多官能基型分子不斉カリックス[4]アレーンの合成とその不斉触媒能
–不斉触媒反応における官能基の効果–
日大生産工 ○白川 誠司 東京化成工業 木村 知敬
白鳥製薬 村田 俊一 日大生産工 清水 正一
1. 緒言
キラルホスト化合物による不斉分子認識 は、生体酵素のシンプルモデルとして、超分 子化学において活発に研究が行われてきた分 野である。これらキラルホスト化合物の一つ の代表例として、キラルカリックスアレーン が挙げられる。中でも、カリックス
[4]
アレー ンの構造的特徴を利用し、その分子に非対称 に官能基を導入することによりキラリティー を発現させた分子不斉カリックス[4]アレー ンの開発は、新たなキラルユニットを提供す る非常に魅力的な研究課題である。しかしな がら、合成の困難さおよび光学的に純粋な化 合物を得ることの困難さから分子不斉カリッ クス[4]アレーンの不斉認識能に関する研究 は十分には行われていないのが現状である1)。
このような背景の中、最近我々はカリック ス
[4]
アレーンのワイドリムに2
つの異なる官 能基を非対称に配列させた(ABCC型)、新規分 子不斉カリックスアレーン1
2,3)および2
4)の効 率 的 合 成 法 お よ び 光 学 分 割 法 を 開 発 し た(Figure 1)
。また、1
の不斉認識能について検討し、
1がマンデル酸に対するキラルシフト試
薬として機能することおよび不斉触媒として 機能することを見いだした。
PrO OPr
PrO OPr
HO NBu
21
BnO OBn
BnO OBn
HOOC NH
22
Figure 1. Inherently chiral calix[4]arenes.
我々が開発した新規分子不斉カリックス
[4]
アレーン1
は、分子不斉カリックスアレー ンを不斉触媒として利用した初めての例であ る。しかしながら、その不斉収率は満足でき るものではなく、より高い不斉収率を実現す るためにはさらなる触媒分子構造の精密設計 が必要とされた。今回我々は、さらに3,5-ジメチルフェニル基 を導入した
ABCD
型新規分子不斉カリックス[4]
アレーン3
を新たにデザインし(Figure 2)
、3
の効率的合成法および光学分割法を開発し た。さらに、3
を触媒とした不斉Michael
付加 反応について検討し、不斉収率におよぼす触 媒構造の効果について検討したので報告す る。PrO PrO OPr OPr Bu
2N OH
OPr OPr PrOPrO
OH NBu
2( ± )-3
Figure 2. Newly designed multifunctional inherently chiral calix[4]arene.
2. 結果および考察
分子不斉カリックス[4]アレーン3は、既に 我々が合成を報告したカリックスアレーン
4
5) を出発原料とし、合成を行った(Scheme 1)。Synthesis and Asymmetric Catalysis of a Multifunctional Inherently Chiral Calix[4]arenes –Effect of Functional Substituents on Enantioselectivity in Michael Addition–
Seiji SHIRAKAWA, Tomohiro KIMURA, Shun-ichi MURATA and Shoichi SHIMIZU
Scheme 1
BnO BnO OH OH 4
BnO BnO OPr OPr
PrO PrO OPr OPr
Br Br
5steps 3steps
PrO PrO OPr OPr
OHC Br
Regioselective formylation
( ± )-5
( ± )-6 ( ± )-7
THF 2) DMF 1) n-BuLi
3steps
PrO PrO OPr OPr Bu
2N OH
( ± )-3
4
を出発原料とし、5
段階を経てワイドリムに3,5-
ジメチルフェニル基を導入した化合物5
を得 た。さらに3段階を経て、ワイドリムに臭素を導 入し、鍵中間体である化合物6
を得た。ここで得 た化合物6は、coneコンフォメーションに固定さ
れている。次にカリックスアレーン6のワイドリ ムの二つの臭素の内、3,5-
ジメチルフェニル基のdistal位の臭素のみをハロゲン-リチウム交換反
応により位置選択的にリチオ化した後、DMF
で 処理することでホルミル基を導入した化合物7
を得た。ここからさらに3
ステップを経て、目的 化合物3をラセミ体で得ることに成功した。次に、化合物
3
の光学分割を検討した。ラセミ 体3
に幾つかのキラル補助基を導入しジアステ レオマーとした後、ジアステレオマー化合物の 分離条件を検討した。その結果、入手が容易な(1S)-カンファースルホン酸塩化物をラセミ体3
と反応させ、ジアステレオマー化合物8a
と8b
の 混合物を得た後、分取HPLC
により純粋な8a
およ び8b
に分離することができた(Scheme 2)
。こうし て得られた8a
または8b
を、それぞれ別々に加水 分解することで光学的に純粋な(+)-3および(–)-3 を得ることに成功した。Scheme 2
PrO PrO OPr OPr Bu
2N OX*
OPr OPr PrOPrO
OX* NBu
2O
2S O X* =
8a or 8b 8b or 8a
次に、キラルカリックスアレーン3の不斉 触媒能を検討した
(Scheme 3)
。2-
シクヘキセ ン-1-オンとチオフェノールの不斉Michael付 加反応を行ったところ、触媒(+)-3
は反応を 円滑に促進し、Michael
付加生成物を定量的 に与えた。この時、得られた生成物の選択 性は31% eeであった。ここで得られたエナ ンチオ選択性は、3,5-
ジメチルフェニル基を 持たない触媒1
を用いた場合と比較して向 上していることから、導入した3,5-ジメチル フェニル基の有効性が示された。また、触 媒3のフェノール性水酸基をメチル基でマ スクした触媒9
を用いた場合、収率は中程度 にとどまり、またエナンチオ選択性はほと んど発現しなかった。これらのことから、触媒
3
が不斉Michael
付加反応を促進しエナンチオ選択性を発現する際、アミノ基のみ ならず、フェノール性水酸基も非常に重要 な役割を担っていることが示唆された。
Scheme 3
PrO PrO OPr OPr OR Ar Bu
2N
( ±
)-1: R = H, Ar = H( ±
)-3: R = H, Ar = 3,5-dimethylphenyl( ±
)-9: R = Me, Ar = 3,5-dimethylphenylO +
catalyst (1 mol%)
toluene 20 °C, 12~24 h
O
SPh PhSH
*
( –
)-1: 93%, 15% ee (R)( +
)-3: >99%, 31% ee (R)( –
)-3: >99%, 30% ee (S)( +
)-9: 53%, ~0% eecatalyst: yield, ee (config)
参考文献