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消費者利益に対応したメーカーのマーケティング展開

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(1)

消費者利益に対応したメーカーのマーケティング展開

田  中  利  見

(第4章)市場調査戦略(第5章)消費者サービ は じ め に      ス戦略(第6章)の5っの戦略領域に分け,消費 昭和22年制定の「独禁法」において究極的な目  者利益実現への問題と課題を検討する。

的として提示されている『一般消費者の利益の確

       1.消費者利益の範囲と内容保』は,昭和43年の「消費者保護基本法」におい

て,より具体的な形で,個々の消費者の利益の擁  (1)消費者利益概念

護と増進をはかることになった。そこでは企業と   わが国にお』いて,最初に「消費者利益」という 行政に責務が課せられている。         概念が使用されたのは,昭和22年の「私的独占の

その後,それに対して,企業側も消費者に対し  禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下「独 て,安全な製品づくりの推進,消費者教育の徹底, 禁法」と呼ぶ)の第一条においてである。

消費者クレームの処理体制,消費者サービスシス   「この法律は…公正かつ自由な競争を促進し…以 テムなど,様々なレベルで対応してきた。     て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民 この間,消費者の生活水準は高くなり,第一次, 経済の民主的で健全な発達を促進することを目的 第二次のオイルショックを経て,生活者の意識も  とする。」(独禁法第一条)

かなり変化してきている。たとえば,流通政策研   この独禁法にお・ける,一般消費者の利益は直接 究所の「消費者自身の消費者利益に対する考え方」  的目的ではなく「それは,自由経済競争が促進さ の調査によれば,消費者利益観は,いいものを安く  れ,そこにお・いて,事業者間にお・ける経済的民主 という経済的思考から,公害,環境汚線を重視し  主義の実現がはかられること(これが独占禁止法

者情報の確保あるいは,趣味欲望の実現というよ おのずから消費者の利益の確保がはかられること

うな,市民文化的思考への関心が高まってきている。 になるという構造をもっているのである。」       { 1『1}

したがって,消費者利益の増進をはかるべきメ   いうまでもなく,ここでいう自由競争経済とは 一カーのマーケティング活動もその内容を変更し  市場経済のことであり,独禁法はこれをより機能

なくては,消費者の不平や不満を増加させ,やが  的にするために,私的独占や不公正な取引といっ て正当なマーケティング活動さえも評価されない,  た経済的民主主義を阻害する要因を取り除くだけ 不毛なビジネス状況をつくり出してしまいかねな  の役割を持っている。

い。       また,ここでいう経済的民主主義とは「市場を そこで,本稿においては,まず,企業がコミッ  構成する事業者間における経済的機会均等,経済 トメントする消費者利益の範囲と内容を確定し,  的平等を実現しようとするものであり,」その手段

(注2}

(第1章)次に,それぞれの消費者利益の実現にあ  として,独禁法は,事業者の競争関係を想定し,

たって,展開すべきマーケティング戦略を論じる  それがまた,消費者の選択の自由を保証し,その ことにする。たとえば,製品開発戦略(第2章)  結果,消費者の欲求が市場に反映されていくと想 コミュニケーション戦略(第3章),流通経路戦略  定している。

(2)

2      茨城大学政経学会雑誌  第47号

経済学では,以上のような想定をく消費者主権  費者の安全を守る運動として高まっていき,コン

(Consumer Soveriety)と呼んでいる。この消費  シューマリズムの基本的主張となった。

者主権という概念は,素朴な形では,「消費者は王   このようなコンシューマリズムにおける消費者 様である」とか「すべての生産は消費のためにな  利益に対する基本的な考え方は,1962年に故ケネ される」(アダムスミス)といった表現にみられる  ディ大統領が議会に送った「消費者の利益保護に が,経済学の概念として,最初に明確化したのは, 関する特別教書」の中に見い出すことができる。

W,H,ハット(Hutt)が最初である。      その中に著名な消費者の4つの権利が明示されて 彼は,消費者主権について「社会の資源が稀少  いる。

(〜室5,

であるとき,その資源の管理者に対してその資源 ①安全である権利…・・健康ないし生命をおびや の用途(目的)の選択にっいて,自由な個人が行   かす商品の÷一ケティングから保護される権利 使する支配力」と説明している。この概念を今日 ②知らされる権利……詐欺的な,欺隔的なある

(注3)

流に言い直すならば,次のようになる。「消費者個   いは大きく人を誤らされるような報道広告,表 々人の自由で自主的合理的な選択が市場の価格と   示,その他の慣行から保護され,かつ賢明な選 需給のメカニズムを通じて,究極において,企業   択をするために必要な事実を知らされる権利 者にどんな製品をどれだけ生産すべきかを伝達し, ③選ぶ権利……どこでも,いうし・うな製品やサ 決定させる仕組みが経済機構上成立している」ことに  一ビスについて競争的価格にi接っすることが保

なる。       証され,競争が行なわれる代りに政府によって規{注4)

以上,述べたように,消費者利益における「利   制される産業においては十分な品質やサービス 益」(Interest)は,取引の際に生じる経済的利得と   が保証される権利

いうよりも,経済社会の構成者としての消費者が ④意見が聞きとどけられる権利…・・政府政策の 共有しうる経済的平等と自由の権利として理解す   公式化に際しては,消費者の利益が十分かつ同 べきであろう。というのは,本来ならば,こうし   情的に考慮され,その行政上の判決においては た権利は,自由競争市場の下で確保されるべきで   正当かっ迅速な処理を保証される権利。

あるが,今日,あらためて,この消費者の権利が   以上4つの消費者の権利が確保されることが消 利益概念として主張されなければならなくなった  費者利益であるとされた。この考え方はその後に のは,市場経済自体の自律調整機能の低下と市場  おける我国の消費者保護基本法(昭和43年)に対 環境の複雑化と不備が生じてきたからである。   して大きな影響を与えている。

たとえば,同法では,消費者の利益の確保と増

(2)消費者利益概念の拡大       進のための具体的内容として次の7項目を挙げて 消費者利益の問題が再び登場したのは,1950年  いる。

代半ばの米国においてであった。自由市場のメカ ①危害の防止(第七条)②計量の適正化(第八条)

ニズムから消費者主権が実現されるものと期待さ ③規格の適正化(第十条)④表示の適正化⑤公正 れていたが,そこから出てきたのは皮肉なことに, 自由な競争の確保等(十二条)⑥意見の反映(十 インフレーションでありポリューションであった。 一条)⑦苦情処理体制の整備等(十五条)。これら やがて消費者の間に,市場,企業,製品への不信  の項目が,先のケネディの4つの消費者の権利に 感が充満しはじめた。       対応していることは容易に推定できる。

この時に,これに火をつけたのは,ラルフネー   たとえば,危害の防止は安全である権利と計量 ダーであった。彼は「どんなスピードでも安全で  の適正化,規格の適正化,表示の適正化は知らさ はない」という著書でもって,GMのコルベァの  れる権利と,公正かっ自由な競争の確保は選ぶ権 欠陥を指摘したのである。この運動はその後,消  利と,意見の反映と苦情処理体制の整備は意見が

(3)

聞きとどけられる権利と対応している。     追放することが出きない存在である。

さて,以上4つの権利は,性格的に二っのタイ   この権利は,これまであまり意識されることの プによって構成されている。一つは,経消主体と  少なかった概念であるが,かつてのように,人間

して権利つまり買手としての権利であり,他の一  愛から来る宗教的理想ではなく,フロイド以降の つは,生活主体としての権利っまり生存する権利  臨症心理学研究の成果であり,豊かな先進社会に である。      おけるひとっの〈現実〉である。

計量・規格・表示の適正化と公正自由な競争の   米国の社会心理学者であり,社会調査の権威で 確保,意見の反映,苦情処理体制の整備は,市場  もあるダニエルヤンケロビッチは「ニュールー)ヒ1 いわば市場ゲームへの参加者としての買手の権利  「今日のアメリカでは,自己充足の追求は,ひと に関するものである。       にぎりの大胆な人間や特権階級の人々に限ぎられ

これに対して,安全である権利に対応する危害  ていない。アメリカ人を分析した諸研究には,は の防止は,市場に参加している買手であろうと,  っきり見られるように,自己充足の追求とは,普 なかろうと,1個の生きていく人間として,その  通の人の夢の実現であり実験であって,文字通り 生命と健康が尊重されなければならないという考  ミ草の楓の現象になっている。」

え方の反映である。これは,いわば生身の人間の      図1 戦後の若者の生き方志向権利に関するものである。

繰返すならば,消費者保護基本法で示されてい(注6)  趣昧にあった C∠一一一一一

る消費者利益は,購買者利益と生活者利益とによ   5°

チて構成されている。      4°

@       30

@しかしながら,購買することと生活することは,      20私達たちの究極的な目的ではなく,あくまで手段      10

ナしかない。経済的に満足していて,しかも安全

      ノノエく正しく      1        /

mー蕊//

c痛隷外\。ん,.

≦㌧△〜ミこy        、 一 一 一゜、  . ._. 名をあげる

でさえあれば,人間の欲求が満ち足りるものでは 10臼召         15      28  33  38       45    50    56

モ  隻   隻隻隻  隻 隻 隻

20        20      20  20  20       15    15    15 ないことは経験からわかることである。経済的合   才  才  1〜1 〜 l l       筆  筆   242424  24 24 24

理性と生活安全性は,いわば,消費者が人間らし         ままぎ  ぎ ま ま

く生きていこうとする場合の最小限の基準であっ         注:昭和5年と15年は壮丁検査      昭和28年〜38年は統計数理研究所調査

て,人間はそれ以上の欲求水準へ向かって努力を       昭和45年〜55年は本調査の結果による・

資料:同上

続けている。こうした欲求を,大脳生理学の時実

は,〈よりよく生きていくための欲求〉と呼んだ。ま   同様の事実はわが国の調査(図1)にも明らか

(注7)

た,米国の人格心理学者マズローはく自己実現  である。図1はわが国の戦後の若者の生き方を調 欲求〉と規定したし,同学のオルポートはく人格  査したものであるが,趣昧にあった生活という自

(注8)

の成熟化〉と称した。       己充足型の生き方がベースになってきている。

(注9)

こうした〈自己充足〉への欲求は,豊かな社会   その意味で,この自己実現の権利は,豊かな社

(沌10)

において最も人間らしい本性であるとするならば, 会においては,法的な権利として確定するかどう 人間として当然所有すべき権利として,〈自己実現  かはさておき,ビジネスの論理として共通の意味 の権利〉を社会的に容認すべきではなかろうか。  を持つ存在であるといえる。

これは,先の消費者の4っの権利が法的権利とす   しかしながら,問題は,ビジネスの中で自己実 るならば,むしろ,それ自体人間の基本的本性で  現の権利をどのような性格と内容で確定すべきで あって,イメージやシンボル等と同様に決っして  あるかどうかである。

(4)

4      茨城大学政経学会雑誌  第47号

まず第一に,自己実現の内容は,多くの人々に  ないのは,「安全である権利」である。特に,製品 とって必ずしも共通ではないといえる。したがっ  の安全性は米国における製品安全法とか,わが国 て,少なくとも,我々は,この取引社会で,ミ市民こ の「消費生活用製品安全法」の制定のように,各 として生きている消費者であるかぎり,市民とし  国とも消費者の安全である権利への対応は,製品 て共通に認めあえる自己実現の条件を権利とすべ  の安全性を出発点としている。

きである。たとえば,      したがって,これからのメーカーは製品開発に

・美的かっ文化的な環境を提供される権利     おいて,これまで以上に製品の安全性に注意を払

・平和で静かな時間を提供される権利       わなければならない。そのためには図2に示され の二っは,市民としての消費者利益といえる。   る製品開発過程の各段階ごとに製品の安全性を十

(注11)

この問題は,すでに,大型スーパーの出店に伴  分に注意する必要がある。

う公害騒音問題とか,武器,危険物の販売問題,       図2 新製品開発プロセス

俗悪な趣味の広告物等の問題などで生じている事

柄である。業界としての倫理要項とか・自主規制  至 営 藩 将 褻

などがすでに擁立されているものもあるように,  業 今日では,消費者利益概念に,市民文化を享受  暴

析 析 析 験 発 )

する権利を含めるべきである。

自己実現の権利の第二の問題は,その機会均等   出所)J・G・Ud・】l and G・R・Laczni・k

「Marketing ln an age of change」p.241

性にある。つまり,少数のハンディキャップの人

々,高齢者,あるいは幼児,あるいは少数の民族  ①アイディア創出の段階において,危害が容易 の人々に対して,ビジネスが自己実現の権利を保    に想定できるような製品アイディアは捨てる 証しているであろうか。自動車メーカーでは身障    こと。

者用のクルマを開発しているが,価格その他の面  ②社会分析においては,関連法規業界内の自 で十分に購入機会が与えられているであろうか。    主規制,社内の安全基準と比較して新製品の

これへの対応は一企業としては困難であるので,    安全性を客観的に評価しなければならない。

業界としての対応,あるいは,行政レベルでの対   ちなみに,現在制定されている関連法規は次の 応が求められてくるかもしれない。       ものである。

しかしながらいつれにしても,自己実現という  1)食品安全法 消費者利益を確保するためには市民文化を享受す  II)薬事法

る権利が認められなくてはならないであろう。   III)電気用品取締法 これからのマーケティングは,その意味で人間  IV)消費生活用製品安全法

性を尊重したヒューマニスティックマーケティン  V)有害物資を含有する家庭用品の規制に関す グ戦略でなければならない。      る法律

そして,蛇足かもしれないが,このような戦略 ③営業分析においては,製品の安全性を高めるた は必ずしも企業利益を阻害するものではないし,   めのコストとベネフィットの関係を十分に分析 むしろ,企業イメージ,新製品開発,流通戦略その   する。

他の面においても多くの成長機会を与えうるもの ④技術開発と試験段階においては,特に安全性に である。       ついて念入りの実験を繰返す必要がある。この 場合,商品テスト機関の充実が望まれるが,単

2.消費者利益実現のための製品戦略       なる物理化学的検査だけではなく,現実の生活

消費者利用の中で,最も優先されなければなら  者の立場においての検査が必要である。そのた

(5)

めには,ホームエコノミストの活用,大学の家  示』である。

政学部との共同研究,消費者モニター制の整備   景表法において,広告が消費者に対して不当表 がなされなければならない。         示となる場合は次の点である。

たとえば,大手の電機メーカーでは,商品研究 ①品質規格等に関する優良誤認表示

所を設けて,家庭電気製品の安全性の研究センター   広告が商品又は役務の品質,規格その他の内容 にしている。その中でも特色があるのは,ベター  について,実際のもの又は当該事業者と競争関係 リビングセンターで,これを技術と生活の接点と  にある他の事業者に係るものよりも著しく優良で して位置づけている。ここでは,各種新製品,新  あると一般消費者に誤認されるため不当に顧客を システムが実際の生活の場と似た状況で実験され  誘引する場合は不当表示になる。ここで,何が優 ている。また,ここは,消費者や社外の人々との  良誤認を導びくことになるかはそれぞれの業界で 意見の交流の場にもなっている。        作成された公正規約による。

⑤マーケットテストの段階にお』いても,新製品 ②価格その他の取引条件に関する有利誤認表示 の販促計画の情報を得るだけでなく,実際の使用   広告が商品又は役務の価格その他の取引条件に 場面にお』いて消費者に対して危害を与える可能性  っいて,実際のもの又は,当該事業者と競争関係 がないか再度チェックする。      にある他の事業者に係るものよりも取引の相手側

⑥製品導入にあっては,製品の安全性について  に著しく有利であると一般消費者に誤認されるた の正確な情報をあわせて提供すべきである。    め,不当に顧客を誘引する場合は有利誤認になる。

⑦将来開発においては,来たるべきモデルチェ ③その他取引に関する誤認

ンジに備えて,安全性の改良点を検討しておくべ   これは①②以外に,商品又は役務の取引に関す きである。       る事項にっいて一般消費者に誤認されるおそれが 製品の安全性に対して一貫した注意が向けられて  ある表示であって,不当に顧客を誘引し,公正な いなくては,安全な製品を消費者のもとへ提供す  競争を阻害するお』それがあると認めて公正取引委 ることができない。      員会が指定するもの。

       ところで,広告による消費者利益の実現を考え3.消費者利益実現のためのコミュニケー

@       る場合,これからは次の点にメーカーは配慮すべション戦略      きである。

マーケティングにおけるコミュニケーション戦  ①一般消費者に対する誤認というが,一般消費者 略は,大別すると以下の4つの活動をどう展開す  といっても様々なレベルの知的能力がある。たと

るかにある。      えば,子どもに対しては誤認をさせやすい。最近

①広告(情報による説得)      のメーカーは玩具だけでなく,食品でも耐久消費

②人的販売(人間的能力による説得)      財でも広く子ども市場をターゲットとしているケ

③販売促進(事物による説得)        一スが多いので,特定の企業の広告表示にっいて

④パブリシティ(ニュースによる説得)     規制するのは難しい。

(注12)

消費者の利益に貢献しようとするならば,これ   さらに,広告は,企業の自由かつ自主的な営業 らのコミュニケーション活動を通じて,消費者に  努力のなかでも主要な活動であるし,表現の自由 正しい情報を伝達すべきである。        という立場からもあまり規制すべきものではない。

(1)広告による消費者利益の確保      しかしながら,子どもを主要ターゲットとする 広告における消費者利益の基準になるのは独禁  商品にお』いては,広告媒体の種類,時間帯などの 法の特令として規定された「不当景品類及び不当  点から子どもに接触する可能性の高い広告物に対 表示防止法」(以下,景表法と呼ぶ)における『表  しては,誤認の可能性を少なくする配慮をすべき

(6)

6      茨城大学政経学会雑誌  第47号

である。       したり,安全な製品の使用方法を教育したり,あ

②不当表示の問題として,これまで多くとりあげ  るいは店舗に出かける機会と能力にハンディがあ られてきたのは,主として,印刷物の方であった。 る人々に対して,こちらから訪問したりして数多 しかし,今日の広告の主役は,電波媒体,特に,  くの点で,消費者の利益に貢献している。

テレビ広告である。      しかし,別の面からみると,人的販売活動は消 ところが,テレビ広告における表示は,比較的, 費者の利益を損っていることも少なくない。なか 記録性が悪く,あまり規制の対象になりにくいと  でも,最も消費者との間にトラブルを引き起して

ころがあった。したがって,メーカーあるいは業  いるのが訪問販売である。訪問販売員による巧妙 界としても消費者利益の視点からもう一度見直す  な勧誘,強迫的なセールス詐欺的セールスなどが べき点も少なくない。       よく消費者の側から指摘されてくる。

③広告活動は,以上のように,表示として理解し  こうしたトラブルの多くは,訪問販売が商品の た場合,誤認の問題もあるが,その説得力を積極  授受や代金の支払いをする以前に,多くの場合,

的に活用し,市民としての消費者の文化に貢献す  現物をみないでカタログやセールスマンの話だけ べきであろう。      で購入契約を結ぶことから生じる。

たとえば,専売公社の一連の「スモーキングク   このような場合,消費者の被害を救剤する仕組 リーン」キャンペーンの広告は,十分に消費者利  みとしてクーリングオフがある。これは消費者に 益も配慮したものである。       対して一定期聞無条件解約権を認める方法である。

もっともタバコの広告自体,消費者の利益に貢  現行では割賦販売の場合において認められている 献するかは難しい問題ではあるが,消費者が自主  が,産業構造審議会流通部会の答申(昭和49年12 的にタバコを購入していると仮定するならば,そ  月)では,訪問販売でもクーリングオフを認める れはそれで一っの経済的行為として尊重されなけ  べきであると提案している。

(注13)

ればならない。と同時にマナーを提案する広告は,  メーカーの立場で,独自にクーリングオフを認 環境を快適にすることにより,よりよく生きてい  めることは競争上他社に対して不利になりかねな くという市民の権利に対応する点において消費者  い点もあるので業界全体でこうした制度を定着し 利益に貢献するものであるといえよう。     ていくことは望ましいことである。そのことによ

この他,空缶とかゴミの捨て方,クルマ,ステ  って,悪徳メーカーを追放できるからである。

レオ,エアコン等,騒音問題に関係する耐久消費   したがって,当面,メーカーとしては・消費者 財の利用方法についてマナーを提案する広告もま  利益を尊重するならば,訪問販売にお・いて契約を た,市民としての消費者の権利に対応するもので  結ぶ場合に,消費者の意思決定を誤まらせないよ ある。       うに,十分な調査と説明と通知を行なうことがで

さらに,正しい日本語,美しい日本語,美しい  きる仕組みと教育機会をセールスマンに与えるべ 表現に心掛けて広告することも今日では消費者利  きである・

益につながるものである。      もちろん,今後の課題としては,人的販売活動

(2)人的販売における消費者利益の確保,人的  は,やはり,美しい言葉とマナーで行なわれるべ 販売は,店主とか店員,あるいは,セールスマン  きであるし,平和でかつ静かな環境を阻害するよ

といった人間の説得能力によって顧客の購買意欲  うな要素は排除されるべきであろう。特に,今後 を喚起していく活動である。ここでいう説得能力  においては,ダイレクトマーケティングの発達に とは,対話能力,縁故能力,態度能力などを指す。 よって,電話販売も考えられてくると,個人生活 こうした販売活動は,消費者の意見を十分に聞い  への割り込み方が問題にされるであろう。

たり,質問や疑問に対して正しくかっ詳細に説明   (3)販売促進活動による消費者利益の確保

(7)

販売促進活動は,事物による説得活動が中心で   一,そしてニュースリリースなど各種の企画に ある。特に,展示会,見本市などのイベント,催   よって,マスコミのニュースに採用されるよう 事とかプレミアムとかサンプル,インセンティブ   に促進すべきである。

などによる物質的刺激がその代表的なものである。

       4.消費者利益実現のための流通経路戦この活動は,多くの場合,広告と同様に景表法

      略によって規制されているので,これを守ることが

まず第一である。次に,業界として販売促進の基   消費者利益を具現化した製品づくりが行なわれ 準を設けている場合は,企画担当者は,これを尊  たならば,次にその製品を流通する際にどのよう 重すべきである。また,企業としては,販売促進  な形で,消費者利益を提供していくかが課題にな 策が不当な取引誘引にならないように,監査する  る。

体制をつくりあげておかなければならない。     まず,第一に問題にしなければならないのは,

以下,消費者利益に貢献する販促活動を指摘す  安全性の確保である。せっかく,高品質で安全性 ると次のようになる。       を考慮した製品がっくられても,流通の段階で,

①消費者教育によって製品の正しい使い方を指  品質劣化を起していたり,安全性を無視するよう 導する。       な在庫管理や販売方法をしていたのでは,話にな

②市民文化に貢献する文化的イベントを開催す  らない。この点から言えば,優良店の選別,教育 る。       指導が流通対策として不可欠になる。

②消費者の意見をきく,イベントを開催する。  第二に,消費者の知る権利に対応した流通対策

④環境クリーンと自然保護のキャンペーンを行  が欠けていることも問題である。消費者の側から なう。      質問されても品質,成分等について十分な説明が

⑤マナーのよい商品使用を促進するためのプレ できない流通業者が少なくない。

ミアムを提供すること。       日本の流通業者の大半は家業的性格であるので,

以上の他にも販売促進活動には,消費者利益の  店主のみならず,奥様,二世,店員に至るまで広 実現に役立つ活動が多く考えられる。       く,教育をしていかなければ消費者の利益を損な

④ パブリシティにおける消費者利益の実現パ  うことになりかねない。たとえば大手のメーカー ブリシティ活動は,企業の事実をニュースとする  は,販売店主や家族の商品知識教育だけでなく,

ことによって消費者を説得するものである。ニュ  教養教育まで広げて,市民文化を提供できる小売 一スに対する消費者の信頼は非常に厚いものがあ  店への脱皮をはかっている。

る。       第三に,消費者の選ぶ権利と流通系列化政策の そこで,消費者利益に貢献する消費者情報の手  関係は微妙な問題である。先に独占禁止法研究会 段としてパブリシティ活動を積極的に押し進める  が流通系列化のメリットとしては,

べきである。たとえば,次のようなパブリシティ  ①社会的分業による利益の増進 活動は消費者利益になる。      ②流通コストの節減

①「暮らしの手帳」,「月刊消費者」等の商品評  ③情報の効率性と計画的生産販売の確保 価にお・いて高い評価を受けた製品のニュースは  ④専門的知識経験による販売及び充実したアフ 積極的にパブリシティを展開すべきである。   ターサービス,品質管理があり,デメリットとし

②商品の正しい使い方,美しい使い方をマスコ ては,消費者の場合,

ミ関係者に十分に伝えておく。      ①価格の硬直化

③消費者利益を組み込んだマーケティング活動  ②利益の系列内部化

は,PR映画,記者会見,フユーチャーストリ  ③新規参入の阻害により提供商品の種類が少な

(8)

8      茨城大学政経学会雑誌  第47号

くなること      市場調査戦略は,従来,マーケティング戦略と

④適正な情報の収集と選択機会の損失      して位置づけられることが少なかった。しかしな が指摘されているが結局,流通系列化自体は中立  がら,消費者の意見がとげけられるという消費者 的であって,その中に含まれる「不公正な取引方  利益の観点からみると,市場調査は,消費者利益 法」が問題にされている。       志向のマーケティングにとって重要な活動である

選ぶ権利の問題からいえば,大規模小売店も大  といえるだろう。

きな問題を含んでいる。大型店を規制することは,  しかしながら,従来の市場調査はマーケティン 消費者の大型スーパーを利用する権利を明らかに  グ問題の解決に必要な情報の体系的収集,分析,

阻害することになるからである。ただし,今日の  記録報告の活動とされているが,実際にマーケ 大型店問題は,購買者の利益だけでなく,生活者  ティング上の問題になる消費者利益に関する情報

としての利益を考えた場合,環境汚染とか交通公  があまり吸収されていない。

害もまた消費者利益に関っているし,さらに,都   というのは,市場調査の大半は,企業側が設計 市計画と大型店立地場所の整合性は,市民として  した調査プログラムにしたがって,企業側の抽出 の消費者利益とも関係してくる。        した消費者から情報が収集される構成になってい したがって,今日の大型店問題は,単なる経済  るために,企業側が意図しなかった問題とか抽出 的利益の問題から市民文化的利益の問題へと広が  しなかった消題者の声が企業に入っていないから

りを見せている。当然,豊かな社会では,後者の  である。したがって,企業と消費者との間の問題 意味での消費者利益の重要性が増して来ている。  認識にギャップがあればあるほど,消費者は不利

第四に,意見を聞きとどけられる権利の問題に  益になる。

っいては,流通とともに販売店の役割が重要であ   そこで,クレームとか相談とか不満のような,

る。消費者の製品に対する不平不満の大半は,製  消費者の側から何時でも何処からでも,自由に出 造元であるメーカーではなく,その販売店にむけ  てくる声をキャッチする耳の仕組みを企業内に設

られるからである。      定すると同時に,積極的に消費者の声を聞きに出

(沌15)

したがって,消費者利益の増進のためには,流  かける活動をすることが消費者利益にっながると       ●

通経路に消費者のクレイムとか不平不満を吸い上  いえる。消費者窓口を設けたり,消費者室を設け げてくる吸引口とパイプをつくることがメーカー  ることは前者にあたるし,フィールドミーティン の課題になる。      グを持つことは後者の例であるが,いつれにして

さらに,今後の流通にお』ける消費者利益問題を  も,ツウウェのシステムをつくりあげることが今 考える時,身障者のような小数集団への流通経路  後の課題になる。

問題も重要であるが,それと同様に過疎の農村と   ところで,最近の消費者の生活は多様化し,コ か都心においてクルマを利用できない老人に対し  ミュニケーション構造も複雑化してきているし,

ての販売店をどのようにして確保するかも一つの  消費者権利意識に目覚めてきているので,計画的 問題を投げかけてくる。      な市場調査をもその一部とするような,総合的な そこには自動販売機,通信販売,訪問販売等,  消費者リスニングシステムをつくりあげることに 新たな流通経路を作りあげていく課題があるかも  よって,より高い消費者利益の実現ヘー歩近くと しれない。       いえる。そのためには,次の点に配慮すべきであ

いずれ高齢化社会の進展とともに十分な研究を  る。

要する分野になるであろう。         ①市場調査をなるべく消費者の生活場面で行な

うこと。

5.市場調査にお』ける消費者利益の確保      ②消費者の側の声を自由に発言させる場をつく

(9)

ること。      ところで,消費者サービスは大別して,二つに

③市場調査のシステムと消費者のリスニングシ 分けられる。ひとつ1よ顧客に対するサービスであ ステムを連動し,総合的に判断できるようにす  り,他のひとつは非顧客である生活者とかコミュ る。       ニティとか小数集団に対する社会的サービスであ

④市場調査によって,消費者の平和でかつ静か  る。

な生活空間がやぶられないようにする。      まず顧客サービスの充実のためには,その方針 の確立,組織づくり,基本業務の確定などが重要

6.消費者サービスにおける消費者利益の      である。たとえば,松下電器産業では,サービス

確保       活動を図3の7つの基本業務に分け,それぞれの 消費者利益を実現するためには,消費者サービ  レベルで,消費者利益の実現をはかっている。

腔16)

スは最も重要な戦略である6というのはこれまで   さて,消費者サービスにおける今日的な課題は のマーケティングは消費者に買ってもらうことに  社会的なサービスである。企業の提供する製品の 最大の努力を払ってきたが,消費者にとって一番  社会的マイナス要因とか外部不経済,たとえば騒 大切なことは使って,消費して満足が得られるか  音とか環境汚染)を相殺する意味でも,企業は自 どうかである。楽しくかっ安全に商品が利用でき  社製品のノンユーザーやコミュニティや小数集団 て,はじめて消費者は満足感を得ることができる  に対して社会的なサービスを提供するべきである。

のである。      これらの社会的サービスを担当する組織として,

したがって,そのような満足感にっながる消費  米国ではパブリックアフェア(PA)部門を置く 者サービスを充実することは消費者利益を尊重し  ところが増えてきている。この部門の主たる対象

〔沌17}

たマーケティング戦略といえる。       領域は,④コンシューマーアフェァズ⑤コミュ

図3 消費者権利に対応したサービス政策

消  費  者  の  権  利 サービス

ュ   策 安全である 自由な選択 知らされること 意  見  をォいてもらう

安全で故障しにく 旧型製品の維持 グループ

プロダクト い製品企画 インタビュー

サービス ホームエコノミス

ト活用

イ   ン 正確で安全な設置 正しい取り扱いと

サービス 使用上の注意の啓

ビフオア 事故の事前防止の 最良の状況下での

サービス ための巡回サービ X

動作使用の確認

アフター 修理サービス アフターサービス クレームの処理

サービス の利用機会を知ら コンプレイントの

せる 処理

技術助成 安全性維持の技術 技術的な特長を知

らせる 技術資料の配在 部晶供給 部品の維持管理 旧型部品の欠品防 部品価格表の整備

即手内体制の向上

消費者相談 消費者啓発 消費者モニター制

買物相談

(10)

10       茨城大学政経学会雑誌  第47号

ニティアフェアーズ ◎ガバメントアフェアズの  (5)巻田正平著「消費者思想」

三つである。.      (6)正田昭夫「消費者権利」

わが国においても,今後,企業の社会的責任が  (7)時実博「脳の話」

増大するにつれて,こうした部門において,社会  (8)マズロー著小口訳「自己実現欲求」

的サービスを遂行するようになるであろう。    ⑨靴オルポート「人格心理学」

(1①ダニエルヤンケロビッチ板坂元訳「ニュールー 以上,消費者利益に対応したマーケティング戦   ル」PP31−32

       (11)J.G.Udell and G. R. Lacznick 「Marketing略への検討を行なった。今回は,その第一次的i接

      in an age of change」近として,分析のクレームワークづくりに終始し

       働公正取引協会「子どもCF調査」た。いつれ,より個別のテーマでより深い分析を       (㈹伊藤進・木元錦哉・小松俊雄共著「消費者の権しなければならなくなるであろう。      利」

(⑳川越・河村,田島・中村他共著「流通系列化対

※ この研究は昭和56年度流通政策研究所「消費   策の解説」

者利益研究」プロジェクトの一環として行われ  ㈲流通政策研究所「消費者利益に関する研究調査 たものを,発展させている。      報告・書」

(1⑤刀・根武晴監修「アフターセールス戦略」

〔注〕      (1の宇野政雄著「実践マーケティング戦略1

(1)経済法学会編「独占禁止法講座」

金沢良雄稿「独占禁止法理論」p172

(2)前掲番pl73

(3)山田,小泉,篠原他「近代経済学辞典」p327

(4)ジュリスト「消費者問題」宮沢健一稿「経済構造 における消費者の地位」p37

参照

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