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ハ ン セ ン 病 者の 当 事 者 性 とそ の 不 在 化 の様 相 に 関 す る研 究

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(1)

2018

年 度 立 教 大 学 博 士 学 位 論 文

ハ ン セ ン 病 者の 当 事 者 性 とそ の 不 在 化 の様 相 に 関 す る研 究

― 隔 離 政 策 の変 遷 を 時 間 軸と し て ―

新 田 さ や か

(2)

ハ ン セ ン 病 者の 当 事 者 性 とそ の 不 在 化 の様 相 に 関 す る研 究

― 隔 離 政 策 の変 遷 を 時 間 軸と し て ―

新 田 さ や か

( 主 査 : 三 本 松 政 之 教 授 )

( 副 査 : 飯 村 史 恵 准 教 授 )

( 副 査 : 西 田 恵 子

教 授 )

(3)

目 次

序 章 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 と そ の 不 在 化

1

1

節 問 題 の 所 在 ― 隔 離 政 策 と ハ ン セ ン 病 者 ―

1

2

節 研 究 の 位 置 づ け ― ハ ン セ ン 病 者 と 「 福 祉 」 ―

2

3

節 研 究 の 課 題

5

4

節 研 究 の 方 法 、 本 研 究 に お け る 調 査 の 概 要 と 倫 理 的 配 慮 、 用 語 の 表 記

15

5

節 論 文 の 構 成 と 各 章 の 概 要

18

1

章 ハ ン セ ン 病 を め ぐ る 社 会 の 認 識 と 研 究 動 向 ― ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 様 相

24

1

節 戦 後 隔 離 政 策 継 続 期 に お け る 療 養 所 入 所 者 の 声 の 現 れ と 聴 き 手

24

2

節 研 究 動 向 に み る ハ ン セ ン 病 者 の 「 当 事 者 性 の 不 在 化 」 ― ハ ン セ ン 病 を め ぐ る 論 文 件 数 の 推 移 と 論 説 の 動 向 か ら ―

30

3

節 先 行 研 究 に み る ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 様 相 ― 研 究 対 象 お よ び 研 究 方 法 に 関 す る 動 向 か ら ―

32

4

節 ハ ン セ ン 病 を め ぐ る 研 究 の 多 面 的 な 広 が り と 社 会 福 祉 領 域 の 研 究 の 評 価

37

2

章 戦 前 期 の 文 芸 誌 『 高 原 』 に み る 「 病 者 と し て の 当 事 者 性 の 受 容 」

41

1

節 病 者 と し て の 当 事 者 性 ― 明 治 期 か ら 昭 和 初 期 に か け て ―

41

2

節 「 病 者 と し て の 当 事 者 性 の 受 容 」 ― 戦 前 期 に お け る 文 芸 誌 の 機 能 ―

44

3

節 『 高 原 』 の 特 質 ― 聖 バ ル ナ バ ミ ッ シ ョ ン と い う 基 盤 ―

47

4

節 『 高 原 』 に 掲 載 さ れ た 病 者 の 声 と 『 高 原 』 の 廃 刊

55

3

章 隔 離 政 策 と 「 当 事 者 性 の 客 体 化 」 ― 国 と 病 者 の 関 係 に 着 目 し て ―

59

1

節 「 癩 予 防 ニ 関 ス ル 件 」、「 癩 予 防 法 」 に お け る 国 と 病 者 の 関 係 ― 「 主 体 ― 客 体 」 ―

59

2

節 「 牧 人 権 力 」 論 か ら み た 「 主 体 ― 客 体 」 の 実 態 と し て の 「 保 護 ― 被 保 護 」 関 係

64

3

節 戦 後 の 隔 離 政 策 の 趣 旨 ― 「 完 全 収 容 」 に よ る 「 保 護 ― 被 保 護 」 関 係 の 持 続 ―

67

4

章 戦 後 国 立 療 養 所 に お け る 「 受 動 性 の 下 で の 能 動 化 」

88

1

節 戦 後 の 国 立 療 養 所 の 特 徴 ― 人 権 闘 争 、 患 者 運 動 の 場 ―

88

2

節 国 立 療 養 所 入 所 者 の 患 者 運 動 に 関 わ る 先 行 研 究

90

3

節 国 立 療 養 所 入 所 者 に よ る 運 動 の 生 成 ― 「 受 動 性 の 下 で の 能 動 化 」 の 実 態 ―

92

4

節 「 ら い 予 防 法 」 下 で 固 定 化 し た 「 当 事 者 性 の 客 体 化 」

101

(4)

5

章 全 患 協 ・ 全 療 協 運 動 に た ず さ わ る こ と ― 「 能 動 的 主 体 」 へ の 契 機 ① ―

109

1

節 入 所 ~ 高 校 進 学 (

1952~1959) 109

2

節 自 治 会 活 動 に 従 事 (

1963~ )、 全 患 協 運 動 の 様 子 111

3

節 今 、 自 ら の 人 生 を 振 り 返 っ て ― 運 動 の 評 価 、 運 動 に よ る 自 身 の 内 面 の 変 化 ―

113

4

節 ラ イ フ ス ト ー リ ー の 考 察 ― 当 事 者 性 の 様 相 を と ら え る ―

119

6

章 入 所 者 自 治 会 活 動 に た ず さ わ る こ と ― 「 能 動 的 主 体 」 へ の 契 機 ② ―

122

1

節 草 津 時 代 (

1945~1958) ― 自 治 会 活 動 へ の 関 わ り ― 122

2

節 多 磨 全 生 園 へ (

1964~ ) ― 「 勉 強 を さ せ て も ら っ た 」 ― 125

3

節 運 動 に た ず さ わ り 続 け て き た 人 生 に 対 し て

129

4

節 ラ イ フ ス ト ー リ ー の 考 察 ― 当 事 者 性 の 様 相 を と ら え る ―

133

7

章 隔 離 政 策 下 を 生 き る / た 女 性 の 当 事 者 性

134

1

節 ハ ン セ ン 病 問 題 に お け る 女 性 の 当 事 者 性 ― 見 落 と さ れ て き た 「 女 性 の 視 点 」 ―

134

2

節 女 性 の 当 事 者 性 の 回 復 に つ な が る 「 語 る 」 こ と 、「 聞 く 」 こ と の 意 義

135

3

節 女 性 の 声 の 現 れ ― 既 存 文 献 か ら ―

138

4

節 女 性 の 「 能 動 的 主 体 」 へ の 契 機 の 可 能 性

140

補 論 韓 国 の ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 ― 韓 国 の ハ ン セ ン 病 政 策 の 特 質 と 病 者 組 織 の 位 置 づ け か ら ―

143

1

節 韓 国 の ハ ン セ ン 病 問 題 と ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性

143

2

節 韓 国 の ハ ン セ ン 病 政 策 の 展 開

146

3

節 定 着 村 事 業 の 特 徴 と 限 界 ― 韓 国 の ハ ン セ ン 病 政 策 の 特 質 と の 関 連 ―

147

4

節 定 着 村 事 業 に お け る ハ ン セ ン 病 者 団 体 の 果 た し て き た 役 割

152

5

節 定 着 村 に み る ハ ン セ ン 病 者 の 生 活 、 当 事 者 性 の 回 復 を め ぐ る 課 題

153

終 章 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 を 回 復 す る こ と の 困 難 さ の 今 日 的 所 在

156

1

節 現 在 の ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 社 会 的 位 置 づ け と 「 解 放 」

156

2

節 国 立 療 養 所 の 将 来 構 想 に 関 す る 調 査 に み る 将 来 構 想 計 画 の 状 況 と 課 題

160

3

節 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 継 承 ― 語 り 手 の 不 在 と い う 将 来 を 見 据 え る ―

165

引 用 文 献 ・ 参 考 文 献 等 リ ス ト

171

初 出 論 文 一 覧

183

巻 末 資 料

184

(5)

1

序 章 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 と そ の 不 在 化 第

1

節 問 題 の 所 在 ― 隔 離 政 策 と ハ ン セ ン 病 者 ―

本 研 究 は 、近 現 代 日 本 の「 隔 離 政 策 」

1

の 変 遷 に お け る ハ ン セ ン 病 者 の「 生 」を 当 事 者 性 の 視 点 か ら 捉 え る こ と を 試 み た 。 国 は 隔 離 政 策 を 推 し 進 め 、 ハ ン セ ン 病 者 は 法 で 定 め ら れ た 療 養 所 に 「 隔 離 収 容 」 さ れ た 。 そ れ は 、 家 か ら 療 養 所 へ 住 む 場 所 を 移 す 、 と い う こ と で は 決 し て な か っ た 。 家 族 、 地 域 社 会 で 担 っ て い た さ ま ざ ま な 役 割 を 失 い 、 家 、 地 域 社 会 に 不 在 と な っ た の で あ る 。 療 養 所 に 「 隔 離 収 容 」 さ れ た 本 人 の も と に 家 族 が 面 会 に 来 た り 、 本 人 と 家 族 と の 間 で 手 紙 の や り 取 り が 続 け ら れ た り 、 断 絶 、 と は 言 い 切 れ な い 関 係 の あ り 様 も 残 さ れ て は い た 。し か し な が ら 、 「 不 在 」の 状 態 が 常 態 化 し 、ハ ン セ ン 病 者 は「 不 在 化 」 さ れ 、 家 や 地 域 社 会 は ハ ン セ ン 病 者 が 「 不 在 化 」 し た 場 と な っ た 。「 ハ ン セ ン 病 者 の 不 在 」 と は 、 病 を 抱 え な が ら 生 き る 生 の 主 体 と し て の 当 事 者 、 す な わ ち 、 生 き よ う と す る 主 体 性 を も っ た 当 事 者 の 、 当 事 者 性 が 不 在 化 さ れ る こ と で あ っ た 。 本 研 究 で は ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 を 、 ハ ン セ ン 病 と い う 病 を 抱 え な が ら 生 き る 生 の 主 体 と し て の 当 事 者 と し て 有 す る 性 質 と 定 義 す る 。

社 会 か ら 切 り 離 さ れ た 療 養 所 の な か で 入 所 者 は 、 自 ら の 人 生 に 対 し 、 生 活 の 場 、 就 職 や 結 婚 、 出 産 、 子 育 て な ど を 自 ら 選 択 し て い く こ と が 困 難 な 状 況 下 で 生 き る こ と を 強 い ら れ た 。

1915( 大 正 4) 年 に 全 生 病 院 に お い て 院 長 光 田 健 輔 が 療 養 所 内 で の 出 生 を 防 ぐ た め に

断 種 手 術 を 実 施 し た 。 こ れ は 法 的 根 拠 の な い ま ま に 実 施 さ れ 、 戦 後 、 優 生 保 護 法 が 制 定 公 布 さ れ る と 「 癩 患 者 」 が 優 生 手 術 の 対 象 と し て 明 記 さ れ た 。 戦 中 及 び 戦 後 間 も な い 時 代 の 療 養 所 で は 劣 悪 な 環 境 の も と 、 入 所 者 が 付 き 添 い 看 護 や 様 々 な 患 者 作 業 を 担 っ て 自 ら の 療 養 生 活 を 維 持 し な け れ ば な ら な い 状 況 が あ っ た 。 ほ か に も 、 園 名

2

の 使 用 、 外 出 の 制 限 、 懲 戒 検 束 規 定 、 郵 便 物 や 執 筆 し た も の の 消 毒 な ど 療 養 所 か ら の 管 理 を 受 け 、 様 々 な 面 で 生 活 上 の 制 約 を 受 け る 状 況 が 強 い ら れ た 。 そ の よ う な 人 権 侵 害 の 根 本 に 隔 離 政 策 が あ っ た 。

隔 離 政 策 が 継 続 さ れ る な か で 療 養 所 入 所 者 は 、 文 芸 活 動 や 自 治 会 活 動 を 通 し て 病 を 抱 え 、 隔 離 政 策 下 で の 制 約 を 受 け た 、 受 動 的 主 体 と し て で は あ る が 、 能 動 化 す る 当 事 者 性 を 具 現 化 し て き た 。 療 養 所 の 外 、 す な わ ち 社 会 の 側 に ハ ン セ ン 病 者 の 声 や 活 動 を 受 け と め て き た 人 も い た 。 し か し な が ら 、 声 の 受 け 手 の 存 在 は 、 隔 離 政 策 か ら の 解 放 、 ハ ン セ ン 病 に 対 す る 偏 見 ・ 差 別 の 解 消 に つ な が る 大 き な 動 き に は な ら な か っ た

3

こ の よ う に 、 隔 離 政 策 の 変 遷 に お い て 、 ハ ン セ ン 病 者 は 生 の 当 事 者 と し て の 主 体 性 を 有 し て 社 会 に 存 在 し な が ら も 、 隔 離 政 策 や 優 生 思 想 が も た ら し た 制 約 に よ っ て 受 動 性 を 有

1

日 本 の ハ ン セ ン 病 史 に 関 し て は 多 数 の 先 行 研 究 に よ る 積 み 重 ね が あ る 。 廣 川 (

2011) の 研 究 で は 「 現

在 の ハ ン セ ン 病 史 研 究 に お い て 自 明 の 前 提 と さ れ て い る ハ ン セ ン 病 者 の 『 絶 対 隔 離 』 政 策 」 に 対 し 、

「 こ れ ま で の 『 絶 対 隔 離 』 政 策 史 と し て の ハ ン セ ン 病 史 に お い て 強 調 さ れ て き た 『 断 種 』・『 虐 殺 』 な ど の 『 差 別 』 や 『 被 害 』 の 諸 相 と は 異 な り 、 近 代 日 本 の ハ ン セ ン 病 者 が と り え た は ず の オ ル タ ナ テ ィ ヴ な 『 生 存 』 の 様 相 」( 廣 川

2011:295) が 明 ら か に さ れ た 。 本 研 究 は 、 近 現 代 日 本 の ハ ン セ ン 病 政 策

の 表 記 と し て 、 廣 川 (

2011

) や 猪 飼 (

1995b

) な ど の 研 究 成 果 を ふ ま え て 「 隔 離 政 策 」 と す る 。

2

家 族 に 迷 惑 が か か ら な い よ う に 、 あ る い は 入 所 時 に 職 員 か ら 勧 め ら れ て 、 園 名 、 つ ま り 偽 名 を 名 乗 る 入 所 者 が 多 く い た 。

3

蘭 は 「 ハ ン セ ン 病 者 た ち が 文 芸 活 動 や 患 者 運 動 を 通 じ て 、 そ れ ま で も 多 く を 語 っ て き た ― 療 養 所 の 自

治 会 機 関 誌 や 個 人 の 自 費 出 版 本 、 全 患 協 の 運 動 史 は 、 そ の 実 体 で あ る ― に も か か わ ら ず 、 ス ト ー リ ー

が 産 出 さ れ な か っ た の は 、 ま さ し く 受 け 手 で あ る わ た し た ち が そ の 眼 中 に 病 者 た ち を 入 れ て こ な か っ

た ( 排 除 ! ) と い う こ と で あ ろ う 」 と 指 摘 し て い る (

2004:313)。

(6)

2

し 、 そ う し た 制 約 が 強 固 に か つ 固 定 さ れ て い っ た 。 さ ら に 根 強 い 社 会 的 偏 見 ・ 差 別 も 加 わ っ て 、 ハ ン セ ン 病 者 は 社 会 と の つ な が り を 奪 わ れ て い た 。 ハ ン セ ン 病 者 を 排 除 し た 社 会 で は 、 病 者 の 声 を 聴 き 取 ろ う と す る 動 き が 育 た ず 、 病 者 が 社 会 か ら 置 き 去 り に さ れ る よ う な 状 態 が あ っ た 。 の ち に 論 ず る よ う に 「 福 祉 」 も こ の 例 外 で は な か っ た 。 こ の 状 態 を 本 研 究 で は ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 不 在 化 と と ら え る 。

ハ ン セ ン 病 者 が 長 く 不 在 化 さ れ た 状 態 に あ っ た 社 会 で は 、 そ の 状 況 下 で ハ ン セ ン 病 者 が 生 き て き た 歩 み 、 社 会 か ら 受 け た 偏 見 ・ 差 別 、 療 養 と は い え な い よ う な 環 境 下 で の 生 活 の 実 態 を「 人 権 侵 害 」と「 受 け と め 」、被 害 か ら の 回 復 が 求 め ら れ る よ う に な っ た 。不 在 と さ れ た 人 た ち が 、 社 会 の 人 び と に そ の 存 在 を 認 識 さ れ た の で あ る 。 し か し な が ら 、 存 在 を 認 識 さ れ た か ら と い っ て 、 そ の こ と が か れ ら を 受 容 す る こ と に は つ な が ら な か っ た 。 宿 泊 拒 否 、葬 儀 へ の 参 列 拒 否 、郷 里 へ 帰 っ て く る こ と に 対 す る 拒 否 感 な ど 、個 別 具 体 的 な 場 で「 受 け 入 れ ら れ な い 」 事 象 と し て 人 権 侵 害 が 生 じ て い る 。 こ の こ と は 、 か れ ら が 隔 離 政 策 と い う 制 約 の 下 で 、 ど の よ う に 生 き て き た の か 、 と い う か れ ら の 生 に つ な が る 当 事 者 性 が 受 け 入 れ ら れ て い な い こ と を 意 味 し て い る 。

ハ ン セ ン 病 回 復 者 は 、 生 活 の 場 や 生 き 方 を 拘 束 す る 隔 離 政 策 か ら 解 放 さ れ た と は い え 、 い ま だ 解 決 さ れ な い 問 題 が 残 る な か で 、 社 会 的 偏 見 ・ 差 別 や 自 己 偏 見 か ら 解 放 さ れ た 状 態 に あ る と は い え な い 。 ハ ン セ ン 病 回 復 者 の 生 の 解 放 を 実 現 す る た め に 、 本 研 究 で は 、 ハ ン セ ン 病 者 と か れ ら の 当 事 者 性 を 不 在 化 さ せ た ま ま 成 り 立 つ 社 会 は な ぜ 、 ど の よ う に し て 形 成 さ れ た の か 、 と い う 問 い を 立 て 、 隔 離 さ れ た 状 況 下 で 存 在 し た ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 と そ の 不 在 化 の 様 相 を 明 ら か に す る 。 そ し て 、 不 在 化 さ れ た 当 事 者 性 の 回 復 の 困 難 さ の 今 日 的 所 在 を と ら え 、 そ の 回 復 は い か に し て 可 能 と な る の か を 考 察 し 、 当 事 者 性 の 回 復 に 向 け た 視 座 を 提 示 す る こ と が 本 研 究 の 目 的 で あ る 。 こ の よ う な 問 題 の 所 在 に お い て 、 本 研 究 が そ の 対 象 と し て 照 射 す る の が ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 と そ の 不 在 化 の 様 相 で あ る 。

2

節 研 究 の 位 置 づ け ― ハ ン セ ン 病 者 と 「 福 祉 」 ―

本 研 究 の 学 問 的 基 盤 は 社 会 福 祉 学 で あ る 。 そ の こ と は ハ ン セ ン 病 者 と 「 福 祉 」 と の 関 わ り の あ り 方 を 考 え る と い う 研 究 上 の 関 心 、 社 会 福 祉 研 究 が ハ ン セ ン 病 者 の 生 の 解 放 に 十 分 に 寄 与 し て こ な か っ た と い う 問 題 に 基 づ く 。 わ た し た ち の 社 会 で は 、 誰 も が 生 の 主 体 と し て の 当 事 者 で あ り な が ら 、 生 き て い く う え で 様 々 な こ と を 自 ら 選 択 し 、 自 分 ら し く 生 き る 権 利 の 保 障 が 政 策 や 社 会 の 偏 見 ・ 差 別 に よ っ て 制 約 さ れ る 人 た ち が 存 在 し て き た 。 こ の こ と は 一 人 ひ と り の 人 権 を 保 障 す る た め に 「 福 祉 」 は ど の よ う な 役 割 を 担 う の か と い う 根 本 的 な 問 い に つ な が っ て い く 。 そ う し た 問 い に 応 え て い く た め の 示 唆 と し て 、 本 研 究 で は 、 ハ ン セ ン 病 隔 離 政 策 と い う 枠 の な か で 生 き て き た ハ ン セ ン 病 者 を 取 り 上 げ 、 か れ ら の 当 事 者 性 が 時 代 状 況 下 で ど の よ う に 存 在 し 、 あ る い は 不 在 化 さ れ て い た の か を 取 り 上 げ る 。

2001

年 の 熊 本 地 裁 判 決 の 内 容 を 受 け 、 厚 生 労 働 省 の 委 託 事 業 と し て

2003( 平 成 15) 年

度 (

2003

6

月 ~

2004

3

31

日 ) に 行 わ れ た 「 ハ ン セ ン 病 問 題 に 関 す る 事 実 検 証 調 査

事 業 」 は 、 そ の 目 的 を 「 ハ ン セ ン 病 患 者 に 対 す る 隔 離 施 策 が 長 期 間 に わ た っ て 続 け ら れ た

原 因 、 そ れ に よ る 人 権 侵 害 の 実 態 に つ い て 、 医 学 的 背 景 、 社 会 的 背 景 、 ハ ン セ ン 病 療 養 所

に お け る 処 置 、 『 ら い 予 防 法 』な ど の 法 令 等 、多 方 面 か ら 科 学 的 、歴 史 的 に 検 証 を 行 い 、再

発 防 止 の た め の 提 言 を 行 う こ と 」 に お い て い た 。 検 証 事 業 の 報 告 で あ る 『 ハ ン セ ン 病 問 題

(7)

3

に 関 す る 検 証 会 議 最 終 報 告 書 』 ( 以 下 、最 終 報 告 書 )の な か で「 ハ ン セ ン 病 強 制 隔 離 政 策 に 果 た し た 各 界 の 役 割 と 責 任 」と し て「 医 学 界 」 「 法 曹 界 」 「 教 育 界 」「 宗 教 界 」と 並 ん で「 福 祉 界 」 が 位 置 づ け ら れ て い る 。 最 終 報 告 書 に お け る 「 福 祉 界 」 の 範 囲 は 、 社 会 福 祉 事 業 、 社 会 福 祉 制 度 、社 会 福 祉 援 助 、社 会 福 祉 専 門 職 、社 会 福 祉 研 究 、 「 社 会 福 祉 援 助 」に 限 定 さ れ な い 福 祉 的 実 践 ( ボ ラ ン タ リ ー な 実 践 ) と し て そ の 対 象 は 広 く 設 定 さ れ て い る 。

戦 後 、民 主 主 義 国 家 と な り 、 「 基 本 的 人 権 の 尊 重 」を 謳 っ た 日 本 国 憲 法 の も と に あ っ て も ハ ン セ ン 病 者 を 隔 離 す る 政 策 に 変 化 は 見 ら れ ず 、

1953( 昭 和 28)年「 ら い 予 防 法 」改 正 案

が 成 立 し 、隔 離 政 策 は 継 続 さ れ た 。1956( 昭 和

31)年 に ロ ー マ で 開 催 さ れ た 国 際 ら い 会 議

に お い て「 い か な る 他 の 特 殊 な 法 規 を も つ く る こ と な く 」 「 す べ て の 差 別 待 遇 的 な 諸 法 律 は 撤 廃 さ れ る べ き 」 と の 決 議 が な さ れ た こ と 、 社 会 福 祉 の 歩 み に お い て は コ ミ ュ ニ テ ィ ・ ケ ア 、ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン 理 念 の 移 入 や

1981

年 の 国 際 障 害 者 年 で 障 害 者 の「 完 全 参 加 と 平 等 」 の 理 念 が 打 ち 出 さ れ る な ど 、 よ り よ く 生 き る こ と が 目 指 さ れ て い く 中 で も 、 ハ ン セ ン 病 者 の 置 か れ た 隔 離 の 状 況 、 社 会 的 偏 見 ・ 差 別 の 根 強 さ は 変 わ ら な か っ た 。

隔 離 政 策 が 継 続 さ れ る な か で 「 福 祉 界 」 に 求 め ら れ た の は 、 ハ ン セ ン 病 と い う 病 を 抱 え て 生 き る 一 人 ひ と り の 、 人 間 と し て の 尊 厳 お よ び 人 間 ら し い 生 活 を 保 障 す る こ と 、 す な わ ち 隔 離 政 策 か ら の 解 放 に あ っ た と い っ て も 過 言 で は な い 。 し か し な が ら 、 そ の よ う な 社 会 を 構 築 す る こ と に 寄 与 で き な か っ た の は 、 「 福 祉 界 」が 療 養 所 の な か か ら 入 所 者 た ち が 訴 え て き た 声 を 十 分 に 聴 く こ と が で き な か っ た こ と 、 か れ ら が 隔 離 政 策 か ら 解 放 さ れ 、 社 会 で 多 様 な つ な が り を も ち な が ら 生 活 す る 生 の 主 体 と し て の 当 事 者 で あ る こ と の 視 点 が 欠 如 し て い た と い う 問 題 点 を 指 摘 で き る 。

「 最 終 報 告 書 」 で は 、 ハ ン セ ン 病 問 題 へ の 「 福 祉 界 」 の 関 わ り に つ い て 次 の よ う な 見 解 が 示 さ れ た 。

福 祉 界 は 問 題 を 完 全 に 医 療 の 手 に ゆ だ ね て 背 景 に 退 き 、 そ こ に 献 身 的 に 働 く 人 々 を 美 化 し 、隔 離 と い う 枠 に 依 存 し 、そ こ に 逃 避 し た と い う 非 難 を 避 け る こ と は で き な い 。 生 涯 に わ た る 完 全 な 隔 離 が 、 そ の 個 人 の 人 間 と し て の 尊 厳 を ど れ ほ ど 傷 つ け 、 人 格 を 無 視 し た も の で あ る か の 認 識 が 、 人 権 の 大 切 さ を 掲 げ る 職 業 集 団 と し て は ま こ と に 不 充 分 で あ っ た

4

こ こ で 示 さ れ た 「 隔 離 と い う 枠 に 依 存 」 し た こ と を 、 最 終 報 告 書 で は 「 予 防 法 の 枠 内 で の 福 祉 」 と し て 次 の よ う に 述 べ て い る 。

療 養 所 は ほ ぼ 完 全 に 自 足 的 な 社 会 を 構 成 し 、 社 会 か ら 患 者 を 隔 離 す る と 共 に 自 ら を も 隔 離 し 、 生 活 保 護 や 国 民 年 金 と い っ た 基 本 的 な 社 会 福 祉 ・ 社 会 保 障 制 度 か ら も 自 ら を 切 り 離 し 、 ら い 予 防 法 の 枠 内 で 、 国 の 全 額 負 担 の 「 福 祉 」 を 提 供 す る と い う 体 制 を 作 り 上 げ た 。 療 養 所 の 設 備 や 処 遇 の 改 善 に つ い て も 同 じ で あ る 。 原 則 は 譲 ら な い 代 わ り に 、 社 会 と の 積 極 的 な つ な が り を 決 し て 「 公 認 」 し な か っ た こ と 、 そ し て そ の な か で 提 供 さ れ た 福 祉 は 、そ の 意 味 で き わ め て 独 特 の も の で あ っ た 。そ れ は 患 者 と 家 族 を 、

4

財 団 法 人 日 弁 連 法 務 研 究 財 団

HP

よ り 引 用 (

http://www.jlf.or.jp/work/pdf/houkoku/saisyu/12.pdf p.376)

(8)

4

依 然 と し て 根 強 い 社 会 の 偏 見 と 差 別 か ら ま も る と い う 一 定 の 効 用 を 果 た す も の で あ り つ つ 、 他 方 そ の ま ま で は 偏 見 も 差 別 も ま す ま す 不 気 味 な 、 不 可 解 な 世 界 へ の そ れ と し て 存 続 し 続 け る の を 放 置 す る 、 と い う 両 刃 の 剣 で も あ っ た

5

国 立 療 養 所 へ の 隔 離 を 継 続 す る こ と で 生 活 の 場 を 社 会 か ら 切 り 離 し 、 そ こ で 営 ま れ る 生 活 の 一 切 が 国 の 全 額 負 担 の 「 福 祉 」 と し て 提 供 さ れ る 体 制 が 、 す な わ ち 「 予 防 法 の 枠 内 で の 福 祉 」 と な る 。 そ う し た 仕 組 み は 、 療 養 所 に い れ ば 生 活 が 保 障 さ れ 、 社 会 の 偏 見 ・ 差 別 か ら も 守 ら れ る と い う 環 境 を つ く り あ げ た 。 「 公 共 の 福 祉 」と「 社 会 予 防 」の 観 点 に お い て 国 と し て 譲 れ な か っ た ハ ン セ ン 病 「 患 者 」 の 「 完 全 収 容 」 策 は 、 ハ ン セ ン 病 と い う 病 を 抱 え な が ら 生 き る 人 が 主 体 的 に 生 き よ う と す る 可 能 性 を 著 し く 低 下 さ せ た 。

先 に 引 用 し た 「 生 涯 に わ た る 完 全 な 隔 離 が 、 そ の 個 人 の 人 間 と し て の 尊 厳 を ど れ ほ ど 傷 つ け 、 人 格 を 無 視 し た も の で あ る か の 認 識 が 、 人 権 の 大 切 さ を 掲 げ る 職 業 集 団 と し て は ま こ と に 不 充 分 で あ っ た 」 と い う 指 摘 は 、「 人 権 と 社 会 正 義 」 の 原 理 を 基 盤 と し て 、「 人 び と の エ ン パ ワ ー メ ン ト と 解 放 」 を 促 す 役 割 を 担 う ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 実 践 か ら も 大 き く 逸 脱 し て い た こ と を 示 唆 し て い る 。木 原 活 信 は「 解 放 の ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 」と い う 論 考

6

に お い て

2000

年 に 開 催 さ れ た 国 際 ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー 連 盟(

IFSW)の 大 会 で 採 択 さ れ た「 ソ ー シ ャ

ル ワ ー ク の 定 義 」 に つ い て 以 下 の よ う に 述 べ る 。

ソ ー シ ャ ル ワ ー ク は 何 を す る こ と な の か と い う 本 質 的 議 論 の 中 で 、 こ れ ま で し ば し ば 生 活 環 境 の 調 整 、 社 会 へ の 適 応 、 あ る い は 個 人 の セ ラ ピ ー 的 な 治 療 が 中 心 的 な 主 題 と し て 扱 わ れ て き た が 、 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク が こ の 定 義 に 明 記 さ れ て い る よ う な 「 人 間 の 解 放 」 と い う こ と に ど れ だ け 注 意 を 払 い 、 そ の こ と に つ い て 十 分 に 吟 味 し て き た の で あ ろ う か 。( 木 原

2007:44

そ し て 、木 原 は 同 論 考 で「

IFSW

の 最 新 の ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 定 義 を 中 心 に 、社 会 福 祉 に お け る 解 放 の 概 念 そ の も の 」( 木 原

2007:45) に つ い て の 検 討 を す す め て い る 。 木 原 の 取

り 上 げ た

IFSW(2000) の ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 定 義7

を 以 下 に 引 用 す る 。

ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 専 門 職 は 、 人 間 の 福 利 ( ウ ェ ル ビ ー ン グ ) の 増 進 を 目 指 し て 、 社 会 の 変 革 を 進 め 人 間 関 係 に お け る 問 題 解 決 を 図 り 、 人 び と の エ ン パ ワ ー メ ン ト と 解 放 を 促 し て い く 。 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク は 、 人 間 の 行 動 と 社 会 の シ ス テ ム に 関 す る 理 論 を 利 用 し て 、人 び と が そ の 環 境 と 相 互 に 影 響 し 合 う 接 点 に 介 入 す る 。人 権 と 社 会 正 義 の 原 理 は 、 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 拠 り 所 と す る 基 盤 で あ る 。

5

同 上 、

p.376

6

横 田 恵 子 編 (

2007)『 解 放 の ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 』 世 界 思 想 社 、pp.41-69

所 収 。

72000

7 月 27 日 モ ン ト リ オ ー ル に お け る 総 会 に お い て 採 択 、 日 本 語 訳 は 日 本 ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー

協 会 、 日 本 社 会 福 祉 士 会 、 日 本 医 療 社 会 事 業 協 会 で 構 成 す る

IFSW

日 本 国 調 整 団 体 が

2001

11

26

日 決 定 し た 定 訳 。

http://www.socialwork -jp.com/IFSWteigi.pdf

よ り 。「 人 々 の エ ン パ ワ ー メ ン ト と

解 放 」 の 促 進 、「 人 権 」、「 社 会 正 義 」 の 原 理 は 、

2014

年 に メ ル ボ ル ン で 開 催 さ れ た 国 際 ソ ー シ ャ ル ワ

ー カ ー 連 盟 (

IFSW) と 国 際 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 学 校 連 盟 (IASSW) の 総 会 に お い て 採 択 さ れ た 「 ソ ー シ ャ

ル ワ ー ク の グ ロ ー バ ル 定 義 」 に も 引 き 継 が れ て い る 。

(9)

5

こ の 定 義 の 解 説 で は 、 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク に つ い て 「 人 び と と そ の 環 境 の 間 の 多 様 で 複 雑 な 相 互 作 用 に 働 き か け る 。 そ の 使 命 は 、 す べ て の 人 び と が 、 彼 ら の も つ 可 能 性 を 十 分 に 発 展 さ せ 、 そ の 生 活 を 豊 か な も の に し 、 か つ 、 機 能 不 全 を 防 ぐ こ と が で き る よ う に す る こ と で あ る 」 と 記 載 さ れ て い る 。 こ の 記 載 に あ る よ う に 、 す べ て の 人 々 が 有 す る そ の 人 の 可 能 性 の 十 分 な 発 展 と 、 そ の 生 活 の 豊 か さ を 目 指 す こ と を 使 命 と す る ソ ー シ ャ ル ワ ー ク 専 門 職 は 、 ハ ン セ ン 病 と い う 病 を 抱 え な が ら 生 き て き た 一 人 ひ と り に 対 し て 、 こ こ に 明 記 さ れ た 点 を 十 分 認 識 し て 実 践 を な し え て い た の で あ ろ う か 。 「 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 定 義 」に 明 記 さ れ た 、 「 人 び と の エ ン パ ワ ー メ ン ト と 解 放 」、 「 人 権 と 社 会 正 義 」は 、ハ ン セ ン 病 と い う 病 を 抱 え な が ら 生 き て き た 一 人 ひ と り の 当 事 者 性 の あ り 様 を 映 し 出 し た も の で あ る の だ ろ う か 。

「 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 定 義 」の 採 択 が

2000

年 で あ る と は い え 、定 義 に 明 記 さ れ た 内 容 を 過 去 の 実 践 と つ な げ 、 こ れ か ら の 実 践 に 生 か し て い く こ と は 重 要 で あ る 。

本 研 究 は 、 社 会 福 祉 学 を 基 盤 と す る 研 究 と し て 、 ハ ン セ ン 病 問 題 に お け る 社 会 福 祉 研 究 の 見 落 と し を 指 摘 し 、ソ ー シ ャ ル ワ ー ク の 価 値 で あ る「 人 び と の エ ン パ ワ ー メ ン ト と 解 放 」、

「 人 権 と 社 会 正 義 」 を 、 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 と そ の 不 在 化 の 様 相 か ら 問 い 直 す 試 み で も あ る 。 そ し て 、 当 事 者 の 痛 み の 共 有 を 可 能 と す る 社 会 形 成 へ の 視 座 を 提 示 す る 点 に 本 研 究 の 意 義 が あ る 。

3

節 研 究 の 課 題

1

節 で 述 べ た よ う に 、 本 研 究 で は ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 を 、 ハ ン セ ン 病 と い う 病 を 抱 え な が ら 生 き る 生 の 主 体 と し て の 当 事 者 の 有 す る 性 質 と 定 義 す る 。 そ し て 、 隔 離 政 策 の 長 期 か つ 強 固 な 実 施 、 社 会 的 偏 見 ・ 差 別 に よ っ て ハ ン セ ン 病 者 は 客 体 化 さ れ 、 排 除 さ れ る と と も に 、 社 会 の 側 に は 病 者 の 声 の 聴 き 手 、 す な わ ち 病 者 の 当 事 者 性 の 受 け 手 が 育 た ず 、 生 の 当 事 者 と し て 主 体 性 を 認 め ら れ な か っ た こ と を「 当 事 者 性 の 不 在 化 」と し て と ら え る 。

「 当 事 者 性 の 不 在 化 」 と は 、 病 を 抱 え な が ら 生 き る 生 の 主 体 で あ る 当 事 者 が 、 隔 離 政 策 下 で の 制 約 の も と で 、 病 者 で あ る こ と を 受 け 入 れ た り 、 政 策 の 対 象 と し て 客 体 化 さ れ た り 、 さ ら に 運 動 の 場 に お け る 能 動 性 さ え も が 抑 圧 さ れ た り す る こ と で 、 主 体 性 の 保 持 を 困 難 に し て い く 過 程 を い う 。

本 研 究 で は 、 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 を 論 じ る う え で 、 近 代 社 会 に お け る 強 い 主 体 の 下 で ハ ン セ ン 病 者 が 客 体 化 さ れ た と い う 視 点 か ら 、 似 田 貝 香 門 に よ る 「〈 受 動 的 主 体 の 主 体 化 〉」論 に 示 唆 を 得 て い る

8

。似 田 貝(

2008:xix

)は「〈 受 動 的 主 体 性 〉」に つ い て 、「 否 応 な し に 他 者 か ら の 働 き か け を 受 け つ つ 、 他 者 と 自 分 自 身 に 働 き か け る と い う 力 能 」 で あ る と し 、「 と き に 〈 受 動 的 = 能 動 的 主 体 性 〉 と 表 現 す る こ と も あ る 」 と 述 べ る 。 そ こ に は 、「 従 来 の よ う な 、 受 動 性 / 能 動 性 の 二 分 法 的 な 考 え 方 で は な く 、 そ の 同 時 性 が こ の 概 念 の テ ー マ で あ る 」 と の 意 図 が あ る 。 日 本 の ハ ン セ ン 病 者 を 対 象 と し た 隔 離 政 策 が 近 代 化 過 程 で 進 め ら れ て き た こ と を 省 み る と 、 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 は 、 発 病 、 隔 離 政 策 や 優 生 思 想 の 制 約 に よ っ て 受 動 性 を 引 き 受 け つ つ 、 同 時 に 能 動 性 を 有 し て い た と 捉 え る こ と が で き る 。 本 研 究 は 、 こ の よ う な 問 題 意 識 の も と に 成 り 立 つ 研 究 で あ り 、 そ の 課 題 は 以 下 の

3

点 で

8

阪 神 ・淡 路 大 震 災 の 被 災 者 の 自 立 支 援 に 関 す る 似 田 貝 香 門

(2008)の 研 究 で 提 示 さ れ た テ ー マ 。 似 田 貝

2008:xix) は 「『 近 代 社 会 』 の 主 体 論 の 前 提 で あ っ た 能 動 的 主 体 象 を 『 強 い 存 在 』 と 考 え 、 こ れ に 対

し 、『 弱 い 存 在 』 の 主 体 象 を 、〈 受 動 的 主 体 〉 と し た 」 と 述 べ る 。

(10)

6

あ る 。

1) 課 題 1: ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 不 在 化 が な ぜ 生 じ た の か

本 研 究 で は 、 ハ ン セ ン 病 者 の 生 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ し た 隔 離 政 策 の 変 遷 を 時 間 軸 と し 、

「 隔 離 政 策 」、「 優 生 思 想 」、「 国 ・ 公 ・ 私 療 養 所 お よ び 療 養 所 内 の 活 動 ・ 運 動 」 を ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 に 影 響 を 与 え る 要 素 と し て 分 析 の 対 象 に 設 定 し た ( 図 序

-1)。 図 序-1

で は 隔 離 政 策 の 変 遷 に お い て 現 れ る ハ ン セ ン 病 者 の 「 病 者 と し て の 当 事 者 性 の 受 容 」、「 当 事 者 性 の 客 体 化 」、「 受 動 性 の 下 で の 能 動 化 」、「 当 事 者 性 の 回 復 の 困 難 」 と い う 当 事 者 性 の

4

つ の 様 相 を 示 す と と も に 、 そ の ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 を 規 定 し 不 在 化 す る 社 会 的 枠 組 み の 形 成 過 程 を 現 し て い る 。本 研 究 で は 図 序

-1

を 研 究 枠 組 み と し 、隔 離 政 策 の 変 遷 と ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 に 影 響 を 与 え る 要 素 と の 関 連 で 変 容 す る ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 を 、 第

1

章 か ら 終 章 の 各 章 に お い て 論 じ て い る 。 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の

4

つ の 様 相 と そ の 不 在 化 に つ い て は 次 項 の 課 題

2

お よ び 図 序

-2

の 説 明 で 述 べ る 。 以 下 、 図 序

-1

に つ い て 概 説 す る 。

本 研 究 は 、 近 代 以 降 を 取 り 上 げ 、 明 治 政 府 に よ る 隔 離 政 策 成 立 以 前 の ハ ン セ ン 病 者 の 状 況 に 触 れ た う え で 、 隔 離 政 策 の 対 象 と さ れ た 病 者 の 当 事 者 性 が 、 な ぜ 社 会 で 不 在 化 さ れ た の か を 論 じ る 。

隔 離 政 策 の 開 始 と と も に 、 長 期 間 に わ た っ て 社 会 か ら 隔 離 さ れ た ハ ン セ ン 病 者 の 声 は 、 戦 前 か ら 戦 後 を 通 じ て 書 く こ と 、 詩 ・ 短 歌 ・ 俳 句 を 詠 む と い っ た 文 筆 ・ 文 芸 活 動 に 現 れ て い た 。 療 養 所 入 所 者 と 小 説 家 、 詩 人 、 俳 人 、 歌 人 と い っ た 文 学 者 と の 交 流 も あ っ た 。 し か し な が ら 、 そ う し た 活 動 や 交 流 の な か で 現 れ て い た か れ ら の 声 は 、 戦 後 と い う 時 代 に 入 っ て も 広 く 社 会 で 受 け と め ら れ た り 、隔 離 状 況 か ら 解 放 さ れ た り す る 状 況 に は 至 ら な か っ た 。 人 の 生 活 の 営 み に 深 く 関 わ る は ず の 福 祉 実 践 者 や 社 会 福 祉 研 究 も 隔 離 政 策 の 問 題 点 を 指 摘 し 、 隔 離 状 況 か ら の 解 放 に 貢 献 す る こ と は な か っ た 。 第

1

章 で は 、 戦 後 の 療 養 所 入 所 者 と 限 ら れ た 聴 き 手 に よ っ て 生 み 出 さ れ た 書 籍 や 療 養 所 で 発 行 さ れ て い た 機 関 誌 を 取 り 上 げ 、 戦 後 の 隔 離 政 策 下 で 現 わ れ て い た ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 を 明 ら か に す る 。 入 所 者 の 声 は

「 ら い 予 防 法 」 廃 止 と い う 大 き な 転 機 を 迎 え る ま で 、 限 ら れ た 社 会 的 な 関 係 に お い て 受 け

と め ら れ て い た こ と 、 す な わ ち 聴 き 手 の 不 在 に よ っ て 不 在 化 さ れ て い た ( 第

1

章 )。

(11)

7

(12)

8

本 論 文 は 、 ハ ン セ ン 病 者 が 不 在 化 さ れ て い た 戦 後 の 状 況 に つ い て 問 題 提 起 す る こ と か ら 始 め( 第

1

章 )、病 者 が 地 域 社 会 で 生 計 を 営 み 社 会 的 な 関 係 を 保 持 し て い た 時 代 に 遡 る こ と で 不 在 化 の 過 程 を 論 じ て い く 。 ハ ン セ ン 病 は 、 近 代 以 前 か ら 忌 避 さ れ る 病 と し て 認 識 さ れ て い た 。 国 策 と し て ハ ン セ ン 病 者 の 「 隔 離 収 容 」 が 開 始 さ れ る 以 前 、 か れ ら は 在 宅 で の 療 養 、 経 済 的 に 余 裕 の あ る 場 合 に は 専 門 病 院 や 私 立 療 養 所 に 入 院 ・ 入 所 、 草 津 温 泉 な ど で 温 泉 治 療 の た め に 滞 在 し て い た ほ か 、 生 活 に 困 窮 し て い た 者 は 「 浮 浪 患 者 」 と し て 地 域 社 会 に 存 在 し て い た 。 家 族 や 親 族 に よ る 扶 養 が 見 込 め な い な ど 療 養 の 途 を 有 し て い な い 者 が 自 治 集 落 を 形 成 す る こ と も あ っ た 。こ の よ う に 隔 離 政 策 が 開 始 さ れ る 以 前 お よ び「 隔 離 収 容 」 の 対 象 が 限 定 的 で あ っ た 時 代 に は 、 ハ ン セ ン 病 者 は 病 に よ る 痛 み 苦 し み や 不 自 由 さ な ど を 抱 え 受 動 的 主 体 と し て 存 在 し て い た 。 こ の こ と を 「 病 者 と し て の 当 事 者 性 の 受 容 」 と し て 示 し た ( 第

2

章 )。

そ の 後 、 ハ ン セ ン 病 者 は 国 の 政 策 、 社 会 の 偏 見 ・ 差 別 、 優 生 思 想 に よ っ て 社 会 に 存 在 し て は な ら な い 病 と し て の 意 味 づ け を 付 与 さ れ た 。 国 立 お よ び 連 合 府 県 立 療 養 所 ( 以 下 、 公 立 療 養 所 )

9

へ の 強 制 的 な 隔 離 収 容 の 実 施 を 通 し て か れ ら の 当 事 者 性 は 、法 制 度 下 で の「 当 事 者 性 の 客 体 化 」 と い う 様 相 に 変 容 し た 。 そ し て ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 が 社 会 的 に 不 在 と な る 状 況 が 作 り 上 げ ら れ た 。 戦 後 、 ハ ン セ ン 病 者 は 「 基 本 的 人 権 の 尊 重 」 を 謳 う 日 本 国 憲 法 の も と に あ り な が ら も 、 在 宅 療 養 者 を 残 ら ず 国 立 療 養 所 へ 「 隔 離 収 容 」 し 、 結 果 と し て「 完 全 収 容 」を め ざ す 国 の 方 針 に よ っ て 、 「 保 護 の 客 体 」と し て 固 定 さ れ 、依 然 と し て 国 立 療 養 所 で の 隔 離 状 況 に お か れ 不 在 化 さ れ た ま ま と な っ た ( 第

3

章 )。

戦 後 の 民 主 化 を 背 景 と し て 、 隔 離 政 策 下 で 客 体 化 さ れ た ハ ン セ ン 病 者 は さ ま ざ ま な 体 験 を 経 て 、 能 動 的 主 体 へ の 契 機 を 得 た 。 一 つ 目 は 、 患 者 運 動 の 生 成 過 程 で 現 わ れ た 。 戦 後 の 国 立 療 養 所 で は 民 主 主 義 の 成 立 を 契 機 と し て 、 人 権 闘 争 、 新 薬 予 算 獲 得 運 動 、 入 所 者 の 全 国 組 織 の 結 成 と い う 患 者 運 動 の 基 盤 が 形 成 さ れ た 。 そ し て 「 ら い 予 防 法 」 改 正 闘 争 に よ っ て 、入 所 者 は 自 分 た ち の 要 求 や 隔 離 政 策 の 不 当 性 を 強 く 主 張 し た 。 「 ら い 予 防 法 」改 正 は 隔 離 政 策 の 継 続 と い う 結 果 に 終 わ っ た が 、 入 所 者 の 要 望 が

9

項 目 の 附 帯 決 議 と な っ た こ と 、 運 動 す る 主 体 と し て の 役 割 を 男 性 入 所 者 が 獲 得 す る こ と に つ な が っ た 。 し か し な が ら 、 入 所 者 に よ る そ の 後 の 運 動 は 療 養 所 内 で の 生 活 改 善 を 主 た る 目 的 と し 、 入 所 者 と 国 と の 間 で 進 め ら れ た 。 そ の た め 、 社 会 と の つ な が り が 形 成 さ れ な か っ た こ と 、 入 所 者 が 優 生 思 想 を 内 面 化 さ せ て い た こ と 、 「 ら い 予 防 法 」が 生 活 の 砦 と し て 機 能 し 、法 の 撤 廃 を 運 動 過 程 で 強 く 主 張 で き な か っ た と い う 限 界 を と も な っ て い た 。 こ う し た 点 に お い て 、 入 所 者 の 能 動 性 の 現 れ は 、 隔 離 政 策 下 で の 制 約 に よ る 「 受 動 性 の 下 で の 能 動 化 」 と い う 当 事 者 性 の 様 相 と し て 示 さ れ た ( 第

4

章 )。

二 つ 目 の 能 動 的 主 体 へ の 契 機 は 、 自 ら の 生 き て き た 経 験 を 聴 き 手 に 対 し て 語 る 、 と い う 行 為 に み ら れ た 。 本 研 究 で は 国 立 療 養 所 で 患 者 運 動 、 自 治 会 活 動 、 自 治 会 史 の 編 纂 な ど に た ず さ わ っ た 男 性 入 所 者

3

名 に イ ン タ ビ ュ ー を 行 い 、 そ の う ち

2

名 の ラ イ フ ス ト ー リ ー を

91907( 明 治 40

年 )

7

22

日 「 内 務 省 令 第

20

号 『 道 府 県 癩 療 養 所 設 置 区 域 』」 が 公 布 さ れ た こ と に よ

っ て 、 全 国 を

5

地 区 に 分 割 し て 「 各 地 区 に お い て 、 一 つ の 療 養 所 を 複 数 の 府 県 が 連 合 し て 設 置 し 、 運

営 し 、 こ れ に 国 庫 補 助 が 支 出 さ れ る と い う 複 雑 な 、 そ し て 他 に 例 を み な い 組 織 と な っ た 」( 山 本

2006:75)。 山 本 で は 連 合 府 県 立 療 養 所 を 「 公 立 療 養 所 と 略 称 す る 」( 同 上 2006:75

) と あ り 、 本 研 究 で

も こ れ に 倣 い 、 引 用 文 を 除 い て 「 公 立 療 養 所 」 と 表 記 す る 。

(13)

9

分 析 し た 。 両 名 と も 運 動 や 自 治 会 活 動 に た ず さ わ る 過 程 で 能 動 的 主 体 と し て の 役 割 を 獲 得 し て 生 き て き た 入 所 者 で あ り 、 語 り 部 と し て 自 ら の 人 生 を 語 る 活 動 も 続 け て き た 。 患 者 運 動 や 自 治 会 活 動 は そ の 相 手 が 療 養 所 長 や 厚 生 行 政 で あ り 、 そ れ ら は 療 養 所 入 所 者 の 要 望 を 交 渉 す る 対 象 、 入 所 者 を 管 理 す る 存 在 で あ っ た 。 そ れ に 対 し て 、 自 ら の 生 き て き た 経 験 は 社 会 の 側 の 不 特 定 多 数 の 他 者 や 調 査 研 究 者 と い っ た 「 聴 き 手 」 す な わ ち か れ ら の 経 験 を 受 け と め る 者 に 向 け て 語 ら れ た 。 桜 井 ・ 小 林 (

2005:114-115

) や 蘭 (

2004:57-58) が 述 べ る

よ う に 、 ラ イ フ ス ト ー リ ー を 語 る こ と を 通 し て 語 り 手 自 身 が エ ン パ ワ ー メ ン ト さ れ る と い う 過 程 に 能 動 的 主 体 へ の 契 機 が あ っ た( 第

5

章 、第

6

章 )。こ の こ と は 、運 動 に よ っ て 能 動 性 を 現 し て き た 男 性 入 所 者 の 陰 で 、 声 の 聴 き 手 が 存 在 せ ず に 当 事 者 性 が 不 在 化 さ れ て い た 女 性 入 所 者 の 当 事 者 性 の 変 化 に つ な が る も の で も あ っ た ( 第

7

章 )。

ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 不 在 化 と 当 事 者 性 の 回 復 の 困 難 さ は 、 日 本 に お い て の み 生 じ た も の で は な い 。 そ れ は 韓 国 の ハ ン セ ン 病 者 に お い て も 生 じ た 問 題 で あ っ た 。 韓 国 で は 日 本 の 植 民 地 支 配 下 に あ っ た 時 代 、 日 本 の 隔 離 政 策 を 模 倣 し て 「 朝 鮮 癩 予 防 令 」 が 施 行 さ れ た 。植 民 地 支 配 か ら の 解 放 後 、

1963

年 に 隔 離 政 策 は 終 結 し 、以 後 、韓 国 で は 政 府 に よ る 定 着 村 事 業 の 推 進 に よ っ て 自 活 可 能 な ハ ン セ ン 病 者 は 定 着 村 で 生 計 を 立 て て い く 選 択 肢 を 得 た 。 日 本 の ハ ン セ ン 病 者 と 異 な り 、 韓 国 の ハ ン セ ン 病 者 は 定 着 村 で 子 ど も を 産 み 育 て 、 生 活 を 営 む こ と が 可 能 で あ っ た 。 し か し な が ら 、 ハ ン セ ン 病 者 に 対 す る 差 別 ・ 偏 見 の た め 地 域 住 民 と の コ ン フ リ ク ト や 教 育 か ら の 排 除 な ど を 経 験 し た 。 そ の よ う な 地 域 社 会 か ら の 排 除 や 差 別 の 経 験 は 、 現 在 に お い て も 回 復 者 や そ の 家 族 に と っ て 「 心 の 壁 」 と し て 残 り 続 け て い る 。

補 論 で 述 べ る よ う に 、 日 本 で は 国 立 療 養 所 と い う 場 に お い て 、 男 性 入 所 者 を 中 心 と す る 患 者 運 動 が 生 成 ・ 展 開 さ れ 、 運 動 を 通 し て 要 望 ・ 主 張 す る 能 動 的 主 体 と し て の 側 面 が 現 れ た 一 方 、 韓 国 で は 隔 離 政 策 か ら 解 放 さ れ た と は い え 、 国 が 病 者 を 管 理 す る 体 制 が あ っ た 。 こ の こ と は 、 韓 国 の ハ ン セ ン 病 者 が ハ ン セ ン 病 政 策 や ハ ン セ ン 病 者 の お か れ た 状 況 に つ い て 、 社 会 問 題 と し て 提 起 す る 契 機 を 得 に く く 、 結 果 と し て 現 代 に お い て も ハ ン セ ン 病 回 復 者 や 家 族 の 困 難 が 社 会 的 に 受 け と め ら れ て い な い と い う 、 当 事 者 性 の 回 復 の 困 難 さ の 現 れ と い え る ( 補 論 )。

日 本 で は

1996( 平 成 8) 年 に 「 ら い 予 防 法 」 が 廃 止 さ れ た 後 、 療 養 所 入 所 者 ら に よ る 国

賠 訴 訟 、 原 告 勝 訴 判 決 、 ハ ン セ ン 病 問 題 に 関 す る 検 証 事 業 と い っ た ハ ン セ ン 病 隔 離 政 策 に 対 す る 糾 弾 の 動 き が 現 れ た 。 社 会 の 人 び と は 、 こ の よ う な 動 き を 通 し て 、 ハ ン セ ン 病 問 題 は 人 権 問 題 で あ っ た こ と を 認 識 し た 。 回 復 者 を と り ま く 社 会 的 コ ン テ ク ス ト は 大 き く 変 化 し た よ う に み え た が 、個 別 具 体 的 な 場 で は 回 復 者 へ の 拒 否 的 な 対 応 が 生 じ た 。さ ら に 、 「 ハ ン セ ン 病 問 題 基 本 法 」の 制 定 に よ っ て 進 め ら れ た 国 立 療 養 所 の 地 域 開 放 の 取 り 組 み は 、様 々 な 課 題 を 抱 え て 進 捗 状 況 が 芳 し く な い 。 韓 国 に お け る 回 復 者 に み ら れ た よ う に 、 日 本 に お い て も ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 の 回 復 の 困 難 さ が 現 れ て い る ( 終 章 )。

以 上 、図 序

-1

を 概 説 し た 。ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 は 、社 会 的 な 関 係 の 維 持 、形 成 の 余

地 が あ っ た 時 代 か ら 、 社 会 的 な 関 係 を 剥 奪 さ れ て 強 制 的 に 「 隔 離 収 容 」 さ れ て い く 時 代 、

さ ら に は 隔 離 状 況 が 固 定 化 す る 時 代 の な か で 、 隔 離 政 策 お よ び 優 生 思 想 、 社 会 に 根 付 い て

し ま っ た 偏 見 ・ 差 別 の 影 響 を 強 く 受 け な が ら 変 容 し て い っ た 。 そ し て 、 ハ ン セ ン 病 者 を 内

包 す る 社 会 は 、か れ ら が 地 域 社 会 で 生 活 す る 主 体 と し て 存 在 す る こ と を 認 め ず 、そ の 結 果 、

(14)

10

ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 は 不 在 化 の 様 相 を 強 め て い っ た 。

2)課 題 2:ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 は ど の よ う に 現 れ 、そ の 不 在 化 は ど の よ う に 生 じ た

の か

前 節 で 「 福 祉 界 」 に は 療 養 所 の な か か ら 入 所 者 た ち が 訴 え て き た 声 を 十 分 に 聴 く こ と が で き な か っ た こ と 、 か れ ら が 隔 離 政 策 か ら 解 放 さ れ 、 社 会 で 多 様 な つ な が り を も ち な が ら 生 活 す る 生 の 主 体 と し て の 当 事 者 で あ る こ と の 視 点 が 欠 如 し て い た と い う 問 題 点 を 指 摘 し た 。 こ こ で は 当 事 者 性 の 不 在 化 の 様 相 を 読 み 解 く こ と を 課 題 と す る 。

ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 は 、 隔 離 政 策 の 変 遷 に 沿 い な が ら 、 か れ ら の 当 事 者 性 に 影 響 を 与 え る 要 素 と の 関 わ り に よ っ て 変 容 し 、 い く つ か の 様 相 を み せ た 。 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 が 時 代 状 況 下 で ど の よ う に 現 れ て 、 不 在 化 さ れ て い く の か を

4

象 限 の 図 に 位 置 づ け た も の が 図 序

-2

で あ り 、 本 研 究 で は こ れ を 分 析 枠 組 み と し て 用 い て い る 。 図 序

-2

は 、 縦 軸 に

「 隔 離 政 策 下 で の 制 約 に よ る 受 動 性 」 の 「 強 弱 」 を 、 横 軸 に 「 ハ ン セ ン 病 者 の 主 体 性 」 の

「 強 弱 」 を 設 定 し た 。 以 下 、 そ れ ぞ れ の 象 限 に 現 れ る ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 と そ の 不 在 化 の 様 相 を 示 す 。

ハ ン セ ン 病 者 と し て 生 き る こ と と 「 病 者 と し て の 当 事 者 性 の 受 容 」( 第 Ⅲ 象 限 )

日 本 に お け る ハ ン セ ン 病 隔 離 政 策 の 変 遷 を た ど る と 、 ハ ン セ ン 病 者 は

1907( 明 治 40)

年 の 「 癩 予 防 ニ 関 ス ル 件 」( 以 下 、 法 律 第

11

号 ) 制 定 に よ っ て 隔 離 の 対 象 と な っ た

1 0

。 同 法 の 成 立 以 前 、 ハ ン セ ン 病 者 は 公 衆 衛 生 策 の 対 象 と は な っ て お ら ず 、 在 宅 で の 療 養 生 活 、 資 力 の 無 い 者 は 物 乞 い 生 活 を す る な ど 、 生 活 場 所 は 非 限 定 的 で あ っ た 。 国 が 対 策 に 乗 り 出 す 以 前 、 ハ ン セ ン 病 者 へ の 救 済 事 業 を 担 っ て い た の は 海 外 か ら の 宣 教 師 、 国 内 の 宗 教 家 で あ っ た 。 ま た 、 群 馬 県 の 湯 之 沢 、 熊 本 県 の 本 妙 寺 で は 病 者 に よ る 自 治 集 落 が 形 成 さ れ る な ど 、 病 者 の 集 住 地 域 も 存 在 し て お り 、 生 活 お よ び 治 療 の 場 所 は 多 様 で あ っ た と い え る 。 当 時 は ハ ン セ ン 病 に 対 し て 有 効 な 治 療 法 は 確 立 さ れ て お ら ず 、 病 者 は 病 に よ る 身 体 の 不 自 由 さ や 苦 痛 を 引 受 け な が ら 生 活 を し て い た が 、 自 治 集 落 で 生 活 し て い た 病 者 に は 受 苦 的 な 生 き 方 と は 異 な る 、 弱 い な が ら も 主 体 性 が 見 ら れ る 当 事 者 性 が 現 れ て い た と い え る 。 ハ ン セ ン 病 者 に 対 し て は 中 世 、 近 世 か ら 続 く 忌 避 が 存 在 し て い た が 、 か れ ら の 社 会 的 な 関 係 が 剥 奪 さ れ る も の で は な く 、 地 域 共 同 体 の な か で ハ ン セ ン 病 者 の 生 活 は 営 ま れ て い た

1 1

。 第 Ⅲ 象 限

-

① に お い て 、 ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 は 、 病 に よ る 受 苦 を 抱 え な が ら も 弱 い 主 体 性 を 帯 び 能 動 的 に 生 き る 可 能 性 を 有 し て お り 、 そ れ は 病 者 で あ る こ と を 受 け 入 れ な が ら の 生 活 で あ っ た 。

1907( 明 治 40) 年 に 「 癩 予 防 ニ 関 ス ル 件 」 が 制 定 さ れ る 。 同 法 は 、 明 治 時 代 に 成 立 が

1 0

山 本 は 「 法 律 第

11

号 の 公 布 に よ り ハ ン セ ン 病 患 者 の 保 護 、 隔 離 の 実 施 が 決 ま っ た 」 と 述 べ る ( 山 本

2006:73)。

1 1

廣 川 は 「 前 近 代 の ハ ン セ ン 病 史 研 究 」 に つ い て 、「 大 ま か に い っ て 二 つ の ハ ン セ ン 病 史 研 究 の 方 法 論

が 存 在 」 し て い る と 述 べ る 。 そ し て 、「 近 世 史 研 究 に お け る 近 年 の 研 究 成 果 は 、 ハ ン セ ン 病 者 が 他 の 被

差 別 民 と 密 接 に 関 係 し 重 層 的 な 支 配 関 係 の 下 に あ る こ と を 明 ら か に し て お り 、 そ の 存 在 形 態 に つ い て

も 在 宅 ・『 共 生 』

/病 者 の 集 住 を め ぐ っ て 実 証 研 究 が 積 み 重 ね ら れ つ つ あ る 」 こ と 、「 こ う し た 身 分 制 論

的 な ハ ン セ ン 病 者 へ の ア プ ロ ー チ 」 以 外 に 、「 近 世 以 前 の 『 癩 者 』 観 ・『 癩 』 病 観 の 性 格 を 明 ら か に す

る 研 究 」 が あ る と 述 べ る (

2001:13-14)。

(15)

11

目 指 さ れ な が ら 廃 案 と な っ た 救 貧 法 案 を 補 完 す る も の と し て 位 置 づ け ら れ て い る

1 2

。「 癩 患 者 ニ シ テ 療 養 ノ 途 ヲ 有 セ ス 且 救 護 者 ナ キ モ ノ ハ 行 政 官 庁 ニ 於 テ 命 令 ノ 定 ム ル 所 ニ 従 ヒ 療 養 所 ニ 入 ラ シ メ 之 ヲ 救 護 ス ヘ シ 但 シ 適 当 ト 認 ム ル ト キ ハ 扶 養 義 務 者 ヲ シ テ 患 者 ヲ 引 キ 取 ラ シ ム ヘ シ 」 と 規 定 さ れ た よ う に 、 生 活 に 困 窮 し 、 救 護 者 の な い 者 を 救 護 す る 対 象 と し て 療 養 所 に 入 所 さ せ る と し て い た 。 つ ま り 、 隔 離 の 対 象 は 限 定 的 で あ り 、 在 宅 で の 療 養 も 可 能 で あ っ た 。 公 立 の 療 養 所 と し て 開 設 さ れ た 全 生 病 院 で は 入 院 者 に よ っ て 『 山 櫻 』、 私 立 療 養 所 と し て

1916

年 に 開 設 さ れ た 「 聖 バ ル ナ バ ミ ッ シ ョ ン 」 で は 『 高 原 』 と い う 文 芸 雑 誌 が 発 行 さ れ て お り 、 こ う し た 活 動 の な か に も 「 病 者 と し て の 当 事 者 性 の 受 容 」 と い う 状 態 が 現 れ て い た と い え る ( 第 Ⅲ 象 限

-

② お よ び 第 Ⅱ 象 限

-③ )。

隔 離 政 策 の 推 進 強 化 と 「 当 事 者 性 の 客 体 化 」( 第 Ⅱ 象 限 )

法 律 第

11

号 は 、 そ の 後

1931( 昭 和 6) 年 に 「 癩 予 防 法 」 へ と 改 正 さ れ 、 同 法 に よ っ て

資 力 の 有 無 を 問 わ ず 、「 癩 患 者 ニ シ テ 病 毒 伝 播 ノ 虞 ア ル モ ノ 」( 第 三 条 ) が 隔 離 収 容 の 対 象 と さ れ た

1 3

。 同 法 で は 法 律 第

11

号 に お い て 「 被 救 護 者 」 と の 記 載 が 「 入 所 患 者 」 へ と 改 め ら れ た 。 こ こ に お い て 、「 癩 予 防 法 」 は 救 護 法 的 性 格 を 有 す る と い う 性 質 か ら 、 公 衆 衛 生 対 策 に 関 わ る 法 律 と し て そ の 性 質 が 変 わ っ た と み る こ と が で き る 。 山 本 は 、 法 律 第

11

号 か ら 「 癩 予 防 法 」 へ の 主 な 改 正 点 の 一 つ と し て 「 強 制 入 所 」 を 挙 げ 、「 第 三 条 の 一 に よ っ て 患 者 の 強 制 隔 離 政 策 が 実 行 段 階 に 入 っ た と い え る 」 と 述 べ る ( 山 本

2006:186)。 そ し

て 、 戦 時 体 制 と い う 特 殊 な 時 代 状 況 下 で 進 め ら れ た 「 無 ら い 県 運 動 」 に よ っ て 全 国 か ら

「 癩 」 と い う 病 気 を な く す 動 き が 強 ま っ て い く

1 4

。 国 は 療 養 所 の 拡 張 計 画 を 進 め る 中 で 、

「 癩 予 防 ニ 関 ス ル 件 」 の 施 行 に と も な っ て 設 置 さ れ た 公 立 の 療 養 所 と と も に 国 立 の 療 養 所 を 設 置 す る 方 針 を 定 め 、

1927( 昭 和 2) 年 「 国 立 療 養 所 官 制 」 を 公 布 し た ( 財 団 法 人 厚 生

問 題 研 究 会 編

1988( 記 述 編 ):204

)。

1915( 大 正 4) 年 、 全 生 病 院 内 に お い て 男 性 患 者 へ

の 断 種 手 術 が 実 施 さ れ 、

1916( 大 正 5) 年 に な る と 療 養 所 入 所 者 に 対 す る 罰 則 規 定 と し て

1 2

『 社 会 福 祉 の 歴 史 ― 政 策 と 運 動 の 展 開 』 で 土 井 洋 一 は 、 明 治

30

年 代 に 国 会 に 提 出 さ れ た 救 貧 法 関 係 法 案 と し て 恤 救 法 案 、 救 貧 税 法 案 、 救 貧 法 案 と 、 国 会 未 提 出 と な っ た 窮 民 法 案 を 示 し 、 こ れ ら の 法 案 が 相 次 い で 挫 折 し た こ と を 補 完 す る も の と し て 登 場 し た 特 別 法 の な か で 救 貧 的 規 定 を 含 む も の に つ い て 「 伝 染 病 予 防 法 (

1897)、 北 海 道 旧 土 人 法 (1899)、 精 神 病 者 監 護 法 (1900)、 癩 予 防 ニ 関 ス ル 件

1907) な ど が こ れ に あ た る 」 と 述 べ て い る 。 そ し て 「 こ れ ら の 諸 法 規 は 、 い ず れ も 公 費 負 担 の 節 減

と 親 族 扶 養 へ の 押 し つ け 、 な い し 治 安 上 の 要 請 や 隔 離 思 想 で 貫 か れ て お り 、 先 の 救 貧 法 諸 案 以 上 に 部 分 的 で 、 多 く の 制 約 を も っ て い た こ と は い う ま で も な い 」 と 指 摘 し て い る ( 右 田 ・ 高 澤 ・ 古 川 編

2001:228)。

1 3

廣 川 は 「

1931

年 法 が 『 絶 対 隔 離 』 を 可 能 に し た 法 律 で あ る と い う 通 説 的 理 解 」 に つ い て 再 検 討 す る こ と を 指 摘 し (

2001:22)、 同 書 で 詳 細 な 分 析 を 行 っ て い る 。 そ し て 、「 従 来 の 研 究 に は 、 ハ ン セ ン 病 関

連 法 制 を 検 討 す る 上 で 大 き な 問 題 点 が あ る 」 と し 、「 病 者 の 処 遇 を 検 討 す る 際 に 、 も っ ぱ ら

1907

年 法 か ら

1931

年 法 へ の 法 改 正 時 に お け る 入 所 対 象 者 の 拡 大 と い う 部 分 に の み 注 目 し 、 各 府 県 レ ベ ル で の ハ ン セ ン 病 関 連 法 制 に つ い て は 、 府 県 ご と に 官 民 が 協 力 し て 行 わ れ た と さ れ る 『 無 癩 県 運 動 』 を 叙 述 の 対 象 と す る 際 に す ら 、 ほ と ん ど 閑 却 さ れ た ま ま で あ る こ と で あ る 」 と 指 摘 す る ( 廣 川

2011:32

)。

1 4

山 本 は 「 無 ら い 県 運 動 」 に つ い て 「 昭 和

4

年 (

1929) 愛 知 県 の 方 面 委 員 数 十 名 が 愛 生 園 で の 患 者 の 生

活 を 視 察 し 、 帰 県 し て か ら 愛 知 県 よ り ら い を 無 く そ う と い う 民 間 運 動 を 始 め た こ と が 発 端 」 と な っ た

と い う 経 緯 に 触 れ た う え で 、「 そ の 後 日 中 戦 争 の 開 始 と と も に 、 こ の 運 動 の 様 相 が 変 化 し て き た 」 と 指

摘 す る ( 山 本

2006:127)。 つ ま り 、 戦 時 体 制 下 で 「 浮 浪 ら い ( 患 者 ) の 取 締 り 、 ら い 部 落 の 解 消 、 自

宅 療 養 を し て い る 患 者 の 療 養 所 へ の 隔 離 収 容 な ど が 強 力 に 推 進 さ れ る よ う に な り 、 明 治 末 か ら 当 局 が

そ の 方 針 と し て き た 絶 対 隔 離 が 、 強 力 な 国 家 権 力 を 背 景 に 着 々 実 施 さ れ 始 め た 」 と 論 じ て い る ( 同 上

2006:127)。

(16)

12

懲 戒 検 束 に 関 す る 施 行 細 則 が 定 め ら れ た

1 5

。 こ う し た 動 き の な か で 、 隔 離 政 策 下 で の 制 約 に よ る 受 動 性 が 強 ま り ハ ン セ ン 病 者 は 療 養 所 内 で 取 締 、 管 理 、 優 生 手 術 の 対 象 と さ れ て 、 ハ ン セ ン 病 者 の 「 当 事 者 性 の 客 体 化 」 と い う 状 態 へ と 変 容 し て い っ た 。 優 生 手 術 が 実 施 さ れ た こ と 、 療 養 所 長 に 懲 戒 検 束 権 が 与 え ら れ た こ と 、 戦 時 体 制 と い う 特 殊 な 時 代 状 況 下 で の 「 無 ら い 県 運 動 」 の 実 施 は 、 隔 離 政 策 の 強 化 、 民 族 浄 化 と 相 ま っ た 優 生 思 想 に よ っ て 隔 離 政 策 下 で の 制 約 に よ る 受 動 性 が 強 ま っ て い く こ と で も あ っ た

1 6

。 ハ ン セ ン 病 者 の 生 活 場 所 は 国 立 ・ 公 立 ・ 私 立 療 養 所 へ と 限 定 さ れ 、 社 会 か ら 不 在 化 さ れ て い く こ と に な っ た

( 第 Ⅱ 象 限

-③ )。

戦 後 に お い て も 隔 離 政 策 は 継 続 さ れ た 。

1948( 昭 和 23) 年 に 制 定 さ れ た 優 生 保 護 法 に

お い て 、「 癩 患 者 」 へ の 優 生 手 術 の 実 施 が 明 記 さ れ た

1 7

こ と で 、 ハ ン セ ン 病 者 へ の 優 生 手 術 は 法 的 根 拠 を も っ て 実 施 さ れ る こ と に な っ た 。 ま た 、 戦 後 制 定 さ れ た 日 本 国 憲 法 と 憲 法 第

25

条 の 規 定 に つ い て オ カ ノ ユ キ オ は 「 こ れ に よ り 、 国 は 国 家 財 政 の 許 す 範 囲 に お い て 国 民 の 生 活 に 対 し て 保 障 す べ く 努 め な け れ ば な ら な い 、 義 務 を 負 う こ と に な っ た 」 と し 、

「 こ の こ と を 療 養 所 の 規 定 に 関 し て 云 う な ら ば 、 国 は 入 所 患 者 の 医 療 に つ い て は も ち ろ ん 、 そ の 生 活 面 に つ い て も で き る 限 り の 配 慮 を す べ き こ と を 責 務 と し て 負 っ た 」( オ カ ノ :

6) と 解 釈 す る 。 こ う し た 時 代 の 動 き は 、 国 と 国 立 療 養 所 入 所 者 の 「 保 護-

被 保 護 」 関 係 の 固 定 化 に つ な が る も の で あ っ た と 考 え ら れ る 。 入 所 者 の 安 定 し た 生 活 の 責 任 が 国 に 求 め ら れ た こ と 、 優 生 手 術 の 実 施 が 法 的 裏 付 け を も っ て 実 施 さ れ る よ う に な っ た こ と は ハ ン セ ン 病 者 の 客 体 化 を 強 め た と い え る 。

1 5

「 一 九 一 六 年 、 癩 予 防 ニ 関 ス ル 件 施 行 規 則 ( 一 九 〇 七 年 発 令 ) 第 五 条 に 所 長 の 懲 戒 検 束 権 に つ い て の 二 項 ・ 三 項 を 加 え 、 続 い て 懲 戒 検 束 に 関 す る 施 行 細 則 を 定 め る と と も に 、 謹 慎 室 ・ 監 禁 室 ( 監 房 ) の 工 事 を 終 え て い る 」( 成 田

2009:200)。 成 田 は 懲 戒 検 束 権 を 「 適 正 な 手 続 き を 欠 い た 警 察 権 の よ う な

も の と い っ て よ い 」 と 指 摘 す る ( 成 田

2009:200)。

1 6

廣 川 (

2011) が 指 摘 す る よ う に 、1931

年 法 の 施 行 が 「 絶 対 隔 離 」 政 策 に つ な が っ た と す る 解 釈 は 検 討 の 余 地 が あ る 。 本 研 究 で は 、 隔 離 政 策 の 変 遷 に お い て 「 優 生 手 術 の 実 施 」、「 療 養 所 長 へ の 懲 戒 検 束 権 の 付 与 」、「 無 ら い 県 運 動 」 の 展 開 を 通 し て 、 ハ ン セ ン 病 者 を 対 象 化 す る 状 況 が つ く り あ げ ら れ た こ と 、 そ れ ら の こ と に よ っ て ハ ン セ ン 病 者 の 当 事 者 性 は 「 当 事 者 性 の 客 体 化 」 に 変 容 し た と 捉 え て い る 。

1 7

優 生 保 護 法 第 二 章 ( 医 師 の 認 定 に よ る 優 生 手 術 ) 第 三 条 第 三 項 に 「 本 人 又 は 配 偶 者 が 、 癩 疾 患 に 罹

り 、 且 つ 子 孫 に こ れ が 伝 染 す る 虞 れ の あ る も の 」、 第 三 章 ( 医 師 の 認 定 に よ る 人 工 妊 娠 中 絶 ) 第 十 四 条

第 三 項 に 「 本 人 又 は 配 偶 者 が 癩 疾 患 に 罹 つ て い る も の 」 と 規 定 さ れ た 。

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