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完新世奈良盆地の自然史−その1−

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

完新世奈良盆地の自然史−その1−

著者 西田 史朗, 松岡 数充

雑誌名 古文化財教育研究報告

巻 6

ページ 65‑81

発行年 1977‑06‑30

その他のタイトル Holocene Natural History in the Nara Basin.I URL http://hdl.handle.net/10105/415

(2)

完新世奈良盆地の自然史 ‑その1‑

西田史朗* ・松岡数充**

Holocene Natural History in the Nara Basin. I Shiro Nishida and Kazum Matsuoka

は じ め に

奈良盆地はわが国文化の古くから栄えた土地であ9,それに引続く発展の地でもあり,古代文化の 中心地であった.したがって,その文化活動の遺跡は数多く残され,その方面の発掘調査等も活発に 行なわれつつある。しかし,その背景をなす当時の自然草境の推定は,地形・遺跡・遺物・文書など による間接的な方法によって行なわれてきたにすぎない。

近年,盆地部の都市化の進展に伴なって,精密を遺跡の発掘調査が行なわれるようにな9,その際 出土する自然遺物もいっそう注目されるようになってきた.遺構を構成する木材や石材,遺構や包土 に含まれる植物の種子や花粉,その他の植物遺体,動物の遺骸などの検討がなされるようになってき たが,自然史を組立てるまでには至っていないO

奈良盆地低地部の地表下数メートルのところに,洪積世末期のMenyanthes(ミツガシワ)の種 子を含むことで特徴づけられる泥炭層がかなDの範囲にわたって分布することが,粉川・吉田(1956) によって明らかにされてきた。さらに,この泥炭の花粉分析がYamagata(1958)と山形(1961) によって行なわれているo また,千田(1971)は弥生期の植生解明をテ‑マに花粉分析を行なった。

等者らは完新世の奈良盆地の自然壌境,とりわけ古地理・古気候の変遷をできるだけ詳しく知ろう として, ‑ンドオーガ一によ9奈良盆地低地部の柱状試料を採取した。この試料について,地質学的

・古生物学的に検討を加え,その水平的ならびに垂直的変化を明らかにし,奈良盆地での文化の発展 と自然壕境のかかわりを知ろうとするものである0

本報は少なくとも今後2年間に及ぶ継続研究の初年度の成果についての概報であ9,採取した試料 の数も少なく,かつ研究途中のもので,粗試料の記載を中心とした中間報告である。本報告の要旨は 昭和5 1年度特定研究「古文化財」研究会で報告した(粉川ら1977 ),

*奈良教育大学教育学部地学教皇 榊大阪市立大学理学部生物学教室

‑65‑

(3)

謝   辞

この研究は文部省科学研究費補助金・特定研究「古文化財」の「植物性遺物による古代人の生活と 壕境についての研究」の一端として行なったもので,研究費の大部分は上記の研究費補助金による。

今回の研究に当って,研究代表者である大阪市立大学理学部・粉川昭平教授には実地に試料採取を 御指導いただき,また採取した大型植物連体を同定していただいた上 数多くの未公表データを提供 していただいた。関西外国語大学・嶋倉巳三郎教授には,材化石の同定をお願いした。大阪教育大学 付属高等学校・野口寧世教諭には,珪藻化石による検討をお願いしている。橿原考古学研究所・伊達 宗泰次長・石野博信調査課長をはじめ多くの研究員の方々に,ポーリング地点の選定や出土した土器 片の銘定に関して御助言いただいた.

三宅化学株式会社・三宅道信専務と三宅村立三宅小学校・穏谷裕彦教諭には,ポー7)ング作業に当 b様々を便宜を計っていただき,作業の迅速を遂行が可能となった。ポー1)ング作業用地を心よく御 提供下さったそれぞれの地主の方々と奈良県浄化センターの協力なくしては,とうていこの作業は遂 行できなかったであろう。

また,奈良教育大学教育学部地学教室・磯尾知子・金原正明・石橋幸二・阿部克彦・小牧康彦・鈴 木典子・谷口陽二・山中好恵の諸氏,大阪府立市岡高等学校・池田 正教諭,奈良市立都南中学校・

森下良介教諭はポーl)ング作業に際し,献身的に協力して下さった.

以上の方々の御湯力に対し厚く御礼申し上げますO

研 究 方 法

奈良盆地の降水を集め,生駒山脈を横断する亀ノ瀬峡谷を経て大阪湾‑注ぐ大和川は,盆地の低地 部で竜田川・曾我川・寺川を分校し,さらに佐保川と初瀬川に分れる。大和川が奈良盆地から流出す る王寺町付近では,海抜3 5 m程度で初瀬川と佐保川の分岐点付近でも4 3 mである。

これらの河川流域を中心とした盆地の低地部において, ‑ンドオ‑ガーを用いて最大6m程度の連 続柱状試料をできるだけ広範囲に採取しようとして着手した。また,土木工事現場等で大規模にオー プンカット工法をとっている場所では,その壁面を連続して柱状に採取した。第1図に5 1年度に作 業した地点を示す。

ハンドオーガーによる試料採取は, 2 0cm掘進する毎に試料を取り出したO採取試料は深度を記し た塩化ビニール製トレイに入れ,ビニールシートで包装して実験室に持ち帰った。作業現場では試料 採取後,直ちに岩相図を作製し14 年代測定用試料と徴化石分析用試料を分割し,試料の汚染を

避けるよう留意した。

‑66‑

(4)

10km

第1図 試料採集地点

試料の採取に当っては,先に述べた泥炭層を重要な鍵層としてとらえ,できるだけそこまで到達す ることを目指した。そして,可能を試料について14C年代を測定し,あるいは土器編年を参照して 時間目盛を入れようとした。また,可能を試料について花粉と珪藻を抽出し,前者からは周辺の植生 変遷を,後者からは水域の変化を知ろうとするものである。

柱状試料について

昭和5 1年8月1日から1 0日にかけて,第1図に示した奈良盆地の低地部において, ‑ントやオー ガ一等による柱状試料を1 4地点で採取した。その位置と海抜高度コア長,採取方法を第1表に示す.

‑67‑

(5)

第1表  柱状試料採取位置

作 業 地 点 海 抜 m 採取 コア長

C勿 採 取 方 法

7 6 ‑ 1 奈良 県磯 城 郡 田原 本町 今 里 ●三宅 化学 朕 本 社北 側 4 5 3 0 2 ハ ン ドオ I ガー

7 6 ‑ 1′ 寺 川河 床 4 2 1 0 0

7 6 2 N 三 宅化 学 KK I 場 敷 地 内 4 5 3 7 7 ハ ン ドオ‑ ガ‑

7 6 3 田原 本町 鍵 ●田原 本北 小 学校 南方 の 松井 氏 所有 の休 耕 田 5 0 5 8 0

7 6 ‑ 4 田原 本町 西 代 ●乾 氏所 有 の 畠地 4 5 3 5 0

7 6 ‑ 5 三 宅町 伴 堂 ●三 宅 小学 校 前 の安 # 氏 所有 の休 耕 田 4 3 2 5 5

7 6 ー 6 三 宅 町犀 風 ●住宅 地 南方 の休 耕 田 4 3 3 7 0

7 6 7 三 宅 町三 河 北 方の 安井 氏 所 有 の 畠地 4 3 3 4 0

7 6 ‑ 川西町 市 場 ●面塚 北 方 ●石橋 氏所 有 の休耕 田 4 3 3 0 0

7 6 ‑ 9 川 西町 吐 田 ●工 業 団地 北 側 の廃 道 4 3 4 4 0

6 ‑ 1 0 〝 大 和郡 山市 馬司 ●中央 卸 売市 場 西 側の 道 路傍 空 地 4 5 4 0 0

7 6 ー 1 1 大和 郡 山市額 田 部 南町 ●奈 良県 浄化 セ ン ター . 浄化 槽 工事 現 場 4 1 ヰ l o オー プン カ ッ ト

7 6 ー 1 2 4 1 4 0 0

7 6 ‑ 1 3 〝 大 和 郡山 市稗 田町 ●橿 原 考 古学 研 究所 稗 田遺 跡 発 掘現場 4 5 4 4 0 ハ ン ドオ ー ガ.I

(6)

また'採敢試料の柱状図を第2図に示す。

採取に当っては多くの地点で‑ンドオー‑ガーを用いたので,各地点では3mないし6m程度しか掘 進することができなかった。しかし,76‑1′ 76‑3, 76‑i, 76‑7, 76‑13の5地点で,いわゆ る泥炭層が存在することを確認した〇それらの14 C年代を第2表に示す。これらの柱状試料は年代 の明らかにされた堆積物ということで,最終氷期以簿の奈良盆地の形成過程を考察する上で重要な情 報であり,基準となる。ここではそれらの泥炭を含む柱状試料76‑1', 76‑3, 76‑6, 76‑7, 76

‑13について堆積相の説明を加えるO これらの柱状試料は.奈良教育大学教育学部地学教室に保存 している.

76‑1' (原本町今里・寺川河床)

本試料ま寺川河床から検土杖によってその存在が確認され・採敬されたものである。現世の寺川河 床の砂凍層の約17n下に泥炭(草炭11)層が存在することがわかった。このことは,馴巨吉田

(1956,1962)の寺川河岸での観察結果とよく一致する0 76‑3 (田原本町鍵)

約4 0cmの厚さの水田耕作士の下は,青灰色粘土層・細線混じりの砂層と続くo深さ1 0 0cm付近 では褐色シルト質砂層とな9,禾本科植物の茎が直立状態で含まれている。 1 2 0cm付近には黒色ン ルト層9)がみられる0 1 3 0cmから2 9 0c増では雲母片を混えた淘状の良い青灰色砂層が連続するo およそ20 0cm付近で・この砂層中に植物破片が多く見られるが,いずれも細かを断片で種子等は見 当らなかった 30 0cmのところには厚さ30cmの雲母片を多量に含む黒青灰色ンルト層がみられ, 以下380ci付近までは青灰色のやや粗粒の砂層となる 3 9 0cmから5 50cmまでは暗茶褐色ない

し黒褐色の粘土層が続くo この粘土層は粘性がかなり強く,黒褐色を呈して一見多量の植物性遺物の 混入が期待されたが,大型遺体・花粉・胞子ともにほとんど含まれていない。また.雲母片が多く含

まれてV,ることもあり,特異な堆積環境の下での生成物と考えられるが.詳細は今のところ不明であ る 55Octから58 0cmまでは褐色泥炭(草炭‑3)層で,外気に触れるとその色調が急激に鴇色か ら黒色へと変化するo この泥炭層からMenyanthesの種子を検出したO この地点では泥炭層より下位

革本類を主体とした泥炭。粉川・吉田( 1956)はMenyanthes trifaliata(ミツガンワ) , Polygon甜桝sp. (クデ1. Ca柁x sp.Cスゲ) , Actinostemma lobatum (ゴキヅル) ,

Phragmites sp. (アシ)の遺体を報告しているO今回の花粉分析の結果でも,草本花粉・ンダ 植物の胞子が高率に含まれていることが認められ.草炭であることを支持するo

このンルト層は千田(1971)が花粉分析に供したものに相当するとみられる。

草炭を含む層は多量の水を含むため,地元では「水蓋」と称されている。

‑69‑

(7)

の堆積物は確認できなかった0 76‑6 C三宅町犀風)

約6 0cmの水田耕作士の下は1 1 0cmまで灰色ないし灰白色の粘土層が続く1 2 0cm付近には厚 さ10cmほどの植物破片を含む黒色ンルト層がみられる1 2 0c初から1 90cmまでは青灰色の砂ji・

ンルト質砂層,粗粒砂層からなり. 1 60cm付近のンルト質紗層中にも植物破片が多量に含まれてい る。 1 90cmから2 4 0cmにかけては,褐色ないし暗茶褐色の泥炭層が存在するoその下位3 2 0c況 までは暗緑色の砂質ンルトないし粗粒砂層が続く.その中で2 7 0cm付近と3 0 0cm付近の砂層中に は若干の褐色植物片が含まれているOこれに続いて・少なくとも37 0cmまでは石英粒の目立った青 灰色粗粒砂層がみられる0

76‑7 (三宅町三河)

地表下4 0cmまでは水田耕作士である1 00cmまでは湧水の著じるLh粗粒砂層からなるo以下 270cmまではンルト層ないし粘土層であるが120cmから約30cmと200cmから270cmまで ほ黒色を呈し粘性の強いいわゆる「水蓋」様であるoしかし・植物遺体はほとんど含まれていをV・0

1 4 0ォ付近からは摩滅した土器片が採集された。 2 0 0cmから2 7 0cmにかけての黒色粘土層中に は,雲母片が多量に含まれている 27 0cmから1 0叫こわたって淡黄色のミガキ砂状の火山灰層が 存在するo黒色粘土層は2 9 0cmまで続き・火山灰層はこの黒色粘土層に爽まれてV,るo以下青灰色 細粒砂層が31 0cmまで続き.その下に厚さ2 0cmの暗褐色泥炭層がみられ・さらに青灰色シルト層

が続く0

76‑13 (大和郡山市稗悶・稗田遺跡1

ここでも地表下約4 0cmまでは水田耕作土である1 00cm付近までは暗灰色ないし黄褐色ンルト 層で,以下1 70cm付近まで青灰色シルト層が続く190cmから21Qcw付近には約20cmの暗灰

4)このチャートの′」、角磯は田原本町・三宅町を中心とする地域の堆脚勿にはみられない0 ‑方・

佐保川や地蔵院川流域の堆積物にはしばしば認められる。このことは初瀬川も含めて寺川流域に はチャート磯の供給地,すなわち佐保川や地蔵院川上流にある藤原層群・地獄谷層群・大阪層秤 新期磯Jg,あるいはその相当層の存在しないことを示し,河川の流路変更などを考察する上で重 要な示標の一一つとなる0

5)寺川流域の泥炭に比べると炭化の程度が著じるしく,含有植物遺体については保存が悪く種類 は不明であるれ測定された14C年代からみて炭化が進みすぎているようであるが・これは1 位の堆積物の厚さや地下水位が関係していると思われる0

‑70‑

(8)

6‑1

6‑2

6‑3

tuff 6‑4 xk 6‑5 25,000

+ 5.80 76‑1′

iV

24,200 ±1,100

F         ︿ L U

=             :         t J

≡ 二

ユLユ

A

 

B

r L   D   F L

l≡≡  云≡二

(

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S

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C

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B

(9)

76‑10    76‑13

76‑5    76‑8    76‑9

76‑11   76‑12

lhc 4,900±100

第2図 柱 状 試 料

各柱状図の上端は,各ポーリング点の海抜高度を示す。海抜高度は国土地理院の2・5万分の1地形 図から読み取った。柱状図の上端の数字は作業地点を示すo

A:砂質シルト層, B:砂層, C:泥層, D:泥炭層, E:火山灰層, F:木片, G:土器片, H:石英片, I :徴化石分析試料  IV測定資料14Cの下の数字は 測定した14C年代を示す14C<は粉川・吉田(1962)による14C年代を示す。

‑72‑

(10)

色のンルト層ないし細粒砂層をはさみ・また, 23 0cm付近には厚さ約20C椛の褐色植物片を多く含 む黒灰色細粒砂層がくる 2 50c町から30 0cmにかけては黒灰色の中粒砂層で・以下38 0cmまで は径5m帥し1 0n舵の角ぼった黒色チャート硬4)や石英粒の目立つ粗粒砂層である 38 0cmより 約1 5cmの寧さをもつ黒色泥炭層5)をみるが・水分が少なく・他地域の泥炭に比べて多孔質で・不純 物も多V,ようであったoこれより下位は440c鴫で黒色チャートの細硬を含む灰色砂層である0

14C 年代について

採取した柱状試料のうち14,年代の測定が可能と思われるものが5点得られたo測定結果を第 2表に示すo l点を除いて他は泥炭(草炭)であり・葦本性の植物遺体を主体とし・堆積当時の植生 を反映し実年代との隔少は少ないと考えられる0

第2表14C年代

サンプリング地点 地 表 下 深 度

C 1 4 C 年代 Y .B.P .

7 6 ‑ 3 5 5 5 ‑ 5 8 0 泥 炭( 草炭) 2 7,5 0 0 士5 4 0 7 6 ‑ 6 2 0 0 ‑ 2 2 0 2 7,7 0 0士8 7 0 7 6 ‑ 7 3 2 0 ‑ 3 3 0 2 5,0 0 0 士5 8 0

7 6 ‑ 1 2 4 2 0 4,9 1 0 士1 0 0

7 6 ‑ 1 3 3 8 5 ‑ 4 0 0 9,9 0 0 士1 0 0

粉川・吉田(1962)は田原本町根太口の寺川右岸の草炭の14C年代を24,200士1,100年と 報告している。この草炭は,その記載からみて今回の76‑1'の泥炭と同一層準のものと考えられる0 76‑12の木片は,嶋倉巳三郎教授の鑑定によるとiMachilus乃unbergiiiタブノキ)である0 14C年代の測定は,日本アイソ‑プ協会に依頼した0第2表に示した年代は14 の半減期 を5,730年として計算してあるo

火 山 灰 に つ い て

76‑7地点の地下2 70c吻、ら2 80c叫こかけて,淡黄土色の火山灰層を確認したO火山ガラス の屈折率等の測定はすんでいないが・典型的なガラスの集まりで・爽雅物はほとんど認められないo

‑73‑

(11)

走査電子覇徴鋲下の観察ではかなりの厚みをもち,パイプ状あるいはサンドイッチ状に発泡跡とみら れる孔隙が散在し,内部は粘土鉱物様のもので充填されているものもあるo この火山灰層の下位4 0 cmから5 0C柁かけて泥炭層が発達し,その14C年代は25,000士580Y.B.P.であるOしたがっ て,この火山灰の降下したのは少なくとも25,000士580Y.B.P.以降である。

この火山灰は層位的に町田・新井(1976)の恰良Tn火山灰に相当するとも見られるが,現在ま での観察では,記載された恰良Tn火山灰の特徴を供えてV,ないように思われるOまた.前田(1976 未公表資料)は兵庫県尼崎市車本町1丁目の左門殿川にかかる辰巳橋のケーソン工事の際 TP‑25

7n付近の泥炭層直上に,恰良Tn火山灰と見なされる可能性のつよい火山灰層を発見したo この火山 灰と比較検鎮した結果,明らかに異なるものであることが分少,最終氷期最盛期以降にもう一回の特 徴ある火山灰の降下が知られ,今後の広域にわたる追跡が期待されるo

土 器 片 に つ い て

今回の柱状試料採取中6地点において,合計1 4点の土器片を得たO 出土した土器片の層位と包含 層の岩相を第3表に示すo

第3表 採取土器片

採 取 地 点 土 器片 地表 下深 度 cm 出土点 数

7 6 ‑ 1 須 恵 器 2 7 2 ‑ 2 9 2 青 灰色砂 層 1

7 6 ‑ 7 1 4 0 黒 色 ンル ト層 1

7 6 ‑ 1 0 . 1 1 5 ‑ 1 3 5 青灰 色 シ ル ト層 ●砂層 の境 界付 近 1

7 6 ‑ l l 3 0 0 茶 褐 色 ンル ト層 1

7 6 ‑ 1 2 2 0 0 青 灰色 砂質 ンル ト層 9

7 6 ‑ 1 3 1 1 0 ‑ 1 3 0 青 灰色 シル ト層 1

出土した土器はすべて破片で,すべて須恵器である。橿原考古学研究所の見解では「すべての土器 は断片であるので,古墳時代後期から中世にかけてのものとしか言いようがない」とのことであるo

‑74‑

(12)

大型植物連体について

76‑12地点の地表下4 1 0cmないし4 40叫こかけての暗灰色砂層中から,多量の材片・菓片

。種子eその他の植物遺体を得た。それらを第4表に示す。材については嶋倉巳三郎教授'その他に ついては粉川昭平教授の同定によるo

第4表 植 物 遺 体

材 片

Phellodendron sp. Cキ ‑ ダ) vMachilus Thunbergit (??*; *) Acer 8p. (カエデ類)

樹種不明の散孔材 葉 片

Quercus gilva (Aチ1ガン) Torreya nucifera (カ  ヤ) Abies firma (モ   ミ) Wistaria sp. (フ ジ 類)

∫α‖∬ sp‑ ヤナギ類) Rosaceae (バ ラ 科) 種 子

Euscaphis japonica (ゴンズ1) Mallotus japonicus (アカメガンワ)

Cornus controversa (ミ ズ キ) Vitis Thunbergの(ェビズル)

° °

Broussonetia papyrifera (カジノキ) 樹皮その他の植物遺体

Acer sp. (カエデ類)

Sa♪Indus Mukurossi (ムクロ ‑i) Pterostyra∬ corymbosa (アサガラ)

Dolichos lablab (7‑^ ^)

Humulus japonicus (カナムタラ) Prunus sp. (サク ラ類)

Aesculus turbinata (トチノ キ)

‑75‑

(13)

花粉からみた堀炭層堆積時の古環境

採取した試料について,現在花粉分析と珪藻分析を行なっているが・すべての試料については完了 してV'ない。ここでは特異な堆積物として注目される泥炭の花粉分析結果について報告するo分析し た試料は76‑1‑ 76‑3 , 76‑7 の他に稗田遺跡から得た泥炭磯(Hd)塊である0

76‑13の泥炭試料は炭化が著じるしく,花粉分析試料として適さなかったo稗田遺跡の泥炭磯 塊試料(Hd)は,橿原考古学研究所によって発堀されている大和郡山市稗田の稗田遺跡の古河川の河 床から発見されたもので,肉眼上の岩相はMenyanthesを含む他の寺川流域の泥炭と変わるところが をhoその露頭については目下のところ不明であるが,大きなものは径50cmほどもあり・遠隔地か

ら運搬されたものとは考えられないo

奈良盆地の泥炭の花粉について, Yamagata(1958)と山形( 1961)は田原本町今里の泥炭を 分析し.報告したOしかし,その結果は樹木花粉のみが示されており・より詳しい環境解析の資料と

して不十分であると思われる。ここでは,共存する草木花粉とンダ胞子についても考察を加える0 第3図に示した花粉ダイアグラムを画くについては,樹木花粉(APl約2 50個体を同定する間に 得た非樹木花粉(NAP)と胞子(SP)を分けて識別し数をかぞえたoダ1ヤグラムでは基数として IAP+NAPを.またAP.NAP,SPの相対比については1AP+NAP+SPを基数としたo

樹木花粉では,すべての試料についてPinusを主体とするConiferが優占するo これらのPmusに はmarginal crestが発達し気ノウの間に粒状斑のあ.Z'やや大型のHaploxylon (五葉松)型と・や や小型のDiploxylon (二葉松)型が確認されたo

Haploxylon型は同定の確実をもののみを数え,方向の悪いものや保存不良で同定の不確実をもの はDiploxylon型に入れたOしたがって実際にはもう少しHaploxylon型が多いとみられるo

Pinusに次いで乃ugaが多く産する。それぞれの試料に数感から1 0魂のPiceaの産することも注 目すべきである。)広葉樹としてはAlnus, Betula, Fagus, deciduous Quercus, Ulmus or Zelkovaが見られるが量的に多くない。これらの分析結果は,山形C1961)と比べて,彼の泥炭下 部の試料(‑ 4 0c仇‑ ‑5 0cm)でAlnusの特に多い点(28.5のを除けばconiferous pollenが 優占し,その中にPiceaのみられることなどと一致するo

AP,NAP,SPの相対比をみると,稗田の試料(Hd)を除いてSPの特に多いこととNAPの量比 に注目される NAPでのMenyanthes, Gramineaeは大型遺体で報告のあるM.trifonataと phragmites sp.に一致するとみられる。また,大型遺体中にAPの存在していないことも重要であ る。またAPでもいわゆる空気ノウを有するConiferの多い事実や広葉樹でも風媒花粉が卓越するこ

とは,これらの花粉がかなりの距離を運搬されてきた可能性が強いことを示すo したがって・これら

‑76‑

(14)

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0

第3図 奈良盆地泥炭層のおもな花粉のダ17グラム ( Hd)は大和郡山市・稗田遺跡の古河川から得た泥炭硬塊の試料o

他に1感以下の出現率であるが,安定して産出するものとしてJuglans‑Pterocarya , Saltガ, Celtis‑Aphanathe , Carptnus,

Ericaceae , Lonicera, Ilex, Acer , Ligustrum* Tilia , Caryophyllaceae , Geranium. Chenopodiaceae I Cyperaeeae

Menyanthesがある。

(15)

第4図  奈良盆地泥炭層の樹木花粉〔 AP ) 非樹木花粉(NAP) .胞子Csp)の相対頻度

の寺川流域の泥炭はンダ植物や草本類の擾占したopenlandの池沼域に堆積したことがうかがえる。稗 田の試料(Hd)は他のものに比べてNAPとSPが少ない。この試料は古河床の碑として得られてお り,その原露頭も今のところ未確認であるO しかし,その露頭は泥炭碑の発見地よりも上流域の丘陵 地である可能性もあり,より森林に近い所に堆積したことが推定されるO

古気候を推測するのに重要な花粉として Haploxylon型Pinust Picea* Betula* Fagusが Jげられる。これらの植物群は現在の奈良盆地周辺の山地には見られない冷温帯の植生を示すO これ らのうちFagusは現在金剛・葛城山地の山頂部に見られるが,その他のものは紀伊山地の大台ケ原山 や仏経ケ岳の1 , 600771以上の高地に生育する。奈良盆地の現生空中花粉を調査した中島ら(1975) の結果でも,これらの冷温帯樹種の花粉は,四季を通じて認められていない.これらの花粉はいずれ

も風媒花であるので,かなりの飛散距離が考えられるが,その供給地を大台ケ原付近に求めるのは困 難であるoさらにMenyanthes triforiataの種子や花粉を産することから,冷温帯の森林がかなり 下降していたことが推定される。

‑78‑

(16)

粉川昭平・吉田純一( 1956) :奈良盆地底部の含ミツガンワ草炭と弥生式文化層の関係(予報)0 日本地質学会関西支部報, 32. 5‑1 2.

( 1962 ):奈良盆地の含ミツガシワ革炭層の絶対年代。

地球科学, 73. 41‑42.

粉川昭平他( 1977) :植物性遺物による古代人の生活と環境についての研究。昭和5 1年度特定研 究「古文化財」年次報告 B‑5, 1‑13.

町田 洋・新井房夫(1976) :広域に分布する火山灰‑姶良Tn火山灰の発見とその意義‑0 科学. 46. 339‑347.

中島仲佳・吉岡芳浩・嶋倉巳三郎(1975) 奈良市における空中花粉調査.花粉 7, 5‑6.

千田 稔(1971) 奈良盆地弥生式遺跡における花粉分析学的考察,地理学評論・ 44. 707‑

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山形 理( 19611 :近畿におけるMenyanthes層の花粉分析,横山次郎教授記念論文集. 17‑21.

‑79‑

(17)

図  版  説  明

Figs. 1‑15は奈良盆地泥炭層のおもな花粉化石の顕微錬写真で・倍率は約4 7 0倍であるo Figs. 16‑11は出土した土器片で,ほゞ等倍であるo

Figs. 19‑21は76‑7 火山灰の走査電子顕微鏡写真で・長いスケー‑バーは1 0ミクロンを 示す。撮影にはHITACHI S‑ 310電界放射型走査電子顕徴境を使用した。

1‑ Picea. 76‑1‑1.

2. Pinus.(Haploxylon型)。 76‑3‑19.

3, Lonicera. 76‑7‑10‑

Menyanthes. 76‑1Ll・

5‑  Composi tae‑ 76‑3‑19・

Fagus. 76‑7‑10.

7. Geranium. 76‑7‑10‑

Quercus.(deciduous塑1. 76‑3‑19.

9・ Compositae。 76‑1Ll.

10。 Artemisia. 76‑7‑10.

llo ?Sagillana. 76‑7‑10‑

12. Sanguisorbia. 76‑3‑19.

13。 Cryptomena. 76‑3‑19‑

14. Juglans. 76‑7‑10‑

15. Ericaceae* 76‑3‑19.

16・ 須 恵 器 片。 76‑10.

17・ 須 恵 器 片。 76‑12.

18. 須 恵 器 片   76‑12.

19. 火山灰層中のガラス・ 76‑7‑tuff.

20・ 同上ガラスのパィプ状構造  76‑7‑tuff.

21. 同上パィプ状構造の断面・内部に粘土鉱物様のものが充填されていることが多い0

76‑7‑tuff.

‑80‑

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参照

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