九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
対人関係イメージ図を用いたソシオドラマ体験によ る親との心理的距離の変化
岩男, 尚美
九州大学人間環境学府
古賀, 聡
九州大学大学院人間環境学研究院
https://doi.org/10.15017/2339047
出版情報:九州大学心理学研究. 20, pp.33-41, 2019-03-15. 九州大学大学院人間環境学研究院 バージョン:
権利関係:
対人関係イメージ図を用いたソシオドラマ体験による 親との心理的距離の変化
岩男 尚美
九州大学人間環境学府古賀 聡
九州大学人間環境学研究院Changes in Students’ Psychological Distance with their Parents after a Sociodrama Experience Using the Inter- personal Relationship Image Diagram
Naomi Iwao(Graduate School of Human-Environment Studies, Kyushu University)
Satoshi Koga(Faculty of Human-Environment Studies, Kyushu University)
This study proposed three research questions to examine how university students’ capture of psychological distance with their parents changes. We implemented a Sociodrama that allowed us to examine the diversity of parent-child rela- tionships. To measure the psychological distance before and after experiencing the Sociodrama, we used an Interperson- al Relationship Image Diagram. We grouped by the length of psychological distance between students and parents, which is the length before experiencing Sociodrama. Results indicated changes in the psychological distance between students and their parents after the Sociodrama experience, and it showed that the way of change varies depending on the group’s difference; thus, supporting one of the research questions. Therefore, it was shown that the way in which aware- ness and insight after drama experience differ is due to differences in parental ways of understanding before drama expe- rience. And this also involves the difference experiences in the experiences of the actors in the Sociodrama or the look- ing at the drama.
Key Words: 親子関係,青年期,ソシオドラマ,対人関係イメージ図
Ⅰ 問題と目的
青年期において,親からの心理的自立は重要な課題の 一つである。小高(2000),は,青年期前期では親との 意見や価値観のずれから子が親に反抗し葛藤が生じやす いが,青年期後期になると親との葛藤が緩和され,親と の関係が再構築されると論じた。この親との関係性の転 換期において,関係性の再構築に困難を抱える青年の臨 床事例が数多く報告されている。学生相談の親との関係 における問題を背景として持つ学生の事例研究を概観す ると,もともと主訴として親との問題を語るクライエン トもいるが,岡本(2006)や加藤(2005)の事例報告の ように主訴としては,学業や友人関係などの問題が訴え られたが,面接の過程で親との葛藤について語りだす事 例も多い。大学生にとって,友人や恋人との関係の安定 を含む学生生活への適応と親との関係の安定とは密接な 関係があり,学生支援や学生対応において見落としては ならない重要な要因であると考える。川上(2013)は家 族関係と学生生活には密接な関係があり,学生生活への 適応を第一の目的とする学生支援や学生対応において も,その学生の家族背景は見落としてはならない要因で あると指摘した。つまり,青年期においても,個人の人 生に影響を及ぼす重要な他者としての両親の位置づけは
大きく,青年期に起こる様々な問題の背景には親という 重要な他者との関係性が関与していると推測される。
しかし,先述したように,学生相談室に来室する学生 が,来室時の主訴として家族葛藤以外の問題を語ること からは,親子関係の問題を背景としながらもそのことに は目を向けないままに学生生活への不適応感を抱えてい る可能性が考えられる。また,大学生は進路や対人関係,
アイデンティティなど様々な悩みを抱えるが,悩みを抱 えるすべての学生が学生相談機関に来談するわけではな い(平山,2012)ことも指摘されている。これを踏まえ ると、相談機関のみで親子関係や対人関係の課題を扱う のではなく、大学講義の場において、こころの健康教育 の一環として取り上げることが、学生にとってこころの 健康の予防的に働くと考える。
一方,神谷・岡本(2014)は,青年がこれまでの親と の関係を振り返るとき,そこには簡単にはいい表されな いさまざまな体験や感情が含まれることを指摘してい る。学生が自分自身の過去から現在までの親との関係を 振り返り,捉え直すためには,家族関係や対人関係の発 達や課題についての講義形式による専門的知識の教授を 受けるのみでは不十分なのではないだろうか。近年,ア クティブ・ラーニングや体験的学習が大学などの高等教 育の現場で重要視され,専門的知識の教授のみならず,
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獲得した知識を実際に活用するための思考力や判断力,
人間性を総合的に育むための学生自らの経験を統合した 理解が重要であることが指摘されている(中央教育審議 会,2012)。現在の高等教育の流れを踏まえても,学生 たちが受動的に知識を教授されるのではなく,主体的・
体験的に家族関係について考えることが重要となるので はないだろうか。
こうした学生たちの主体的で体験に基づいた気づきが 得られる臨床心理学的アプローチとして心理劇がある。
「心理劇」は,「Psychodrama」の訳語で,J.L.Morenoに よって創始された集団心理療法である。台本の無い即興 劇での役割演技を通した洞察を目指し,日本には 1950 年代に紹介された。心理劇は,ウォームアップ,劇化,
シェアリングという心理劇の 3 相と呼ばれるものに即し て展開され,ディレクター(director),主役(protagonist),
補助自我(auxiliary ego),観客(audience),舞台(stage)
の 5 要素によって構成される。
心理劇の重要な理論の一つに役割理論があるが,
J.L.Moreno(1946)は役割を「個人が他の人やものが関 連する特別な状況に反応する際の,特別な瞬間に身につ ける機能形式である」と定義している。すなわち心理劇 で得られる洞察は,自らの内面の行為化や観劇を通して 自己の在り方や過去から現在までの対人関係について体 験をもとに学びなおすことができる。さらに,その体験 は,過去の回想のみならず,現在の自分が実際に行為を 行なった,「今,ここで」の気づきである。針塚(2003)
は,「今,ここで」という現実性があるので,演者は心 理劇という「半現実性」の中で「現実的体験」を経験す ることができるとしたうえで,この「体験的現実性」の 経験こそが日常におけるその個人の体験や行動の変容を 促すことになると述べている。つまり,心理劇において は,役割体験や観劇を通して自己の在り方や他者との関 係性についての洞察が促される。さらに,心理劇におけ る自己や他者に対する理解は,半現実的な場における現 実的な行為表現に基づいており,単なる知識の教授や過 去の回想,話し合いとは異なるものであると考えられ る。
また,心理劇の代表的な種類としてサイコドラマとソ シオドラマがある。増野(2006)は,この二つのドラマ の違いについて,ドラマのテーマとして取り上げる課題 が主役の個人的な問題なのか,社会的な問題なのかとい うことであると述べている。心理劇の臨床実践において は,個人の体験に焦点を当て即興劇として行為化する過 程で,自己理解や対人関係の再構築を行うサイコドラマ と,そのグループが共有する社会的課題や役割関係に焦 点を当てて即興劇を展開するソシオドラマが援助の目的 に 応 じ て 使 い 分 け ら れ て い る( 古 賀,2013)。 高 良
(2013)は,ソシオドラマでは集団の課題や独自のテー
マに注目し,参加メンバーが社会的役割を取得しながら 役割体験を通しての集団の課題への理解,個人への気づ き,関係の発展を目指すとしている。つまり,個人の抱 える問題や困難を扱うサイコドラマとは違い,ソシオド ラマは社会一般的な問題を扱い,社会生活上の役割をよ り現実に近い形で体験でき,劇中の役割体験に自分の実 際の役割や関係を投影し,気づきを得ることが可能と考 えられる。
岩男・古賀(2014)は,大学生を対象として親子関係 をテーマとするソシオドラマを用いて,青年期の親子関 係の変化について,ソシオドラマ体験前後での質問紙調 査を用いて検討した。その結果,親子関係をテーマとす るソシオドラマの体験により,親密感が高まることが示 された。またソシオドラマ体験前に親との関係をどのよ うに認識していたかによって,体験後の認識の変化の仕 方が異なることが示唆された。ソシオドラマ体験前に親 に依存していると高く認知していた参加者の親への依存 が低くなることや,親との葛藤を高く認知していた参加 者の親への葛藤が低くなること,親からの独立を低く認 知していた参加者の親からの独立を促すことが示され た。この岩男ら(2014)の研究は,質問紙によって認知 的な側面の検討を行ったものであった。心理劇という,
内的な対象関係を具現化し,内的な他者との関係を捉え なおす体験をすることになるソシオドラマの効果を検討 するには,認知的側面以外の側面についての検討も行う ことが重要であると考える。
そこで本研究では、上述した課題を踏まえ、心理劇場 面において、自分と自身を取り巻く他者との関係性につ いて、個人の内的な対象関係を具現化し、内的対象関係 の捉え直しや変容について検討するため、参加者に自分 と親を主とした家族やその他の周囲の人間関係について 視覚的に距離をイメージアップしてもらう方法を用いる こととすする。本研究で取り扱う心理的距離について は、これまでにも多くの研究がなされ、父子間よりも母 子間の方が心理的距離が近いことが示されている(興 津・ 早 樫,2012; 小 島,2011; 大 野 木,2009; 片 平,
2005)が、これらの研究のほとんどが心理的距離尺度を 用いたものである。一方、秋丸・亀口(1988)が家族イ メージ法(FIT)は、家族構造を把握する一助として開 発された投影法的手法である。尺度を用いた手法と投影 法的手法を比較して考えると、回答者の意識化できてい る認知的側面の変化の検討を可能とする尺度法と比較 し、より無意識的な側面が投影されると考えらえる投影 法的手法の方が、本研究の目指す内的な対象関係として の親との関係の変化を検討するには適当であると考え る。そこで、本研究では、FITを参考にし、より簡略化 した対人関係イメージ図の作成を試みた。
また,ソシオドラマの展開としては自己決定場面を 2
場面設定する。自己決定場面とは,子が親との意見の違 いから葛藤を抱えることが想定されながらも,親に自分 の意思を伝える必要がある場面である。内海(2015)は,
個人の主体性に関わる自己決定の感覚や,自分のアイデ ンティティや所属を表明する個人的な選択権は,ともに 青年期の発達に重要な側面であることを指摘した。学生 相談の事例研究を概観しても,親に本音を言えないこと
(岡本,2006)が事例化するケースは少なくなく,青年 期において,親に自分の思いや考えを適切に伝えること が課題化する場面は多く,これらが達成されないことで 何らかの不適応を抱えることもある。これらから,青年 期において,親に意思を伝えることは重要な課題である と言え,大学生に共通する社会一般的な課題としてソシ オドラマのテーマに適切であると考えた。
以上より,本研究では,大学生を対象に子が親との意 見の違いから葛藤を抱えているにも関わらず親に自分の 意思を伝える必要がある自己決定場面のソシオドラマを 実施する。ソシオドラマ体験を通した青年と自信の親と の心理的距離の変化について,3 つのリサーチクエス チョンの検証によって明らかにすることを目的とする。
Ⅱ 本研究のリサーチクエスチョン 1.ソシオドラマ体験で多様な親子関係像を知ることに より,自分の親との心理的な距離に変化が生まれるので はないか
2.父子間の心理的距離の方が母子間に比べ遠く,特に 女子において母子間の心理的離乳が困難であることか ら,父子間の心理的距離の変動の方が母子間の距離の変 動に比べて大きいのではないか
3.ソシオドラマを体験する前の親への認識の違いに
よってソシオドラマの体験で得られる気づきは個人差が あり,ソシオドラマ体験前の親との心理的な距離の違い により,距離間の変動の仕方は異なるのではないか
Ⅲ 方法
1.調査対象者 国立A大学での心理劇に関する講義 を受講する大学 2 年生から大学 4 年生までの大学生 28 名 (男性 7 名,女性 21 名,平均年齢 21.32 歳 ,SD = 2.34)
を対象とした。
2.調査時期 グループはX年 10 月から開始した。グ ループメンバーとの交流や,演技をすることになれるた めに,ゲームや簡単なロールプレイングなどを行うセッ ションを 4 回行ったあとに,本研究の対象となるソシオ ドラマ・セッションを 2 回実施した。
3.調査手続き
(1)グループの構成
男女比や学年が均等になるように,各グループ 8 名の 4 グループを構成した。各グループのディレクターは筆 者を含む大学院生が行った。また,補助自我として日本 臨床心理劇学会認定の心理劇研修会にて研修を受けた経 験を有する大学院生が 1,2 名参加した。
(2)対象となるソシオドラマの内容
子どもにとって,意見の違いから葛藤を感じるが,親 に対して自由に自分の考えや思いを伝えることが必要と なる,自己決定のための話し合い場面を2場面設定した。
各場面についての詳細はFig.1 に示す。2 週にわたり,
「高校生の進路相談の場面」と「小学生の習い事を辞め る相談の場面」の 2 場面についての劇を全グループが 行った。カウンターバランスをとるため,「高校生の進 路相談の場面」を行った翌週に「小学生の習い事を辞め
Fig.1 各場面の設定および展開方法
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る相談の場面」を行うグループを 2 グループ,「小学生 の習い事を辞める相談の場面」を行ったあと,「高校生 の進路相談の場面」を行ったグループを 2 グループ設定 した。
(3)調査実施の流れ
研究の対象となるソシオドラマ・セッションは,事前 に数回のロールプレイ体験のセッションを重ね,即興劇 を演じる経験を重ねた後に行った。ソシオドラマ・セッ ションの 1 週前の回の最後に 1 枚目のイメージ図の作成 を依頼した。対象となる 2 回のソシオドラマ・セッショ ンの終了した翌週に 2 枚目のイメージ図の作成を依頼し た。
(4)調査用紙の内容及び調査手続き
調査用紙は,家族イメージ法(秋丸・亀口,1988)を 参考として,筆者が独自に作成し,対人関係イメージ図 とした。A4 の用紙に 1 辺 15 センチの正方形の枠を記し,
中心に直径 1 センチの「私」を記載した。
調査は,調査用紙をグループごとに補助スタッフであ る大学院生が配布し,集団調査形式で実施した。調査用 紙には,教示として「次の用紙に,ご自分のイメージす る,家族や家族以外の周りの人との関係を示してくださ い。真ん中にすでに記載されている「私」をご自分とし た際に,家族や友人をイメージした距離感でそれぞれの シールを貼ってください。シールは,家族全員を黄色,
家族以外の友人知人を青色で貼ってください。シールを 貼ったら,シールの横に父・母・兄・弟・姉・妹などの ように,それが誰なのかを記載してください。」と記載 した。各グループの補助スタッフである大学院生が教示 を読み上げた。回答は匿名性を保つためにペンネームを 用い,2回の回答で一貫したペンネームで回答を求めた。
なお,ひとり親家庭の場合は,父母のどちらか一方のみ を記載するよう依頼した。
また,対人関係イメージ図の作成後,作成した感想を 自由記述形式で回答を求めた。
さらに,ソシオドラマ・セッション体験前後での 2 枚 のイメージ図について,2 枚目の作成後に比較し,比較 した感想についても自由記述での回答を求めた。
4.倫理的配慮
事前に研究の目的ならびに概要,個人情報の守秘,研 究協力に対する撤回の自由,ソシオドラマ及びサイコド ラマの概要等について口頭で説明をし,研究協力の同意 を得た。なお,本研究は筆者の所属する機関の倫理委員 会の承認を得て実施した。
Ⅳ 結果
ソシオドラマ体験前の親子の心理的距離についての散 布図より,明らかに他の対象者と異なる分布を示した 1
名を除外した。除外した 1 名については,極端に自身の 父母との心理的距離が遠く,また,作成後の自由記述の 内容から,「親より友達のことばかり考えてしまう」と 記載されていたため,全体の傾向の予想に適さないと判 断した。また,父子家庭の学生が 1 名存在した。これら より分析の対象となったのは父が 27 名,母が 26 名で あった。
1.ソシオドラマ体験前後での親子間心理的距離の変化 ソシオドラマ体験前後の親子間の心理的距離の変化に ついて検証するため,父親との距離,母親との距離それ ぞれについて,イメージ図作成の時期(ソシオドラマ体 験の前・後)を独立変数,心理的距離を従属変数とした 対応のあるt検定を行った。その結果,父親との距離に ついては,体験前よりも体験後の方が有意に距離が短い 傾向が示された(t(26)= 1.717, p < .10)(Table 1)。母親に ついては,有意な差は示されなかった(t(25)= .873, n.s.)
(Table 2)。
2. イメージ図作成の時期と親の性別による親子間の心 理的距離の比較
ソシオドラマ・セッション体験前後の親子間心理的距 離の変化について,親の性別との関連から検討するた め,親(父親・母親)とイメージ図作成の時期(ソシオ ドラマ体験の前・後)を独立変数,心理的距離を従属変 数とした 2 要因被検者内計画分散分析を行った。親の 性の主効果が有意であり,イメージ図作成の時期に関 わらず父よりも母の方が心理的距離が有意に近かった
(F(1,25)= 7.655, p < .05)。交互作用は有意でなかった(F(1,25)
= 0.537, n.s.)(Table 3)。
3. ソシオドラマ・セッション体験前の親との心理的距 離による体験前後での距離の変化の違い
ソシオドラマ・セッション体験前の親子間心理的距離 の違いによって,度数分布表を用いて群分けした。父母 共に,距離の長さの上位 30%を近接群,中間 30%を平 均群,下位 30%を遠隔群とした。それぞれの群の人数
はTable 4 に示す。
Table 1
ソシオドラマ体験前後での父親との心理的距離の変化
M SD N df t
値体験前 2.40 1.25 27 26 1.717†
体験後 2.19 1.11 27
†
p < .10
Table 2
ソシオドラマ体験前後での母親との心理的距離の変化
M SD N df t
値体験前 1.71 0.73 26
25
.873
体験後 1.59 0.78 26
ソシオドラマ・セッション体験前の父子の心理的距離 の遠さによるソシオドラマ・セッション体験前後での父 子の心理的距離の変化の違いについて検討するため,ソ シオドラマ・セッション体験前の心理的距離による群を 独立変数,ソシオドラマ体験前後での心理的距離の差を 従属変数とした 1 要因分散分析を行った。その結果,主 効果に有意な傾向が認められた(F(2, 24)= 2.692, p < .10)。
Tukey法を用いた多重比較を行ったところ,近接群より
も遠隔群の方が有意に体験前後での心理的距離の差が大 きい傾向が見られた(p < .10)(Table 5 及びFig.2)。
また,ソシオドラマ・セッション体験前の母子の心理 的距離の遠さによるソシオドラマ・セッション体験前後 での母子の心理的距離の変化の違いについて検討するた め,ソシオドラマ・セッション体験前の心理的距離の群 を独立変数,ソシオドラマ体験前後での心理的距離の差 を従属変数とした 1 要因分散分析を行った。その結果,
主効果に有意な傾向が認められた(F(2, 23)= 3.482, p <
.05)。Tukey法を用いた多重比較を行ったところ,平均
群よりも遠隔群の方が有意に体験前後での心理的距離の 差が大きかった(p < .05)(Table 6 及びFig.3 参照)。
Table 3
親の性別とイメージ図作成の時期による 親子間の心理的距離の比較
M SD N
父 体験前 2.342 1.2378 26
体験後 2.112 1.066 26
母 体験前 1.712 0.7628 26
体験後 1.585 0.7801 26
主効果 親の性
F
(1,25)= 7.655*作成の時期
F
(1,25)= 2.37 交互作用F
(1,25)= .537*p < .05
Table 4 各群の人数
近接群 平均群 遠隔群
父 5 人 12 人 8 人
母 5 人 13 人 8 人
Table 5
ソシオドラマ体験前の父子の心理的距離の違いによる心理的距離の変化
体験前の距離 体験後の距離 前後の変化
SD N
主効果 多重比較近接群 1.1 1.27 -0.171 0.3592 5
平均群 2.14 1.93 0.208 0.6171 12
F
(2, 24)= 2.692+ 1<3+遠隔群 3.91 3.36 0.55 0.727 8
+p < .10
Fig.2 ソシオドラマ体験前後での父と子の
心理的距離の変化
Table 6
ソシオドラマ体験前の母子の心理的距離の違いによる心理的距離の変化
体験前の距離 体験後の距離 前後の変化
SD N
主効果 多重比較近接群 0.88 0.92 -0.04 0.09 5
平均群 1.45 1.58 -0.13 0.83 13
F
(2, 23)= 3.48* 2<3*遠隔群 2.66 2.01 0.65 0.56 8
*
p < .05
Fig.3 ソシオドラマ体験前後での母と子の
心理的距離の変化
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Fig.4 ソシオドラマ体験前後のイメージ図と感想の一例
Ⅴ 考察
1.リサーチクエスチョン1:「ソシオドラマ体験で多 様な親子関係像を知ることにより,自分の親との心理的 な距離に変化が生まれるのではないか」についての考察 結果1において,父親についてはソシオドラマ体験前 後で心理的距離の差に有意傾向が見られたが,母親につ いてはソシオドラマ体験前後での有意な差は示されな かったことから,今回の参加者全体の傾向としては,ソ シオドラマ体験をすることで親との心理的な距離には変 化が見られなかったと言える。このことから,リサーチ クエスチョン①は支持されなかった。岩男・古賀(2014)
において,ソシオドラマ体験前に親との関係をどのよう に認識していたかによって,体験後の認識の変化の仕方 が異なることが示されていた。このことから,本研究に おいても,参加者全体としてみると親それぞれとの心理 的距離に変化は示されなかったものの,ソシオドラマ体 験の前に親との関係をどのように認識していたかによっ て,変化の仕方は異なる可能性が考えられる。このこと については,リサーチクエスチョン3の検証によって明 らかにすることとする。
2.リサーチクエスチョン2:「父子間の心理的距離の 方が母子間に比べ遠く,特に女子において母子間の心理 的離乳が困難であることから,父子間の心理的距離の変 動の方が母子間の距離の変動に比べて大きいのではない か」についての検証
結果2より,イメージ図作成の時期に関わらず,父よ りも母の方が心理的距離が近かったことが明らかになっ た。つまり,父子間の心理的距離の変動と母子間の心理 的距離の変動との間に差は示されず,リサーチクエス チョン②も支持されなかった。父子間よりも母子間の方 が心理的距離が近かったことに関しては,これまで数多 くなされてきた青年と両親との心理的距離について検討 された先行研究(興津・早樫,2012;小島,2011;大野 木,2009;片平,2005)と一致する結果となった。家族 関係単純図式投映法を用いて女子大学生と親との心理的 距離について検討した小島(2011)は,青年期である女 子大学生にとっては,父親の存在は小さく,父親と顔を 合わせる時間も少なく,父親との関係が希薄であるた め,母親よりも父親との距離感は遠くなる傾向にあると 述べている。青年期後期にあたる大学生は,男女を問わ ず,親元を離れるなどして物理的にも親との距離が離れ る者も多く,両親と顔を合わせることは少なくなると推 察される。すなわち,両親と子どもの三者関係として親 子関係を考えた際に,青年がより身近と感じるのは,一 般に幼少期から主な養育者である母親との関係であり,
青年が認知する親との心理的距離は,父親に比べて母親 の方が近くなったと考えられる。
3.リサーチクエスチョン3:「ソシオドラマを体験す る前の親への認識の違いによってソシオドラマの体験で 得られる気づきは人によって異なり,ソシオドラマ体験 前の親との心理的な距離の違いにより,距離感の変動の 仕方は異なるのではないか」についての検証
結果3より,父子の心理的距離に関しては,ソシオド ラマ体験によって,ソシオドラマ体験前の父との心理的 距離が近い群ではソシオドラマ体験後にその距離が遠ざ かっており,ソシオドラマ体験前の距離が遠い群ではソ シオドラマ体験後にその距離が近づいている傾向がある ことが明らかとなった。
また,母子の心理的距離については,ソシオドラマ体 験前に母との心理的距離が平均的であった群ではソシオ ドラマ体験後にその距離が遠ざかっており,遠い群では ソシオドラマ体験後にその距離が近づいていることが明 らかとなった。
これらの結果から,リサーチクエスチョン③のソシオ ドラマ体験前の親との心理的距離の違いにより距離感の 変動の仕方が異なるは支持された。ソシオドラマを体験 する前の参加者それぞれの親との距離感の認識の仕方に よってソシオドラマでの体験内容も異なることが本研究 でも示された。これは,岩男・古賀(2014)の結果とも 一致する。
これらのことから,ソシオドラマという自分の親との 関係を劇として取り扱う心理劇ではなかったにも関わら ず,多様な親子関係の在り方を目の前にし,自分の親と の関係と比較しながら行為化や観劇するなかで,自分の 親との関係を振り返る機会にもなり得るが,そのテーマ 設定や展開の仕方において対象となる個人に合わせた展 開が必要となることを示唆している。
それぞれの変化の仕方について見ていくと,親の性別 を問わず,ソシオドラマ体験前の心理的距離が遠かった 群では,ソシオドラマ体験により親子間の心理的距離が 近づいている。ソシオドラマ体験前に心理的距離が遠 かった群の 2 枚のイメージ図を比較した感想としては,
「父・母・私の距離の変化については,実際の関係が変 わったということはなく,進路相談の場面のセッション を通して,私の 3 者の関係の捉え方が変化したことが表 れているのだと思います。」や,「家族の立ち位置はあま り変わっていないと思っていたのですが,特に父・母へ の捉え方が変わっており,驚きました。前回作成したと きは,今の自分に親の影響はあまり関係ないと思ってい ましたが,セッションを通して親がいて自分を支えてく れたからこそ,今の自分があると思いました。」,「全体 的に距離が縮んでいる。…(中略)…ソシオドラマのお かげか,家族観,特に親父への考え方は変化したと思う し,それがイメージ図にも出ていると思う。」などがあっ た。ソシオドラマ体験前に親との心理的距離が遠かった
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参加者は特に,親が子どもである自分を支えてくれてい たことに気づき,参加者の内的な親との関係性に変化が 生じ,もともと遠かった心理的距離が近づいたと考えら れる。
一方,ソシオドラマ体験前の心理的距離が近かった群 の感想としては,「最初に作ったイメージは,全体的に 関わっている人たちが身近にいると感じた。自分で子ど もや親を演じているうちに,普段,なんでもかんでも相 談しているわけではないと感じ,相談している最中も,
相手が他人だからということとは別に,ドキドキしなが ら相手の返事を待っていた。家族と言えど,自分のこと を全てわかってくれるわけではないか…と今回はすこし 距離のあるイメージ図になった。」や,「基本的にはあま り変わっていないが,家族(母)との距離が遠くなった。
意外と母とはそこまで相談などをしてこなかったと気づ いたからだと思う。」などがあった。ソシオドラマ体験 前の距離が近かった群は、ソシオドラマ・セッションで 親に相談するという場面を演じ、観劇することで、ソシ オドラマ体験前にイメージしていた親と自分の距離と、
ソシオドラマで展開される親と子の距離と、日ごろの自 分と親との距離とを比較し、自分の親との距離感を再考 することになると考えられる。その結果として、親との 関係が想像よりも近くなかったことに気づき、親と自分 の距離感について実感を持って確認することができるの ではなかろうか。このように、現実の親子関係ではなく、
架空の親子関係をソシオドラマのなかで経験すること が、自分と親との関係の最高につながることが示された と考えられる。
父子、母子のいずれも、遠隔群において最も心理的距 離の変動が大きかったことが示されたことからは、考察
(2)でも述べたようなソシオドラマによる親と自分との 距離を再考するプロセスが、親との距離を遠いとイメー ジしていた参加者にとってより親との距離を実感を伴っ て確認することに効果的であった可能性が考えられる。
Ⅵ まとめ
本研究では 3 つのリサーチクエスチョンを設定し,こ れらの検証によってソシオドラマ体験を通した親子関係 の認識の変化について検討した。3 つのリサーチクエス チョンのうち,2 つは支持されない結果となったが,こ れには,問いの生成段階において,参加者の体験する前 の親との関係性の特徴に考慮せず,参加者全般の結果と して検証を行ったことが支持されなかった理由として考 えられた。一方,支持されたリサーチクエスチョンは,
他の二つとは異なり,ソシオドラマを体験する以前の親 との関係性の認識の在り方の違いにより,ソシオドラマ の体験内容が異なることを想定し,それゆえ変化の仕方
にも違いが表れると仮定していた。このリサーチクエス チョンのみ指示されたことからは,ソシオドラマの実施 にあたり,各個人がもともともつ特性や,対象との距離 の取り方,認識の仕方などを考慮し,その効果の検証に 注意することが必要であるとともに,その展開の仕方 や,テーマ設定においてもこれらを考慮しながら行うこ とが重要であることが改めて示されたと考える。
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