口頭表現対話にみられる初級・中級学習者の やりとりの考察
― アカデミック日本語 Can-do リストの指標と関連して ― 藤森 弘子
【キーワード】・ 口頭表現対話、交流型授業、インターアクション分析、アカデミック 日本語 Can-do リスト(AJ・Can-do リスト)
1. はじめに
授業の中で何が起こっているかを可視化するのは難しい。初級はほぼゼロ状態 から学ぶので、上達したと感じる度合いが高いといえるが、中級以上になると上 達したかどうかを認識するのは難しいようだ。藤森他(2011:129-132)によると、
学習者自身の日本語能力に対する上達認識度調査の結果では、初級は他のレベル に比して上達認識度の平均値が最も高く、中級学習者は逆に最も低かったという。
特に会話能力については中級だけでなく、初級・上級でも他の技能能力に比べて 伸びたという認識が低かったとしており、「話す」「書く」などの産出能力は、「読む」
「聞く」などの受容能力に比べて伸びを自覚しにくいのではないかと指摘している。
第二言語学習において学習者の言語運用能力を高めることが重要なのは言うま でもないが、その学習者がどのぐらいの能力であるのかを客観的に示すのは難 しい。2000 年代に入って、運用能力を示す指標の一つとして、CEFR(ヨーロッ パ言語共通参照枠)が開発されヨーロッパを中心に広がり、アジアの国々や日 本においても参照されるようになってきた(投野 2013:59-6,・富盛 2014:69)。日 本語教育においても、熟達度に応じて「~ができる」といった can-do 記述文で行 動目標を明示することが多くなり、「JF 日本語教育スタンダード」(国際交流基金 2010)や「JLC 日本語スタンダーズ」(東京外国語大学留学生日本語教育センター 2011)やその他の大学等の機関においてもそれぞれの目的に応じて到達目標を示 すようになってきた。その流れの中で、本学の「全学日本語プログラム1」の初級
1・ http://www.tufs.ac.jp/student/international_student/Japanese_Program.html 参照のこ と。
東京外国語大学
留学生日本語教育センター論集 45:95~111,2019
から上級(超級)までのレベル別・技能別授業担当教員らの現場の声を生かしつつ、
教育工学の授業設計の知見や、先の CEFR 等を参考にして「JLPTUFS アカデミッ ク日本語 Can-do リスト(以後、AJ・Can-do リスト)」が開発された2(鈴木 2018、・
鈴木他 2012,・2013,・2014,・2015)。
本稿では、全学日本語プログラムの初級および中級クラスにおいて「日本でびっ くりしたこと」というテーマで自己の体験を語り、その後の参加者間のやりとり の事例を比較することにより、学習者の口頭表現対話能力の違いがどのような点 に表れているかその特徴を考察した上で、AJ・Can-do リストとの関連性も考えた い。
2.アカデミック日本語と AJ Can-do リスト
アカデミック日本語について、横田(1990)は日本語教育から専門教育への「橋 渡し教育」が必要であるとし、言語と内容を統合した「技能養成プログラム」や「研 究目的のための日本語プログラム」により、当該能力が培われるとしている。門 倉(2006)では、アカデミック日本語は「知的教養」と「コミュニケーション力」か らなり、その教育は専門領域の学び方を学び、自己発信・他者とのつながりを目 指す、留学生および日本人学生両者を包括した教養教育であるとしている。一方、
「AJ・Can-do リスト」では、①大学での勉学に必要な言語要素の習得や言語運用の スキル、②大学教育で求められる問題発見や批判的思考力・対照比較分析能力と いった①②両者を統合した総体を指す(鈴木他 2010)。
2012 年に本学留学生日本語教育センターは「全国教育共同利用拠点3」として文 部科学省より認定を受け、「日本語教育連携部門」「教材開発部門」「日本語教育実 践研修部門」の 3 部門が設置された(藤村他 2014,拠点推進委員会 2017)。
拠点事業における開発の一つとして、「アカデミック日本語」に特化して参照で きるよう(藤森 2014:52-54)、can-do リストの汎用化のための改訂を行い(鈴木 他 2012,・2013,・2014)、その妥当性の検証を行ってきた(鈴木・藤森 2014ab,・2015、
藤森・鈴木 2016、藤森 2016ab,・2017a、藤森・鈴木 2017、鈴木 2018)。特に藤森 他(2017)では、以下の 3 点を中心に検証が行われた。
2・ http://www.tufs.ac.jp/common/jlc/kyoten/development/ajcan-do/ でウェブ公開されて
3・ 2012 年度より、文部科学省から教育共同利用拠点(外国人のための日本語教育)に認定さいる。
れた。http://www.tufs.ac.jp/common/jlc/kyoten/center/index.html 参照。
(1)日本語学習者への自己評価による・can-do・リストの妥当性の検証
(2)日本語教員への並べ替え調査による・can-do・リストの妥当性の検証
(3)アカデミック日本語共通評価指標のサンプル・モデル化
上記のうち、(3)は日本語学習者の産出物による評価であり、2014 ~ 2016 年にか けて、本学の全学日本語プログラムにおけるレベル別の日本語クラスで学生によ り産出された作文、口頭発表及びロールプレイ会話等の音声・動画を収集4した ものである。
3.AJ Can-do リストと日本語学習者の産出サンプル 3.1 AJ Can-do リストの構成
AJ・Can-do リストは、日本語能力を初級から上級(超級)までの 8 段階に分け、
さらに「読解」「聴解」「文章表現」「口頭表現(独話/対話)」の 4 技能に分けて、日 本語で何ができるかを「~できる」という記述文で示し、リスト化したものである。
① Can-do 目標、② Can-do 目標細目、③全レベル共通目標から構成されている。
本リストの特徴は、問題解決能力、批判的思考力、アカデミックインターアク ションなど大学教育及び研究場面で求められる能力記述を主とし、日本語の各技 能がどのように上達するのかを各技能の特徴も鑑み、記述した点にある。それに 対して、CEFR や JF 日本語教育スタンダードは一般の外国語及び日本語話者の 能力を想定したものである。
3.2 AJ Can-do リストの指標と日本語学習者の産出サンプル 3.2.1 口頭表現独話のサンプル
【表 1】は AJ・Can-do リスト「口頭表現独話」のレベル別リストの一部である。
4・ 口頭表現独話・対話の音声・動画収集は当時本学助教の岡葉子氏と筆者が担当した。
【表 1】AJ Can-do リスト口頭表現独話の Can-do 目標及びテーマ・トピック例
Can-do 目標とテーマ・トピック例が示されており、初級レベルでは「身近なこと」、
中級レベルでは「社会・文化的なこと」、上級レベル以上では「時事的・専門的な こと」が発表(プレゼンテーション)のトピックであり、段階的な指標になってい る。
全学日本語 Can-do プロジェクトでは、2014 ~ 2016 年にかけて本学の全学日 本語プログラムの各レベルの日本語クラスで学生により産出された作文、口頭発 表及びロールプレイ会話等の音声・ビデオ録画を産出物として収集し、その中か ら各レベルの目安として、「学生のサンプル」を抽出した5。以下【表 2】は、口頭 表現独話の発表のサンプルである。
学の全学日本語プログラムの各レベルの日本語クラスで学生により産出された作文、口 頭発表及びロールプレイ会話等の音声・動画を収集4したものである。
3.AJ Can-doリストと日本語学習者の産出サンプル
3.1 AJ Can-doリストの構成
AJ Can-doリストは、日本語能力を初級から上級(超級)までの8段階に分け、さら
に「読解」「聴解」「文章表現」「口頭表現(独話/対話)」の4技能に分けて、日本語で何 ができるかを「~できる」という記述文で示し、リスト化したものである。①Can-do目
標、②Can-do目標細目、③全レベル共通目標から構成されている。
本リストの特徴は、問題解決能力、批判的思考力、アカデミックインターアクションな ど大学教育及び研究場面で求められる能力記述を主とし、日本語の各技能がどのように 上達するのかを各技能の特徴も鑑み、記述した点にある。それに対して、CEFRやJF日 本語教育スタンダードは一般の外国語及び日本語話者の能力を想定したものである。
3.2 AJ Can-doリストの指標と日本語学習者の産出サンプル
3.2.1口頭表現独話のサンプル
【表1】はAJ Can-doリスト「口頭表現独話」のレベル別リストの一部である。
【表1】AJ Can-doリスト口頭表現独話Can-do目標及びテーマ・トピック例
4 口頭表現独話・対話の音声・動画収集は当時本学助教の岡葉子氏と筆者が担当した。
レベル Can-do目標 テーマ・トピック例
初級Ⅰ ・自分の出身や専門、趣味など、ごく身近なことに ついて、簡単に話せる。
自己紹介/毎日の生活/私の国の紹介/私 の好きな〇〇
初級2 ・自分の経験や感想など、身近なことについて、
1~2分程度の簡単な発表ができる。 日本でびっくりしたこと/学校生活/休み
の計画/私の国の習慣 中級1 ・身近なことについて、わかりやすい構成で、3分
程度の発表ができる。
将来の希望/料理の紹介/自国の文化紹介
/日本で感じたこと 中級2 ・やや社会・文化的なことについて、決められた型
に倣って、5分程度の発表ができる。 町で見つけた面白いもの/地域の名所の紹 介
中上級 ・社会・文化的なことについて、7分程度の発表が
できる。 自国のニュース/人口問題/環境問題
上級1 ・時事的、やや専門的なことについて、論理的にま とめて、発表できる。
自国と日本の社会制度/文化/習慣などに 関する比較対照/私の提言
上級2 ・時事的・専門的なことについて、研究発表や調査 発表ができる。
・聞き手に配慮しながら、説明・論述できる。
学生の専門に関連するテーマ
超級
・時事的・専門的なことについて、研究発表や調査 発表ができる。
・聞き手や場面に応じて、流暢に説明・論述でき る。
学生の専門に関連するテーマ
5・ 本人の承諾を得た上で、学生の産出物である作文や音声・動画を収集した。ウェブへの 公開用も別途承諾を得た。
【表 2】学生による口頭表現独話のサンプル
【表 2】のサンプルについては、各発表の最初の部分と〈中略〉をはさんで、中間部、
結論部と分けて 1 ~ 2 分程度の長さに編集してある。
3.2.2 口頭表現対話のサンプル
「口頭表現対話」レベル別リストの Can-do 目標とテーマ・トピック例は【表 3】
のとおりである。各レベルのクラスでの実際のやりとりを収集したが、サンプル 公開用の編集には至っていない。例えば、ディスカッション場面は一つの場面で も 20 ~ 30 分はかかり、短い時間にまとめることやレベルの違いを反映させるや りとりを抽出するのは困難であり、学生のサンプルによる口頭表現対話の目安 の提示方法は工夫する必要がある。また、中級以上のレベルにみられる「インタ ビュー」「ディスカッション」「ディベート」「ロールプレイ」などの活動はやりとり の特徴があるため認識しやすいが、初級 2(初級後半)「日常生活でよく使う語や 表現を使って、簡単なやりとりができる」、中級 1(中級前半)の「興味・関心のあ るトピックについて、相づちや聞き返しなどを使って、短い会話が続けられる」
というのはどのようなやりとりの特徴を指し、どこがどのように違うのかを認識 するのは難しい。そこで次章では、交流型授業における初級後半の学習者と日本 語母語話者のやりとりと、中級前半の学習者と日本語母語話者のやりとりを比較 し、考察を行う。
Can-do目標とテーマ・トピック例が示されており、初級レベルでは「身近なこと」、中級
レベルでは「社会・文化的なこと」、上級レベル以上では「時事的・専門的なこと」が発 表(プレゼンテーション)のトピックであり、段階的な指標になっている。
全学日本語Can-doプロジェクトでは、2014~2016年にかけて本学の全学日本語プロ グラムの各レベルの日本語クラスで学生により産出された作文、口頭発表及びロールプ レイ会話等の音声・ビデオ録画を産出物として収集し、その中から各レベルの目安とし て、「学生のサンプル」を抽出した5。以下【表2】は、口頭表現独話の発表のサンプルで ある。
【表2】学生による口頭表現独話のサンプル
【表2】のサンプルについては、発表の最初の部分と<中略>をはさんで、中間部、結論 部と分けて1~2分程度の長さに編集してある。
3.2.2口頭表現対話のサンプル
「口頭表現対話」レベル別リストのCan-do目標とテーマ・トピック例は【表3】のと おりである。各レベルのクラスでの実際のやりとりを収集したが、サンプル公開用の編 集には至っていない。例えば、ディスカッション場面は一つの場面でも20~30分はかか り、短い時間にまとめることやレベルの違いを反映させるやりとりを抽出するのは困難 であり、学生のサンプルによる口頭表現対話の目安の提示方法は工夫する必要がある。
また、中級以上のレベルでは「インタビュー」「ディスカッション」「ディベート」「ロー
5 本人の承諾を得た上で、学生の産出物である作文や音声・動画を収集した。ウェブに公開用も別途承諾を 得た。
レベル 音声/動画 出身国・地域 発表タイトル 採取時期
初級1 動画 ブラジル 私の国 2016春
初級2 動画 ミャンマー 日本でびっくりしたこと 2016春
中級1 動画 タイ 私のおすすめ料理 2016春
中級2 動画 フランス 町で見つけたおもしろいもの 2016春
中上級 動画 ニュージーランド ニュージーランドの人口推移 2016春
上級1 動画 イタリア ヨーロッパの移民問題 2016秋 上級2 動画 キューバ 外国語を学習するメリット 2016秋 超級 動画 韓国 日本のアニメキャラクターについて 2016春
【表 3】AJ Can-do リスト口頭表現対話の Can-do 目標及びテーマ・トピック例
4.初級後半と中級前半クラスでのインターアクション分析 4.1 交流型授業でのやりとり
全学日本語プログラムでは「交流型授業」と呼ばれる授業活動があり、本学の 学部生や大学院生に対して日本語クラスに来るボランティア参加者を募り、教室 活動に参加したり、学習者のスピーチ発表にコメントする、ディスカッションで 意見を述べ合うなどの交流6を行っている。本章では、接触場面においての会話 構築過程を質的に分析し、習熟度の違いによる特徴を考察する。
ルプレイ」などの活動はやりとりの特徴があるため認識しやすいが、初級2(初級後半)
「日常生活でよく使う語や表現を使って、簡単なやりとりができる」、中級1(中級前半)
の「興味・関心のあるトピックについて、相づちや聞き返しなどを使って、短い会話が続 けられる」というのはどのようなやりとりの特徴を指し、どこがどのように違うのか認 識するのは難しい。仮にサンプルを作るとすれば、実際の会話データをから各レベルの 特徴を表すやりとりを抽出し、サンプルとして編集し、改めて吹き替えて提示する方法 がよいのではないかと考える。
【表3】AJ Can-doリスト口頭表現対話Can-do目標及びテーマ・トピック例
4. 初級後半と中級前半クラスでのインターアクション分析 4.1交流型授業でのやりとり
レベル Can-do目標 テーマ・トピック例
初級Ⅰ
・基本的な挨拶ができる。
・易しい語や表現を使って、簡単な質問をしたり、
答えたりできる。
挨拶/買い物/注文
初級2
・簡単な依頼や要求をするなど、生活に最低限必要 なやりとりができる。
・日常生活でよく使う語や表現を使って、簡単なや りとりができる。
道聞き/病院での会話/旅行の予約
中級1
・身近なことについて、簡単な語や表現を使って、
意見を述べたり、質疑応答ができる。
・興味・関心のあるトピックについて、相づちや聞 き返しなどを使って、短い会話が続けられる。
学校生活の会話/日本での経験/自国の食 文化や習慣との比較
中級2
・やや社会・文化的なことについて、質問内容を事 前に準備して、簡単なインタビューやディスカッ ションができる。
・日常的な場面で、相手に応じて適切な語や表現を 使って、会話ができる。
私のキャリアプラン/自然と人間の関わり
/相手を知るためのインタビュー
中上級
・社会・文化的なことについて、質問内容を事前に 準備して、簡単なインタビューやディスカッション ができる。
・依頼・詫び・約束をするなど、適切な語や表現を 使って、会話ができる。
日本の不思議な習慣/自国の社会問題/依 頼・誘い・詫び・約束などのロールプレイ
上級1
・時事的、やや専門的なことについて、事前に準備 して、インタビューやディスカッションができる。
・相手に応じて、交渉を含めた依頼・詫び・約束を するなど、適切な語や表現を使って、会話ができ る。
社会・文化・習慣(同性婚・原発など)の 是非/交渉を含めた依頼などのロールプレ イ
上級2
・時事的、やや専門的なことについて、根拠のある 意見を述べながら、ディスカッションやディベート ができる。
・どんな場面や相手でも、適切な表現を使って、流 暢に会話が続けられる。
社会制度/文化/習慣(死刑制度・人口中 絶・メディアリテラシーなど)の是非
超級
・時事的、専門的なことについて、根拠のある意見 を述べながら、ディスカッションやディベートがで きる。
・どんな場面や相手でも、適切な表現を使って、流 暢に会話が続けられる。
学生の専門に関連するテーマによるディス カッション
6・ 現在はウェブ上での呼びかけ、メーリングリストにより毎月参加を募っている。
4.2 研究方法
【表 4】のように、初級後半(初級 2)と中級前半(中級 1)クラスでの交流型授業 の手順は、まず日本語学習者が「日本でびっくりしたこと」というテーマで発表し、
その後に日本人学生(NS)と日本語学習者(NNS)間で質問したり、意見交換した りする、ディスカッションという授業形態をとる。1 つのグループは 4、5 名で 構成され、やりとりの音声を文字化したものを分析対象とする。どちらのクラス からも 1 つのグループをランダムで選んだ。
【表 4】初級後半と中級前半クラスの交流型授業での音声データ
クラス 初級後半レベル 中級前半レベル
①採集時期 2015 年春学期 2014 年秋学期
②授業名 初級集中日本語(週 10 コマ) 中級 1 総合日本語(週 5 コマ)
③発表 テーマ 「日本でびっくりしたこと」 「日本でびっくりしたこと」
④授業の 流れ NNS による経験エピソード発表
→ NNS と NS によるやりとり NNS による経験エピソード発表
→ NNS と NS によるやりとり
⑤調査対象 NNS・5 名、NS・2 名、JT(教師)1 名 NNS・4 名、NS・2 名、
JT(教師)1 名
⑥録音時間 データ 74 分
音声データを文字化 75 分音声 データを文字化
本会話データは、NNS による日本での経験エピソード(Planned・discourse)と、・
NS と NNS・との質問や意見交換等のやりとり(Unplanned・discourse)という構造 から成るのが特徴である。なお、会話データの中には時折、日本語教師(JT)の 発話もみられる。
4.3 結果と考察
ここでは初級後半グループと中級前半グループにおいて、特徴的にみられたや りとり例を抽出して考察する。・
4.3.1 初級後半のやりとり
4.3.1.1 質問・応答(NS → NNS)の隣接ペア
まず、学習者 SA が「日本でびっくりしたこと」について発表した後のやりとり
である。SA は東京が首都でにぎやかで高い建物が多く、新宿は人が多いが、公 園はきれいで、花が多く、花見を体験して楽しかったと述べている。次にびっく りしたことは、日本人が道を教えてくれて親切だったこと、3 つ目には「日本の トイレはテクノロジーがあります」といった表現でウォシュレットを初体験して 水浸しになったことを挙げている。対話部分については、日本人学生 NS1,・NS2 と学習者 SA,・SB,・SC と日本語教師 JT とで以下のようなやりとりが見られた。
01・JT:・ 質問ありますか
02・NS1:・あ、はい。えー、じゃああのー、いろいろお花見でいろいろなものを 食べたということなんです[が
03・SA:・ [そう 04・NS1:・一番好きな食べ物は(.)何ですか ? 05・SA:・ 一番好きな食べ物は・[
06・NS1:・・・・・・ ・・・・・・・・・・[はい 07・SA:・ えー(0.4.)おおさ : かの食べ物です 08・JT:・[大阪
09・NS1:・[大阪
10・SA:・ 大阪(.)お、私はおおさ : かへ行きたい,面白い町です(.) と,たくさ んいろいろな,食べ物が,今あります た(.)たぶ(.)たとえば,えー・お このみや(.)やき(.)やきやきやき,お好み焼き,たこや : き,全部や : き 11・JT:・[そうそう hhh
12・SA:・[が,好きです(0.4) 大好きです 13・JT:・ はい、おいしいですね
14・SA:・ おい hh おいしいです=おいしい 15・JT:・ はい
16・NS1:・食べたことはありますか(0.8)お好み焼き ? 17・SA:・ ああ(.)食べたことありま・[す
18・NS1:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ [うん 19・SA:・ おいしいです
・・・・・・中 略・・・・・・・
20・JT:・ ありがとうございました : はい、じゃ、NS2 さんどうですか。
21・NS2:・と、逆に、日本の食べ物で(0.4)嫌いな食べ物ありますか ?
22・JT:・ 嫌いな食べ物はありますか ? 23・SA:・ 日本、ちょ、は、
24・JT:・ 日本の食べ物で 25・SA:・ 日本の食べ物?
26・JT:・ そうで:す -
27・SA:・ そうで : す(.)・納豆(0.4)・まず : い
日本人学生 NS1、NS2 が 04、16、21 で質問をして、SA が 07、17、27 で答える というパターンである。つまり日本語母語話者 NS が質問し、NNS が応答する隣 接ペアが特徴といえる。「おいしい」「まずい」のように形容詞の場合は文末の「で す」が脱落することが多い。
4.3.1.2 繰り返し
01・SA:・ なんせんに、乗りますか。
02・SB:・ あー、3 線。
03・SA:・ え、え、な、えー、中央線?
04・SB:・ あ、おー、横浜線、横浜線、あ、中央線、えん、あー、け、け、
05・JT:・ うん。多摩川、西武多摩川線。
06・NS1:・ああじゃあ ::
07・SA:・ さんのりか、3 乗り換え? 3 乗り換え?
08・SB:・ 3 乗り換え 09・SC:・ 3 乗り換え
10・SA:・ うおっ、大変ですね。
これは SB の発表に対して、SA が何回乗り換えるのかと 01 で尋ねたのに対して、
SB は「3 線」と答えた。SA は SB が通学に 3 回も乗り換えることに驚き、「3 乗り 換え」と 07 で驚きとともに発話している。続いて、SB はそうだと認める意味で 08「3 乗り換え」と繰り返している。09 では SC も驚いて「3 乗り換え」と繰り返し ている。
4.3.2 中級前半のやりとり
4.3.2.1 学習者がイニシアティブをとった例
学習者 SD が「日本でびっくりしたこと」について話している経験エピソードは
「初めて日本の空港のトイレでウォシュレットを経験してびっくりした」「日本の 大学の授業は先生が一方的に話している」「家に入る時、靴を脱ぐかどうか」の 3 つの部分で、来日直後に気づいたこと、そして日本で生活していくうちに靴を脱 ぐ習慣の意味がわかってきたという話の連続性が感じられる談話になっているこ とが初級と異なる点である。対話部分については、日本人学生 NS3、NS4 と学 習者 SD、SE、・SF とで以下のようなやりとりが見られた。
01・SD:・ わあ、知っていませんでしたねえ。はい、でも意見は何ですか(0.4)
・ 意見は何ですか(.)・たぶん,オーストラリアに行ったことがあります か ?
02・NS3:・ある
03・NS4:・わあ(0.4)・私ないで : す
04・SD:・ 行ったときに,ええと,うちに入ったときに靴を脱ぎたい気持ちがあ りますか?
05・NS3:・ありますね . 06・SD:・ そうですねえ
オーストラリア出身の SD が家に入るとき、靴を脱ぐ日本と靴を脱がない自国 の習慣を比較して、NS3 に意見を求めている場面である。01「意見は何ですか」、
04「うちに入ったときに靴を脱ぎたい気持ちがありますか」のように学習者がイ ニシアティブをとって質問をし、NS が応答している例である。
4.3.2.2 学習者によるコミュニケーションストラテジーの使用
次は学習者 SE の経験エピソードの例であり、「街にゴミがない」「公共の場所の 行動としての挨拶」「日本の電車内での電話」と 3 つのトピックから成っている。
以下はその発表の途中でのやりとりである。
01・SE:・ …一方、イギリスではごみは質問になっています。イギリスの、え ::
この漢字の読み方を教えてください
02・NS3:・しちょうそん 03・SE:・ しちょう :: そん・[hhh
04・NS3:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ [hhh ひゃあ、難し -・辞書で調べたんですか = 05・SE:・ すみません?
06・NS3:・調べて :: 書いたんですか ?・辞書で?
07・SE:・ ええ、はいはい hh・辞書で調べたんですけど、えー、いつもいつもい つも忘れる hhh
SE は自分で書いたメモを見ながら話していたため、01 で自分で書いた漢字の読 み方を忘れてしまい、NS3 に読み方を教えてもらうところである。02 の日本人 学生の発話をややゆっくり目に繰り返して自分の発音が正しいかどうか確認して いる。そして 04 の発話が聞き取れなかったので 05「すみません?」といって NS3 に繰り返すことを要求している。交流型授業は NS と NNS の接触場面であるこ とから、NNS による NS への質問要求、確認要求などのコミュニケーションスト ラテジーがみられた。
4.3.2.3 意味交渉による会話的調整
日本人学生NS4が「正確」という言葉を使ったとき、学習者SEが理解できなかっ たので、わかるように何度か言い換えている場面である。
01・NS4:・あの、日本、あの=電車の話がけっこうあったんですけど :、日本で、
あの、正確な時間で来ると思いますか、電車が . 02・SE:・ せいかくじかん?
03・NS4:・決められた時間に、ちゃんと来 :、しかも 2 分で 1 本 - [すぐ来たり、
すごい、特殊ななんていうか ::、
04・SE:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・[そう(0.4)
・ 時間がないですけど = 05・NS3:・時間が、時間通り、
06・SD:・ 遅くないですね 07・NS3:・ぴったり
08・NS4:・ぴったり :: ん?ん?遅くない、はい .
09・NS3:・そこに来る電車が遅れない、電車がぴったり、時刻、定刻、定刻?っ
ていうか、hhh 難しいね hhh
10・NS4:・決められた時間に、電車がちゃんと来ると思いますか?
11・SF:・ 最終電車?
12・NS3:・いやあ、ふつうの電車。なんか、12 時に来ますってゆったら、12 時 にちゃんと来る =
13・SE:・ あ、ああああ 14・SD:・(0.2)イギリスにも : 15・SE:・ ちょっと :: んん ::
16・SD:・ イギリスに電車は普通遅いですね。でもここに電車はあまり遅くなり ません
17・SF:・ Come・on・time
18・SE:・ = はい、はい、わかりました。はいはい、大変、すごいと思います。
イギリスでは、いっつも・いっつも遅れます hhh いっつも、でも :、はい。
私はバイトに行くときに、ええ電車はいつも、おそ、ん、on・time?・
on・time は何ですか?
19・NS3:・間に合う 20・NS4:・間に合う?
21・SE:・ ん?時間にあります?
22・NS:・ 時間どおり
23・SE:・ 時間どおり?どおりですが、たいへん、いつもすごいです。
・ すごいと思います。はい、すいません。
NS4 が 01 で「日本の電車は正確な時間で来ると思いますか」という質問をしたの に対して、SE は 02 で「せいかくじかん?」と聞いたとおりに上昇調に発話を繰 り返してその言葉が理解できないことを表明している。07、08、10 では、NS は 自身の説明を学習者 SE が理解しないので、「時刻」「定刻」「決められた時間に」「電 車がちゃんと来る」のように何度も言い換えている。SE の 18「on・time は何です か」は言いたい日本語がわからないので、英語を言って日本人学生から日本語の 表現を聞き出すストラテジーを用いている例である。そして、23「時間どおり」
という言葉の意味の理解に到達しており、習得の促進につながったと思われる。
5.まとめと課題
以上の考察から、以下のような特徴がそれぞれみられた。
(1)初級後半クラスの傾向
・・①・日本人学生が質問し、学習者が応答するという「質問-応答」の隣接ペア が多い。
・・②・学習者は名詞のみの発話・繰り返しが多い。
・・③・ゆっくり、はっきり話すといったフォリナートークが日本人学生にみられ る。
(2)中級前半クラスの傾向
・・①・中級前半の学習者は、コミュニケーションストラテジーを多用していた。
・・②・中級前半の学習者は、同じトピックでの発話交換の時間が初級クラスより も概して長く、相づちや終助詞を使ってつなげ、発話交換の数も多い。
・・③・NNS が NS とのやりとりで NS からのインプットが理解可能になる会話的 調整、いわゆる意味交渉(Long1985)が図られ、未知語の習得、コミュニケー ションの成立につながるやりとりが多くみられた。
・・④・意味交渉の解決へ至る過程で、NNS 同士が協力して理解可能なインプッ トにしようとしているやりとりがみられた。
・・⑤・両レベルとも使用している語彙の種類は大きく違わないが、日本人学生へ の働きかけ方が中級の学生のほうが豊富であった。
【表 1】にあるように、初級後半(初級 2)では質問-応答の隣接ペアがみられる ことから、「簡単な依頼や要求をするなど、生活に最低限必要なやりとりができる」
「日常生活でよく使う語や表現を使って、簡単なやりとりができる」のうち、特 に「簡単なやりとりができる」という指標が妥当であるといえよう。次に、中級 前半(中級 1)の Can-do 目標は「身近なことについて簡単な語や表現を使って、意 見を述べたり、質疑応答ができる」「興味・関心のあるトピックについて、相づ ちや聞き返しなどを使って、短い会話が続けられる」であるが、その中の「短い 会話が続けられる」という記述文が日本人学生と学習者間の会話構築過程の中に みられた。どちらのレベルでも、大平(2000)の指摘するように、NS(日本人学生)
の発話の調整、NNS(学習者)のコミュニケーションストラテジーの使用によっ て最適な関連性を有する解釈が選択されて相互理解を達成させていると思われ る。工藤・大津(2018a,・b)では中級学習者間のやりとりの分析から、課題のタイ
プの異なりがディスカッションの会話構築過程のインターアクションの違いに表 れることを明らかにしている。本研究では、同じトピックで発表した後のディス カッションが学習者のレベルによって、会話構築過程にそれぞれ特徴があること がわかった。
以上の分析結果から、中級前半レベルでは、「相づちや聞き返しなどを使って 短い会話が続けられる」と「・簡単なやりとりができる」という記述文がレベルの 相違を表していることを示す指標として参照できるのではないかと思われる。今 回の事例は初級と中級のみだったため、今後は中級後半や上級レベルの学習者に も広げ、会話構築過程を分析し、レベル別のプロセスの実際を明らかにすること が必要であろう。
レベル別にサンプルを提示する場合は、初級では単純な「質問-応答」、中級 前半(中級 1)では「相づちや聞き返しなどのストラテジーを使ったやりとり」、中 級後半(中級 2)では、「簡単なインタビュー場面」、中上級では、「社会的・文化的 なテーマについてインタビューしている場面」、上級では、「時事的・専門的なテー マについてディベート及びディスカッションしている場面」のように各レベル記 述の特徴を示して、参照できるように収録・編集するのが良いのではないかと考 える。
付記
本稿は 2016 年度 ICJLE 日本語教育国際大会にて口頭発表したものをもとに、
加筆修正を行ったものである。
本スクリプト文字化に当たり、会話分析研究者の西阪仰氏の文字化原則を参考にした。
[・・会話の重なりの始まり
=・発話と発話が密着していることを示す。
( )聞き取り不可能な場合は( )で示される。空白の大きさは聞き取り不可 能な音声の相対的な長さに対応している。
( )沈黙・間合い 0.2 秒ごとに( )内に示す。0.2 秒以下の場合は(.)
:: 音声の引き延ばし
‐言葉の途切れ h・呼気音による笑い
.h 吸気音による笑い 下線 音の強さ .,音調の下がり
? 上昇音調
参考文献
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An Examination of Differences between Elementary-level and Intermediate-level Learnersʼ use of Oral Expressions in Dialogue
and their Implications for the Academic Japanese Can-do List
FUJIMORI Hiroko
Key Words: Spoken interaction, Interactive classes, Interaction analysis, JLPTUFS Academic Can-do List (AJ Can-do List)
This study is based on “interactive classes” in which Japanese native speaker students (NS) voluntarily took part in lessons with Japanese non-native speaker students (NNS). I analyzed how the NS and NNS groups built their conversations from the standpoint of conversation adjustment and management using classroom transcription data. During the study, I also compared and contrasted the basic level class with the intermediate level class, on the same topics, and examined how the conversation construction process differed by proficiency level, along with what accounted for the differences.
As a result, it was discovered that many basic level learners used adjacency pair conversions with simple “questions and answers.” On the other hand, many of the intermediate learners used a variety of conversation strategies. For example, it was observed that upon coming across an incomprehensible item, more than one NNS took a turn interacting with an NS and steering the conversation so that the whole group could understand. The preliminary research results in this paper and the very idea of teaching basic and intermediate students strategies for “being able to advance short conversations”
were both derived from these observations.