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(1)

アルペンスキー競技大回転種目における技術の質的発展構造と

技能レベル区分について

近藤 雄一郎

1)

竹田 唯史

2)

川口 城二

3)

Structure of Qualitative Development of Techniques and Division

of the Skill Level in Giant Slalom of Alpine Skiing Competition

Yuichiro KONDO

1

Tadashi TAKEDA

2

Joji KAWAGUCHI

3

1.北海道大学大学院教育学院 〒060-0811 北海道札幌市北区北11条西7丁目 2.北翔大学生涯スポーツ学部 〒069-8511 北海道江別市文京台23番地 3.旭川明成高等学校 〒070-0823 北海道旭川市緑町14丁目

1.Graduate School of Education, Hokkaido University,

Kita 11-jo Nishi 7-Chome Kitaku Sapporo Hokkaido

(060-0811)

2.Department of Sport Education, Hokusho University, 23-banchi Bunkyodai Ebetsu Hokkaido (069-8511) 3.Asahikawa Meisei High School, 14-Chome

Midori-machi Asahikawa Hokkaido (070-0823)

Abstract

The purpose of this study was clarified the technical characteristics and the skill level in the giant slalom of

alpine skiing competition by SAJ point, time analysis and qualitative analysis. Subjects were

154 male racers

who competed in the

12th Nukabira Gensenkyo GS Race in 2009. The time analysis was done regarding the

gentle slope, the steep slope and all slopes. The qualitative analysis was done as below

:Technical

characteris-tics of

147 racers were analyzed by video analysis. As the result of the time analysis, racers were classified into

5 groups by SAJ point(1:0.00-49.99, 2:50.00-74.99, 3:75.00-124.99, 4:125.00-174.99, 5:

175.00-).As the result of the qualitative analysis, the following technique elements were extracted:

Carving-Skidding, Rotation of the body, Direction of the cross-over, Angulation, Pressure onto the outside ski,

Inclination of the leg, Movement rhythm, Wide stance, Arm position, Leaning forward, Movement flow, Track

of skies, Turn lines, Timing of pressure and Release pressure. Respective technical characteristics based on the

extracted technique elements were clarified on group

1 to 5, and qualitative development of techniques were

clarified between

5 groups. Moreover, correlation of those technique elements were clarified. From the result of

the qualitative analysis, the skill level of each groups were divided into three groups. Advanced group

;0.00-49.99, Intermediate group:50.00-124.99, Elemental Group:125.00-.

Keywords : Alpine Skiing Competition, Qualitative Analysis, Time Analysis, Technique, Skill Level

1.目的 アルペンスキー競技とは,旗門の設置されたコース を状況に応じた技術・戦術を駆使して滑走し,スター トからゴールまでの滑走タイムを競い合うスキースポ ーツである.競技種目としては,滑降・スーパー大回 転・大回転・回転の4種目で構成され,全日本スキー 連盟(以下,SAJ)及び国際スキー連盟(以下,FIS) の公認大会では,各競技種目において滑走タイムに応 じてポイント(SAJポイント・FISポイント)が与え られるシステムとなっている.アルペンスキー競技に おいては,この大会に出場することで得られるポイン

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トが競技者の技能1)レベルを表す一つの指標となって いる.一方,基礎スキーでは全日本スキー連盟公認ス キーバッジテストのように,検定種目が級別に設けら れ,評価の観点が示されている.このように,基礎ス キーと比較すると,アルペンスキー競技においてはポ イントが競技者の技能レベルを表す指標として用いら れているが,技能レベルに応じた運動形態や技術2)3) の質的な発展の特徴は,明確にされているとはいえな い.すなわち,アルペンスキー競技を始めたばかりの 「初級者」と,長年アルペンスキー競技に取り組んで きた「熟練者」の技術にはどのような違いがあり,ま た,初級者から熟練者へどのような段階を追って発展 していくかに関しては必ずしも明らかになっていると はいえない.このようなことから,アルペンスキー競 技の指導場面においては,各技能レベル段階において 身につけるべき技術が不明確であり,指導内容は指導 者によって異なるという現状がみられる. アルペンスキー競技の技術を分析する方法には, 「バイオメカニクス的分析法」と,「モルフォロギー的 分析法」によるものがある.「バイオメカニクス的分 析法」とは,スキーヤーの関節角度,重心位置,荷重 量などを定量的に測定するものである.この方法は, 分析項目が数値として客観的に示される.しかし,測 定条件などが限られ限定的な分析となる場合が多い. 一方,「モルフォロギー的分析法」は,スポーツ運 動の運動経過を全体として,指導者や分析者の「運動 共感能力」4)を利用し,質的に分析する方法である. マイネルはモルフォロギー的分析法を「スポーツ運動 学の最初の拠点として不可欠(p.107)」2)であり,「ス ポーツ運動を解剖学的・生理学的,心理学的あるいは 物理学的・力学的立場から分析的に考察していくのに 先立って,スポーツ運動を現実に行われている姿のま までとらえようとするもの(p.107)」2)と位置づけて いる.また,マイネルは,モルフォロギー的分析法は 「つかのまの印象分析のなかに隠されている事実や徴 表や関係を確認させてくれ(p.106)」2)「空時・力動 構造,運動の流動,運動の弾性など,一般に分析的研 究が避けてしまう運動の徴表や固有性(p.107)」2) とらえようとする分析法であることを述べ,この分析 方法の有効性を唱えている. 両者の研究方法は,相反するものではない.モルフ ォロギー的分析法は「科学的運動研究の第一の段階 (p.109)」2)と位置づけられるように,指導者の目線か ら印象分析により運動を質的に確認するものである. そして,モルフォロギー的分析法により明らかになっ た 結 果 を 「 客 観 化 し , 確 実 な も の に す る た め に (p.130)」2),バイオメカニクス的分析法が利用される. 以上のように,両者の分析法が互いに連携し,研究を 進めていくことにより有要な知見を得ることができる のである. それぞれの分析方法によるアルペンスキー競技に関 する先行研究を見てみると,まず,バイオメカニクス 的分析法によるものでは,猪飼ら5)は,オリンピック 日本代表選手を対象として,直滑降時のスピードと姿 勢の関係性について分析し,「たまご型姿勢」と比較 して「普通型姿勢」は空気抵抗の影響から滑走スピー ドが遅く,姿勢を制御して空気抵抗の少ない姿勢を保 持して滑走することが重要であることを指摘してい る.また,ターン運動に関する分析については,滑走 スピードの増加に伴って遠心力が大きくなることか ら,重心の位置を回転円の中心の方向へ低く倒さなけ ればならないとしている. 三浦ら6)は,全国高等学校スキー大会(以下,イン ターハイ)大回転競技における上位選手の滑走形態分 析及び上位選手と中位選手を対象とし,「重心位置」 「下腿内傾角」などを測定した.その結果,上位選手 は旗門通過直後に下腿内傾角が最も大きくなってお り,中位選手には旗門通過時に1つ目の下腿内傾のピ ーク,そして旗門通過後に2つ目の下腿内傾のピーク がみられ,いわゆる二度踏みによってエッジングのタ イミングを計っていることが明らかにされた.上位選 手は中位選手と比べ,重心ならびに下腿を斜面や旗門 に適した時期に内傾させ,エッジングすることでター ンや切り換えに利用していることが明らかになった. BlazV7) らは,18名のワールドカップレベルの選手を 対象に,スラローム競技における2旗門分の滑走ライ ン及び区間タイムを分析し,1旗門目のポールを直線 的に狙いすぎた選手は2旗門目のポールへのラインど りで失敗を犯し,その結果滑走スピードを損失してい ることを明らかにした. 尾原8)は,世界選手権女子回転競技における成績上 位選手と下位選手の映像分析から比較研究を行い,上 位選手の技術の特徴として,舵取りの過程で脚部の内 傾が十分に深まってからスキーをすばやく回旋させて いること,腰掛け姿勢をとった上で膝を円く回してス キーと上体との間のクロス角が大きくなるような回旋 軸の作用を利用した切り換え動作を行っていることを 明らかにした. Ronaldら9)は,ノルウェーヨーロッパカップチーム の選手を対象にし,三次元動作解析により重心軌跡を

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求め,速い選手のグループは遅い選手のグループと比 較して,滑走中の重心軌跡が短いことが明らかになっ た.よって,速い選手は旗門に対して,より直線的な ラインで通過していることを明らかにした. 以上,アルペンスキー競技に関するバイオメカニク ス的分析法では,インターハイにおける上位選手と中 位選手を対象にした比較研究や,ワールドカップやヨ ーロッパカップでタイムの速い選手と遅い選手を対象 にした比較研究により,国内外のトップ選手の滑走時 の関節角度,重心位置及び軌跡,滑走ライン等が明ら かにされている.しかし,これらの研究では,技能レ ベルが非常に高い選手を分析対象者としており,アル ペンスキー競技歴の短い選手や全国規模の大会への出 場経験のない選手を対象とした研究は少ない状況に ある. 一方,国内外問わず,アルペンスキー競技に関する モルフォロギー的分析法を用いた研究は少ない状況に ある. Loland10)は,優れたレーサーの技術を分析し,アル ペンスキー技術の主要的要素として「リズム」を位置 づけ,副次的要素として前後左右の平衡状態を保つた めの「バランス」,スピードと方向をコントロールす るために能率的に摩擦力を用いるための「土台の発見 (環境及び動作の選択使用)」,最小限のスピードの減 少と最大限のスピードを得るための「スキーのズレ」 を位置づけている. 筆者11)は,大学生アルペンスキー競技者と競技愛 好者の運動をモルフォロギー的分析法により比較し, ターン終了期の姿勢について,大学生競技者は胴体の 外向姿勢がとられているのに対し,競技愛好者は胴体 の外向が少なくスキーのトップ方向に正対しており, また切り換え期における身体の移動方向については, 大学生競技者は谷側のフォールライン方向であるのに 対し,競技愛好者は鉛直方向に立ち上がっていること を明らかにした.そして,ターン前半における外脚の 内傾角について,大学生競技者に比べて競技愛好者は 内傾角度が小さいことを明らかにした. このモルフォロギー的分析法は指導現場における指 導者による分析も含まれる.そのため,指導者による 技術分析,指導書もこのモルフォロギー的分析法の一 つに含まれると考える.例えば,見谷はワールドカッ プで活躍するトップ選手を対象として,アルペンスキ ー競技各種目における技術の質的な分析を行い,トッ プ選手に共通する技術だけでなく,各選手の身体的特 徴及び独特なスキー操作に着目した解説を行ってい る12)13).また,岩谷はターンを構成する基本的要素と して「停止姿勢」「山まわり」「切りかえ」「谷まわり」 「連続ターン」の5つを挙げ,各基本的要素における 技術分析と技術習得のための練習内容を明らかにして いる14) そして,アルペンスキー競技に関する文献について, SAJがアルペンスキー競技を大きく取り上げた刊行物 として,『競技スキー教程』(1989)15)がある.当文献 では,トップレーサーの行う滑走技術の特徴を明らか にし,それらの技術を習得するための練習方法が記載 されている.しかし,そこで明らかにされている技術 的特徴はトップレーサーに限定され,それ以下の技術 レベルのレーサーに関する技術的特徴については記載 されていない.また,選手の各年代に対する指導方法 は記載されているが,技術レベルに応じた指導方法に ついては明記されていない.そして,当文献は1989 年に発刊されたものであるため,現在のカービングス キーに対応した技術は記載されていない. 一方,『オーストリアスキー教程』(2007)16)では, ゲレンデスキー場面におけるカービング技術と競技場 面におけるレースカービングを別記しており,基本的 なカービング技術に基づき,レースカービングの技術 の分析・解説が行われている.また,基本的なカービ ング技術から始まり,レースカービング技術を習得す るための練習プログラムについても記載されている. さらに,力学・バイオメカニクス的分析の成果に基づ くカービングの技術を示している.しかし,アルペン スキー競技者の技術レベルには諸階層が存在するが, オーストリアスキー教程では,その質的な技術レベル の階層及びその中身については明らかにされていな い. 以上のことから,アルペンスキー競技に関するモル フォロギー的研究は,ワールドカップや国内のレース で活躍するトップ選手を対象としたものが多く,技術 レベルの低い競技者を対象とした研究は少ない状況に ある. また,アルペンスキー競技における比較研究におい ては,被験者の技能レベル区分を「エリート群」「準 エリート群」というような分類を用いて研究が行われ ている17)18).その分類の根拠は,被験者の大会出場経 験(インカレ○部校や,公認大会の出場経験の有無な ど)や所持ポイント(SAJポイント○点以下など)に よる分類である.大会出場経験や所持ポイントも技能 レベルを区分する一つの指標となるが,それらに準じ て各技能レベルにおける技術的特徴を明確に位置づけ

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る必要があると考える.つまり,アルペンスキー競技 のターンにおける技術の「合理的な主要構成要素 (p.263)」2)を明らかにする必要がある.マイネルによ ると「すべての個別的なスポーツ技術のなかには,一 般に不可欠な合理的な主要構成要素が存在し,さらに それは見つけ出されなければならない(p.263)」2)もの であり,「指導されなければならないもの(p.263)」2) であるとしている.この「合理的な主要構成要素」 を明らかにし,「個々の技術の合理的な基礎成分 (p.263)」22)や,各技術要素19)の相互関連を明らかにす ることにより,指導対象者の技術分析や指導内容を明 確にすることができる. そこで,本研究ではSAJB級大会で第1シードにラン キングされる選手から,競技歴が短く競技能力の低い 選手までの幅広い技能レベルの選手を対象とし,競技 者の技術的特徴をモルフォロギー的分析法によって明 らかにし,アルペンスキー競技の技術要素の質的発展 構造及び各技術要素の相互関連を示すことを目的とす る20).また,SAJポイント及びタイム分析によって区 分した選手の,技能レベル区分の技術的特徴を明らか にすることを目的とする. 2.方法 先述した目的を明らかにするため,SAJB級大会 「道東シリーズ第12回ぬかびら源泉郷GS大会第5戦 (2009年12月26日,ぬかびら源泉郷スキー場サーキ ット&ワイドコース,出場選手180名)」を分析対象 のレースとした.本レースを分析対象とした理由は, 直前に行われるFISレースとのシリーズレースである ため,国内トップレベルのSAJポイント21)を所持する 選手も出場することから分析対象者の技術レベルが幅 広いことや,シーズンが開幕して最初のB級大会であ ることから各選手の持っている技術が顕著に現れるこ と,本レースの開催地は日中の気温が氷点下であるこ とと人工降雪機によりハードパックされた雪質である ため,出走順序によるコースの荒れの影響が比較的少 ないと考えたためである.本研究では,対象レースの 男子1本目を,デジタルビデオカメラ(パナソニック, HDC-HS300)を用いて撮影した.撮影場所は,斜面 上部の緩斜面(斜度約15度)の6旗門及び斜面中腹の 急斜面(斜度約25度)の7旗門とした.撮影方法は, 急・緩斜面各1台のカメラは斜面の正面から三脚を使 用せずズーム・パニングをして撮影した.急斜面に設 置したもう1台のカメラは三脚で固定してズーム・パ ニングせず撮影を行った(図1).そして,撮影した 動画をmpeg形式ファイルとしてパーソナルコンピュ ータに取り込み,動作・映像分析ソフト「ダートフィ ッシュTEAM PRO」(ダートフィッシュジャパン社) と「オクタルOTL800RD」(オクタル社)を用いて, 緩斜面及び急斜面における各選手の区間タイムの分析 及び滑りの質的分析を行った. タイム計測区間は,緩斜面6旗門分,急斜面7旗門 分及びスタートからゴールまでのトータルタイムの3 区間とし,インポールとアウトポールを結んだ線上を ブーツの先端が通過した時点を,計測開始・終了ポイ ントとしタイムを算出した.分析対象選手については, 本研究ではSAJポイントを考察の指標として用いるた め,ノーポイントの競技者は除外して,大会参加時点 でSAJポイントを所持し競技1本目を完走した147名 とした.この147名を所持SAJポイントで25点毎に分析 対象群に振り分け,タイム分析を行った(表1)22).タ イム分析は,各分析対象群間の滑走タイムを比較検討 するため,2要因(分析対象群×3斜面のタイム)の 分散分析を行い,有意差が認められた場合には, Tukey-Kramer法を用いて多重比較検定を行った.統計 処理の優位性は,危険率5%未満で判定した. 選手の滑りの質的分析及び滑走ラインの分析に関し ては,分析対象選手である147名の緩斜面と急斜面に 図1 分析対象レースにおけるビデオカメラの設置図 表1 SAJポイントによる選手区分 SAJポイント 0.00-24.99 25.00-49.99 50.00-74.99 75.00-99.99 100.00-124.99 125.00-149.99 150.00-174.99 175.00-12 15 33 28 27 16 7 9 群 1 2 3 4 5 6 7 8 人数(n)

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おける滑走を撮影したビデオ映像を観察し,各選手の 滑りをモルフォロギー的考察法よる印象分析で質的に 分析した.運動学において,このモルフォロギー的考 察法による印象分析は,「運動現象のなかに表れてい る諸徴表をとらえ,さらに精密な分析研究のための仮 説を導き出す重要な手段(p.452)」2)と位置づけられ ている. 分析項目については,一流指導者による技術評価の 観点23)から抽出を行い,「カービング」,切り換え期 では「胴体の谷向き」「フォールライン(以下,FL) 方向への重心移動」,舵とり期では「外向傾姿勢」「外 脚荷重」「両脚の内傾」,全局面では「運動リズム」「流 動性」「腕の位置」「前傾姿勢」「スタンス」「脚部のス トレッチング」,ラインどりでは「旗門に対して高く て近いラインどり」「旗門に対して高い位置からの荷 重」「旗門通過後の素早い切り換え(抜重)」について 分析を行った(表2). 分析方法は,分析対象選手である147名の緩斜面と 急斜面の両斜面における滑走形態を,各評価観点 (表2)に基づいて,「できている」または「できてい ない」の二者択一で評価を行った.分析対象選手の区 分の詳細については後述するが,分析対象者のうち上 位27名の区分1の選手の質的分析は,10年以上の競技 経験を有し,現在は大学生アルペンスキー競技選手の 指導に携わる筆者の他に,スキー及びアルペンスキー 競技に精通する3名の評価者によって分析・評価を行 った24).そして,区分2以降の120名の選手の分析は 筆者1名が行った.区分2以降の1選手に対する分析は, 区分1の選手の分析と同様に,緩斜面と急斜面の両斜 面における滑走形態を,設定した分析項目に対して 「できている」または「できていない」の二者択一で 評価を行った.また,「できていない」と評価された 選手に関しては,それぞれの技術的な問題点を記述し, 該当する人数を算出した. 以上,各選手の所持SAJポイント,区間タイム計測 で得られたデータ,質的分析で明らかになった各選手 の滑走形態及び滑走ラインの特徴から,アルペンスキ ー競技における技術の質的発展構造と各要素の相互関 係,並びに競技者の技能レベル区分を明らかにした. 3.結果 3. 1.タイム分析 タイム分析の結果を表3に示す.まず,大会参加時 表2 質的分析における評価項目と評価観点 カービング 胴体の谷向き FL方向への重心移動 外向傾姿勢 外脚荷重 両脚の内傾 運動リズム 流動性 腕の位置 前傾姿勢 スタンス 脚部のストレッチング 旗門に対して高くて近いラインどり 旗門に対して高い位置からの荷重 旗門通過後の素早い切り換え(抜重) スキーのズレのないカービングターンによって滑走することができているか. 切り換え時に胴体を山側に回旋することなく,胴体の向きを谷側に向けることが できているか(図3). 切り換え時の先行動作として,身体をFL方向に運ぶ重心移動ができているか(図4). ターンのマキシマムの部分で,胴体の向きはスキーの進行方向よりターン外側に 向け,胴体をターン外側に傾け,ターン外側の脇腹の筋を縮めるように外側の脇 腹部分に圧を感じる姿勢で滑走できているか(図5). 脚部(脛)を前傾させ,外脚を主体としてスキーに荷重を行いターンすることが できているか(図6). 舵とり期に両脚を平行に大きくターン内側に傾けることができているか(図7). 舵とり期の荷重動作(緊張)と切り換え期の抜重(解緊)を行うことができているか. ターン中の全身の動きが途切れることなく,流動的に滑走することができているか. 肩の力を抜き,両腕を肩幅(約50㎝)以上に開き,身体前方の高い位置に構えて 滑走できているか(図9). 脛及び胴体を股関節から前傾させ,頭部をビンディングより前方(直立した状態 から約45度前傾)に位置させた前荷重の懐の深い前傾姿勢で滑走することができ ているか(図10). ターン全局面を通して,肩幅程度(約30㎝)に開いた一定幅のスタンスを保って 滑走できているか(図12). 脚部の屈曲した低い姿勢から,脚を伸展させ身体重心が高い位置にある腰高の抜重 姿勢が認められるストレッチングターンによって滑走することができているか(図13). 旗門に対して遅れることなく高い位置からターンを開始し,旗門通過時には旗門 とターン内側の肩との距離が1m以内の旗門に近いラインどりができているか(図16). 旗門に対して適切なタイミングで,高い位置から荷重動作を行うことができているか. 旗門通過後にいつまでも荷重を続けることなく,素早く抜重動作に移行し切り換 えを行うことができているか. 分 析 項 目 評   価   観   点

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点でSAJポイントを所持し競技1本目を完走した147 名をSAJポイント25点毎に振り分けた結果,8つの分 析対象群に振り分けられた.そして,分析対象群間の 滑走タイムを比較するため,2要因(8群×3斜面のタ イム)の分散分析を行った結果,分析対象群間に有意 差が認められた.そこで,多重比較検定を行った結果, 1-2群と3群間,3群と4群間,4-5群と6群間,6-7群と 8群間で有意な差が認められた.よって,タイム分析 の結果から,所持ポイントで1群-2群(0.00-49.99) を区分1,3群(50.00-74.99)を区分2,4群-5群 (75.00-124.99)を区分3,6群-7群(125.00-174.99) を区分4,8群(175.00-)を区分5として,5つの区分 に分類することとした. 3. 2.運動経過の質的分析 筆者を含む4名の評価者によって評価した区分1の 選手の分析結果を表4に示す.表内の数値は各分析項 目に対して「できている」と評価された人数と,「で きている」と評価された選手の割合を示した. 区分1の選手は,スキーのズレのない鋭いターン弧 を描く「カービングターン」に関しては,緩斜面では 97%,急斜面で67%の選手ができていると評価され た. 切り換え期の「胴体の谷向き」及び「FL方向への 重心移動」に関しては,緩斜面では80%以上の選手 ができていたが,急斜面では胴体の谷向きが49%, FL方向への重心移動が24%と低い評価であった.つ まり,区分1の選手の中でも急斜面でFL方向への重心 移動ができていたのは,一部の選手であった. 舵とり期の技術動作について,緩斜面では「外向 傾姿勢」が90%,「外脚荷重」が75%,「両脚の内 傾」が91%であり,急斜面では全ての項目で64% 表4 区分1選手の質的分析結果(n=27) カービング 胴体の谷向き FL方向への重心移動 外向傾姿勢 外脚荷重 両脚の内傾 運動リズム 流動性 腕の位置 前傾姿勢 スタンス 脚部のストレッチング 高くて旗門に近いライ ンどり 旗門に対して高い位置 からの荷重 旗門通過後の素早い切 り換え(抜重) 18.0(2.27) 13.3(0.63) 6.5(0.87) 17.3(1.60) 17.3(2.93) 17.3(1.84) 20.8(1.93) 18.3(3.20) 23.0(1.08) 14.8(2.32) 15.0(1.08) 16.5(2.72) 14.0(2.35) 10.5(1.55) 7.5(1.55) 急斜面(n=27) 平均 (標準誤差) 67 49 24 64 64 64 77 68 85 55 56 61 52 39 28 割合 (%) 21 12 4 15 11 13 15 19 24 11 14 9 10 6 4 評価者 C 17 15 7 22 24 17 22 23 25 21 18 21 19 11 11 評価者 B 12 13 8 16 20 22 23 9 23 17 15 16 10 13 6 評価者 A 22 13 7 16 14 17 23 22 20 10 13 20 17 12 9 筆者 26.3(0.25) 26.0(0.71) 21.5(2.33) 24.3(0.95) 20.3(3.20) 24.5(1.85) 25.3(0.85) 26.0(0.41) 26.8(0.25) 22.3(2.14) 22.5(1.85) 20.0(3.42) 25.5(0.50) 23.3(1.65) 25.5(0.65) 緩斜面(n=27) 平均 (標準誤差) 97 96 80 90 75 91 94 96 99 82 83 74 94 86 94 割合 (%) 26 24 16 24 13 19 25 26 26 17 18 11 26 20 24 評価者 C 27 27 27 27 27 26 27 27 27 27 26 27 26 27 27 評価者 B 26 26 23 23 24 26 26 26 27 24 25 23 24 25 26 評価者 A 26 27 20 23 17 27 23 25 27 21 21 19 26 21 25 筆者 切り 換え 舵とり 全局面 ライン どり 評 価 項 目 表3 タイム分析結果 1 2 3 4 5 1-2群と3群間 3群と4群間 4-5群と6群間 6-7群と8群間 区分 備考 ** * * ** 多重比較検定 SD 0.63 1.04 1.31 1.29 1.73 1.81 3.28 2.24 全斜面 平均タイム 60.59 61.75 63.31 65.45 66.10 68.00 68.76 71.12 SD 0.12 0.28 0.35 0.57 0.65 0.61 0.36 0.70 急斜面 平均タイム 10.30 10.53 10.96 11.57 11.78 12.21 12.10 12.99 SD 0.10 0.16 0.19 0.25 0.26 0.25 0.26 0.33 緩斜面 平均タイム 7.10 7.23 7.43 7.71 7.84 7.90 7.91 8.28 27 33 55 23 9 人数 (n) 12 15 33 28 27 16 7 9 SAJポイント 0.00-24.99 25.00-49.99 50.00-74.99 75.00-99.99 100.00-124.99 125.00-149.99 150.00-174.99 175.00-群 1 2 3 4 5 6 7 8 *p<0.01 **p<0.05

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であった. 全局面の技術動作について,脚部の屈曲伸展に伴う 上下の重心移動を大きく行なうことによる「運動リズ ム(p.166)」2)25)は緩斜面で94%,急斜面で77%であ った.また,ターン動作の「流動性」は緩斜面で 96%,急斜面で68%であった.よって,区分1の選手 は,効果的な緊張と解緊の交替を切れ目なく流動的 (「運動流動(p.212)」2)26))に行い,経済的に滑走し ているといえる. 滑走中に身体前方の高い位置に構えた「腕の位置」 で滑走していた選手は,緩斜面で99%,急斜面で 85%と高い割合であり,腕を身体前方の高い位置に 構えることで,上体のバランスを安定させて滑走する ことができているといえる. 「前傾姿勢」については,緩斜面では82%の選手は 十分な前傾姿勢を形成し滑走していたが,急斜面では 55%であった.よって,腕は身体前方に構えられて いるが上体が適切な前傾姿勢となっていない選手が約 半数いた. 「スタンス」については,緩斜面では83%の選手が 安定したスタンスで滑走することができていたが,急 斜面では56%と約半数の選手に滑走中のスタンス幅 の変動が認められた. 「脚部のストレッチング」については,緩斜面で 74%,急斜面で61%であり,半数以上の選手が脚部 の大きな屈曲伸展を活用したストレッチングターンに よって滑走していた. ラインどりについては,「高くて旗門に近いライン どり」,「旗門に対して高い位置からの荷重」27)「旗門 通過後の素早い切り換え(抜重)」が,緩斜面では 86%以上の選手ができていたが,急斜面では高くて 旗門に近いラインどりが52%,旗門に対して高い位 置からの荷重が39%,旗門通過後の素早い切り換え が28%と低い評価であった.つまり,急斜面では, 半数以上の選手は高くて旗門に近いラインどりはでき ていたが,荷重を開始するタイミングが旗門に近かっ たり,ターン後半の荷重が長く抜重を開始するタイミ ングが遅れる選手が多く見受けられた. 区分1の選手に対する質的分析の全体的な傾向とし ては,緩斜面と比較すると急斜面では,設定した全て の評価項目で「できている」と評価された選手の割合 が低い結果であった.以上のような,区分1の選手の 緩斜面及び急斜面における滑りの連続写真を図2に示 す. 表5に,緩斜面と急斜面における区分1の選手の質 的分析の評価結果として,筆者の評価値,筆者を除く 評価者3名の平均評価値,および筆者の評価値と筆者 を除く3名の平均評価値の差とその差の全体人数に対 する割合を示した.筆者による評価値と筆者を除く3 名の評価者の値との差は,緩斜面で平均1.79(最小 0.3,最大4.3)であり,全体人数に対する割合におい ては平均6.53%(最小1%,最大16%)の差であった. 表5 区分1選手の質的分析結果に基づく筆者による評価値と筆者を除く評価者による平均評価値の比較(n=27) カービング 胴体の谷向き FL方向への重心移動 外向傾姿勢 外脚荷重 両脚の内傾 運動リズム 流動性 腕の位置 前傾姿勢 スタンス 脚部のストレッチング 高くて旗門に近いライ ンどり 旗門に対して高い位置 からの荷重 旗門通過後の素早い切 り換え 平 均 0.3 1.3 2.0 1.7 4.3 3.3 3.0 1.3 0.3 1.7 2.0 1.3 0.7 3.0 0.7 1.79 緩斜面 筆者の評価値と評価者A ・B・Cの平均評価値の差 1 4 7 6 16 12 11 5 1 6 7 5 3 11 3 6.53 割合 (%) 26.3 25.7 22.0 24.7 21.3 23.7 26.0 26.3 26.7 22.7 23.0 20.3 25.3 24.0 25.7 24.25 評価者A・B・ Cの平均評価値 26 27 20 23 17 27 23 25 27 21 21 19 26 21 25 23.2 筆者の 評価値 評 価 項 目 5.3 0.3 0.7 1.7 4.3 0.3 3.0 5.0 4.0 6.3 2.7 4.7 4.0 2.0 2.0 3.09 急斜面 筆者の評価値と評価者A ・B・Cの平均評価値の差 20 1 3 6 16 1 11 19 15 23 10 17 15 7 7 11.40 割合 (%) 16.7 13.3 6.3 17.7 18.3 17.3 20.0 17.0 24.0 16.3 15.7 15.3 13.0 10.0 7.0 15.19 評価者A・B・ Cの平均評価値 22 13 7 16 14 17 23 22 20 10 13 20 17 12 9 15.67 筆者の 評価値

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一方,急斜面では筆者による評価値と筆者を除く3名 の評価者の値との差は平均3.09(最小0.3,最大6.3) で あ り , 全 体 人 数 に 対 す る 割 合 に お い て は 平 均 11.4%(最小1%,最大23%)の差であった.筆者に よる評価値と筆者を除く3名の評価者の平均評価値と の差の割合の平均が,緩斜面で6.53%,急斜面で 11.4%であったことから,本研究における評価の一 定の妥当性が示されたといえる.しかし,緩斜面で筆 者による評価値と筆者を除く3名の評価者の値との差 の割合が10%を超えた項目として,「外脚荷重」「両 脚の内傾」「運動リズム」「旗門に対して高い位置から の荷重」が挙げられた.同様に,急斜面では「カービ ング」「外脚荷重」「運動リズム」「流動性」「腕の位置」 「前傾姿勢」「スタンス」「脚部のストレッチング」「高 くて旗門に近いラインどり」が挙げられた.これら 10%を超えた項目に関しては,質的分析による評価 の難しい項目といえる. 以上のような区分1の評価結果で明らかとなった筆 者による評価値と筆者を除く3名の評価者の平均評価 値との差の割合を前提として,筆者1名により評価を 行った区分2-5の選手に対する質的分析の結果を表 6・7に示す.表6の分析結果は,区分1の質的分析結 果と同様に,表内の数値は各項目に対して「できてい る」と評価された人数と,分析対象人数に対して「で きている」と評価された選手の割合を示した.表7は, 表6の評価項目のうち「できていない」と評価された 対象者についての技術的課題に該当する人数と割合を 示した. 区分2-5の選手の質的分析結果についてみてみると, まず「カービング」に関しては,緩斜面においては区 分2-4までの選手では78%以上の選手がカービングに よって滑走することができていたが,区分5の選手は 22%と低い評価であった.一方,急斜面でカービン グにより滑走できていた選手は区分2で42%,区分3 で20%,区分4と区分5は0%であり,急斜面における 区分2-5の選手はスキーをずらすターンであった. 切り換え期の技術動作について,「胴体の谷向き」 に関しては,緩斜面では区分2-4までの選手では74% 以上の選手ができていたが,区分5の選手は33%と低 い評価であった.そして,急斜面では区分2で30%, 区分3で29%,区分4と5で0%であった.また,「FL 方向への重心移動」に関しては,緩斜面で区分2の選 手が58%と約半数の選手ができていたが,区分3-5の 選手では29%以下と多くの選手ができていなかった. 急斜面では,区分2の選手が18%,区分3の選手が5%, 区分4と5の選手が0%であり,FL方向への重心移動が できていなかった.「胴体の谷向き」ができていなか った選手は,表7に示す通り,全ての選手において 「ターン後半の胴体の回旋」(図3)がみられた.また, 「FL方向への重心移動」ができていなかった選手のう ち,「鉛直方向に重心移動」(図4)を行なっていた選 手は,緩斜面では区分2が39%,区分3が65%,区分 4が74%,区分5が89%であった(表7).急斜面にお いては,区分2と3で70%以上の選手が「鉛直方向へ 重心移動」を行なっていたのに対し,区分4で48%, 区分5で67%の選手がターン前半から後半まで肩のラ インがターン内側に傾いた内倒姿勢のままターン動作 図2 区分1滑走形態(緩斜面・急斜面) 図4 切り換え方向比較(区分1・2) 図3 胴体の谷向き(区分1・4)

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を行い,切り換えで次のターン内側に重心を入れ換え る「重心がターン内側に残る内から内への重心移動」 を行なっていた(表7). 舵とり期の技術動作について,「外向傾姿勢」に関 しては,緩斜面で区分2が79%,区分3が78%,区分 4が70%,区分5が33%と,徐々にできていると評価 された選手が減少する傾向であった.急斜面では緩斜 面よりも外向傾姿勢を形成して滑走できている選手は 少なく,区分2が45%,区分3が42%,区分4で13% と減少する傾向があり,区分5では0%と急斜面で外 向傾姿勢を形成して滑走することができている選手は いなかった.外向傾姿勢ができていなかった区分4以 降の選手は,肩のラインがターン内側に傾いた内倒姿 勢での滑走傾向にあった(図5). 「外脚荷重」に関しては,緩斜面で区分2が55%, 区分3が49%,区分4が61%と約半数の選手ができて いたが,区分5は33%とできていない選手が多かった. 急斜面では,区分2が39%,区分3が25%,区分4が 13%,区分5が0%と徐々にできていると評価された 選手が減少する傾向であった(図6). 「両脚の内傾」に関しては,緩斜面で区分2が91%, 区分3が78%,区分4が61%の選手ができていたが, 区分5でできている選手は33%であった.急斜面では, 区分2が73%,区分3が62%の選手ができていたが, 区分4と5の選手が共に0%で両脚の内傾が小さい滑走 であった(図7).また,区分3の選手は急斜面で62% の選手が両脚の内傾を形成して滑走することができて いたが,38%の選手が外脚のみ内傾が大きくなる「X 脚」(図8)であった(表7). 全局面の技術動作について,「運動リズム」に関し ては,緩斜面では区分2が91%,区分3が85%,区分 4が83%,区分5が56%と多くの選手に運動リズムが 認められた.しかし,急斜面では区分2が67%,区分 3が53%,区分4が30%,区分5が0%とできていると 評価された選手が減少する傾向があり,緩斜面と比較 して上下の重心移動が小さく運動リズムが不明確とな っていた. 「流動性」に関しては,区分2-4の選手では74%以上 の選手に緩斜面でターン運動に流動性が認められた が,区分5の選手は33%であった.しかし,急斜面で は区分2が61%,区分3が36%,区分4が4%,区分5 が0%と,緩斜面と比較して流動性が認められる選手 が少なかった. 「腕の位置」に関しては,区分2の選手は緩斜面で 58%,急斜面で55%と約半数の選手が腕を身体前方 の高い位置に構えて滑走することができていたが,区 分3で緩斜面が49%,急斜面が36%,区分4で緩斜面 が43%,急斜面が17%,区分5では両斜面で0%と, 区分3以降の選手から滑走中に腕が不安定な動きをし ていた(図9). 「前傾姿勢」に関しては,緩斜面では区分2が55%, 区分3が31%,区分4が30%,区分5が0%であったが, 急斜面では区分2が27%,区分3が7%,区分4と5が 共に0%と前傾の浅い上体の起きた高い姿勢で滑走す る選手が多かった(図10・11).そして,「後傾姿勢」 図5 外向傾姿勢と内倒姿勢(区分1・4) 図7 脚の内傾比較(区分1・4) 図6 外脚荷重(区分1・5) 図8 X脚(区分1・3)

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で滑走している選手は,区分4が緩斜面で35%,急 斜面で52%,区分5が緩斜面で44%,急斜面で67% と,区分4以降の選手で後傾姿勢での滑走が顕著であ った(表7). 「スタンス」に関しては,緩斜面では区分2が58%, 区分3が45%,区分4が61%,区分5が44%と区分2-5 の選手の間に大きな差はなかった.しかし,急斜面で は区分2が55%であったが,区分3が29%,区分4が 13%,区分5が0%と,区分3以降の選手からスタンス の幅が広過ぎたり,広くなったり狭くなったりと不安 定になる傾向があった.急斜面におけるスタンスにつ いて,内スキーが次の旗門方向に進み,外スキーはそ のまま直進していくようなスキーのトップが開いてい く「シェーレン」が生じている選手が区分4で52%と 顕著であり(表7),区分5の選手はスタンス幅が不安 定なだけでなく,44%の選手が「スタンス幅が広過 ぎる滑走姿勢」であった(表7,図12). 「脚部のストレッチング」に関しては,緩斜面では, 区分2が67%,区分3が80%,区分4が65%と多くの 選手が脚部のストレッチングを使って滑走することが できていた(図13).しかし,急斜面では区分2と3で 64%以上の選手が脚部のストレッチングを主体とし た滑走であったのに対し,区分4が30%,区分5が 11%と,区分4-5の選手の多くが切り換え期に腰が低 い位置に残ったままの「エッジの切り換え主体の滑走」 (図14)であった(表7).つまり,区分4-5の選手は 切り換え期にFL方向への重心移動ができておらず 「重心がターン内側に残る」切り換え動作のため,タ ーン形態は「エッジの切り換えを主体」とするターン によって滑走しているといえる. ラインどりについて,「旗門に対して高くて近いラ 図9 腕の位置比較(区分1・4) 図10 前傾姿勢比較(区分1・4) 図11 前傾が浅く上体の起きた滑走姿勢 図13 脚部のストレッチング比較(区分1・4) 図12 スタンス幅比較(区分1・5) 図14 エッジの切り換え主体のターン

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インどり」に関しては,緩斜面で区分2が100%,区 分3が95%,区分4が96%,区分5が78%と多くの選 手ができていた.しかし,急斜面では区分2と3の選 手では60%以上の選手ができていたのに対し,区分4 が26%,区分5が0%であった.この急斜面で旗門に 対して高くて近いラインどりのできていなかった区分 4と5の選手のうち,区分4で35%,区分5で78%の選 手が「旗門から遠いラインどり」(図15)で滑走して いた(表7).また,急斜面におけるラインどりにつ いて,「旗門に対して直線的過ぎるラインどり」(図 16)を区分2で33%,区分3で36%,区分4で52%の 選手がしていた(表7).そして,急斜面において 「旗門に対して低いラインどり」を区分4で35%,区 分5で67%の選手がしていた(表7). 「旗門に対して高い位置からの荷重」に関しては, 緩斜面では区分2が64%,区分3が49%で約半数の選 手が適切なタイミングで荷重動作を行うことができて いたが,区分4は22%,区分5は0%であった.一方, 急斜面では,区分2が24%,区分3が7%,区分4と5 が0%と適切なタイミングで荷重動作ができている選 手は僅かであった.その結果,急斜面では旗門下で最 大荷重局面をむかえるため「旗門を過ぎてからの荷重 量が大きくなる」選手が,区分2で27%,区分3で 42%,区分4で52%,区分5で78%であった(表7). また,急斜面では区分2で27%の選手が,切り換え動 作を行なった後に何も動作をしない間をおくことで 「旗門が近づいてくるのを待って荷重動作」を行って いた(表7). 「旗門通過後の素早い切り換え」に関しては,緩斜 面では区分2で97%,区分3で55%の選手が素早い切 り換えを行うことができていたが,区分4で30%,区 分5で0%であった.急斜面では,区分2が12%,区分 3が4%,区分4と5が共に0%と,適切なタイミングで 図15 旗門との距離比較(区分1・5) 図16 滑走ライン比較 表6 区分2−5選手の質的分析結果  カービング 胴体の谷向き FL方向への重心移動 外向傾姿勢 外脚荷重 両脚の内傾 運動リズム 流動性 腕の位置 前傾姿勢 スタンス 脚部のストレッチング 高くて旗門に近いラ インどり 旗門に対して高い位 置からの荷重 旗門通過後の素早い 切り換え(抜重) 急 斜 面 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 11 0 0 0 割合 (%) 区分5 (n=9) 評 価 項 目 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 該当 人数 0 0 0 13 13 0 30 4 17 0 13 30 26 0 0 割合 (%) 区分4(n=23) 0 0 0 3 3 0 7 1 4 0 3 7 6 0 0 該当 人数 20 29 5 42 25 62 53 36 36 7 29 64 60 7 4 割合 (%) 区分3(n=55) 11 16 3 23 14 34 29 20 20 4 16 35 33 4 2 該当 人数 42 30 18 45 39 73 67 61 55 27 55 88 61 24 12 割合 (%) 区分2(n=33) 14 10 6 15 13 24 22 20 18 9 18 29 20 8 4 該当 人数 緩 斜 面 22 33 0 33 33 33 56 33 0 0 44 44 78 0 0 割合 (%) 区分5 (n=9) 2 3 0 3 3 3 5 3 0 0 4 4 7 0 0 該当 人数 78 74 17 70 61 61 83 74 43 30 61 65 96 22 30 割合 (%) 区分4(n=23) 18 17 4 16 14 14 19 17 10 7 14 15 22 5 7 該当 人数 82 75 29 78 49 78 85 85 49 31 45 80 95 49 55 割合 (%) 区分3(n=55) 45 41 16 43 27 43 47 47 27 17 25 44 52 27 30 該当 人数 79 85 58 79 55 91 91 82 58 55 58 67 100 64 97 割合 (%) 区分2(n=33) 26 28 19 26 18 30 30 27 19 18 19 22 33 21 32 該当 人数 切り 換え 舵 と り 全 局 面 ラ イ ン ど り

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の素早い切り換えができている選手は僅かであった. 区分2に関しては,先の荷重の部分で,荷重を開始ま で旗門を待つ傾向があったことから,切り換え終了が 早過ぎる傾向があったといえる.また,「切り換えの 動作スピードが遅い」選手が,区分4では緩斜面で 26%,急斜面で43%,区分5では緩斜面で33%,急 斜面で56%であった(表7). 4.考察 4. 1.アルペンスキー競技における技術の質的発展 緩斜面と急斜面における運動経過の質的分析及びラ インどりの分析から,アルペンスキー競技における技 術の質的発展を模式的に図17のように構成した.以 下に,各項目について考察をする. アルペンスキー競技のタイムロスに大きく影響する スキーのズレについて見てみると,区分1の選手はス キーのズレのないカービングによってターンしている が,区分2-4の選手はターンでスキーのテールにズレ を生じており,所持ポイントが大きくなるにつれてテ ールのズレる量が多くなり,区分4の選手のテールの ズレが最も大きい.そして,区分5の選手はスキーの トップからテールまでの全体にズレを生じた状態でタ ーンをしている. 切り換え局面では,区分1の選手はスキーのトップ (先端)より山側に胴体が必要以上に回旋することは ない(図3).しかし,区分2-4の選手は急斜面におい て胴体が山側へ回旋し,区分5の選手は緩・急斜面を 問わず胴体の山側への回旋が認められる. 区分1の選手が行うこの運動形態は,マイネルのい う 「 ね じ り 動 作 ( p.2 0 2 )」2 )-「 ね じ り 戻 し 動 作 (p.203)」2)にあたる28).アルペンスキー競技では,タ ーン後半から切り換えにかけてスキーが内側に向いて いく.その際,区分1の選手は胴体の向きを極力FL方 向に保とうとするため,肩帯部と腰帯部にねじりが生 じる.このねじりを切り換え期において解放すること により,スキーが素早く効果的にFL方向を向くこと ができる.したがって,この局面でねじり動作を行う ことが重心のFL方向へのスムーズな移動の前提条件 となる. 切り換え動作における重心移動の方向については, 区分1の選手はFL方向であるのに対し,区分2-3の選 表7 区分2−5の選手の質的分析結果(技術的課題) ターン後半の胴体の回旋 鉛直方向への切り換え動作 重心がターン内側に残る 外向傾が小さい(内倒姿勢) 外スキーへの荷重が弱い 内スキー主導 脚の内傾が小さい X脚 重心移動が小さい (運動リズム) ターンに流れがない(流動性) 腕の位置が低い(身体に近い) 前傾が浅い(姿勢が高い) 後傾ポジション スタンスが不安定 外スキーのシェーレン スタンス幅が広過ぎる エッジの切り換え主体の滑り 滑走ラインが旗門から遠い ラインどりが直線的過ぎる ラインどりが低い 旗門下での荷重 (Maxをむかえるのが遅い) 旗門を待つ 切り換え動作が遅い 急 斜 面 100 100 33 67 100 100 100 22 100 100 100 100 67 100 22 44 89 78 11 67 78 0 56 割合 (%) 区分5 (n=9) 評 価 項 目 9 9 3 6 9 9 9 2 9 9 9 9 6 9 2 4 8 7 1 6 7 0 5 該当 人数 100 100 52 48 87 87 100 26 70 96 83 100 52 43 52 22 70 35 52 35 52 0 43 割合 (%) 区分4(n=23) 23 23 12 11 20 20 23 6 16 22 19 23 12 10 12 5 16 8 12 8 12 0 10 該当 人数 80 71 78 16 58 75 38 38 47 64 64 93 18 64 11 5 36 24 36 20 42 9 29 割合 (%) 区分3(n=55) 44 39 43 9 32 41 21 21 26 35 35 51 10 71 6 3 20 13 20 11 23 5 16 該当 人数 58 70 73 9 55 61 27 0 33 39 45 73 6 39 0 0 12 15 33 18 27 27 21 割合 (%) 区分2(n=33) 19 23 24 3 18 20 9 0 11 13 15 24 2 15 0 0 4 5 11 6 9 9 7 該当 人数 緩 斜 面 78 67 89 11 67 67 67 0 44 67 100 100 44 56 0 22 56 0 0 33 33 0 33 割合 (%) 区分5 (n=9) 7 6 8 1 6 6 6 0 4 6 9 9 4 5 0 2 5 0 0 3 3 0 3 該当 人数 22 26 74 9 30 39 39 0 17 26 57 70 35 39 0 17 35 4 4 4 17 0 26 割合 (%) 区分4(n=23) 5 6 17 2 7 9 9 0 4 6 13 16 8 9 0 4 8 1 1 1 4 0 6 該当 人数 18 25 65 5 22 51 22 0 15 15 51 69 13 55 0 4 20 2 0 2 20 0 11 割合 (%) 区分3(n=55) 10 14 36 3 12 28 12 0 8 8 28 38 7 30 0 2 11 1 0 1 11 0 6 該当 人数 21 15 39 3 21 45 9 0 9 18 42 45 6 42 0 6 33 0 0 6 18 0 0 割合 (%) 区分2(n=33) 7 5 13 1 7 15 3 0 3 6 14 15 2 14 0 2 11 0 0 2 6 0 0 該当 人数 舵 と り 全 局 面 ラ イ ン ど り スキーがズレる 切 り 換 え

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手は鉛直方向となり,区分4-5の選手は重心がターン 内側に残り大きな重心移動が認められない(図4). 区分1の選手のように,切り換え局面で重心をFL方向 へ移動することは,身体全体及び脚部がFL方向へ内 傾し,脚の内傾角が大きくなり,ズレのないカービン グターンを行うための前提条件を作り出すことができ る.区分2-3の選手のように,切り換えで重心を鉛直 方向に移動することは,舵とり局面前半での大きな角 付け角を作ることができない.あるいは適切な角付け 角を作るために,鉛直方向に立ち上がった後,再度, 重心をフォールライン方向へ移動させる必要がある. いわゆる「二段モーション」であり,区分1の選手が ダイレクトに短時間でFL方向に重心移動するのに比 べ,時間的に遅れ,結果的に脚の内傾や角付け角の大 きさ,滑走ラインに差が生じる. また,区分2-3の選手のように切り換えの方向が鉛 直方向となることで,ターン後半のスキーの撓みによ る反発力が上方向に逃げてしまい,次ターンの推進力 に活かすことができない.区分1の選手のように,切 り換え時にFL方向へ重心移動を行うことで,ターン 後半におけるスキーの撓みを次ターンの進行方向に繋 げ,タイムロスを少なくできる.このことについて, 川口は「ターンとターンのつなぎの部分がスキー板が 走る部分である.そのためには,ターン期で適切に, しっかりとスキーをたわめ,その圧を適切な方向へ解 放し,前のターンのエネルギーを次へつなげていく (p.57)」29)と述べている.この川口の述べる適切な方 向とはFL方向を指しており,舵とり期の荷重により スキーを撓めた状態から重心をFL方向へ移動するこ とによって,スキーの撓みは次のターンへの推進力と なる. 舵とり局面では,区分1の選手は大きな外向傾姿勢 (アンギュレーション)がとられているのであるが, 区分2-5と選手の所持ポイントが大きくなるにつれて 外向傾姿勢が小さくなる(図5).また,そのことに 相まって,区分1の選手は外脚による荷重量が大きい のだが,選手の所持ポイントが大きくなるにつれて小 さくなり内脚の荷重量が大きくなる(図6).区分1の 選手に見られる,最も荷重量が大きくなる局面での外 向傾姿勢の重要性について,岩谷は「ターン後半から マキシマムにかけての基本姿勢=外向傾姿勢と外スキ ー荷重によって,スキーはしっかり切り上がって山回 りが完成します.スキーがズレないので,スキーはた わみ,スキーのサイドカーブとフレックスを生かしな がら,山回りターンを完成させられるわけです.と同 時に,上半身の外向傾姿勢をとることによって,切り 替え後にスムーズに体を谷側のほうに移動できる (p.86)」30)と述べている.つまり,最も荷重量が大き くなる局面で外向傾姿勢を取ることは,的確な外脚荷 重を可能にし,切り換え局面におけるFL方向への重 心移動(クロスオーバー)の前提ともなるのである. 脚の内傾については,区分1-2の選手は外脚の内傾 量が大きいが,所持ポイントが大きくなるにつれて外 脚の内傾量が小さくなっている(図7) .また,区分1-2の選手は両脚が平行だが,区分3の選手は内脚の内 傾が外脚に比べて小さいX脚の状態で滑走している (図8).区分1-2の選手は他の区分の選手と比較して, 脚の内傾角度が最も大きいため,エッジの角付け角度 が大きくスキーのズレのない鋭いターン弧で滑走して いる.三浦らは側方への移動幅が大きく,速度も速い 大回転競技においては,ターン前半から脚の内傾角を 大きくすることの有効性を述べている6).脚の内傾を 大きくすることは角付け角を大きくすることに繋が り,ズレのない鋭いターン弧を描くためには重要な要 素である. 全局面では,区分1の選手のターン動作では緊張と 解緊の差が大きく運動リズムが明確だが,区分2-5と 選手の所持ポイントが大きくなるにつれて緊張と解緊 の差が小さくなり運動リズムが不明確となる.下半身 を柔軟に大きく屈曲伸展させて滑走することは,長い コースを連続ターンによって滑走する場合に,経済的 な動作となる31).浦木は,ワールドカップのトップ選 手は「身体全体をリラックスさせた使い方をすること で,雪質や斜面の変化など,何か想定外の事態が起こ ったときの対応の幅も広くなり,なおかつ疲れないポ ジションで滑ることができている(p.40)」32)と述べ, 膝や足首,股関節などの各関節に無駄な力を入れて固 めてしまわないように,つねに身体をスムーズに動か していると分析する. ターン動作の流動性については区分1の選手は斜面 状況に応じて下半身を柔軟に使い,全身の動きを止め ずに流れのある動作を行っているが,選手の所持ポイ ントが大きくなるにつれてターン動作に流れが認めら れず全身の動きがぎこちないターン動作となる. 滑走中の腕の位置については,区分1-2の選手は身 体前方の高い位置に保ち滑走しているが,区分3-5の 選手は腕の位置が身体に近く,なおかつ全体的に低い 位置にあり,滑走中に腕が開閉したり後方に引けたり するなど不安定な動きをする(図9).腕の動きは肩 の動きに連動することから,腕が後方に引けることで

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「次の外肩が引けてしまうと,重心が下がることや胸 の向きが遅れることにつながってタイムロスになりや すく,結果的にすべりの安定感をなくす(p.12)」33) ととなる.腕の安定は上体の安定にも繋がり,斜面変 化や荒れたコースに対応するためにも,腕を常に視界 に入る高さで前方に保ち滑走することが重要である. 前傾姿勢については区分1-2の選手は斜度やスピー ドに適した前傾姿勢によって滑走しているのだが,区 分3の選手は上体の起きた前傾の浅い姿勢による滑走 となり,区分4-5の選手は前傾が浅いだけでなく後傾 姿勢による滑走となっている(図10).前傾姿勢の浅 い高い姿勢で滑走することで,大きな空気抵抗を受け るだけでなく,前後のポジショニングが不安定になっ たり,スキーに対して十分な荷重を行う(力を伝える) ことができないといった弊害が生じることとなる.三 浦ら6)はバイオメカニクスの観点から,前傾姿勢と足 関節の屈曲との関係性を示し,前傾姿勢からのカービ ングターンはスピード減少が少ないことを報告してい る.一方,後傾のポジションで滑走することは,前傾 が浅く荷重時にブーツのタング(脛部)を十分に押す ことができないので,スキーのトップ部を使って滑走 することができず,臀部を下げスキーのテールをズラ しながらターンする滑走形態となる.坂田ら34)は, スキー板の前半部を押し付けるように曲げモーメント が作用する場合には,より前傾姿勢となるように,ス キーヤー重心位置をトップ側に移動させる必要のある ことを明らかにしている.緩斜面における減速はタイ ムロスに大きく影響するため,スキーのトップ部を使 いズレのないターンで滑走するためにも,後傾姿勢に よる滑走は避けなければならない. ターン中のスタンスについては,区分1-2の選手は 一定幅のスタンスで滑走しているのに対し,区分3の 選手はスタンスの幅が広くなったり狭くなったりと不 安定となり,区分4の選手だと舵とり局面の前半から 中盤にかけてスキーのトップが開いたシェーレンが特 徴的であり,区分5の選手になるとさらにスタンス幅 全体が広過ぎる傾向にある(図12).区分3の選手に 見られるスタンス幅が不安定であると,スキーに乗る ポジショニングが不安定となったり,ターンからター ンへの流れを途切れさせる原因ともなる.三浦ら35) の,スタンスが一定に保たれたターンが最も減速が少 なかったという報告からも,ターン中にスタンスを一 定に保つことの重要性が示唆される.また,区分4の 選手は,脚の内傾角が小さく,スタンス幅も不安定な 傾向があるため,ターン中の内倒姿勢によって内スキ ー主導のターンとなり,スキーが大きくズレることに よってターンをするだけでなく,内スキーは次の旗門 方向へ進み外スキーはそのまま直進していくようなス キーのトップが開いていくシェーレンが生じる.シェ ーレンは,スキーの撓みを次のターンに活かせないだ けでなく,滑走ラインから大きく外れることにも繋が る. ターン形態については,区分1-3の選手は脚の伸展 を使ったストレッチング主体のターンであるが,区分 4-5の選手は切り換え局面で高い腰の位置が見られな いエッジの切り換え主体のターンで滑走している(図 13・14). ラインどりについては,区分1の選手は旗門に対し て高く旗門の近くを滑走する滑走ラインであるのだ が,区分2-3の選手は旗門に対して直線的な滑走ライ ンによって滑走している(図16).そして,区分4の 選手になると旗門に対して直線的なだけでなく低い滑 走ラインとなり,区分5の選手は旗門に対して低く旗 門から遠い滑走ラインで滑走している(図15). また,荷重のタイミングについては,区分1の選手 は旗門の高い位置から素早くスキーに対して荷重し, 区分2の選手は旗門が近づいてから荷重を開始する傾 向にある.そして,区分3の選手になると荷重を開始 するタイミングが遅いため旗門通過直後のエッジング となり,さらに区分4の選手になると旗門通過後のエ ッジングが長い.区分5の選手では,荷重を開始する タイミングが遅く旗門下でのエッジングとなってい る. 区分1の選手は,旗門に対して高い位置から荷重を 開始し,旗門通過後は素早く切り換え(抜重)へと移 行しているため短いエッジングとなっている.そのた め,理想的なタイミングで荷重及び切り換えが行われ ることで,ターン動作が切れ目なく流れるように行わ れている.竹田は高いラインどりをすることの有効性 として,「動きに余裕も生れ,ブレーキング要素を最 小限に抑えてスピードをつなげていく流れを作ること ができます(p.23)」36)と述べている.区分2-3の選手 になると,ラインどりが直線的過ぎることが特徴とし て挙げられる(図16).ラインどりが直線的過ぎると, 旗門の横で方向を変えようとする動きとなり急激なエ ッジングによる減速要素を生じるだけでなく,ターン 後半にラインが膨らんでしまい,スキーを大きくずら しながらラインを修正しなければならないという悪循 環に陥る危険性がある.そして,区分4の選手のよう に,深いターン弧が要求される急斜面では,エッジの

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図17 アルペンスキー競技における技術の質的発展構造

区分1 (0.00-49.99) カービング 必要以上の回旋ナシ (胴体の谷向き) FL方向 両脚平行で大きい  上 級 者 アンギュレーション が大きい 外脚による荷重量 が大きい 緊張と解緊の 差が大きい 全身の動きに 流れがある 高いラインどりで旗門 に近い 高い位置から の荷重 素早い切り換え 前方の高い位置に保たれる 斜度やスピードに適した前傾姿勢 一定幅のスタンス 両脚平行でやや大きい 脚のストレッチング主体 前傾が浅く姿勢が高い スタンス幅が不安定 シェーレン 旗門に対して直線的 荷重開始まで 旗門を待つ 切り換え終了が早過ぎる 荷重のタイミングが遅く旗門 通過直後のエッジング 切り換えのタイミングが遅い ラインどりが低く 旗門に直線的 旗門通過後の 荷重が長い 区分2 (50.00-74.99) 区分3 (75.00-124.99) 区分4 (125.00-174.99) 区分5 (175.00-) スキー全体がズレる 緩・急斜面において 胴体が山側へ回旋 重心がターン内側に残ったまま アンギュレーション が小さい 外脚による荷重量が 小さい 緊張と解緊の 差が小さい 全身の動きが ぎこちない ス タンス幅が不安定または広過ぎる ラインどりが低く 旗門から遠い 荷重のタイミングが遅く旗門下 でのエッジング 両脚の内傾が小さい 切り換えのタイミング及び動作が遅い 腕の位置が身体に近い低い位置で不安定 前傾が浅く上体が起きた後傾姿勢 エッジの切り換え主体 テールのズレ が小さい テールのズレが 大きい 技能レベル 中 級 者 初 級 者 区分 (SAJポイント) スキーのズレ 胴体の山側 への回旋 重心移動 外向傾姿勢 外脚による 荷重量 両脚の内傾 運動リズム 流動性 腕の位置 前傾姿勢 スタンス ターン形態 滑走ライン 荷重 切り換え 舵 と り 全 局 面 ラ イ ン ど り 切 り 換 え 急斜面において胴体が山側へ回旋 鉛直方向 外脚のみ内傾が大きい(X脚)

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切り換えだけで滑走することは難しく,前傾の浅い高 い姿勢ではスキーのトップを押さえることができず, 後傾ポジションも相まってスキーは直進性を帯びる. そのため,切り換え及び荷重のタイミングが遅れるこ とで,旗門を過ぎた後に最も荷重量が大きくなり,低 いラインどりとなるのである.区分5の選手になると, 緩斜面,急斜面共通して,滑走ラインが旗門から遠く なる.区分5の選手は,スピードコントロールを優先 し,大きな深いターン弧で滑走するため,滑走ライン が旗門から離れていると考えられる. 切り換え動作及びタイミングについては,区分1の 選手は旗門通過直後に素早い切り換え動作を行うので あるが,区分2の選手は切り換え動作の終了が早過ぎ る傾向にある.そして,区分3の選手は切り換えを開 始するタイミングが遅く,区分4-5の選手はタイミン グだけでなく切り換え動作自体も遅い.区分1の選手 の行う旗門通過直後の素早い切り換え動作について, 中島は力学モデルによってターン出口の加速効果につ いて検討し,切り換え時に素早く次の外足に乗り換え ることの重要性を指摘している37).区分3の選手は切 り換えのタイミングが遅いのであるが,区分4-5の選 手では重心移動の動き自体も遅いことから,なかなか 次のターンを開始することができない結果となる. 佐々木ら38)が,インターハイ男子GS競技の上位群 (1-10位)と比較して下位群(11-20位)は,山回り 内傾最大値から旗門通過までの局面において動作所要 時間が有意に長かったことを報告していることから, 本研究における区分4-5の選手はさらに長い動作所要 時間を有していることが考えられる. 4. 2.各技術要素の相互関係 ここでは,アルペンスキー競技における各技術要素 の相互関係について考察する.そして,各技術要素の 相互関連を図18に模式的に示した. 技能レベルの高い選手と低い選手とでタイム差がつ く要因の第一の評価視点として「スキーのズレ」と 「滑走ライン」を位置づけた.その理由は,スキーの ズレは除雪抵抗39)の量を表すものであり,スキーが 大きくズレることで除雪抵抗も大きくなりスピードが 減速し,タイムが遅くなるからである.また,滑走ラ インに関しては,どのような滑走ラインを通過するか によって,タイムが大きく異なる.すなわち,旗門の 近くを通過し,より短い滑走距離で滑走することによ り,タイムを短縮することができるからである. 舵とり期でズレのないカービングターンをするため には,「脚の内傾」と「外脚荷重」が重要である.脚 の内傾を大きくし,適切な外脚荷重を行うことで,ス キーのズレが最小限に抑えられた質の高いカービング 図18 各技術要素の相互関連

参照

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