浪川 幸彦
May 23, 2007
1 数の近似
1.5
道草今日は,少し道草を食うことにしよう。と言っても,今までの話と関係する,幾つかの話 題について学ぶ。同時にそれは第3回のレポートの準備にもなっている。
1.5.1 フィボナッチ数列
名前の由来するフィボナッチ(Fibonacci)は12世紀末から13世紀前半に活躍した,当時 のヨーロッパで最も優れた数学者であり,アラビア数学をその記数法・代数学などとともに ヨーロッパにもたらした。フィボナッチ数列は,彼が1202年に著した「計算の書」(Liber Abaci)にある次の問題に由来する:
問題.年の初めに生まれた一つがいのウサギがいる。次の条件の下で1年後にウサギはどれ だけになっているか?
1. すべてのウサギは生まれて1月で親になる。
2. すべてのつがいのウサギは毎月オスメス一匹ずつの子ウサギを生む。
3. この期間中ウサギは死なない この答は,次の数列で与えられる。
Definition 1.5.1 (フィボナッチ数列).
F1 = 1, F2 = 1 初期条件 Fn = Fn−1+Fn−2 漸化式
1
Theorem 1.5.2 (ビネ の公式).
Fn= 1
√5
1 +√ 5 2
!n
− 1−√ 5 2
!n!
Remark. 上の漸化式をみたす数列の一般形は
An =a 1 +√ 5 2
!n−1
+b 1−√ 5 2
!n−1
;
ii)ここに出る二つの数は,方程式x2−x−1 = 0の2解;
iii)前者α= 1 +√ 5
2 は黄金比とも呼ばれる。この命名は割合新しいようであるが,数その ものはギリシャ時代から知られており,1 :α =α: 1 +αをみたす(幾何学的解釈)。
Theorem 1.5.3. i)α= [1; 1,1,1, . . .].
ii)Fn+2/Fn+1 はαのn次近似分数。
Theorem 1.5.4 (母関数表示).
x
1−x−x2 =F1x+F2x2+· · ·+Fnxn+· · ·
Remark. フィボナッチ数列の間には,実に様々の美しい関係がある。その幾つかを紹介して
おこう:
F1+F2+· · ·+Fn=Fn+2−1 : F1 +F3+F5+· · ·+F2n−1 =F2n; F2+F4+F6+· · ·+F2n =F2n+1−1;
F12+F22+· · ·+Fn2 =FnFn+1; Fm+n=Fm−1Fn+FmFn+1
References
・T. Koshy, Fibonacci and Lucas Numbers with Applications,John- Wiley, 2001;
・N. B. Vorobiev, Fibonacci Numbers (English Translation), Birkh¨auser, 2002(日本語訳あり)
1.5.2 ラグランジュの方法
代数方程式の数値解法として代表的なものに解の連分数展開を求めるラグランジュの方法 がある。
実係数代数方程式,
f(x) = 0
を考えよう。
前提として,この方程式の一つの解αが区間(a0, a0+ 1)の範囲にあることが分かってい るものとする。
α =a0+ 1 x1
とおけば,x1 についての方程式
f1(x1) = 0
が得られ,これはx1 >0で少なくとも一つの解を持つ。(もしαが区間(a0, a+1)でのただ 一つの解であることが分かっていれば,その解はひとつである。)
ふたたびこの解α1 が区間(a1, a1 + 1)の範囲にあることが分かったとすれば,
α1 =a1+ 1 x2
とおいて,x2 についての方程式
f2(x2) = 0
を得る。これは再び正の解を持つことが分かっている。この操作を繰り返して,数列 a0, a1, a2, . . . , ak
を得るが,作り方から,連分数 pk
qk = [a0;a1, a2, . . . , ak] は元の方程式の解αの近似分数である。
Remark. i)誤差評価もできていることは重要である。
ii)もしこの操作が途中で終了すれば,αは有理解で,それが求まったことになる。
もし以前のどれかと同じ方程式が現れれば,循環連分数が得られたことになり,αは2次の 解であることが分かる。
iii)f(x) = 0から新しい方程式f1(x1) = 0を作るのは,組み立て除法を行った(f(x)のx−a0 による展開を求める)後に,係数をひっくり返せば(逆数を解とする方程式を作る)よい。
実例で示した方が分かりやすいので講義で行う。
1.5.3 平方根の計算法
ラグランジュの方法はある近似値から出発して,よりよい近似値を得るものであり,以前 の反復法と考え方は同じである。べき根(xn−N = 0)など特殊な方程式の場合には,個別 の解法も知られている。ここでは特に平方根の場合,簡単に能率のよい方法があることを示 そう。
Theorem 1.5.5. √
N の近似値をaとする。自然数mを定めると,次の値 a(m) = am+mC2am−2N +mC4am−4N2+· · ·
mC1am−1+mC3am−3N +mC5am−5N2+· · · は,誤差が
(−1)m+1αm
mC1am−1+mD3am−3N+mC5am−5N2+· · ·
; (−1)m+1αm 2m−1am−1 を越えない新たな近似値である。ただしα=√
N −a(当初近似値の誤差)。
Idea of proof. (−α)m = (a−
√N)mの右辺を展開して,√
N の偶数べきの項(√
N を含まな い)と奇数べきの項(√
N が一つだけはいる)とを分ける。
Examples. i)m= 2. a(2) = a2+N 2a ; ii)m = 3. a(3) = a3+ 3aN
3a2+N ; iii)m = 4. a(4) = a4+ 6a2N +N2
4a3+ 4aN
Remark. m= 2の場合はニュートン法によるものと同じである。
前回の出席レポートへのコメント
●レポートの問題について
概ね良く出来ていましたが,不十分なものもかなりありました。
一番多かった間違いは,近似分数を4次までしか計算していないものです。整数部分は0 次ですので,注意してください。4次では精度がまだ大分悪くて,5桁まで計算する意味が ないはずです。そうした点にも気を配って欲しいですね。
計算間違いが明らかなのに,そのままにしている人が何人かありました。これは気付いて も直せなかったのでしょうか? 最近の学生さんの答案に明らかな間違いを平気でそのまま 書いているものが目立ちます。例えば,方程式の解で,代入してみれば違っているのがすぐ 分かるもの,確率で値が1より大きくなっているもの等々。答えが出たらそれで終わりでは なく,その答えが相応しいものかどうかを「吟味」する習慣を付けてください。この態度は 皆さんが専門に進んだときにとても重要になります。
少数ですが,連分数を全く理解していない(忘れた?)人がいます。この場合出席点は上 げられません。
第 3 回レポート
次の要領で第3回のレポートを提出してください。
• 課題:1.ニュートン法を用いて,√3
2を小数点以下5桁まで正しく計算してください
(正しいことのチェックを含む);
2.学生番号のチェックデジット(最後の一桁の数字)に従って指定された次の数N の平方根を循環連分数の形で求め,その4次までの近似分数を計算してください:
デジット 0 1 2 3 4
N 20 11 12 13 14
デジット 5 6 7 8 9
N 15 6 7 18 29
• 期限:6月6日次々回講義終了時
• 提出方法:手書き,電子メールいずれも可(下記の注意参照)
• 注意:レポートの最初に学生番号・氏名を必ず明記すること
• このレポートは採点の上返却します 電子ファイルで提出するときの注意:
• ファイル様式はpdf, MSWordのいずれか。後者は拡張子.docのものに限る;
• 電子メールで受け取ったときは必ず受領した旨の返信メールを出します。したがって 送ってから3日経っても受領の返事が来ない場合には未着の可能性があるので,確認 のメールを出すか,再送信してください。
連絡先
• 研究室:理1号館506号室
• オフィスアワー:木曜日11:30〜12:30(それ以外の場合は事前にアポを)
• E-mail : namikawa@math.nagoya-u.ac.jp
• Tel.: (052-789-) 4746
• Website : http://www.math.nagoya-u.ac.jp/˜namikawa/
講義を欠席した人は,ここから配布プリントをダウンロードして下さい。