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教科横断的な視点における共通感覚的学習の実践的 検討

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教科横断的な視点における共通感覚的学習の実践的 検討

著者 鈴木 一成, 渡辺 行野, 大熊 誠二

著者別名 SUZUKI Issey, WATANABE Yukino, OKUMA Seiji

雑誌名 東洋大学文学部紀要. 教育学科編

巻 43

ページ 51‑58

発行年 2017

URL http://id.nii.ac.jp/1060/00009898/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止

(2)

1すずき いっせい 東洋大学文学部教育学科  2わたなべ ゆきの 文京学院大学人間学部児童発達学科  

3おおくま せいじ 東京学芸大学大学院・東京学芸大学附属竹早中学校 1  問題の所在

 平成28年に中央教育審議会によって示された

「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支 援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等 について(答申)」(以下「学習指導の改善等につ いて」と記述)では、「国際教育到達度評価学会

(IEA)が平成27年に実施した国際数学・理科教 育動向調査(TIMSS 2015)においては、小学校、

中学校ともに全ての教科において引き続き上位を 維持しており、平均得点は有意に上昇している。

また、経済協力開発機構(OECD)が平成27年に 実施した生徒の学習到達度調査(PISA 2015)に おいても、科学的リテラシー、読解力、数学的リ テラシーの各分野において、国際的に見ると引き 続き平均得点が高い上位グループに位置してお り、調査の中心分野であった科学的リテラシーの 能力について、平均得点は各能力ともに国際的に 上位となっている。」と示されており、日本の子 ど も 学 力 が 改 善 傾 向 に あ る こ と が 指 摘 さ れ た1 、 2 、 3

 しかし、平成27年全国学力学習状況調査の結果

教科横断的な視点における 共通感覚的学習の実践的検討

Cross Curricular Practice in Common-sense Learner of the Instructional Design for Science Lessons

鈴 木 一 成

1

  渡 辺 行 野

2

  大 熊 誠 二

3

 平成28年に中央教育審議会によって示された「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び 特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」においては、

資質・能力の三つの柱のひとつである思考力・判断力・表現力等の育成が学校教育の今日 的課題であることが示された。さらに、同答申で示されたカリキュラム・マネジメントの 観点から、思考力・判断力・表現力等の育成は単一の教科ではなく、教科横断的な視点を 用いて育成することが重要であることも示唆されている。理科教育においては、思考力・

判断力・表現力等を育成する理論として理科授業デザインの枠組みが示されており(鈴木・

森本、2012)、この理科授業デザインの枠組みを基礎として社会科、音楽科、保健体育科 の各教科の学習活動を分析した結果、理科授業デザインの枠組みが教科横断的な視点とし ても有用であることが明らかになっている(鈴木ら、2014;2015)。

 そこで本研究では、先行研究で明らかとなった教科横断的な視点をさらに深化させるべ く、第 3 象限の共通感覚的学習における重要な学習活動がどのように各教科において解釈、

実践されているかについて論考した。その結果、共通感覚的学習における「自然事象に対 する自分の概念を考察や解釈を通して明らかにする」、「話し合いや発表を行って概念を比 較・検討し、『共通感覚』から『常識』をつくる過程を通して科学概念を構築する」の二 つの視点が、教科横断的な視座においても有用であることが明らかとなった。

キーワード: 理科授業デザイン 共通感覚的学習 カリキュラム・マネジメント 教科横 断的な学習活動

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「東洋大学文学部紀要」第71集 教育学科編 XLIII(2017年度)

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代を切り拓いていくために必要な資質・能力を育 むために必要な視点としてカリキュラム・マネジ メントを挙げており、「各教科等の教育内容を相 互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等 横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の 内容を組織的に配列していくこと。」として、教 科教育において教科横断的な視点が重要であるこ とを指摘している8。これは学校教育において、

今日的な課題である思考力・判断力・表現力等の 育成が単一の教科の観点で育成されるべきもので はなく、各教科間で教授・学習活動の視点を共有 して教科横断的に思考力・判断力・表現力等を育 成することが必要であるということに他ならな い。

 鈴木・森本は理科教育における思考力・判断力・

表現力である「科学的な思考・表現」に関する学 力を育成する理科授業デザインの枠組みを明らか にした9。理科授業デザインでは一連の問題解決 的な学習を第 1 象限から第 4 象限の学習活動とし て示し、これらの学習活動を連続的に行うことに より、思考力・判断力・表現力等の育成に寄与で きることが示されている。

 鈴木・渡邊・渡辺・大熊は、こうした理科授業 デザインの枠組みを基礎として、社会科、音楽科、

保健体育科の各教科の学習活動と理科授業デザイ ンの共通点と相違点について検討し、各教科の教 科特性について仔細に分析した。その結果、理科 授業デザインにおいて示された各象限の学習活動 は、社会科、音楽科、保健体育科の授業における 学習活動と類似性があることが明らかとなり、理 科授業デザインの枠組みが教科横断的な視点とし て有用であることが明らかになった10。特に第 1 象限の問題把握的学習において重要な学習活動で ある「生活経験や既有概念から、学習についての 課題を見出す」、「自然事象への疑問や自分の考え を持ち、予想や仮説を立てる」の二つの視点は、

理科固有の視点ではなく、教科横断的な視点とし て有用であることが実証的に明らかになった11。  そこで本研究においては、この研究をさらに深 化させるべく、第 3 象限の共通感覚的学習に焦点 を当て、各教科における授業実践を概観すること により、共通感覚的学習における重要な学習活動 がどのように各教科において解釈され、授業実践 において具現化されているかについて明らかに し、教科横断的な視点としての有用性を検討する。

においては、「伝えたい事実や事柄について自分 の考えや気持ちを示してはいるが、根拠を明確に して書く点に、依然として課題がある(国語:中 学校)」、「記述式問題のうち、予想した事柄の説 明には改善の状況が見られるが、数学的な表現を 用いた理由の説明に課題がある(数学:中学校)」、

「実験結果を数値で示した表から分析して解釈し、

規則性を見いだすことには課題がある(理科:中 学校)」等の課題が指摘されており、判断の根拠 や理由を明確に示しながら自分の考えを述べた り、実験結果を分析して解釈・考察し説明したり することなどについて課題があることが明らかと なった。これは端的には学力要素のひとつである 思考力・判断力・表現力の育成に課題があると考 えられる4

 次期学習指導要領においては、学校における 様々な教育活動を通じて資質・能力を育成するこ とが希求されており、資質・能力を高めるために は、以下の三つの柱が必要であることが示され

5 、 6。なお、( 1 )~( 3 )の括弧内の文言は平

成28年中央教育審議会(答申)から引用したもの である7

( 1 ) 知識及び技能が習得されるようにすること。

(生きて働く「知識・技能」の習得)

( 2 ) 思考力、判断力、表現力等を育成すること。

(未知の状況にも対応できる「思考力・判断 力・表現力等」の育成)」

( 3 ) 学びに向かう力、人間性等を涵養すること。

(学びを人生や社会に生かそうとする「学び に向かう力・人間性等」の涵養)」

 資質・能力の三つの柱を概観すると、学校教育 法で示されている三つの学力要素と軌を一にして おり、両者が一連の問題解決的な学習活動を措定 していると捉えられる。前述の平成27年全国学力 学習状況調査で指摘された課題を上記の三つの柱 の枠組みで再考すると、国語の根拠の明確化、数 学的な表現の精緻化、理科の分析と解釈の深化と いった、資質・能力の三つの柱のうちの( 2 )で 示された「思考力・判断力・表現力」の育成が、

学校教育における今日的な課題であると考えられ るのである。

 さらに、前述の「学習指導要領等の改善等につ いて(答申)」においては、子供たちに新しい時

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いくことが求められる。」と協働的な学習が必要 であることが指摘されている14

 国立教育政策研究所によれば協働的な学習は子 どもが深い理解に至る過程であり、以下の( 1 )

~( 5 )に示したプロセスの中で子どもの視点が 建設的相互作用を通して一般的・抽象的なものへ と精緻化することが重要であることを明らかにし ている15

( 1 )自分の視点について自覚化する。

( 2 )自分の視点とは違う視点に気づく。

( 3 ) 自分の視点と他者の視点を比較・検討し、

一般的な視点を得る。

( 4 )自分の以前用いていた視点を再検討する。

( 5 )さらに別の視点について考察する。

 また、西岡はアクティブ・ラーニング(いわゆ る主体的・対話的で深い学び)の視座においては 協働が重要なカギを握っており、協働的な学習場 面では、話し合いや発表などの自己目的化を避け るとともに、相互作用の質を高めることが学習の 質を高めるポイントであることを指摘してい る16

 理科教育において協働的学習が重要であること は従前から認識されていた。例えば、渡辺・黒田 はロゴフの用いたアプロプリエーションの理論を 援用し、理科における協働的な学習を通して、子 どもと教師の間でどのような相互作用があるのか を授業実践の発話分析と記述分析から明らかにし

ている17、18、19。これらの先行研究から、理科授業

において協働的な学習が重要であることは既に認 識されており、その有効性を仔細に研究する段階 にあると考えられる。

 第 3 象限の共通感覚的学習における基本的な視 点は「自然事象に対する自分の概念を考察や解釈 を通して明らかにする」、「話し合いや発表を行っ て概念を比較・検討し、『共通感覚』から『常識』

をつくる過程を通して科学概念を構築する」の二 つであるが、この二つの教授学習活動は話し合い や発表といった協働的な学習活動を前提としてい ることは明らかであり、前述の協働的な学習活動 についての知見を用いることが重要であると考え られる。換言すれば、教科横断的な視座において 共通感覚的学習を十全に行うためには、協働的な 学習活動についての知見を活かすことが重要なの 2  理科授業デザインにおける共通感覚的学習

( 1 )共通感覚的学習の意味内容

 理科授業デザインは、第 1 象限の問題把握的学 習、第 2 象限の分析的学習、第 3 象限の共通感覚 的学習、第 4 象限の知識活用的学習を連続的に行 うことにより、思考力・判断力・表現力の育成に 寄与することができる枠組みを示したものであ る。

 本研究の焦点である第 3 象限においては、第 1 象限の問題把握的学習で作成した予想や仮説を、

第 2 象限の分析的学習でまとめられた観察・実験 の結果と照らし合わせて、仔細に検討し、子ども 固有の共通感覚的な概念が構築されていくと考え られる。共通感覚的な概念は、グループや学級内 で話し合いや発表、質疑応答を行うことにより、

比較・検討が行われ、グループや学級内で精緻化 された概念は、学級という集団内で承認されるこ とによって常識、すなわち科学概念として子ども 一人ひとりの中に構築されると考えられる。

 第 3 象限の共通感覚的学習においては「自然事 象に対する自分の概念を考察や解釈を通して明ら かにする」「話し合いや発表を行って概念を比較・

検討し、『共通感覚』から『常識』をつくる過程 を通して科学概念を構築する」という学習活動が 必要であり12、これらの学習活動を具現化するた めには協働的・対話的なパフォーマンス評価が必 要であると考えられる13

 共通感覚的学習の二つの視点の有効性は理科の 授業分析から明らかにされたが、これらの視点を 教科横断的に用いるためには、理科以外の教科教 育学の知見に基づいて検証することが必要であ る。そこで本研究においては音楽科と保健体育科 の教科教育の視座か共通感覚的学習について論考 し、教科横断的な視座において共通感覚的学習の 二つの視点が有効であるかを検証する。

( 2 )授業実践における協働的な学習と共通感覚 的学習の関連性

 前述の「学習指導の改善等について」において は、「主体的・対話的で深い学び」の実現が希求 されており、「身に付けた知識や技能を定着させ るとともに、物事の多面的で深い理解に至るため には、多様な表現を通じて、教職員と子供や、子 供同士が対話し、それによって思考を広げ深めて

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るなどの協働的な学習活動を十全に行うことによ り、子ども自身の音楽概念が構築されることを意 味している。

 つまり、音楽における第 3 象限の共通感覚的学 習は、こうした他者との意見の交流や対話の実践、

そしてこれらの協働的な学習過程を通して、それ ぞれ子ども一人ひとりの概念や学びの力が構築さ れる学習活動が展開されると考える。

( 2 )音楽科における共通感覚的学習の授業実践  音楽を聴いて、一人ひとりが違った感じ方をす ることは当然のことであるが、なぜそのように感 じたのかと根拠を持って説明することは難しい。

なぜそう感じたかを言葉にしていくこととは、楽 曲を考察し、作曲家やその時代背景、楽曲の分析

(アナリーゼ)を通して、自分自身の解釈を明ら かにしていくことが必要となる。

 ここでは、鑑賞を一つの例として挙げる。ある 楽曲を聴取すると、それぞれ色々な思いをもって 音楽と関わり、様々なことを感じていく。その時 の感覚や、その時心が揺れ動いた旋律、ハーモニー 等々、自分がどこの部分で何を感じたのか、また 楽曲の曲想はどのようなものであるとイメージし たのか、どんな時に作曲されたものか等、聴取し た際に感じた自分なりの想像や自分自身の感性が 揺れ動いた部分については、第 2 象限の際に、全 て記録に残しておくことが必要である。他にも、

楽曲に関連するもの、楽曲・作曲家・演奏家等の 情報を収集しておくことも肝要である。それらは、

第 3 象限による自らの考えに根拠を持たせるもの として必要になってくるからである。ただ漠然と こう感じた、こう思った、だけでなく、なぜそう 感じたのか、本当にその解釈でよいのか、聴取し たものを知覚・感受したり、楽譜から視覚的に裏 付けたりしていくことが大切となる。また、楽曲 の背景や作曲家の情報等様々なものと関連付けな がら、自らの感受を知覚し、根拠を見出していく ことが必要なのである。

 第 3 象限では、楽譜から見えてくる作曲家の意 図、楽曲の構成から見えてくる意味や時代背景と の関連性など、様々な根拠と共に、自らの感覚や 感性を概念化していく。そして、楽曲の理解やそ の解釈を、自己表現を用いて明らかにしていく作 業が始まるのである。個々がそれぞれの根拠を もって話し合いに参加し、その概念を比較検討す である。

3  音楽科における共通感覚的学習

( 1 )音楽科における共通感覚的学習の意味内容  理科授業デザインの枠組みを基にして、音楽の 授業実践を分析・検討した結果、音楽科授業デザ インとして第 1 象限から第 4 象限の学習活動で音 楽の授業を捉えることが可能であり、教科横断的 な視点を用いて学習活動を展開することで、それ ぞれの学習が補完し合い、一人ひとりの子供の資 質・能力に寄与できることが明らかになった20。  音楽科授業デザインの枠組みを通観すると、第

1 象限の問題把握的学習では、生活経験や既有概 念から楽曲理解や表現方法についての問題を見出 し、作曲方法や楽曲への疑問に自分の考えを持っ て、予想や仮説を立てる。第 2 象限の分析的学習 では、文化や時代背景、楽曲分析・表現結果につ いてスケッチや文章、楽譜や楽曲に関する様々な 形態の情報を収集して整理する。そして、本研究 である第 3 象限の共通感覚的学習では、楽曲や表 現に対する自分の概念を、解釈を通じて明らかに することや、話し合いや発表を行って「共感・発 見」し、「他者理解・楽曲や表現への理解」を深 める過程を通じて音楽概念を構築するという学習 活動を具現化することを希求する。

 本研究で焦点化している第 3 象限においては、

第 1 象限、第 2 象限から構築した自分の概念を持 つことが重要であり、子ども一人ひとりが自分の 概念をもとに、自分の言葉や表現によって、自分 の考えや解釈を伝え、表現していく学習活動が必 要であると考えられる。

 この学習活動において、子どもは自分の共通感 覚的な考えと他者の考えを比較検討することによ り、様々な考えのアプローチが存在することを理 解し、それらの考えに共感することのできる契機

を得る21、22。そして、子ども自身が音楽概念を構

築するとともに、多角的に物事を捉えていくこと ができるようになるのである。

 特に他者の考えを理解することは、考えの意味 内容を精緻化する過程を通じて、楽曲に込められ た意味や楽曲に対する考察を深めることが可能と なり、「表現する」ことの多様性を広げることに 寄与できると考えられる。これは、学習者である 子どもが他者と関わり、コミュニケーションを図 りながら他者との交流や対話(ダイアローグ)す

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において希求される能力である、キーコンピテン シ ー の「 社 会 的 に 異 質 な 集 団 で 交 流 す る

(Interacting in Heterogeneous Groups)」、「自律 的に活動する(Acting Autonomously)」の二つ のカテゴリーと関連しており、保健体育科の授業 には現代的な課題が包含されていると捉えられ る25。つまり、今後の保健体育科の学習活動にお いて、学習指導要領に示された力を育成するため には、子ども自身の考えを精緻化させて、その思 考を十全に表現させるといった、保健体育科にお ける思考力・判断力・表現力である、「運動や健康・

安全についての思考・判断」に関する学力を活用 することが肝要なのである。

 具体的な運動の授業実践では、体を動かすこと によって自己の成長はもちろんの事、協働的な活 動などを通じてコミュニケーション能力を育成す ることをねらいとする。また、筋道を立てて練習 や作戦を考え、改善の方法などを互いに話し合う 活動などを通じて「論理的思考力」を育む等の場 面設定も必要となってくる。そこで、本研究で焦 点化している第 3 象限の共通感覚的学習において は、協働的な活動のプロセスの中で、意図的に話 し合いの場面を設定し、コミュニケーション能力 の育成をするとともに共通感覚的学習を具現化し ていく。

 これまでの研究を通観すると、第 1 象限の問題 把握的学習においては、各単元の学習活動におい て、子ども一人ひとりの知識・技能や思考力・判 断力・表現力(いわゆる「運動や健康・安全につ いての知識・理解」と「運動や健康・安全につい ての思考・判断」に関する学力)には、大きな差 異が見られることから、「自分自身の課題設定」

や「学びへの見通しを持たせること」を大切とす る。

 第 2 象限の分析的学習においては、自分自身で 学習課題を設定した上で、客観的に自分自身を分 析する視点が大切となる。子どもは自分自身がど のような運動をしているのかを直接目にすること はできないことから、ICT機器などを活用し、分 析を行う活動が有効であると考えられる。多くの 場面で、子どもは自分自身の「運動や健康・安全 についての思考・判断」に関する学力を活用し、

自己や集団に関する分析を進めながら、学習カー ドや人とのコミュニケーションを通じて、学習内 容を整理し、課題の解決へ向かうのである。

る。様々な捉え方を互いに受け入れながら、同調 や異なる感覚から受ける刺激が大事である。この 活動では、その刺激をもとに、もう一度自分自身 に問いを立てていくことになる。そして、新たな 発見や新たな情報をもとに、自分自身が最終的に どのような解釈をしていくのか、という楽曲理解 への結論が見えてくるのである。

 この活動では、グループで話し合った意見等を まとめ、発表したり、グループ内でしか見えなかっ た意見を全体で示したりすることで更に広がりを 持たせることもできる。個の活動、グループの活 動、全体の活動がそれぞれ大事になっており、自 分と他者との関係性から生まれるものもある。概 念を比較検討し、根拠を持って明確にしていくこ とや、自分の考えを述べたり、考察や分析をした りして解釈することなどが、学びを深めていくこ とに繋がり、共通感覚的学習における学習活動と 軌を一にしている。

 すなわち、第 3 象限の共通感覚的学習の重要な 二つの視点は、音楽科の授業実践においても有効 な視点として機能するのである。

4  保健体育科における共通感覚的学習

( 1 )保健体育科における共通感覚的学習の意味 内容

 平成20年の学習指導要領解説保健体育編におい ては、「小学校体育科の目標を,『生涯にわたって 運動に親しむ資質や能力の基礎を育てる』とする とともに,中学校保健体育科の目標を,『生涯に わたって運動に親しむ資質や能力を育てる』とし て義務教育段階の目標が「生涯にわたって運動に 親しむ資質や能力」の育成であることを示してお り23、その実現には「運動が有する特性や魅力に 応じて,その楽しさや喜びを味わおうとするとと もに,公正に取り組む,互いに協力する,自己の 責任を果たす,参画するなどの意欲や健康・安全 への態度,運動を合理的に実践するための運動の 技能や知識」の涵養が重要であると指摘されてい る24。これは換言すれば、保健体育科では子ども の運動能力の向上のみに注視するのではなく、協 働的な学習姿勢や自己の役割の自覚化など、運動 を囲繞する様々な能力の向上を求めていると考え られる。

 特に、協働的な姿勢や自己の役割の自覚化は、

OECD/ DeSeCoによって示された、今後の社会

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( 2 )保健体育科における共通感覚的学習の授業 実践

 保健体育科の実際の授業実践では、子どもは 次々と自らの運動課題を見出していくことにな る。第 3 象限の共通感覚的学習における協働的活 動では、問題を解決して単純に技能が発揮「でき る、できない」のみに焦点をあてるのではなく、

関心・意欲・態度、思考・判断、知識・理解など の各観点における内容を、子ども自身が自らの力 を発揮しながら学習活動に取り組んでいく姿を目 指すことが重要である。そして、その中での協働 的な活動を通じて、共通感覚的な考えを表現・共 有化させることをねらいとした。

 ここでは、バレーボールの基本的な技能である

「オーバーハンドパス」の学習活動を例にあげる。

その際、ただ単純に行動主義的な学習観にのっと り、ドリル的な反復練習を行って技能の獲得のみ を目指すことは可能である。しかしながら、学習 者にとって主体的な学習活動としては大きな意味 をなさず、まして子どもの「運動や健康・安全に ついての思考・判断」に関する学力の育成は望め ない。そこで、より有用な学習指導を目指すべく、

鈴木・森本の理科授業デザインを、保健体育科の 体育分野における教授学習法に援用し、比較・検 証を行った28

 前述の学習活動を補足説明すると、実際の保健 体育科における授業実践において、「球技におけ るネット型単元での学習内容」、しかも、その一 部の技術である「オーバーハンドパス」の技術を 身につけること、のみを達成することだけに主眼 を置いては、共通感覚的学習の学習活動を具現化 することは難しい。また、それは誰でも達成でき るような安易なものに課題を設定する、という理 解ではない。保健体育科の学習内容には、当然な がら各単元に修めるべき学習内容が存在する。だ からこそ、そこでの学習課題を理解した上で、そ の課題達成に向かって学習を進めていく必要があ り、そのアプローチの仕方が一人ひとりの学習者 によって違いがあるということを保障した学習活 動を実践することが重要なのである。これは共通 感覚的学習において重要な学習活動である「自然 事象に対する自分の概念を考察や解釈を通して明 らかにする」と軌を一にすることは明らかである。

 また、子どもが自分自身の「オーバーハンドパ スの状況」をそれぞれ感じながら、その状況をお  そして本研究で焦点化している第 3 象限の共通

感覚的学習においては、子どもは自分自身の課題 を客観的に整理した上で解決へと向けた学習活動 を進めるが、課題解決と共に仲間との協働的な学 習を進めることで、学習活動に共有や深まりが見 られるようになることを教師は支援することが重 要である。子どもたちは、自分自身と近い課題設 定もあれば、全く違う課題設定の学習者もいる。

その中で、多くの課題に触れ、それらを協働的に 解決していこうとする姿を、お互いに認識し、相 互の考え方を交流させるということは、共通感覚 的な考えを常識(科学概念)として構築する学習 活動である。さらにこうした協働的な学習活動で お互いの考えを深める中で、子ども自身は自らの 概念を精緻化できると考えられる。

 最後に第 4 象限の知識活用的学習においては、

単元の学習をまとめていく中で、解決してきた学 習活動の積み重ねを進めていく。この学習活動の 積み重ねをまとめていく作業は、子ども自身が有 効だった学習方略を体得するための契機となり、

概念化された学習方略は将来的な学習活動におい ても大きな意味を持つと考えられる。このように

「課題をどのように捉え、運動を実践・分析し、

思考・表現するのか」という一連の学習活動に関 する学習方略を子どもが体得することは、思考力・

判断力・表現力の育成に有効であり26、「運動や 健康・安全についての思考・判断」に関する学力 の育成にも資すると考えられる。そして「運動や 健康・安全についての思考・判断」に関する学力 の獲得は、子どもの資質・能力の育成を可能にし、

新しい技能の獲得へとつながるのである27。  これらのプロセスの中で、第 3 象限では、仲間 との協働的活動や、仲間との差異が見られる中で 共通感覚的に学習課題を把握したり、整理したり することによって、協働的に課題を解決していく ことが大切となる。互いの関わりの中から新たな 視点を見出し、自分ひとりでは知り得なかった視 座から課題について考えることにより、学習をさ らに深めていく。そして、仲間と協働して学習を より深化させていくことによって、よりよく運動 の楽しさや喜びを味わうと共に、運動の技能や知 識を身に付け、それらを活用していくことができ るようになると考えられる。

(8)

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pdf)

2  国立教育政策研究所編(2016):『生きるための知識と技能 6 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)』、明石書店 3  文部科学省(2016):「幼稚園、小学校、中学校、高等学校

及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等 について(答申)別添資料(2/3)」、pp.27-34 (http://www.

mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afi eldfile/2017/01/10/1380902_4_2.pdf)

4  中央教育審議会(2016):「幼稚園、小学校、中学校、高等 学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方 策等について(答申)」、文部科学省、p.5

5  文部科学省(2017)『小学校学習指導要領』、文部科学省、p.4 6  文部科学省(2017)『中学校学習指導要領』、文部科学省、p.4 7  同上書 4 、pp.28-30

8  同上書 4 、pp.23-24

9  鈴木一成・森本信也(2012):「科学的な思考力・表現力」

を育成する理科授業デザインと 4 MATシステムによる実践、

理科教育学研究、Vol.53、 No.1、 pp.93-104

10 鈴木一成・渡邊智紀・渡辺行野・大熊誠二(2014):「『思考 力・判断力・表現力』育成に寄与する学習活動における教科 横断的な視点に関する研究」、東京学芸大学附属竹早中学校研 究紀要、 No 52、pp.27-35

11 鈴木一成、森顕子、渡邊智紀、渡辺行野、大熊誠二(2015)

「教科横断的な視点における問題把握的学習の実践的検討」、

平成26年度 東京学芸大学附属竹早中学校研究紀要、No.53、

pp.31-39 12 同上書 9

13 鈴木一成・森本信也(2013):「『科学的な思考力・表現力』

を育成する理科授業を支援するための評価の研究―理科授業 デザインを支援するためのパフォーマンス評価―」、理科教育 学研究、No54、Vol.2、pp.201-214

14 同上書 4 、pp.49-52

15 国立教育政策研究所編(2016):『国研ライブラリー 資質・

能力[理論編]』、東洋館出版社、pp.169-176

16 西岡加名恵(2016):『アクティブ・ラーニングをどう充実 させるか 資質・能力を育てるパフォーマンス評価入門』、明 治図書、pp.128-129

17 Rogoff, B.(1993): Children’s guided participation and participatory appropriation in sociocultural activity, In Development in context : Acting and thinking in specific environment, Wozniak, R.H., Fisher, K.W. (Eds.), Lawrence Erlbaum Associates, pp.121-153

18 森本信也・中村愛・八嶋真理子(2001):「ポートフォリオ を理科授業へ導入するための教授・学習論的条件とその検証 に関する一考察-小学校第 6 学年単元「人体」を事例にして

-」、理科教育学研究、Vol.41、No.3、pp.1-12

19 渡辺理文・黒田篤志(2013):「科学概念構築過程における 相互アプロプリエーションの機能の分析」、臨床教科教育学会 誌、Vol.13、No.2、pp.139-154

20 同上書10

21 Hawkins, D.(1990): Defining and Bridging the Gap, Science Education A Minds-On Approach for Elementary Years, Library of Congress Cataloging-in-Publication Pata., p.112

22 森本信也・神沢恒治(1993):「構成主義的理科学習論の問

互いに共有することで、「手の使い方は、もっと 三角形にした方がいいよ」、「肘が伸び切っている から、少し曲げた方がもっと遠くに飛ばせるよ」

など情報を共有することにより、協働的な学習活 動が実現できる。この協働的な学習活動において は、単なる技術の共有だけではなく、子ども一人 ひとりの課題や工夫が相互作用しており、課題を 解決するプロセスを通して科学概念として構築さ れると考えられる。また、学級全体の発表という 形態だけではなく、学習活動の中で小グループ単 位の発表も相互作用として、有効に機能している と捉えられる。これは「話し合いや発表を行って 概念を比較・検討し、『共通感覚』から『常識』

をつくる過程を通して科学概念を構築する」とい う視点が保健体育科の授業実践においても援用で きることの証左である。

まとめ

 本研究では、理科授業デザインにおける第 3 象 限である共通感覚的学習に焦点をあて、音楽科、

保健体育科の教科教育の知見を基にして分析を行 うことにより、各教科の教科特性と教科横断的な 視点について論考した。

 その結果、共通感覚的学習における「自然事象 に対する自分の概念を考察や解釈を通して明らか にする」、「話し合いや発表を行って概念を比較・

検討し、『共通感覚』から『常識』をつくる過程 を通して科学概念を構築する」の二つの視点が、

教科横断的な視座においても有用であることが明 らかとなった。

 さらに、具体的には以下の点が明らかとなった。

・ 音楽科の共通感覚的学習では、協働的な活動の 中で、子ども自身が楽曲の解釈を深めていく過 程として捉えられる。

・ 保健体育科の共通感覚的学習では、ドリル的な 反復練習ではなく、子ども一人ひとりのアプ ローチを保障することが重要である。

・ 保健体育科の共通感覚的学習では、学級全体の 発表という形態だけではなく、学習活動の中の 小グループ単位の発表も有効に機能する。

6  引用文献

1  文部科学省:「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)結 果の推移」

 (http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/

(9)

「東洋大学文学部紀要」第71集 教育学科編 XLIII(2017年度)

58

題点とその発展可能性―ホーキンスの共通感覚論を基礎とし て」、理科教育学研究、Vol.34、 No.1、pp.47-54

23 文部科学省(2008):「中学校学習指導要領解説 保健体育 編」、p.6

24 同上書23、p.15

25 OECD (2005): Definition and Selection of Competencies:

Executive Summary

 (http://www.oecd.org/pisa/35070367.pdf)

26 中央教育審議会(2008):「幼稚園、小学校、中学校、高等 学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答 申)」、文部科学省、p.18

27 同上書15 28 同上書 9

参照

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