熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
岩
下 紀 之
愛知淑徳大学国語国文第五号から七号にかけて︑永青文庫本﹁壁草﹂を翻刻紹介したが︑ここには同蔵の別本を
とりあげた︒本書も伝幽斎筆で上巻のみの零本である︒細川幽斎の連歌活動︑すなわち連歌会出座等の事跡︑連歌
書の書写などが︑きわめて大きな意味をもつことは明白であるが︑目下のところとりまとめる力がない︒将来永青゜
文庫本﹁壁草﹂二本について︑何らかの考えをまとめてみたいと思っている︒今回も翻刻を許可された永青文庫︑
熊本大学に感謝する︒なお︑句番号一九五と一九六のあいだは︑明らかに二丁分落丁があり︑そのため番号が混乱
している︒それで句番号は前句が奇数︑付句が偶数になるべきところ︑これ以後は反対になっている︒
一 264 一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
壁草と云事かへに生る草をいつまて草と云︑根も
いらすはかなき心にて云也︑宗祇の題し給也
春連寄 但他本所持分相除之
一 わかれしかたそけふもかすめる
二天地となりていく春たちぬらん
前句は旅也︑古郷を立はなれたるに跡の山なとのか
すむ事也︑付心は︑天地開闘の時より春と云事立は
しまりて︑けふまて幾春かすむらんと也︑わかれし
は天地の事なり
三 雪よりいっる鳥の一こゑ
四山もとのかすみのあさけおくさえて
心は︑山本は霞みなから︑奥は雪さむけなる鴬の︑
かすみの立てあたsかなる所へ出たるさま也
五 梢をやまの庭のうくひす
六玉すたれあくる夜をこめかすみ来て
付心は︑朝の庭に霞の立きたるを︑山のことくなるに︑
鴬の鳴ておもしろきさま也︑玉簾はあくるの枕言也︑ 二是は上るを明るにかよはしていへり︑しのsめのさま也
七 あたし心はさもあらはあれ
へあけほのや霞にたてるすゑのまつ
付心は︑花鳥風月に心をうつすは︑定心ならす︑あ
た心也︑あしけれ共力なし︑曙の末の松山の眺望︑
言語道断なれは︑打なかめんと也︑羅君を置てあた
し心を九 道しるへせよ谷のうくひす
δ跡うつむ雪に岩ふむはるさえて
心は︑雪に跡のみえしも︑春寒く成て雪の積りて道も
絶ゆけは︑鴬道しるへせよと也︑岩ふむ谷のさま也
二 さやかにもみるへき花にくもかすみ
三あさ日いさよふ春のとをやま
心は︑さやかと云に朝日を思ひよれる也︑朝霞のふ
かけれは︑花の朝日もさやかに見えぬ事也
一三@まつとへかしなはるのやまさと
一四、くひすも雪きえはとやまたるらん
春の山里に︑雪打積りてさひしきに︑雪は消す共先
とへかしと也︑百鶯の声なかりせは
一五@身をいさめけり夢のはるかせ
=ハ鶯にぬる夜の床をおきいてs
心は︑春の曙のおもしろきをもなかめす打ねたるに︑
鶯の鳴たるは︑我をさたのかきりといさむるやう也
宅花にさそはれくるもはかなし
六鶯のやとあくからす梅さきて
鶯は花にねぬ物也︑花のさけは我宿をあくかれて花
の梢に鳴たる也
元 身にしむ風にことやつてまし
二〇梅かsにぬしさたまらすあくかれて
いつく共なき風に︑梅の匂ひの身にしむは︑たかや
との梅そ︑ことつてはやと也
三 なれきつる花もあたなる色みえて
一三うつらぬもなく梅にほふ袖
前句の花もと云字に人持也︑人は姿うつくしけれ共︑
心のうつりやすきは無曲︑其ことく梅は色香うつく
能⁝本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ ママ しく面白けれとも︑諸人の袖にうつる事ねたまる事
一三 むらくしけるみちのへの草 也
二四青柳にかけふむ人の跡見えて
青柳の陰に人のしけく立よれは︑草も萌かねて村
くに見ゆる也
=五 たかさとまてかふかき梅か﹂
一宍月やなをあらしの末にかすむらん
梅か香を嵐の送るは千里まて匂ふ心也︑一句は嵐の
後に月の猶かすみておもしろきさま也
二七 春もなからの山かせそふく
二へうらかすむ志賀のふるさと月すみて
長柄山には春風寒て月のしろけれ共︑志賀の浦は打
かすみたる也
一完 いつにしもしかし春そとあくかれて
三〇おほろ月夜にまよふかりかね
春の夜の月の霞みたるにあくかれて︑鷹も帰かねた
るさま也︑寄照もせすくもりも
三
一262
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
三 さくらそわかぬみねのしら雲
三二ツ柳のかつらきしるく花さきて
葛城の桜は咲て雲にまかへ共︑青柳は雲にもまかは
すしるく見ゆる事也︑此青柳枕詞にあらす実の柳也
三三@見れはさひしくけふりたつ也
茜一村のはやしの磯屋花さきて
一村の林の磯屋打けふりて︑其あたりに花の咲たる
さまさひしき也
三五 春はかはらすかすみたつ空
三六花のみや古都も叉さかむ
古都のさま万物替はてぬれ共︑花独︑昔の色を見せ
たる事也︑寄古郷のならの都をきてみれは
三七 とを山さくらおりくるやたれ
三八九重の都の花になをあかて
都の花の面白きに︑猶遠山の花みる事︑人の心の満
足せぬ事也
三九 いつれの山をたつねてかとふ
四〇花にたれ都をsきてうかるらん
四
前句捨世の人を尋ぬる事也︑付心都の花を置てあか
すも︑いつれの山の花をとふと云心也
巴 野山のかきりたつねてそゆく
四二花にけさ霞とともに立いてs
霞と共に立出て︑あらぬ野山の花にあくかるs事也
四三 去年のしをりの花や待らん
四四山さくらまたみぬかたにとをくきて
此春はあらぬかたの花を尋ぬれは︑年くみしかた
の花は我を待らんと也寄吉野山去年のし折
四五 駒もなつむや山の下水
里ハ岩ねふむ花にはあかす日は暮て
いはねふむ山に終日花を尋ねて︑日も暮ぬれは駒も
なつむ事也
四七 便もまれにとをき山こえ
四へ尋佗ぬよふご鳥たに花になけ
人もなき山に花を尋かねたるに︑せめてよふことり
事とへかしと也︑たよりとはたつきの事也︑丹遠近
のたつきもしらぬ
究 かへりをくれぬさくらちる山
五〇みる人のなへてになさは花もうし
諸人暮ぬれは花のかけを出れ共︑我は帰をくれて花
に執心するを︑なへての人のやうに︑花の思はs無
曲と奉公たてしたる也
孟一@たのむゆへにそ身をもくるしむ
五二うつろはん色としるく花を見て
花はうつろひやすき物と知なから︑猶頼みてもしも
ちらてやあらんと思ふ故に︑ちれはいたく心くるし
き也五三 きてみる山に草のかりいほ
吾世をいとふ心も花につきそめて
花をきてみる山に︑其儘草庵を結て住也︑花のあた
なるを見て世中を思とる也
至 命にのこす入あひのかね
五六又やみん老の世の花あすもまて
花を見て帰暮︑老後の命あすをしらねは︑もしなか
らへてあすもみる事もやあらん︑あすもまてと也
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 五七 忍ふともやはかへるいにしへ五へあた人に成てもくらせ花のはる花をみる心︑あた心なれは︑人は二度わかきに帰らねはちからなし︑あた人にも成て花をみる事也莞 あはすともよし先たつねみん六〇身は花のさかり待間もおほつかな前句恋也︑付心人の命あすをしらぬ習なれ共︑さすかにまつ花をたつねてみんと也三 めにみえぬ神とてあたになすやたれ杢おる人つらき花としらすや是は筑紫安楽寺に行けるもの︑梅花を折ける︑其夜の夢になさけなくおる人つらし我宿のあるしわすれぬ梅の立枝を六三 こsろくらへにまけんとそする六四とふまてに折やらぬ花はちりつへし心は我宿の花を︑さり共とひこそせめ︑つれなく待て見んと思へは︑花もはやうつろひ時分なれは︑心
五
一260一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
くらへに我まけて︑折てやらんと思ふ心也
六五 いかにかはれるゆふへなるらん
六六かり初もたれかめかるs花さかり
前句恋也︑付心かり初にも花に目かれぬに︑いつの
間に色の替けるよと也 寄くるとあくとめかれぬ
杢 たのむもはかないときなき人
交わきてなを形みや花もあたならん
是は源氏に︑三宮の六歳計の時︑紫上隠給に︑此対
上の花を我形見にみ給へとありしかは︑春毎に屏風
なとた゜て風を防き給し事也
六九 霞立つs日こそくれぬれ
七ρ鳥そなく花のいつくにかへるらん
霞のふかく立渡たる夕暮の︑花の梢より立はなるs
鳥は︑いつくに帰るらんと也︑霞てみえぬさま也
三 朝なくかすめる野へに打いてs
七二見れは都は花の雲井ち
七三 かねを木間の花のした道
茜山さくら軒端にたかく寺ふりて 六古寺の鐘︑軒端の桜の木間よりひ\きたるさま也七五 春やいたらぬかたもなからん宍石はしる滝こそ花にうらみなれ花の咲所へはいかなる方へもいたれ共︑滝のある所
へはゆかれぬ事也︑寄石はしる滝なくもかな
七七さと人はかへる野はらのかり枕
七へ花にさ夜ふけ松かせそふく
売 うらみのあれはことのはもなし
へO告さりし花にかせふく宿とひて
へ一@今さらいはんことのはもなし
ヘニ花盛とはぬうらみはちるを見よ
花に人を待けれ共とはすして︑ちる時間来たる人に
何ともうらむへきやうなけれは︑我心をはちる花を
見て知給へと云心也
へ三 あやなおほくのうらみをそおふ
へ四ほともへすちる世に花のさきそめて
有為転変の世中に咲て︑花も人にあちきなく物をお
もはせ︑恨をおふ事也︑あやなはあちきなき事也
全 鳥は音になく雪のかり人
へ六さくら花吹かふ風に駒とめて
︑桜の雪也︑狩場の興のさま也
・へ七 をそくとひてはいそくかへるさ
へへ深からぬ心を花やちりてみん
先 ひたすら雪になれるくろかみ
︑九〇やすらへははらふ計に花散て
前句白髪也︑付心聞ゆ
空 世中は何かふり行事ならぬ
九二昨日の花は庭のしら雪
.花さそふ嵐の庭の 付やう顕也
九三 もとのみとりを嶺の松かけ
九四散花はうつむも苔にはやくちて
峯の松陰の苔を落花の埋しか︑朽はてs本の苔の緑
に成たる事也
九五 庭にくちぬる木sのあはれさ
九六さくら花雪もしはしの名残にて
庭の木sの桜花雪とふりてもマ︿聴朽ぬる事也
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 九七 身をなくさむもこsうなりけり九八よしやすめ花なきさとはちるも見し心は花の咲たる所へきて見れは︑我古郷いよく住うく成けり︑其花やかて散て︑跡のさひしくなれは︑所詮花なき里に住へき物そとなくさむ也︑我里をはなれてみる花也究 何かおもひとなりてかなしき一〇
Z花にたに嵐はきかし都人
古今長寄に︑こsのかさねのうちにては︑嵐の音も
・きかさりきと有を取て︑花にさへ嵐をきかぬ都人な
れは︑何にも思はあらしと也
一皇 見すてし夢の跡そはかなき
δ二おも影は青葉の花のみやこ人
一〇
O うらみ佗つs人そまたるs
一〇
l雨にしも嵐吹そふ花のもと
一〇
ワ つらかりしをもさのみうらみし
δ六一本も嵐の残す花を見て
一〇
オ 柴の庵花の便もいかならん
七
一258 一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
一〇
ヨ風もさそへとさくらちるかけ
世を捨る人は身をおしまぬ物也︑花さへ柴戸にさく
は身をもおしますちるやと也
一〇
縺@うらみしよさてこそ哀ふかsらめ
二〇ちらすは何かはなのはかなき
肝ちれはこそいとs
一二 いくむら柳うちなひくかけ
一三舟にけふ春の河つらすきやらて
心は河辺道遥のさま也︑川辺の柳を打詠て舟の行や
らぬさま也
一三 軒はにすかるさsかにの糸
二四春雨のなこりさひしき露見えて
寄つれくと春のなかめのさひしきは忍ふにつたふ
軒の玉水
一≡ ひとりたsなかめてさひし春の雪
二六雨のとかなる軒の玉水
二七 しつけきやとり花おつるくれ
=へふる音もしのふの軒のはるの雨 八
心はしつけきを付んとて忍ふといへり︑花の落るを
雨にてつくる也
二九 水無瀬の宮のはるの夕くれ
三〇霞にや秋の哀はこもるらん
水無瀬は春秋のあらそひある所なれは︑水無瀬の宮
のかすむ暮のさひしきには︑秋の哀まてこもる事也
寄見わたせは山本かすむ
一三 むかしの庭のさくらちるかけ
三二道しはに童つむ袖うちはへて
古郷には道芝えん也︑董は桜の散時節盛なれは也
ご三 とは㌧や人に松のした道
;四名もしらぬ春のむら草花さきて
三五 荒田のはらのあはれなる色
三六それとなくしけき春草花咲て
此哀はおもしろき事也
ご毛 衣手に花の雪ちるかけ分て
三へ片野のみのsかすむ日くらし
終日彼野にあそふさま也 寄又やみん片野の
ご完夕のかねにかすむ柴の戸
一琶哀にも春の西日のさしすてs
°柴の戸は西をねかふ所なれは︑西日といへり︑其時
節さひしきさま也
一三 花の山路にあくかるsころ
一三
春もうき古郷人や老ならん
一葦 郭公それならぬかと鳴すてs
ご茜木すゑの藤のたそかれの色
梢︐の藤夕暮深き色を︑時鳥は藤と見わけすして 鳴
過けるやと也︑藤としるならはやすらはん物をと云
心.也=霊 みよしのs吉野のおくの花にきて
一三︵春をくらせはきしのふちなみ
ご主〆いはぬ名残も文に見えけり
一三
?シ冬を春も暮ぬと折そへ︑て
いはぬは款冬のえん也︑款冬に文をそへて送由也︑
一昭款冬の花色衣
三九ト名残を花に︑いふもはかなし
熊本大宇蔵永背文庫本別本﹁壁草﹂ 茜Oこさせしと春をやおもふかきつはた杜若を垣に取成て︑こさせしと花かきをゆふやう也︑春のこすとはくるs事也︐・一巴 いつくにゆかん嶺の松かせ茜二帰る道春もまよへとちる花に
嵜桜花散かひくもれ 付やう顕也
一豊 なみたやおとすうくひすのこゑ
茜四二たひと年にあひみぬ春暮て
゜基鴬もこゑたてsなけ一とせに二たひとたにくへき 春かは゜
夏連歌
一呈 衣手うすし嵐ふく空
一四∠ハけふもなを残る花ちる夏はきて
心は︑衣の薄きを夏になして︑嵐ふくに花ちるとい
.へり冨七 木ふかきおくに人かけそする
一四
ヨ夏山のみとりに花やのこるらん
九
56一
一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
言九 糸くりたむる滝のしらなみ タス壼O涼しくもたれをりいてし夏衣
斑清滝のせsの白糸清滝川高雄山のあたり也
三一 山の木草の名をしるもなし
一五
ひとりとや世を卯花のさきぬらん
寄世中をいとふ山への木草とやあな卯花の色に出け
一吾 ふりてもたえぬをくるまの道 ん
宝四かさす日に神もいく代かあふひ草
一蓋 跡よりふれるかせのむら雨
三六郭公花もちりあへすはやなきて
一毛 待ていく夜と月もつたへよ
≡八つれなきも誰にうらみんほとsきす
一莞 あはれをよその事と思ふな
冥Oたか為か空もくもらんほとsきす
一三 夢ともさすかわかぬおもかけ
一穴二ほとsきすさたかならねと聞し夜に
醤一声は夢にまきれて時鳥遠さかるをそさたかには 一〇
きく一芸 おもひやいつる今のをとつれ
宍四郭公をのかときはの山こえて
思出るときはの山の岩つsしいはねはこそあれ恋し
き宍五 ことはりかほに打かこつこゑ
宍六郭公忍ふの山にたへわひて
忍の山なれは時鳥はなくましき所なれ共︑思ひ除打
なくこと︑誠にことはりかほ也
一六
オ 夢となせはやをとつれもせぬ
一六へそれかとも又きかはこそほとsきす
一充 いつれの身にてかくしのふらん
毛O思ふ事打もなかなんほと﹀きす
一主 のとけき雨をひとりきかめや
一吉郭公思ふよひゐの友もかな
源氏に︑のとかなる雨の宵居にと有をとりて也
一七三 なくさめて程ふるのみは何ならす
一吉なかてや雨もやまほとsきす
一圭 打まとろむもみしかよの夢
一七
Z時鳥おもひたえさせとふもうし
一七
オ みる人やたれ軒のたち花
一七
ヨ郭公鳴つる月を雲まにて
時鳥鳴すてたる雲まの月を︑軒の橘のかほる時節に
みる人︑さこそとうらやむ事也
一七
縺@叉うき雲の雨なさそひそ
六〇時鳥ねたる声する山さとに
六一 更るまてねぬこゑきくも猶あやし
六二いかなる夜半そなく郭公
天三 うき東路そ行空もなき
六四時鳥老曽の杜にきsすてs
斑東路の思出にせん
六五 夏の夜はたs時のまの程なれや
六六なけは雲ひく山ほとsきす
寄夏の夜をふすかと
一へ
オ 後も叉つれなきこそはたのみなれ
一へ
ヨ月はあり明のやまほとsきす
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 時鳥鳴すてsの後も︑有明の月のつれなく残るにやなかんと︑たのもしき也︑岳有明のつれなくみえし六九 雲は旅なる山路ともなし元○帰るにはしかしもいつこ郭公雲も郭公も山こそ栖なれ︑帰るにはしかしと鳴事︑更に心得ぬ事也︑不如帰となけは也完一 一夜の宿のなこりこそあれ元二片敷の挟にかほるあやめ草後まて匂ふ事也元三 今朝はたか軒の橘かほるらん完四ふきてあやめもわかぬ家く元五 花たちはなに人やかへらん完六 はては袖からくれなゐに成っへし完七あさ夕露をなてしこのかけ撫子を朝夕なつる袖なれは︑紅にならんと也完へ 又むら雨の露のすsしさ
一究ほのうすき蝉のは山の夕日かけ
二〇
Z 雲にわかれて月のこる空
一一
一254 一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
一一、清見かた岩なみしらむ夏の夜に
寄清見潟月は難面き天の戸をまたてもしらむ波の上
哉
同とsめねと一夜は過ぬ清見かた浪にわかるs横雲
の空=〇二 とりあへぬまて明やすき比
二〇三蛍とふやとは中川叉やねん
京にある中川にすsむ時分面白きに︑はやく明行事
のうしと也︑源氏嵜強面を恨もあへぬきぬくに取あ
へぬまて驚かすらん︑中川の宿にての寄也︑蛍も中
川の縁也=〇四 はなれ小嶋にあし火たくかけ
二〇五とふ蛍行かたもなくさ夜更て
蛍の小嶋に火を焼たる事也
二〇六 庭すさましく成やはてまし
二〇七此比の夏をせきやる水すみて
=○へ くるやこすやの暮ことの空
二〇九山かけに秋をおほゆる水せきて 二一
三〇 琴のひsきにさむき夕くれ
三一夏の日のかたふくなかれ岩こえて
流水曲の事也
三= むす苔ふかし山の井の水
三三涼しさは桐の若葉の木のもとに
桐は井の縁也︑山にも縁あり
三四 山の陰野は秋かせそふく
三五日くらしにかけとめらるs夕すsみ
三六 竹は千尋に夏ふかきかけ
三七よひぐのうたsね涼し窓のまへ
三へ水にめくれる池の涼しさ
三九手にならす扇に匂ふうすけふり
たき物の立とまるへきと云心也︑風の縁に扇也
一三〇 きけは都そとをさかりゆく
二三夕立になをなる神のをとば山
ニニニ なを︐天地をてらす日のかけ
一三三中くの夕たち過てあつき野に
一三四 なかむれは水海わたる舟の上
一三工夕立ならしけしき涼しぎ
晋風あらく夕立波の高けれはしつ心なき舟の内かな
湖上舟にてよみたる寄也
一三六 おりはへ水に御被するころ
ニニ七夏衣日もやsうすく暮初て
秋はかなしけれは︑夏衣ほす共いつかはかんと也
一三へ はやくもいまは袖のすsしさ
一三九行水の岩きる瀬sに御祓して
水の岩きるははやき事也
秋連寄
一一
O〇@色にはわかぬ庭の夏草
一一Oこのねぬる朝け露けき秋は来て
このねぬるは朝の枕詞也
=三二 心にうかひ秋はきにけり
一三三涙もやおちてなへての露ならん
世上の露よりも先立て︑泪の心にうかふ事也
一三四 珍しく月の影にやむかふらん
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
一言Oこよひふたっの星のかたらひ
一三六 秋の風麓の稲葉吹こして
一三七かりほの外もにほふむら萩
秋の田の草の庵も匂ふまてさける秋萩見れとあかぬ
かも一三へ 独なかむる秋のあはれさ
一三九涙もや下葉色っく萩の露
秋︷妹の下葉色付今よりや︑付やう顕也
二四〇 かよへる道の草のたえく
二里さをしかのかた岡かくる跡見えて
二四二 秋は八重たつ霧のさひしさ
二豊鹿の音はまかきもわかぬをのsさと
夕霧巻の心也
二四四 思ひ入深山をうしよ物かな﹁し
二四五雲行木すゑ日くらしそなく
深山の梢に雲の行時分︑蠣の鳴て物かなしき也
一茜六 風そよく野路の萱原暮初て
=四七むしの音いつれみたれあふごゑ
=二
52一
一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
二四八 ねふりさめたる露のたまくら
=四九ともし火はまたsく壁のきりくす
一壼○ ひとりやねなん月をそき空
二五一むしの音もよはる嵐をかたしきて
岩かねの床に嵐を片敷て
二五二 小萩かもとに風かよふくれ
二五三古郷はむしの音にさへ袖ぬれて
萩は古郷の物也︑付所顕也︑一句又明也
二吾 山下道の露のさひしさ
二釜むしの音にさそはれくれは草の庵
山下道を分くれは︑草庵に虫の案内者したる也
二五六 露よりあたのこsうなりけり
二五七あさかほにまかきかこはせ住やたれ
一三へ 露としるとも身をおしめたs
=五九樺の花もさかりはある世にて
楢花一日自成栄
二六〇 竹のかすく窓そさひしき
二六一樫はかれし夕かけ露見えて 一四
=六二 露けさも打ぬる人はおもはめや
=六三月をまくらの花の秋の野
二六四 心をつくすあけほの\秋
二六五うす霧の花の色くわかぬ野に
二六六 たれに見よとかさけるなてしこ
=杢独ある宿の夕かけ露をきて
我に見よとにはあらし︑たか為にさけるそと也︑
我ノミヤ哀とオモハん・養なく夕かけのやまと撫子
二六へ ふるはかりなるむら雨の空
二六九篠のはのみ山の露にかせたちて
二七〇 雨にもまさる露そみたるs
二三朝霧の身のしろ衣しほれきて
身のしろ衣は︑蓑のかはりにきる衣也︑付やう顕也
=七= 心つくしのあちきなの世や
二七三すみのほる空より月は木のまにて
木間よりもりくる
二七四 入日の雲そゆくゑしられぬ
二圭空とをみ山のはのほる月すみて
毛六名に残る志賀の大そら尋きて
一毛七見れははるかに月ひとりすむ
さs浪やくにつみかみの浦さひてふるき都に月独す
む
二夫 ゆへありかほに出る世中
二克憂秋の雲まを月のかきわけて
うき秋の時分月の雲まを分て出る事︑故ありかほ也
二へ
n 秋きぬとしれはいたらぬかたもなし
二へ一月やね覚のこsうなるらん
遥なるもろこしまても行物は 寄
二ヘ
j 山ふかく入のみはいとふ世ならめや
一六三月のこsろのゆくゑしらはや
=へ四すsふく風そ野へにはけしき
二会今宵たれ月の手枕夢もみん
こよひたれすsふく
二へ
Z やsさむき程はしられて更る夜に
一六七月はしろたへ荻はうはかせ
二へ
ェ いまや都も秋ふくるそら
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 元九詠れは月のうちさへものさひしなかめつs思ふもさひし二九〇 行人もなき道のへの秋=空我影にともなひつ㌧も月を見て二空 霧立まよふ山はあけほの二九三行心月のいつくにわかるらん月につれて行心いつくにてわかるらん︑霧くらけれはしらさる也二九四 露ふく風にはるsふるさと二九五軒はもる月こそむかし忍草古郷ノ軒端もる月サナかラ忍草と也二九六 玉をみかけるいにしへの跡一完七浅茅生や秋のしら露月澄て=九へ 秋の夜ふくるあさちふのやと一完九露ことに影する月をひとり見て三〇
Z 秋のおもひそなくはかりなる
三旦ことsへはこたへぬ月をひとり見て
三〇二 舟よはふむかひに人はみえやらて
一五
一250一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
三〇
Oあまひこかとそ月にごたふる
三〇
l とひ行鷺の色はきえけり
三〇
ワむは玉の夜からすしるく月すみて
三〇
Z 誰露はらふ跡としも見す
三〇七月の入山まてはいつ尋ぬらん
三〇へ むしの音いつれやとのあき風
三〇
纃Xて誰月の名残をうたふらん
源氏に︑紅梅のおとsのうたひ給ふを︑鈴虫の声に
もまかへりと有也
三〇 岩こす水のすさましきかけ
三二夜わたるや月も宇治川秋のかせ
宇治河の岩こす浪にすむ月もうきかと也︑宇治川は
はやき川なれは也
三二 秋風さむきゆふくれのそら
三一
O帰る野の袖に降たつ鴫なきて
夕暮の野をかへれは鴫の鳴てさひしき様也
三四 秋かせはたかなかめより過ぬらん
三五わかやとのうへに鷹なきてゆく 一六
三六 さそはれ月に更る夜の空
三七哀にもつらにをくれぬ鷹なきて
三八 つらき夜をしも何したふらん
三九なきてくる鳩もはかなし秋の空
置二
Z 磯かかり霜のわさ田のいかならん
三三朝きりさむし鷹わたるそら
朝霧寒く鳩の鳴たる比︑磯か田も色付て︑
かるらんと也
﹁三二 こすゑは秋の風さはくやと
三一O軒ちかき松にはふくす色付て
三茜 物思へとの袖のあき風
三二
ワ花すsきまねくに人の行やらて
花薄面白けれは道行やらぬ也
三二
Z 野は露けしやいつくにかねん
三
オ枕せはちらまくおしき花すsき
三元 手折もつ花の秋草打かほり
三元野のみや人の露わくるころ
三言 村くに雲行空の鷹のこゑ9 さそ面白
三三風に野分のおも影そたつ
言二 花むらくの秋くさのはら
三芸朝ことの露のさかりに野分して
三三四 おもかけさへそおとろへて似す
三三
ワ一目見し秋の花みな野分して
秋の花みなおとろへて︑浅茅か原もかれくと源氏
二有
≡六 紅葉をかさす人もこそあれ
三≡
オ月白き山ちの菊を折はへて
紅葉賀に︑かつらの紅葉散ぬれは前なる菊を折てか
さしかへとあり マこ
三三
ヨ こsやかしこにうつくなくこゑ
≡元住ふるすさとはゆふへの秋の風
茜O いにしへを忍ふにいとs露けくて
三巴老ぬるはかり秋はたれうき
茜二 秋のまくらを誰さたむらん
茜三露は身もうきぬ計のうたsねに
茜四 あかつきさむみ露なしくれそ
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 三四五まはらなる板屋のねさめ秋ふけて茜六 あくるまの限もしらす月澄て茜七かねそをとする秋のよのそら茜八 打むかはれす山かせそふく三四九白たへの月に砧を巻すてs山風のあらけれは︑衣をうちかねて巻たる事也︑一句は月に執心して衣をうたぬ也三五
Z 露より霜にしろき月かけ
三五一衣うつ磁にいたくさ夜ふけて マこ衣うつ折ふしの夜つよく更けれは︑露も霜と成也
霊二 暮ぬれは妻とふ鹿のあくかれて
三五
O色こきわさ田かる人もまて
寄アリ三謡 むらくにをく野へそ露けき
呈五朝きりに初霜ましり秋ふけて
三工六 むら竹の露や葉わけにこもるらん
三五七はやしに何ぞかたへ色こき
三五
ヨ舟とむる入江の山に鹿なきて
一七
一248一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
三売なみや夕日のそむるもみちは
入江の山に鹿の鳴て面白に︑猶夕日の波をそめて紅
葉を見せたる也
三六〇 月待かたの山そしくるs
三六一里つSく音羽の梢色付て
三六二 日くらしの声もさひしき山里に
巽三木のは色つぎきりわたるそら
三六四 山とをく帰る狩はのちりくに
三六五かさす枝のみのこるもみちは
三六六 庭も槙たつ暮のさひしさ
三六七いつ散てもみちも風のつてならん
よその紅葉の散くるをたのむ暮のさひしき也
三六へ またれにけりな去年の初膓
三充忘めや菊の花さく秋の空
鷹鳴て菊の
三七〇 関のわら屋の今朝のたひ人
呈一思ひやれ嵐の風のあきのくれ
あふ坂の嵐の風は 三圭 あけすくるまて月をなかめん 毛≡くれの秋草木の露をたもとにて三七
l くち残りつ﹀見ゆる川はし
毒五水上の嵐のもみち秋くれて
三七
Z 風にまかするおきつしらなみ
三七七たつた山嶺の木葉に秋くれて 一八
冬連寄
三七
ヨ宮ゐしつかに夜こそ更ぬれ
毫九神無月時雨はかりの音はして
神無月には人の社参せぬ事也
三へ
宦@うつろひはてぬ草木のみかは
三へ一神無月ふるき都は猶さひし
⁝穴二 さそないつくも風さゆるをと
三へ
Oかきくもり都も冬のみ空にて
天四 雪けになれは衛なくこゑ
三会古郷のさほのかはらのうちしくれ
天六 立もよれふもとにむすふ草のいほ
天七ぬれてしくれに行人やたれ
天八 さ夜更はてぬかすやともたれ
三へ
緕梔Jへき月ともしらすとをくきて
三九〇 ふることかたる秋のたまくら
三九一独のみなかきをあかすさ夜しくれ
独ねの枕に時雨計なるを語也︑ふると云えんに時雨
といへり三空 秋風は嶺の松にやかへるらん
三九三なみたのしくれ行かたもかな
三九四 ゆく水さむく嵐ふく山
三九五霜をかぬ岩のはさまも草かれて
三九六 はしは霜ふり水そこほれる
三九七をさsはら爪木の道に冬かれて
三九へ 川風は浪のゆくゑに吹すてs
三九九みきはあはれにくっる紅葉s
四〇〇 をとあらましき水のしらなみ
四〇一時雨やと見れは岩こす木葉にて
時雨かとみれは木葉の音あらく岩こゆる也
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 四〇二 としくれぬとや雪ふれる山四〇三木枯に残りてさひし嶺の松
寄雪ふりて年の
四〇四 月はあり明の猶ほそき空
四〇五霜枯の片糸すsき風吹て
ほそきえんにかたいとすsきといへり
四〇六 なかれたえぬや水もさひしき
四〇七山河やうへはこほりてをとすなり
四〇へ さりけなく水に晴けりけさの雪
四完月のなこりはうすごほりせり
月の名残は薄氷か見するに︑雪は跡もはるs也
四δ ほそくのこれるうつみ火のもと
四二滝の糸の氷らぬ音はなをさえて
埋火にむかひて聞たるさま也
四三 いく明かたそ霜さむき空
巴三よるの鶴なくや沢水こほりとち
四茜 雪にくれ行駒のあしをと
竺五はるくと岩ふむかはらこほりとち
一九
一 246 一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
三六 きけは外面の鴫のたつこゑ
竺七水白き門田や霜もこほるらん
門田の水も霜も氷るにや︑鴫の立らんと思やる也
巴へ 行水さゆる河つらのさと
四完下そよく芦の霜夜に目は覚て
あしのかけを行水の︑下葉に打そよきて︑目の覚た
るさま也四二〇 かた山舟のよるのあら磯
四三みつとなきしほ津すか浦風さえて
片山も塩津菅浦︑何も近江也︑湖なれはみつとなき
ほとにつsけて︑風の音さむきは塩のやうに聞えた
るは︑全躰あら磯のやう也
四二二 木葉かたしきひとりぬる山
四一O岩かねの床に月更霜さえて
岩かねの床に嵐を
四一ゥ 篠ふく軒は木からしそふく
四二五枕まて霜をく月やふけぬらん
篠ふく軒まはらなる︑霜は枕まて置て月の寒き也 二〇
四二六 里とをみ残る灯更やらて
四=七霜や野寺のかねさそふらん
一句は︑鐘は霜になる物也︑付やう顕也
四二へ たえく見ゆるくものかけはし
酒サ︑キノ雲ノ梯秋暮テ夜ハニハ霜ヤサエ・タルラ
ン寂蓮四二九霜白き夜はのかさsき声ふけて
梯に霜白く︑鵠の声まてさむき事也
四三〇 いかなる岩のはさまにかねん
四三なく鴛のうはけも水もこほる夜に
里三 水すさましき山かけのみち
四三三さはき立鴨のむら鳥かすくに
四三四 あそふもをしの跡のうきくさ
四三五雪にけさ鳩のかよひち見え初て
あそふとは鳩の事也︑渉に鳩の通路のみゆる也
四三六 やすらふ磯はあらきなみ風
四三七立ゐやはなれたにやすきむら千とり
豊八 いく田の川の鳥のさむけさ
四三九冬にうき身をかきりとやわひぬらん
津国の生田の河に鳥もゐは身を限とや思成らん
四四〇 長閑なる空も程なくさえかへり
四四一朝日はかりの冬の山もと
朝日は長閑にて︑やかて寒き山家のさま也︑一句は
短日事也四四二 とへかしな風もさえ行夕まくれ
四四三竹のはさひしあられふるやと
竹の葉に霰つらくさゆる夜は独はぬへき心ちこそ
せね四四四 柴たくすみかあるs山かけ
四四五あられちり時雨せぬ日をいつかみん
あるsとは︑霰時雨のふりあるS事也︑前句は庵の
あるs也四四六 雲に嵐のをとそさえぬる
四四七かつらきや時雨もあへす雪やみん
葛城高山なれは雪をいそく也︑碍うつり行雲に嵐の
四四へ 軒もるかせのよはりゆくころ
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 四兇雨ませの雪やかつふりつもるらん雪のつもる故に︑風の軒はに吹よはる也四置O 山は雲にもましらさらめや四霊一朝またき雪待庭の雨さえてサヱテフルミヤマハユキモ四吾 路もなき嵐の露の夕間くれ四工三落葉そなこりけふのあは雪淡雪は路もなく消て︑おちは計残る也四五四 たとるはかりにおもかはりせり四エエふみなるs山路に今朝は雪ふりて四五六 とはれぬことにならふ山さと四五七誰となく雪のあしたやまたるらん山家はとはれぬにならへ共︑四五へ こすゑをまへの柴のかりいほ四莞雪折の松にとほその道たえて里ハO 入日の空は風ものこらす四六一雪つもる松に尾上のかねさえておのへの松に雪のつもるは︑
=一 定家
雪の朝は人を待心也
風も残らぬ事也︑入日
一244一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
に鐘を付也
四芸 やとれは嶺に清きともし火
四六三山さとの雪のあかつきかねなりて
山里の雪峯に清くみえて︑鐘のさむき事也
里ハ四 ゆふへしつけし待人やこん
里ハエふりあれし雪にしはしの隙みえて
里ハ六 わかおこたりそ道にはかなき
里ハ七心のみ雪つもるやとは誰しらん
人のかたへゆかんと思へ共︑雪深き故にをこたる也︑ マこさて心のみ行共︑誰かしらんと也︑心のみ雪と風技
にいへる也
四六へ うらみはてめやつれもなき人
里允庭の雪とはれは今朝の跡もおし ヵ 此雪にとはれぬ徒分には︑庭の雪に跡のつかぬなれ
はうらみしと也
四七〇 小家かすくかきこもるみゆ
四七一かすかなる田中の雪の打けふり
四七二 道はあれともくる人はなし 二゜二
四七三うとくなる心に雪やつもるらん
雪はふれ共道は有也︑所詮うとき人の心に計︑雪は
つもるよと也
四七四 誰かはとはん山のした道
四芸爪木こる跡さへたゆる雪の中
四七六 ゆふへになりぬいそく山かけ
四七七やすむ間の爪木につもる雪を見て
やすむ爪木の雪のつもる面白をみるく︑日もくる
s事也四七へ 松なりけりなけふる一むら
四七九分さりし雪のあさけのはるs野に
四へO 千とりしはなくなみの月かけ
四へ一雪はたsうへにうきたるあはちかた
一句は︑雪はうへに浮たるあはと云かけたる也︑千
鳥︑淡路によめり
四ヘニ 入日影かたふきかsるおきつなみ
四へ三舟はたしろき雪のつり人
四へ四 夕河や柴つみ小舟さしくたし
四金はるかにしろき雪の宇治はし
雪のうち橋にてみれは︑柴つむ舟のくたるさま面白
也
寄暮て行春の湊は
四へ六 ちとり鳴たつ波のさむけさ
四へ七舟よする雪のいそ崎ちかsらし
四へへ 山こすからす雲になくこゑ
四へ九箸鷹をすへの原野に日は落て
究O 身を宇治山のかけとおもはし
兇一さえあかす嵐を床のあしろもり
宇治山の陰に網代を守人︑かくは思ふましきと也︑
それくのわさなれは︑よそめ計うきさま也
四空 春秋めてし山の木からし
究三いつはあれと冬こそ月はくまなけれ
冬の月春秋にもます事也寄秋は猶木葉隠も
四九四 埋火にむかへは夜はsしつまりて
究五のこりて風や月にさゆらん
月をみる夜さむけれは︑埋火の本に立帰に︑月計こ
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ そのこりて寒かるらんと也四九六 靭の松そ雪に木たかき四九七隙もなくこほる池水月さえて .池のあたりの月︑さむきさま也究へ 夜更てをしの霜はらふごゑ四究月や我目さむる度にさえぬちん 寄夜を寒みねさめてきけは鴛そなく払もあへす霜や置らん玉OO 又一しきりあられふるなり吉一月みれはむら雲かけてさゆる夜に ゜
村雲のかsる月の︑霰の打ふりてさむき也
五〇= 立やすらへはなをさゆる袖
吾三埋火にかへるを月やうらむらん
き四 さえまさりぬゐをちかたの空
琶五まとろみし埋火もきえかねなりて
埋火のきえぬ程はまとろみて︑消れは寒く目も覚た
る也︑鐘は更たる也
吾六雪のあしたの人のをとつれ
≡二
一242一
熊本×学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
吾七小野山の炭に妻木をとりそへて
都のさま也
五〇へ ほとけの名にもなみたおちけり
五〇九ともし火ののこりすくなくとし暮て
歳暮に仏名を唱事也︑光陰を惜む儀也
旅連寄
五δ おさふる袖もなみたおちけり
五二行人にこといみしもやたえさらん
首途に涙をいむ事也︑それにも堪忍せて涙の落也
五三 いまはのきはsおもひみたれぬ
玉三別路に忍ひしなみたさき立て
かねては涙おとさしと思ひしか︑別るsきはs乱て
落る也五茜 こなたかなたの跡のおもかけ
五三足引の山ちをとをみけふこえて
山のこなたかなたの瞼難を越し面影︑身にとまる事 二四也︑晋足引のこなたかなたに道はあれと都へいさと云人はなし工一
Z わかれをおしむ人のおもかけ
玉一
オ名残こそあふ坂山の関ならめ
逢坂関にて名残惜し人の面影の︑関にとまる也︑都
の人は逢坂迄門送をする也
置六 あひのる舟のはやきなみ風
玉完手向せし道をや神もをくるらん
手向せし神の舟に︑我とあひのりをし給故にや︑舟
のはやきと也
吾O舟にさはらぬをちのしらなみ
五三旅にとるぬさのしるしもけふこえて
是も神に旅行を祈し験みえて︑浪の閑に舟の行事也
エニニ けふとしなれは秋はいぬめり
至三嵐ふくもみちをぬさにたひたちて
一句は我紅葉をぬさに取也︑母此度はぬさも取あへ
す︑付心は秋の事也
エニ
l 旅立つはやかてかへるもうきものを
工毒とをくはまして伝もやはきく
五二
Z ゆくゑしらるs沖の舟みち
五二七都さへうきに出たつ旅のそら
都の中さへ旅立比はうけれは︑まして興の舟路のさ
こそと也五二へ みやこやおもひこしち行人
玉一逞ァわかれいかにくやしき旅ならん
越路迄立別て都を思ふ事也︑寄退こし人の心はあら
ち山置三〇 数ならはやと何のかひなし
亘三古郷の恋しきにゆく鷹を見て
古郷のかたへ行鷹の数に成て︑我もゆかはやと也︑
母北へ行鳩そなくなる
置三
旅のなかさをたれにうれへん
塁三郭公山こえわひぬまてしはし
玉三四 時鳥一声過る雨おちて
工三五雲はこすゑをうつむやまこえ
雲深き山越に︑郭公一声音信て過たるさま也︑雲埋
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 老樹空山裏工三
Z 木のした道に日こそ暮ぬれ ・
玉三
オとをく行旅をや花にわするらん
玉三
ヨ・忍ふもちすり花のかそする
工三
繧?ウ霧の野をわけころも露もひす
朝露のしけき野に︑花の色に咲たる中を分行袖面白
匂ひて︑忍もちすりの衣のやう也
五四〇 ほのくあくるたまくらの月.
五三しく袖もうす花すsき露みえて
是もしく袖もうすきに︑・花薄の露けく枕の月のほの
くとあくるさま面白事也
吾一一あへすも旅の袖の露けさ
工四三あし火たく宿はすsうに月もうし
芦火たく旅宿に立よりもあへす涙︐の落たる事也︑
書難波かたあし火たく
五四四 おもひをそふる秋のよなく
五四五夢に我みゆらん物をくさまくら
旅行人にわか思ひのぞへは︑定て草枕の夢にみゆら
二︑五
一240一
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂
んと也茜六 夢よころもをかへしてやみん
工四七いとせめて都こひしきくさまくら
五四へ 草のまくらの秋は更けり
茜九かり衣かへす夢ちにうつやたれ
秋ふかき草枕に︑衣をかへして夢を待に︑心なく衣
をうつ人はたそと也
蓋○ 草のいほりは枕もそうき
蓋一かりの世と旅ねにさへやしらさらん
草庵に住人︑捨世の人也︑そこに宿を借ては︑此住
ゐをうらやむへきに︑さはなくてつらくのみ思事口
惜と︑我心をせつかんしたる也
蓋二 あくるもくらしをちの山もと
五五
Oからすなく夜やたs人もさはくらん
山本の明てもくらきに︑鷹の鳴に旅人のおきさはく
事也
五五
l 世中はみなかりそめとしるものを
至五たひねのみやははかなかるへき 二六
蓋六 ひとへに袖はとをくみゆらん ︐
蓋七都にもかへす夢ちかさよころも
霊へ かへるへきかたこそなけれ旅の空
五莞ゆふへのくもにふみまよふ山
夕の雲に吹迷山︑更帰らん空を思ふ也
工六〇 山かけは明ほのとをくふかき夜に
至ハ一かねたにをくれおきまよふ道
玉六二︑みちの空にてなきそかなしき
美三しるへせし人も深山にふみまよひ︐
前句は哀傷也︑付やう明也
美四 ほととをく絶にし友のめくりきて
五六五山ふみまよひいつるたひ人
雲六 とへとも人のこたへせぬ山
美七越くるや嶺の嵐にむせふらん
美へ 行をわするs友とこそなれ
美九知しらす岩ふむ山ちかたらひて
碍足柄の山の岩ねを行時は知もしらぬもむつましき
哉
毛O おのへのかねをさそふ夕霜
篭一山ちゆく杉むらさむみ日は落て
莞二 しら雲のうへにはるけき山こえて
五七三たs空のみや旅のゆくすゑ
毛四 わかれし鐘の夕くれのこゑ
工圭横雲にいく夜共なくあさたちて
毫六 あすはつれてやこえん山道
毛七はるかなる月のゆくゑに嶺のくも
書明は叉ごゆへき山の
毛八 あすもやかsる山ちこえなん
五七九いもにごひ磯のしほひをあかすみて
・磯山を越るに︑しほひの面白けれは妹に見せたきと
也︑書妹にごひ若の松原
玉へ
n 佑つsをくる身をやなけかん
五へ一旅にしてうきを都にきかすなよ
天二 涙はさちにつsまれもせす
エへ
O恋しさは都の文に巻籠て
土八四 墨にそむるも袖はぬれけり
熊本大学蔵永青文庫本別本﹁壁草﹂ 工会一筆に旅のうれへをかきやらて五∧
Z 跡ふまん道のすゑもおほえす
畏七我さきに駒の音する山くれて
天八 誰もたs身を思ふにや捨つらん
五へ
繧くれてひとり友にあふ山
莞O はかなしや野上のさとのかり枕
工空伊吹おろしをかたしきの夢
莞二 都の月にわれやかへらん
莞菖夢も身をさそひてさめねたひまくら
旅ねの夢に都をみる時分に︑其まs夢の覚たらは都
.にAらんと︑はかなく思ふ也
莞四 まくらにきくもとをき川音
五窒舟にみなあすの渡をおもひ佑
五九六 はなれそにかたふく笛屋浪かけて
莞七ねぬ夜くるしむ雨の舟人舟の笛や也
莞へ 磯のまくらに夢もむすはす
莞九衣手に敷つの波の叉こえて 孔せわ励磯
六〇〇 夢たになみのまくらをそする
二七
一238一
熊本大学蔵永青文庫本別本コ壁草﹂
六〇一もしほ草かきたえねぬ夜思やれ
六〇二 磯うつ浪に松かせのこゑ
六〇
セみし夢も思はぬ床のさよちとり
松風の声と云を衛の声になして︑衛の声の面白に夢
をもおしまぬ也
六〇四 いかsしつめん胸としもなし
六〇五跡もなをひsきの灘のおきつふね
ひsきのなたを漕過ても︑叉胸のさはく事也︑ 源氏
うき事に胸のみさはくひsきには響の灘もさはらさ
りけり六〇六 契りをきてもをとつれはなし
六〇七程ふれはたsもろこしの舟路にて
六〇へ 見よやすかたもやつれはてけり
六〇九ふるみちやたsあま衣たひの袖
]二
Z はかりもそことわかぬとを山
六二うらなるs人も舟ちや迷ふらん
六一
しくれしはしややとりとふくれ
六三とまるやとよせし舟行うらの松 二八・
六一
l あすの道まて旅やいそかん・−
三磁をひ風をまほに引かけゆく舟に︑
杢六゜一夜をたのむ舟のとまふき
六毛風そよく芦のかりねは夢もうし
芦のえんに一夜をして︑・笛ふく舟に夢をたのめとも
見ぬ事也 ︐
六六 おほゆは゜かりの夢も見さりき
六元風そよく芦のかりねのみしか夜に
短夜のかりねなれは︑覚程の夢もなき也︑風そ゜よく︑
芦のあたりのかりね也.﹁
六二〇 まはらなる海士の笛やの月をみて
六二一風はまくらにあらきはま荻
浦の旅の躰也︑浜荻の風はけしくて︑月をみる事さ
ひしき也×ニニ かり枕みやこの夢め叉とひて バ
杢三浪風にたにたひそなれ行
﹈三四 たよりの.文に
六一謔「っくにてはつとか