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新規スフィンゴシン1-リン酸受容体サブタイプ1選択 的作動薬CS-0777の薬物動態 : CS-0777の可逆的代謝 機構の解析および薬物動態-薬力学的解析
稲葉, 真一
http://hdl.handle.net/2324/1959196
出版情報:九州大学, 2018, 博士(創薬科学), 論文博士 バージョン:
権利関係:やむを得ない事由により本文ファイル非公開 (3)
新規スフィンゴシン
1-
リン酸受容体サブタイプ1
選択的作動薬CS-0777
の薬物動態‐
CS-0777
の可逆的代謝機構の解析および薬物動態-
薬力学的解析‐稲葉 真一
【序論】
スフィンゴ脂質は細胞膜の主要な構成成分であるが、その代謝産物の一つ、スフィンゴシン 1-リ ン酸 (S1P)は、免疫機能の調節など多岐にわたる生理機能を示す。一例として、リンパ球の動態に は、末梢血リンパ球に発現したS1P受容体サブタイプ1 (S1P1)と、血漿と組織間のS1Pの濃度勾配 が重要と考えられている。その作用機序から、自己免疫疾患治療を指向した種々S1P受容体機能調 節薬の開発が進められている。その中でfingolimodは、多発性硬化症における初の経口治療薬とし て上市された、唯一の S1P 受容体作動薬である。しかし、S1P2以外のサブタイプについても同様 の活性を有することから、オフターゲットの副作用の懸念が残っている。その懸念を払拭するため、
新 規 の S1P1 選 択 的 作 動 薬 と し て 、1-{5-[(3R)-3-amino-4-hydroxy-3-methylbutyl]-1-methyl-1H -pyrrol-2-yl}-4-(4-methyl-phenyl)butan-1-one (CS-0777)が創製された。本研究においては CS-0777 の薬物動態的な特性について以下のような検討を行った。
1. CS-0777のラットおよびサルにおける吸収、代謝および排泄を明らかにし、その中で認められ
た活性代謝物であるリン酸化体M1との関係について、モデル解析を用いて評価した。
2. CS-0777の動態には可逆的なリン酸化が関与する。CS-0777のリン酸化には、フルクトサミン
3-キナーゼ (FN3K)および、FN3K 関連蛋白 (FN3K-RP)が関与し、M1 の脱リン酸化にはアル カリホスファターゼ (ALP)が関与することが報告されている。これら酵素、ならびにヒト組織 画分におけるリン酸化、脱リン酸化を酵素速度論的に評価した。
3. CS-0777 の薬理作用は、循環血中のリンパ球表面のS1P1に作用し、リンパ球が二次リンパ組
織に取り込まれた後の、循環血中への再放出を抑制することに起因する。CS-0777の可逆的リ ン酸化を組み込んだ薬物動態/薬力学的 (PK/PD)解析を通して、病態モデルにおける影響、ま た、ラット、サルおよびヒトにおける薬理作用の種差について評価した。
【方法】
1. ラットおよびサルにCS-0777あるいは[14C]CS-0777を静脈内・経口投与後の、CS-0777の吸 収、分布、代謝および排泄について検討した。また、血液中CS-0777とM1の関係について、
可逆的リン酸化を組み込んだコンパートメントモデル解析を実施した。
2. ヒト組み換えFN3KおよびFN3K-RPと、ヒト赤血球・血小板におけるCS-0777のリン酸化に ついて、酵素速度論的解析を実施した。また、ヒト組み換え ALP およびヒト各組織ミクロソ ームにおけるM1の脱リン酸化についても、同様な解析を実施した。また、各酵素のリン酸化、
脱リン酸化における寄与率について、阻害剤共存下や、各酵素に対する抗血清・抗体による
immunodepletion後の酵素活性を測定することにより見積もった。
3. 健常ラット、サルおよび実験的脳脊髄炎モデル (EAE)ラットに CS-0777 を経口投与後の、血 液中M1濃度とリンパ球変動について、可逆的リン酸化を含むPKモデルと間接反応PDモデ ルに当てはめて解析を実施した。また、すでに報告されている臨床試験結果の情報と比較した。
【結果】
1. ラットおよびサルに CS-0777 を静脈内もしくは経口投与後、活性本体であるリン酸化代謝物
M1は、CS-0777よりも高曝露を示し概ね線形な動態を示した。経口バイオアベイラビリティ は、ラットで60%以上を示し、サルでは~51.5%を示した。[14C]CS-0777経口投与後、放射能 は主として糞中に排泄された (ラット:82.37%、サル: 66.28%)。胆管カニュレーションラッ トを用いた検討より、吸収された放射能は、主として胆汁を介して排泄、一部に消化管分泌の 関与する可能性が示唆された。代謝物の構造解析から、CS-0777の初発代謝は、アミノアルコ ール部位のリン酸化 (M1生成)、ベンゼン環のメチル基水酸化、もしくはベンジル位水酸化の 3経路からなることが示された (Figure 1)。また、血液中および尿、胆汁中代謝物プロファイ ル の 差 異 な ど か ら 、
CS-0777 の代謝には可 逆的なリン酸化と、酸 化代謝による一方向性 の消失機構が存在する と考えられた。可逆的 リ ン 酸 化 機 構 を 含 む PK モデル解析の結果、
CS-0777 リン酸化クリ アランス (ラット: 122、
サル: 220 ml/min/kg)は、
M1 脱リン酸化クリア ランス (ラット:10.9、
サル:13.3 ml/min/kg) およびCS-0777消失ク リアランス (ラット:
34.6 、 サ ル : 30.7 ml/min/kg)よ り も 数 倍
以上の高値を示し、体内ではリン酸化に偏った平衡が成立していることが明らかとなった。
2. CS-0777 のリン酸化は、ヒト組み換え型 FN3K、FN3K-RP およびヒト赤血球において濃度依
存的かつ飽和型の速度上昇を示し、Table 1に示すようなパラメータが得られた。
Table 1. FN3K、 FN3K-RP、ヒト赤血球および血小板における M1
生成のミカエリスメン テン定数 (Km)、最大生成速度 (V
max)
Enzymatic parameters Recombinant human enzymes Human blood components rhFN3K rhFN3K-RP Erythrocyte Platelet
Km (µM) 922 1060 498 ± 114 2030 ± 680
Vmax (pmol/min/mg protein or ml blood) 6100 61600 16300 ± 500 611 ± 255 CLint (µl/min/ml blood) (=Vmax/Km) - - 34.2 ± 9.5 0.302 ± 0.089
Blood volumea (BV, ml/kg) 74.3
CLorgan (ml/min/kg) (=CLint×BV) 2.54 ± 0.70 0.22 ± 0.007
a 文献値 (Davis B and Morris T. Pharm Res 10: 1093-1095 (1993))
rhFN3KおよびrhFN3K-RPはduplicateの平均値、ヒト赤血球および血小板は平均値±標準偏差 (n = 4)を示す。
CLorganの比較から、赤血球の寄与が大きいことが明らかとなった。ヒト赤血球ライセートにお けるCS-0777のリン酸化は、FN3Kの競合的阻害剤1-deoxyl-1-morpholino-fructoseによって、
約30%程度の阻害、抗血清を用いたFN3KおよびFN3K-RPのimmunodepletionにより、それ
ぞれ25%および50%の活性低下が確認された。
M1の脱リン酸化についても、各種ヒトALPアイソザイム、およびヒト組織ミクロソームにお いて、濃度依存的で飽和型の速度上昇が認められ、Table 2 に示すパラメータが得られた。
Table 2.
各種ALP
アイソザイムおよびヒト組織ミクロソームにおけるM1
からCS-0777
生成のK
m、V
maxEnzymatic parameters
Recombinant human ALPs Human tissue microsomes ALPL ALPI ALPP ALPPL Liver Kidney Lung Small
intestine Km (µM) 15.5 30.1 32.1 24.9 11.6 10.9 14.3 14.3 Vmax (pmol/min/pmol
or mg protein) 171 15.3 28.7 9.74 135 133 151 18100 duplicateの平均値
組織非特異的ALP (ALPL)の選択的阻害剤levamisoleによって、肝ミクロソームではM1の脱 リン酸化が 90%以上阻害、腎および肺において 60%程度の阻害が認められた。ヒト小腸ミク ロソームにおけるM1の脱リン酸化は、抗体を用いた小腸型ALP (ALPI)のimmunodepletionに より、抗体濃度依存的な活性の低下が認められた。
3. 血液中M1濃度と末梢リンパ球の関係は、いずれの動物においても間接反応PDモデルによっ て良好に記述された (Figure 2)。
ラット、サル、ヒトのリンパ球動態に関するパラメータを比較したところ、血流からの消失速 度定数は、体重に関わらず概ね1付近であり、種差は小さいことが見出された。一方、血流へ の流入速度は、体重との間に明確な相関は認められなかった。M1の最大阻害定数 (Imax)は、健 常ラットで0.815、最大阻害の50%阻害を示す血液中濃度 (IC50)は6.58 nM、EAEラットでは Imaxは0.807、IC50は5.09 nM、サルではImaxは0.789、IC50は0.484 nMと算出された。既に 報告されているヒトのIC50 (0.570 nM)も加味して比較すると、血液中濃度基準で算出したIC50
値は、サルおよびヒトでラットよりも10倍程度低値を示した。また、EAEラットにCS-0777
反復投与時のリンパ球変動を、上記解析より得られたパラメータを用いて予測し、実際のEAE の臨床スコアとの比較を行った。その結果、有意な EAE 抑制効果を示すためには、血液中リ ンパ球数の完全抑制は必要ないということが示された。
【考察】
1. CS-0777は、投与後、活性代謝物 M1がCS-0777 よりも高曝露、概ね線形な動態、良好な吸
収を示し、経口薬として望ましいプロファイルと考えられた。血液中および尿、胆汁中の代謝 物プロファイルの差異や、消失相におけるCS-0777とM1の濃度推移はほぼ平行関係にあった ことから、CS-0777の代謝には可逆的なリン酸化と、酸化代謝による一方向性の CS-0777の 消失機構が存在すると考えられた。可逆的代謝機構を含むPKモデルによるCS-0777投与後の 血液中濃度解析の結果、ラット、サルいずれも、リン酸化クリアランスは肝血流量を上回り、
肝外組織でのリン酸化の寄与が示唆された。CS-0777の血液中からの消失クリアランスとの比 較から、M1の脱リン酸化クリアランスが、CS-0777消失の律速過程であると考えられた。
2. CS-0777 のリン酸化は、ヒト赤血球、FN3K および FN3K-RPにおいて、同程度の Km値を示 した。また、阻害剤存在下、およびimmunodepletion試験の結果から、赤血球のリン酸化には、
主としてFN3K-RPが寄与し、FN3Kは25%程度の寄与と考えられた。内因性のFN3Kおよび
FN3K-RP基質のKm値 (2.6から270 µM)は、CS-0777よりも小さく、臨床上、CS-0777投与 によって、FN3K やFN3K-RP の生理的機能に影響を及ぼさないと考えられた。ヒト組織ミク ロソームおよび、ALP各アイソザイムにおけるM1の脱リン酸化は同程度の親和性を示し、検 討した全てのヒト組織で、脱リン酸化が起こることが示唆された。また、阻害剤存在下、およ びimmunodepletion試験の結果、臓器間でアイソザイムの違いはあるが、ALPはM1の脱リン 酸化の主たる酵素であると考えられた。
3. リンパ球変動に対するM1のImaxはラット、サルおよびヒトで大きな違いは無く、リンパ球を 完全に血液中から消失させてしまうことは無いことが示唆された。血液中濃度基準で算出した IC50値に種差が認められた。M1が作用するS1P1はリンパ球表面に発現していることから、血 漿中非結合型濃度が重要と考え、M1 の血液/血漿中濃度比および血漿蛋白結合率で補正して、
血漿中非結合型濃度基準のIC50に変換した。その結果、ラット、サルおよびヒトでほぼ同様な IC50となり、M1の本質的な薬理活性には種差が無いことが示唆された。EAEラットにおける リンパ球の経時的変動のシミュレーションと、実際のEAE臨床スコアを比較することにより、
EAE臨床スコアの完全な改善のために、循環血中のリンパ球を完全に消失させる必要はないこ とが示された。このような一連の解析は、非臨床薬理試験において、最適な用量用法の設定に 有用な手法と考えられる。
【発表論文】