数理生物モデルによるデータフィッティング
Data Fitting by Mathematical Biology Models
非線形解析研究室
BV14031
沢田 和樹 指導教員:竹内 慎吾 教授1 はじめに
本研究では
, Malthus
方程式から,
密度効果を取り入 れた様々な数理モデルまでを扱う. また,個体数変化が 振動的になっており, Verhulst方程式ではうまくフィッ トしないデータに対しても,うまくフィッティングさせ る研究も行う. 第2節, 第3節は[1],
第4節は[2], [3], [4], [5]
を参照した.
2 資源に無制約な数理モデル
個体群が資源を無制限に消費できることを前提とし た数理モデルは次のように書ける
.
N ′ = rN, r = β − µ.
(1)
ここで,
N = N(t)
は時刻t
における個体群サイズで ある.
また, r > 0
は内的自然成長率と呼ばれ, β
とµ
は1個体あたりの出生率と死亡率を表している. 経済 学者Thomas Malthus
が『人口論』(1798)
で人口の増 加は指数関数的に増加していくことに着目したことか ら,方程式(1)
はMalthus
方程式と呼ばれる.Ԇਇ༅̅ଅई
また
,
初期値N (0) = N 0
として,
方程式(1)
を変数 分離法で解くと,N (t) = N 0 e rt
が得られる
.
3 密度に依存する数理モデル
資源に制約があると仮定した条件の下では
,
密度効 果が発生する. 密度効果とは, 個体群密度の変化がそ の個体群の出生率や死亡率に影響を与えることをいう.Malthus
方程式に対して,密度効果を取り入れると,N ′ = rN (
1 − N K
)
(2)
を導出できる
. (2)
はVerhulst
方程式(
またはロジス ティック方程式)と呼ばれ,K
を環境収容力という.Ԇਇ༅̅ଅई
他に密度効果を取り入れた数理モデルの例として,
N ′ = rN 1 − N/K
1 + αN (Smith)
N ′ = rN e γ(1 − N/K) − 1
e γ − 1 (Ricker) N ′ = rN log(K/N ) (Gompertz)
がある. この節の数理モデルはどれも
S
字型曲線(シ
グモイド曲線)を描く. また,変曲点のN
座標をL
と すると, K
とL
の比に関して,
• K/L = 2 (Verhulst)
• 1 < K/L < e (Bernoulli)
• K/L > 2 (Beverton-Holt, Ricker)
• K/L = e (Gompertz)
が成り立つ. データから
K
とL
を得ることで, 上記 の不等式により,解かずしてデータフィッティングに最 適な数理モデルがわかる.
4 時間遅れを取り入れた数理モデル
一般的に
,
時間遅れを導入すると,
解の挙動が複雑に なり扱いにくくなることが多くなる. しかし, Verhulst 方程式に時間遅れを導入した場合,
現象を記述できる 幅が広がるなど良い影響をもたらすことがわかった.4.1 Hutchinson
方程式Verhulst
方程式(2)
に時間遅れT
を取り入れると,
N ′ = rN (
1 − N (t − T) K
)
(3)
となる
.
これはHutchinson
方程式と呼ばれる.
式(3)
の解はrT
の値によって3つの異なる挙動を示す.(i) rT ≤ 1/e
のとき,
振動せずに収束する.
20 40 60 80 100
20 40 60 80 100
(ii) 1/e < rT < π/2
のとき,振動しながら収束する.20 40 60 80 100
50 100 150
(iii) rT > π/2
のとき,
収束せずに有界で振動する.
20 40 60 80 100
50 100 150 200
また, 一般的に時間遅れ
T
は, 性成熟までの期間や 妊娠期間を設定することが多い.4.2
データフィッティング(羊)
以下の図はタスマニア島における羊の個体数変化を 示している
([5]
のデータを元に作成した). これから,Hutchinson
方程式を用いてデータフィッティングをしてみる.
20 40 60 80 100
500 1000 1500 2000
上図から
(ii)
のケースだとしてデータフィッティング を行う. 例えば,rT = 1.1
のときの周期は4.4762174T
となる.
さらに,
上図から周期を30 (
年)
とすると, 4.4762174T = 30
より,r = 0.16412797, T = 6.70208735 (年).
が得られ
,
データフィッティングをしたのが下図である.
20 40 60 80 100
500 1000 1500 2000
なお, [2]においても
rT = 1.0
のときのHutchinson
方程式を用いてデータフィッティングをしていること が,本研究後に,判明したことを付記しておく.5 おわりに
タスマニア島の羊のデータのような場合
, Malthus
方 程式に密度効果を取り入れたVerhulst
方程式では対応 できない. しかし, Verhulst方程式に時間遅れを導入 したことで,対応可能となることがわかった.参考文献
[1]
ホルストR.
ティーメ[著],斎藤保久 [監訳],生物
集団の数学
(上),日本評論社,2006.
[2]
内藤敏機・原 惟行・日野義之・宮崎倫子[
著]
,タ イムラグをもつ微分方程式,牧野書店,2002.[3]
日本数理生物学会[編集],瀬野裕美 [責任編集],
「数」の数理生物学