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被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割

峰  ひろみ

目次  第一 はじめに

 第二 被害者参加制度の概要

  1 制度の概要

  2 被害者参加人の地位を有しない被害者等への配慮

第三 被害者参加制度における検察官の役割

  1 ﹁公益の代表者﹂としての検察官

  2 ﹁公益﹂の具体的意味内容 − 検察官が配慮すべき利益とは︒

  3 被害者参加制度と検察官の役割

第四 被害者参加弁護士に期待される役割

  1 被害者参加弁護士の地位︑検察官との異同

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 一九三

(2)

一九四

 2 被害者参加弁護士が保護すべき利益

 3 被害者参加弁護士に期待される役割

第五 総括 − 検察官と被害者参加弁護士との関係

第六 おわりに

第一 はじめに

 従来︑犯罪被害者やその遺族等︵以下﹁被害者等﹂﹁被害者﹂という︒︶は︑事件と極めて密接な利害関係を有し

ながらも︑刑事裁判の当事者として位置づけられず︑自らが直接刑事裁判の場に登場するのは証人尋問や心情等に

関する意見陳述といった場面に限られていた︒

 そのため︑被害者等の中には︑自分自身が被害を受けた事件の審理については自ら直接関与したい︑法廷での被

告人等の供述が事実と異なるなど不当な場合にはこれを被害者自ら問いただしたい等々といった要望を持つ者も少

なくなかった︒

 こうした被害者等の声を踏まえ︑また︑被害者等を始めとする国民の刑事司法に対する信頼を確保するとともに︑

刑罰法令の適正な適用を実現でき︑さらには︑被告人の更生にも資するとの観点から︑平成一九年六月二〇日︑

﹁犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律﹂︵以下﹁本法律﹂という︒︶が

制定され︑その一内容として︑犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度︑すなわちいわゆる﹁被害者参加制度﹂が

導入された︵同制度の下で刑事裁判への参加が許された被害者等を﹁被害者参加人﹂という︒︶︒

(3)

       ︵1︶  後に述べるとおり︑本法律においては︑原則的に︑検察官が被害者等と充実したコミュニケーションを図り︑被

害者等の要望を公判活動に反映させるべく運用されることが期待されているが︑それとともに︑被害者参加人から

委託を受けた弁護士が被害者参加人に代わって︑又は被害者参加人と共に刑事裁判に参加することも認められてい       ︵2︶ る︵こうした弁護士のことを︑以下﹁被害者参加弁護士﹂という︒︶︒

 しかも︑被害者等の中には犯罪によって多大な損害を受け︑経済的困窮に陥る者も少なくないことから︑資力の

乏しい被害者参加人にも弁護士による援助を受けられるようにするため︑平成二〇年四月一六日には︑いわゆる被

害者参加人のための国選弁護制度も創設された︒

 以上のように︑今回の法改正においては︑検察官が被害者等の利益に配慮し︑これを刑事裁判に反映させるべき

立場にあることが確認され︑他方︑被害者参加弁護士も被害者等から委託を受け︑その利益を刑事裁判に反映させ

るべき立場に置かれたのである︒

 したがって︑検察官も被害者参加弁護士も︑被害者等の利益を手続に反映させるべき点では共通の役割を担うと

いえよう︒

 それでは︑この被害者参加制度を適正かつ円滑に運用するためには︑被害者等の利益を手続に反映させるべき立

場にある検察官と被害者参加弁護士とが︑それぞれどのように役割を果たしていくのが望ましいであろうか︒その

前提として︑そもそも検察官と被害者参加弁護士が各々配慮すべき被害者等の利益とは具体的にはどのようなもの

なのか︑それらは同じものなのか︑違うものなのかといった点についても確認する余地があるように思われる︒

 そこで︑本稿では︑こうした検察官と被害者参加弁護士の役割及び両者の関係に着目して︑被害者参加制度の適

正かつ円滑な運用のための方策を探ってみたい︒

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 一九五

(4)

一九六

︵1︶ ﹁被害者等﹂とは︑被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者︑直  系の親族若しくは兄弟姉妹をいう︵刑事訴訟法二九〇条の二第一項︶︒

︵2︶ ﹁被害者参加弁護士﹂の語は︑平成二〇年四月一六日に可決成立した﹁犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事

 手続に付随する措置に関する法律及び総合法律支援法の一部を改正する法律﹂等で用いられている︒

第二 被害者参加制度の概要

     ︵3︶ 1 制度の概要

 被害者参加制度は︑一定の犯罪の被害者等又は被害者等から委託を受けた弁護士が︑裁判所の許可を受けて︑当

該被害者等の被告事件の手続に参加し︵前述のとおり︑こうして被告事件への参加を許された被害者等を﹁被害者

参加人﹂というのである︒︶︑公判期日への出席︑一定の要件の下での証人尋問や被告人質問︑事実又は法律の適用

についての意見陳述を行うことができること等を内容とする︵本法律による改正後の刑事訴訟法︵以下﹁刑訴法﹂

という︒︶三一六条の三三以下︶︒

 まず︑被害者等が︑被告事件への参加を希望する場合には︑あらかじめ検察官に対して参加の申出をしなければ

ならず︑この申出を受けた検察官は︑意見を付して︑その申出を裁判所に通知するものとされているほか︵刑訴法

三一六条の三三第一項︑第二項︶︑被害者参加人又は被害者参加弁護士︵以下﹁被害者参加人等﹂という︒︶が証人

尋問や被告人質問︑事実又は法律の適用についての意見陳述を希望する場合においても︑検察官に対してその旨申

(5)

し出なければならない︵刑訴法三一六条の三六第二項︑三一六条の三七第二項︑三一六条の三八第二項︶︒

 そして︑被害者参加人等は︑検察官に対し︑当該被告事件についての刑訴法の規定による検察官の権限行使に関

して意見を述べることができ︑この場合︑検察官は︑当該権限の行使・不行使について︑必要に応じ︑当該意見を

述べた被害者参加人等に対してその理由を説明する義務を負うものとされた︵刑訴法三一六条の三五︶︒

 このように︑本制度においては︑被害者参加人等が︑検察官から完全に独立して活動するのではなく︑検察官を

経由して刑事裁判に参加していく仕組みが採られている︒すなわち︑被害者参加人等には︑検察官と充実したコミ

ュニケーションを図りつつ刑事裁判に参加していくことが期待されているし︑逆に︑検察官には︑被害者参加人等

と充実したコミュニケーションを図り︑相互に確かな信頼関係を形成した上で︑被害者参加人等の要望をも踏まえ

た適切な訴訟活動を行うことが期待されている︒

 また︑必要に応じて︑被害者参加人は︑自身に代わって又は自身と共に刑事裁判に参加すべき被害者参加弁護士

を委託することもできる︒

2 被害者参加人の地位を有しない被害者等への配慮

 今回導入された被害者参加制度においては︑対象となる犯罪の種類が一定のものに限定されている︒すなわち︑

対象となる事件は︑故意の犯罪行為により人を死傷させた罪︑強制わいせつ及び強姦の罪︑業務上過失致死傷等の

罪︑逮捕及び監禁の罪並びに略取︑誘拐及び人身売買の罪とその未遂罪に係る被告事件とされているのである︵刑

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 一九七

(6)

       一九八

訴法三一六条の三三第一項︶︒したがって︑これら対象事件以外の犯罪による被害者は︑被害者参加制度を利用す

ることができない︒

 また︑被害者等の中には︑そもそも刑事裁判への参加を希望しない者や︑犯罪被害による精神的ショック等によ

り参加が困難な者も少なくない︒むしろ︑﹁声なき声﹂︑すなわち︑訴訟に参加する勇気がないという被害者等の声        ︵4︶ が多いのではないかとの指摘もある︒

 ところで︑刑訴法三一六条の三五によれば︑検察官の権限行使に関し意見を述べることができ︑検察官から理由

説明を受けることのできる被害者等は︑被害者参加人の地位にある被害者等と被害者参加弁護士であることが前提

とされている︒そうすると︑刑事裁判への参加を希望しない︑又は参加が困難な被害者等は︑被害者参加弁護士を

委託する場合を除き︑検察官から意見を聴取されたり︑検察官の活動について説明を受けたりすることができない

のであろうか︒

 思うに︑被害者参加制度の趣旨は︑①犯罪被害者等基本法三条が﹁すべて犯罪被害者等は︑個人の尊厳が重んぜ

られ︑その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する︒﹂と規定する趣旨にかんがみ︑被害者等が︑その被

害に係る刑事事件の裁判手続においても︑その尊厳にふさわしい処遇を保障されることが重要であること︑②被害

者等が︑自ら被害を受けた﹁事件の当事者﹂として︑その被害に係る刑事事件の裁判の推移や結果に重大な関心を

持つことは当然であることから︑刑事裁判の推移や結果を見守るとともに︑これに適切に関与したいとの被害者等

の心情は十分に尊重されるべきであると考えられること︑③被害者等が刑事裁判に適切に関与することは︑その名        ︵5︶ 誉の回復や被害からの立ち直りにも資するものと考えられることにある︒そして︑①被害者等の個人の尊厳を重ん

じ︑その尊厳にふさわしい処遇を保障する必要性は︑参加の有無と関係なく︑広く被害者等一般に認められること

(7)

であるといえよう︒次に︑②﹁事件の当事者﹂として︑その被害に係る刑事事件の裁判の推移や結果に重大な関心

を持つことが当然であるのは︑参加を希望しない者や参加できない者についても同様である︒さらに︑③刑事裁判

に直接参加することは困難であったとしても︑検察官に対して自らの意向を伝えたり︑検察官から説明を受けたり

することが︑被害者自身の立ち直りに資することも十分考えられよう︒また︑被害者参加制度導入の効果として︑

①刑事裁判が被害者等の心情や意見をも十分に踏まえた上でなされることがより明確となり︑②刑事司法に対する

被害者等を始めとした国民の信頼を一層確保するとともに︑③刑事訴訟法の目的である︑刑罰法令の適正な適用実

現にも資することとなること︑④被害者等の意見を直接聞くこと等により︑被告人の理解や反省が深まり︑その更        ︵6︶ 生に資する効果を生ずる場合もあることが期待されている︒そして︑刑事裁判への参加を希望しない︑又は参加で

きない被害者等の心情や意見をも十分尊重することによって︑①刑事裁判が被害者等の心情や意見をも十分に踏ま

えた上でなされるものであることがより一層明確となるであろうし︑②刑事司法に対する国民の信頼もより一層高

まることはもちろん︑③事案の実情をよりよく反映させた適正な刑罰法令の適用実現に資するなどのことも期待で

きる︒④検察官の訴訟活動に現れる被害者等の心情等に接することにより︑間接的にせよ被告人の理解や反省が深

まることもあり得よう︒そうであれば︑検察官には︑被害者参加を希望せず︑又は参加が困難な被害者等に対して

も︑必要に応じて適宜︑その要望を聴取し︑検察官の活動について説明するなど配慮することを期待すべきであろ

う︒こうした被害者参加人等の地位を有しない被害者等の声なき声こそ︑公益の代表者たる検察官によって十分に       ︵7︶ 配慮され︑検察官の活動を通じて刑事裁判に反映されるべきものと期待したい︒

被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 一九九

(8)

二〇〇

︵3︶ 被害者参加制度の概要についての解説としては︑岡本章﹁被害者参加の制度﹂法律のひろば六〇巻一一号︵二〇〇七年︶

二七頁以下︑馬場嘉郎﹁﹃犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律﹄の概要﹂捜査研究

六七八号︵二〇〇七年︶五四頁以下︑岡村勲監修﹁犯罪被害者のための新しい刑事司法− 解説 被害者参加制度と損害賠

償命令制度﹂︵明石書店 二〇〇七年︶︑親家和仁﹁被害者参加制度の創設について﹂罪と罰四四巻四号︵二〇〇七年︶六五頁

以下等多数がある︒

︵4︶ ﹁法制審議会刑事法︵犯罪被害者関係︶部会第三回会議議事録﹂一三頁参照︒

︵5︶ 岡本・前掲︵3︶二七頁以下︑馬場・前掲︵3︶五五頁以下参照︒

︵6︶ 岡本・前掲︵3︶二八頁︑馬場・前掲︵3︶五六頁参照︒

︵7︶ 加藤克佳﹁犯罪被害者の権限拡充法制の意義と課題﹂刑法雑誌四七巻三号︵二〇〇八年︶四〇二頁参照︒

第三 被害者参加制度における検察官の役割

1 ﹁公益の代表者﹂としての検察官

      ︵8︶  検察官は︑﹁公益の代表者﹂としての職責を有するとされている︵検察庁法四条︶︒

 すなわち︑検察官は公益を実現するために必要かつ適切な行動をとることを職務とするのである︒

 そして︑検察官は︑その公益の代表者としての性格から︑刑事について公訴を行い︑裁判所に法の正当な適用を

請求するなどの権限を与えられている︵検察庁法四条︶︒

 具体的には︑まず︑被疑者に対する終局処分︵起訴︑不起訴︶を決する場合において︑犯罪の嫌疑の有無・程度︑

訴訟条件の有無を吟味することはもとより︑それらが備わっている場合であっても︑被疑者の性格︵犯罪との親和

(9)

性等︶︑年齢︵若年か高齢かなど︶及び境遇︵生育歴︑生活環境︑前科・前歴の有無・内容等︶等の被疑者側の個

人的諸事情や︑犯罪の軽重及び情状︵犯行態様の危険性・悪質性︑被害法益の種類︑被害の内容・程度︑被害者側

の落ち度の有無・程度︑被害感情・処罰感情の程度等︶︑犯罪後の情況︵被疑者の反省の有無・程度︑被害弁償の

有無︑示談の成否等︶といった多様な諸事情を総合的に勘案して訴追の必要性を吟味し︑判断することができる

︵起訴便宜主義︑刑訴法二四入条︶︒

 そのほか︑公判においては原告官・公訴官として︑証拠調べ請求をし︵刑訴法二九八条第一項︶︑採用された証

拠を公判廷に顕出した上︵刑訴法三〇四条・刑事訴訟規則︵以下﹁規則﹂という︒︶一九九条の二以下︑刑訴法三

〇五条︑規則二〇三条の二︑刑訴法三〇六条等︶︑当該事件の事実及び法律の適用について意見の陳述︵論告・求

刑︑刑訴法二九三条第一項︶をする︒さらに︑保釈に関する裁判所の決定等に当たっては意見を述べ︵刑訴法九二

条︶︑違法又は不当な裁判に対して上訴をすることによってその是正を求め︵刑訴法三五一条︶︑再審請求︵刑訴法

四三九条︶︑非常上告︵刑訴法四五四条︶をするといった権限も付与されている︒

2 ﹁公益﹂の具体的意味内容 ー 検察官の配慮すべき利益とは︒

 それでは︑検察官に付与されたこれら権限の行使に当たり︑具体的にいかなる利益が考慮されているかを見るこ

とによって︑﹁公益﹂の具体的意味内容を明らかにしてみたい︒

︵1︶ まず︑これらの権限に関し︑検察官は︑公益の代表者としてその権限を行使するのであるから︑被疑者・被

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二〇一

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      二〇二        ︵9︶   告人のために権限を行使する場合もあると言われている︒

   例えば︑被疑者の起訴・不起訴を決する場合︑当該犯罪の嫌疑も明らかであり︑訴訟条件が具備されていて

  も︑被疑者に前科・前歴もなく︑真摯に反省しており︑被害弁償もなされていて︑被疑者親族の監督が期待さ

  れる反面︑被疑者を起訴すれば現在の職場を解雇されるなど社会的に重大な不利益が伴い︑今後の社会復帰が

  著しく困難になるといった事情がある場合には︑被疑者の利益を慮って不起訴処分︵起訴猶予︶とすることが

  ある︒

   次に︑論告において被告人に有利な事情を摘示した上︑執行猶予相当との求刑をする場合や︑例えば公訴提

  起後に被告人が当該事件の犯人ではないことが判明した場合に無罪の論告をする場合もある︒また︑被告人側

  からの保釈請求について︑当該保釈請求は相当である旨の意見を述べることもある︒さらには︑被告人のため

  に再審請求や非常上告を行う場合もあろう︒

   このようにみると︑検察官が﹁公益﹂の代表者として職務を行う場合︑被疑者・被告人の利益について相当

  程度配慮していることが分かる︒

︵2︶ また︑例えば︑検察官が公判で行う論告においては︑犯行動機︑計画性︑犯行態様︵手段・方法の危険性︑

  執ようさ︑残虐性等︶︑常習性︑被害結果︵被害法益の種類︑被害の内容・程度︑後遺症の有無・程度等︶︑社

  会的影響︵近隣社会に与えた不安感︑報道等社会的注目の程度︑模倣犯の出現の有無︑同種事犯抑止の要請︑

  国民の体感治安への影響等︶︑犯行後の情況︵被害弁償の有無︑示談の成否等︶︑被害感情・処罰感情の程度︑

  被告人の一身上の情状︵前科・前歴の有無・内容等犯罪傾向の程度︑性格の危険性︑反省の有無・程度︑生活

  状況︑適切な監督者の有無等︶︑共犯者間の均衡︑他の同種事犯における量刑との均衡といった諸般の要素に

(11)

       ︵10︶   ついて適宜指摘がなされており︑これら諸要素を勘案して求刑がなされている︒

   この例からも明らかなように︑被害者側の利益はもちろん︑社会的利益︑国家的利益︵刑事政策的利益を含

  む︒︶についても考慮されている︒

︵3︶ さらには︑例えば︑検察官が起訴に際し︑捜査により究明した生の社会的事実の中から訴因を構成する場合

  には︑立証上の難易や︑法律上の問題点の回避・争点の解消による審理の迅速化等訴訟上の利益を考慮するこ     ︵H︶   とがある︒

︵4︶ こうしてみると︑検察官が﹁公益﹂の代表者として職務を行う場合には︑広く︑被疑者・被告人の利益︑被

  害者等の利益︑社会及び国家の利益等多様な利益を総合的に勘案していることが明らかであろう︒

   すなわち︑検察官が担う﹁公益﹂とは︑具体的事案からかけ離れた一般的・抽象的利益なのではなく︑具体        ︵12︶   的事案を前提とした被疑者・被告人︑被害者等︑社会及び国家等々の諸利益の総合であるといえよう︒

3 被害者参加制度と検察官の役割

 ﹁公益﹂の具体的意味内容をこのようにとらえると︑公益の代表者たる検察官の活動と被害者の利益とはどのよ

うな関係に立つのであろうか︒

 通常の場合︑公益の代表者たる検察官の刑事に関する権限行使と︑刑事手続における被害者の利益とは矛盾・対

立せず整合的であると考えられる︒なぜなら︑刑罰法令及びその具体化の過程である刑事手続は︑法益保護をその

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二〇三

(12)

二〇四

重要な一つの目的とするところであるし︑被害者等の利益を重視すれば被疑者・被告人にとって峻厳な方向での検

察官の権限行使がなされるのが通常であるからである︒例えば︑生命・身体等重大な法益が侵害され︑被害の程度

が深刻な場合や︑示談はおろか被害弁償の申出もなされていないというような場合には︑被害者等の処罰感情が峻

烈であることが通例であろうし︑検察官の権限行使も︑このような被害状況や被害者の感情等を重視して厳罰を求

めるなど被告人に対して峻厳に行われるのが通例であろう︒

 しかしながら︑検察官は︑被害者等の利益のみならず︑被疑者・被告人の利益を始めとする他の諸利益について

も配慮しなければならない立場にある︒

 それ故︑例外的には︑検察官の権限行使等が被害者等の利益と矛盾・対立して整合しない場合もあり得る︒検察

官としては︑公益の代表者として︑時に被害者以外の利益を優先的に考慮せざるを得ない場合︑むしろ考慮すべき

場合があるが︑そのような場合には︑検察官の権限行使等が目的とする利益と被害者等の利益とが整合し難い状況

となる︒例えば︑被害者が峻厳な刑罰を望んだとしても︑検察官が︑被疑者・被告人の更生可能性や他の同種事犯

との均衡等を考慮して︑被害者の希望より軽い求刑をする場合や︑検察官が︑立証上の難易や訴訟経済等の観点か

ら︑被害者の希望と異なる訴因を構成して起訴するような場合等が想定できるであろう︒具体的には︑被告人によ

る被害弁償が完了しているにもかかわらず︑被害者等が︑なおも被告人に対して他との均衡を失するような峻厳で

過酷な刑罰を望む場合︵この場合︑弁償がなされている事実は被告人に有利な事情として考慮する必要があり︑そ

うなれば求刑もそれなりに軽減したものになる可能性がある︒︶や︑犯行態様の危険性・悪質性が少なく︑被害程

度も軽微等犯情が軽微なのに︑被害者等が事案の実態にそぐわない程の峻厳な刑罰を望む場合︑被告人が﹁赤信号

を殊更に無視﹂したと認定することのできない証拠関係であるにもかかわらず︑被害者等︵遺族︶が危険運転致死

(13)

罪︵刑法二〇八条の二第二項後段︶に該当する旨主張するように︑被害者側の要望が証拠関係及び証拠から認定で

きる事実と齪齪する場合等々である︒

 もちろん︑検察官の権限行使・不行使は︑合理的な根拠に基づく適正なものでなければならず︑しかも︑被害者

参加制度の下︑検察官には︑その権限行使に関し意見を述べた被害者参加人等に対して︑必要に応じ︑検察官の判

断の理由を説明すべき義務がある︵刑訴法三一六条の三五︶から︵この点︑被害者参加人たる地位を有しない被害

者等に対しても同様の配慮をすべきであろうことは前述のとおりである︒︶︑検察官からの説明を受けて被害者参加

人等がその理由等を納得できる場合には︑被害者参加人等に不満が残らずに済む場合が多いであろう︒このような

場合には︑結局のところ︑被害者参加人等に特段の不利益はないものと評価することが可能であり︑問題は少ない

と思われる︒

 これに対し︑被害者参加人等が検察官の説明について納得しない場合︑検察官はどのように対応すべきかが問題

となる︒  この点︑被害者参加制度導入により︑検察官が被害者参加人等の要望に配慮することが要請されることとなった

にしても︑検察官が被害者参加人等の意向に拘束されると解することはできないであろう︒検察官には公益の代表

者としての責務があり︑被害者参加人等の利益のみを純粋に追及することがその職責上困難な立場にあるし︑そも

そもそのようなことは期待されていないといわなければならないからである︒その意味で︑検察官は︑被害者等の

利益について配慮すべき者ではあっても︑被害者等の利益のみを考慮すれば良い被害者等から委任された代理人と

は異なるのである︒

 そこで︑まず︑検察官においては︑被害者参加人等との間で更に意思疎通を図り︑相互理解を深めるよう努める

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二〇五

(14)

二〇六

ことが期待されるし︑被害者参加人等においても︑公益の代表者として適正な訴訟活動を行うべき職責を有する検       ︵13︶ 察官の立場やその具体的活動の意味内容を十分に理解するよう努めることが期待される︒しかし︑それでもなお検

察官の判断と被害者参加人等の要望とを調整できない場合には︑検察官は︑公益の代表者としての自らの判断に従

い訴訟活動をすべきと解するのが相当ではないかと考える︒

ここに︑いわば被害者の利益保護の観点からみた検察官の限界があるということができよう︒

 このような場合︑不服のある被害者参加人等は︑例えば当該検察官の監督者に対して監督権の発動を促すなどの        ︵14︶︵15︶ 措置を講ずることもできると考えられるであろうし︑被害者参加制度が用意した諸手続の範囲内で︑被害者参加人

自らが︑又は被害者参加弁護士に委託して︑自己の要望を刑事手続内に反映させることができる︒

︵8︶伊藤栄樹﹁新版 検察庁法逐条解説﹂︵良書普及会 一九八六年︶三四頁︑亀山継夫﹁検察の機能﹂現代刑罰法大系第五

 巻︵一九八三年︶三五頁参照︒亀山論文では︑﹁公益﹂の意味につき︑次のような記述がなされている︒﹁法治国家におい

  ては︑法律が正当に適用され︑尊重されることが基本的な大前提であり︑法の正当な適用が確保されることが具体的な

 種々の政策的公益に先行する公益といわなければならない︒検察官は︑このような意味での﹃公益﹄が実現されるために

 必要かつ適切な行動をとることを職務とする行政官と考えるべきであり︑このように解することによって︑検察官に課せ

 られている種々の職務を統一的に理解することができる︒﹂

︵9︶伊藤・前掲︵8︶三六頁参照︒

︵10︶ 司法研修所検察教官室編﹁検察講義案 平成一八年版﹂︵法曹会 二〇〇七年︶=エハ頁参照︒

︵11︶検察官が社会的事実の中からいかなる事実をもって訴因を構成するかという問題は︑講学上︑いわゆる﹁一罪の一部起

 訴﹂の問題として論じられているところであり︑実務上は︑検察官の裁量の問題として一罪の一部起訴も認められている︒

  この点に関し︑杉田宗久﹁訴因と裁判所の審判の範囲﹂別冊ジュリスト刑事訴訟法判例百選第八版︵二〇〇五年︶九一頁  はコ部起訴は︑概ね︑①立証上の難点や法律上の問題点を慮ったと思われるもの︵窃盗被害者が届け出た被害品の一部

(15)

  につき被告人が窃盗を否認する場合にそれを訴因から除外する場合や︑傷害被害者の責めに帰すべき事由により治療が遷

  延している場合に実際の加療期間の一部に限定して傷害結果を記載する場合など︶︑②特別予防に配慮したと思われるもの

  ︵強盗傷害をあえて恐喝+傷害や窃盗+傷害の訴因で起訴する場合など︶︑③迅速な審理や争点の解消を意図したと思われ

  るもの︵公選法上の百日裁判事件などで⁝⁝昭和五九年最決の事例のような起訴形態をとる場合など︶︑④その他趣旨のよ

  く分からないもの︵例えば︑住居侵入罪を牽連犯の関係に立つ他罪︹窃盗︑殺人等︺と一緒に起訴するか否かについては︑

  取扱いがかなりまちまちである︒犯情の上でさして重要な意義を持たない場合が多いからであろう︶などに類型化するこ

  とができる︒このうち︑①については︑公益の代表者として公訴維持の重責を担う検察官に当然認められてしかるべき権

  能である︒これに対し︑②〜④︑特に②③については︑訴追裁量権の一環として理解することができよう︒﹂として一罪の   一部起訴の実例を類型化している︒

︵12︶ 瀬川晃ほか﹁︻座談会︼犯罪被害者の権利利益保護法案をめぐって﹂ジュリスト=三二八号︵二〇〇七年︶二五頁加藤克

  佳発言︑同二六頁川上拓一発言にも︑﹁公益﹂が﹁抽象的・観念的﹂な公共の利益というものではなく︑﹁被害者の具体的

  な権利.利益﹂をも含む具体的なものである旨の指摘がある︒ ︵13︶ 岡本.前掲︵3︶三一頁︑馬場・前掲︵3︶六七頁は︑いずれも︑﹁本制度が適正かつ円滑に運用されるためには︑被害

  者参加人等と検察官との間の密接なコミュニケーションに基づき︑検察官は︑被害者参加人等の要望をも十分に踏まえつ

  つ︑公益の代表者としての適正な訴訟活動を行い︑被害者参加人等は︑このような検察官の訴訟活動の意味・内容をも十

  分に理解した上で︑自らの訴訟活動を行うことが重要である﹂としているが︑被害者参加人等において検察官の訴訟活動

  を理解する前提として︑﹁公益の代表者﹂たる検察官のそもそもの職責についても十分理解することが肝要であろう︒ ︵14︶ この点︑告訴人等に対する不起訴処分の通知に関してではあるが︑池田修・前田雅英﹁刑事訴訟法講義 第二版﹂︵東京

  大学出版会 二〇〇六年︶一七五頁は︑通知を受けた告訴人が﹁検察官の処分に不服であれば︑その検察官の監督者︵例

  えば︑検事正︶に対し監督権の発動を促し⁝⁝その救済を求めることができる︒﹂と述べており︑被害者参加人等に関して

  も参考となる︒

︵15︶ ﹁法制審議会刑事法︵犯罪被害者関係︶部会第七回会議議事録﹂二一頁参照︒最高検察庁においては︑検察官と被害者と

  の間のコミュニケーションをより一層充実させるための措置として︑五つの具体的内容を明らかにした︒すなわち︑①事

  件処理に関する被害者等からの要望に十分配慮するとともに︑被害者等の要望に沿う事件処理を行うことができない場合

  には︑その理由を説明し︑被害者等の理解を得るよう努める︑②検察官が刑事裁判の証拠として裁判所に取調べを請求す

  るため︑あらかじめ弁護人に開示した証拠について︑刑事裁判に参加する被害者等から開示の要望があった場合には︑相

被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二〇七

(16)

二〇八

当と認められる範囲で︑公判における取調べの前であっても開示するなど︑弾力的な運用に努める︑③公判において検察

官が主張立証する事項について︑適正かつ迅速な公判の進行を旨としつつ︑被害者等の要望に十分配慮するとともに︑必

要に応じ内容について説明し︑被害者等の理解を得るように努める︑④検察官が上訴の可否を検討する際には︑被害者等

から意見を聴取するとともに︑上訴しない場合には︑その理由を説明し︑被害者等の理解を得るよう努める︑⑤検察官を

監督すべき立場にある者は︑その指揮監督する検察官による事件の処理︑公判における主張立証又は上訴に関する判断に

ついて︑被害者等から不服申立てを受けた場合には︑必要に応じ監督権を適正に行使するというものである︒したがって︑

被害者参加人等から︑検察官の権限行使・不行使について不服申立てがなされた場合にも︑必要に応じ︑検察官の監督者

による適正な監督権の行使が期待される︒

第四 被害者参加弁護士に期待される役割

1 被害者参加弁護士の地位︑検察官との異同

 一般に︑刑事手続に関する十分な知識を必ずしも有していないと思われる被害者等が︑公判の推移や結果を正し

く理解し︑検察官と的確なコミュニケーションを保ちつつ適切に刑事裁判に参加するためには︑法律の専門家であ

る弁護士の援助を受けることが適当な場合がある︒また︑犯罪被害を受けた精神的ショックや身体的な支障のため

に自ら参加することが困難な被害者等の場合︑自己の代理として刑事裁判に参加したり︑検察官と意思疎通を図っ

たりする者の存在が必要とされるであろう︒そこで︑被害者参加制度においては︑被害者参加弁護士︑すなわち被        ︵16︶ 害者等又は被害者参加人等から委託を受けた弁護士の存在が明確に規定された︒

 被害者参加弁護士は︑被害者の利益を保護する法律の専門家である点では検察官と共通する︒

(17)

 しかし︑検察官が公益の代表者たる職責を有し︑純粋な意味での被害者の代理人ではないのに対し︑被害者参加

弁護士は被害者の代理人であり︑公益の代表者としての職責は課せられていない︒       ・

したがって︑被害者参加弁護士は二被害者の髭Lに立って・当該被害者や被害者参加人等の利益を保護し・

その要望を具体的に刑事裁判に反映させることが求められている︒

 極端な表現をすれば︑被害者等の利益のみを追求することが期待されているといえよう︒

 例えば︑夫を殺害された妻︵被害者参加人であることを前提として︶が︑被告人が極刑に処されるのを望む場合︑

被害者参加弁護士としては︑法定刑の範囲内である限り︑被害者参加人の意向に沿った求刑︵刑訴法三一六条の三

八︶を行う︵又は被害者参加人に行わせる︒︶ことになろう︒

 ただし︑被害者参加弁護士が︑他の同種事案の例を適宜示しつつ︑本件における量刑のいわゆる﹁相場﹂につい

て情報提供したり︵極刑は難しい事案である旨説明するなど︶︑ときに被告人の更生についての配慮の必要性を示

唆したりすることは許されてよいし︑むしろ必要ではないかと思われる︒その上で︑なおも被害者参加人の意思が

強固なのであれば︑これを尊重すべきことになろう︒

 この点に関し︑被害者参加人の利益を尊重する余り︑被害者参加弁護士が﹁過去の判例からみて極刑にはならな

い︒﹂旨説明したり︑被告人の更生に三ての配慮を強制したりすることは厳に慎むべきであるとの見解も在醗・

 しかしながら︑被害者参加人に対して実務上刑の量定に当たり考慮される諸事情を教示したり︑量刑の相場や見

通し等について情報提供することは︑被害者参加人が法や常識から逸脱するのを防ぎ︑適正な求刑を行わしめるた

めに有益であるし︑法律の専門家として法的観点からの適切な助言を与えることは︑弁護士としての資格を有する

被害者参加弁護士に当然期待されている役割といえるであろう︒また︑被害者参加人の意向に唯唯諾諾と従うばか

被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二〇九

(18)

      二一〇

りでなく︑批判や忠告も含め多角的見地からの助言を与えてこそ︑被害者参加弁護士は被害者参加人からの信頼を

得ることができるのではなかろうか︒したがって︑かかる見解には疑問がある︒

2 被害者参加弁護士が保護すべき利益

 一言で﹁被害者の利益﹂﹁被害者の要望﹂といっても︑その具体的な内容は︑具体的な個々の被害者等によって

様々であろう︒

 一般的に︑被害者等は被告人に峻厳な刑罰が科されることを望む傾向にあるといえようが︑それのみではない︒

例えば︑被害の実態や自分の辛い気持ちを分かって欲しい︑その上で適正な処罰をしてくれれば十分と考える者も

いるし︑ただ事件の真相を知りたいだけであって︑処罰云々まで考えるつもりはないという者もいる︒また︑被告

人を処罰したからといって被害以前の生活には戻れないという絶望感・無力感に苛まれる者もあろう︒

 被害者参加弁護士においては︑当該被害者等の具体的な要望や置かれている状況を十分に理解し︑その要望や状

況に応じて適切な援助をすることが期待される︒

(19)

3 被害者参加弁護士に期待される役割

 先にみたとおり︑被害者参加制度においては︑検察官が被害者参加人等との間で密接なコミュニケーションを図

り︑被害者参加人等の要望を十分に把握した上︑これを刑事裁判に反映させることが期待されている︒

 したがって︑原則的には︑検察官が被害者の要望を刑事裁判にできる限り反映させる役割を負うことになろう︒

 他方︑被害者参加弁護士は︑検察官と被害者参加人との間の意思疎通を円滑かつ有効ならしめるために活躍する

ことが期待される︒例えば︑刑事手続等法的問題について十分な知識を必ずしも有していない被害者参加人が検察

官から説明を受けてもこれを十分に理解することができないおそれのある場合には︑被害者参加人が検察官から説

明を受ける際︑被害者参加弁護士も同席し︑必要に応じて検察官の説明内容に解説を加えれば被害者参加人の理解

を助けることになるであろう︒しかも︑法律の専門家である被害者弁護士が︑被害者参加人では気付きにくい法律

上の問題点についても検察官に説明を求めることができれば︑より被害者の利益保護に資することとなるものと思

われる︒  このように︑被害者参加弁護士が検察官の権限行使に関する意見を述べたり︑説明を受けたりするために検察官

と面談をする際には︑原則として被害者参加人も同席することとし︑被害者参加弁護士のみが検察官と面談するの

は例外的な場合に止めるという運用をすることが望ましいであろう︒なぜなら︑被害者参加人が検察官と顔を合わ

せることによって︑検察官への信頼を形成し得るほか︑被害者参加弁護士のみが面談した場合に予想される被害者

参加人の不信感︑すなわち︑果たして自己の要望が正しく伝わっているのか︑被害者参加弁護士が検察官と慣れ合

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二=

(20)

二=一

って自己の利益をないがしろにしているのではないかなどといった疑心暗鬼を排除することによって︑被害者参加

弁護士への信頼をも形成し得るからである︒

 いずれにせよ︑被害者参加弁護士においては︑被害者参加人の要望を十分理解した上︑被害者参加人の真意が検

察官に伝わるよう援助し︑これを刑事裁判に反映させるべく検察官に働き掛けるとともに︑検察官の活動について

説明を求め︑これを被害者参加人が十分理解できるよう的確に説明することが必要となる︒

 すなわち︑被害者参加制度の基本である検察官と被害者参加人との密接なコミュニケーションが確立され︑両者

に信頼関係が形成されるか否かは︑相当程度被害者参加弁護士の活躍如何にかかっているといってもよい︒

 そして︑検察官が公益の代表者として被害者参加人の利益を刑事裁判に反映させることができない例外的場合に

は︑被害者参加弁護士が被害者参加人の利益を刑事裁判に直接反映させるべく︑証人尋問や被告人質問︑事実又は

法律の適用についての意見陳述といった諸手続を踏むことになろう︒

 なお︑検察官の活動内容やその理由が被害者参加人の要望と異なる場合︑被害者参加弁護士は︑被害者参加人に

対し︑単に検察官の伝えた内容を説明するのみならず︑検察官が公益の代表者として職責を負っているということ

についても説明することが期待される︒そうでなければ︑被害者参加人が︑検察官の職責の限界を十分理解するこ

となく︑検察官が不当に自己の要望を拒絶したなどと解釈して︑検察官ひいては刑事司法全体に対する誤った失望

感や疎外感等を抱くおそれがあるからである︒これでは︑被害者参加人にとって不幸な事態となるし︑検察官との

信頼関係が瓦解しかねない︒たとえ限定された要件の下であっても︑被害者参加人には︑検察官の判断とは別に自

ら又は被害者参加弁護士を通じて自己の要望を刑事裁判に反映させる直接的な手段が与えられているのであるから︑

決して被害者参加人の利益がないがしろにされている訳ではなく︑検察官や刑事司法全体に対して失望感や疎外感

(21)

等のマイナス感情を抱く必要はないのである︒こうした制度全体の仕組みを理解できれば︑被害者参加人がこのよ

うなマイナス感情に苦しめられることは少なくなるのではなかろうか︒したがって︑被害者参加弁護士においては︑

被害者参加人に対して刑事裁判に関する諸制度についても︑適宜︑適切な説明を行うことが望ましいと思われる︒

同様のことは︑刑事裁判に関する諸制度のみならず︑刑罰法令の解釈運用に関する常識︵例えば︑犯罪構成要件の

解釈論等︒︶等々についても期待されよう︒つまり︑被害者参加弁護士においては︑被害者参加人の意向が汲み取

られなかったとしても︑それは法制度上の限界等正当な理由に基づくものであることを︑被害者参加人に十分説明

することが期待される︵もちろん︑検察官の活動内容やその理由に正当な合理的理由がないなど極限的な場合には

この限りではない︒︶︒

 また︑このような場合であっても︑被害者参加弁護士と検察官とが反目しあった態度で法廷に臨むことは避ける

べきと考える︒なぜなら︑本制度において︑被害者参加弁護士は被害者参加人同様︑法廷内で検察官の隣に着席す       ︵19︶ ることが想定されているが︑隣り合わせに着席した二者が反目し合って手続が紛糾するという事態を招いたのでは︑

法廷が不穏な空気に包まれ︑刑罰法令の適正な実現という刑事訴訟の目的が阻害されるからである︒

︵16︶ 岡本・前掲︵3︶三五頁参照︒

︵17︶ 高橋正人﹁犯罪被害者のための刑事司法 被害者の目線で考えよう﹂自由と正義二〇〇八年七月号六九頁参照︒

︵18︶ 高橋・前掲︵17︶七一頁︑七七頁参照︒

︵19︶ 岡村・前掲︵3︶七三頁参照︒なお︑瀬川ほか・前掲︵12︶三〇頁大谷晃大発言では︑法廷内での被害者参加人等の着

 席位置については法律上何らの定めが設けられていないが︑被害者参加人が検察官と適切なコミュニケーションを取ると

  いうことが本制度の大前提となっていることから︑検察官とコミュニケーションがとりやすい位置関係でなければならな

  いであろうと指摘している︒

被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二=二

(22)

二一四

第五 総括−検察官と被害者参加弁護士との関係

 以上みてきたとおり︑検察官と被害者参加弁護士とは︑いずれも被害者の利益を保護し︑その要望を刑事裁判に

適切に反映させるべき職務を担う存在であるが︑前者には公益の代表者としての職責があるのに対し︑後者には被

害者参加人の代理人という職責があり︑両者は︑その職責の性質において異なっている︒同一被告事件について両

者が共に関与する場合には︑各々が自己の権限の特徴を活かして分担した役割を果たし︑その上で︑お互いが連携

を図ることが肝要であろう︒すなわち︑原則として︑検察官が被害者参加人と意思疎通を図り︵この際に被害者参

加弁護士が同席し︑又は︑被害者参加人に代わって活動することがあり得るのは前述のとおりである︒︶︑その要望

に配慮して刑事裁判に反映させるが︑検察官が公益の代表者として被害者の要望に沿うことができなくなるような

場合には︑例外として︑検察官は公益の代表者として訴訟活動をするのに対し︑被害者参加弁護士は被害者参加人

の意向に沿った活動をすることになるのもやむを得ないと考える︒

 このような適切な役割分担により︑被害者参加人の要望を刑事裁判に反映させることができるとともに︑検察官

は公益の代表者としての職責を果たすことができ︑また︑裁判所は︑被害者等の率直な意見︑検察官の公益の観点        ︵20︶ からの意見をも考慮に入れて適正な刑罰権を発動することが可能となるであろう︒

︵20︶ この点に関連し︑加藤・前掲︵7︶四〇四頁は︑﹁被害者に法律専門家である弁護士が付いて補佐・支援することは︑検

 察官の加重負担を避け︑﹁公益の代表者﹂性を維持・純化しつつ︑参加制度の活用を図る上で有意義である︒その結果とし

(23)

て︑検察官との意思疎通も格段に促進されるであろう︒﹂として︑検察官の職責との関係においても被害者参加弁護士の活

用が有意義であることを指摘している︒

第六 おわりに

       ︵21︶       ︵22︶  被害者参加制度導入の過程においては︑賛否両論があり︑否定的な立場からの懸念が未だに示されているところ

である︒しかしながら︑今回の一連の法改正により︑被害者等の要望を刑事手続に反映させる手段が充実したこと

は事実であり︑この点については積極的に評価すべきものと思われる︒

 今後は︑被害者参加制度を積極的にとらえ︑これを適正かつ円滑に運用していくための方策を模索することが肝

要ではなかろうか︒

 被害者参加制度の適正かつ円滑な運用を実現するには︑検察官と被害者参加弁護士の活躍が期待される︒

 特に︑被害者参加弁護士の有効活用が必要であろう︒被害者参加弁護士の活用を実効性あらしめるためには︑何

より︑被害者等に﹁被害者参加弁護士﹂を活用できることを知らしめることが必要である︒したがって︑例えば︑

被疑者に対して弁護人選任権の告知をするのと類似の要領で︑取調べの機会を利用するなどして︑検察官から被害

者等に対し︑被害者参加制度の内容や弁護士の援助を受けることもできることなどを説明するといった実務上の運

用が望まれるし︑そのために︑検察官︵検察庁︶︑日本司法支援センター︑弁護士会のより密接な連携が重要にな

ってくるであろう︒        ︵23︶  そして︑被害者参加弁護士の役割の重要性にかんがみれば︑将来的には︑法改正を行い︑弁護士強制主義に移行

   被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二一五

(24)

二一六

するのが妥当であると思われる︒なぜなら︑被害者参加弁護士の関与が必要的なものとなれば︑被害者等の保護に

資するばかりか︑公判廷において被害者等の生の報復感情が被告人等に向けられ︑法廷が険悪な雰囲気に包まれる

といった︑刑事裁判の適正かつ円滑な遂行にとって好ましくない事態も避けられるなど︑利点は少なくないからで

ある︒すでに被害者参加人のための国選弁護制度も新設された現状においては︑弁護士強制への移行に特段の支障

はないであろう︒        ︵24︶  まずは︑被害者参加制度が我が国刑事司法にどのように根付いていくか︑今後の実務の行方を見守りたい︒

︵21︶ 本制度導入の経緯については︑神村昌通﹁犯罪被害者等基本計画策定の経緯と目的﹂法律のひろば五九巻四号︵二〇〇

  六年︶四頁以下︑親家・前掲︵3︶六五頁以下︑同ほか﹁犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一

  部を改正する法律の概要﹂法律のひろば六〇巻一一号︵二〇〇七年︶一四頁以下︑馬場・前掲︵3︶五四頁以下︑瀬川ほ

  か・前掲︵12︶三頁以下等多数の論稿がある︒

  被害者参加制度導入の是非に関する議論については︑﹁法制審議会刑事法︵犯罪被害者関係︶部会第一回乃至第八回会議

  議事録﹂︑播敦子﹁弁護士による犯罪被害者支援及び刑事手続参加問題﹂刑法雑誌四七巻三号︵二〇〇八年︶四〇九頁以下

  等参照︒その他多数の論稿がある︒被害者等が刑事手続に参加する制度に比較的好意的な論調のものとして︑川出敏裕

  ﹁犯罪被害者の刑事手続への参加﹂ジュリストニニ〇二号︵二〇〇五年︶三六頁以下︑同﹁犯罪被害者の刑事裁判への参

  加﹂刑事法ジャーナル九号︵二〇〇七年︶一四頁以下︑椎橋隆幸﹁犯罪被害者等の刑事裁判への参加﹂ジュリスト=二三

  八号︵二〇〇七年︶五六頁以下等︒否定的な論調のものとして︑山下幸夫﹁刑事裁判への被害者参加制度の立法経過と実

  務家から見た問題点﹂季刊刑事弁護五〇号︵二〇〇七年︶八二頁以下︑川崎英明﹁刑事裁判への被害者参加制度の批判的

  検討﹂同八九頁以下︑岩田研二郎﹁刑事訴訟における被害者参加制度の問題点 ー 法制審議会刑事法部会の審議を中心

  に﹂法律時報七九巻五号︵二〇〇七年︶八四頁以下︑後藤弘子﹁犯罪被害者にとって朗報となるのか﹃犯罪被害者権利利

 益保護法案﹄の問題点﹂法学セミナー六二二号︵二〇〇七年︶六〇頁以下等︒

︵22︶ 山下﹁刑事裁判と被害者参加 被害者参加制度で実務はどう変わるのか﹂法学セミナー六四五号︵二〇〇八年︶一八頁

(25)

  以下︑西村春夫﹁刑事裁判と被害者参加 被害者の刑事裁判参加制度とポピュリズム政治﹂同二六頁以下等︒

︵23︶ 岡村・前掲︵3︶三〇二頁参照︒全国犯罪被害者の会﹇あすの会﹈作成の訴訟参加制度案要綱では︑刑事手続に参加す

  ることができる被害者等︵﹁訴訟参加人﹂という名称が附されていた︒︶は︑弁護士を補佐人として選任しなければならな

  いものとして︵同要綱第一八条︶弁護士強制主義が採られていた︒

︵24︶ その他本論稿に関連する参考文献として川出敏裕﹁刑事手続における犯罪被害者の法的地位﹂ジュリスト増刊刑事訴訟

  法の争点第三版︵二〇〇二年︶三四頁以下︑新屋達之﹁検察・刑事訴追の課題﹂法律時報七九巻一二号︵二〇〇七年︶六

  一頁以下︑茂木善樹﹁法テラスの犯罪被害者支援﹂研修七二一号︵二〇〇八年︶三九頁以下等︒

被害者参加制度における検察官と被害者参加弁護士の役割      ︵都法四十九ー二︶ 二一七

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