Japan Society of Business Administration
Japan Soolety of Buslness Admlnlstratlon
66
国一
第22
号PP・
66−78,
2008山 下 剛 高
松 大 学 経 営 学 部 専 任 講 師燐 灘 i蘇 輜 鞠憑撫 講 馨 巖織
1 . は じ め に
現 代は, 一
方で 自己啓 発
本
が並び若者
は 「自 分 探 し」
にい そ しみ,
他 方でニー
ト,
うつ 病の増 大が問題化 し てい る。 こ
う
し たこ と は 組織 社 会に おい て生 きる個 人の問 題 として現 出 し,
し た が っ て経 営 学の問題 と して現 出し てい る。 そ うし た中
で く自 己 実 現〉 を 論じ, 経 営 学に おい て も援 用 さ れてい るA . H .
Maslow
はその一
般 的な著名
さ か ら 言っ て も, どう
理解さ れ る か がき わめ て重 要である と言 え よ う。
経営 学に おい て人間を ど
う
把 握するかの 問 題は避け る こ とが で き ない
。
そ れ は まず第 1
に経 営,
管理す る主 体が 人 間 自 身だ か らであ り,
第2
に 言う
まで もな く管
理 の対象
,客
体 もま た 人 間だ か らに他 な ら ない 。 こ の後 者に つ い て経 営 学は, あく ま で も その一
側 面で し か な い が,
「人 間 か ら行 動 を 引 き 出 す 」 こと を その 課 題の
1
つ と せ ざ る を え ない。
経営学
の中
で もと り わけ
,
組 織 行 動 論,
ミクロ組織 論 と呼ば れる領域 が こ の 研究
を推 し進め, その 中で も個人の 行 動を 引 き 出 すとい うこ と につ い て は
,
い わゆ るモ チベー
ショ ン 論が大 きく その 役
割
を果た し て き た と言 うこ と が で きる。
その モ チベ
ー
ショ ン 論に おい て
,
未だに取 り 上 げ られ 続 けて い るの が, Maslow
の理論である
。
そ れ は まず 組 織 行 動 論の 教 科 書に おい て ほ ぼ 必 ず 登 場 する。
また理 論 研 究 と し て は, 「
実 証 さ れ て い ない」
という
理 由の た め にやや衰 微 して い た が, Latham
&Pinder
(2005
)がMaslow
欲 求 階層
説に対 する関
心 が再 燃し て き て い る と指 摘 す る通 り, 近 年Maslow
理 論に は その再 評 価の 動 きさえあ る (e. g.
Wicker
et aL,1993
;Ronen ,1994
;金井,2001
;三 島・
河 野,
2005
,2006
;二 島,2005
>(1)。
こう
した 動 き を 見る と
, Maslow
理 論に は経 営 学に おい て 未 だ 汲 みつ く し切 れ てい ない もの が残っ て い るの で は ない か と思わ れ る。 三島 ・
河野 (2005) は 「マズ ロ
ー
理論に関 する 経営 学 的 なこれ まで の 扱いが, 表 面 的に 終 っ てい た」 と指
摘
してい る。 三島
・
河野の一
連の 論 稿 と アブ V一
チ は異な る(
2008.
3.
6受 付 /2008. 8. 20
受理)Japan Society of Business Administration
NII-Electronic Library Service
Japan Sooiety of Business Administration
が
,
本 稿で もこ の 間 題 意 識に 立っ。
本稿 の 軸 は 「Maslow
理論はモ チベー
ショ ン
論 なの か」とい うテ
ー
マ で ある。
経 営 学に おい てMaslow
理 論は, モ チベー
ショ ン 論 と し て 位 置づ け ら れ るa こ の 点が 経 営 学 に 対 す る
Maslow
の貢献である こ と は論 を待
た ない。
だ が それ に も拘 らず
, こ の よ う なMaslow
の 理解
で は重要
な点を見
落 と し て し まう
の で は ないか 。 本 稿は モ チベ
ー
ショ ン論 として の
Maslow
の 意 義 を 越 えて, 経 営 学に お ける
Maslow
の意
義
を再 考 し よう
とするもの で あ る(2)。2 . モ チ ベ ー シ
ョン 論 と Maslow
理 論 の位 置
2 − 1 .
モチベー
ショ ン 論 とMaslow
モチベ
ー
ショ ン 論とは
何
か。
モ チベー
ショ ン
(motivation ) と い う 言 葉 は
,
ラ テ ン 語 の movere (運 動)か ら き て お り (Steers
et al.
,2004
),
それは「
活 動に 駆 り 立て ら れ てい る状 態」
を指 す (Locke ,2008,
p. 919
){3 }。
か くし てモ チベー
ショ ン論の狙い と は
一
般 に, 人間 行 動の 方 向づけ
,
強 度,
持 続 性につ い て説明 し統 制 す るこ と だ と さ れ て い る (Atkinson
, 1964 ;Kan − fer,1995
;Locke
&Latham
,2
4
)。
こ の モ チベー
ショ ン論の 性 格は その 成立当 初か らの もの で あ る
。 Steers
et al.
(2004
)に よ れ ば, 「
活 動は 快を探し求め, 苦 痛を避 けるこ と に集中
す る」
と考 えるギ リシ ア時 代の快 楽主義が
1900
年 前 後の
一
時 期 を除い て, モチベ
ー
ショ ン論の 展 開過 程の 巾で踏
襲
さ れ てい る。典
型的にはSkinner
や そ の後 継 者に よる オペ ラン ト条 件づ け, 強 化
モ デル は動 機づ けの 理解の 説明 原 理 と し て 今 で
も繁 栄 を 続けて い る
。
以 上の原理 を 背 景とするモチベ
ー
ショ ン論は 周知 のよ うに
,
動 機づ けの 要 因の識 別 を その狙い とする内 容 論と
,
どの よ うに動 機づ けら れ てい くか その過 程 を問題 と
す
る 過 程 論に区分 さ れ る。 Maslow
理 論は, 欲 求 階層
説が 人 間 行 動の 動 因 と しての5
つ の 欲 求 を表 したもの と解されて
一
般 的に内 容 論 として位 置づ け られ る
。
他 方Maslow
理 論 はモ チベー
シ ョ ン 論か67
で,
Maslow
理 論 はモ チベー
シ ョ ン の 過 程 論の 中に も位 置づ け を 有 する〔4,。
す なわ ち,
モチベー
ショ ン の
一一
連のプ ロ セ ス の中
で, その最
も初 期の 段 階 に あ る欲 求理 論としての 位 置づ け を与 え ら れ て い る (e.
g,
Locke , 1991
;2008
;Locke
&Latham
,2004
;Latham
&Pinder
,2005
)u2 − 2 .
モチベー
ショ ン 論 の 発 展 に伴 う
Maslow
理 論 の評価
Maslow
理論の核は欲 求 階層
説と自 己実 現 人 論であ り,Maslow
評の変 遷 も 自 ずか らこの2
点 を 巡 っ て の もの と な る。
欲 求 階 層 説が モ チベ
ー
ショ ン の 内 容 論に与 え
た影
響
は周
知 の 通 りで あ る。 そ れ は 人間が もつ 諸種の欲 求の類型化 として把 握さ れ,
内容 論その もの を 現 出 させ た
。
こ れ に はMcGregor
(
1960
)の 影 響が 大 で あ り, そのX
理 論・ Y
理 論がMaslow
理 論の 意 義づ けの 方 向 性 を 与 え た もの と 言 え よう。
この モ チベー
ショ ン の人間 類型論は, 今目
一 .
般 的に は経 済 人,
社 会 人,
自 己 実 現 人とい う分 類に落ち着い た と 言 え る。 Maslow
理 論 を 意 義づ けた の がMcGregor
で ある とすれ ば, 逆にその 批判 を方 向づ けたの
が
Alderfer
(1969
;1972
)で あ る。Alderfer
はMaslow
欲 求 階 層 説 と対 比 す る形 で 周 知のERG
理 論 を提起 し た。ERG
理 論 はMaslow
が 提 示 した
5
つ の 欲 求 カ テ ゴ り一
を, 生 存
(existence ),
関 係
(relatedness ), 成 長(growth )の
3
つ の カテ ゴ ll一
に修正 した もので あり, 彼に よれ ば その
Maslow
理 論 との 相 違点 は4
つ で あ る。
欲 求 カ テ ゴ リー
の 分 け 方,
厳 格 な 優 勢 仮 定の 有 無 (Maslow
は低次 欲 求が満た さ れ る と順 に 高 次 欲 求が発 現 す る と した が
,ERG
理 論は必ずしもその よ うに考えない 〉, ERG
理 論で は よ り高次の欲 求の フ ラス トレー
ショ ン が低次 の動
機
(desire
) に影 響 を 与 え る と考 えて い るこ と,ERG
理 論は慢 性 的 動 機が満 足に与 える影 響 も見てい るこ と, である(
Alderfer,1972,
p. 24
)。
N工 工
一
Eleotronio LibraryJapan Society of Business Administration
Japan Soolety of Buslness Admlnlstratlon
68 日本 経営学 会 誌く第
22
号〉Alderfer
の作 業に よっ て 欲求 階層
の数, お よ び 階層
間の 移動 法 則が,
その 実 証と ともに問 題 視 されるに至 っ た。 現 状, 実 証が あ るERG
理 論 の 方が妥当であ り
,
欲 求 階層
説はERG
理 論に よっ て修正 さ れた と位 置づ けるもの が 多い(e
.g,
村 杉,1987
;田尾, ]991
;Robbins ,1996
;ニヰ寸,
2004
)(5}。
さて モチベ
ー
シ ョ ン 論にお い ては欲 求 階層
説 その もの の 検 証 と ともに,
自 己 実 現 人 を 越え る 人 間 規 定 を 見 出 すこと が も う1
つ の課 題 であった
。
た だ しこの 点はそ れほ ど劇 的 な 発 展 を遂 げ た わ けでは ない 。Steers
et al.
(2004
)が 指摘
する通 り,1970
年 代以降は過程 論の 発展 期で あ ワ, 内容論 の 成 果はほ と ん ど ない と言っ て いい
。
た だ し その 中で もFrank1
の議論 をべ一
スに構 成さ れ た
「
意味探 求人」
あるい は 「意 味 充 実 人 」が,
自 己 実 現人 を超 える もの としてい く 人 かの 論 者に取 り上 げ られ てい る (e.
g.
村 杉, 1987
;金 井, 1999 ;寺 澤, 2005 )(6}。こ の 議 論が 自己 実 現 人 を超 える もの として位 置づ け ら れ るの は,
Frankl
が 自 己実現 を批 判 して 自 らの 人 間 観 を示 し て い る か らで ある。Frank1
(1960 ,1961
;1966
) 自 身の 人 間 観 は次の よ
う
なもの で あ る。 まず
人間は,避
け ることの でき ない 存 在 と当 為
,
お よび主 体 と客 体の 間の 緊 張 を 有 し
,
その中で「
意味へ の 意志 (will to meaning )」
を もつ。
緊 張は完 全に解 消 さ れ るこ と は あ りえ ず, その 有 限1
生を 受け 入 れ るこ とこ そが精 神 的 健 康,
人 間の 成 長の前
提 条 件で ある。
こ れ は言い 換 えるな らば,
当 為や 客 体 を,
自己の 存 在, 主 体 と 緊 張 さ せ た ま ま保 持 し,
意 味 を 探 求 して い くの が 人 間なの で あって, 主体 中心 を超 え た 自 己 超 越 が 重要だ とい
う
こ と である
。
こ の 立場か らFrank1
は 自 己 実 現 を批判 する。 それ は, 自 己実現 人 を主 体 中心,自己中 心 的な人間 像 として捉え, した が っ て客 体へ の 配 慮
、
あるい は客 体 と主 体の 間の 緊張 を 捉 えて い ない もの として 批 判 するの である。
村 杉 (1987) は, 以E
の 内 容 を もっFrankl
の議 論 を受けて モ チベ
ー
ショ ン 論に つ い て再 考
し, 「仕 事 志 向
」
と 厂対人志 向 」とい う2
つ の 軸か ら な るマ ル チ・
モ チベー
ショ ン 理論 を提示 した
。
こ こ で は,
仕 事 志 向,
対 人志向
の いず
れも低い 「経済人
⊥
対 人 志 向の 高い 「社 会 人 」,
仕 事志 向の 高い「
自己実現 人」が 把 握 さ れ た. E
で
、
仕 事・
対入い ずれ の 志 向 も 高い 「理 念モチベ
ー
シ ョ ン」が提示 され,
こ の全
体が 把 握 さ れ る 人 間 モ デ ル をもっ て 「意味探 求人」
と規 定 する
.
また寺 澤 (2005
)は,「
物 的 自己 目的の追
求
」
と 「社 会 的 自 己 目的の 追 求」
とい う二 軸でモ チベ
ー
ショ ン の 人間モ デル を分類 し (他 律 的
人間
,
経 済 人,
社 会 人,
自己実 現 人),
さ ら にFrankl
の 議 論に拠 りなが ら, 経済人, 社 会 人,自 己 実 現 人 を 包 括 する多 層 的
・
全人格 的な 人間モ デル と し て 「意味
充
実人」
を提示 した。
2 − 3 . Maslow
理論
再 評価
の動 き以 上の 経 過 を 辿る
Maslow
理論の 評 価の 現 状 を見
て お こ う。 まず第 1
に, 近 年 もや は りMaslow
理論は 「実証 さ れてい ない1
とい うことで
,
棄 却 さ れ る こ とが少 な く ない (e.
g.
田 尾,1991
;Kanfer ,1995
;Robbins
,1996
;Locke , 2008
)e た だ し 第2
に, Latham
&Pinder
(
2005
)に よ れ ば,Maslow
理 論に対 す る関 心が 再 燃 して い る。 例 え ば
, Wicker
et al.
(
1993
) はMaslow
理 論の既 存の 実証 研 究 に お ける方 法 面の問 題 を 見 直 しなが ら,
再 実 証 を試みて い る
。 Ronen
(1994 ) も同様
にMaslow
理 論 を 実 証 し,
同理論 を 支 持 する結
果 を 得て いる
。
ま た第
3
に, 欧 米 での 研 究 が もっ ぱ らMas − 10W
理 論の実 証 を巡る もの で あるの に対 して,
日本での 研究は む し ろ 理 論的な 面 での
Maslow
の再 評 価に動い て い る
。
金 井 (2001
) は, Mas −
10w
理 論の 真意
を 汲 取 るべ く腐心 し,Maslow
欲 求 階層
説の 誤解 を解 くと して ,D
欲 求 (欠 乏 欲 求)とB
欲 求 (存 在 欲 求 )の 区別
が あま り な さ れてい ない こ とを指 摘 し, B
欲 求はそ も そ も 動機づ け ら れ る もの では ない と 述べ てい る。
ある意 味で は
,
こ の 金 井 (2001
)の 言の延 長 線 上Japan Society of Business Administration
NII-Electronic Library Service
Japan Sooiety of Business Administration
に 沼
上
(2003)
の 主 張があ
る と言 える か も しれ ない。
そこ で は「
欲 求 階 層 説の誤 用 」 を正すべく 「自 己実 現 欲 求 よ り もむ しろ承 認
・ 尊
厳 欲 求に注 目すべ きだ」 と述べ ら れ るこ と と な るの
。
ま た松 山 (
2003
)や 三 島・
河野 (2006
)は, 言 葉 上,
どう
して も 自 己 中 心 的に捉 え ら れがち な 自 己 実 現 概 念が他 者 (社 会や 組 織)の 受 容 を 含 む もの で あ るこ とを改めて 強 調 して い る〔8)。 さ ら に,
三 島 (2005
)はMaslow
理 論 を 経 営 管 理 に 取 り 込 むに は, 従 業員 を能動的な健 康人 とみ なす必要が ある と指 摘 す る。
Maslow
理論 評は以 上の よう
な推 移 を辿 っ てい る
。
しか し注 意 しな けれ ば な ら ない の は,
これ ら は
McGregor
に よ るMaslow
理 論 の 摂 取 以 来 あ く まで もモチペー
ショ ン 論として
,
その 範 囲 内で 評 価さ れ て き た という
こ とであ る。 以 下 で は, 改め てMaslow
理 論= モ チベー
シ ョン 論の 真 偽 を確認 し, 上 記 諸 説に検 討 を加えて
い く
。
3 . MaslOW 理論再 考
3 − 1 . Maslow
理論
は モ チベー
ショ ン 論 か ?
Maslow
理 論 の 核 は 欲 求 階層
説 と 自 己 実 現 人 仮 説であ り, モ チベー
ショ ン論で も その よ
う
に理解さ れてい る と言っ て い い
。
しか し次の 点に 注意 す る 必 要 が あ る。
第1
に, な ぜ こ の2
つ の説が
Maslow
に よっ て論 じ ら れ た の か , その 理 由 を 明確に 踏 ま え て議論 さ れ た もの は モチベー
ショ ン 論の中では 皆 無に等 しい 。 第
2
に.
モチベ
ー
ショ ン
論
に おい て欲 求 階層
説は詳 細に紹 介さ れる が,
その欲 求 間 移 行 法 則が モチベー
ショ ン 論 として採 用 さ れ た こ と は ほ ぼ ない
。
第3
に 自 己 実 現 人に つ い て
,
これがMaslow
と と も に 紹介
さ れ るこ と はあっ て も, そ れ に関 するMaslow
の 言説が詳 細に紹介さ れ るこ と は非常
に少 ない〔9)
。
第
1
の点 は あ る意味では 当 然 と 言 え ば当然 で ある。
モチベー
シ ョ ン論に は「
行 動の 獲 得 」 とMaslow 理論はモチベ
ー
ショ ン 論か 69
い
う
問 題意
識があ
り,Maslow
が どの よう
な問 題 意 識で あっ て も関 係 ない か らで ある。
しか しこ れ が
Maslow
理論 誤用の最 大
の 原 因で ある。
次の 点 を 強 調 し な け れ ば な ら ない。 Maslow
理 論とモチベー
ショ ン 論は その問 題 意識 が全 く異 な る
。
Maslow
の 主 著は 『人間 性の 心理学 』 (1954
)で あ り, その 続編 が
『
完全 な る 人 間 』 (1968
) で ある。 Maslow
(1954
)は その ま えが きで次の よ うに 表明する
。
「私 は本質
的に 次 の よ うな 疑問 をもっ て い た。
初 期に どの よ うな欠 乏があ る と神経症に な るの か ? その 治 療には どの よ うな 薬が あるの か 〜 どの よ う な順 序で ? ど れ が最 も 基本
的 な もの なの か ?」(邦 訳,
v−
vi 頁 )。
モチベー
シ ョ ン 論は取 り上 げ ない が,
これ こ そ が
Maslow
の 問題 意識 で あ る。一
言 で 言 えば, 彼が追 究 しよう
と したの は く心理 的 健 康 と その 実 現〉 に他な ら ない {1°)。
こ
う
考 え れば,
欲 求 階層
説 と 自 己 実 現 人の概 念に も次の よう
な 明確な位置づ けが与
え ら れ るこ とになる
。
す なわ ち前 者は,
心理的 健 康へ と 至 る プロ セ ス , 経 路を 明 らか にす る もの で あ り, 後 者は 心 理 的 健 康 を 実 現 した者の 特 性・
内 容, 目指 すべ き 目標である。
次 に,
Maslow
が示 した欲 求 間の 移 行 法 則がモ チベ
ー
ショ ン論 と して採 用 さ れ たこ と は ほぼ
ない と言っ てい い
。
採 られるの は 「欲 求に は5
つ の 階
層
が あ る」とい う箇 所 だ け なの であ る。
これに は根 本 的 な理由がある。 欲 求 充 足の意 味 が
Maslow
理 論 とモ チベー
ショ ン 論で は 異 な る とい うことで あ る。 つ ま り
,
モチベー
シ ョ ン 論に お い て欲 求充
足 は行 動の 惹 起 を意味す
るが
,
欲求 階層
説におい て欲 求充
足 と は そ れに伴 う 学 習, 人 格の 形 成 を 意 味 して い る。す
なわち
, Maslow
は次のよ うに述べ る。
欲 求 階 層 と は, 「単に一
連の 基 本 的 欲 求の 満 足が増 加 するとい
う
こ と だ け では な く,
そのう
えに一
連の 心 理 的 健 康の程 度が増 加 す るこ と なの で あ る」(同 上
, 102
頁 )(11 }。
最 後に モ チベー
ショ ン 論が
Maslow
の 自己N工 工
一
Eleotronio LibraryJapan Society of Business Administration
Japan Sooiety of Business Administration
70 日本経営 学 会誌く第 22号〉
実 現 人分 析 をほ と ん ど取 り上 げ ない のは何 故で
あろ うか
。Maslow
(1954
)は 自己実現 者につい て次 の よ
う
に ま とめ て い る。 「自己実現者
は 自 己の 本 質 や 人 間 性,
多 くの 杜 会 生 活,
自 然 や 物理 的 現 実 を哲 学的 に受容
するこ とによっ て,自動 的に価 値 体 系の確 固たる基 盤 を 身につ けて
い る
n
こ の受容
という価値
に よっ て,
日常
の彼の個 人 的 価 値 判 断のほ と ん どすべ てが 説明 され る」(
Maslow ,
1954,
邦 訳,
267頁 )。
世 の中
に対
す るこ の よ う な 態 度は重 要 だ とMaslow
は述べ る。 とい うの は, そ れが [人生の
多
くの 分 野に おい て
,
選 択 をめ ぐっ て の 葛藤
や もが き, 両 面 感 情 や 不 確か さが減 少 した り 消 失 した りす る」か ら で あ る (同 上,
267−268
頁 〉。 さ ら に,こ う した 自 己 実 現人の 特 性と して
15
もの特 徴 を 列 挙 し て 示す〔12 )。
こ う した
Maslow
に よる 自 己 実 現 入の 分 析には き わめ て 重 要な特 徴が あ る
。
すな わ ち 欲 求 分析が ほ と ん ど ない とい うこ とである。 そ して こ れ が モ チベー
シ ョ ン 論がMaslow
の 自 己 実 現分析 を ほ と ん ど 取 り上 げな か っ た 理由である と考 えら れ る。
欲 求 分 析が な け れ ば,
モ チベー
シ ョ ン 論 と し て活用 の し ようが ない
。
し か しMaslow
に あっ て は こうし た 自己実 現 人分析 こ そが重 要だっ た の である。
そ れは彼の 理論がモ チベー
ショ ン と その た め の 欲 求分析ではな く,
心理 的 健 康 と その実現 プ ロ セ ス の 分析だ っ た か らで あ る
。
以 上の
3
点は, Maslow
理論が モ チベー
シ ョン 論で は ない こ と を 示 し てい る
。
し か しMas −
k
)w 理論 をモチベー
ショ ン 論だ と言い うる要 因 もい くつ か 目に付 くか も しれ ない
。
第1
に,
彼の 主著 が
Motivati
〔〕n andPers
〔mality だ という
こ と で ある。
だ が彼は モチベー
シ ョ ン という
概 念 をモ チベー
ショ ン 論が採っ てい る 「行 動の 獲 得 」 とい
う意
味で は用い てい ない。「
動 機 」あるい は 「動 機づ け ら れ た 状態
」
という
意味 にお い て用 い
,
し か もそ れ らが取 り上 げら れる の は, 動 機が 人格 を反 映 し かつ その充
足 が 心 理的 健 康につ なが る と考 える か らであ る。
第2
に彼の 理論は欲 求理論であ り, モ チベ
ー
ショ ン論 の 発 展に 貢 献 した とい うこ と が ある
。
確か に こ の 点は疑い ない。
しか し例 え ば 組 織 論が どれだけ 生 物 学の諸 論 を 援 用 し,
生物 学が ど れ だ け 組織 論の 発 展に 貢献し てい よ うとも, 生 物 学は生 物 学である。
そ れ は両者
の 目 的と体 系が 異な る か らである。
欲 求理論 を 用い,一
方が他 方の 発 展に 貢 献 して い よ うとも その理論の 目的 と体 系が 異 な るな らば
,
両者は別理論 と言わ ね ばな ら ない
。
以上か ら し て
,Maslow
理 論は モ チベー
ショ
ン 論でない
。
[心 理的 健 康の 実現」を 終 始一
貫 問題 と してい るMaslow
理 論 を「
行 動の 方 向 性・
強度・
持 続 性」
の 確 保 を問 題 とするモ チベー
シ ョ ン 論 として 語るな ら ば, そ れは
Masl
〔〕w 理論の 矮 小 化である と考え ら れ る。
3 − 2 .
欲 求 階 層 説 とモチベー
ショ ン論では 両者は具体 的に どの よ
う
に異なっ て く るであ ろ うか
。
欲 求 階 層 説と モ チベー
シ ョ ン論の 各 論 との 違い か ら見て い く。
まず 欲 求 階層
説が人間 類型論では ない こ と は 明 らか で あ ろう
。
心 理的 健 康の実現 を 閙題にする な ら ば, 全ての人 間に とっ て その5
つ の 欲 求は, 顕 在 化 してい な くとも少 な くと も潜 在 的に は存 在 し てい る と仮定
しな け れ ばな ら ない 。 人間 類 型 論では今 顕 在 化 して い る欲 求にの み 注 目 するこ と と な る。
行動 を 引 き出 すため に は, そ れ以上 の こ とは現 状 必 要 ない か らで あ る
.
ERG
理論は どうであろ うか。ERG
理 論 の狙い も他の モ チベ
ー
ショ ン 論と同 様で あ り
,
「個 人 や その環 境の 中にある,
行 動 を 活 気づ け 持 続 させ る もの に関心 を もつ 」と 述 べ ら れ る (AI−
derfer,1972,
p. 7
)。
Alderfer
はこ の 問題 意 識でMaslow
理 論 との対
比作
業 を行っ て 自説の優位
を主
張 し,
その 後の モ チベー
ショ ン 論 者 も そ れ を 支持 し た わ けであ る
.
しか し
ERG
理論は モ チベー
ショ ン 論 として 優れ てい る と し て も,