住民投票の背景・現状・課題
その他のタイトル The Background, Actual Situation and Problem of the Referendum in Japan
著者 脇坂 徹
雑誌名 關西大學法學論集
巻 53
号 2
ページ 314‑389
発行年 2003‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00023354
住民投票の背景・現状・課題
目 次 は じ め に 第 一 章 住 民 投 票 の 背 景 第 一 節 住 民 投 票 制 度 の 内 容 第 二 節 住 民 投 票 の 制 度 的 不 備 第 三 節 住 民 投 票 の 原 因 と 影 響 第 二 章 住 民 投 票 の 事 例 第一節従来型•特例型の事例 第二節住民投票条例による事例 第 三 節 重 要 事 例 の 論 点 第 三 章 住 民 投 票 制 度 の 行 方 第一節住民投票制度に関する議論状況 第 二 節 住 民 投 票 制 度 の 構 想 お わ り に
脇
坂 五
四
︵三
一四
︶
徹
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
れ︑活用策が議論され始めるようになったと考えられる︒ なってきている︒
五五
近年︑地域の将来に極めて重大な影響を及ぼす政策課題について地域住民が自らの意思で方針を決めることを求め︑
個別事案ごとに住民投票条例の制定を直接請求して住民投票を実施し︑そこで示される民意により政治的決着を図ろ
うとする手法を用いるケースが増えてきた︒こうした当事者住民の住民投票に対する熱い眼差しに加え︑署名活動や
住民投票運動の活発化による当該事案についてのマスコミの報道に促される形で︑住民投票への世論の関心も高く
こうした住民投票への関心や注目度の高まりは︑簡潔に言えば︑住民投票への期待感の現れであろう︒住民投票に
期待が集まっているのは︑我が国の民主主義制度に何らかの不具合が存在するためではないだろうか︒議会制度や選
挙制度等の間接民主主義的制度を中心に据えた現行の政治制度では︑地域の重要な政策課題に対する住民の問題提
起・異議申し立てを十分に受け止め︑住民の意思をその政策決定過程に反映させるための制度や取り組みが不十分で
あり︑合意形成・意思決定過程は民意不在の状況となっており︑既存の政治制度に対する住民の不満︑不信感が強
まっている︒そうした中︑間接民主主義と直接民主主義との関係を見直し︑後者の制度の有用性︑意義を再検討して
活用することによって︑民主主義制度の改善︑ひいては政治全体の活性化につながるのではないだろうかという考え
が出始めてきた︒こうして︑最もシンプルで典型的な直接民主主義的制度である住民投票に対し︑期待の目が向けら
住民投票という制度を積極的に評価する立場からは次のような意義や効果が期待されている︒例えば︑政策決定過
は じ め に
︵三
一五
︶
第五三巻二号 程における行政上の民意調査・民意反映手段として︑また地域住民にとっての意見表明・異議申し立て手段として期 待されている︒さらに︑自分たちの事は自分たちで決めるという住民投票は︑住民にとって主権者意識の再確認︑自 治意識の向上につながることも期待でき︑住民投票に伴う情報提供・情報公開に刺激され︑地域の重要問題について 熟考する機会になりうるかもしれない︒また︑住民投票は︑住民運動の一手段とも言え︑
マスコミを通じた世論の関
心の高まり︑署名活動の成果や投票結果が及ぼす社会的影響力など︑運動的意義を期待されているかもしれない︒
このように︑この住民投票という手段への期待感がかつてないほど高まり︑その政治的社会的意義が重要視される ようになる中で︑かえって︑その制度的欠陥や問題点が目立つようになってきた︒我が国の住民投票の制度は︑日本 国憲法や地方自治法等の中にいくつか限定的に設けられているものの︑現行法体系の中には︑個別具体的政策に関す る住民投票を包括的に扱った法制度や条文はなく︑制度としての住民投票が十分に整備されているとは言い難い︒レ ファレンダムやイニシアティプといった直接民主主義的制度を歴史的に長く実践してきている国と比べれば我が国の
住民投票に関する現行制度の内容が乏しいことは否めない︒
現状︑住民が︑個別的な政策や事業のあり方をめぐって︑それに対する判断や異議申し立てを表明すべく住民投票 を要望する場合︑その都度︑条例制定請求という直接請求制度を借用した形を採らざるをえず︑住民投票条例案の議 決権を握る議会という大きな障壁が︑住民投票の実施の前に立ちはだかっている︒二
0
0二年末時点で︑条例制定の
請求提案件数二三三件に対し実施件数は二0件と少なく︑厳しい現実となっている︒また︑通説によれば︑現行法上︑
法律によって規定された首長や議会の権限を条例が拘束することは違法となるため︑現状の住民投票条例に法的拘束 力は認められず︑住民投票の効果は法的には諮問的効果にとどまるという制約もある︒
関法
五六
︵三
一六
︶
五七
そうしたことから︑特に︑この種の政策型住民投票︵既存の地方自治特別法や首長・地方議会議員の解職や地方議
会の解散に伴う住民投票と区別して︑個別具体的な政策課題について地域住民の民意を問う形の住民投票をこう呼ぶ
ことにする︶について︑法的拘束力を持たせた形で制度化することが求められ︑議論され始めるようになった︒
本稿では︑以上のような観点に基づき︑政治学的視点から︑住民投票の背景と現状と課題を明らかにするため︑我
が国の住民投票の制度的問題点を考察し︑住民投票条例の制定請求事例の傾向を多角的に分析し︑さらに︑将来の政
まず︑第一章では︑現在の直接民主主義的制度・住民投票制度の内容を紹介しつつその不備︑問題点を指摘し︑住
民投票が脚光を浴びるようになった背景や原因︑住民投票による効果や影響︑住民投票に対する批判や疑問点を考察
する︒第二章では︑様々な制度に基づく住民投票事例の全体的な概要を述べた後︑住民投票条例の請求提案事例︵ニ
0
0二年末まで︶の傾向や特徴をデータを用いて分析し︑本稿の議論に関係する要点に絞って主要な数事例を検討す
る︒そして第三章では︑住民投票に関する制度論的議論の諸説を紹介した後︑最後に︑それまでの制度分析︑事例傾
向分析をもとに︑拘束力を有する政策型住民投票制度を構想し︑提案することにしたい︒
住民投票の背景
第一章では︑住民投票の背景を︑第一節︑第二節で制度面から︑第三節で政治的側面から︑考察することにする︒
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
第一章 策型住民投票制度の基本構想を提案することを目的としている︒
︵三
一七
︶
り︑それについては第二節で説明する︒ 第五三巻二号
憲法上の制度 住民投票制度の内容
︵三 一八
︶
第一節では︑日本国憲法と地方自治法上における住民投票制度の内容について簡単に確認しておくことにする︒制
まず始めに︑憲法上の国民投票・住民投票制度であるが︑これは憲法第九五条︹特別法の住民投票︺に基づくもの
と︑憲法第九六条︹憲法改正の手続︑その公布︺に基づくものとが存在する︒前者だけ見ておこう︒
憲法第九五条︵及び国会法第六七条︑自治法第二六一︑二六二条︶では︑国が﹁一の地方公共団体のみに適用され
る特別法﹂いわゆる地方自治特別法を制定する場合︑その自治体で住民投票を行い︑過半数の同意を得なければ︑国
会はその法律を制定できないと決められている︒地方自治特別法とは︑一般的に︑ある特定の地方自治体の本質に関
(1 )
わるような︑主に不平等や不利益な特例的制度を設ける法律のことを言うのだが︑実情はその通りではないようであ
なお︑都道府県の廃置分合・境界変更︵自治法第六条第一項︶︑名称変更︵自治法第三条第二項︶について﹁法律
でこれを定める﹂とされており︑この﹁法律﹂というのが憲法第九五条でいう﹁一の地方公共団体のみに適用される
特別法﹂に該当するため︑この場合︑関係都道府県の議会の議決ではなく︑同条に基づく住民投票が必要になる︒
(1) 度の不備等の具体的な検討は第二節で行う︒ 関法
第一節
五八
地方自治法上の制度
五九
次に︑地方自治法上の制度であるが︑地方レベルの直接民主主義的制度として︑条例の制定改廃請求︵自治法第一
二条︑第七四条│第七四条の四︶︑議会解散請求︵自治法第一︱︱‑︑七六ー七九条︶︑議員・長等の解職請求︵自治法第
︱ ︱
︱ ‑
︑ 八
0ー八八条︶の制度が︑住民投票に直接︑間接に関係する︒特に︑昨今活発な住民投票条例の直接請求は条
例制定改廃請求制度に基づくため︑ここではその制度のみ内容と手続きを確認しておこう︒
条例制定改廃請求制度は︑条例の制定・改廃を有権者が有権者総数の一/五0以上の連署でその代表者から長に対
し請求できる制度である︒地方税の賦課徴収並びに分担金︑使用料及び手数料の徴収に関するものが除外対象であり︑
その他の対象制限はない︒請求の手続きとしては︑まず︑代表者が請求代表者証明書を首長に申請し︑請求に必要な
署名︵有権者の一/五0以上の連署︶の収集活動が始まる︒署名収集期間は都道府県ではニヶ月︑市町村では一ヶ月
と限られている︵地方自治施行令第九二条第四項︶︒収集活動終了後︑代表者は︑市町村の選挙管理委員会に請求者
の署名簿を提出し︑そこで署名の審査を受け︑署名簿の縦覧︑署名の異議申出の受付︑有効署名総数の告示等を経た
後︑自治体の首長に対して本請求する︒首長は請求受理日から二0日以内に議会を招集し︑意見を付けて条例案を付
議する︒議会で審議︑議決された後︑最後に︑首長は︑議決結果の代表者への通知と公表を行う︒
なお︑解散・解職請求制度全体は通常リコール制度と呼ばれるが︑議会解散や首長・議員の解職請求が要件を満た
(2 )
す場合に自動的に実施される住民による投票は︑広義の住民投票制度に含められる︒
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
︵三
一九
︶
第五三巻二号
住民投票の制度的不備
︵三
二
0)
現状の我が国の住民投票制度には︑様々な制度的不備が存在し︑住民の政治参加や︑地域の政策課題の意思決定過
程における民意の反映は︑不十分な状態にとどまっていると考えられる︒第二節では︑それぞれの制度について︑実
(3 )
際の利用状況を簡単に見た後︑他国︵アメリカ︑ドイツ︑フランス︶の制度とも比較しつつ︑制度の不備や問題点を
国レベルの制度的不備
憲法第九五条に基づく地方自治特別法の制定に伴う住民投票の事例は︑
自治体に関する一五の法律があった︒しかしこれらは︑その地方自治体に義務や制限といった不平等な制度を特例的
に課すものではなく︑実はメリットを与えるような性質の法律であり︑制度本来の趣旨から逸脱しており︑﹁そもそ
(4 )
もこのようなものを住民投票にかけること自体︑意味がない︑全く実益がないもの﹂で﹁憲法上︑その手続を必要と
(5 )
するものではなかった﹂という︒投票結果も︑表1の通り︑どれも大差が付いた賛成となっている︒
また︑特定地域への不利益という点で考えれば︑同条でいう地方自治特別法に該当する法律は他にも存在するよう
にも思えるが︑解釈的な問題が存在する︒すなわち︑橋本勇氏によれば﹁たまたま特定の地方公共団体の地域を対象
とするものであっても︑それがその地域で行われる国の事務・事業や国の機関を定める法律である場合︵地方公共団
体の組織︑運営︑権能に関しないものである場合︶︑その法律による規定内容が当該地方公共団体に特別の利益を与 指摘していきたい︒
関法
第二節
一九四九年から五一年にかけて一八の地方
六〇
表1 憲法第95条に基づく地方自治特別法についての住民投票の実施事例の結果 住
民 投 票 の 背 景
・ 現 状
・ 課 題
自治体 法 律 投票 得 票 率
国会通過日 投票実施B
率 賛成反対
広 島 市 広島平和記念都市建設法 1949.5.11 1949.7. 7 65.0 91.8 8.2
長 崎 市 長崎国際文化都市建設法 1949.5.12 1949.7. 7 73.5 98.5 1.5
横須賀市 旧軍港都市転換法 1950.4.22 1950.6. 4 69.1 90.8 9.2
佐世保市 旧軍港都市転換法 1950.4.22 1950.6. 4 88.9 97.3 2. 7
呉 市 旧軍港都市転換法 1950.4.22 1950.6. 4 81.5 95.8 4.2
舞 鶴 市 旧軍港都市転換法 1950.4.22 1950.6. 4 74.2 84.5 5.5
東 京 都 首都建設法 1950.4.22 1950.6. 4 55.0 60.2 39.8
伊 東 市 伊東国際観光温泉文化都市建設法 1950.5. 1 1950.6.12 54.9 64.1 35.9
別 府 市 別府国際観光温泉文化都市建設法 1950.4. 7 1950.6.15 79.8 92.5 7.5
熱 海 市 熱海国際観光温泉文化都市建設法 1950.5. 1 1950.6.28 60.4 82.7 17.3
横 浜 市 横浜国際港都建設法 1950.7.27 1950.9.20 39.5 89.7 10.3
神 戸 市 神戸国際港都建設法 1950.7.27 1950.9.20 43.3 84.3 15.7
京 都 市 京都国際文化観光都市建設法 1950.7.27 1950.9.20 31.5 69.4 30.6
奈 良 市 奈良国際文化観光都市建設法 1950.7.27 1950.9.20 73.5 74.0 26.0
芦 屋 市 芦屋国際文化住宅都市建設法 1950.2. 7 1951.2.11 56.3 77.7 22.3
松 山 市 松山市国際観光温泉文化都市建設法 1950.2. 7 1951.2.11 56.5 83.5 16.5
松 江 市 松江市国際観光文化都市建設法 1950.2. 7 1951.2.11 71.9 75.9 24.1
軽井沢町 軽井沢国際親善文化観光都市建設法 1951.5.28 1951.7.18 81.2 92.6 7.4
平 均 64.2 83.6 15.8
出所:坂田期雄『新しい都市政策と市民参加」,ぎょうせい, 1978年, 317頁の表。
注:単位は%。賛成・反対の得票率は,得票数を有効投票総数で割った値である。
:最下行は,順に,投票率,各投票の賛成の得票率,反対の得票率の各平均値である。
六 保存および生活環境の整備等に関す の
沖縄
復帰
特別
措置
法︑
れに応じた立法技術を駆使すること
区の区長公選制の廃止︑
︵三
ニ︱
)
一九
五二
年
一九
七一
年
一九
八
0年
の﹁明日香村における歴史的風土の の地方自治法改正による東京都特別 五0年の北海道開発法︑ 実際︑対象になると思われた一九 によって︑住民投票が回避されてい
(6 )
る状況にある﹂という︒ に該当しないという政府解釈及びそ する場合等はここでいう地域特別法 る地方公共団体の指定を制令に委任 的︑抽象的に定め︑その適用を受け 地方公共団体についての特例を一般 微なものである場合︑
一定
の範
囲の
えるにすぎない場合や特例事項が軽
第五三巻二号
(7 )
る特別措置法﹂が︑地方自治特別法には該当しないと判断された︒
憲法第九五条は︑制度の運用面において現在の国と地方の間の問題状況に即しておらず︑
と言
える
︒
一 方 ︑
︵三
二二
︶
一九五一年以降一度も同
条の住民投票は実施されておらず︑本来の制度目的を一度も果たすことなく︑現在では同条の存在意義は薄れている
なお︑戦後︑現在まで︑都道府県の廃置分合・境界変更︑名称変更が行われていないため︑それに伴う地方自治特
別法の住民投票が行われたことはない︒今後は︑市町村合併の進展に伴い︑都道府県の境界を超えた市町村の合併︑
さらには都道府県同士の合併も予想されるため︑﹁第二七次地方制度調査会﹂では︑都道府県の合併等に関しても個
(8 )
別の法律の制定を必要としない仕組みに改めるべきかどうかについて検討が始まっており︑もし︑自治法第六条が改
正され︑都道府県の廃置分合・境界変更︑名称変更の際に︑地方自治特別法の住民投票が必要でなくなるとすれば︑
憲法第九五条の存在意義はますます薄れるだろう︒
国レベルの制度について︑他国と比較してみると︑日本の制度は戦後のドイツに最も近いと言えよう︒ドイツの国
レベルの国民投票・住民投票制度は︑基本法改正の義務的国民投票制度と︑州の廃置分合・境界変更の際の住民投票
制度とに限られており︑日本の制度と符合する︒ただし︑ドイツの制度は︑州の再編について地域住民も一/一0の
フランスには︑国レベルにおいて︑憲法改正と領土変更以外の住民投票制度としてもう一っ︑憲法第︱一条
の重要法案のレファレンダムという制度がある︒これと︑日本の憲法第九五条とは︑重要な法案を対象としている点
で一見似てはいるが︑しかし︑前者は選択的・諮問的な国民投票︑後者は一応制度上は義務的・強制的な住民投票で 署名で直接請求できる点が特徴的である︒
関法
六
ない
︒
六 ︵多くは前回知事選の投票者総数の一︱‑│
(9 )
あるという違いがあり︑また︑前者は対象範囲が広く少ない回数ながらも実際的に活用されており︑存在意義の大き
い制度であるのに対し︑後者は前述の通りここ半世紀利用されておらず制度の意義は薄く︑フランスのこの制度と同
このように︑日本の国レベルの国民投票・住民投票制度は︑制度の外観では先進国に引けを取っていないものの︑
地方レベルの制度的不備
それでは次に︑地方レベルの制度の検討に移ろう︒まず︑イニシアティヴ制度の不備であるが︑自治法第七四条の
条例制定改廃請求制度について見てみると︑議会での可決成案率は一0・八%となっており︑各リコール制度の成功
( 1 0 )
率と比ぺても︑大いに狭き門になっている︒
可決率が低いことも問題であるが︑この制度の一番の問題点は︑議会が請求を否決した後の進路が何も用意されて
いないことである︒例えば︑アメリカのイニシアティヴ制度であれば︑住民の立法請求が直接的に住民投票に付され
る寵接イニシアティヴ制度と︑いったん議会に諮られ︑その結果が否決や修正可決ならば住民投票に付される間接イ
ニシアティヴ制度があるのに対し︑この日本の条例制定請求制度は︑議会に委ねるところまでで終わっており︑直接
立法制度としては非常に不徹底な制度である︒実状は︑提案制度にすぎず︑本格的なイニシアティヴ制度になってい
また︑署名要件の一/五
0(
11
ニ%
︶
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
という比率自体は︑
(2) 内容︑運用面において劣っていると言えるだろう︒ 等には扱えない︒
アメリカ
︵三
二三
︶
五%︶に劣らないものの︑母数を︑アメリカのように直近選挙の投票者総数でなく︑有権者総数としていることで︑
さらに︑アメリカのイニシアティヴやレファレンダムの対象には︑地方税の賦課等の地方財政の根幹に関わるもの
( 11 )
も含まれる︒事案対象から地方税の賦課徴収等を除外している地方自治法の規定と︑固定資産税増税に対する納税者
の反乱と表現された有名なアメリカ・カリフォルニア州憲法修正のイニシアティヴ﹁提案一三号﹂等の事例とは︑非
( 12 )
ドイツの地方レベルには︑日本の条例制定請求制度と同様に提案だけの制度として︑州民発議制度という制度があ
るが︑これは︑請求者に議会審議における意見陳述の機会が用意されている点︑州によっては否決後︑州民請求︵州
民表決の実施の提案︶に進める進路が用意されている点が異なる︒
次にレファレンダム制度としての不備ということだが︑まず︑レファレンダム制度そのものがないということが不
備と言える︒それを踏まえて︑我が国で近年行われている住民投票条例の制定請求運動について︑その問題点を見て
みよ
う︒
第五三巻二号
︵三
二四
︶
ここ
一
0年ほどで急速に脚光を浴びてきた住民投票条例による住民投票においては︑首長提案や議員提案よりも︑
住民が条例の制定を直接請求するケースが多く︑その場合︑自治法第七四条によって請求・成立した条例を根拠とす
るため︑その手続きも問題点も︑前述した条例制定請求制度とほぼ同様である︒直接請求された住民投票条例案の可
( 13 )
決率九・七%は︑前述の条例制定改廃請求制度全体の可決成案率とほぼ同じであり︑住民投票条例の直接請求にとっ
ても同様に議会が大きな障壁となっている︒議会での採決がいわば終着点であり︑否決後の進路は特に準備されてお 常に対照的である︒ 日本の方が厳しい要件だと言える︒ 関法
六四
ょ う
t︒ るしかないのである︒
六五
らず︑再度直接請求するか︑例えば首長リコール活動に移行しリコール住民投票で勝利した後の首長選か次期首長選
において︑実施支持派首長を擁立︑推薦︑支援して当選させ︑首長提案するか︑さらに次期議員選において住民投票
実施支持派の議員を擁立︑推薦︑支援して当選させ︑議会構成を逆転させ︑議員提案︑可決に持ち込む等の戦略を採
また︑条例に基づく住民投票の投票結果の効力については︑多数説では︑その都度個別事案ごとに設けられる条例
であ
って
も︑
一般化した形で常設で設けられる条例であっても︑法的拘束力は有しないと解されている︒すなわち︑
憲法第九四条でいう﹁地方公共団体は︵中略︶法律の範囲内で条例を制定することができる﹂という規定に関しては︑
法律によって定められた首長や議会の権限を条例が制限することはできないと解され︑条例の条文において首長や議
会が住民投票の結果に拘束される旨の記述は違法であり︑認められないと解されている︒しかし︑首長はその事務の
処理に際し投票結果を尊重するという尊重規定は問題なしとされている︒
このように法的拘束力のない住民投票とはいえ︑議会が制定する条例に基づくものであり︑また︑主権者である住
民の直接的な意思表明として明確で分かりやすい手段であるため︑世論に対するインパクトは大きく︑関係者に対す
る政治的・心理的な効果は実際に認められる︒そうした効果がそもそもの狙いであるとも言えるかもしれない︒また︑
( 1 4 )
﹁住民投票の事実上の拘束力は︑長の解職請求や議会の解散請求により担保されることになる﹂という考え方もでき
しかし︑こうした条例制定請求制度を経由する不確実な住民投票の方法は︑他国では見られない我が国の事情特有
の窮余の一策と言えるだろう︒他国の制度と比較してみよう︒
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
︵三
二五
︶
フラ
ンス
は︑
第五三巻二号
アメリカのレファレンダム制度は︑州・自治体によって内容が異なるが︑m特定事項についてはレファレンダム
にかけ承認を得ることが義務づけられている義務的・強制的レファレンダム︑②主に︑世論が割れる問題が対象で︑
レファレンダムの実施が議会の裁量に任されている選択的・諮問的レファレンダム︑③可決された法律の発効を阻
止するための手段である請願的・抵抗的レファレンダムの三つがあり︑充実した制度を有している︒日本の制度に照
らし合わせてみると︑①は︑要件が成立すれば住民投票が実施されるという意味で︑現在︑憲法第九五条の地方自治
特別法の住民投票︵前述の通り法解釈によって回避されることもあるため実質は完全に義務的・強制的とは言えな
い︶と︑自治法の議会解散請求︑首長・議員の解職請求に伴う住民投票のみが辛うじて該当し︑②は︑実態として現
状の住民投票条例に近く︑また︑議会や首長にも住民投票実施発議の権限を設けている常設型住民投票条例にも近い
が︑アメリカのように正式なレファレンダム制度となっておらず︑③も現在存在しない︒
ドイツでは︑州民発議︑州民請求︑市民発議︑市民請求という間接イニシアティヴ制度の︑議会否決後の最終決定
( 16 )
制度として︑法的拘束力を有した州民表決︑市民表決という住民投票制度がほぼすべての州で制度化されており︑投
票結果に二重の要件に課すなど制度構造に工夫が見られ︑進んだ制度となっている︒
一九九二年以前は日本と同様に︑市町村合併を除き︑政策型住民投票制度が法制度化されておらず︑
( 17 )
慣習的に住民投票を行っていた︒
度化されたのだが︑法整備により様々な制限が加えられ︑それ以前の自由な運用状態に比べ抑制的になったと言われ
( 1 8 )
ている︒この制度は︑大方︑議会や首長側の提案による選択的・諮問的レファレンダムの制度で︑しかも拘束力がな
( 19 )
いことを明記した規定があり︑さらに当該自治体の権限事項に厳しく限定されているため︑制度化したとはいえ︑実 関法
一九九二年に﹁共和国の地方行政に関する指針法﹂の中で政策型住民投票制度が制
六六
︵三
二六
︶
母数も比率も両方厳しいと言える︒
六七
施のインパクトは小さいものとなっている︒しかし︑政策型住民投票制度を制度化したという点だけで日本より一歩
最後に︑リコール制度についても触れておこう︒特に首長や議員の解職請求において問題となっているのが︑リ
コールの制度目的外使用である︒すなわち︑解職請求は︑首長や議員個人の総合的な政治的資質を問うことがそもそ
もの制度目的であるにもかかわらず︑首長や議員のある特定の政策課題についての態度を問い質すべく︑この制度を
( 20 )
住民投票の代替手段として活用するケースが増えている︒リコールにまで至る場合︑そこには複雑な事情が絡んでい
るため一概に目的外使用だと断定することはできないが︑リコールで特定の政策課題についての態度を問い質す事態
に至る一番の原因は︑政策型住民投票が整備されていないことだと言ってよいであろう︒なお︑皮肉なことに︑議会
解散請求と首長・議員解職請求に伴う住民投票が︑戦後の我が国において最も頻繁に行われてきた住民投票である︒
リコール一般の問題点としては︑署名要件の厳しさと署名収集期間の短さという点が指摘されている︒特に署名要
件については︑アメリカの場合︑請求に必要な署名数が︑
五%︶であるのに対し︑日本の場合は︑有権者総数の一/三以上の署名という要件になっており︑日本のリコールは︑
第三節住民投票の原因と影響
前節では︑我が国の住民投票制度に制度的不備があることを明らかにしたが︑本節では︑政治学的観点から︑住民
投票の背景として︑住民投票への関心と期待が高まり︑住民投票の制度整備が求められるようになった原因︑住民投
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
進んでいると言えよう︒
一般的に︑前回知事選の投票者総数の一定比率(‑五ーニ
︵三
二七
︶
第五三巻二号
票の意義や効果︑住民投票に対する疑問や問題点について考察してみたい︒
そもそも住民投票という政治的手法に関心の目が向けられるようになったのはなぜか︑つまり︑住民投票の政治的
原因について︑振り返ってみたい︒個々の住民投票運動の事例ごとに様々な歴史的政治的背景が存在しているが︑ほ
ぼすべてに共通する根本的な背景として考えられるのは︑間接民主主義的制度の機能不全とそれへの不信感︑そして︑
それに伴う住民の意識的変化︑すなわち︑参加意識の向上︑自己決定要求の増大だろう︒
︵三
二八
︶
まず大きな背景的要因と考えられるのが︑議会制度︑選挙制度︑政党制度等の間接民主主義的制度の機能不全とそ
れに対する住民の不満︑不信感であろう︒例えば︑議会制度で言えば︑形骸化された審議︑議会の政策立案能力や住
民意思統合能力に対する疑問︑有権者と議員の平均像の不一痴選挙制度で言えば︑定数不均衡を生む不平等な選挙
制度︑争点回避や争点隠し︑無風選挙︑政党制度に関して言えば︑政党の離合集散︑派閥政治︑多党相乗り首長︑そ
の他汚職事件の続発による金権癒着談合政治の暴露等により︑現行の仕組みでは自らの考えが政治に十分に反映され
ていないという政治的有効感の欠如を感じる住民が増えてきたと考えられる︒
地方自治体の通常の選挙︑特に首長選挙についても︑住民にとって︑そこでの投票は例えば︑総合的・多角的な人
物評価であったり︑党派に基づく選択であったり︑縁故的な選択であったり︑政策重視であったとしても包括的で曖
昧な政策パッケージの妥協的選択であったりし︑そうした選挙の投票において︑住民が個々の政策判断についての意
思表明を行い︑それを具体的な政策として首長や議員に実現してもらうことまで期待するのは困難であろう︒また︑ ①
原 因
関法
六八
六九
漠然とした期待で一応委任したとはいえ︑その通常選挙の時点で浮上しておらず争点化していなかった問題について
まで︑住民は︑意思決定を︑選出した首長や議員に白紙委任したわけではないとも言えよう︒やはり︑将来への影響
の大きい政策︑事業の意思決定に際しては︑個々に︑住民が意思表示し︑民意を示す機会が必要であるという認識が
ただ︑住民参加の手段としては︑従来より︑公式・非公式問わず︑例えば︑条例制定改廃請求・事務監査請求・各
種解職請求等の直接請求制度︑住民監査請求︑住民訴訟︑町村総会︑公聴会の公述人︑参考人︑陳情︑審議会︑請願
権︑自治体主催の住民集会︑対話集会︑住民代表委員会︑住民意識調査︑アンケート調査︑提言・意見募集等があっ
た︒しかし︑これらの制度だけでは︑自治体の政策決定に地域住民の意向が十分に反映されてきたとは言えず︑さら
には︑国の政策決定に地方自治体とその住民の意向を十分に反映させる制度も不十分であったと考えられる︒
国全体の中の都市部と地方との関係で︑特に原発や基地といった影響が甚大な迷惑施設を特定の地域に押しつける
形になる場合は︑憲法に第九五条が設けられた趣旨から考えても住民の意見は個別に聞き尊重すべきと思われる︒住
民意思の的確な反映のための仕組みや取り組みの不十分さに加え︑行政や議会が情報を公開せず地域住民を蚊帳の外
に置いたまま物事を決定していく傾向もあり︑政策決定過程における民意不在の状況に住民は不満や不信を募らせて
きたと思われる︒
( 22 )
こうしたことから﹁住民の意思が直接政治的意思決定に反映される直接民主主義の典型的制度である﹂住民投票制
度にスポットライトが当たったのであろう︒地方の政治制度では国政よりも直接民主主義的要素が取り入れられてい
るものの︑全般的に︑間接民主主義的制度と直接民主主義的制度とのバランスが前者寄りである我が国の政治制度に
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
広がってきたのであろう︒
︵三
二九
︶
る ︒ ま
た︑
ていたということであろう︒
第五三巻二号
民主主義を補うことができるかもしれないと考えられている︒
︵三
三
0)
おいては︑住民投票の積極的活用︑住民投票制度の整備拡充は︑後者の直接民主主義的制度の比重をわずかに高める
ため︑その相互補完的な関係における均衡を取り戻し︑形骸化や機能不全が指摘される間接民主主義的制度︑議会制
ところで︑住民参加︑政治参加は︑政治体系の中で入力に分類されるが︑特にこうした住民投票が求められている
( 2 3 )
場合は︑その入力は﹁注意をうながす黄信号﹂の要求︑または﹁停止を求める赤信号﹂の反対ないし不支持であろう︒
これらの入力に政治体系内部の政治リーダーが適切に反応できれば︑政治体系は安定し︑住民の支持︑信頼感が保た
れるが︑既存の制度では︑そうした入力を十分に捉えることができず︑適切に反応しえていなかったため︑政治体系
が不安定となっていた︒そこからの出力すなわち政策の実施が環境に影響を及ぼし︑その環境からフィードバックさ
れた入力は︑ますます不満︑不信︑幻滅を伴う黄︑赤信号となっていて︑その一部が︑住民投票運動として表面化し
一方︑そうした不信感や苛立ちから︑住民自身に意識的な変化︑すなわち政治参加意識と自治要求の高まり
が生まれてきたとも考えられる︒これも︑重要な住民投票の背景的要因であろう︒﹁地域の財政︑環境に多大な影響
を及ぼす施設や事業という重要で身近な問題についてはそこに住む自分たちで決めよう﹂という自己決定権の主張が
各地の住民投票運動の事例でよく見かけられる︒住民投票という制度は︑既存制度に失望していた人々にとっては︑
新たな政治参加の手段として希望が持てるものであり︑しかも︑極めて直接的な意思表明が可能で︑最も原始的で単
純な政治的意思決定の手段であり︑効果はさておきウルティマ・ラティオ︵最終手段︶としての期待が向けられてい 関法七〇
においてもそうした効果は見かけられる︒ く
であ
ろう
︒
意義と効果
七
こうしたことを背景に︑住民投票という手段が注目され︑期待が集まり︑住民投票運動が活発化する中で︑逆に︑
より一層︑その制度的貧困さが明らかになり︑政策型住民投票制度の導入が希求されるようになったと考えられる︒
今後も︑以上のような背景的原因が解消されない限りは︑異議申し立て︑問題提起として住民投票を求める動きは続
2 住民投票の必要性や意義といったものは︑ここまでの住民投票の背景についての考察の中において浮かび上がって
きているが︑改めてここで︑積極的︑希望的視点からの住民投票とその制度拡充の意義や効果について再確認してお
まず︑住民にとって︑住民投票は︑個別的な政策の変更や転換を求めたり︑新たな問題への判断を示すなど︑地方
レベルの政策決定に何らかの影響を与えようとする集合的な政治的意思表現行為であると言える︒個別政策に対する
意思表示としては︑住民投票は他の諸制度と比べ︑最大の効果を持つであろう︒そういう意味で住民投票には︑民意
ところで︑住民投票というのは︑根本的には︑住民の問題提起であり︑異議申し立ての表明である︒住民運動とし
て︑主権者の直接的意思表明という手段により︑行政の暴走︑怠慢︑横暴に対する︱つの抵抗手段を獲得したという
こと︑投票の実施に至らずとも世論の喚起や反対勢力の結集につながること等の効果も期待されている︒実際︑事例
住民
投票
の背
景・
現状
・課
題
反映手段としての意義が認められる︒ き
たい
︒
︵三
三一
︶
ケースが各事例で見られる︒ 第五三巻二号
︵ ︳ ︱ ‑
三 二 ︶
また︑問題提起としての住民投票は︑地域の重要施策についての合意形成・意思決定過程の主導権の一時的移動の
契機となっている︒その主導権は基本的に︑行政や議会にあるが︑通常︑政策形成能力の違いから︑首長を中心とし
た官僚組織が主導権を握っていると考えられる︒そうした中︑住民が︑ある政策争点についての住民の集合的意思を
確認するための住民投票を要求して問題提起することによって︑その問題は公式に争点化され︑住民が主導権を取る
形に
なる
︒
現状の︑条例制定請求権を活用する形の住民投票運動においては︑その主導権は︑
案を審議︑議決する議会に託される形になるが︑そこで可決すれば︑主導権を握ったまま住民投票の実施︑結果への 一旦︑直接請求の住民投票条例
反映︑その政治的影響力の発現に至るであろうし︑議会で条例案が否決となった場合でも︑住民団体の結束と既存組
織との連携があれば︑議員選︑首長選または議会解散リコール︑首長リコールにおいてもその主導権を保持しうる
また︑もし︑ある住民投票が諮問型というよりもアンケートに近い位置づけであったとしても︑それはそれで︑議
会や行政が︑個別的争点についての住民の選好︑民意を知りえる︱つの機会であると言え︑また同時に︑住民参加の
点から見れば︑新しい参加のチャネルであり︑地方議会や審議会の審議を補いうる︱つの意見集約︑合意形成手段で
あるとも言えるだろう︒
さらに︑地域にとって重要な個別的政策課題については住民自ら判断できる機会を持つということによって︑派生
的効果として︑住民の主権者としての自覚の再確認になりえるかもしれない︒より楽観的には︑住民投票に向けて付
随的に︑情報公開︑情報提供が進み︑議論が活発になり︑住民が地域の問題に関心を持つようになり︑住民投票とい 関法
七
う︑政治参加の重要性を認識できる学習機会を得て︑参加意識が促進されるなど︑民主主義の学校としての地方自治
という観点からの意義もありうるかもしれない︒なお︑情報公開は︑住民投票の最大の副産物であると言えるが︑よ
り重要なのは︑住民投票の前提条件であるということである︒
七 一
その他の効果︑影響としては︑個別的な政策の是非を問う政策型住民投票制度が法制度化された場合︑通常選挙が
特定の争点のみに引きずられることが少なくなり︑同様に︑リコール制度の目的外使用が沈静化することも考えられ
るだろう︒また︑制度化された場合︑﹁現在住民投票に期待されている過大ともいえる役割が後退し︑本来あるべき
( 2 4 )
住民からの政策提起と意思決定への部分的参加という補完的役割に落ち着いてくることが予測される﹂とも言える︒
ここまでは︑どちらかといえば住民投票の積極的な活用・促進という観点から考察してきたが︑最後に︑住民投票
に対する疑問や課題について確認しておきたい︒ただし︑法的︑制度論的な問題点は第三章で取り上げる︒
住民投票に対しては様々な問題点や疑問︑批判があるが︑根本的に︑個別的な政策の判断において︑議会の議決に
よる判断と住民投票で示された判断とどちらが優先されるのか︑という疑問がある︒なお︑ここでは︑法的拘束力を
持った住民投票制度を想定して話を進めよう︒
さて︑この論点に対する考えは︑極めて大まかに分ければ︑a.間接民主主義を現代の民主主義の原則と考えてそ
の良さや意義を評価し直接民主主義を補助的に考えるか︑b.直接民主主義を民主主義の原点や理想と捉えて間接民
( 2 5 )
主主義はそれに代わる現実的便宜的な次善のものと考えるか︑といった思想的な違いになるだろう︒
住民
投票
の背
景・
現状
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題
③ 問 題 点
︵ 三
三 三
︶
第五三巻二号
aの立場は︑政治は代表者に任せるのが原則と考え︑代表者による議会での議決を優先し︑住民投票等の直接民主
主義的制度は最小限の範囲で限定的補助的に利用するまたはほとんど認めないという考え方であろう︒大局的見地︑
長期的展望︑公益の観念を持つ代表者の集合体としての議会における集中的で実務的な討論の良さや︑議会審議とい
う柔軟な政策決定過程をメリットとして強調し︑住民投票の直裁的二者択一的な単純さ安直さを批判する︒
さらに︑現代の民主主義の原則が代表制民主主義・間接民主主義であるのは︑直接民主主義の現代における規模的
技術的困難さから来ているのではなく︑直接民主主義に対する懐疑︑より根本的には大衆不信から来ていると主張し︑
高度に専門化された複雑な現代社会における︑気まぐれで私利的で短期的利益に目敏い知識不足の政治素人による直
接的な政策判断や政策決定に対する不安︑少数者への抑圧や地域エゴイズムにつながる不適切な結論を招くという危
( 26 )
惧︑すなわち衆愚政治に至るという懸念を訴える考えも見られる︒さらに︑根本的に大衆は代表者を選ぶ能力は備え
ているが具体的な政策を判断する能力は通常持ち合わせていない
( 27 )
に任せるべきである︶というような大衆批判もある︒
直接民主主義の現代における規模的技術的困難さに対しては︑制度設計的観点や現代の情報通信技術活用の点から
克服可能であると反論することもできるが︑後半の懐疑的批判や懸念は当を得た部分もあり︑慎重な検討が必要であ
ろう︒まず︑住民と議員との間の教育水準・知識水準には大差はなく︑複雑な現代社会では議員の守備範囲はむしろ
比較的狭く︑議員があらゆる事項の専門家でいるのは困難であり︑住民の間にこそ各分野の専門家が存在するとも言
える︒ただ︑地域全体の多様な政策を立案︑検討できる時間的余裕が住民にはないのも確かである︒
一方︑大局的見地︑長期的視野︑公益の観念といったものを住民は持ちえないまたはその点において代表者よりも 関法
︵そのため代表者を選んだ後は代表者の討論や決定
七四
︵三
三四
︶