口本小児循環器学会雑誌 13巻6号 752〜754頁(1997年)
<Editorial Comment>
単心室患者のフォンタン手術への道程 手作りのフォンタン循環一
福岡市立こども病院・感染症センター循環器科 石川 司朗
1988年に機能的単心室に対するフォンタン型手術(F術)としてTotal cavopulmonary conmection(TCPC)
が導入されて以来,F術は二心室修復ができない患者の実質的な最終手術として一般化し,現在はフォンタン 時代と言えるほどである.F術の適応基準は何度もの変遷を経て,本編の著者中沢先生が記述された東京女子 医科大学の基準は本邦の多くの施設で合意されるものであろう.事実,その適応基準を満たした患者の手術成 績は向上し安定している.しかし,多くの施設で姑息術を1度も受けることなくF術に到達する患者はごく少 数であると思われる.東京女子医大グループをはじめ世界の主たる施設の成績が示すように,計画的な治療に
よってはじめて,より多くの患者がF術の恩恵を受けることができるのである.
ここに福岡市立こども病院グループの単心室患者のF術への経過を示す.当院の単心室患者に対するF術 の本格的な導入は1990年以降である.今同,1990年1月から1997年3月末までに当科で1回以上の,d臓カテー テル検査を受けたすべての機能的単心室(純型肺動脈閉鎖を除く)患者259例を対象に,経過が確認できた250 例についてF術への道程を検討した.図1に示すように,1997年4月1日現在,F術を終えた患者は133例
(53.2%),F術待機が36例(14.4%),手術可能と考えられる患者が26例(10.4%),のこりが適応無し(12例),
またはF術前に死亡(43例)している.姑息術なくF術を受けたのは24例で母集団250例の9.6%に過ぎず,109 例(43.6%)は/回から4回の姑息術後にようやくF術に到達している.F術を終了した133例のF術時年齢 は7.2歳(1.5〜19.0歳)で,F術までに平均3.9回(1〜13)の心臓カテーテル検査を受け, F術後の検査を含 むと約5回の心臓カテーテル検査が必要であった(図2).当然,姑息術の回数が増すにつれ心臓カテーテル検 査回数も増加し,1同姑息術が増すごとにF術までの平均0.7〜1.2年の間に平均1.6〜2.7回の心臓カテーテ ル検査が追加され,ようやくF術に達している.心室機能,房室弁機能は心エコー図によってかなりの情報を 得ることが可能であるが,肺循環の圧・サイズの検討には心臓カテーテル検査が不可欠である.図1のごとく,
姑息術回数別のF術到達可能率[(F術終了群+待機群+可能群)/各群の総数]に大きな差異はない.つまり,
各群に20%程度の非到達患者が存在するものの,姑息術の回数に余り影響されることなく70〜80%はF術に 到達できると予想される.1990年以降の当科の全単心室患者250例のF術到達率は最高で78.0%(195/250),
F術到達可能率
総数250例 F術終了 133 待3 機6
「懇毛
適応外12死亡43 78%
姑息術回数別の内訳 なし36例
1回109例
21gl 78{列
3回 18例 4回 6例
83%
79%
72%
78%
100%
0 20 40 60 80 100(ンも F術到達可能率=[(F術終了群+待機群+可能群)/各群の総数]
図1 1990年1月から1997年3月に福岡市、 元こども病院で 心臓カテーテル検査を施行した全単心室患者250例の F(mtal1型手術(F術)への道程(純型肺動脈閉鎖を除く)
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口小循誌 13 (6), 1997 753−一(23)
10 8
6
心臓カテーテル
検査回数 4
2
Ol姑息手術 なし Il姑息手術 1回 2:姑息手術 2回 3:姑息手術 3回 4:姑息手術 4回
133例全例の鞠\ナ
0
0 2 4 6 8 10 Fontan型手術時年齢(才)
図2 姑息術回数別F(mtan型手術(F術)終了患者のF術時 年齢とF術までの心臓カテーテル検査回数
うち1回以上の姑息術を必要とした214例のF術到達率も最高で77.1%(165/212)と予測される.この到達率 は,1989年のTamら1},1991年のFranklinら2)の報告より高い.その理由として,術前管理(プロスタグラン ディン製剤の臨床応用)や術式の改良(BDGやTCPCの導入),また最近では一酸化窒素ガス吸入療法による 術後の肺循環管理法の進歩などが挙げられる.姑息手術として両方向性グレン術(BDG)が加わったことは,
F術適応率の向上に大きく貢献したと思われる.当院でも1992年よりF術の前段階処置として積極的にBGD 術を導入し,それまでのF術適応基準には適合しなかった82例に施行した.うち45例はすでにF術をすませ,
23例がF術可能もしくは待機状態にあり,他の姑息術の有無に拘わらずF術到達率は最高で82.9%が期待さ れている.1994年からは一酸化窒素ガス吸入療法も導入し,以後F術の術後管理が容易になり,F術133例のう ち意図的なfenestrated Fontan術は2例のみ,手術死は3例(2.3%)という成績である.さらに,肺血流量 減少型の症例にみられる主要大動脈肺動脈側副動脈(MAPCA)に対しカテーテルによるコイ塞栓術が並行し て行われるなど,数々の工夫によりF術到達率は向上してきたと思われる.
現在でも本編のpoor PAの症例とならんで,肺血流減少型の単心室であるにもかかわらず中等度以ヒの房 室弁閉鎖不全を合併する新生児・乳児早期例に大変苦慮している.我々はこのグループをmalignamt single ventricleと呼び,十分な対策が打ち出せず,残念ながらF術の適応外の最右翼である.従来の基準でF術適 応外である患者を一人でも多くF術に到達させるには,姑息術を繰り返してでもF術適応基準に近づけねば ならない.とは言え,不要な姑息術は当然避けなければならない.施設ごとに固有のF術導入過程の学習曲線 があり,経験を積む毎に姑息術回数は減少し,それに伴って心臓カテーテル検査回数も減らすことが可能であ
ろう.当施設もBDG術介入時期の早期化などに着手している.手術死亡(病院死亡)を改善しつつ, F術到 達率を向上させるにはねばり強い努力が必要になる.
患者がF術に到達するためには,本編著者が述べるように低い肺血管抵抗,充分な肺血管床の発育という条 件に加え,房室弁機能の維持と心室機能の維持,さらにはF術時年齢という条件も満たす必要がある.これは F術到達への数多くの条件を包括的に管理できる医師が必要であることを意味し,本編著者が主張するよう単 心室患者は出来るだけ早期からF術可能な第三次病院において計画的な検査・治療が必要である.単心室患者 をF術へ導くことは不幸な患者に手作りの新しい循環を提供することであり,まさに 手作りのフォンタン循 環 と言える.F術への路は以前よりは広いものになりつつあるが, F術後の管者管理には別の課題もあり,
単心室患者に対する医療サービスははじまったばかりと言える.
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754−(24) 口本小児循環器学会雑誌 第ユ3巻 第6号
References
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2)Franklill RCG, Spiegelhalter DJ, Rossi Filho RI, Macartlley FJ、 Anderson RH, Rigby ML, Deanfield JE:
Double−inlet ventricle presenting in infancy, III/Outcome and Potential definiti、ie repair、 J Thorac Cardiovasc Surg 1991;101:924.934