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不登校経験児に対するキャンプ療法の試み

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(1)

不登校経験児に対するキャンプ療法の試み

著者 岡村 泰斗, 小野 昌彦, 福田 哲也, 中川 もも, 荒

木 恵理, 米山 絵理

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 13

ページ 137‑142

発行年 2004‑03‑31

その他のタイトル Approach to Camp Therapy toward

Going‑to‑school Behavior of Students with

Experience of Non‑attendance at School

URL http://hdl.handle.net/10105/68

(2)

1.研究目的

本研究の目的は、キャンプが不登校経験のある児 童・生徒の再登校行動維持に及ぼす効果を、キャンプ 前、キャンプ中、キャンプ後における縦断的診断に基 づき、行動療法学的に検証することである。

不登校児に対するキャンプ療法の効果を実証的に検 証する報告が数多くなされている。例えば、中島

(1981)は、冒険プログラムを中心とするキャンプに 参加した中学2年生の男子不登校児1名に対し、所属 する班のカウンセラーが行動観察を行うとともに、

P−Fスタディ、自己概念検査、親子関係診断テスト をキャンプ前後で実施した結果、不登校児のパーソナ リティ、自己概念、親子関係は向上し、登校状況が改 善したことを報告している。

同様に、石川(1989)は、冒険キャンプに参加した 岡村泰斗

(奈良教育大学保健体育講座)

小野昌彦

(奈良教育大学附属教育実践総合センター)

福田哲也

(奈良教育大学附属中学校)

中川もも・荒木恵理・米山絵理

(奈良教育大学大学院保健体育)

Approach to Camp Therapy toward Going-to-school Behavior of  Students with Experience of Non-attendance at School 

Taito OKAMURA

(Health and Sports Science, Nara University of Education)

Masahiko ONO

(Center for Educational Research and Development , Nara University of Education)

Tetsuya HUKUDA

(Attached Junior High School, Nara University of Education)

Momo NAKAGAWA・Eri ARAKI・Eri YONEYAMA

(Graduate School of Education, Nara University of Education)

Abstract: The purpose of this study was to examine the effect of camp therapy toward going-to-school behavior of students who had experienced non-attendant at school. An approach based on behavior therapy was used to observe the behavior before, during, and after the camp and to design camp programs. Three students who had experienced non-attendance at school and restarted going to school were participated at five-day adventure camp including team building activities, natural historical trip, 2-day canoe expedition, and campfire etc. Three camp counselors who major outdoor education observed their target behavior and recorded them during the camp as well  as  instructed  camp  programs.  On  the  other  hand,  two  university  students  who  major  clinical  psychology assessed them before and after the camp. The analysis of observation showed an improvement of target behavior during the camp and an increase and maintenance of going-to-school behavior after the camp. 

キーワード:不登校児 non-attendant at school、キャンプ療法 camp therapy、行動療法 behavior therapy

(3)

不登校児の学校復帰状況、不安、自己概念、友人関係 について調査した結果、登校状況は改善し、特にソシ オメトリックテストで健常児と相互選択または、被選 択のあったものは、学校復帰に成功する傾向があるこ と明らかにしている。

飯田ら(1990)は、10日間の冒険キャンプを中心に したキャンプ療法を実施することにより、13人中10人

(76.9%)の不登校児が再登校を果たしたことや、自己 概念の向上を明かにしているが、その原因として、キ ャンプや冒険活動に対する不安やストレスの克服体験 を指摘している。

さらに、飯田ら(1992)は、10日間の冒険教育プロ グラムを中心としたキャンプ療法の効果を、不登校児 の1)精神医学的側面、2)心理学的側面、3)行動 的側面のから検証し、いずれの側面にもポジティブな 効果を報告している。

一方、千代田ら(1999)は、これまで行われてきた 実証的研究の成果をふまえ、長期牧場生活体験に参加 した不登校児の再登校までの過程を質的研究によって 明かにした。2年間不登校が続いた男子高校生1名を 対象に、約5ヶ月間にわたる牧場生活体験を実施し、

参与観察、文章分析を用いて、その変化を抽出した。

その結果、馬との関わりの獲得が、他者との人間関係 に発展し、再登校への自信を深めたと報告している。

このようにいずれの研究においても、登校状況とい った行動的側面に着目しているのと同時に、特に不登 校児の自己概念といった心理的効果に焦点が当てられ ていることが明かとなった。また、効果の要因として、

キャンプ中の困難やストレスを克服することの成功体 験、または、人間関係の向上が示唆されている。

しかしながら、これらの研究は、一様にキャンプ参 加にいたるまでの不登校児の状況と、キャンプ参加後 の質的な変化を十分に追跡できているとは言い難く、

小野(1997)が不登校への支援で重要とした個々の対 象へのアセスメントが不十分であった。また、キャン プ場面の特性から、キャンプ中の対象児に対する個別 的な診断、指導、及び観察も困難であった。

そこで、本研究では、これらの問題点を解決し、今 後の不登校児に対するキャンプ療法の在り方と研究方 法の新しいパラダイムを探求するために、キャンプ前 後をアセスメントの領域として設定したキャンププロ グラムが再登校行動維持に及ぼす効果を検証する。キ ャンプ前の診断過程で不登校児の標的行動を同定し、

それらを改善するための指導法、プログラムをキャン プ場面に導入した。また、キャンプ中における不登校 児の観察も、それらの標的行動に特定して行った。さ らに、キャンプ後の変化についても、継続的なカウン セリングを行うことによって、個別的にデータを収集 した。

2.実践の概要

2.1.対象児

2.1.1.対象児の概要状況

対象児は、奈良教育大学教育実践総合センター教育 臨床部門基礎研究分野相談室に来談し、再登校を目的 で援助依頼をし、再登校を果たした児童・生徒3名で あった。表1に対象児の概要を示した。

2.1.2.対象者の標的行動の選択

対象児の基本的な標的行動は夏休み以降も登校行動 の維持であった。

Kは、母子同伴登校の経験があり、現在は単独登校 を果たし継続している。再登校援助中の標的行動は、

母子分離、国語の一分間スピーチ、ルールを守る行動 であった。不十分ながら、この行動の達成により再登 校したがより強力に獲得させる必要があった。そこで 学校場面よりも不安の高いキャンプ場面で、これらの 行動を達成することはさらに自信を高め、行動獲得を 強固にし般化する、すなわち指導場面で構成されたプ ログラムと同一のプログラムがなくとも、異なった非 指導場面(日常場面)のもとで対象行動が生起するこ と(Stokes & Bear, 1977)を促すと考えられた。

Uは、けんかの多発で不登校を経験し、現在は再登 校を果たしているが、けんか多発は変化していない状 況であった。この維持要因として学校・家庭場面では、

けんか後の対応でUのみが責められていたことが考え られた。そこで、このけんか後の随伴状態を少なくと も公平な対応に変化させる必要があった。そこで非日 常場面であるキャンプ場面において、けんか後に相手 から謝られる体験をすることによってUの自己抑制行 動を獲得することが目標となった。そして可能である ならば、攻撃的な言動の変わりに冷静に話し合いをす る行動を獲得することによって学校場面でのけんか状 表1 対象児の概要

名前

K

U

F 学年 性別 小4 男

小6 男

中2 女

不登校 期間 不登校 3ヶ月 母子同 伴登校 2ヶ月 不登校 2ヶ月

断続的 不登校 3ヶ月

不登 校の 契機 転校

友人 関係 のも つれ 書字 困難

セッションの 時期 期間 小4 5〜7月 約2ヶ月

小5 11月 面接1回

小6 5〜11月 約6ヶ月

主な再登校 援助内容 段階的単独 登校。苦手 教科への準 備。

  本人、母親 のカウンセリ ング。 教員 の学校生活 記録表作成。

書字訓練。

母親面接。

教員への助 言。

キャンプ前の 登校状況  良好。約1ヶ月 単独登校。

ほぼ良好。数 回対人トラブ ル時に欠席。

良好。欠席なし。

(4)

況が変化することを期待した。

Fは、書字困難による不登校経験があり、対人スキ ルの問題も抱えているが、現在、再登校(約3年間継 続)を果たしており、その活性化を目標としていた。

そこでキャンプ場面では、適切な書字、会話の相互作 用の増加、相手を賞賛する場面を標的行動とした。学 校・家庭場面以外での不安が高い状況でこれらの行動 を表出させることにより、より広い範囲での般化を期 待した。

2.2.キャンプの概要 2.2.1.キャンプの特色

本キャンプは、2003年8月19日(火)〜23日(土)

の4泊5日の日程で、奈良教育大学付属幼稚園にて、

1泊2日の木津川リバーツーリングをメインプログラ ムとして行われた冒険キャンプであった。キャンプの 目的は、1)様々な野外活動への挑戦を通して、やる 気や自信を育むこと、2)水辺活動を通して、水に対 する興味・関心を育てること、3)集団生活を通して、

仲間と助け合い思いやる気持ちを養うことであった。

2.2.2.キャンプ参加者及び指導体制

キャンプ参加者は、小学校4年生から中学校2年生 まで、男子17名、女子5名の合計22名であった。

キャンパーは、各班5、6名の男女学年混合グループ の4つの班に分けられ、その内の3班に不登校経験児 が1名ずつ含まれる統合キャンプの形態をとった。

キャンプの運営・指導には奈良教育大学野外運動担 当教官と野外運動を専攻する大学院生及び学部生、合 計10名で行われた。不登校児を含む班には、キャンプ 指導経験2〜3年の大学生及び大学院生をキャンプカ ウンセラーとして配置した。また、カヌーの指導には、

日本カヌー普及協会インストラクター2名、奈良自然 塾会員8名の協力を得た。

2.2.3.キャンププログラム

キャンププログラムは、発達段階に応じたストレス 体験を克服する成功体験により、心理的、社会的、精 神的成長をねらいとする冒険教育プログラムの理論に 基づいて計画された。主な活動内容は、冒険教育の基 礎の段階として、グループの人間関係の形成や野外生 活技術の習得を目的に行われた仲間作り野外ゲーム、

野外炊事、班別プロジェクト、次に、冒険教育の挑戦 の段階である1泊2日のリバーツーリング、最後にこ れまでの体験の意味や価値を解釈する冒険教育のふり かえりの段階である生還パーティー、キャンプファイ ヤー、キャンプクラフトから構成された。

キャンプ初日に行った仲間作り野外ゲームは、奈良 公園の飛火野の自然環境を利用した野外ゲームであ り、グループ全員で協力しながら解決するものであった。

班別プロジェクトは、春日山原生林をフィールドと して、「巨木をさがす」、「音をさがす」、「動物をさが す」活動を班ごとに行った。これらのテーマに沿って、

発見したものを写真やテープに収め、その日の夕食後 に報告会を行った。

リバーツーリングは、キャンプの3、4日目に1泊 2日をかけて行われた。遠征1日目には、笠置キャン プ場にテントを設営し、パドリング講習と川の流れが ない場所でのカヌー練習を行った。遠征2日目には、

笠置から木津までの間の15km、所要時間5時間に及 ぶリバーツーリングを行った。

2.3.観察の手続き

2.3.1.面接(キャンプ前後)

奈良教育大学教育実践総合センターにおいて、1名 のスーパーバイザー、及び2名の研究室所属学生(主 担当)が行った。小野(2003)のアセスメントの着眼 点を基に実施した。

2.3.2.参与観察(キャンプ中)

前述した、被験者のキャンプ中の標的行動について、

キャンプカウンセラーが、観察法によりデータ収集を 行った。カウンセラーはキャンプ活動中、常にフィー ルドノートを携帯し、被験者の標的行動が見られた際 に、その場面や活動内容、被験者の行動等について記 録し、一日ごとにその日の標的行動について文章によ る生活記録をまとめた。

Kの人前で話す機会については、班別プロジェクト の活動報告時を、Fの書字場面については、キャンプ クラフトと親への手紙をプログラムとして導入するこ とによって、標的行動を観察した。

また、キャンプ中、毎日活動終了時に、被験者とカ ウンセラーの一対一での面接を行い、班内での人間関 係についての質問やその日の標的行動に関するフィー ドバック、次の日の目標設定等を行う時間を設けた。

インタビューから得られた情報も随時ノートに記録を 取った。

3.結果及び考察

3.1.対象児U

奈良教育大学におけるセッション1回と学校コンサ ルテーション(電話・FAX・学校訪問)を計13回 実施した。初回面接より4日後に再登校を果たしたが、

登校行動の形成を目的に大学においてインテーク面接 を実施した第1期(5年生11月11日〜11月17日)の登 校率は32.2%であった。続く登校維持を目的に学級担 任による登校に対する賞賛の介入を行った第2期(5 年生11月18日〜6年生5月8日)の登校率は98.4%で あったが、学級会や体育でのゲーム場面において喧嘩

(5)

が見られた。喧嘩の低減を目的に学級担任によるスキ ル指導の介入を求めた第3期(5月9日〜7月18日)

では、喧嘩も継続し、学級担任の不適切な指導もあり、

登校状況が85.0%に低下した。キャンプ参加による介 入を行った第4期(7月19日〜8月31日)では、キャ ンプ期間中に口論となったことに対し適切な問題解決 がなされ、その後問題行動は見られなかった。キャン プ後の登校の安定を目的とした第5期(9月1日〜)

では、登校率が100%に回復し、喧嘩の回数も減少し、

適切な問題解決方法がとられるようになった。

キャンプカウンセラーによる行動記録及び標的行動 の出現状況の記録は以下の通りであった。

8/19(1日目)友達の一人から言葉での攻撃を受 けたが、まったく喧嘩・トラブルといったことに発展 することはなかった。また、Uが、攻撃的な行動・態 度をとるといったこともなかった。むしろUは、キャ ンプ初日はかなり落ち着いていて、おとなしく、あま り友達に話しかけるといったことはなかったが、その 友達からの言葉の攻撃をきっかけに話し出すようにな り、また、その他に、話し出すきっかけを与えると、

楽しそうにしていた。また、頭痛、腹痛を訴え、気分 が悪いときに、不機嫌になってはいたが、反抗的、攻 撃的な態度は見受けられなかった。

8/20(2日目)朝から夕方まで、Uは頭痛、腹痛 を訴え、しんどがっており、自分の体調のことでいっ ぱいで、他の人と関わることがほとんどなかった。ま わりも喧嘩・トラブルになるような原因をつくらなか ったので、喧嘩・トラブルが発生することはなかった。

夕方の入浴の時間に、友達から間違って水をかけられ、

口喧嘩がおこったが、体育館から出てきてすぐ、友達 が謝って、Uも納得した様子で、その後は何もなく話 も普通にしていた。

8/21(3日目)朝から夜まで特に喧嘩やトラブル になるようなことは起こらなかった。U自身、かなり カヌーに興味があり、移動やカヌーの練習中も常に楽 しそうにしていた様子で、少々のことには反応を示さ なかった。

8/22(4日目)カヌーに乗っているときに、カヌ ーを押されてひっくり返りそうになったことが原因 で、初めは気持ちが高ぶり喧嘩しそうになっていた。

しかし、すぐに別の友人がUのところに来て、一緒に ふざけ出したため、その後喧嘩・トラブルになること はなかった。班員みんなでスタンツを決めるときに、

言ったことに対して友達に反応がなく、無視された状 態になり、不満そうな顔をしていたが、そのときは時 間がなく、カウンセラーがUの意見を拾って、仲をと りもつことによって喧嘩・トラブルを避けた。Uは、

友達との衝突が多く、よく喧嘩をすると知らされてい たが、キャンプ中にはほとんど喧嘩になりそうな場面 がなかった。むしろ、誰でも腹を立てたり、怒ったり

しそうなことも、喧嘩にならなかったという場面もあ った。

以上の観察結果から、喧嘩が起こったとき、もしく は起こりそうになったときに、カウンセラーにより、

適切な解決方法がとられていたことや、キャンプ活動 に対する興味や、仲間とのポジティブなムードが、喧 嘩にいたらなかった要因となっていたことが推察され る。また、冒険活動に対する克服体験や、キャンプ中 の人間関係の成功体験が、キャンプ後の登校状況の安 定化につながったと考えられる。

3.2.対象児K

Kのキャンプ前後の詳細なデータはないが、スーパ ーバイザーの学校コンサルテーションの結果、登校状 況が安定したことが報告されている。

キャンプ中のKの行動について、担当カウンセラー は以下の様に報告している。

8/19(1日目)ナイトハイク中に急に1人で歩き たいからみんなと離れて歩くという逸脱行動が見られ た。ナイトプログラム後、「テントで寝れない。」とホ ームシックで泣き出し、母親に電話して迎えに来ても らいたいと要求した。キャンプディレクターによる説 得の後、電話をしないことを納得しテントで就寝した。

8/20(2日目)起床後、朝食作りまでは、ホーム シックの延長で活動に参加しようとしなかった。ハイ キング中、同行スタッフから離れず、他のメンバーの ペースなど気にしていない様子が見られた。ハイキン グ報告会前、再び母親に電話すると訴え、報告会の打 ち合わせには参加しなかった。キャンプディレクター の判断により、1日1回だけ電話することを了解し、

スタッフの携帯電話にて母親と電話をした。母親には 事前にキャンプディレクターからKを励ましてもらえ るよう説明があった。電話をする前までは、メンバー で分担したハイキング報告の原稿を読むことを拒んで いたが、電話後の本番では自ら進んで約30秒程度の原 稿を手に取って発表した。

8/21(3日目)カヌーの練習で、ひとりづつ順番 に行うとき、自分が楽しい活動のときはまわりの順番 を気にしない様子が見られた。練習後の温泉出発前に、

昨日までとは異なり泣き出すことはなかったが、1日 1回と約束した母親への電話を要求した。内容は、最終 日に早く向かえに来てほしいと要求するものであった。

8/22(4日目)キャンプ場にもどってから、再び 電話の要求があった。内容は昨日と同様に最終日に早 く向かえに来てほしいと訴えるものであった。母親も 早くいくことを了承した。その後、キャンプファイヤ ーのスタンツをグループで考えるときには、積極的に 自分の意見を発言していた。

8/23(5日目)撤収などの活動のとき、自分はで きないと決めつけて試みようとしない様子が見られ

(6)

た。試みるように促すと、簡単にできることはすんな り受け入れていた。自分はできないからやらないとい う発言が全体的に多かったが、子ども同士での役割分 担の方がすんなり受け入れていた様子だった。撤収中 に、キャンプディレクターに対し、母親に時間通りに 向かえに来るよう連絡してほしいとの要求があった。

このときは、自分で電話をしたいとという訴えはなか った。

Kは、キャンプ中に逸脱行動が見られたが、その多 くが、ホームシックや母親、スタッフに対するあまえ に帰因する様な内容であった。母親との心理的な分離 に関しても、一日一回の電話をルールとするなど、段 階的に行ったことで、キャンプ活動をポジティブに受 け入れることができたのであろう。その結果、最終日 には電話をしなかったり、時間どおりに向かえに来る ように申し出る母親からの自立も見られた。

3.3.対象児F

5月11日〜10月15日かけて援助の介入を行った。そ の間、本人への介入13回(母親も含む)、母親への介 入3回、教員・親・援助スタッフによる合同面接1回、

学級担任の相談1回、学校訪問1回を実施した。主と して書字訓練を行った第1回セッション(5月11日)

では、12文字を書いたが、手に力が入っていない様子 であった。第2回セッション(6月18日)で、書字が 向上し、それを家庭、学校にFAXで送信し、学級担 任に賞賛による介入を求めた。その後、欠席状況が 徐々に改善された。第3〜10回セッション(7月2日

〜9月12日)の間に、ノートの罫線の大きさにひら がな全部を書く第2段階、漢字練習帳の枠の大きさに 漢字を書く第3段階まで到達し、書字の改善とともに、

登校状況も安定化した。

この間に行われたキャンプによる介入では、以下の ような行動記録が報告されている。

8/19(1日目)初対面の状態では伏せ目がちで緊 張している様子だった。会話も一返事で終わらせてい た。班とも一線を引いて、仲間作りゲームも最初は傍 観しがちだったが、Fの足が沢に落ちたことをみんな で大笑いした後、班と急に近くなり、自分の意見も言 うようになった。班の女の子とも仲良くなって、一緒 に食事の準備をしたり、ゲームで盛り上がったりして いた。この日の会話は14回(7往復)であった。夏休 みにどこかへ行ったかを聞かれたので、アメリカへ行 った話をしていたら、家族でハワイに行った話をして いた。ハワイでしたことや、家族の構成などについて 教えてくれた。途中、私に質問をすることはなかった が、一方的に話し続けるのではなく、私の質問に的確 に答えていた。

8/20(2日目)ハイキングが始まると前の方を歩 いたり、遅れてだいぶ後ろを歩いたり、ずっと班から

離れて行動する傾向が見られた。班員も励ましの声を かけていたが、一緒に歩こうとしなかった。途中の休 憩でも一人で離れた場所へ座り込んだので声をかけて みると、急にかんしゃくを起こして、特定の女の子に 対する暴言をはいた。後から聞いた話では、その子が もう一人の女の子と仲良くしていることで疎外感を感 じてしまっていたようだった。ハイクの途中で元気を 取り戻してからは、優しく声をかけてくれる男の子と 芸能の話や犬の話、節約の話などをしており、会話は 12回あったが、自分のしたい話を一方的にしている感 じだった。感情の抑鬱が激しいFに対して班員が戸惑 いを感じ、そのことでFは「男の子が陰口を言ってい る。」とテントに戻るのが怖いと言って泣いた。自分 にも悪いところがあるから、まずそれを見つけると言 っていた。テントに戻る前に女の子たちを連れ出し、

話を聞いてもらっていた。

8/21(3日目)朝食作りの時から出発の準備が面 倒臭そうで、憂鬱そうにしていた。自由時間に遊ぶと きなど自分のやりたいことをするときは、班員と仲良 くはしゃいでいたが、重い荷物を持って歩くときなど しなければならないときにやる気を起こさず、その態 度に対して班員も不信感を持ち、それでまた疎外感を 感じるという悪循環をくり返していた。班員に対して 気は使うけれども、もっと仲良くなりたいと望んでい ると話していた。班の女の子をからかって嫌な思いを させ、私の前では反省している様子を見せたが、本心 ではなかったようで、本人には謝罪していなかった。

しかし、話し合いで解決しようとする行動が見られ、

班で長く話し合っていた。

8/22(4日目)この日も同様に、「しなければいけ ない」場面で行動に移せず、疎外感を感じてしまうこ とが多かった。リバーツーリング時もハイキング時と 同じような行動をとった。夕食後はスタンツの準備で 今まで遊んできたゲームをアレンジしたのでスムーズ に入ることができ、明るく過ごしていた。スタンツに 使うネームプレートに漢字や英語でアレンジしたり、

上手にデコレートしていたが、賞賛しても「失敗やわ

〜」と自信がないようだった。班員の反応をとても気 にしていた。他の班が作ったちらし寿司のデコレート をすごいねぇと言っていた。

8/23(5日目)撤収時は割り当てられた役割をこ なしていた。クラフトで焼き板を作ったが、指をやけ どしたと言って途中まで装飾してやめていた。親宛の 手紙では、お父さんへ333文字の手紙を書いた。

Fは、1日目に標的行動に関する問題は表出しなか ったが、2日目以降、特に対人スキルに関する問題が 報告された。さらに、会話の相互作用に関しても、班 内の人間関係が形成されるにつれて、一方通行の会話 が顕著に見られるようになった。これらの報告は、不 登校児を対象としたキャンプ療法において、2、3日

(7)

間の短期プログラムでは、彼らの問題行動の表出やそ の行動改善に充分な期間ではないことを示唆してい る。本研究のように5日間のプログラムがあってこそ、

2日目になってから、徐々に班員との人間関係も形成 され、対人スキルに関する問題行動が現れたのであろ う。本研究においては、この改善にいたるまでの具体 的な行動変容は報告されなかったが、そのためにはよ り長期のプログラムが必要であろう。また、書字困難 に関しては、野外活動を中心に行われるキャンプの特 性から充分な訓練効果は望めなかった。

4.まとめ

これまでの実証的研究では、不登校児の自己形成に 焦点が当てられ、不登校を引き起こす原因となった問 題行動や標的行動を、個別的に評価する手法に限界が った。またこのような研究パラダイムにおいて、キャ ンプ中に不登校児の標的行動を改善するための個別的 な指導や観察に限界があり、キャンプの効果の要因に ついても、臨床的な究明が困難であった。

本研究においても、キャンプ前後の支援、観察と、

キャンプ中の指導、観察が、各々臨床心理の専門家と 野外教育の専門家が分担して行ったため、充分な情報 の伝達と共有に問題が残ったが、キャンプ中の標的行 動に焦点をあてた指導、観察と、一部の訓練プログラ ムの提供をおこなうことができた。また、キャンプは社 会の縮図といわれる通り、標的行動を引き起こす様な さまざまな場面や状況に直面するが、事前のアセスメ ントにより、個別的に的確なキャンプ指導が行え、5 日間の短期プログラムでありながら、3名全ての不登 校児の登校状況の改善に効果が見られたといえよう。

これは、行動論的な立場からは、対象児の標的行動 が、キャンプ後に学校場面で般化したといえる。般化 促進のためには、キャンプという指導環境の分析と学 校という日常環境の分析が重要であり、さらに非日常 場面であるキャンプでの指導が般化を促進させる条件 としては刺激性制御の問題、強化随伴性の問題が挙げ られる(Stokes&Bear,1977)。本研究では、これらの 両条件が有効に機能した結果であると推察される。今 後、学校現場の追跡研究をもとに有効であった条件を 縦断的に分析していくことが重要であろう。

引用文献

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系紀要13、81−90

飯田稔、小畠哲、真仁田昭、小田晋、森田展彰、楠本 克徳、鈴木恵美子、沢崎達夫、松原達哉、高橋知 音、関根章文、阪内宏一(1992)登校拒否児に対 するキャンプ療法の効果、伊藤忠記念財団調査研 究報告書23

石川国広(1989)登校拒否中学生に対するアドベンチ ャーキャンプに関する研究、筑波大学大学院体育 研究科修士論文抄録11、77−80

中島一郎(1981)キャンプの治療的効果について−特 に登校拒否児を中心として−、筑波大学大学院体 育研究科研究集録3、65−68

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61−71.

Stokes,  T.  F.,  Bear,  D.  M.  (1977)An  implicit  tech- nology  of  generalization.  Journal  of  Applied Behavior Analysis, 10, 349−367

参照

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