みずほリポート
2015年7月22日
中国シンクタンクが明かす
「新シルクロード構想」全容
―2014年度中国商務部国際貿易経済合作研究院への委託調査
◆ 中国は2013年に、中国と欧州を中央アジア経由で結ぶ「陸上シ ルクロード」とASEAN・南アジア経由で結ぶ「海上シルクロー ド」の2本の新シルクロードを開発する構想を打ち出している。 ◆ 新シルクロード構想の主な狙いは中国の対外プレゼンス向上 だが、中国経済の減速が続く中、シルクロード沿線諸国のイン フラ需要の取り込みによる成長下支えの効果への期待も高い。 ◆ 構想の中で、中国と欧州を結ぶ貨物鉄道が既に稼働するなど、 「陸上シルクロード」建設が先行している。中国西部とパキス タン、中国南部とインドを結ぶ経済回廊建設も始まっている。 ◆ 2015年中に発足するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への出資 表明57カ国の大宗は新シルクロード沿線諸国であり、AIIBは新 シルクロード建設を金融面で支えるものと位置付けられる。 ◆ 新シルクロード構想における最大の懸念は複雑な民族・宗教問 題を抱える沿線諸国の治安。政変リスクを抱える国もあり、政 権交代が起きれば中国との外交関係が脅かされる恐れもある。ア ジ ア 調 査 部 上 席 主 任 研 究 員 酒 向 浩 二 0 3 - 3 5 9 1 - 13 7 5 k o j i. s a k o @ m i zu h o - r i . c o. j p ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではあり ません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、 確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあ ります。
目 次
1.はじめに ··· 1 2.商務部研究院委託調査報告書のポイント ··· 3 (1)新シルクロード構想の概要 ··· 3 (2)新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性 ··· 5 (3)「陸上シルクロード」の概要 ··· 8 (4)「海上シルクロード」の概要 ··· 12 (5)新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要 ··· 14 (6)新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案 ··· 17 3.最後に~中国のシルクロード構想の注目点~ ··· 19 (1)シルクロード構想で TPP に対抗 ··· 19 (2)新シルクロードのカギを握る 2 つの経済回廊 ··· 20 (3)新シルクロードのカギを握る 2 つの地域大国 ··· 21 (4)最大のリスクは新シルクロード沿線国・地域の治安 ··· 22 (5)日本は中国の提案を受けるのか ··· 23 資料編(商務部国際貿易経済合作研究院) 「中国政府が新シルクロード構想を打ち出した目的」 ··· 24 1.新シルクロード構想の概要 ··· 24 2.新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性 ··· 30 3.「陸上シルクロード」の概要 ··· 37 4.「海上シルクロード」の概要 ··· 50 5.新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要 ··· 57 6.新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案 ··· 661 陸上シルクロード(一帯) 海上シルクロード(一路)
1.はじめに
2015 年中に中国主導で設立される予定のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が、世界の耳目を集めてい る。AIIB の投融資先は、中国政府が打ち出したユーラシア大陸の東西を結ぶ陸上と海上の 2 本の新シ ルクロード沿線におけるインフラ整備向けが中心となる可能性が高い(図表 1)。実際に、AIIB への出 資を表明した 57 カ国(後掲図表 6)の大宗は、2 本の新シルクロード沿線に位置する国である。 新シルクロード(通称、「一帯一路」)構想が表面化したのは 2013 年のことである。中国の習近平国 家主席は、2013 年 9 月に訪問先のカザフスタンで中国と中央アジアを結び欧州に至る「陸上シルクロ ード」(通称、「シルクロード経済ベルト(一帯)」)構想、翌 10 月に訪問先のインドネシアで中国と ASEAN、南アジア、さらに中東・アフリカを経て欧州を結ぶ「海上シルクロード」(通称、「21 世紀海 上シルクロード(一路)」)構想を打ち出した。中国を起点とするこの新シルクロード構想は、2014 年 に入るとさらに具体化していく。習近平国家主席は 2014 年 9 月にタジキスタン、モルディブ、スリラ ンカ、インドの 4 カ国を訪問した。このうちタジキスタン訪問は、中国、ロシア、中央アジア諸国で 構成する上海協力機構の首脳会議への出席を兼ねたもので、中国にとって、「陸上シルクロード」開発 を通じて中央アジアの豊富な天然ガスなどの資源確保と中国企業主導での貨物鉄道整備などのインフ ラ開発を推進する狙いがある。南アジア 3 カ国(モルディブ、スリランカ、インド)訪問は、同地域 の港湾建設・運営協力の強化を図り、「海上シルクロード」開発を通じて、南シナ海からインド洋に至 るシーレーンの確保を図るとともに、中国に続くアジアの地域大国であるインドを輸出市場に取り込 もうという意向が垣間みられる。 これらの歴訪によって周辺国においても新シルクロード構想の認知度は徐々に高まっており、2014 年 11 月に北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で、中国は満を持して全世界に向け て同構想の実現に注力することを表明した。 図表 1 新シルクロード構想(一帯一路) (資料)中国網2 新シルクロード構想は、開発地域がユーラシア全域に跨るという壮大なスケールから、国際的な影 響力の拡大を目論む中国の意図が強調されることが多いが、構想の背景には中国側の経済事情もある と考えられる。中国は、国内で生産設備の過剰問題を抱えているうえ、輸出の伸び悩みにも直面して おり、中国経済に対する下押し圧力が高まっている。そこで新シルクロード構想を通じて、周辺国の 開発に乗り出して輸出先を確保し、生産設備の過剰問題を緩和することも狙っているとみられる。2 桁成長が終息し、新常態(ニューノーマル)に入った中国は、新シルクロードの起点となる国内およ び周辺国の一体開発の推進を、新たな成長戦略の一つに据えているともいえよう。 一方、日本の安倍政権も、中国の周辺国との関係を強化しようとしており、2014 年 8 月にはインド のモディ新首相を日本に招いたほか、翌 9 月には安倍首相がバングラデシュとスリランカを訪問した。 また、中央アジア諸国に対しては、「中央アジア+日本」対話を継続している。新シルクロード沿線国 における開発プロジェクトの受注などを巡っては、日中が競合する可能性があるが、アジア開発銀行 (ADB) 1によるとアジアには 2010~2020 年にかけて年間約 8,000 億ドル(約 100 兆円)規模のインフ ラ需要があると見込まれており、両国が協調する余地もあると考えられる。 このような環境下、中国政府が打ち出す新シルクロード構想がアジアの経済・政治環境にどのよう な影響を与えるかを検討することは、アジア市場を重視している本邦企業にとっても関心の高い事項 となっている。そこで、みずほ総合研究所は、中国の新シルクロード構想の全体像を明らかにすべく、 業務提携先の中国商務部国際貿易経済合作研究院(北京に本部を置く商務部傘下のシンクタンク、以 下商務部研究院)に対して、「中国政府が新シルクロード構想を打ち出した目的」に関する調査を 2014 年下期~2015 年上期にかけて委託した。 委託調査報告書は、次の 6 章で構成されている。 第 1 章「新シルクロード構想の概要」 第 2 章「新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性」 第 3 章「陸上シルクロード」の概要 第 4 章「海上シルクロード」の概要 第 5 章「新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要」 第 6 章「新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案」 なお、本稿は、みずほ総合研究所の見解ではなく、商務部研究院の見解を取りまとめた報告書に、 みずほ総合研究所が解説を加えたものである(報告書本文は資料編を参照)。 次章以降、報告書各章の概要を詳しくみていくことにする。
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2.商務部研究院委託調査報告書のポイント
(1) 新シルクロード構想の概要 a.新シルクロード構想が打ち出された理由~「中国の夢」の実現~ 商務部研究院は、シルクロード構想が打ち出された理由を 4 つ挙げている(図表 2)。筆頭に挙がっ たのは、「中国の夢」の実現のためというものである。「中国の夢」とは、習近平国家主席が提唱する 中華民族の復興を掲げるスローガンであり、持続的な経済発展で国民生活を豊かにすると共に、中国 の国際的な地位向上を図ることを意味している。 2014 年 11 月の APEC では「アジア太平洋の夢」というスローガンも新たに打ち出され、「中国の夢」 を「アジア太平洋の夢」へと拡大していくという姿勢が示された。そのための具体策が、「陸上シルク ロード」と「海上シルクロード」開発ということになろう。新シルクロードの開発を通じて沿線国の 生活水準を引き上げ、良好な関係を構築することで中国との共存共栄を目指すとしている。 なお、中国では、東部沿海部と中西部内陸部の経済格差が大きいため、中央アジア諸国に隣接し開 発の遅れた中西部内陸部の対外経済開放によって経済のボトムアップを図ることが「陸上シルクロー ド」開発の狙いの一つとなっている。また、「海上シルクロード」開発においては、ASEAN 諸国との海 洋権益問題などを棚上げしたうえで、2010 年に発効している中国・ASEAN 自由貿易協定(FTA)のアップ グレードを図ることが狙いの一つとなっている。 このように、新シルクロード構想は、中国が取り組んでいる政策課題の解決や通商政策を後押しす る狙いもあるようだ。 図表 2 新シルクロード構想が打ち出された理由 理由 説明 ① 「中国の夢」の実現のため ・ 習近平国家主席が提唱する「中国の夢」(中華民族の復興)戦略にお ける外交構想の一環 ② 中国と新シルクロード沿 線諸国の共同繁栄のため ・ 「陸上シルクロード」開発によって、地理的に中国と欧州の中間に位 置し、開発の遅れた中央アジア諸国のボトムアップを図る ・ 「海上シルクロード」開発によって、中国・ASEAN FTA を発展させる ③ 新シルクロード地域経済 の一体化推進のため ・ 新シルクロード沿線諸国の「開放、自由、協力」を重視し、保護主義 の台頭を抑制する ④ 中国の国土の均衡ある発 展のため ・ 「陸上シルクロード」開発を進めることで、中央アジアに隣接する中 国の中西部開発が促進され、東部沿海部との経済格差の縮小につなが る ⑤ 中国と沿線諸国の良好な 外交関係構築のため ・ 「陸上シルクロード」周辺地域における 3 勢力(テロ組織、分離独立 運動組織、宗教過激派組織)の撲滅で協力する ・ 「海上シルクロード」周辺地域における領土問題は棚上げにする (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成4 b.習近平国家主席のアジア 4 カ国(タジキスタン、モルディブ、スリランカ、インド)訪問の意図 ~新シルクロード構想実現に向けたロードショー~ 前述した通り、2014 年 9 月の習近平国家主席の 4 カ国訪問は、新シルクロード構想を進める上での 転機となった(図表 3)。商務部研究院は、この一連の訪問は、新シルクロード構想実現に向けたロー ドショーだったと述べている。4 カ国との提携協定は、詳細なものまで含めると総計で 60 項目以上に のぼったようである。 タジキスタン、モルディブ、スリランカの 3 カ国からは、トップ外交を通じて資源開発、電力開発、 ニュータウン建設などのインフラプロジェクトを受注しており、政治主導で経済関係を深化させてい る様子がうかがえる。 インドに対しては、隣接するバングラデシュ、ミャンマーを含めた 4 カ国を跨ぐ BCIM 経済回廊の構 築を提案するなど、中国は、大陸国家である地の利を十分に活かしながら、シルクロード構想に基づ いた働きかけを行っている点が注目される。 図表 3 習近平国家主席の 4 カ国訪問後の成果 訪問国 協定・合意など 始動プロジェクトなど タジキスタン ・ 戦略的パートナーシップ 協定をさらに発展・深化 ・ 中国・中央アジア天然ガスパイプライン(D ライン)の建設がスタート モルディブ ・ 友好パートナーシップを 樹立 ・ インフラ建設、観光、気候変動などで協力 ・ 同国最大の民生プロジェクトであるフル マーレ・ニュータウン建設プロジェクトを 中国資本が請け負う スリランカ ・ 戦略的パートナーシップ 協定を深化させるアクシ ョンプランに署名 ・ FTA 交渉スタート ・ 港湾建設・運営の推進や港に隣接した工業 団地建設を重点的に推進 ・ 初の石炭火力発電所であるノロチョライ 石炭火力発電所建設を中国資本が請け負 う インド ・ BCIM 経済回廊構想で合意 ・ 中国鉄道産業の優位性を活かしてインド の鉄道改修・グレードアップを行う ・ インドにおける工業団地建設も実施して いく (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成
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(2) 新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性 a.FTA との関連性
既に中国は、広域自由貿易協定(FTA)として RCEP を推進、2 国・地域間 FTA として ASEAN やパキ スタンなどと FTA を締結済みである(図表 4)。アジア地域の包括的な FTA である RCEP に加えて、中 東・アフリカ地域との交渉も一部で進んでおり、インドとも FTA の共同研究を行っている。 商務部研究院は、①交通・通信・エネルギー・産業の一体化、②貿易の一体化、③金融の一体化、 ④政治面での相互信頼の強化の 4 点から、新シルクロード構想は FTA の推進を後押しすると分析して いる。 中国としては、交通・通信・エネルギー・産業の一体化を切り札に、シルクロード沿線諸国に対し て自国との FTA 交渉を促していきたい意向があるようだ。例えば、中国と中央アジア諸国間では、現 在 FTA 交渉は行われていない。「陸上シルクロード」開発によって経済補完関係を強固にすることで、 中央アジア諸国の対中関税率引き下げ2を促して FTA につなげたい考えのようである。 図表 4 中国の FTA 締結先国・地域 交渉状況 地域 国・地域 締結済み アジア太平洋 香港、マカオ、台湾、シンガポール、ASEAN、パキスタン、ニュー ジーランド、ペルー、チリ、コスタリカ、韓国、オーストラリア 欧州 スイス、アイスランド 交渉中 アジア太平洋 RCEP(日中韓+ASEAN+インド・ニュージーランド・オーストラリ ア)、日中韓、スリランカ 中東 湾岸協力会議(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、 バーレーン、オマーン、カタール) アフリカ 南部アフリカ関税同盟(南アフリカ、ボツワナ、レソト、スワジラ ンド) 交渉準備中 アジア太平洋 モルディブ 共同研究中 アジア太平洋 インド (注)2015 年 7 月時点の判明分のみ掲載。 (資料)WTO、JETRO を基にみずほ総合研究所作成 2 商務部研究院によると、中央アジア 5 カ国の対中輸入品に対する平均関税率は 6.5%に対し、5 カ国内の平均関税率 1.6%とのことである。
b.人民 中国 アでみ ユーロ 貿易決 にはポ 商務 国際化 て中国 を通じ のよ その スタン みとの 民元国際化と 国は、近年、 みると、人民 ロとのかい離 決済における ポンドを抜い 務部研究院は 化を加速させ 国が既に最大 じて、貿易決 うである。 のための金融 ンとの国境に のことである (資料 との関連性 人民元の国際 民元はドル、ユ 離はまだ相当に る人民元の積極 いてドル、ユー は、人民元の国 せることになる 大級の貿易相手 決済の人民元化 融インフラとし に位置する新疆 る。 料)国際銀行間通 際化の推進に ユーロ、ポン に大きいが、 極活用を推奨 ーロに次ぐ第 国際化はまだ ると分析して 手国になって 化を進めると して、オフシ 疆ウイグル自 図表 5 通信協会(SWIFT) 6 にも積極的にな ンド、円に次ぐ 貿易額で既に 奨していること 3 位の決済通 だ初歩段階に過 ている。その背 ているという実 と共に、人民元 ショア人民元市 自治区のホルゴ 5 世界決済通 なっている。2 ぐ、世界第 5 に世界第 1 位 とを勘案する 通貨に浮上する 過ぎないが、 背景には、多 実態があり、 元建ての投融 市場も構築し ゴスには、既 通貨シェア 2014 年末時点 位となってい 位である中国が ると、近い将来 る潜在力は十 新シルクロー 多くの新シルク 中国としては 融資を積極的に していくとして 既にオフショア 点の世界決済 いる(図表 5 が、自国企業 来、人民元が 十分にあるとみ ード構想が、 クロード沿線 は新シルクロ に行っていき ている。実際 ア人民元市場 済通貨シェ 5)。ドル、 業を中心に が円、さら みられる。 人民元の 線国にとっ ロード構想 きたい考え 際にカザフ 場を設置済
7 c.AIIB との関連性 冒頭で述べた通り、新シルクロード構想を金融面で支援する主体的な機関が AIIB になると考えられ る。原加盟資格を保有する 57 カ国の大宗(図表 6)が「陸上シルクロード」または「海上シルクロー ド」沿線国といえる。商務部研究院は、AIIB の設立は、①アジアにおけるインフラ建設と相互連携・ 相互通行設備建設を加速させるのに役立つ、②アジア経済の一体化を加速させるのに役立つ、③アジ ア地域における中国の国際的地位および影響力を高めるのに役立つ、と分析している。具体的には、 新シルクロードの基幹物流インフラや、中国を起点とする経済回廊の建設を金融面で支援する役割な どを担うとしている。 また、商務部研究院は、「中国は名目 GDP では世界第 2 位、外貨準備高では世界第 1 位となっており、 2014 年のアジアの経済成長の 50%程度は中国の寄与によるもの」としたうえで、「中国が、切迫した インフラ建設需要や資金問題を抱えるアジア諸国を助けることで大国というイメージを体現し、それ によってアジアにおける中国の国際的な地位を高める」とも述べている。このように、シルクロード 構想とそれを支える AIIB の設立の背景には、「中国の夢」を「アジア太平洋の夢」へと昇華させてい こうという想いもあるようだ。 図表 6 AIIB 原加盟資格保有国 地域 参加国 アジア太平洋(25 カ国) 中国、シンガポール、ブルネイ、タイ、マレーシア、インドネシ ア、ベトナム、フィリピン、カンボジア、ラオス、ミャンマー、 バングラデシュ、インド、パキスタン、スリランカ、モルディブ、 ネパール、モンゴル、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、 タジキスタン、韓国、ニュージーランド、オーストラリア 中東・アフリカ(11 カ国) トルコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、ヨル ダン、カタール、オマーン、イラン、イスラエル、エジプト、南 アフリカ 欧州(20 カ国) 英国、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、スイス、 オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン、フィンラ ンド、ノルウェー、マルタ、スペイン、アイスランド、ポルトガ ル、ポーランド、グルジア、アゼルバイジャン、ロシア 中南米(1 カ国) ブラジル (注) 1.「陸上シルクロード」および「海上シルクロード」沿線国に網掛け。 2. フィリピン、マレーシア、タイ、デンマーク、ポーランド、クウェート、南アフリカの 7 カ国は 2015 年 7 月時点で AIIB 設 立協定への署名を見送っている。 (資料)中国財務相
8 (3) 「陸上シルクロード」の概要 a.「陸上シルクロード」の概要~第 2、さらに第 3 のユーラシア・ランドブリッジを拡充~ 「陸上シルクロード」の対象地域には、狭義では中央アジア、中義では中央アジアからロシア・CIS、 広義では中央アジアから欧州までが含まれる(図表 7)。広義の場合、欧州の終着点は、欧州の主要商 業港であるオランダのロッテルダム港となっている。 中国から欧州までを結ぶ物流網としては、既に第 1 ユーラシア・ランドブリッジとして、ロシアの ウラジオストクを起点とするシベリア鉄道が存在し、北京発モスクワ行3の列車も運行されている。 しかしながら、中国としては、江蘇省・連雲港を起点として中国中西部と中央アジア諸国を経由し、 中国と欧州を結ぶ第 2 ユーラシア・ランドブリッジ(運行済み、2010 年頃から直通貨物列車の運行増 加、後掲図表 9)の積極活用を図りたい意向のようである。 さらに、広東省・深圳を起点とし、雲南省・昆明からミャンマーを経て南アジアを横断して欧州に 向かう第 3 ユーラシア・ランドブリッジも新たに計画しているとのことであり、「陸上シルクロード」 開発の重点が、中国を起点とするユーラシア鉄道網の整備に置かれている様子がうかがえる。 図表 7 「陸上シルクロード」の定義 定義 対象地域 3 本の鉄道ルート概要 狭義 ・ 中央アジア五カ国(カザフスタン、キ ルギス、タジキスタン、トルクメニス タン、ウズベキスタン) ・ 第 1 ユーラシア・ランドブリッジ(通 称シベリア鉄道:ロシアのウラジオス トク、オランダのロッテルダム港、全 長 13,000km) ・ 第 2 ユーラシア・ランドブリッジ(通 称新ユーラシア・ランドブリッジ:中 国の江蘇省・連雲港、カザフスタン、 ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ド イツ、オランダのロッテルダム港、全 長 10,800km) ・ 第 3 ユーラシア・ランドブリッジ(計 画中:中国の広東省・深圳、雲南省昆 明、ミャンマー、バングラデシュ、イ ンド、パキスタン、トルコ、東欧、中 欧、オランダのロッテルダム港、全長 15,000km) 中義 ・ 中央アジア五カ国+その他の中国西 部国境隣接国・南アジア・中東・ロシ ア CIS(モンゴル、ミャンマー、バン グラデシュ、インド、パキスタン、ア フガニスタン、イラン、イラク、ヨル ダン、イスラエル、アゼルバイジャン、 グルジア、アルメニア、ロシア、ウク ライナ、ベラルーシ) 広儀 ・ 中央アジア五カ国+その他の中国西 部国境隣接国・南アジア・中東・ロシ ア CIS+欧州(EU 加盟 28 カ国) (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成 3 モンゴル経由と中国東北部経由がある。中国とロシア・モンゴルの軌道幅が異なるため、国境では台車交換がある。
9 b.中国が主導する開発計画の概要~資源・エネルギー協力が中核~ 中国の「陸上シルクロード」開発においては、中国西部の国境隣接国である中央アジア諸国、ロシ ア、モンゴルなどがいずれも天然ガス、石炭などの豊富な資源・エネルギーを擁していることから、 資源・エネルギー分野の協力が中心となっている(図表 8)。中国からこれらの近隣諸国に工業製品を 輸出し、近隣諸国から資源・エネルギーを輸入するインフラを整備し、一部の国との間では金融協力 も進めていくという内容である。 これらの対外政策の方向性は、基本的に新シルクロード構想が打ち出される前と変わっていないが、 ユーラシアのシームレスな物流網の整備にあたって、カザフスタンとの国境地帯(新疆ウイグル自治 区)に大型物流センターを設置するなど、国境開発に注力する姿勢が強まっている様子はうかがえる。 陸路で 14 カ国4と接する中国にとって、「陸上シルクロード」の要衝となる国境付近地域の開発は、新 シルクロード構想の柱になるためであろう。 図表 8 「陸上シルクロード」沿線開発プロジェクト事例 国・地域 主な協力分野 プロジェクトなど 中央アジア 諸国 ・ 資源・エネルギー ・ インフラ整備 ・ 貿易の相互補完性 ・ 2006 年 7 月、全長 2,800km の中国・カザフスタン パイプラインが開通 ・ 中国とカザフスタンは、2014 年に中国・カザフス タン国際物流センターを共同で始動 ・ 中国から中央アジアに電気機械・一般機械などの工 業製品を輸出し、中央アジアから中国に資源・エネ ルギーを輸出する補完関係 ロシア ・ 資源・エネルギー ・ インフラ整備 ・ 金融協力 ・ ペトロチャイナ(中国企業)とガスプロム(ロシア 企業)は天然ガス協力を強化 ・ 両国間初の国境川(中国名黒竜江、ロシア名アムー ル川)横断鉄道橋は定礎済み ・ 人民元とルーブルの直接決済 モンゴル ・ 資源・エネルギー ・ インフラ整備 ・ モンゴルから輸入する石炭量は、中国の石炭輸入量 の全体の1割 ・ 両国の協力プロジェクトは、鉄道、高速道路、石油・ 天然ガス、電力など広範囲 (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成 4 カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ロシア、モンゴル、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブ ータン、ミャンマー、ラオス、ベトナム、北朝鮮。
c.中国 中国 が注目 なって 商務 トする なお れてい ている 流上の ともあ 中国 にシフ とも考 この が多い るかど 国・ 欧州 (資料) 国・欧州間の 国と欧州間の 目される(図 ているようだ 務部研究院は ることによっ お、鉄道の軌 いるが、ロシ る。そのため の障壁となっ あるようだ。 国は、将来的 フトしていき 考えているよ の軌道問題は い ASEAN との どうかは、「陸 地域 主 ・ 料)商務部研究院報 の物流網~中国 の協力において 図表 9)。これ だ(図表 10)。 は、鉄道は海運 ってスピードと 軌道幅は、各国 シア、東欧、中 め現在は国境に っている。国境 的には、中央ア きたい意向を持 ようである。 は、「広軌」 (中 の間でも同様に 陸上シルクロ 主な協力分野 イ ン フ ラ 整備(貨物 鉄道開通) 報告書を基にみず 図 (資料 国内陸部発欧 ては、中国中 らは主に、前 運よりもスピ とコストの両 国で異なって 中央アジア諸 における台車 境開発強化の アジア諸国の 持っているよ 中央アジア諸 に発生してい ロード」構想を 図表 9 ・ 重慶 ・ 武漢 ・ 成都 ・ 鄭州 ずほ総合研究所作成 図表 10 第 2 料)商務部研究院 10 欧州行の貨物列 中西部内陸部と 前述した第 2 ユ ピーディーで、 両面でメリッ ており、中国で 諸国、モンゴル 車交換が不可欠 の背景には、交 の「標準軌」敷 ようだが、橋梁 国とは異なる いる。「標準軌 を進めるうえ 中国・欧州間 ・デュイスブ ・プラハ(チ ・ウィッチ( ・ハンブルグ 成 2 ユーラシア 列車が続々運 と欧州を結ぶ ユーラシア・ 、空運よりも トがあると述 では西欧と同 ルでは軌道が広 欠で、輸送時 交換・積替え 敷設を支援し 梁・トンネル る 1,676mm)が 」の鉄道敷設 えで重い課題に 間の貨物鉄道 プロジェク ブルク(ドイツ チェコ)貨物列 (ポーランド) グ(ドイツ)貨 ・ランドブリ 運行~ ぶ貨物列車の運 ランドブリッ もコストが低い 述べている。 同様の「標準軌 広い「広軌」 時間を大幅に遅 え拠点の能力拡 し、中国とのシ ルも多く建設コ が多い南アジ 設を周辺国に広 になっている 道 クトなど ツ)貨物列車開 列車開通(20 貨物列車開 貨物列車開通 リッジ 運行が相次い ッジを活用す いため、鉄道 軌」(1,435mm (1,520mmm) 遅延させてい 拡充が不可欠 シームレスな コスト負担は ア、「狭軌」(1 広げていくこ るとみられる。 開通(2011 年 012 年 10 月) 開通(2013 年 通(2013 年 7 月 いでいる点 する路線と 道へとシフ m)が使わ が使われ いるなど物 欠というこ な直通列車 は重過ぎる 1,000mm) ことができ 年 10 月) 4 月) 月)
11 d.「陸上シルクロード」構想を進めるうえでの阻害要因~治安の悪化、米欧との競合、関税障壁~ 中国は、「陸上シルクロード」構想の実現に向けて、2014 年末に AIIB とは別に単独でシルクロード 基金(400 億ドル:約 5 兆円)を設置するなど、着々と準備を進めている様子だが、開発に関わるリ スクをどのように捉えているのだろうか。 商務部研究院は、「陸上シルクロード」構想には、①治安の悪化、②米欧との競合、③関税障壁の 3 つの阻害要因があると指摘している(図表 11)。構想の対象地域には、複雑な民族・宗教問題を抱え ている地域が含まれており、中央アジア諸国に隣接する中国国内の新疆ウイグル自治区でもテロ事件 が散発していることから、中国にとっての最大の懸念は治安問題といえそうだ。さらに、アフガニス タンやイラクなど、近年の米欧の派兵地域も含まれていることから、当該地域を巡る米欧との複雑な 外交関係も懸念しているようである。また、中央アジア諸国は域外に対して高関税を維持しており、 貿易自由化に向けた動きに積極的な姿勢があまりみられないことも障害とのことである。 それでも、中国としては国境の物流インフラ整備などを通じて周辺国の懐柔を図り、上海協力機構 など既存の多国間対話チャネルを活用しながら、「陸上シルクロード」周辺開発を進めていきたい考え のようである。特に、「陸上シルクロード」沿線国で構成される上海協力機構(加盟国は図表 11 下線) が国境地帯の安全保障協力から経済分野の協力へとシフトすることで、「陸上シルクロード」構想の推 進力となる可能性はありそうだ。 図表 11 「陸上シルクロード」構想の阻害要因と解決策 阻害要因 解決策 ① 治安の悪化 中央アジアから中東・ロシア CIS にかけて は、複雑な民族・宗教問題を抱える地域で あり、イスラム過激派などのテロ活動など により治安が悪化 ② 米欧との競合 米国は「新シルクロード計画」、欧州は「新 中央アジア戦略」を各々打ち出しており、 中国の新シルクロード構想とは一部競合 ③ 関税障壁 中央アジア諸国は域外国に対しては高関 税を維持、さらに貿易手続きも複雑 ① 相互連携・相互通行設備の建設を優先して 推進 ② 多国間(上海協力機構:中国、ロシア、カ ザフスタン、タジキスタン、キルギス、ウ ズベキスタンが正規メンバー、モンゴル、 インド、パキスタン、イラン、アフガニス タンがオブザーバー)・二国間政策の協調・ 対話メカニズムを完備 ③ 金融協力を強化(シルクロード基金を創 設) (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成
12 (4) 「海上シルクロード」の概要 a.「海上シルクロード」の概要~東シナ海、南シナ海、インド洋、ペルシャ湾、紅海・東アフリカ~ 商務部研究院によると、「海上シルクロード」における航路は、①東シナ海航路、②南シナ海航路、 ③インド洋航路、④ペルシャ湾航路、⑤紅海・東アフリカ航路の 5 本である(図表 12)。 「海上シルクロード」の沿線国は、FTA の締結先・交渉先が多いという特徴があるが、貨物列車運 行や国境開発が進む「陸上シルクロード」に比べると、横断的プロジェクトが具体化している様子は まだうかがえず、これから具体化する段階にあるといえそうだ。 図表 12 「海上シルクロード」航路 航路 対象地域 協力分野・開発計画など ① 東シナ 海航路 ・ 日本、韓国、北朝鮮 (報告書では言及なし) ② 南シナ 海航路 ・ ASEAN10 カ国(シンガポール、ブル ネイ、タイ、マレーシア、インドネ シア、フィリピン、ベトナム、カン ボジア、ラオス、ミャンマー)、東 ティモール ・ インフラ建設でハード面の連携を強化 ・ 漁業センター建設や、海洋生態の保護、 海産物生産取引、航行の安全や捜索・救 助および海上輸送の利便性に関する協 力を重点的に伸ばす ・ 中国・ASEAN FTA のアップグレードでソ フト面の連携も強化 ③ インド 洋航路 ・ インド、パキスタン、スリランカ、 バングラデシュ、モルディブ ・ インド洋は、中国のシーレーンにおける 生命線 ・ 政治協力から、安全保障、経済へと協力 分野を広げていく ④ ペルシ ャ湾航 路 ・ イラン、イラク、イエメン、湾岸協 力会議(サウジアラビア、アラブ首 長国連邦、クウェート、バーレーン、 オマーン、カタール) ・ 湾岸諸国のインフラ建設のみならず、工 業・医療・教育分野への投資にも着目 ⑤ 紅海・東 アフリカ 航路 ・ エジプト、スーダン、エチオピア、 ジブチ、ソマリア、ケニア、タンザ ニア、モザンビーク、モーリシャス、 セーシェル、マダガスカル、南部ア フリカ関税同盟(南アフリカ、ボツ ワナ、レソト、スワジランド) ・ アフリカの豊富な資源・エネルギーのみ ならず、アフリカの工業化・情報化・都 市化・農業の近代化という 4 つの新型化 に着目し、開発支援 ・ 貿易決済の人民元化を推進 (注)FTA 締結先および交渉・共同研究先に下線。 (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成
13 b.「海上シルクロード」構想を進めるうえでの阻害要因~全体開発計画の欠如、海洋秩序の不安~ 中国は、「海上シルクロード」構想に関する開発リスクをどのように捉えているのだろうか。商務部 研究院は、「海上シルクロード」構想には、①全体開発計画の欠如、②貿易決済・投資資金上の制約、 ③海洋秩序の不安の 3 つの阻害要因があると指摘している(図表 13)。 具体的には、「海上シルクロード」の基盤となる各国の港湾を機能的・有機的に結びつける横断的な 開発計画が欠如していることを阻害要因の筆頭に挙げている。中国が、「海上シルクロード」において、 「陸上シルクロード」の第 2・第 3 ユーラシア・ランドブリッジに比肩する具体的な地域横断的なプ ロジェクトを打ち出すのか、それとも、中国との 2 国間関係が良好なパキスタンなどでみられるよう に、当面の間は、親密国の港湾および周辺の工業団地開発といった 2 国間開発を主体とするのかは、 今しばらく注視が必要となるだろう。 一方、中国は、貿易決済や開発投資資金の拠出においては、人民元を積極活用することでドル依存 を避けたいという意向を示しており、「海上シルクロード」沿線地域の貿易・投資決済において、人民 元を積極活用していこうという強い意向がうかがえる。中国にとって人民元の国際化は、為替変動リ スクの回避や輸出・投資の促進につながるものとして期待が高まっているものとみられる。 最後に、中国と ASEAN 諸国の間には海洋権益問題がくすぶっていることなどから、慎重な対応が不 可欠という認識も持っているようである。さらに、「陸上シルクロード」同様に「海上シルクロード」 沿線においても政情不安を抱える国が少なくないことから、中国は「内政干渉しない」という原則の 下、トップ外交と経済関係を主軸にした win-win 関係の構築を主軸にしていきたいという意向を示し ている。 図表 13 「海上シルクロード」構想の阻害要因と解決策 阻害要因 解決策 ① 全体開発計画の欠如 欧州には、欧州インフラ連結計画があるが、 「海上シルクロード」地帯には、まだ、港 湾などの相互連携の仕組みが欠如している ② 貿易決済・投資資金上の制約 共通通貨がないこともあり、ドル依存 ③ 海洋秩序の不安 中国と ASEAN の間などでは海洋の安全確保 上の懸念が残る ① 相互連携の強化 「海上シルクロード」沿海諸国の相互連携 をさらに強化する ② 人民元決済の推進 貿易・投資の両面で人民元を積極的に活用 し、国際通貨化を図る ③ 内政には絶対に関与せず 貿易促進、インフラ投資・金融協力などの 分野で win-win 関係を実現させる (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成
14 (5) 新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要 a. バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIM 経済回廊) 新シルクロード構想においては、「陸上シルクロード」および「海上シルクロード」に付随して、陸 上と海上の連絡路となる経済回廊構想も浮上している。中国政府がまず注力しているのが、中国最南 部の雲南省・昆明を起点として、ミャンマー・バングラデシュを経由してインドに至る BCIM 経済回廊 (図表 14・後掲図表 16)であり、中国南部からインド洋に出るためのルートとなる。 商務部研究院によると、経済回廊構想の発端は、1999 年にバングラデシュ、中国、インド、ミャン マーの 4 カ国が地域間経済連携を深める昆明宣言に署名したことに起因し、2014 年の習近平国家主席 がインドを訪問した際に中印両国間で合意されたものである(前掲図表 3)。現在 5 つの路線(道路) があるが、いずれもミャンマーを経由することになる。 中国は、ミャンマー国内に物流網5やパイプライン6を自国支援で構築済みであり、ミャンマー経由 の陸路の物流網を南アジアまで広げることで、中国とインド間の貿易・投資を促進し、同時に周辺の 産業振興を図ることが BCIM 構想の狙いと考えられる。 図表 14 BCIM 経済回廊の概要 路線 産業振興分野 ① 雲南省・昆明―雲南省・猴橋―ミッチーナー (ミャンマー)―レド(インド)―ダッカ(バ ングラデシュ)―コルカタ(インド) ・ 農作物加工業 ・ 宝石加工業 ・ 観光業 ・ 設備製造業 ② 雲南省・昆明―雲南省・瑞麗―マンダレー(ミ ャンマー)―ダッカ・チッタゴン(バングラ デシュ)―コルカタ(インド) ・ 農産物加工業 ・ 中継貿易 ・ その他製造業 ③ 雲南省・昆明―雲南省・瑞麗―チャウピュー ―(ミャンマー)―バングラデシュ―南アジ ア諸国 ・ 石油化学工業(昆明・チャウピュー間の 石油・天然ガスパイプラインが敷設済み) ・ その他製造業 ④ 雲南省・昆明―雲南省・瑞麗―ヤンゴン(ミ ャンマー)-ASEAN 諸国 ・ 資源・エネルギー ・ 農作物加工 ⑤ 雲南省・昆明-雲南省・清水河―ラーショー (ミャンマー)-マンダレー(ミャンマー) ・ 農作物加工 ・ 木材加工業 (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成 5 中緬国境から中部マンダレー間の道路整備などを支援。 6 雲南省・昆明からインド洋に面するラカイン州・チャウピュー間に石油・天然ガスパイプラインを敷設。
15 BCIM経済回廊 中国・パキスタン 経済回廊 中国 インド パキスタン バングラデシュ ミャンマー BCIM 経済回廊の開発に向けた障壁は、「陸上シルクロード」とほぼ同様のようである(図表 15)。地 政学的に複雑な民族・宗教問題を抱えた地域であり、産業基盤は弱く、投資環境は全般的に未整備で ある。 最大のボトルネックは立ち遅れたインフラであり、ミャンマーとバングラデシュの意向も汲んだう えで、このボトルネックを解消できるか否かが成否のカギを握るといえよう。 図表 15 BCIM 経済回廊構想の阻害要因 ① 立ち遅れたインフラ建設 インフラ建設、とりわけ交通インフラの立ち遅れは、当該地域の経済発展や対外貿易におけ る最大のボトルネックとなっている ② 複雑な政治・領土・民族・宗教関係 4 カ国の中では、中国とインドが主導的役割を担っているが、地域内部は複雑な政治・領土・ 民族・宗教関係を持つために、ややもすれば各国の戦略・方針が変わる可能性があり、サブ リージョン経済協力に影響を与え、脅威となる恐れがある ③ 脆弱な産業の相互補完性 インドの対中貿易収支は長年赤字となっているが、その原因は、インドが競争力のある製品 を十分提供できていないことにある ④ 政策支援が不足 中国とインドは合意しているものの、政策面の支援は不十分で、経済回廊における投資を行 ううえでの投資環境の改善が不可欠 (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成 図表 16 2 つの経済回廊 (資料)外務省地図を基にみずほ総合研究所作成
16 b.中国・パキスタン経済回廊の概要 BCIM 経済回廊と並ぶもう一つの経済回廊計画が中国・パキスタン経済回廊である(前掲図表 16、図 表 17)。中国の新疆ウイグル自治区・カシュガルとパキスタンの西部グワダル港を結ぶ回廊で、グワ ダル港は、既に中国企業による港湾運営が行われている。 中国は、長らくインド国境問題などで対立してきた経緯などから、インドと対立してきたパキスタ ンを長らく友好国として遇してきた経緯がある。中国は南アジア諸国の中で先行してパキスタンと FTA も締結済みである。シルクロード基金を活用した開発1号案件は、パキスタンの水力発電所向け と報じられており、当該プロジェクトは中国・パキスタン経済回廊開発のプロジェクトの一環として も捉えられている模様である。 図表 17 中国・パキスタン経済回廊の概要 路線 開発分野 ・ 新疆ウイグル自治 区カシュガルが起 点、パキスタンのグ ワダル港が終点 ① 全長 4,625km のルート建設 ② 沿線の開発:沿線に 8 つの経済特区を設ける計画。パキスタンの グワダル港は、既に運営権が中国企業に引き渡されている ③ win-win 関係の構築:中国・パキスタン回廊を軸足に、同回廊への 近隣中央アジア諸国の参画を促していく (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成 ただし、商務部研究院は、何よりも政治主導の開発であり、パキスタンは政情不安定なうえに国境 地帯は厳しい山岳地帯であることから、開発は相当な困難を伴うとみているようである(図表 18)。 さらに、グワダル港は、もともと運営に携わっていたシンガポール企業が撤退した後に中国企業が 後継に入ったもので、大都市圏からは地理的に離れていることから採算性は低い。港湾の収益性向上 のためには、中国資本による相当な梃入れが不可欠と認識している。 図表 18 中国・パキスタン経済回廊構想の阻害要因 ① 楽観視できない治安情勢 パキスタン国内は政情が不安定で、テロも多い ② 高い建設コスト 国境地帯は海抜 4,000m の厳しい山岳地帯であり、トンネルや橋梁工事のコストは膨大 ③ 経済基盤の弱いグワダル地域 グワダルはパキスタンでも、経済が立ち遅れた地域であり、産業が未発達で、英語人材も少 ない。シンガポール企業がグワダル港運営から撤退した後、中国企業が後継に入った経緯あ り (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成
17 (6) 新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案 a.日中協力の可能性 新シルクロード沿線諸国は、日本にとっても経済的に極めて重要な地域であるため、開発案件では、 日中が競合する可能性がある。既に、高速鉄道などの個別案件の受注を巡り競合が激化する兆しがあ る。また、沿線開発では鉄鋼、セメント、化学品などの資材需要が生まれると見込まれるが、中国企 業が、価格競争力を強みにそれらの需要を取り込んでしまう可能性もある7。 それでも、商務部研究院は、①インフラ建設協力、②技術協力、③金融協力、④環境保全協力の 4 分野で、潜在的な日中協力の可能性があると述べている(図表 19)。日本側にとって、省エネ・環境 技術などの優位性が活かされ、金融協力で大型プロジェクトの実現性が高まるなど、中国との補完性 が期待できる分野においては、中国側の提案は一考に値しよう。 図表 19 新シルクロード構想下における日中の潜在的協力分野 ① インフラ建設協力 日中両国は、物流・交通インフラ建設において協力し、関連インフラの建設を共同で行い、新 シルクロードにおける大型物流ルートを開拓していくことを検討することができる ② 技術協力 中国と日本企業はそれぞれの長所を活かし、日本の先進的なマネジメント方法や生産技術を十 分活かして「一帯一路」建設の中で技術協力を行い、新シルクロード沿線市場の共同開拓を共 同で行うことができる ③ 金融協力 金融分野で協力することで両国が共同で地域内の金融危機に対応でき、外部要因による危機・ ショックの被害を最小限に留めることができる ④ 環境保全協力 新シルクロード沿線諸国の多くは発展途上国であるため、経済成長の過程で環境への負荷が避 けられない。日本の経験を参考にし、沿線諸国の発展について環境保全を強化していくことが 重要 (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成 7 例えば、中国は鉄鋼では、世界の粗鋼生産量の約 50%のシェアを持つほどの生産能力があり、汎用品の価格競争力も 強い。
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b.商務部研究院からの提案
さらに、商務部研究院は日本に対して、①新シルクロード経済協力協定の早期検討、②幅広い分野 における実務的協力の積極的な模索、③両国間の新シルクロード産業発展連盟づくりの 3 つの提案を 行っている(図表 20)。
現在、アジアの広域 FTA 構想としては RCEP があるが、商務部研究院の提案は、RCEP よりも広範囲 な「新シルクロード FTA」と称すべきものを日中あるいは FTA 交渉を進める日中韓で進めようとする 内容とも受け取れ、新シルクロード開発を機にプロジェクト協力、企業協力など深化させていく提案 となっている。 この提案は、潜在的に新シルクロード開発での協調の余地が大きいとの認識の下、日本に対して連 携を呼びかけているものと受け止められる。 図表 20 新シルクロード構想下における日本への提言 ① 新シルクロード経済協力協定の早期検討 日中あるいは日中韓の 3 カ国の間で経済協力協定を検討すると同時に、新シルクロード沿線諸 国を含む FTA や経済協力協定の締結も合わせて推進していく ② 幅広い分野における実務的協力の積極的な模索 両国間の知識・経験の交流を強化し、両国の長所を擦り合わせる。特に新シルクロード沿線諸 国の経済発展に有益な重大プロジェクトに関して協力を強化する ③ 両国間の新シルクロード産業発展連盟づくり 両国は、双方の企業が産業振興、インフラの発展、サービス業の発展などについて協力してい くことを支援し、特に、中小企業協力を推進し、中小企業協力開発連盟を設立することを提案 する (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成
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3.最後に~中国の新シルクロード構想の注目点~
本稿でみてきた通り、中国の新シルクロード構想は戦略的かつトップ主導で着実に進捗しているが、 課題もまた多い。最後に今般の委託調査を通じて浮き彫りになった構想の注目点について言及したい。 (1) 新シルクロード構想で TPP に対抗 第一に、新シルクロード構想をユーラシア諸国(中国、ASEAN、南アジア、中東、ロシア CIS、欧州 など)の経済連携強化と捉えると、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)に対抗するために打ち出 された可能性が高いと考えられる点である。 新シルクロード構想は、なぜ主にユーラシアに矛先を向けているのか、商務部研究院は明確な言及 は避けているが、米国主導の TPP との違いを明確にすべく、環太平洋よりもユーラシアを重視・優先 した結果と捉えるのが自然であろう(図表 21)。 TPP は、貿易のみならずサービス分野を主体とする完成度の高い経済連携を志向しているため、中 国は現時点で TPP への参加はハードルが高いと考えているようである(商務部研究院)。また、中国は 人民元の国際化を目指していることも(前掲図表 5)、TPP とは一定の距離を置いている一因と考えら れる。 そこで、TPP 非参画国が多いユーラシア地域に目を向け、広域インフラ整備による域内の連結性強 化や貿易促進など経済分野を主体とする連携強化を呼び掛けたのが新シルクロード構想であり、それ を金融面でバックアップするのが AIIB とみることができよう。ユーラシアに矛先を向けた中国にとっ て、米国と並んで輸出額の約 4 分の 1 を占める欧州は何としても取り込みたい市場であり、成長市場 である中国・アジアに目を向ける欧州にとってもメリットがあるという双方の思惑の一致が欧州勢の AIIB 参加にもつながったと考えられる。 図表 21 新シルクロード構想と TPP (資料)外務省地図を基にみずほ総合研究所作成 環太平洋パートナーシップ協定 新シルクロード構想20 (2) 新シルクロードのカギを握る 2 つの経済回廊 第二に、新シルクロード構想においては、BCIM 経済回廊と中国・パキスタン経済回廊という 2 つの 経済回廊建設が重要な意味を持つことになりそうだという点である。 現在は、「陸上シルクロード」の建設が先行している。中国は、中国西部と欧州を結ぶ第 2 ユーラシ ア・ランドブリッジの建設に注力して中国・欧州貨物鉄道便を既に運用しており、中国南部と欧州を 南回りで結ぶ第 3 ユーラシア・ランドブリッジの建設も計画している。周辺国と陸続きの大陸国家と して、地の利を活かした開発を進めようとしているようである。 一方、「海上シルクロード」は、ASEAN、パキスタン、スリランカ、モルディブ、インド、湾岸協力 会議(中東)、南部アフリカ経済同盟(アフリカ)など中国と FTA を締結・交渉している先との連携強 化や、パキスタンなどの親密国の港湾開発を推進する段階に見受けられる。 そこで、重要になるのが BCIM 経済回廊と中国・パキスタン経済回廊の開発である。中国中西部内陸 部は外洋に接していないが、これらの経済回廊を構築することができれば、陸上と海上の 2 本のシル クロードが連結され(図表 22)、インド洋へのアクセスが確保されることになる。そのため、中国は、 2 本のシルクロードをつなぐ 2 本の経済回廊建設に対して、今後より注力していく可能性が高いと考 えられる。 図表 22 「陸上シルクロード」・「海上シルクロード」・経済回廊 (資料)みずほ総合研究所作成 陸上シルクロード 海上シルクロード 経済回廊
21 (%) 順位 AIIB 出資比率 ADB 出資比率 1 中国 29.8 日本 15.7 2 インド 8.4 米国 15.6 3 ロシア 6.5 中国 6.5 4 ドイツ 4.5 インド 6.4 5 韓国 3.7 オーストラリア 5.8 6 オーストラリア 3.7 カナダ 5.3 7 フランス 3.4 インネシア 5.2 8 インドネシア 3.4 韓国 5.1 9 ブラジル 3.2 ドイツ 4.3 10 英国 3.1 マレーシア 2.7 (3) 新シルクロードのカギを握る 2 つの地域大国 第三に、中国主導ながら「陸上シルクロード」開発ではロシア、「海上シルクロード」開発ではイン ドの協力が不可欠になると考えられる点である。 「陸上シルクロード」の根幹をなすのはユーラシア横断貨物鉄道となる。しかしながらユーラシア で広大な貨物鉄道を先行して構築したのはロシア(旧ソ連)であり、軌道幅は「広軌」となっている。 「標準軌」の中国とロシア準拠の中央アジア、モンゴル、東欧などの間で軌道が共通化されておらず、 複数回の台車交換が必要なことが、物流上の大きな障壁となっている。 また、ロシアは、そもそも国内に第 1 ユーラシア・ランドブリッジであるシベリア鉄道を擁してい るため、第 2・第 3 ユーラシア・ランドブリッジを重視する中国は、新たな競合者という側面もある。 現在中央アジア諸国やモンゴル国内には、従来通りロシア準拠の「広軌」を利用すべきという声と、 中国準拠の「標準軌」を新設すべきという声の両方の意見がある。ウクライナ問題などで米欧と対峙 するロシアは、現在は中国と協調する姿勢を強めているが、「陸上シルクロード」構想を巡っては中露 との駆け引きもみられ、中国とロシアがどこまで協力するかが構想の成否のカギを握っているといえ る。 また、「海上シルクロード」で中国は、シーレーンの要衝であるインド洋へのアクセスを強化するこ とを重視しており、ここでは地域大国であるインドとの協調が求められよう。2015 年 1 月の政権交代 が起きたスリランカ(詳細次頁)に対しては、インドが急接近するなど中印の駆け引きが垣間みられ る。中国とインドが、国境の領土問題を抱えたままであることも気掛かりである8。 もっとも、ロシアとインドは共に AIIB の原加盟資格保有国となり、インドは 2 位、ロシア9は 3 位 の出資国となることが確定した(図表 23)。金融面で中印露の協調の枠組みが整いつつある点は、 win-win 関係構築に向けた大きな一歩と捉えることはできそうだ。 図表 23 AIIB と ADB の出資比率上位 10 カ国 (資料)中国財務相およびADB 8 中国・インド間には、中国が実効支配するカシミール地域の帰属問題などが残っている。なお、中国・ロシア間は、 国境のウスリー川の川中島の帰属を巡って対立していたが、2004 年にロシアと中国で川中島を半々に割譲することで 解決した。 9 ロシアは、出資比率が優遇されるアジア諸国としての扱いが認められた。
22 海上シルクロード 経済回廊 (4) 最大のリスクは新シルクロード沿線国・地域の治安 第四に、新シルクロード構想の最大の障壁となるのは、沿線地域の治安問題と中国が捉えている点 である。 実際、シルクロード沿線の治安状況は、始点の中国東部沿海部と終点の欧州は良好であるが、その 中間地域を繋ぐ陸上と海上の新シルクロード沿線地域は、総じて治安面での懸念が高い地域である(図 表 24)。中国が「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」を連結させるための 2 本の経済回廊も また、危険地帯を内包している。インフラ開発が大型化、広域化するほど、民族・宗教・分離独立紛 争によるテロなどで、事業が頓挫する懸念は拭えない。 さらに、商務部研究院は、政権交代による政策変更もリスクとして挙げている。政権交代リスクが 顕在化した例としては、スリランカが挙げられよう。前述の通り、2014 年 9 月に習近平国家主席はス リランカを訪問した。「海上シルクロード」の要衝に位置するスリランカのラージャパクサ大統領(当 時)は、中国重視の姿勢で知られており、中国とスリランカの両国は、戦略的パートナーシップ協定 を深化させるアクションプランに署名(前掲図表 3)し、経済連携強化をより深めることで合意して いた。ところが 2015 年 1 月の大統領選で、ラージャパクサ氏は、突如反旗を翻した元側近のシリセナ 氏10に敗れ失脚した。シリセナ新大統領は中国重視を改め、先進国やインドとの関係も重視したバラ ンス外交を行うとみられており、スリランカの対中外交姿勢は変化する可能性が出ている。 スリランカでの事例を踏まえると、相対的に政変リスクの高い地域でプロジェクトを円滑に進める のことができるか否かが、新シルクロード構想開発を進めるうえでの重要課題の一つといえるだろう。 図表 24 新シルクロード沿線国・地域の治安状況 (注)危険度が高い:赤(濃)⇔危険度が低い:白(淡)。 (資料)外務省「海外安全ホームページ」 10 前保健相。
23 (5) 日本は中国の提案を受けるのか 最後に、中国は、新シルクロード開発への日本の参画に対して、オープンかつポジティブな姿勢を みせている点である。 商務部研究院は、日中の新シルクロード経済協力協定の早期検討を提言している(前掲図表 20)。 中国としては、日中の 2 国間協力の延長線上として、新シルクロード全域における貿易・投資促進に おいても日本の合意を得たいという思惑があるようにもみえる。中国は、日本が経営の透明性に懸念 が残ることなどから発足時には見送った AIIB(前掲図表 23)に対する出資11についても、引き続き受 け入れたいという意向を示している。 2015 年 6 月に北京で開催された日中財務相対話では、「両大臣は、両国がアジアにおける2大大国 として、東アジアにおける金融協力をさらに推進することを表明する。両大臣は、共通の利益に基づ いて、開発金融機関との協調も含め、アジアのインフラ建設を推進する」という点では一致をみたよ うである。前述の通り、年間約 8,000 億ドル(約 100 兆円)規模と見込まれる膨大なアジアのインフ ラ需要を取り込むに際し、特定分野では受注を巡って日中が競合する場面は避けられないと考えられ るが、市場自体は巨大であることから、中国の呼びかけに応えて協調する余地はありそうだ。 一方、中国国内に目を転じると、新シルクロード構想は成長モデルの転換を迫られる中国にとって の新成長戦略という意味を持つ。東部沿海部の人件費高騰を受けて、中国における内外資企業は、相 対的に人件費の割安な中西部内陸部への移転を進めている。中西部内陸部はこれまで地理的な制約か ら対外貿易には不利だったが、「陸上シルクロード」開発を通じて、欧州向けの貿易は一層の拡大が 期待できる。さらに、中西部内陸部と東部沿海部間の物流網整備も進むことが期待され、長期的には BCIM 経済回廊と中国・パキスタン経済回廊を通じたインド洋へのアクセス開通も期待し得る。また、 「海上シルクロード」開発を通じて、中国と ASEAN・南アジア・中東・アフリカ諸国の FTA のアップ グレードやインフラ整備が進んで、東部沿海部企業の海外展開もまた急増していくと見込まれよう。 それと共に人民元の国際化が漸進的ながら進んでいくと見込まれる。これらの好循環が続けば、中長 期的に、シルクロード構想が中国経済を下支えする効果は期待できよう。 本稿でみてきた通り、新シルクロード構想は、声掛けレベルにとどまるものではないと考えられる。 2030 年12頃までを見据えた中国の長期戦略と捉えるべきだろう。新シルクロード沿線諸国も、構想を ポジティブに捉えており、AIIB に 57 カ国が賛同したことはその証左であろう。日本企業は、新シル クロード開発を通じて、中長期的に中国の影響力・経済力が周辺国まで拡大していく可能性が高いこ とを念頭に置いたうえで、一段高い視座に立って中国ビジネスに取り組む必要があろう。 11 日本は、ADB の筆頭出資国となっている点を重視したことも AIIB 出資を見送った一因である。 12 全体計画の時期は明確にされていないが、例えば、中国・パキスタン経済回廊の完成は 2030 年となっている。
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資料編(商務部国際貿易経済合作研究院)
「中国政府が新シルクロード構想を打ち出した目的」
1.新シルクロード構想の概況
(1)新シルクロード構想の提出 中央アジアを中心とした「陸上シルクロード」計画や東アジアへ通じる「海上シルクロード」計画 といった新シルクロード計画は、中国の経済発展および外交事業にとって非常に重要な戦略的構想で ある。「陸上シルクロード」は、古代シルクロードを基にして作られた新たな経済発展エリアである。 「陸上シルクロード」は、東はアジア太平洋経済圏をけん引し、西は欧州経済圏とつながっており、 世界で最も長く、最も発展の可能性を持った経済大回廊と目される。 2013 年、習近平国家主席は、中央アジアを訪問した際に「陸上シルクロード」の共同建設という戦 略的構想を正式に提唱した。「陸上シルクロード」構想には、政策面でのコミュニケーション、道路の 相互通行、スムーズな貿易、貨幣の流通、互いに通い合った国民の心という点の強化から着手し、東 は西太平洋沿岸から西はバルト海まで、ユーラシア大陸を跨ぐ新たな経済共同体を形成することを提 唱している。中国政府が大陸を超えた経済協力一体化に向けて具体的な構想を提示したのはこれが初 めてであった。 その後、習近平国家主席は、インドネシアで行った国会演説において「中国‐ASEAN 共同体」およ び「海上シルクロード」建設という戦略的構想を発表した。 a.「中国の夢」外交戦略構想を効果的に進化させるのに必要 「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」という戦略的構想は、習近平国家主席が提唱する「中 国の夢」戦略の規模をよりマクロ的、合理的に延長・拡大させたものである。「中国の夢」は経済分野 においては明確な基準があるものの、外交面では今なお明確にされていない部分が存在する。 米中関係に関して「新型の大国関係」という理念を打ち立てることは、「中国の夢」戦略における外 交構想の第一歩とみなすことができ、「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」は、「中国の夢」 戦略における外交構想を、さらに進化させたものとみなすことができる。 b.中国とシルクロード沿線諸国の共同繁栄・発展に必要 国家の利益は国際関係を決定づける要素であり、国家間の共同利益は国際協力の基礎である。新シ ルクロードを沿線諸国と共同で建設することは、中国とシルクロード沿線諸国の共通利益となってい る。「陸上シルクロード」はユーラシア大陸の 7,000 キロメートル以上に跨っており、その中に多数の 国家が含まれ、沿線諸国の総人口は 30 億人近くにのぼる。「陸上シルクロード」沿線諸国のほとんど は欧州経済圏とアジア太平洋経済圏という 2 つの経済発展地域に挟まれた陥落地帯で、その地域全体 で両端の経済力が高く、中間の経済力が低いという現象が存在する。経済の発展と美しい生活の追求 は、国と民衆にとってごく当たり前の願いである。「陸上シルクロード」建設は、沿線諸国間の経済連 携を強化し、各国の総合的な国力アップに役立つ。25 「海上シルクロード」は、秦王朝・漢王朝が登場して以来、東洋と西洋をつなぐ重要な交通回廊と して商業貿易を繁栄・発展させる貴重なルートとされてきた。現在、中国と ASEAN は世界最大の発展 途上国 FTA を形成しており、「海上シルクロード」の共同建設、グレードアップした FTA の大々的な推 進、「政策面でのコミュニケーション、道路の相互通行、スムーズな貿易、貨幣の流通、互いに通い合 った国民の心の促進」などは、すでに沿線諸国の国民の共通の願いとなっている。 c.中国政府が世界経済の繁栄を促進させ、エリア経済の一体化を推進させるのに必要 新シルクロード構想は、中国政府が世界経済の「開放、自由、協力」を継続していくことを主旨と して世界経済の繁栄を促進させるという新たな理念を表したものであり、また中国とシルクロード沿 線諸国との協力においてその他のエリアに恩恵を与え、関連地域の経済一体化をリードするという新 たな考え方を非常に強く示したものでもある。 さらに、中国が世界経済の繁栄を導く戦略の立場に立って、中国と沿線諸国との協力における地域 を跨いだ効果を強く推進させるための新たな手段でもある。 現在、世界経済の情勢は、依然低迷状態で、様々な形で貿易保護主義の動きが台頭と衰退を繰り返 しており、貿易保護主義の流れを避け、地域経済の一体化を進めることが世界経済のバランスよい成 長を促進させる重要な方向性となっている。 中国政府は新シルクロード構想において、貿易保護主義を求めないという基本的な立場をとってい る。それだけでなく、中国は市場経済主導の下で世界経済が繁栄し、各国政府が自由貿易の原則に則 って世界市場の開放や生産要素の合理的移動を今後も推し進めていくことを高く評価しているのであ る。 d.中国が経済発展の余地を拡大させ、双方向の発展のバランスを促進させるのに必要 新シルクロード建設は、中国政府が世界発展の大きな動きを深く洞察した上で、中国の国情に立脚 して打ち出した重要な戦略的政策である。現在、中国の発展には地域のバランスにも気を配りつつ、 経済的利益を生み出す新たな要素の開拓にも力を入れることが必要となっている。「陸上シルクロード」 を建設すれば、経済力の比較的低い西部地域を新たな発展地域とすることができるようになる見込み があり、中国が中西部の改革・開放を推進するペースを大幅に引き上げ、エリア経済の調和・発展を 促進させることができるだろう。 「陸上シルクロード」建設の提案は、中国が伝統的な対外経済貿易方針を、東部海路偏重型から東 部海路と中西部陸路の両方がバランスよく発展し、ユーラシア大陸内地向けの開放戦略を実施してい くという流れへ変更する方針を意味し、21 世紀のユーラシア大陸ひいては世界経済の構造に重大かつ 深遠な影響をもたらすものと思われる。 また、「海上シルクロード」づくりは、中国と「海上シルクロード」沿線国が海上運輸・海洋エネル ギー・経済貿易・科学技術イノベーション・生態環境・人文交流などの分野でオールラウンドな協力 を実施するのに有益であると同時に、中国の経済発展戦略の可能性を大きく広げ、中国経済が継続的 に安定して発展する上で強力な支えとなるだろう。