小沼 郁
B-21
窒素、ホウ素置換基を有する
シクロブタジエンの合成、構造、反応性 Synthesis, Structure, and Reactivity of
Cyclobutadiene Bearing Boryl- and Amino-Substituents
応用化学専攻 小沼 郁 ONUMA, Kaoru 1. 序論
シクロブタジエンは非常に不安定な化学種である ことが知られている。 そのためかさ高い置換基で立体 的に保護し安定化したものがこれまでに合成され、 そ の長方形型構造が明らかにされてきた。 一方でシクロ ブタジエンに電子求引基と電子供与基を導入し、 push- pull 型の電子効果で安定化した例が知られている
(scheme 1) 。 このような安定化を受けたシクロブタジエ
ンの物性、 反応性などには興味が持たれるが、 電子的 安定化を用いた例はカルボニル基を電子求引基とし て用いている 2 例が報告されているのみであり
1)、研 究例はきわめて限られている。
一方でホウ素原子は空の p 軌道を持つため、
π電子 を含む化合物中において電子求引性置換基として働 く。 そこで本研究では、 電子求引基にボリル基を有し
た push-pull 型のシクロブタジエンの合成を行い、 その
構造、 物性の解明および反応性について研究を行った。
また合成中間体であるアセチレンのホウ素窒素置換 基効果についてもあわせて研究した。
2. 実験と考察
既報の論文
2)を参考に発生させたアミノ基を有する リチウムアセチリドによるホウ素試薬への求核攻撃 によって、 シクロブタジエン前駆体であるホウ素、 窒 素置換基を有するアルキン 1, 2 を合成した (Scheme 2) 。
アルキン 2 の単結晶 X 線構造解析の結果より、 C(sp)–
N 結合距離 (1.308(3) Å) は C–N 二重結合に近い値 (ca.
1.30 Å)
3)であった。また過去に構造解析がなされてい
るボリルアルキンの C(sp)–B 距離 (> 1.504(6) Å)
4)と比 較し、 2 の C(sp)–B 結合距離 (1.476(3) Å) は短縮してい た。アルキン部位の C–C 結合距離 (1.229(3) Å) は通常 の C–C 三重結合 (ca. 1.20 Å)
3)よりも伸張していること が明らかになった。 これらの特徴はアルキン 2 におい てアミノ基とボリル基の push-pull 型の電子効果の影 響によりブタトリエン型の共鳴構造の寄与が存在し ていることを示している。 また、 IR スペクトルにおい て 2 の C–C 三重結合の伸縮振動に帰属される吸収は 2096 cm
−1に観測された。 この値は 1 (2160 cm
−1) や一般
的な二置換アルキンのもの (2260 ~ 2190 cm
−1) よりも 低波数シフトしていることから 2 の三重結合性の減少 が示される。
合成したアルキン 1, 2 を用いてコバルト錯体上での 二量化を検討した。 その結果、 アルキン 2 を用いた場 合に目的のシクロブタジエンコバルト錯体 3 が得られ た。 コバルト錯体 3 に対し、 ブレンステッド酸触媒存 在下、 1,2- ビス ( ジフェニルホスフィノ ) エタン (dppe) と の配位子置換反応により、 ホウ素窒素置換シクロブタ ジエン 4 を遊離させた (Scheme 3) 。
単結晶 X 線構造解析により得られた構造を Figure 1 に示す。 4 は結晶中で独立二分子であり、それぞれの 分子はホウ素原子上を通り四員環に直交する鏡映面
B-2
小沼 郁
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と窒素原子上を通る
C2回転軸が存在する平面ひし形 構造であることがわかった。 また、 4 の C
ring–N 結合距 離 (1.315(4) 、 1.329(4) Å) 、 C
ring–B 結合距離 (1.505(4) 、 1.506(4) Å) は前駆体である錯体 3 の C–N 結合 (1.362(6) 、 1.372(6) Å) 、 C–B 結合 (1.525(8) 、 1.543(7) Å) よりも短
くなっていた。これらの構造的特徴は Scheme 4 に示 すラジアレン構造の寄与を示唆している。また、 4 の 構造においてボリル基が四員環平面から 15 °–18 ° ずれ た構造をしていた。 これはボリル基が置換している炭 素原子が sp
3混成に近づいているためだと考えられ、
共鳴構造 4’’ の寄与もあることを示唆している。
1 Scheme 3
CpCo(cod) Co
pinB
Bpin Et2N
NEt2 3
dppe cat. CSA
Bpin Et2N
pinB NEt2 4
81% 75%
CSA : camphorsulfonic acid
Bpin Et2N
pinB NEt2
Bpin
pinB NEt2 Scheme 4
4 4'
Et2N Bpin
pinB NEt2 4'' Et2N
続いて、 DFT 計算によりシクロブタジエン 4 の分子 軌道を求めた。 その結果、 4 はシクロブタジエンの
π軌 道由来の HOMO および LUMO において、 ホウ素原子 の p 軌道および窒素原子の孤立電子対と相互作用して いることが確認された。 また、 NPA 電荷を求めたとこ ろ四員環部分に分極が見られ、 ボリル基が置換してい る炭素原子は負電荷を帯びていることが示唆された。
この計算結果からも共鳴構造 4’ および 4’’ の寄与が支
持される。
次に、 シクロブタジエン 4 の反応性の解明を試みた。
4 に対してヨウ化メチルを反応させると、ボリル基が
置換している炭素原子からの求核反応が進行し、 メチ ル化体 5 が生成した (Scheme 5) 。これは過去に合成さ
れている push-pull 型のシクロブタジエンと同様の反
応性である
5)。この反応性は炭素上が負電荷を帯びた 共鳴構造の寄与に起因すると考えられ、 X 線構造解析 および DFT 計算の結果とも一致する。
Bpin Et2N
pinB NEt2 Scheme 5
Et2N
pinB
I
4 5
81%
CH3I
Me Bpin NEt2
また、 4 と H
2O との反応ではアニオン性の高い炭 素原子のプロトン化が 2 回起こり、ボリル基が転位 した化学種 7 が得られた (Scheme 6) 。 7 はシクロブタ ジエン型の中間体 6 から、さらにプロトン化が進行 することで生成すると考えられる。
Bpin Et2N
pinB NEt2 Scheme 6
H Et2N
pinB 4
H2O
7 NEt2
+ pinB–OH 6
70%
Et2N
NEt2 Bpin O
Bpin
H H
3. 結論
本研究では、 ホウ素窒素置換シクロブタジエンの合 成に成功し、 その構造を明らかにした。 また、 分極構 造に起因するカルボアニオン性について実験、 計算の 両側面から明らかにした。
4. 参考文献
(1) (a) Gompper, R.; Seybold, G. Angew. Chem. Int. Ed. 1968, 7, 824. (b) Lindner, H. J.; Gross, B. V. Angew. Chem. Int. Ed. 1971, 7, 490. (c) Neuenschwander, M.; Niederhauser, A. Helvetica Chimica Acta 1970, 3, 519. (2) Himbert, G.; Naβhan, H.; Gerulat, O. Synthesis 1997, 293. (3) THE ELEMENT 3rd Ed. Oxford University Press. (4) Cambridge Structual Database, version 5.35 (Nov 2014). (5) Gompper, R.; Seybold, G. Angew. Chem. Int. Ed. 1971, 1, 67.
5. 対外発表リスト
1) Onuma, K. Suzuki, K. Yamashita, M. Chem. Lett. 2015, in press.
2) Onuma, K. Suzuki, K. Yamashita, M. Org. Lett. 2015, in press.
国際会議2件、国内学会6件