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スペイン語圏を知る本 (その37)

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Academic year: 2021

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GAIDAI BIBLIOTHECA Vol.171

1929年以前と以後ではセルバンテス像はおお きく塗り替えられた言われるほど、本書の刊行 は、世界のセルバンテス研究者にとって衝撃的 な一冊であったのである。

日本におけるセルバンテス研究は明治時代に 遡るが、その研究の中心は『ドン・キホ−テ』

などの作品論であり、本格的なセルバンテス研 究となると翻訳が中心であった。そんな状況の 中 で 、 日 本 人 初 の 本 格 的 な セ ル バ ン テ ス 研 究

『セルバンテスの芸術』が記念すべき年に刊行 されたことはなんとも喜ばしいことである。本 書は序論「対立の時代とセルバンテス」と結論

「 多 忙 な 読 者 へ ー 結 論 に か え て 」 の 間 に 8 章 が おかれている。414ペ−ジからなる大部の本で あるが、文章はこなれていて読みやすいのも本 書の特徴の一つであろう。 中世スペインには、

キリスト教徒、イスラム教徒そしてユダヤ教徒 の共生の時代があったことはよく知られている が 、 1 5 世 紀 後 半 か ら ス ペ イ ン が カ ト リ ッ ク 統 一国家に向かう中で、内なる異教徒であったイ スラム教徒とユダヤ教徒との間に対立の時代が 始まった。セルバンテスはまさにこの対立の時 代を生きた人であった。

『ドン・キホ−テ』は「対話の書」とも言わ れるが、著者はセルバンテスのすべての作品の 分析を通じて、「対話」に注目している。セル バンテスは対立の時代において真の人間的融和 と共存の道を探ろうと試みた。それは人間が対 話を通して共通理解に達するための方法の模索 であったのだ。本学のモット−は、「言語によ る世界平和」であるが、セルバンテスは今から 400年前に、「対話」すなわち言葉による平和 の道を考えていたのである。推測の域を出ない が、筆者は言語による平和の思想のル−ツをエ ラスムスの思想にあると見ており、その意味で エラスムスの影響を受けたと言われるセルバン テスの思想に同じ考えがあっても不思議ではな かろう。

『ドン・キホ−テ』を中心に展開されるセル バ ン テ ス の 思 想 は 、 2 1 世 紀 を 迎 え た 人 類 の 将 来 に き わ め て 重 要 な 意 味 を 持 つ も の と い え よ う。

ばんどう しょうじ(教授・スペイン語学)

前号で触れたように、昨年は世界的名作『ド ン・キホ−テ』刊行400年にあたり、新訳書や 研究書が出版された。では作者のセルバンテス に関する出版はどうであっただろうか。

昨年は『ドン・キホ−テ』のことしか頭には なく、そんな中で著者から『セルバンテスの芸 術』が送られてきて、大いに驚きまた大いに喜 んだ。驚いたのは、著者には一昨年、セルバン テス研究の決定版とされるアメリコ・カストロ の名著『セルバンテスの思想』の翻訳を出され たばかりであったからであり、また喜んだのは 記念の年に『ドン・キホ−テ』研究を含むセル バンテス研究を出されたからである。

日本でこれまでに出版された「セルバンテス の本」の数は決して多くはない。会田由・牛島 信 明 『 ド ン ・ キ ホ − テ と セ ル バ ン テ ス 』 さ ・ え・ら書房、1971    カルロス・フェンテス(牛 島 信 明 訳 )『 セ ル バ ン テ ス ま た は 読 み の 批 判 』 水声社、1991    山田由美子『ベン・ジョンソン とセルバンテス』世界思想社、1995    P.E.

ラッセル(田島伸悟訳)『セルバンテス』教文 館、1996    坂東省次・蔵本邦夫編『セルバンテ ス の 世 界 』 世 界 思 想 社 、 1 9 9 7     ジ ャ ン ・ カ ナ ヴァッジオ(円子千代訳)『セルバンテス』法 政大学出版局、2000    アメリコ・カストロ(本 田誠二訳)『セルバンテスの思想』法政大学出 版局、2004

これらの中でまず注目すべきは、カナヴァッ ジオ著『セルバンテス』の翻訳出版であろう。

これは一昨年初来日されて本学でセルバンテス について講演をされたパリ大学教授カナヴァッ ジオ氏の名著であるが、同教授はセルバンテス 研究では世界的権威の一人であり、同書の出版 によってセルバンテスの生涯の全貌がほぼ明ら かになったといえよう。

しかし、それ以上に、『セルバンテスの思想』

の 翻 訳 出 版 は 待 望 の 書 で あ っ た 。 本 書 刊 行 の 評者 坂東 省次  スペイン語圏を知る本 

(その37) 

本田 誠二 著 

『セルバンテスの芸術』 

水声社、2005

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