五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 二 八
一
五
相
成
身
觀
の
西
藏
傳
譯
資
料
に
就
い
て
酒
井
紫
朗
五 相 成 身 觀 は 我 が 日 本 密 教 に 於 け る 金 剛 頂 宗 の 觀 行 の 特 長 に し て 、 即 身 成 佛 へ の 瑜 伽 觀 法 で あ り 、 金 剛 界 建 て 修 法 の 根 本 要 素 を な す も の で あ る 。 又 略 し て 五 相 觀 と も 構 し て 、 五 段 の 瑜 伽 觀 法 を 修 し て 、 本 有 の 淨 菩 提 心 を 顯 發 し 、 即 身 が 圓 滿 佛 身 た る 事 を 誰 せ ん と す る 観 法 な の で あ る 。 五 相 成 身 の 内 容 は 普 通 、 第 一 通 達 菩 提 心 、 第 二 修 菩 提 心 、 第 三 成 金 剛 心 、 第 四 詮 金 剛 身 、 第 五 佛 身 圓 満 な る 名 稱 を 持 ち て 凡 身 よ り 佛 身 に 到 る ま で の 五 段 の 瑜 伽 観 法 の 展 開 を 示 せ る も の な の で あ る 。 此 の 觀 法 の 通 常 修 行 軌 則 は 大 體 不 室 課 の ﹁ 金 剛 頂 蓮 華 部 心 念 誦 儀 軌 ﹂ に 依 順 し て な さ れ て ゐ る の で あ る が 、 此 は 修 法 の 便 意 に よ り か く こ れ に 依 據 す る ま で に し て 實 は 後 に 詳 説 す る で あ ら う 如 く そ の 成 立 の 上 か ら 云 つ て も そ の 根 本 經 軌 と し て は 初 會 の 金 剛 頂 經 に よ つ て な さ れ ね ば な ら ぬ 筈 の も の で あ る 。 さ て 此 の 五 相 成 身 觀 に 関 し て は 既 に 智 山 專 門 學 校 の 坂 野 教 授 が 主 と し て 漢 譯 資 料 よ り ﹁ 五 相 成 身 觀 の 體 系 的 研 究 ︱ 特 に 經 軌 の 上 に 於 け る そ の 成 立 的 一 考 察 ︱ ﹂ な る 論 文 を も の さ れ 詳 細 に 發 表 さ れ て 居 る の で 、 今 更 こ の 項 目 に 關 し て 蛇 足 を 加 へ る 必 要 も な い の で あ る が 、 た ゞ 西 藏 傳 課 大 藏 經 中 に は 尚 少 し く 漢 譯 に な い 資 料 を 持 つ 經 軌 が 收 録 さ れ て ゐる の で 、 此 等 に よ つ て 補 足 し て 見 よ う と 思 ふ の で あ る 。 即 ち 此 の 五 相 成 身 觀 に 關 し て 筆 者 が 曾 つ て 西 藏 大 藏 經 所 收 の 金 剛 頂 系 諸 儀 戦 を 一 瞥 し た 際 氣 付 い た 點 を 拙 譯 し 紹 介 を 試 み ん と す る の で あ る。 此 れ に よ れ ば 彼 の 金 剛 智 並 に 不 室 譯 の 所 謂 偶 頌 式 五 相 觀 の 本 軌 が 説 明 さ れ る し 、 又 金 剛 智 三 藏 が 略 出 經 譯 出 に 當 つ て 依 用 し た で あ ら う と 思 は れ る 經 軌 も 自 か ら 解 明 せ ら れ る 事 に な る と 思 ふ の で あ る 。 此 れ よ り 繁 を 恐 れ す 初 會 の 金 剛 頂 經 の 丈 よ り 出 す 事 に す る 。 註 ① 五 相 成 身 は 又 五 相 現 覺 と も 云 は れ 、 西 藏 大 藏 經 に 收 録 さ れ る 畳 密 著 の 初 會 金 剛 頂 經 の 達 意 繹 た る ﹁ 恒 特 羅 義 入 ﹂ (東 北 目 録 二 五 〇 〇 番 ) を 註 繹 し た る 蓮 華 金 剛 の ﹁ 恒 特 羅 義 入 註 繹 ﹂ (東 北 目 録 二 五 〇 一 番 ) に よ れ ば 通 達 自 心 現 畳 、 發 菩 提 心 現 覺 、 住 法 身 現 覺 、 作 堅 固 現 覺 、 成 佛 身 現 畳 な る 名 稱 を 持 つ て 繹 さ れ て ゐ る 。 ② 太 正 藏 一 八 ・ 二 九 九 頁 收 載 、 此 の 經 が 金 剛 界 衣 第 の 本 軌 た る 事 は ﹁ 秘 密 事 相 の 研 究 ﹂ 五 四 一 頁 参 照 。 ③ 智 山 學 報 、 新 第 十 一 巻 、 六 三-一 二 三 頁 。 ④ 初 會 經 の 丈 は 坂 野 教 授 に よ つ て 既 に ﹁新 更 ﹂ 目 本 佛 教 研 究 號 、 第 一 輯 (七 〇 − 七 三 頁 ) に 譯 出 さ れ て ゐ る 。 二 初 會 の 金 剛 頂 經 と は 具 さ に は 西 藏 題 よ り ﹁ 一 切 如 來 眞 實 攝 と 名 つ く る 大 乗 經 ﹂ な る 名 を 持 つ て 居 り 、 初 會 と は 不 空 三 藏 の 十 八 會 指 歸 に よ り て か く 名 つ く る の で あ る 。 こ の 題 名 に て は 一。 金 剛 頂 ﹂ な る 名 を 持 た す 、 か く 名 づ け ら れ る に い た り た る は 既 に 注 意 し た る 如 く 第 三 會 た る 一 切 教 集 瑜 伽 に ょ つ て 名 づ け ら れ る も の と 思 は れ る の で あ る 。 そ の 具 な る 名 は 下 に 出 ︾す 如 く で あ る 。 今 五 相 成 身 觀 の 説 處 は デ ル ゲ 版 ( 以 下 全 て 此 の 版 を 用 ふ ) 帙 で あ り 、 そ の 具 文 を 次 に 出 せ ば 左 の 如 く で あ る 。 そ の 時 、 一 切 如 來 は 集 り て 一 切 義 成 就 と 名 つ く る 大 菩 薩 が 菩 提 道 場 に 坐 す る 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 二 九
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 〇 そ の 庭 に 詣 り て 、 彼 の 菩 薩 の 爲 に 報 身 を 示 現 し て 次 の 如 く 宣 へ り 。 〃 善 男 子 よ 、 汝 は 何 故 に 一 切 如 來 の 眞 實 を 悟 ら す し て 一 切 の 難 行 に 奮 起 す る 、 然 し て 如 何 に し て 無 上 正 等 の 菩 提 ( 覺 ) を 成 ぜ ん と 思 ふ や " そ の 時 、 一 切 義 成 就 菩 薩 摩 詞 薩 は 一 切 如 來 に 驚 覺 せ ら れ て 不 動 ( 阿 婆 頗 那 迦 = ) 三 摩 地 よ り 立 ち て 、 一 切 .如 來 を 禮 し 了 つ て 如 是 く 言 上 せ り 。 〃 世 尊 よ 、 諸 の 如 來 の 眞 實 と は 何 か 、 如 何 に し て か 成 就 す べ き 、 願 は く ば つ け 給 へ " か く 言 上 し た る 時 、 一 切 如 來 は 同 一 語 に し て 次 の 如 く 宣 へ り 。 〃 善 男 子 よ 、 自 心 を 觀 じ て 專 念 し 、 自 性 成 就 の 此 の 眞 言 を 随 意 に 誦 ぜ よ 、 し か ら ば 成 就 す べ し 。 ( 掩我れ心の認知を作 す ) そ の 時 、 一 切 義 成 就 菩 薩 は 一 切 如 來 に 次 の 如 く 言 上 せ り 、 〃 世 尊 諸 如 來 よ 、 我 が 胸 に 月 輪 の 如 き も の あ る を 我 れ 知 り ぬ " 一 切 如 來 の 宣 は く 、 " 善 男 子 よ 、 之 は 自 性 明 朗 な れ ば 、 い よ ぐ 淨 め て 、 い よ く 清 し 、 例 へ ば 白 布 を 染 料 に て 變 色 す る が 如 し " と 、 そ の 時 、 一 切 如 來 は 自 性 明 朗 の 心 を 知 れ る 事 を 増 大 な ら し め ん が 爲 に 、 ( 掩 我れ菩提 心の發生をな す ) 自 性 成 就 の 此 の 眞 言 を 以 て 彼 の 菩 薩 の 心 を 發 起 せ し め た り 。 そ の 時 、 又 彼 の 菩 薩 は 一 切 如 來 の 教 勅 に よ り て 菩 提 心 を 起 し 了 つ て 次 の 如 く 言 上 せ り 。 〃 月 輪 の 如 く 見 え た る も の が 、 月 輪 そ の も の と 見 ゆ " 一 切 如 來 の 宣 は く 〃 一 切 如 來 の 心 髄 た る 普 賢 發 心 を 汝 は 現 前 し た り 。 依 つ て そ れ を よ く 成 就 せ よ 、 } 切 如 來 の 普 賢 發 心 を 堅 固 な ら し め ん が 爲 に 、 此 の 眞 言 を 以 て 胸 の 月 輪 に 金 剛 の 形 を 思 惟 せ よ 。 ( 掩起て金剛 と ) 菩 薩 の 申 さ く 、 〃 世 尊 諸 如 來 よ 、 月 輪 の 上 に 金 剛 あ る を 我 ば 見 た り " 一 切 如 來 の 宣 は く 、 〃 一 切 如 來 の 普 賢 の 心
た る 彼 の 金 剛 を 此 の 眞 言 を 以 て 堅 固 な ら し め よ 。 ( 掩 我は金剛の自性な り ) そ の 時 、 一 切 の 盧 室 界 に 等 入 す る 一 切 如 來 の 一 切 の 身 語 心 金 剛 界 は 叢 く 一 切 如 來 の 加 持 に よ つ て 、 彼 の 薩 睡 の 金 剛 に 入 れ り 、 そ の 時 、 一 切 如 來 は 彼 の 薄 伽 梵 一 切 義 成 就 大 菩 薩 を 金 剛 界 、 金 剛 界 と 云 ふ 名 を 以 て 灌 頂 し た り 。 そ の 時 金 剛 界 大 菩 薩 は 彼 の 一 切 如 來 に 次 の 如 く 言 上 し た り 。 〃 世 尊 諸 如 來 よ 、 一 切 如 來 の 身 を ば 我 れ は よ く 見 た り " 。 一 切 如 來 の 宣 は く 、 〃 大 薩 唾 よ 、 然 れ ば 、 そ の 薩 錘 の 金 剛 を 一 切 の 相 ( 姿 ) の 最 後 を 有 す る 佛 身 と し て 自 ら が 自 性 成 就 の 眞 言 を 随 意 に 誦 じ て 、 觀 習 せ よ 。 ( 掩 一切如来のあるがまゝに我あ り ) そ の 時 、 如 是 く 宣 へ る 時 、 金 剛 界 大 菩 薩 は 自 ら 如 來 を 現 に 等 畳 し 了 り て 、 そ れ よ り 一 切 如 來 を 禮 し て 、 次 の 如 く 言 上 し た り 。 〃 世 尊 一 切 如 來 は 我 を 加 持 し て 此 の 現 等 畳 を 堅 固 な ら し め 給 へ " と か く 言 上 し た る 時 、 一 切 如 來 は 一 切 如 來 の 金 剛 界 の 薩 錘 の 金 剛 に 入 れ り 、 そ の 時 、 薄 伽 梵 金 剛 界 は そ の 一 刹 那 の 時 に 、 一 切 如 來 の 干 等 性 智 を 現 等 畳 し た り 。 一 切 如 來 の 金 剛 干 等 性 の 秘 密 智 印 の 三 昧 耶 に 入 れ り 。 一 切 如 來 の 金 剛 寳 灌 頂 干 等 性 の 秘 密 智 印 の 三 昧 耶 に 入 れ り 。 一 切 如 來 の 法 平 等 性 の 智 を 詮 し 、 自 性 清 淨 な り 。 一 切 如 來 の 一 切 干 等 性 自 性 明 朗 に し て 智 の 藏 た る 如 來 應 供 正 等 覺 者 と な り た り 。 以 上 の 丈 は 又 慶 喜 藏 の ﹁ 金 剛 界 大 曼 荼 羅 儀 則 一 切 金 剛 出 現 ﹂ に 全 丈 引 用 さ れ 、 文 彼 の 善 無 畏 、 金 剛 智 兩 三 藏 と ほ ゞ 同 時 代 に 生 存 し た と 目 さ れ る 印 度 の 内 道 密 教 に 関 係 の 多 い 因 陀 羅 部 底 王 の ﹁ 智 成 就 ﹂ に も そ の 初 分 の 要 略 が 引 用 さ れ て ゐ る の を 見 る の で あ る 。 こ れ に は 梵 本 も 現 存 す る 故 そ の 初 分 要 略 な り と 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 一
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 二 あ 梵 文 に 於 て 讀 み 得 ら れ る 事 は 吾 々 の 喜 び で あ る 。 参 考 の 爲 に 注 記 す る 事 に し よ う。 註 ① 東 北 目 録 、 四 七 九 番 。 ② 密 教 研 究、 七 十 一 號 一 二 八 -一 二 九 頁 、 ﹁ 金 剛 頂 經 の 第 三 會 に 就 い て ﹂ な る 拙 稿 参 照 。 東 北 目 録 四 八 ○ 番 。 ③ 第 一 通 達 菩 提 心 を 説 く 。 ④ 第 二 修 菩 提 心 を 明 す 。 ⑤ 第 三 成 金 剛 心 を 明 す 。 ⑥ 第 四 證 金 剛 身 の 説 段 な り 。 ⑦ 第 五 佛 身 圓 滿 を 明 す 。 ⑧ 加 持 現 謹 の 説 段 な り 。 ⑨ 東 北 目 録 二 五 一 六 番 、 帙 ⑩ 西 藏 譯 は 東 北 目 録 二 二 一 九 番 に 當 る 。
三
次 は 既 に 紹 介 せ る 第 三 會 の 金 剛 頂 經 た る 一 切 教 集 瑜 伽 、 即 ち 西 藏 題 よ り ﹁ 秘 密 大 瑜 伽 但 特 羅 な る 金 剛 頂 ﹂ と 名 つ く る 中 に 説 か る ゝ も の に し て 、 こ れ は 既 に 解 読 せ る 如 く 毘 盧 遮 那 三 摩 地 法 、 蓮 華 部 心 儀 軌 、 諸 佛 境 界 攝 眞 實 經 中 に 説 か れ る 所 謂 偶 頌 式 の 五 相 觀 に 相 當 す る も の で あ る 。 此 の 具 文 は 密 教 研 究 .第 七 十 一 號 中 に 漢 譯 と 對 比 し て 既 に 紹 介 濟 な る も 、 今 は 重 復 乍 ら 資 料 を 全 體 的 に 一 處 に 集 録 比 較 し 易 か ら し め ん が 爲 に 和 譯 の み の 再 録 を な さ ん と す る の で あ る 。 註 記 等 は 前 者 に 譲 り 特 に 必 要 な .る も の 、 み を 附 記 す る 事 に す る 。 こ の 經 に 於 け る 説 處 は 帙 で あ り 、 そ の 具 力 は 次 の 如 く で あ る 。 菩 薩 樹 下 に 坐 し て 他 の な し 難 き 所 作 を 具 せ る 彼 は 叉 出 入 の 息 を 滅 し 思 な く 不 動 に 佳 す 。 全 身 を 動 揺 せ す し て 肢 分 を 動 ぜ す さ れ ば 行 者 は 不 動 に 長 く 住 せ り 。 十 方 の 牟 尼 自 在 者 た る 諸 佛 は 存 念 し 給 ひ て 今 や 等 畳 の 時 に し て 苦 を 行 す べ き に 適 し か ら す 。 此 の 故 、 我 等 共 汝 に 働 ま さ ん が 爲 に 行 か ん や と 恵 存 し 全 て 集 り て 密 集 出 現 し 給 ふ 。 出 現 し 了 り て 一 切 の 牟 尼 者 は 最 勝 の 激 働 を な し 給 ふ 。 (掩、金剛よ、時なり、起 て ) と の 明 咒 に て 弾 指 警 覺 し た る を 以 て 菩 薩 は 全 身 を 起 し て 諸 方 を 普 ね く 見 る に 佛 の 海 會 を 見 た り 。 行 者 は 諸 尊 主 を 禮 し て 教 勅 を 給 へ と 願 ひ た る に 大 尊 主 一 切 の 佛 は 同 一 語 を 以 て 宣 は く 心 の 境 は い か ゞ に や 自 の 心 を 觀 す べ し 。 諸 佛 の 語 を 聞 き て 自 心 を 觀 す る ま ゝ に 長 く 住 し た る に 心 の 相 を 見 す 、 さ れ ば 全 身 を 以 て 禮 し て 請 問 す ら く 、 世 尊 如 來 よ 、 心 の 相 を 見 す 、 然 れ ば 心 の 特 相 は 如 何 に そ の 時 、 諸 佛 の 宣 は く 心 の 境 は 知 り 難 し 汝 に 心 眞 言 を 授 く る が 故 に 微 細 の 念 誦 を 行 ぜ よ 。 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 三
五 相 威 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 四 清 淨 な る 心 眞 言 を 受 け て 自 心 を 觀 す る ま 、 に 暫 く そ こ に 住 し た れ ば 月 輪 の 如 き も の を 見 た り 。 そ の 時 、 此 の 心 は 如 何 な る も の な り や 煩 悩 の 種 子 を 有 す る も の な り や 善 又 は 不 善 の 心 な り や 阿 頼 耶 の 種 子 を 有 す る 心 な り や 、 a 法 の 順 因 を 悟 り て 六 波 羅 蜜 に 親 近 す る 心 は 清 淨 な る 有 情 に し て 全 て 煩 憐 の 阿 頼 耶 に 非 す 。 長 く 大 な る 福 と 智 の 資 糧 を 積 み た る も の な り 。 さ れ ば 恰 も 滿 月 の 如 き こ れ は 清 淨 に し て 濁 な し 。 同 様 に 資 糧 圓 滿 の 故 に 自 心 は 滿 月 に 等 し 、 さ れ ど 有 と 無 の 實 體 な き が 故 に 凡 そ 月 に 等 し き も の に 非 す 然 も 大 な る 福 智 を 圓 滿 せ る 月 に 等 し と 示 さ る 。 よ く な さ れ た る 資 糧 を 具 せ る 、 自 心 の 月 輪 を 見 了 り て 敷 喜 を 生 じ て 、 又 再 び 語 を 読 か く 尊 主 世 尊 よ 、 我 似 一 切 煩 悩 の 垢 を 嚴 淨 し て 所 執 、 能 執 よ り 離 れ た る 自 心 の 月 輪 を 見 た り 。 諸 佛 が 宣 は く こ は 本 初 出 生 の 妙 心 な り 。 先 づ 客 塵 諸 煩 悩 を 菩 提 心 に よ つ て 嚴 淨 し 一 切 の 事 よ り よ く 離 れ た る の 清 淨 の 此 の 心 眞 言 を 以 て 月 輪 の 中 央 に 菩 提 心 を 謹 せ よ 。 清 淨 の 心 眞 言 を 受 け て 心 の 中 央 を 觀 察 す れ ば 月 輪 の 中 央 に 又 第 二 の 月 輪 を 見 る 〇 諸 の 牟 尼 者 に 言 上 す ら く 第 二 の 月 輪 を 見 た り 。 そ の 時 諸 佛 の 宣 は く 菩 提 心 の 自 性 を 堅 固 に せ よ 。 堅 固 に な さ ん が 爲 に こ れ を よ く 修 す べ し 。 汝 に 心 眞 言 を 授 く べ し . さ れ ば 誦 じ て こ れ を 堅 固 に な せ 。 第 二 月 輪 の 中 央 に 佳 す る 大 金 剛 を 思 惟 し つ も 暫 く 觀 察 し た れ ば 甚 だ 堅 固 な る を 見 て 申 さ く 、 諸 の 等 正 畳 者 よ 月 輪 の 中 央 に 金 剛 あ る を 見
る 第 ご 月 輪 の 中 央 に 金 剛 あ る を 見 る 。 そ の 時 、 諸 佛 の 宣 は く 一 切 諸 尊 の 大 金 剛 金 剛 界 を 生 起 す る 最 も 堅 固 な る こ れ を 云 ふ べ し 。 清 淨 な る 心 眞 言 を 受 け て 金 剛 身 を よ く 習 熟 す る 彼 は 堅 密 に し て 室 虚 な き 金 剛 身 を 得 て 申 さ く 、 諸 の 等 正 畳 者 よ 我 自 身 金 剛 の 身 な る を 見 た り そ の 時 、 諸 佛 の 宣 は く 佛 身 と 觀 脅 す べ し 。 清 淨 な る 心 眞 言 を 受 け て 佛 身 と よ く 脅 熟 し た る が 故 に 一 切 相 の 最 勝 を 具 せ る 一 切 智 智 を 得 た り 。 諸 佛 を よ く 禮 し て 申 さ く 、 世 尊 如 來 よ 、 尊 主 よ 、 我 れ を 加 持 し て 我 れ の 菩 提 を 堅 固 な ら し め 給 へ 。 大 名 稱 の 諸 佛 は 金 剛 界 の 語 を 聞 き 了 つ て 諸 尊 は そ の 御 胸 に 入 り 金 剛 の 瑜 伽 を 宣 は く (掩、一切如来現等覺の堅固なる金剛よ、起 て ) 大 名 稱 の 諸 佛 が 大 明 究 を 誦 じ 九 れ ば 金 剛 界 は 甚 だ 堅 固 に し て 眞 實 智 を 現 に 正 畳 し た り 。 そ の 時 諸 佛 は 金 剛 界 の 御 胸 よ り 出 で て 法 の 四 灌 頂 を 以 て そ の 時 、 牟 尼 者 を 灌 頂 し た り 。 以 上 の 文 が よ く 上 掲 の 漢 譯 諸 經 中 の も の と 合 す る 事 は 既 に 封 比 し た る 事 を 以 つ て 了 解 さ れ た る 事 と 思 ふ 。 又 畳 密 の ﹁ 但 特 羅 義 入 ﹂ に は 此 の 初 分 を 長 行 と し 、 第 一 通 達 菩 提 心 の 眞 言 以 下 よ り は 偶 頚 の ま ふ 績 け て 引 用 、 第 四 詮 金 剛 身 よ り 後 は 又 長 行 と し て 読 明 し て 居 り こ れ を ﹁ 一 切 教 集 中 ﹂ に 読 く と 説 明 し て ゐ る の で あ る 。 さ れ ば こ れ を 説 く 經 軌 が 不 室 三 藏 と ほ ゞ 同 時 代 に 生 存 し た と 思 は れ る 覺 密 に よ つ て 引 用 説 明 さ れ て ゐ る 事 よ り 此 の 偶 頚 式 の 五 相 成 身 觀 が 此 の 第 三 會 の 金 剛 頂 經 よ り 上 掲 の 漢 譯 諸 本 に 引 用 さ れ た で あ ら う 事 が 推 知 し 得 ら れ る の で あ る 。 尚 不 室 三 藏 當 時 、 こ の 第 三 會 が 既 に 存 在 し 引 用 さ れ た 事 は 既 に 述 べ た 通 り で あ ゐ が 、 更 に 絵 談 と し て 護 摩 に 關 し 五 相 成 身 觀 め 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 五
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 六 て は 特 に こ の 軌 に 依 順 し て 居 り 、 彼 の 不 室 の 撰 た る ﹁ 金 剛 頂 經 大 瑜 伽 秘 密 心 地 法 門 義 決 ﹂ に は ﹁ 又 案 瑜 伽 大 秘 密 教 中 説 、 秘 密 火 法 相 應 有 二 十 種 。 ﹂ と あ り て 此 の 軌 中 に 説 か れ る と 、 名 記 詳 説 さ れ て ゐ る 事 を 知 れ ば 他 は 全 て 了 解 さ れ る 事 と 思 ふ 。 次 に 第 二 の 月 輪 の 事 は 既 に 注 意 し た る 如 く 初 會 の 金 剛 頂 經 並 に 毘 盧 遮 那 三 摩 地 法 、 蓮 華 部 心 軌 、 略 出 經 等 に は 説 明 さ れ て ゐ な い 。 こ れ は 初 會 經 に 説 か ざ る を 以 つ て 偶 頌 式 の 三 摩 地 法 等 に も 略 さ れ た の で あ ら う と 思 は れ る 事 は 既 に 説 明 し た 通 り で あ る 。 ﹁ 但 特 經 義 入 ﹂ に は 此 の 第 二 の 月 輪 を ﹁ 自 心 に 通 達 し て 、 一 切 の 雑 染 煩 悩 の 脅 氣 を 淨 除 し 、 地 と 波 羅 密 と の 薫 脅 を 完 全 に な し た る 場 合 、 前 の 月 輪 に よ つ て 加 持 せ ら る ゝ な り 、 二 つ な る は 諸 如 來 の 現 誰 を 得 し た る 菩 提 の 自 性 の 心 の 表 示 と し て 示 せ る な り ﹂ と 繹 さ れ て ゐ る よ り 本 有 の 菩 提 心 と 得 證 の 菩 提 心 と を 二 つ の 月 輪 に よ つ て 標 示 し た も の と 見 る べ き で あ ら う 。 而 し て 又 月 輪 を 本 有 、 修 生 の 兩 菩 提 心 に 當 て る 事 が 日 本 傳 來 の 密 教 に 於 て も 傳 承 さ れ て ゐ る 事 を 知 る べ き で あ る 。 註 ① 密 教 研 究 七 十 一 號 、 ﹁ 金 剛 頂 經 の 第 三 會 に 就 い て ﹂ な る 拙 稿 参 照 。 ② 東 北 目 録 四 八 ○ 番 ③ 論 疏 部 中 但 特 羅 部 帙 ④ 大 正 藏 三 九 ・ 八一一 頁 c 、 密 教 研 究 七 十 一 號 ﹁ 金 剛 頂 經 の 第 三 會 に 就 い て ﹂ 一 二 四 頁 参 照 ⑤ 論 疏 部 中 恒 特 羅 部 帙
四
次 に 紹 介 す る 儀 軌 は 具 さ に は 西 藏 題 よ り ﹁ 吉 祥 金 剛 道 場 荘 嚴 と 名 つ く る 但 特 羅 大 王 ﹂ と 云 は れ 、 此 の 儀 軌 の 初 分 は 既 に 高 野 山 大 學 の 栂 尾 教 授 に よ つ て 理 趣 經 の 類 本 と し て ﹁ 理 趣 經 の 研 究 ﹂ に 紹 介 さ れ て ゐ る も の で あ る 。 又 後 分 の 一 部 分が 施 護 三 藏 に よ つ て 漢 譯 さ れ ﹁ 佛 説 金 剛 場 荘 嚴 般 若 波 羅 密 多 經 中一 分 ﹂ と し て 存 在 す る 。 通 常 經 軌 の 成 立 に 関 し て 他 に 資 料 な き 場 合 は そ の 成 立 最 底 年 位 を 譯 者 の 時 代 に 置 く 事 は 佛 教 史 家 の 一 般 に と る 所 で あ る が . こ の 儀 軌 は 施 護 三 藏 が 譯 出 し た 時 を 以 て 最 底 年 位 と す る 必 要 な く 、 先 述 し た る 因 陀 羅 部 底 王 の ﹁ 智 成 就 ﹂ に 又 此 の 儀 軌 を 引 用 し て ゐ る 事 を し れ ば 最 底 年 位 は 相 當 古 く 置 か る べ ぎ で あ る と 思 は れ る 。 此 事 は 金 剛 智 三 藏 が 略 出 經 譯 出 に 當 つ て 依 用 し た で あ ら う 事 に 關 係 付 け ら れ 、 私 が 曾 つ て ﹁ 執 金 剛 阿 利 沙 偶 ﹂ に 就 い て な る 小 論 に 於 て 注 意 し た る 如 く 略 出 經 と 當 經 と は 親 縁 關 係 が あ る 様 に 思 は れ 推 則 で は あ る が 當 經 が 十 八 會 指 歸 の 説 明 よ り す れ ば 第 七 會 の 金 剛 頂 經 た る 普 賢 瑜 伽 に 相 當 す る の で は な い か と 思 は れ る の で あ る 。 勿 論 嚴 密 な る 誰 定 を 經 た 上 で な け れ ば 云 へ な い 事 で あ る が 、 第 六 會 に 類 す る 事 は ﹁ 理 趣 經 の 研 究 ﹂ に ょ つ て 承 知 さ れ て ゐ る 事 で あ る 〇 此 の 經 軌 に 於 け る 説 處 は 帙 で あ る 。 そ の 具 文 を 出 せ ば 、 そ の 時 、 世 尊 一 切 如 來 は 再 び 集 り て 、 一 切 如 來 の 大 轉 輪 王 、 金 剛 瑜 伽 の 大 自 在 者 に 誓 願 す ら く 、 " 願 は く ば 一 切 如 來 の 族 ( 家 ) を 生 ぜ し め 給 は ん こ と を " と 、 そ の 時 世 尊 繹 迦 牟 尼 は 彼 等 が 願 え る 言 葉 を 聞 い て 色 究 竟 天 よ り 現 は れ て 兜 率 天 に 佳 し て 、 兜 率 天 族 の 諸 天 子 に 法 を 示 し て 、 淨 飯 ( 王 ) 家 を み そ な わ し て 出 生 し 、 菩 提 道 場 等 を 能 調 し て 坐 し 給 へ り 、 四 魔 よ り よ く 勝 ち た る を 示 し て 、 菩 提 道 場 に 佳 し 給 ふ 。 佳 し 了 つ て 又 前 方 便 た る 八 十 四 百 千 倶 底 の 三 摩 地 た る 普 發 の 三 摩 地 に 等 入 し 、 等 入 し 了 つ て } 切 如 來 の 金 剛 弾 指 の 聲 を 以 て 、 一 切 如 來 を 觀 請 し つ ゝ 次 の 眞 言 を 宣 へ り 、 (掩 一切如来の金剛集會の一切如来を請召 す ることの爲に 吽 ) 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 七
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 八 そ の 時 、 衆 を 伴 へ る 一 切 如 來 の 諸 衆 會 は よ く 現 は れ て 法 界 に ひ ろ ま り 、 十 方 無 極 の 一 切 廣 博 世 界 海 の 諸 雲 と し て 遍 滿 し て 、 盧 室 海 に 於 け る 胡 麻 の 莢 ( サ ヤ ) の 如 く 膿 部 洲 の 一 切 の 佳 所 に 坐 し た り 、 そ の 時 、 世 尊 瑜 伽 の 自 在 者 は そ れ 等 を 鈎 召 し 、 引 入 し 、 結 縛 し 自 在 に な し て 、 自 身 の 御 胸 に 安 置 し た り 。 そ の 時 、 世 尊 金 剛 瑜 伽 の 大 自 在 者 は 無 二 の 瑜 伽 ( 作 法 ) を 以 て 加 持 し て 、 次 の 眞 言 を 以 て 自 心 を 妙 觀 察 し 給 へ り 。 そ の 後 、 諸 佛 が 世 尊 毘 盧 遮 那 の 御 胸 に 於 け る 報 身 と 變 化 身 よ り 自 性 明 朗 に し て 心 の 寳 た る 法 身 を 發 出 し 給 へ り 〇 そ の 心 は 明 朗 に し て 、 大 悲 を 以 て 充 滿 し 、 一 切 如 來 平 等 性 の 特 相 あ り 、 所 執 、 能 執 の 濁 を す て 虚 室 の 如 く 本 來 寂 静 な り 。 そ れ よ り 大 悲 を 現 發 し て 一 切 の 有 情 界 を み そ な .わ し 給 ふ 〇 即 ち 無 知 に よ り て 老 ひ 、 死 に よ り て 覆 へ る 世 間 を み そ な わ し て 再 び 次 の 眞 言 を 以 て 菩 提 心 の 發 起 を 示 し 給 は く 、 菩 提 心 を 起 し た る 後 、 一 切 如 來 の 御 胸 に 於 け る 彼 の 明 朗 な る 心 を 滿 月 輪 の 如 く 加 持 し て 、 一 切 如 來 の 御 胸 に 安 置 し た り 。 よ く 嚴 淨 さ れ 、 虚 室 の 如 く 無 垢 に し て 、 一 切 の 戯 論 よ り 離 れ 、 鏡 の 如 く 堅 固 と な り て 安 住 し 終 つ て 、 大 菩 提 心 は 次 の 眞 言 を 誦 ぜ り 。 ( 掩 智の光線を出せ 吽 ) そ の 後 、 種 々 の 相 あ る 光 を 月 輪 よ り よ く 出 せ り 。 出 し 了 つ て 又 法 界 宮 殿 に 入 り 、 所 知 の 一 切 輪 を 明 照 し て 一 切 有 情 の 心 の 山 頂 を 確 き て よ く 悟 ら し め て 一 體 と な り た り 。 而 し て 諸 金 剛 の 大 身 た る 世 尊 の 御 胸 に 入 り て 月 輪 の 中 央 に 坐 し 実 り 〇 そ の 時 世 尊 金 剛 瑜 伽 の 大 自 在 者 は 次 の 眞 言 を 以 て 加 持 し た め 。
再 び 又 次 の 眞 言 を 以 て 遍 周 す ら く 、 ⑤ ( 掩 遍周せよ金剛 よ ) 再 び 又 次 の 眞 言 を 以 て 收 斂 し か り 。 ⑥ ( 掩 收斂せよ金剛 よ ) 次 で 一 切 如 來 は 次 の 智 金 剛 の 心 を 要 略 す ら く 、 ⑦ ( 掩 智金剛 よ ) そ の 時 、 世 尊 金 剛 瑜 伽 の 大 自 在 者 は 次 の 眞 言 を 以 て 加 持 す ら く 、 ( 掩 一切如来の智金剛よ 吽 ) 次 で 一 切 如 來 の 身 語 意 卒 等 性 を 得 た る も の は 次 の 眞 言 を 以 て 加 持 す ら く 、 そ の 時 一 切 如 來 は 堅 固 そ の も の と な り た り 。 次 で 世 尊 毘 盧 遮 那 は一 切 如 來 の 身 語 意 を み そ な わ し て 次 の 眞 言 を 以 て 加 持 し 給 へ り 。 そ の時 、 世 尊 は 一 切 如 來 の 身 に し て 一 切 有 情 の 利 を な し 給 ふ 因 た る 一 切 佛 身 の 我 性 を 一 切 の 有 情 界 に 決 定 し て 示 し 給 へ り 。 そ の 時 、 帝 釋 と 梵 天 と 諸 の 世 護 天 は こ れ を 現 觀 し て 、 天 人 等 が 現 覺 す る が 故 に 世 尊 の 現 覺 と 云 へ り 〇 次 で 梵 天 が 申 上 け て 、 法 輪 を 轉 じ て 夫 汝 の 法 に ょ つ て 教 調 す べ き 衆 生 を 調 伏 し て 、 誰 れ も が 再 び 退 轉 せ ざ る も の と な り 五 相 成 身 觀 あ 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 三 九
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 〇 た り 、 此 等 は 佛 の 菩 提 を 學 ぶ 次 第 な り 。 以 上 の 文 は 此 の ﹁ 金 剛 道 場 荘 嚴 儀 軌 ﹂ の 大 自 在 ( 地 ) 輪 の 軌 則 中 に 読 か れ る も の で あ る 。 此 の 次 第 の 特 質 と し て は 廣 倣 二 觀 と 部 族 の 部 主 の 眞 言 加 持 が 加 え ら れ て ゐ る 事 で 此 の 事 は 略 出 經 、 如 意 輪 瑜 伽 、 文 珠 供 養 軌 等 に 説 か れ て ゐ る 事 項 を 解 決 す る も の な の で あ る 。 然 し 又 略 出 經 等 に 出 す 廣 斂 二 觀 並 に 微 細 觀 等 は 初 會 の 金 剛 頂 經 の 第 三 微 細 金 剛 曼 荼 經 儀 軌 分 中 に 於 け る 微 細 金 剛 觀 を 要 略 し た も の で あ ら う と 云 ふ 読 も あ る け れ ど も 、 此 の 儀 軌 が 金 剛 智 三 藏 生 存 當 時 既 に 成 立 し て ゐ た 事 を し れ ば 此 等 の 儀 軌 に 依 順 し た で あ ら う 事 も 云 ひ 得 ら れ る で あ る 。 註 ① 東 北 目 録 四 九 〇 番 ② 大 正 藏 八 八 六 番 ③ 此 の ﹁ 智 成 就 ﹂ の 第 十 五 品 諸 儀 軌 中 所 説 眞 實 文 字 聚 決 定 説 示 章 に は (秘密集 會 ) (眞 實攝儀 軌 ) (無二平等 勝 ) (秘密月相 ) ( 大三昧耶儀 軌 ) (幻 綱 ) (金剛道場荘 嚴 ) (勝樂儀 軌 ) (最初本 初 ) の 九 大 儀 軌 が 引 用 さ れ て 居 り 、 こ れ に 引 く 丈 が 第 五 を 除 く 外 全 て 西 藏 大 藏 經 所 收 の 丈 に 牒 さ れ る が 故 に 、 著 者 の 生 存 し た 頃 に は 既 に か ゝ る 金 剛 頂 系 の 諸 儀 軌 が 成 立 し て ゐ た 事 が し ら れ る 。 術 之 に 畳 密 の ﹁ 恒 特 羅 義 入 ﹂ に 引 用 さ れ る 諸 儀 軌 を 合 し 精 査 す れ ば 、 金 剛 頂 經 十 八 會 の 經 軌 の ほ ゞ そ れ に 等 し い 数 の 儀 軌 が 不 空 三 藏 生 存 當 時 既 に 成 立 し て ゐ た 事 に な る の で あ る 。 ④ 密 教 研 究 六 十 八 號 、 一 〇 七 頁 以 下 参 照 ⑤ 廣 觀 を 明 す 。 ⑥ 斂 觀 を 示 す 。
⑦ 部 主 加 持 を 明 す 。 ⑧ 智 山 學 報 、 新 第 十 一 巻 、 一 〇 三 頁 以 下
五
次 に 出 す 資 料 は 漢 譯 ﹁ 秘 密 相 經 ﹂ 中 に 説 く も の と 相 當 す る も の に し て 、 五 相 觀 の 中 に 特 殊 な る 阿 類 、 迦 類 等 の 梵 語 の 母 音 や 父 音 を 觀 す る も の で あ る 。 こ れ 等 の 阿 類 迦 類 は 大 日 經 の 字 輪 品 中 に も 説 か れ て ゐ る け れ ど も 通 觀 す る に 金 剛 頂 系 た る 無 上 瑜 伽 部 中 の 諸 儀 軌 に よ く 眞 言 と し て 説 か れ て ゐ る 事 を 知 れ ば 西 藏 佛 教 の 佛 經 判 繹 の 方 法 に 随 つ て そ の 中 間 に 位 す る も の な る 事 を し る の で あ る 。 即 ち 瑜 伽 部 の 諸 儀 軌 よ り 無 上 瑜 伽 部 に い た る 過 程 に あ る も の と 思 は れ る も の で あ る 。 此 の 五 相 觀 に 關 し て 私 は 二 つ の 儀 軌 資 料 を 持 つ 、 即 ち 一 は 西 藏 題 よ り ﹁ 正 相 合 と 名 つ く る 大 但 特 羅 ﹂ に し て 他 は 一 聖 秘 密 摩 尼 明 鐵 と 名 つ く る 經 ﹂ 中 に 説 か れ て ゐ る 。 而 し て 此 の 五 相 觀 に 關 し て は 前 者 は 漢 譯 に よ く 合 す る も の で あ る が 後 者 は あ ま り よ く 合 す る と は 云 へ な い が 構 想 は ほ ゞ 同 全 で あ る 。 こ れ は 後 に 具 文 を 出 し て 了 承 さ れ る 事 で あ る が 後 者 の 方 が 先 に 成 立 し て ゐ て 前 者 の 方 が そ れ を 偶 頌 に 改 め 整 備 し た 様 に 思 は れ る 。 次 に 漢 譯 秘 密 相 經 全 體 に 就 て は 前 者 の 但 特 羅 中 に 説 く 庭 は こ の 五 相 觀 の み 合 し て 儀 軌 全 體 と し て は 前 分 も 後 分 も 異 な り 云 は ゞ 他 よ り の 引 用 文 と の み し か 考 え ら れ な い が 、 後 者 は 前 分 と 五 相 觀 と ほ ゞ 合 し 、 後 分 も 初 め の 程 は ほ ゞ 合 す る が 後 分 に 至 る に 随 つ て 全 々 異 な つ て ゐ る 。 か ゝ る 事 よ り 施 護 三 藏 依 用 の 梵 本 の 成 立 は 爾 者 の 中 間 に 位 す る も の で あ ら う か と 思 は れ る 。 此 の 施 護 三 藏 譯 出 依 用 の 秘 密 相 經 の 梵 本 も あ ま り 完 全 な も の で な か つ た ら し く 經 と し て の 體 裁 も 前 分 、 後 分 が 缺 除 し て ゐ る 事 に よ つ で も し ら れ る 。 次 に 施 護 三 藏 等 の 宋 譯 の 經 を 見 る 時 は 相 當 の 注 意 を 要 す る 〇 こ の 事 は 梵 本 の 逐 語 譯 た る べ き 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 一五 相 成 身 觀 の 西 蔵 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 二 に 拘 ら す 譯 文 修 定 の 時 相 當 の 手 心 が 加 へ ら れ て ゐ る 事 を 藏 譯 等 よ り 知 り 得 る の で あ る 。 こ の 爾 軌 に 於 け る 読 庭 は 前 者 は 帙 、 後 者 は 帙 で あ る 。 今 兩 者 の 文 を 並 記 し て 比 較 す る 事 に し よ う 。 ( 正 相 合 但 特 羅 ) そ の 時 世 尊 執 金 剛 は 一 切 頂 よ り 生 す る と 名 つ く る 三 摩 地 に 等 入 し て 、 次 の 如 き 等 の 言 葉 を 宣 は く 、 次 に 定 に 佳 し て 一 切 諸 法 を 無 我 と 正 し く 觀 す べ し 。 内 外 の 我 性 を 有 す る も の は 此 等 全 て を 心 を 以 つ て 分 別 し 心 を 除 け る 他 の も の は 全 て あ る 事 な し 。 一 切 法 自 性 明 朗 に し て 一 切 法 本 初 無 生 の 故 に 心 を も つ て ( 不 生 ) と 云 へ 。 そ の 時 、 自 の 心 そ の も の は 此 の 故 に 自 性 と し て 明 朗 な り 欲 す る の 眞 言 を 以 て 誦 す る も の は 月 輪 を よ く 觀 す べ し 清 淨 な る 大 資 糧 輪 は 盧 室 の 如 く に 無 垢 な り ( 秘 密 摩 尼 明 點 ) そ の 時 、 又 世 尊 毘 盧 毘 遮 那 一 切 如 來 の 主 が 金 剛 手 大 菩 薩 に 次 の 如 く 宣 へ り 。 戒 を 執 持 し 了 り て 、 大 印 に 佳 し て 眞 言 者 は 、 一 切 法 無 我 と 觀 す べ し 。 此 等 一 切 の 内 外 を 分 別 し て 觀 察 ( 心 ) よ り 他 の も の に は 又 住 せ す と か く 心 に 置 き て 次 の 如 く 、 〃 諸 行 は 無 常 に し て 自 性 と し て 明 朗 、 本 來 不 生 の も の な り " と 云 ふ べ し 。 そ の 時 、 金 剛 手 大 菩 薩 が 、 世 尊 の 御 前 の 月 輪 に 坐 し て 、 世 尊 に 申 さ く 、 世 尊 よ 、 自 性 と し て 明 朗 な る 心 は 如 何 が 觀 脅 す べ き や 、 少 し く 告 け 給 へ 。 そ の 時 、 又 世 尊一 切 如 來 の 主 毘 盧 遮 那 は 心 に 通 達 す る
疑 心 の 全 て よ り 解 脱 し よ く 、 妄 分 別 を 碎 破 す 。 一 切 の 煩 悩 の 垢 を 嚴 淨 し て 先 づ 月 輪 の 如 き を 見 て 諸 佛 の 此 の 功 徳 に 阿 ( a ) 等 の 身 ( 姿 ) を 以 つ て 遍 入 す べ し 。 世 尊 よ 、 月 輪 の 功 徳 の 殊 勝 は 如 何 に 世 尊 が 宣 は く 廣 大 な る 三 角 の 自 性 あ り 諸 佛 の 功 徳 に 佳 す 。 こ は 阿 等 の 身 ( 姿 ) を 以 つ て 佛 の 功 徳 に 入 る べ し 。 水 晶 と 月 の 如 く 王 と 名 つ く る 三 摩 地 に 等 入 し て 、 金 剛 手 菩 薩 に 次 の 如 く 宣 へ り 。 〃 金 剛 手 よ 、 汝 は 此 の 自 性 明 朗 な る 心 は 月 輪 の 相 な る 我 性 に し て 、 虚 室 の 中 央 に か 、 り 無 絵 に 遍 滿 す る 美 は し き 光 輪 あ り 、 百 千 由 旬 よ り 越 え 、 阿 ( a ) 等 の 相 の 文 字 た る と 名 つ く る 此 等 を よ く 轉 變 す る よ り 月 輪 の 相 を 觀 す べ し 、 そ の 時 、 金 剛 手 大 菩 薩 が 自 身 月 輪 の 相 を 觀 脅 し た る 事 よ り 自 身 月 輪 の 相 を 見 た り 。 そ の 時 、 世 尊 の 左 の 月 輪 に 坐 し て 、 不 室 成 就 の 姿 に 佳 せ り 。 又 世 尊 毘 盧 遮 那 の 御 胸 に 坐 し て 、 此 の 唱 陀 南 を 読 か く 、 オ ー 、 一 切 諸 佛 の 久 遠 成 道 の 不 室 た る 我 は 恰 も 月 輪 の 如 く に し て 、 自 身 月 輪 に 佳 す 。 そ の 時 、 又 金 剛 手 大 菩 薩 は 、 世 尊 の 後 の 月 輪 に 坐 し て 、 世 尊 大 毘 盧 遮 那 に 言 上 す ら く 、 此 の 月 輪 は 如 何 が 觀 す べ き や 。 そ の 時 、 又 世 尊 一 切 如 來 の 主 が 一 切 如 來 の 大 菩 薩 の 月 と 名 つ く る 三 摩 地 に 等 入 し て 、 無 講 無 絵 の 世 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 三
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 四 そ の 上 に 入 る べ し 。 心 は 、 自 性 明 朗 の 故 に そ の も の は 歡 喜 を な す 因 た り 。 眞 言 を 以 つ て 菩 提 心 を 發 す べ し 。 起 し 了 つ て 次 第 の 如 く 有 情 を 執 持 す る も の は 善 法 を も つ て 正 し く 滿 た し 一 切 煩 悩 を 決 定 降 伏 す 。 月 輪 の 中 央 に 菩 提 の 第 二 の 月 あ り 此 處 に 又 星 の 相 を 以 ち て 佛 の 功 徳 た る 迦 等 の 身 ( 姿 ) と し て 影 像 の 如 き の 瑜 伽 を も ち て 入 る べ し 。 此 の 輪 の 一 切 軌 則 は 絵 經 (但 特 羅 ) に は 説 か す 界 に 遍 滿 す る 廣 大 量 の 一 如 如 來 の 御 胸 に 入 り 給 へ り 。 入 り 了 つ て 又 一 體 不 壊 と な り て 盧 室 界 一 切 に 遍 滿 す る の 方 法 に 住 し を り 、 金 剛 手 菩 薩 摩 詞 薩 よ 、 此 の 菩 薩 の 月 を 釋 す べ し 。 此 の 月 輪 の 上 に 我 性 た る 菩 提 の 月 の 姿 を 觀 習 す べ し 。 即 ち 、 甚 だ 無 垢 に し て 、 虚 室 と 等 し き の 姿 あ り 、 一 切 の 妄 分 別 を 離 れ た る 最 勝 な り 、 一 切 の 悪 趣 よ り 解 脱 し 、 身 と 意 の 一 切 の 安 樂 を 享 受 す る の 義 あ り て 凡 そ 虚 室 と 等 し き 無 垢 に し て 前 見 の 月 の 如 く に 迦 等 の 身 (姿 ) を 以 つ て 佛 の 功 徳 に 入 る べ し 。 即 ち 、 等 の 此 等 の 文 字 は 星 等 の 姿 と し て 入 り て 、 一 體 不 壊 と な り た る も の ゝ 中 に 月 輪 そ の も の を 思 惟 す べ し 。
さ て 、 そ の 中 央 に 五 股 に し て 白 光 あ るる も の あ り 普 賢 心 を 發 す る も の は 堅 固 に な す 因 の 故 に 自 身 金 剛 の 姿 と 此 の 眞 言 を 以 つ て 觀 習 す べ し 。 無 上 の 菩 提 行 な る そ の 地 を 悟 る 此 れ は 清 淨 な る 無 漏 智 な り 月 輪 の 中 央 に 金 剛 を 決 定 し て 思 惟 す べ し 。 虚 室 界 一 切 虞 の 量 に 正 し く 遍 滿 せ る 金 剛 身 の 我 性 を 眞 言 者 は 習 熟 す べ し 。 こ の 眞 言 の 瑜 伽 に よ つ て 遍 周 と 收 斂 の 觀 を な す べ し 諸 佛 の 身 、 そ れ は 顯 現 な く 、 無 佳 に し て 不 生 、 無 作 に し て 清 淨 な り 。 事 ( 性 ) な き 等 よ り 離 れ 、 又 金 剛 手 よ 、 彼 の 月 輪 中 に 虚 室 界 一 切 庭 に 遍 滿 す る 量 の 寂 静 (白 ) の 光 あ る 五 股 金 剛 を 觀 習 す べ し 。 そ の 時 、 又 秘 密 主 金 剛 手 が 世 尊 に 次 の 如 く 言 上 せ り 。 世 尊 よ 、 此 の 金 剛 を 如 何 が 習 熟 す べ き 、 そ の 時 、 世 尊 一 切 如 來 の 主 、 毘 盧 遮 那 は 、 一 切 如 來 の 錘 薩 の 金 剛 と 名 つ く る 三 摩 地 に 等 入 し て 、 一 切 如 來 と 一 體 と な り 給 ひ て 金 剛 手 大 菩 薩 に 宣 は く 、 金 剛 手 よ 、 此 の 金 剛 を 薩 錘 の 金 剛 の 姿 と 觀 脅 す べ し 。 即 ち 、 一 切 盧 室 界 に 遍 滿 す る の 量 あ る 金 剛 は 焔 を 以 つ て よ く 飾 ら れ 、 一 切 の 荘 嚴 に よ つ て よ く 覆 は る 。 遍 身 佛 身 の 方 法 を 以 つ て 満 さ れ 、 清 淨 に し て 、 左 手 を 以 て 鈴 を 取 り 、 右 手 を 以 て 金 剛 を 胸 に 依 止 し 、 顔 を 少 し く ほ ゝ え ま せ る を 眞 言 者 は 思 惟 す べ し 。 そ の 時 、 又 世 尊 は 金 剛 手 に 次 の 如 く 宣 へ り 。 眞 言 は 次 の 如 し 、 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 五
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 六 不 断 無 別 に し て 無 執 持 な り 法 身 は 無 形 に し て 金 剛 無 我 と 正 し く な る 。 金 剛 の 身 は 本 來 な し 。 如 是 、 文 此 の 金 剛 を 以 て 標 識 す る 事 を 觀 習 す べ き を 世 尊 一 切 如 來 は 聞 け よ か し 又 金 剛 薩 錘 と し て 一 切 相 の 最 勝 を 具 せ る 諸 佛 の 形 像 を 次 の 眞 言 を 以 つ て 習 熟 す べ し 。 身 と 語 と 同 様 に 行 と し て 眞 實 の 境 を 悟 る も の は 五 相 現 畳 し て 諸 佛 の 善 な る 我 性 あ り 。 そ の 時 、 又 世 尊 が 金 剛 手 に 次 の 如 く 宣 へ り 、 次 に 薩 錘 の 金 剛 の 姿 を 如 來 の 身 と 眞 言 者 は 次 の 眞 言 を 以 つ て 習 熟 す べ し 、 即 ち 以 上 の 並 記 の 丈 に よ り 漢 譯 秘 密 相 經 の 文 と よ く 合 す る 事 が し ら れ る 。 此 の 儀 軌 の 特 徴 は 前 述 せ る 如 く 月 輪 に 佛 の 功 徳 た る 阿 類 篇、 迦 類 の 文 字 を 觀 す る 事 に し て 、 之 れ も 後 者 は 月 に 封 す る 星 の 如 き 形 と し て 觀 す る 事 は 仲 々 興 味 あ る 所 で あ る 。 又 第 二 の 月 輪 を 感 す る 事 が 漢 譯 に も 見 え て 居 り 、 .後 者 の 如 き は 佛 身 圓 滿 を 觀 す る 場 合 に 標 識 を 持 て る 金 剛 薩 錘 を 感 す る 等 あ り て こ の 儀 軌 の 成 立 が 秘 密 相 經 の 本 丈 に て も 知 ら れ る 如 く 此 等 の 事 よ り 相 當 成 立 年 代 の 後 期 に 島 す る 事 が 云 ひ 得 ら れ る 事 と 思 ふ 。 テ キ ス ト 後 者 は ﹁ 秘 密 摩 尼 明 點 ﹂ と 名 づ け ら れ て ゐ る け れ ど も 本 文 中 に は 秘 密 明 點 = 相 な る 名 で 説 明 さ れ て ゐ る 事 は 注 意 を 要 す る 。 註 ① 大 正 藏 、 八 八 四 番
② 大 正 藏 一 八 、 三 〇 b-c 、 西 藏 文 大 日 經 服 部 本 二 七 九 頁 ③ 東 北 目 録 三 八 一 番 ④ 東 北 目 録 四 九 三 番 ⑤ 第 二 の 月 輪 を 説 く 、 漢 譯 に は 月 曼 荼 羅 左 右 中 と あ れ ど も 藏 譯 に は な い 、 た ゞ 金 剛 手 が 世 尊 の 前 後 左 右 の 月 輪 に 住 し て 法 を 示 す 事 あ る の み 。 ⑥ 漢 譯 に は ﹁ 唯 妙 相 ﹂ と あ り て 藏 譯 の 如 き 丈 な し 。 ⑦ 廣 觀 を 示 す も 眞 言 な し 。 ⑧ 斂 觀 を 示 す も 眞 言 を 説 か ず 。 ⑨ 大 正 藏 一 八 ・ 四 六 四 a ⑩ 十 萬 但 特 羅 部 帙 六 以 上 の 拙 譯 紹 介 に よ つ て 從 來 本 軌 不 明 の 五 相 成 身 觀 の 所 謂 偶 頌 式 な る も の ゝ 本 軌 が こ れ で 判 明 し 又 金 剛 智 三 藏 の 略 出 經 に 説 か る 、 初 會 の 金 剛 頂 經 所 説 以 外 の 點 も ほ ゞ 解 決 さ れ る 様 に 思 は れ る 。 此 等 の 藏 文 資 料 に よ つ て か く し て 漢 譯 に 於 て 問 題 に さ れ る 所 が 一 磨 の 説 明 が つ く 次 第 で あ る 。 こ れ に て も 手 近 に 得 ら れ た だ け の 資 料 よ り 論 す る 迄 に し て 、 彼 の 尨 大 な 内 容 を 持 つ 西 藏 大 藏 經 を 精 讀 し た な ら ば 荷 幾 多 の 新 資 料 が 見 出 さ れ る 事 か と 思 は れ る 。 次 に 此 を 成 立 史 的 に 見 て 、 初 會 の 金 剛 頂 經 以 前 の 問 題 は 暫 く 措 く も 、 初 會 以 後 に 於 け る 展 開 は 、 修 行 の 便 意 に ま か せ て 偶 頌 式 の も の へ と 伸 び 、 更 に 略 出 經 に 出 す 如 く 廣 斂 二 觀 を 加 へ 、 最 後 に 阿 類 迦 類 を 佛 の 功 徳 と し て 觀 想 さ れ る 塵 五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 七
五 相 成 身 觀 の 西 藏 傳 譯 資 料 に 就 い て 四 八 ま で 發 展 し た と 見 る べ き で あ ら う 。 茲 に 注 意 す べ き は 初 會 經 に 説 か ざ る も 藏 文 等 よ り 本 有 と 修 生 の 二 種 の 月 輪 觀 を 明 ら か に し た 事 と 前 二 者 は 未 だ 因 位 の 一 切 義 成 就 菩 薩 を 離 れ な い 方 便 を 主 と す る も の で あ る が 、 後 者 に い た つ て は 純 然 た る 般 若 の 慧 を 表 と す る 方 法 を と る に ま で 發 展 じ た 事 、 換 言 す れ ば 西 藏 佛 教 の 佛 經 判 繹 の 示 す 如 く 瑜 伽 但 特 羅 中 に 於 て 方 便 を 主 と す る も の と 般 若 を 主 と す る も の に 分 離 さ れ る 中 、 前 二 者 は 方 便 を 主 と す る 初 會 眞 實 播 系 に 随 順 し 、 後 者 は 慧 を 主 と す る 六 會 理 趣 經 系 に 包 含 さ れ て ゐ る 事 を 示 す も の が あ つ て 、 最 後 者 は 無 上 瑜 伽 部 に 攝 せ ら れ る 十 五 會 秘 密 集 會 に い た る ま で の 中 間 に 位 す る も の と 思 は れ る の で あ る 。 金 剛 頂 經 大 本 十 萬 頌 十 八 會 の 成 立 に 關 し て は 古 よ り 種 々 論 議 さ れ 、 術 未 判 定 の 事 に 屡 す る が 漢 譯 藏 經 の 歓 を 補 ふ も の と し て 西 藏 々 經 あ り 、 そ の 翻 譯 、 收 録 の 年 代 が 漢 譯 よ り 後 期 に 属 す る と は 云 へ 、 西 藏 が 地 理 的 に 支 那 よ り も 恵 ま れ た る 位 置 に あ り を る を 以 て 特 に 密 教 典 籍 に 資 料 の 豊 富 な る に 注 意 し て 彼 此 互 に 研 究 利 用 し 合 つ て 究 明 し な け れ 嫁 な ら ぬ と 思 ふ 。 尚 善 無 畏 、 金 剛 智 、 不 室 三 藏 の 生 存 時 代 と ほ ゞ 時 代 を 同 じ く す る 繹 迦 友 、 覺 密 、 因 陥 羅 部 底 王 等 の 著 書 に 引 用 さ れ る 金 剛 頂 系 經 軌 に 就 い て の 精 査 の 必 要 が 痛 感 さ れ る の で あ る 。 ( 一 七 、 一 〇 、 三 一 )