例が中国の古典に見られる が、意味が日本語と異なり、日本語では異なる概念や意味で使用されているので、必ずし も中国語からの借用語とは言えない。

用例や出典が示されていない語と『日国』にも立項されていない語とを《大詞典》で調 べた。その結果、用例や出典が中国の文献による語は和製漢語ではないということができ る。用例や出典が辞書に記述されていない語については、コーパスで検索し、使用状況を 調べた。

《現代》に立項されていない語

『大漢和』立項 あり 用例あ

中国 の文 献

−1

日本 の文 献

Ⅱ−1

中国 と日 本の 文献

Ⅲ−1

用例なし

『日国』立項 あり

用例あり

中国 の文 献

Ⅰ−2 日本 の文 献

Ⅱ−2 中国 と日 本の 文献

−2

用例なし

−2

『日国』立項 なし

−2

『大漢和』立項 なし

『日国』立 項あり

用例あり

中国 の文 献

−3

日本 の文 献

Ⅱ−3 中国 と日 本の 文献

−3

用例なし

−3

『日国』立項 なし

−3

(6)

また、『岩波』の見出し語として立項されていない語を『日国』で調査した。『日国』の 見出し語として立項されている語は、古代日本語として使用されていたことがわかった。

しかし、用例の初出時期が明治時代以降の文献になっている例は、『西国立志編』・『万 国公法』・『花柳春話』などのような訳書や、『工学字彙』・『英和和英地学字彙』・『哲 学字彙』・『音訓新聞字引』・『広益熟字典』・『英和商業新辞彙』などのような辞典類 によるものが多いことが明らかになった。これらの明治時代の辞書や訳語に見られた語が、

現代日本語では使われなくなり、多くは廃語となったようである。その理由の一つとして 考えられるのは、同じ意味を表す語として、翻訳が盛んに行われた明治時代に使用の揺れ が発生し、一時的に両語形とも使用されたが、その後一方の語形に固定され、一方の語形 が消滅したと考えられる。また、訳語として当時使用されていたが、現在では他の訳語に 代わられ、使われなくなったものもあるようである。

また、現代語として一方の語形しか使用されていない語、または両語形とも使用されて いない語が、古代では両語形が併用されていた語が多数あり、現代語ではその一方が消滅 し、もう一方が残され、または両語形とも消滅した例もある。

最後に、第四部・第 15 章では、総論としてこれまでの分析結果から得られた結論につい て述べ、本論文の意義と残された課題について述べた。

4 今後の課題

本論文で調査した結果をどのように日本語教育学へ応用するかということは今後の課題 である。中国人日本語学習者の作文の中に「和平な国」「彼は朴素な生活をしている」する といった誤用例をよく見かける。なぜ中国人日本語学習者がこのような間違いをするのか、

それは単なる中国語と日本語の字順が相反するという原因だけなのか、あるいは意味や構 成などの違いなのか、その原因を解明する大きな糸口となるのが本研究である。本論文で 抽出された字順の逆転する二字漢語のうち、中国人日本語学習者においてどのような誤用 が生じやすいのかを調査し、意味変化の実態と語構成などを比較し、分析した上で、漢字 語彙の効率的かつ効果的な指導法を提案したい。この現象を究明することが出来れば、漢 字圏の日本語学習者だけでなく、非漢字圏の日本語学習者も日本語の漢字に興味を持ち、

より多くの外国人に日本語をより分かりやすく勉強し、理解してもらえるのではないかと 考えられる。

また、用例の出典が明らかになっていない語は、それは元々中国語なのか、それとも和 製漢語なのかについては、今後、調査の範囲を更に広げ、一組一組の語誌を調査し、それ らが現在に至るまでにどのような変遷を辿ってきたのかを考察する必要がある。

本研究は、いずれコーパスとして日本語教育学のみならず、日本語学や中国語学の分野

においても重要な研究成果となるはずである。それを今後の課題としたい。

参照

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