別紙様式11
(課程博士・論文博士共通)
論 文 要 旨
専攻名
(又は推薦専攻名) 地域イノベーション学専攻 氏ふり 名がな 岩田い わ た 友三ゆうぞう ㊞
学位論文題目
赤潮発生予察と殺藻細菌による赤潮プランクトンの殺藻効果に関する研究
(Red tide forecasting and effects of algicidal bacteria against red tide phytoplankton)
1970 年代に大きな漁業被害を引き起こした赤潮は、近年においても 10億円以上の漁業 被害がしばしば発生し、赤潮対策は依然として水産学上重要な課題となっている。赤潮の 防除を図るために様々な方法が検討されているが、その内でも殺藻細菌を微生物農薬とし て用いた防除法は生態系に与える影響が少ないために実用化が期待されている。しかしな がら、突発的に発生する赤潮プランクトンの海域に速やかにかつ大量に殺藻細菌を散布す るには、赤潮発生の予察が必要不可決である。そのため、第Ⅱ章では三重県五ケ所湾にお ける渦鞭毛藻Karenia mikimotoi 赤潮の発生予察の可能性について検討を行った。
五ケ所湾における観測定点でK. mikimotoiのAlgal growth potential(AGP)を測定し た。K. mikimotoi赤潮が発生した1991年、1992年および1994年では、赤潮最盛期以前 の6月から7月には海底直上1m層(B-1m)のAGPは103 cells/mlに増加した。一方、
K. mikimotoi赤潮の発生に至らなかった1993年ではAGPの増大は観察されなかった。以 上の結果から、B-1mのAGP測定による赤潮の発生予察の可能性が示唆された。
第Ⅲ章では K. mikimotoi殺藻細菌を自然海域より単離し、細菌の性状や自然細菌群存在 下における殺藻能について検討した。五ヶ所湾から単離した K. mikimotoi を殺藻する 6/6-46株はAlteromonas sp.と同定した。次いで、6/6-46株とK. mikimotoiを二者培養し た結果、殺藻細菌は107 cfu/mlレベルまで増殖した後、同藻を殺藻した。しかし、自然細 菌群を含む培養実験では、培養開始2日後から殺藻細菌は減少してK. mikimotoiの増殖を 僅かに抑制したのみであった。この結果より、自然細菌群の共存下では6/6-46株の殺藻能 は発現しない可能性が示唆され、本細菌を用いた赤潮防除は困難であると判断した。
第Ⅲ章 2 節では 6/6-46 株に代わる殺藻細菌の探索を行った。 伊勢湾沿岸から K.
mikimotoiを殺藻する細菌MA10株を単離し、Flavobacterium sp.と同定した。MA10株 はラフィド藻3種(C. antiqua、C. marinaおよびH. akashiwo)と珪藻類1種(S. costatum) に対して殺藻能を示さず、本菌株はK. mikimotoiを特異的に殺藻する細菌であることが判 明した。 MA10株とK. mikimotoiを二者培養した結果では、殺藻細菌の接種量が101 cfu/ml 程度でも細菌数は急速に増加した後、殺藻能を発現して同藻は消失した。一方、自然細菌 群が存在する状態でMA10株を接種した培養実験では、初期接種量が102 cfu/ml 以上の濃 度で殺藻細菌は増殖し、K. mikimotoiに対する殺藻能が発現した。以上の結果より、自然 細菌群はMA10株の殺藻能に対して抑制的に作用することが示唆された。しかし、初期接
続紙 有■ 無□
別紙様式11-続紙
(課程博士・論文博士共通)
氏ふり
名がな 岩田い わ た 友三ゆうぞう ㊞
種量が102 cfu/ml 以上であれば、現場海域でもMA10株はK. mikimotoiに対する殺藻能 が発現すると推測された。
第Ⅳ章では、第Ⅲ章での培養実験の規模を拡大した水槽を設置して、MA10 株の動態を 検討した。垂直に設置した円柱型培養槽でK. mikimotoiが日周鉛直運動していることを確 認した後にMA10株を接種して、同藻とMA10株の変化を観察した。その結果、MA10株 が培養槽で増殖し、K. mikimotoiを捕捉・殺藻することを確認した。
自然海域において赤潮プランクトンは一部の海域に高密度に分布するため、その状態を 水平に設置した円柱型培養槽で模擬的に再現してMA10株の動態を観察した。その結果、
MA10株はK. mikimotoiの密度分布に関係なく、接種直後に培養槽全体に拡散して増殖し
たが、殺藻終了時にはK. mikimotoiの局在部に多く存在していた。この結果より、MA10 株は衰弱・死滅したK. mikimotoiの細胞体に付着している可能性が高いと判断した。流動 拡散系である現場海域に対してMA10株の散布による赤潮防御を考えた場合、同菌株は目 的とする藻体に付着して防除効果を示すと推察された。
本研究の目的である殺藻細菌を用いた赤潮防除法の実用化を目指すためには、他の赤潮 プランクトンを対象とした殺藻細菌や、通常の海域に存在する細菌群の動態についても知 見を得る必要がある。第Ⅴ章では、K. mikimotoiと並ぶ赤潮プランクトンであるラフィド 藻H. akashiwo を殺藻する細菌 (9/27-2株) を伊勢湾岸から単離した。さらに、現場海域 の細菌群存在下での9/27-2株の動態を検討するため、細菌由来の16S rRNA遺伝子を変性 剤添加濃度勾配ゲル電気泳動法によって検出した。その結果、H. akashiwo が死滅した培 養開始2日後に抽出した遺伝子から9/27-2株由来のDGGE のバンドが検出され、本菌株 は現場細菌群存在下でも増殖し、同藻を殺藻することが判明した。また、現場細菌群のみ をH. akashiwo培養海水に接種した実験でも、培養開始4日後にはH. akashiwoの死滅が 観測され、9/27-2 株由来のバンドが検出された。これらの結果から、9/27-2 株は自然海域 に広範囲に存在・分布しており、H. akashiwo 赤潮が発生すると、その海域で特異的に増 殖して赤潮の消滅に関与する可能性が示唆された。さらに、9/27-2 株を単離した方法は、
自然海域において赤潮消滅過程に実際に関与している殺藻細菌を探索できる有用な方法で あると思われる。本論文で示した殺藻細菌の探索法とAGP測定による赤潮予察を組み合わ せることで、赤潮消失期に大量に発生する殺藻細菌を赤潮発生前に散布することが可能と なり、本菌株を海域に散布することによって赤潮被害の軽減または防止を図ることは十分 可能であると判断した。