九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
歯科用cone-beam CTの特性に関する研究
堤, 王宏
九州大学大学院歯学府顎顔面病態学講座口腔画像情報科学分野
https://doi.org/10.15017/18399
出版情報:Kyushu University, 2009, 博士(歯学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
歯科用 cone-beam CT の特性に関する研究
堤 王宏
九州大学大学院歯学府顎顔面病態学講座口腔画像情報科学分野
(指導:吉浦 一紀 教授)
本研究の一部は、下記の論文に報告した。
Tsutsumi K, Chikui T, Okamura K, Yoshiura K. Accuracy of linear measurement and the measurement limits of thin objects with cone-beam computed tomography: effects of measurement-directions and of phantom-locations in the fields of view.
The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants
(20010.1.10 原稿枚数41枚)に受理済み、公表予定
本文の24頁から41頁がこれに該当する。
目次
Ⅰ.要旨 1
Ⅱ.緒言 3
Ⅲ.(予備的研究-1) 歯科用 cone-beam CT において有効撮像領域と撮像対象物の 周辺環境が撮像対象物の pixel 値に与える影響の評価 5
Ⅳ.(予備的研究-2) 歯科用 cone-beam CT において有効撮像領域が空気と水の pixel 値に与える影響に関する評価 16
Ⅴ.(主研究-1) 歯科用 cone-beam CT の距離測定精度に関する評価 ―測定方向および有効撮像領域内におけるファントムの位置づけ の影響についての検討― 24
Ⅵ.(主研究-2) 歯科用 cone-beam CT の薄状構造物における距離測定限界能に 関する評価 36
Ⅶ.総括 42
Ⅷ.謝辞 43
Ⅸ.参考文献 44
Ⅰ. 要旨
近年、インプラント治療の術前診断に歯科用 cone-beam CT(CBCT)が普及し ているが、その利点である高解像度の要因である小さなボクセルサイズと同等 の距離測定精度を有しているかについては、検証が十分ではない。我々は、測 定者に依存しない、pixel 値の半値幅に基づいた客観的な距離測定方法により、
コーン角の影響を考慮した上で、CBCT の距離測定精度について検証を行った。
まず、距離測定精度の検証に先んじ、距離測定の対象であるアルミニウムの pixel 値に対して影響を与える諸因子について検証した。アルミニウムの pixel 値の平均値は、その周囲の水の量が多くなるに従い、また、有効撮像領域(FOV)
が大きくなるに従い小さくなり、条件により 4 倍程度の大きな差が認められた。
アルミニウムの pixel 値は、X 線照射方向におけるアルミニウム周囲のアクリル と水の合計体積が増えるに従い、いずれの FOV においても直線的に小さくなっ た。これは臨床的には、皮質骨の pixel 値は FOV の違いや周囲軟組織量の影響 を大きく受ける可能性があることを示唆していた。
次に、CBCT において、従来型 CT における Hounsfield 値の基準となっている 空気と水の pixel 値に対して、諸因子が与える影響について検証した。空気の pixel 値はいずれの FOV、水の量においても-1000 程度の値を示し、従来型 CT の Hounsfield 値の場合と同様に空気が基準の一つになっていると考えられた。
水の pixel 値については、完全投影データの場合であっても、FOV や、周辺環境 などの条件により多少のばらつきを認め、pixel 値の基準となっているとは言え なかった。同一の FOV で、同じ水の量であれば、水の pixel 値は、完全投影デ ータの場合は体軸方向において安定した値を示した。不完全投影データの場合 は、水平断像において FOV 外の水の量が多いほど pixel 値は小さくなる傾向に あった。特に、不完全投影データで同一水平断像上に空気が含まれない場合は、
空気が含まれる場合と比較して pixel 値は大きく下回った。
以上の予備研究により、アルミニウムの pixel 値は、FOV の違いにより大きく
でなく、照射野と対象物の関係、すなわち、完全投影か、不完全投影かで、pixel 値が変動することが明らかになった。
以上のことから、本研究の距離測定精度の検証において、対象物の pixel 値 を一元的に規定することは不可能であることが明らかになった。そこで今回は、
各撮影データごとに、測定部位の局所において境界の閾値を決定するために、
対象物および背景の二つの物質を通る直線を引き、そのプロファイルを基にし て両者を区分する、半値幅の方法を採用することにした。
距離測定精度の検証は、コーン角の影響を考慮して、体軸および水平方向に 分けて検証した。体軸方向への距離測定精度は非常に高く、この装置はインプ ラント治療の術前計画において有用であることが示唆された。水平方向への計 測においては、ファントムの中心付近にて過大評価された。この所見は、皮質 骨を水平方向へ計測する際に十分な注意が必要であることを示唆していた。
また、CBCT の、薄状構造物における距離測定限界能についての検証も行った。
距離測定の誤差を 1pixel 未満にするためには、少なくとも 3~4 pixel に相当 する厚みが必要であり、臨床的には、薄い皮質骨のような微細な構造物の厚さ の測定を行う時に考慮する必要があると考えられた。
Ⅱ.緒言
コンピュータ断層撮影(computed tomography、以下 CT と略す)検査は歯科 インプラント治療の術前診断において重要な役割を果たしている1)。術前に CT 検査を行う目的としては、インプラント体埋入のための骨形態の診断や三次元 的な距離の測定、皮質骨および海綿骨量の計測による骨質の判定、Hounsfield 値による骨密度の判定、などが挙げられる。近年、歯科領域において歯科用 cone-beam CT(以下 CBCT と略す)が広く普及してきており、インプラント治療 の術前検査にも使用されているが、CBCT の距離精度や分解能に関する根拠は十 分とは言えない2)。CBCT は従来型 CT(conventional CT、以下 CCT と略す)と比 較して、同等もしくはそれ以上の距離測定精度を有するという報告がある一方 で3,4)、CBCT における誤差は比較的大きいという報告や5,6)、CCT の方が優れ ているという報告もある7)。
CCT と比較して CBCT の利点の一つは、ボクセルサイズが小さく、細やかな解 剖学的構造物が鮮明になることである8)。このため体軸方向への高い距離測定精 度が必要とされるインプラント治療の術前診査には適していると考えられてい る。反面、CBCT の体軸方向への距離測定精度はコーン角の影響を受け、体軸方 向における補正は十分ではないとの意見もある6)。それ故 CBCT においては、体 軸方向の小さなボクセルサイズがそれと同等の距離測定精度を有していること を必ずしも意味しない。にもかかわらず、CBCT の距離測定精度の方向依存性に ついて、詳細に検証した報告は少ない6)。さらに、光電子倍増管を使用している 機種では、ダイナミックレンジの制限や地磁気の影響なども距離測定精度に影 響を与えうる要因として考えられる。
CBCT の距離測定精度に関する過去の研究では、ほとんどが cadaver の測定に おいて行われ、優れた精度を有していることが多く報告されている3,4,7,9-15)。 しかし cadaver の測定は、骨形態の個体差の影響を十分考慮しなければならな い。キャリパー等による実測部位と CT データ上での測定位置を完全に一致させ ることは困難であり、精度の評価に誤差を生じる可能性がある。そのため、距
ントムが望まれる。
また、過去のほとんどの研究において、距離測定に欠かせない重要な要素で ある境界部の決定は、コンピュータのモニター上で測定者の肉眼で行われてい る3,4,7,10-14)。この方法では、測定者の主観だけでなく、測定時の条件(window level、window width、モニターの輝度等)が評価の精度に大きく影響するため、
測定者に依存した誤差を生じる可能性があり、客観的に距離測定精度を評価す ることは困難である5,15)。
以上のように過去の研究を鑑みると、CBCT の距離測定精度の検証においては、
①コーン角の影響を考慮する必要があり6,16)、そのためには、②ファントムの 形態の標準化、および③境界部の客観的な決定5,15,17,18)がなされる必要が ある。そこで、第Ⅴ章では主研究-1として、これらの諸要因を十分考慮した 上で CBCT の距離測定精度の評価を行った。①コーン角の影響については、距離 測定精度の方向依存性を評価するために、体軸方向および水平方向へのそれぞ れの精度について分けて評価を行った。また、有効撮像領域(field of view、
以下 FOV と略す)内部で、体軸方向に異なる位置での距離測定精度も評価した。
②ファントムの形態の標準化については、形態が標準化された均質なアルミニ ウム製ファントムを、軟組織を想定した水を満たした水槽に入れて撮影し、測 定を行った。③境界部の客観的な決定については、従来のようなモニター上で の肉眼的な決定ではなく3,4,7,10-14)、アルミニウムおよび背景部の水の pixel 値のプロファイルから半値幅の方法を応用して境界部の閾値を客観的に決定し、
距離測定を行った17,18)。
CBCT は空間分解能が高いことから、口腔内の微細な構造物の測定能力につい ても期待されている。インプラント治療においては、抜歯窩における唇頬側の 薄い皮質骨の厚みの測定などが考えられる。しかし、このような薄状構造物に おける CBCT の距離測定の限界能に関する研究は無い。そこで第Ⅵ章では主研究
-2として、CBCT の薄状構造物における距離測定の限界能について評価した。
Ⅲ.(予備的研究-1)
歯科用 cone-beam CT において有効撮像領域と撮像対象物の 周辺環境が撮像対象物の pixel 値に与える影響の評価
目的
CBCT における pixel 値は、CCT における Hounsfield 値とは全く異なるもので あることが知られており、その性質については解明されていない。また、CBCT においては pixel 値に基づく骨質、骨密度の評価は実現されておらず、3D 画像 の構築の際の二値化においても CCT を想定した従来のソフトでは不具合を生じ ることが多い。
そこで、本章では、撮像対象物であるアルミニウムの pixel 値の平均値と、
画質の基準となる pixel 値の標準偏差(standard deviation、以下 SD と略す)
に対し、FOV と、軟組織を想定した撮像対象物周辺の水の量がどのような影響を 与えるかについて検証した。
材料と方法
CBCT 装置と撮影条件
CBCT は、CB MercuRay 9 型および 12 型(Hitachi Medical Co, Tokyo, Japan)
の二機種を使用した。本装置はそれぞれ 9 および 12 inch の光電子倍増管を有 しており、512×512×512 の等方性ボクセルデータが得られる。9 型は dental mode(D-mode)、implant mode(I-mode)、panoramic mode (P-mode)、12 型で は前述の I、P-mode に加え facial mode(F-mode)と、それぞれの機種におい て異なる三種類の FOV での撮影が可能で、I、P-mode は両機種に共通である。各 FOV におけるボクセルサイズ、FOV サイズ、FOV の形状等を表1に示す。本研究
で、これは臨床における照射条件と同一である。
表1.CB MercuRay 9 および 12 型における FOV
撮影用ファントムと撮影時の周辺環境
内部に 27 個の円柱を埋入可能な、一辺 65 mm のアクリル製立方体を使用した。
アクリル製立方体の中心に、直径 10 mm、高さ 10 mm のアルミニウム製円柱を位 置づけ、他の 26 か所には立方体と同質のアクリル製円柱を入れ、撮影用ファン トムとした。図1にその詳細を示す。
水を満たした異なる二種類の円柱状の水槽(water Ⅰ、直径 100 mm、高さ 75 mm: water Ⅱ、直径 150 mm、高さ 75 mm)の中に、ファントム内部のアルミニ ウム製円柱が水槽の中心部分に位置するように配置して、二機種のすべての FOV で撮影を行った。対照として、水に入れない状態(air)での撮影も行った。い ずれの撮影も、アルミニウム部分が各 FOV の中心に位置する状態で行った。図 2に、撮影時のファントム周辺の環境と各 FOV との関係を示す。
図1.撮影用ファントム
図2.撮影時のファントム周辺の環境と各 FOV との関係
関心領域の設定と pixel 値の測定方法
まず、撮影により得られた RAW データを DICOM 形式(digital imaging and communication in medicine format の略)に変換して出力した。関心領域(region of interest、以下 ROI と略す)の設定と pixel 値の測定には、画像解析ソフト image J ver.1.37(National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA)を 使用した。CBCT 画像におけるアルミニウム製円柱中心部近傍の水平断における 任意断面再構成(multi-planar reformation、以下 MPR と略す)画像を 10 断面 再構成し、各断面においてアクリル部分が含まれないようにアルミニウム部分 に直径約 8 mm の円形 ROI を設定して、ROI 内部のアルミニウムの pixel 値の平 均値と SD のサンプリングを行った。図3にその概略を示す。
図3.MPR の再構成および ROI の設定とデータのサンプリング
統計学的分析等について
統計学的解析は SPSS ver. 11.0J for windows(SPSS Inc, Chicago, Illinois, USA)を使用した。9 型および 12 型において、アルミニウムの pixel 値の平均値 と SD に対して、FOV とファントム周辺の水の量の二要因が与える影響について、
下記の項目について比較検討した。
1.アルミニウムの pixel 値の平均値の比較
two way ANOVA および多重比較(Bonferroni)により分析した。
2.アルミニウムの pixel 値の SD の比較
各水準間において Mann-Whitney の検定を行い、危険率の調整を Bonferroni の方法で行った。
3. アルミニウムの pixel 値と、周囲のアクリルと水の合計体積の関係 X 線照射方向(水平方向)でのアルミニウム周囲のアクリルと水の合計体 積と、アルミニウムの pixel 値の間における単回帰分析を行った。
4. 二機種に共通の FOV における、アルミニウムの pixel 値の機種間での比較 二機種に共通する FOV(I、P-mode)について、機種間の pixel 値の比較検 討をした。
結果
1.アルミニウムの pixel 値の平均値の比較
両機種では、FOV の大きさおよび周辺の水の量が、アルミニウムの pixel 値の 平均値に与える影響は同じ傾向を示した(図4)。いずれの FOV においても、周 辺の水の量が多くなるのに伴い pixel 値は有意に小さくなった(図4A)。また、
いずれの水の量においても、FOV が大きくなるのに伴い pixel 値は有意に小さく なった(図4B)。pixel 値は、最大であった D-mode、air では 2590、最小であ った F-mode、water Ⅱでは 593 と、条件により 4 倍程度の差が認められた。
図4A.ファントム周辺の水の量の相違によるアルミニウムの pixel 値の 平均値の変化
** : P < 0.01 two way ANOVA / multiple comparison (Bonferroni)
図4B.撮影時の FOV の相違によるアルミニウムの pixel 値の平均値の変化
** : P < 0.01 two way ANOVA / multiple comparison (Bonferroni)
2.アルミニウムの pixel 値の SD の比較
アルミニウムの pixel 値の SD は、9 型の D、I-mode および 12 型の I、P-mode では、水の量が多くなると SD が大きくなった(図5A)。また、いずれの水の量 においても FOV が大きくなると SD が小さくなる傾向があったが、9 型の D-mode ではこの傾向は当てはまらなかった(図5B)。
図5A.ファントム周辺の水の量の相違によるアルミニウムの pixel 値の SD の変化
** : P < 0.01 ns : not significant
水準ごとの Mann-Whitney test / 危険率の調整(Bonferroni)
図5B.撮影時の FOV の相違によるアルミニウムの pixel 値の SD の変化
** : P < 0.01
水準ごとの Mann-Whitney test / 危険率の調整(Bonferroni)
3.アルミニウムの pixel 値と、周囲のアクリルと水の合計体積の関係
アルミニウムの pixel 値は、X 線照射方向(水平方向)におけるアルミニウム 周囲のアクリルと水の合計体積が増えるに従い直線的に小さくなり、いずれの FOV においても回帰式の適合度(R2)は非常に高かった(0.927~0.999)(図6)。
図6.アルミニウム周囲の(アクリル+水)の体積とアルミニウムの pixel 値 の平均値の関係
単回帰方程式および適合度(R2)を示す。
4.二機種に共通の FOV における、アルミニウムの pixel 値の機種間での比較 二機種に共通の FOV では、各水の量の条件における pixel 値の平均値は、二 機種間において直線的な関係を示し、ほぼ同様の値を示した(図7)。
図7.I、P-mode におけるアルミニウムの pixel 値の二機種間での比較
考察
周辺の水の量が同じでも、異なる FOV 間におけるアルミニウムの pixel 値の 差は 800(air)~1100(water Ⅱ)とかなり大きかった(図4B)。これは、CBCT の pixel 値が、CCT の Hounsfield 値のように、空気、水、および対象物質の X 線減弱係数から一義的に決まるものではないということを意味している。9 型と 12 型の二機種間においては、共通の FOV ではほぼ同じような pixel 値を示した が(図7)、同一機種においても FOV が異なると全く異なる pixel 値を示すこと から、CB MercuRay 以外の他機種では、さらに別の pixel 値を示すことも予測さ れる。
本研究では、同一の FOV においても、周辺の水の量が異なるとアルミニウム の pixel 値は大きく変化しており(図4A)、特に、照射野が対象物より大きな 完全投影データにおいても、pixel 値は変化した。このことは、X 線が、水の中
考えられた。これは、臨床的には患者の体型等により骨の pixel 値が変化する 可能性があることを示している。また、FOV や水の量の条件により、pixel 値は 最大4倍程度の非常に大きな差となり、pixel 値に与える諸因子の影響が非常に 大きく、CCT の Hounsfield 値のように、一義的に骨密度との関連性を説明する のは現段階では困難であると考えられた。
しかし、同一の FOV においては、周囲の水とアクリルの合計体積と、アルミ ニウムの pixel 値は強い相関を示しており、今後は、軟組織量を考慮すること により骨の pixel 値から骨密度を予測することができるようになる可能性があ る。また、同一の患者に対して、同様の位置づけで、同一の FOV で撮影可能で あれば、pixel 値を経時的に評価することは臨床的意義があるものと思われた。
SD については、周辺の水の量が多いほど、また、FOV が小さいほど高い値を 示し、画質が低下していることが示唆された(図5A,B)。ただし F-mode では、
水の量に関係なくほぼ一定の値を示した(図5A)。F-mode ではすべての水の量に おいて完全投影データとなっており、このような場合は、水の量が増えても SD はほぼ一定の値を示すものと思われる。しかし、F-mode においても、pixel 値 の平均値は水の量が増えるとともに小さくなっていることから(図4A)、完全 投影データで SD は一定であっても、周辺の水の量が増えた場合は信号雑音比(SN 比)は低下する。実際の臨床においても、極めて体格のよい患者の場合などで は SN 比が悪くなり、診断に苦慮する場合もあるので、注意すべきであると思わ れた。
小括
1.アルミニウムの pixel 値の平均は、二機種共に周辺の水の量が多くなるに 従い、また、FOV が大きくなるに従い小さくなり、条件により 4 倍程度の大 きな差が認められ、臨床的には、皮質骨の pixel 値が FOV の違いや周囲軟 組織量の影響を大きく受ける可能性があることが示唆された。
2.アルミニウムの pixel 値の SD は、水の量が多くなるに従い、また FOV が小 さくなるに従い大きくなる傾向があり、画質が低下すると考えられた。
3.アルミニウムの pixel 値は、X 線照射方向におけるアルミニウム周囲のアク リルと水の合計体積が増えるに従い、いずれの FOV においても直線的に減少 した。
4.FOV が共通であれば、二機種間で pixel 値に差はなかった。
Ⅳ.(予備的研究-2)
歯科用 cone-beam CT において有効撮像領域が空気と水の pixel 値に与える影響に関する評価
目的
第Ⅲ章の結果から、アルミニウムの pixel 値は有効撮像領域(FOV)および周 辺の水の量により変化することが示された。半値幅の方法の応用により境界部 の閾値を決定して距離測定精度を検証する場合、アルミニウムの pixel 値だけ でなく、半値幅の基準となる境界背景部の水の pixel 値が様々な条件によって どのような動向を示すかも検証しておく必要がある。また CCT における Hounsfield 値では、水と空気の X 線減弱係数が基準とされており、Hounsfield 値はそれぞれ 0、-1024 と固定されているが、CBCT の pixel 値においては、こ れらが基準となっているかは不明である。
そこで本章では、FOV や水の量が、空気と水自身の pixel 値に与える影響につ いて検証した。また FOV 内部の被写体位置の相違が水の pixel 値に与える影響 についても検証した。さらに、CBCT においては、照射野が対象物より小さい、
すなわち、不完全投影データになることが想定されるため、その影響も合わせ て考慮した。
材料と方法
1.空気と水の pixel 値に関する検証 撮影データ
第Ⅲ章における CB MercuRay 12 型の、I、P、F-mode における air、water Ⅰ、
water Ⅱのデータを使用した。その詳細は第Ⅲ章の表 1、図1、図2の通りであ る。
関心領域の設定と pixel 値の測定方法
空気については、FOV の上方で空気のみ撮像されている水平断像の中で、FOV 最上端と水最上端の中央付近の画像を抽出し、直径約 10 mm の円形 ROI を任意 に 10 個設定し、内部の空気の pixel 値の平均値を計測した(図8)。
水については、FOV 体軸方向中心部付近の水平断像の中で、アーチファクトを 避けるために、アルミニウムが撮像されていない部位の画像を抽出し、水の部 分に直径約 10mm の円形 ROI を任意に 10 個設定し、内部の水の pixel 値の平均 値を計測した(図8)。
画像解析には、image J を使用した。
図8.空気と水の pixel 値の計測における ROI の設定
赤色の球は FOV を、青色の円柱は水を満たした水槽を表す。
2.FOV 内部の位置の相違が水の pixel 値に与える影響 撮影用ファントムと撮影時の周辺環境
CB MercuRay 12 型の I、P、F-mode において、第Ⅲ章の water Ⅰ、water Ⅱの 水槽に水のみを満たし、容器の中心部が FOV の中心部に位置するように撮影し た。P-mode の water Ⅰおよび、F-mode の water Ⅰ、 water Ⅱは、照射野が対 象より大きな完全投影データとなり、その他は、不完全投影データとなる。図 9に、水を満たした水槽と各 FOV の関係を示す。照射条件は前章と同じく 120 kV、
15 mA である。
図9.水で満たした水槽と各 FOV
赤色の球は,FOV を、青色の円柱は水を満たした水槽を表す。
関心領域の設定と pixel 値の測定方法
体軸方向への位置の相違による水の pixel 値への影響を検証するために、水 の任意の水平断像上において、水の水平方向中心部で直径約 10 mm の円形 ROI を設定し、内部の水の pixel 値の平均値を求め(図10-①)、さらにすべての 水平断像で同様の ROI の設定と計測をスタックし、水の pixel 値の平均値の体 軸方向へのプロファイルを求めた(図10-②)。
また、水平方向への位置の相違による影響を検証するために、中心部と同様 の計測を、水の端部でも行った(図10)。測定部位は、水が完全投影されてい る場合は水の水平方向最端部より 20 mm 程度の距離を保ち、不完全投影の場合 は FOV の最端部から 20 mm 程度の距離を保つ位置とした。
画像解析には、image J を使用した。
図10.水の水平方向中心部と辺縁部における ROI の設定とスタックの計測
3.統計学的分析等
空気と水の pixel 値の検証については、two way ANOVA と多重比較(Bonferroni)
による分析を行った。有意水準は P < 0.05 とした。統計分析には SPSS 11.0 J を使用した。
FOV 内部の位置の相違が水の pixel 値に与える影響については、プロファイル の形状の比較を行った。
結果
1.空気と水の pixel 値に関する検証
空気の pixel 値は、I-mode で若干大きい値を示した他は、すべて-1000 程度 の値を示した(図11)。
水の pixel 値は、すべての FOV で水の量が多い時に低い値を示したが、I-mode の water Ⅱで-500 以下となった以外では-133~-251 の値を示した(図12)。
図11.空気の pixel 値の平均値
** : P < 0.01 * : P < 0.05 ns : not significant two way ANOVA / multiple comparison (Bonferroni)
図12.水の pixel 値の平均値
** : P < 0.01 ns : not significant
two way ANOVA / multiple comparison (Bonferroni)
2.FOV 内部の位置の相違が水の pixel 値に与える影響
水の pixel 値の体軸方向へのプロファイルの形状は、水平型(water Ⅰの P、
F-mode、および water Ⅱの I、F-mode)と凸型(water Ⅰの I-mode、および water
Ⅱの P-mode)の二型を示し、すべての撮影において水平方向中心部と端部では 同型を示した(図13、14)。すなわち、完全投影データの時は水平型になり、
不完全投影データの時には、water Ⅱの I-mode を除いて、凸型になった。
また、すべての FOV において、水の pixel 値は water Ⅰよりも water Ⅱの方 が小さい値を示した(凸型では最凸部の値と比較)(図13、14)。
図13.water Ⅰにおける水の pixel 値の体軸方向へのプロファイル
図14.water Ⅱにおける水の pixel 値の体軸方向へのプロファイル
考察
1.空気と水の pixel 値に関する検証
空気の pixel 値に関しては、FOV や水の量にかかわらず、ほぼ-1000 前後の 値を示しており(図11)、同機種における pixel 値は CCT の Hounsfield 値と 同様にエアキャリブレーションにより空気を基準とし、pixel 値を-1000 程度 に設定していると考えられた。
水の pixel 値については、I-mode の water Ⅱを除いては、-133~-251 と 多少のばらつきを認め、pixel 値の基準となっているとは言い難い(図12)。 I-mode の water Ⅱについては、他の条件の場合と比較して大きく下回る値を示 したが(図12)、これは第Ⅲ章の図2に示すように、他の条件の場合は、水の pixel 値を計測した体軸方向中心部付近においては水平方向に対しほぼ完全投 影されているのに対し、I-mode の water Ⅱにおいては、測定部付近は不完全投 影となっており、空気が同一水平断像に撮像されていないことが pixel 値の決 定に影響を与えたと推察される。
2.FOV 内部の位置の相違が水の pixel 値に与える影響
体軸方向への水の pixel 値が水平型を示した4条件のうち、water Ⅰの P、
F-mode、および water Ⅱの F-mode の3条件については完全投影になっており(図 9)、基準と考えられるすべての水平断像上において空気が撮像されているため、
体軸方向に安定した本来の pixel 値を得ることができたと考えられる。
それに対して凸型を示した water Ⅰの I-mode、および water Ⅱの P-mode の 2条件については、いずれも体軸方向において水の中心付近では水平方向にか ろうじて完全投影になっているが、上下端部では不完全投影になっている(図 9)。そのため体軸方向中心部では本来の水の pixel 値に近い値を示し、上下端 に近づくにつれて同一水平断像上における FOV 外の水の量が次第に増えていく ため、上下端部では体軸方向中心部の水の pixel 値よりも低い値を示し、その 結果プロファイルが凸型を示したのではないかと考えられる。
Water Ⅰの I-mode においては、水の部位はすべての水平断面において不完全
投影になっている(図9)。またすべての水平断面において FOV 外の部分には十 分な水が存在し、上下における FOV 外の水の量の違いの影響は比率的に凸型を 示した場合よりも小さくなり、結果として本来の水の pixel 値よりも全体的に 小さい状態で水平型を示したと考えられる。
本予備研究より、水の pixel 値は FOV の違いや周囲環境の影響を大きく受け るだけでなく、照射野と対象物の関係、すなわち、完全投影か、不完全投影か で変動することが明らかになった。
小括
1. 空気の pixel 値はいずれの FOV、水の量においても-1000 程度の値を示 し、CCT の Hounsfield 値の場合と同様に空気が基準の一つになっていると 考えられた。
2. 水の pixel 値については、完全投影の場合であっても、FOV や、周囲環 境などの条件により-133~-251 と多少のばらつきを認め、pixel 値の基 準となっているとは言えなかった。この現象は、水を透過する際に起こる X 線のビームハードニングによる影響と考えられた。
3. 同一の FOV で同環境であれば、水の pixel 値は完全投影の場合は体軸方 向において安定した値を示した。不完全投影の場合は、水平断像において FOV 外の水の量が多いほど pixel 値が小さくなる傾向にあった。特に、不完 全投影で同一水平断像上に空気が含まれない場合は-500 以下となり、空気 が含まれる場合と比較して大きく下回った。
Ⅴ.(主研究-1)
歯科用 cone-beam CT の距離測定精度に関する評価
―測定方向および有効撮像領域内におけるファントムの位置づ けの影響についての検討―
目的
CBCT の距離測定精度を正確に評価するためには、過去の同様の研究を鑑み、
①コーン角の影響を考慮する必要があり、そのためには、②ファントムの形態 の標準化、および③境界部の客観的な決定がなされる必要がある。特に、③境 界部の客観的な決定については、予備研究である第ⅢおよびⅣ章の結果より、
一義的に対象物、背景(水)の pixel 値を決定することが不可能であるため、
対象物および背景(水)を含む直線を引き、局所の pixel 値の変化により、対 象物の外形を求める方法(半値幅の方法)が必要となる。
そこで本研究では、従来のようなモニター上での肉眼的な決定ではなく、ア ルミニウムおよび背景部の水の pixel 値のプロファイルから半値幅の方法を応 用して境界部の閾値を客観的に決定し、その上で距離測定を行い精度を検討し た。
材料と方法
CBCT 装置と撮影条件
CBCT は、CB MercuRay 12 型のすべての FOV(I、P、F-mode)を使用した。詳 細は第Ⅲ章の表 1 の通りである。照射条件は第Ⅲ章と同じく 120 kV、15 mA で 行った。
撮影用ファントム
距離測定精度の検証には、内部性状が均質なアルミニウム性ステップファン トムを使用した。このファントムは高さが 1~12 mm(1 mm ずつ増加)の計 12 個のステップを有している(図15A)。それぞれのステップの背部には、直径 1 mm、深さ 0.1 mm~0.7 mm(0.1 mm ずつ増加)の 7 個の穴が設けられている(図 15B)。
図15A.ステップファントム 図15B.ファントムの背部
ファントムの置き方
ファントムは、軟組織を想定した水で満たしたアクリル製水槽(直径 100 mm、
高さ 75 mm、厚さ 1 mm)の中心付近に、アクリル性棚(厚さ1mm)にのせて位 置づけた。
各ステップから、それに対応する背部にある穴の底部までの距離を測定する こととした(詳細後述)。体軸および水平方向への距離を測定するため、アクリ ル製棚の上に、水準器を用いて正確に、ファントムを lying position(体軸方 向への測定)と、standing position(水平方向への測定)の二つの置き方でセ ットした(図16)。
lying position
体軸方向への測定を行うために、ファントムの背部を床に正確に平行になるよ うに水槽内のアクリル製棚の上に置いた(図16A)。
standing position
水平方向への測定を行うために、ファントムの背部を床に正確に垂直になるよ うに水槽内のアクリル製棚の上に置いた(図16B)。
図16A.lying position と 図16B.standing position と FOV 内部での位置づけ FOV 内部での位置づけ
体軸方向の測定を行った。 水平方向の測定を行った。
FOV 内部でのファントムの位置づけ
lying および standing position ともに、ファントムを FOV の中心部および体 軸方向辺縁部に位置づけて撮影した(図16)。体軸方向辺縁部での撮影におい ては、ファントムは水槽ごと体軸方向辺縁部へ移動し、ファントム全体が FOV 内に納まるように、またファントムの端部から FOV の境界部まで約 10 mm の距 離を保つように位置づけた。基本的には、ファントムが設置された部分におい ては、水槽自体が FOV に含まれる、すなわち、完全投影データとなった。この 結果、ファントム自体およびその背景の水のプロファイルは、ほぼ一定となっ た(Ⅳ.(予備的研究-2参照))。I-mode の体軸方向辺縁部での撮影においては、
ファントム部分において水が不完全投影データとなったが、計測範囲において、
背景部の水のプロファイルがほぼ平坦になったことを確認した。
FOV 内部でのファントムの位置づけは CBCT 装置の透視機能で確認して行った。
MPR 像の再構成
距離測定精度は、12、9、6、および 3 mm の各ステップで評価した。CBCT の画 像を DICOM 形式に変換して出力し、各ステップにおいて、ステップに垂直でか つ各ステップに対応する 7 個の全ての穴を通る MPR 像を画像解析ソフト image J により再構成した(図17)。
図17.MPR 像の再構成と距離測定部位
半値幅の方法の応用による閾値の決定と距離測定
各ステップでの MPR 像において、各ステップから7つの穴の底部および穴の 無い平坦部までの8か所の距離を測定した(図17)。距離の測定は、半値幅の 方法を応用し17,18)、以下の手順で行った(図18)。
1. 穴を通り、かつステップに垂直になるような約 25 mm の直線を設定し、
image J により ROI 上の pixel 値のプロファイルを作成。
2. アルミニウムおよび背景の水の pixel 値の代表値を、平均値により算出。
基本的にはファントム自体の部分は、完全投影データであり、アルミニ ウムおよび背景の水の pixel 値はほぼ一定であったため、平均値を代表 値とした。I-mode の体軸方向辺縁部での撮影では、ファントム部分にお いて不完全投影データとなったが、測定範囲において、背景部の水のプ ロファイルがほぼ平坦になったことを確認し、他の場合と同様に平均値 を代表値とした。
3. 境界部において、アルミニウムと水の代表値の半値に相当する部位を境 界点とし、その点に対応する位置を半値幅の方法に従って計算し、両端 部の位置の差からアルミニウムの厚さを算出した。
閾値と距離の計算には、Microsoft Office Excel 2007(Microsoft Co, Redmond, WA, USA)を使用した。
図18.半値幅の方法を応用した境界部の閾値の決定と距離の算出
P-mode、12 mm ステップにおける画像を例として示す。
測定誤差の評価
誤差の pixel 量(error pixel amount; 以下 EPA と略す)を測定誤差の指標と して使用した。
EPA = (A - B) / (pixel サイズ)
A : 計算により得られたアルミニウムの厚み(mm)
B : 実際のアルミニウム厚み(mm)
正数は過大評価を、負数は過小評価を示す。
統計学的分析
距離測定精度を評価するために、それぞれのステップにおいて EPA を平均し た(n = 8)。以下の 5 項目について検討を行った。
1.体軸方向への測定 2.水平方向への測定
3.体軸方向と水平方向への測定の比較 4.各ステップ間の比較
5.FOV 内での、ファントムの体軸方向への位置づけの相違による比較 各項目については、ANOVA と多重比較(Bonferroni)により、EPA の有意差の検 討を行った。有意水準は P < 0.05 とした。統計分析には SPSS 11.0 J を使用 した。
結果
表2に各ステップにおける EPA を示す。
表2. 各ステップにおけるEPAの平均および標準偏差
** : P < 0.01 * : P < 0.05 ns : not significant ANOVA / multiple comparison (Bonferroni)
下線は、EPA が 1 pixel 以上のところを示す。異なる英文字は、ステップ間での有意差を認めることを示す(P < 0.05)。
FOV FOV 内部での
位置づけ 測定方向 12mm ステップ 9mm ステップ 6mm ステップ 3mm ステップ
mean SD mean SD mean SD mean SD
I 中心部
体軸方向
** –0.39a 0.27
** –0.44ac 0.25
** 0.16b 0.25
** –0.37a 0.28
水平方向 –0.02a 0.18 1.06c 0.18 1.52b 0.33 0.22a 0.31
I 体軸方向辺縁部
体軸方向
ns –0.31a 0.32
** 0.06ab 0.29
** 0.24b 0.30
** 0.13b 0.23
水平方向 –0.25a 0.28 2.19c 0.33 2.35c 0.39 0.97b 0.14
P 中心部
体軸方向
ns 0.10 0.43
** 0.32 0.30
** 0.28 0.27
** 0.22 0.32
水平方向 0.12a 0.19 1.59c 0.21 1.53c 0.18 0.71b 0.20
P 体軸方向辺縁部
体軸方向
* 0.30a 0.27
** 0.73b 0.30
** 0.48ab 0.30
NS 0.60ab 0.24
水平方向 0.00a 0.15 1.49c 0.24 1.73c 0.32 0.62b 0.23
F 中心部
体軸方向
ns 0.24 0.34
** 0.57 0.25
** 0.55 0.32
** 0.22 0.31
水平方向 0.36a 0.28 1.46d 0.27 2.09c 0.39 0.91b 0.23
F 体軸方向辺縁部
体軸方向
ns 0.25a 0.32
** 1.08b 0.40
** 1.08b 0.50
** 1.07b 0.32
水平方向 0.39a 0.45 2.15c 0.35 1.94c 0.32 1.02b 0.09
1.体軸方向への測定(表2)
F-mode の FOV 体軸方向辺縁部での測定以外では、すべて EPA が 1 pixel 未満 の誤差であった。F-mode の体軸方向辺縁部での測定でも、誤差は 1 pixel 未満 もしくは、わずかに 1 pixel を超える程度であった(3 mm ステップ 1.07 pixel、
6 mm ステップ 1.08 pixel、9 mm ステップ 1.08 pixel、12 mm ステップ 0.25 pixel)。
2.水平方向への測定(表2)
3、12 mm ステップの FOV 中心部での測定では、EPA は 1 pixel 未満であった。
FOV 体軸方向辺縁部でも EPA は小さく、1 pixel 以上となったのは、F-mode の 3 mm ステップのみだった。9、6 mm ステップではすべての測定において、EPA は 1 pixel 以上であった(中央値 1.66;1.06~2.35 pixel)。
3.体軸方向と水平方向への測定の比較(表2)
9、6 mm ステップでは、体軸方向への測定ではほとんど 1 pixel 未満の誤差で あったのに対し、水平方向への測定では相当の誤差を認め、すべての測定にお いて体軸方向への測定時よりも有意に EPA は大きかった(P < 0.01)。
12 mm ステップにおいては、体軸、水平方向への計測ともに、すべての測定に おいて EPA は 1 pixel 未満であった。3 mm ステップにおいては、体軸、水平方 向どちらも、F-mode の体軸方向辺縁部での撮影を除いてはすべての測定におい て EPA は 1 pixel 未満の誤差であった。
4.各ステップ間の比較(表2)
体軸方向への測定では、ほとんどすべてのステップでの測定において、EPA は 1 pixel 未満で、ステップ間の差も小さかった。しかし、水平方向への測定では 9、6 mm ステップでの EPA はかなり大きく、すべての測定において 12、3 mm ス テップの時よりも大きくなる傾向があった。
5.FOV 内でのファントムの体軸方向への位置づけの相違による比較
I-mode では、体軸方向への測定ですべての EPA が 1 pixel 未満であり、ファ ントムの FOV 内部での位置づけは精度にほとんど影響していなかった(図19A)。
水平方向への測定では、12 mm ステップを除き、EPA は FOV 中心部よりも体軸 方向辺縁部での方が大きかった。特に、9、6 mm ステップでは、FOV 中心部でも EPA が 1 pixel を超えていたが、FOV 体軸方向辺縁部ではさらに増加する傾向に あった(図19B)。同様の結果が P、F-mode でも得られた。
図19A.体軸方向の測定における FOV 内部での位置の影響(I-mode)
** : P < 0.01 * : P < 0.05 / ANOVA
図19B.水平方向の測定における FOV 内部での位置の影響(I-mode)
** : P < 0.01 / ANOVA
考察
測定方法について
CBCT の精度については多くの研究で報告されてきた3-7,9-15)。ほとんどの研 究では Cadaver での測定において精度が評価され3,4,7,9-15)、対照としてデジ タルキャリパーによる実測との比較が行われている3,4,7,9,10,12-14)。Cadaver での測定は臨床的ではあるが、その形態は標準化されておらず、CT 画像におけ る測定対象部位の MPR 像と、実際にキャリパーで測定した部位がわずかにずれ るだけで、大きな誤差を生じてしまう可能性がある。また、測定部位の目印と してガッタパーチャや金属球などの X 線高吸収物質を使用している報告も多く7,
10,13,14)、アーチファクトの影響も懸念される。本研究においてはこれらの
諸問題を解決するために、形態を標準化させた内部性状の均質なアルミニウム 製ファントムを、目印なしで使用した。アルミニウムの pixel 値はエナメル質 と同等で、皮質骨よりも高かった。
ほとんどの研究において、測定部位における境界はモニター上で測定者の肉 眼により決定されており3,4,6,7,10-14)、そのため距離測定精度が測定者間や
15)、観測の条件の差に依存してしまう可能性がある。いくつかの報告において は、測定者間の差について言及した報告も散見されるが4,6,7,11,13)、測定者 に依存しない客観的方法による報告は非常に少なく15,17,19)、検証が十分で あるとは言えない。距離測定精度の検証における客観的な方法には、pixel 値に 基づいた閾値の決定方法がある。CBCT においては、Mozzo et al17)は、pixel 値のプロファイルに基づいて、骨との境界部の pixel 値の半値を骨の境界部と して決定している。Prevrhal et al18)は同様の方法で、CCT の距離測定精度に 関して報告している。本研究においてもこれらの方法に準じて、境界部の pixel 値のプロファイルから半値幅の方法を応用して境界部の閾値の決定を行った
(図18)。
第Ⅲ章の予備的研究-1で、CBCT の pixel 値は CCT の Hounsfield 値と異なり、
X 線高吸収物質(アルミニウムや骨)において、FOV の違いや周囲の X 線低吸収
Ⅳ章の予備的研究-2では、CBCT において水の pixel 値は、同一撮影データ内 でも諸条件により水平、体軸方向に変化する場合があり得ることが示唆された。
これらの結果を考慮すると、本研究のように同一撮影データ内で、各測定部位 の局所ごとに半値を基本とする境界部の閾値を決定する今回の方法は合理的で あると考えられた。
距離測定精度について
CBCT においては、コーン角の影響が特に体軸方向において示唆されてきたに もかかわらず6,16)、距離測定精度の方向依存性について詳細に検討した報告は 一つしかない6)。インプラントの手術計画においては体軸方向へ厳密な精度が必 要とされ、十分なエビデンスが要求される。吉田ら6)は、3DX multi-image micro CT(Morita Co, Kyoto, Japan)における距離測定精度の方向依存性について、
モニター上での測定で評価しているが、X 線高吸収物質(チタン性インプラント)
における測定において、体軸方向への距離は実際の長さよりも有意に過大評価
(+3~8 pixel)され、他方、水平方向への測定においては高い精度であった
(0~+3 pixel)と報告している。彼らは、体軸方向への過大評価はコーン角の 影響を受けており、その補正は十分ではなかったと推測している。彼らの研究 と比較して本研究の結果では、CB MercuRay における体軸方向への距離測定精度 は、特に FOV 中心部ではすべて 1 pixel 未満の誤差で大変優れており、また体 軸方向辺縁部で測定した場合でも誤差はほぼ 1 pixel 未満で、体軸方向への測 定位置の違いはほとんど影響がないと考えられた(表2)。これらの所見は、コ ーン角が体軸方向への距離測定精度に与える影響は本機種では十分に補正され ていることが示唆される。
水平方向への計測の結果については、吉田ら6)の報告とほぼ一致している(表 2)。ファントムの中央部付近に相当する 9、6 mm ステップでは、ファントムの 辺縁部付近に相当する 12、3 mm ステップでの結果と比較してわずかな過大評価 を認めた(中央値 1.66;1.06~2.35 pixel、図19B)。この所見は、水平方向 へ皮質骨を計測する時には注意を要することを示唆している。
実際の画像でも、上記の測定結果と同様にファントム中心部付近での水平方
向への膨張像が観察されたが、体軸方向へはそのような像は観察されておらず、
体軸方向への補正は良好に行われていると考えられた(図20)。今回の研究に おける水平方向での過大評価は、使用したアルミニウム製ファントム(X 線高吸 収性)のアーチファクトがファントム中心部の水平方向への画像に影響したこ とに起因している可能性もあり、本研究の目的を考えると、可能であれば皮質 骨と同等の濃度を有するファントムを用いる方が望ましいと思われた。
図20.水平方向および体軸方向における実際の MPR 像
水平断面像では、ファントムの中心付近において水平方向への画像の膨張像が観察されるが、
矢状断面像では、体軸方向への画像の膨張は認めない。
小括
1. 体軸方向への距離測定精度は非常に高く、本装置はインプラント術前の 手術計画において有用であることが示唆された。
2. 水平方向への計測においては、ファントムの中心付近にて過大評価され る傾向があった。この所見は、皮質骨を水平方向へ測定する際に十分な
Ⅵ.(主研究-2)
歯科用 cone-beam CT の薄状構造物における距離測定限界能に 関する評価
目的
CBCT は、CCT と比較し小さなボクセルサイズを有するため、CCT では描出が困 難であった口腔内の微細な構造物の観察についても期待されている。インプラ ント治療においては、抜歯窩における唇頬側の薄い皮質骨の評価などが挙げら れる。しかし、このような薄状構造物における CBCT の距離測定の限界能に関す る研究は無い。また、薄状構造物では部分体積効果の影響を大きく受けること が考えられ、より薄い部分ほど pixel 値が十分に得られていないことが考えら れる。そこで本章では、CBCT における薄状構造物の距離測定限界能について評 価するとともに、薄状構造物における pixel 値についても検証を行った。
材料と方法
薄状構造物における距離測定の限界能の検証は、第Ⅳ章の撮影データにおいて、
1 mm ステップの MPR 像を再構成して行った。ステップから7つの穴の底部と穴 のない平坦部まで(厚さ 0.3~1.0 mm、0.1 mm ずつ増加)の8か所の距離を測 定した(図21)。
図21.1 mm ステップの MPR 像と距離測定部位
統計学的分析等について
1.薄状構造物における距離測定限界能の検証
EPA と実際のアルミニウムの厚みの関係を単回帰分析により評価した。また、
回帰直線式から、誤差を 1 pixel 未満に維持するために最低必要な厚みを算 出した。
2.薄状構造物における pixel 値
アルミニウムの各厚さにおける pixel 値のピーク値について検証し、十分 な厚みを有する部位との比較を行った。
結果
1.薄状構造物における距離測定限界能の検証
1 mm ステップでは pixel 値のプロファイルの形状は peak を示したため、アル ミニウムの代表値としては平均値ではなく、最大値を用いた。いずれの FOV に おいても、EPA はアルミニウムが薄い部分では大きかったが、厚みが増すに従っ て、直線的に減少した(図22A~C)。EPA が 1 pixel 未満となるような最小の 厚みは、体軸方向への測定で 2.21~3.63 pixel(中央値 2.72)、水平方向で 0.08
図22A.I-mode における薄状構造物の距離測定限界能
図22B.P-mode における薄状構造物の距離測定限界能
図22C.F-mode における薄状構造物の距離測定限界能
表3.誤差が 1 pixel 未満となるために必要な最小限のアルミニウムの厚み
最少必要な厚みは図22における回帰式から算出した。
2.薄状構造物における pixel 値
すべての FOV のサイズや位置づけにおいて、アルミニウムの厚みが減少するに 従いその pixel 値も減少した。この現象は体軸方向よりも水平方向への計測で より顕著だった。最も厚い 1 mm(平坦部)の部位でも、アルミニウムの peak 部 の pixel 値は、十分な厚みを有するほかのステップよりも低かった。図23は P-mode、中心部での測定における結果を示す(第Ⅴ章、図18の例に示す P-mode で十分な厚みがある時のアルミニウム pixel 値、1500 程度を参照)。
考察
本章の結果では、薄状構造部の厚みが増すに従い EPA は直線的に減少し(図 22)、またその回帰式から、誤差が 1pixel 未満の高い精度を維持するために は、CBCT では最低 3~4 pixel 程度に相当する厚みが必要であることが示唆され る(表3)。水平方向への測定で、1 pixel 未満の誤差を得るために最低必要な 厚みが極端に小さくなっているところが散見されるが、水平方向の測定のため の standing position での撮影においては、アルミニウムが薄い部分で水平方 向にアーチファクトが見られ pixel 値が極端に小さくなっており(図23)、そ の影響によるものと思われる。
本研究では境界部の閾値の決定において、pixel 値のプロファイルに基づいた 半値幅の方法を応用していることから、十分な距離測定精度を得るためには最 低 3~4 pixel 程度の厚みが必要であるという結果は、部分体積効果の影響を考 慮すると妥当であり、本機種は、そのスペックから期待される薄状構造物にお ける距離測定限界能を有していると考えられる。歯周病の評価やインプラント 治療において薄い皮質骨を評価する時に、この限界能を十分考慮することは非 常に重要である。
Prevrhal et al18)は、CCT における皮質骨の厚みと濃度(Hounsfield 値)を 決定する際の精度の限界について評価している。厚みの測定において誤差 10%
未満の精度は、実際の厚みが点広がり関数の半値幅より大きい場合に達成され、
また濃度については、点広がり関数の半値幅の2~3倍の厚みが必要だとして いる。本研究では、peak の pixel 値がアルミニウム本来の値を得るほど十分な 厚さがなくても、距離測定では高い精度が維持されていた(図23)。この結果 は、CCT における彼らの結果とも一致している。
小括
1. 距離測定の誤差を 1pixel 未満にするためには、少なくとも 3~4 pixel の厚みが必要であり、臨床的には薄い皮質骨のような微細な構造物の厚 さの測定を行う時に考慮する必要があると考えられた。
2. pixel 値が本来の値まで十分に回復するだけの厚みに達していなくても、
誤差が 1pixel 未満の距離測定精度が得られた。
Ⅶ.総括
予備的研究から、CBCT においては、皮質骨を想定したアルミニウムや、軟組 織を想定した水の pixel 値は、FOV の大きさや水の量の違いによる影響を大きく 受けており、アルミニウムや水の pixel 値を一義的に決定することは不可能で あった。このため、CBCT における距離測定精度を客観的な方法で検証するため には、半値幅の方法の応用により境界の閾値を決定することが適していると考 えられた。
主研究ではこの方法により CBCT の距離測定精度の検証を行った。体軸方向へ は極めて高い精度を認め、cone 角の補正は十分に行われていると考えられ、イ ンプラント治療の術前検査として有用であると考えられた。水平方向への測定 では、ファントムの辺縁部付近では体軸方向と同様に高い精度を認めたが、フ ァントムの中心部付近では過大評価される傾向にあり、皮質骨を水平方向へ測 定する場合には注意する必要があると考えられた。
また、誤差が 1pixel 未満となるための精度を得るためには、概ね 3~4 pixel 程度の厚みが必要であり、薄い皮質骨のような微細な構造物の厚さの測定を行 う時に考慮する必要があると考えられた。
Ⅷ.謝辞
稿を終えるにあたり、終始御懇篤なるご指導と御校閲を賜りました九州大学 大学院歯学研究院顎顔面病態学講座口腔画像情報科学分野の吉浦一紀教授に深 甚なる謝意を表します。また本研究の遂行にあたり終始有益なご助言を賜りま した同教室員諸兄に厚く御礼申し上げます。
本研究の試料の収集にあたり、器材の使用を御快諾いただきました医療法人 渡辺歯科口腔外科の渡辺哲章理事長に心より御礼申し上げます。
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