別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲第
2702
号 氏 名水上 英子
論文審査担当者
主査 歯科放射線医学 佐野 司 副査 歯科矯正学 槇 宏太郎 副査 小児成育歯科学 井上 美津子
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Observation of Tooth-Coating Materials on Dentin by Experimental Swept-Source Optical Coherence Tomography」について、上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
生体組織に対し透過性を持つ近赤外線を使用した光干渉断層画像装置(Optical Coherence Tomography : OCT)は撮影対象物に侵襲を加えることなく断層画像を撮影することができる装置であ り、眼科領域を中心に広く臨床応用されている。本論文では、歯科領域での SS-OCT 装置の臨床応用を する目的で、ヒト抜去歯に対し 9 種類の市販歯面コート材を塗布しコート材の被膜の形成状態につい て試作 SS-OCT を用いて観察を行った。また、組成の違いが観察結果に影響するか検討を行った。その 結果、レジン系のコート材は象牙質表層に光の反射強度の減弱が確認され明瞭に観察が可能であった が、非レジン系のコート材では反射強度の変化はみられなかった。以上より、試作 SS-OCT ではレジン系 のコート材を明瞭に観察出来ることが明らかとなり、また表層の厚みが 10μm 以上あると観察が可能である と示唆された。
本論文の審査において、副査の槇委員および井上委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対する 回答を以下に示す。
槇委員の質問とそれらに対する回答:
1.SS-OCT の原理について
OCT の基本原理として、まず生体に赤外光が照射された場合、生体内部からはその内部構造の異なる 深さから、光が元の方向(後方)に散乱される。干渉計と呼ばれる特殊な光学系を構成すると、数千
~数万分の1にまで減衰され戻ってくる微弱な光を外部の光と干渉させることによって、異なる深さ にある内部構造物とその位置を光強度対干渉周波数の情報に置き換えることが出来る。SS-OCT では、
光源から発射された光はカップラ 1 で 2 つに分割される。一方はサンプルアームに供給されサーキュ レータ 1、コリメータレンズ 1、ガルバノミラー、対物レンズ 1 を経てサンプルに照射される。サンプ ルで反射された光は同じ経路を逆走し、偏波コントローラ 1 を通過してカップラに到達する。他方、
レファレンスアームに供給された光はサーキュレータ 2、コリメータレンズ 2、対物レンズ 2 を経てミ ラーで反射され同経路を逆走し、偏波コントローラ 2 を通過してカプラ 2 に到達する。この 2 つの光 はカップラ 2 で干渉し、ホトリシーバに入力される。ホトリシーバでは干渉信号が電気信号に変換さ れ、コンピューターに送られ画像化される仕組みとなっている。
2.光の透過性と反射率に影響を及ぼす被写体の性状因子について
口腔内においては、歯質表面あるいは内部における水分の存在が反射光への因子となる。また、表 層が平面に研磨しているものと、表面に凹凸があり粗造なものでは、前者は反射強度が高く後者では
反射強度が減弱する。これは表面が粗造であることにより、光は反射されず吸収されるからである。
本研究でも触れたが、コート材を塗布することにより歯質表面の光の反射強度は減少する。一方、齲 蝕では、歯質の硬さの減少により反射強度が高くなる。ホワイトニングで脱灰が生じているものでは、
エナメル小柱構造が破壊されることにより表層で反射強度が強くなる。しかし、反射強度の大小が OCT イメージの明瞭さに影響を及ぼすことはない。撮影対象物に金属が含まれるような場合では光の乱反 射が著しく多くなるため、OCT イメージは不明瞭となる。
井上委員の質問とそれらに対する回答:
1.コート材は、エナメル質、象牙質の両方に用いられているが、今回象牙質への塗布を選んだ理由 は。
今回9種類のコート材を使用したが、そのうち6種類が象牙質知覚過敏抑制作用を目的としている。
これらのコート材は、象牙質の象牙細管を封鎖・もしくは被覆することにより効果を発揮する。その ため、エナメル質を削除し象牙細管が露出している状態の歯片に塗ることが、コート材の観察の状態 に適しているのではないかと考え、象牙質への塗布とした。
2.レジン系と非レジン系の違いは、コート材の厚みによる以外に、どのような要因の関与が考えら れるか。
厚み以外の要因として、コート材の硬さが要因の1つとして考えられる。なぜなら、レジン系コー ト材は光照射を行い硬化させるが、非レジン系のコート材は硬化させるというプロセスがないため、
塗布後も物性として柔らかいままである。SS-OCT での観察では、象牙質表層では固い素材のものは反 射強度が減弱する傾向が見られた。
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 佐野委員の質問とそれらに対する回答:
1.SS-OCT の中心波長の 1310nm は、硬組織変化を観察する場合に適した波長であるとする根拠は。
従来眼科領域を中心に用いられてきたのは、タイムドメイン式 OCT で中心波長は 810nm である。今回使用 した試作 SS-OCT は中心波長が 1310nm であり、この 1310nm という数値付近では水や HA の光吸収が少なく、
かつ光の散乱が 810nm 付近に比べると少なくなるため、硬組織においての観察に適しているといえる。また、
1310nm では、硬組織における光の減衰係数が小さくなることも観察に適した要因の 1 つである。
2.SS-OCT の反射強度の減弱や増強に関与する因子について。
試作 SS-OCT では、表層・コントラクションギャップ・齲蝕・柔らかい材料などで反射強度の増強がみら れ、逆にレジンや硬い材料などでは反射強度の減弱がみられた。減弱に関しては、厚みの因子が最も関与し ている可能性が示唆された。SS-OCT の分解能は8μm であることから、厚みが 10μm 程度のものになると、
明瞭に観察が可能であった。逆に増強では、空気や有機物を含む因子が関与していると考えられる。
主査の佐野委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
以上の審査結果から、本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。