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Ⅰ.緒 言
メンタルヘルスに関する問題は産業保健領域における 重要課題の一つであるとともに,社会からも強い関心を 集めている
1, 2).精神障害や自殺のみならず,ストレス や強い悩み・不安など,労働者の心身の健康,社会生活 及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行 動上の問題のことを「メンタルヘルス不調」というが
3), 職場におけるメンタルヘルス不調の要因の一つに,「仕事 の質・量」「仕事の失敗,責任の発生等」「対人関係」と いった職業性ストレスがある.平成29年労働安全衛生調 査によると
4),調査対象者の約6割が「現在の仕事や職 業生活に関することで,強いストレスとなっていると感 じる事柄がある」と回答しており,労働者のストレス対 策は喫緊の課題といえる.
2015年,メンタルヘルス不調の一次予防を目的とした ストレスチェック制度がスタートした.ストレスチェッ クでは,労働者のストレス度合いを点数化して評価する とともに,“職場ごとの集団分析結果”による評価が可能 である.「職場組織」が「個人」に及ぼす影響は大きく,
労働者のメンタルヘルス不調を防止するには,個人への 対応だけでなく職場環境の改善も図り,労働者−組織関 係の調和を図れるよう支援することが重要である
5).
しかし,実際には個人が組織に馴染めず,労働者−組 織関係の不調和によってメンタルヘルス不調を来すケー スは少なくない.池上らも,労働者のメンタルヘルス不 調の原因の一つに,個人が職場組織に影響されているこ とを示唆している
6).労働者−組織関係に関する研究は 経営学領域を中心に行われているが,そこでは,個人が 組織に調和していく過程について「組織社会化」という 用語を用いて説明している.産業保健領域では組織社会 化という用語は一般的ではないが,組織社会化が適切に 図れないことが労働者のストレスとなりメンタルヘルス 不調の原因の一端となっているのであれば,産業保健領 域においても,メンタルヘルス対策の一つとして労働者 の組織社会化について注目する必要がある.
そこで,それぞれの研究の中で組織社会化がどのよう に扱われているか,Rodgers
7)の概念分析の手法を用い て分析することを目的として研究を行った.
Ⅱ.方 法
Rodgersは,その概念におけるコンセンサスを明らか にし,また,概念の現況や概念の発展の背景を検討する ことによる,帰納的,記述的な概念分析の方法を提唱し ている
7).そこで,ここではRodgersの概念分析の手法 を用い,組織社会化の概念について検討を行った.
1.サンプル(文献)の選択および収集
本研究で使用する「組織社会化」の文献は,年代を限 定せず選択した.先行研究が多くみられる経営学等,幅 広い領域の文献検索が可能なGoogle Scholarを用いて「組 織社会化」をフレーズ検索したところ,看護や教育領域 といった資格に伴う職種での文献が散見された.しかし,
ここでは一般的な労働現場における組織社会化について 検討を進めていくため,「看護」「学校」というキーワー ドを除外対象と設定し再検索し,143文献が選択された.
サンプルサイズの決定において信頼のおける分析を実施 するためには,30文献もしくは全体の20%の文献が必要 であるとされており
7),143文献のうち,組織社会化につ いて一定の記述がある28文献,また,それら28文献の多 くが引用する,組織社会化研究のランドマークとなる5 文献,計33文献を分析の対象とした.
2.データ分析
収集した文献をもとに,文献に記載されている組織社 会化の<特性><先行要件><帰結><関連する概念>
に関する記述を整理し,内容分析を行った.
Ⅲ.結 果
Rodgersの概念分析の手法に従い組織社会化の<特性>
<先行要件><帰結><関連する概念>について述べる.
1.特性
1)個人の,新たな組織への適応
組織社会化は,個人が組織に適応することであ
る
8−18).具体的に,組織社会化の代表的な研究者であ
るScheinは「組織の一員として認められるために,個 人が価値・規範・[組織に]必要な行動を身に付けてい
村 上 杏 子
組織社会化の概念分析
東京有明医療大学雑誌 Vol. 10:41-44,2018
短 報
東京有明医療大学看護学研究科1年 E-mail address:[email protected]
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く過程」
19),Van Maanen & Scheinは「組織の役割を 引き受けるのに必要な社会的知識と技能を,個人が獲 得していく過程」
20),高橋は「組織への参入者が組織 の一員となるために,組織の規範・価値・行動様式を 受け入れ,職務遂行に必要な技能を習得し,組織に適 応していく過程」
9)としている.
すなわち「組織社会化」は,新たに組織に参入した 個人が,組織側の価値・規範・役割等を受け入れ,組 織に自分を馴染ませ適応させていく過程といえる
17).
2)明文化されている/されていないルールの習得 個人は組織に適応するために,組織から求められる 明文化されている/されていないルールを獲得する.
獲得すべきルールには二つの性質がある.一つは,職 務遂行に必要な知識・技能
9)や就業規則といった,マ ニュアルや規則等として明文化されているルールであ る.明文化されているルールは明確で客観的に評価し やすい.
もう一つは,「規範価値行動様式」「組織特有の価値 観」「組織固有の文化」
9)といった言葉で示される“不 文律”(その集団の中で,暗黙のうちに守られている約 束ごと
22))である.これらは明文化できないルールで あるため,個々人により捉え方が大きく異なることも あり,何を習得すべきか,何をもって達成できたとい えるのか不明確となることもある.
3)試行錯誤のプロセス
個人は,試行錯誤しながら組織の様々なルールを獲 得し,組織に適応する.個人は組織に参入後,最初に,
組織に対する期待と現実との間に幻滅・対立・葛藤を 経験し
10),そのようなリアリティショックを皮切りに 多種多様な組織社会化の課題に直面する
9, 21).課題を 乗り越えたからといって,必ずしも適応に向かうわけ ではない.組織には多様な側面が存在しているため,
場合によって個人は,幾度となく課題に直面し,乗り 越え,職務上に必要な知識・技術やその組織の文化や 価値観を試行錯誤しながら獲得していく
9, 11, 12, 23).
2.先行要件
組織社会化の起点として,個人が組織において“新し く役割を引き受けること”がある.しかし,これには二 つの状況がある.一つは“新たな組織へ参入する”状況 である.これは入・転職のように会社組織外の者が新た に会社(組織)に参入したり,社内異動等により新たな 部署(組織)に参入する場合で,個人が新たな組織に参 入することをきっかけに,組織内部の役割を習得するこ
とである
13, 20, 24).もう一つは“同一組織内において役割
が変化する”状況で,同一組織内での昇格,新人の指導 係に就く等がある.これまでの組織社会化研究では,新
卒学卒者を対象とした若年新入社員の適応に着目した研 究が多いが
10−12, 14−18, 24−29),組織社会化は,すでに組織 メンバーであった者が,同一組織内で役割を変更した場 合においても発生する
22).
3.帰結
組織社会化が適切になされれば,個人は組織適応が高 まり,組織コミットメントや職務満足度の高揚につなが
る
9, 12, 16, 18, 30−32).その結果,企業側(組織)は,早期離
転職による人員流出を抑制でき,かつ,早期の戦力化を 図ることが可能となる
14).反対に,組織社会化がうまく 図れず不適応となった場合,職務満足度や組織コミット メントの低下,動機づけの低下,不十分な職務遂行,ひ いては離職につながる
9, 18, 33, 34).また,組織社会化が図 れてもそれが過剰の場合,個人の自立性が失われ会社依 存的な行動を取ることになり
13),組織社会化が適切に図 れたとことにはならない.
4.関連する概念
組織社会化の関連する概念として,「職業担い手に期待 されている職務遂行能力や態度,職業倫理,職業観など が取得される過程」
9)と定義される「職業的社会化」が ある.高橋(1993)は,それまで曖昧であった組織社会 化と職業社会化両概念について,組織社会化研究におけ る代表的な研究者2名を取り上げ考察している
9).それ は,「職業」という言葉をどのように捉えるかに起因す る.一方は,職業という用語を“職務そのもの”と限定 的な捉え方をしている.たとえば病院で働く看護師の場 合,看護師が免許に基づいて遂行する職務がこの捉え方 にあたる.もう一方は,職業という用語を“働くこと全 般”として広く捉えている.社会で働くうえで必要な人 間関係や組織の規範に従うこと等を含む捉え方である.
組織社会化との関係性と共に捉えると,前者の場合で は,組織社会化と職業的社会化は全く別の概念であり,
「組織社会化」では組織に特有の文化を,「職業的社会化」
では職業そのものの価値観や技能を習得する概念として 捉えることができる
9).一方後者の場合は「職業的社会 化」の概念は広義となり,組織社会化の概念をも包括し ていることになるが,この場合,組織社会化が適切にな されなければ,職業社会化が達成されないことになる
9). これまでの職業社会化研究では,教師や看護師のように 免許を保持し特殊な技術や知識を必要とする職業が対象 となっているものが多く,「職業的社会化」と「組織社会 化」は別の概念として捉えることが妥当である.
Ⅳ.考 察
概念を分析した結果,組織社会化は,個人が新たに参
入した組織に適応することであり,その適応過程は,明
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組織社会化の概念分析
文化されている/されていないルールを試行錯誤しなが ら習得するものであった.
これまで組織社会化は,主に経営学における組織行動 論の分野で研究され,新卒の新入社員が組織社会化を成 し遂げるプロセス,およびその促進要素について明らか にされてきた.生産年齢人口の減少や産業・雇用構造が 大きく変化した昨今では,企業は従業員の帰属意識や生 産性を向上させ,離職率を低減させる必要性があり
35), 経営学領域における組織社会化研究は重要である
9, 11, 14). 一方,組織社会化と労働者のストレス・メンタルヘル スに関連する研究は見当たらなかった.しかし,メンタ ルヘルス対策の一環としても,労働者が組織社会化を適 切に図れるよう労働者・組織双方へ支援する必要がある.
企業では,入社や異動による人事異動が定期的に行わ れるため,ほとんどの労働者は,会社人生の中で何度も 新たな組織に自分を適応させる必要がある.適応におい ては明文化されている/されていないルールのいずれも 習得する必要があるが,昨今の社会情勢は凄まじい速さ で大きく変化しているため,それらのルールを習得する ことは以前と比べると困難になったと言わざるを得ない.
労働現場に次々と流入する最新技術は,明文化されて いるルールを瞬く間に変化させる.また,明文化されて いない不文律のルールも複雑化・多様化している.もと もと労働現場の組織は,世代・居住地域・家族構成等,
価値観の異なる個人が集まる不均質な集団であるため,
不文律のルールの習得が困難であることは想像に難くな いが,加えて,核家族化の進展により世代間で価値観を 共有する機会が減少し,異なる世代とのコミュニケーショ ンがうまく図れなくなった.“働き方改革”は,女性・外 国人労働者を増加させ組織に新たな価値観を増やすと共 に,労働そのものに対する労働者の価値観を多様化させ た.明文化されている/されていないルールは社会情勢 等の影響により刻々と変化するため,組織社会化はより 一層困難なものとなり,試行錯誤の末に達成されること になるだろう.
このように,近年の職場組織は労働者にとってストレ スを生じさせやすい環境になった.組織社会化が適切に 図れず職場不適応を起こせば,経営学領域で言われてい る離・転職や組織コミットメントの低下等だけでなく
9,18, 33, 34)
,ストレス増大によるメンタルヘルス不調を引き
起こしかねない.そのため,経営学のみならず産業保健 領域においても組織社会化研究を発展させ,組織社会化 におけるストレス要因と,ストレス軽減に関する促進・
阻害要因を明らかにすることで,労働者のストレス軽減 およびメンタルヘルス不調の予防につなげたい.
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