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福 田 正 弘 (初等教育講座)

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Academic year: 2021

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(1)

[研究論文]

経 済 的 意 思 決 定 に お け る 数 理 の 働 き

ー ピ ジ ネ ス ゲ ー ム に お け る 数 理 テ ス ト と ゲ ー ム 成 績 の 分 析 か ら ー

福 田 正 弘 (初等教育講座)

1  はじめに

本 研 究 は , ビ ジ ネ ス ゲ ー ム に お け る 生 徒 の 経 済 的 意 思 決 定 と 数 理 的 理 解 の 関 係 を 明 ら か に す る も の で あ る 。 具 体 的 に は , ① ゲ ー ム の ビ ジ ネ ス モ デ ル に つ い て の 数 理 テ ス ト の ゲ ー ム 成 績 に 与 え る 効 呆 を 検 証 す る と 同 時 に 逆 に ② ゲ ー ム 体 験 が 数 理的理解に与える効果を検証する。

我 々 は こ れ ま で 社 会 認 識 に お け る 数 理 的 モ デ ル 認 識 の 重 要 性 に 着 目 し 、 そ の 有 効 な 学 習 ツ ー ル と し て シ ミ ュ レ ー シ ョ ン ゲ ー ム の 活 用 を 唱 え 、 そ の 学 習 効 果 に 関 す る 実 証 的 研 究 を 重 ね て き た ( 福 田 2003a,2003b,2005,2006)。その中で、数理的 な 理 解 と ゲ ー ム の 成 功 と の 関 係 が 十 分 に 検 証 で き ず に 暖 昧 な ま ま 今 後 の 検 討 課 題 と し て 残 っ て い た 。 今 回 、 こ の 点 を 明 ら か に し よ う と 新 た に 実 験 を 計 画 し 実 行 し た。本稿はその報告である。

と こ ろ で 、 一 般 に は 社 会 科 と 数 学 は 関 係 の な い 対 極 的 な 位 置 に あ る よ う に 思 わ れているが、最近では、統計教育の分野から、我が国の子どもの PISAに お け る 数 学 的 リ テ ラ シ ー の 低 下 を 踏 ま え て 、 単 に 数 学 教 育 で の 統 計 教 育 の 充 実 の み で は な く 、 「 実 際 的 な 場 面 で の 複 合 的 な 統 計 活 用 能 力 の 育 成 を 段 階 的 に 図 っ たJ(田部 2009,p.8)昭 和 40年 代 の 社 会 科 を 再 評 価 し 、 社 会 科 の 多 様 な 教 育 内 容 と の コ ラ ボ レーションを提唱する声が出ている。また、こうした動きの中で、西村・大沢(2014) は 「 キ ー コ ン ピ テ ン シ ー な ど 今 後 期 待 さ れ る 学 力 を 考 え れ ば 、 子 ど も 自 身 が デ ー タ を 文 脈 に 即 し て 批 判 的 に 考 察 し 、 必 要 に 応 じ て グ ラ フ な ど に 再 構 成 す る 学 習 が 求められるJ(p.85)と し て 、 社 会 科 と 数 学 科 が 連 携 し た 学 習 単 元 を 開 発 し で も い

る。

本 来 、 社 会 的 課 題 解 決 の た め の 合 理 的 意 思 決 定 能 力 の 育 成 を 目 指 す 社 会 科 に お い て 数 理 的 な 思 考 は 重 要 な 機 能 を 果 た し て い る の で あ っ て 、 著 名 な 社 会 科 実 践 の 分 析 を 通 じ て そ の こ と を 指 摘 し て い る 研 究 も あ る 。 例 え ば 、 岩 永 (1989,1992)  は、「山びこ学校」と「村の五年生」を取り上げ,それぞれの実践における数量が 持 つ 社 会 認 識 形 成 上 の 意 味 を 分 析 し 、 数 量 は 社 会 問 題 解 決 に お い て , 問 題 を 構 成 要 素 に 分 解 し , そ の 要 素 間 関 係 を 論 理 的 に 記 述 す る こ と を 通 し て , 問 題 解 決 の 科 学性を保障する機能を果たしているとしている。

我 々 が 社 会 認 識 に お け る 数 理 的 モ デ ル 認 識 の 重 要 性 に 着 目 し た の も ま さ に こ う

(2)

し た 社 会 的 課 題 に 対 す る 合 理 的 意 思 決 定 に お け る 数 理 的 思 考 の 重 要 性 を 感 じ た か ら で あ る 。 し か し 、 述 べ た と お り 、 数 理 的 思 考 が 社 会 的 な 文 脈 下 で の 意 思 決 定 に ど れ だ け 生 か さ れ る か に つ い て 満 足 で き る レ ベ ル で の 具 体 的 な 検 証 は ま だ な さ れ ていない。本研究はその未達の部分への挑戦の一歩である。

2  目的

本 実 験 で は 、 は じ め に 述 べ た と お り 、 ピ ジ ネ ス ゲ ー ム に お け る 生 徒 の 経 済 的 意 思決定と数理的理解の関係を明らかにする。具体的には,

① ピ ジ ネ ス ゲ ー ム の ピ ジ ネ ス モ デ ル に つ い て の 数 理 的 理 解 の テ ス ト が 、 ゲ ー ム の パ フ ォ ー マ ン ス ( ゲ ー ム 成 績 ) に 与 え る 影 響 を 調 査 ・ 検 証 す る

② ピ ジ ネ ス ゲ ー ム の 体 験 が 、 ゲ ー ム 後 に 実 施 す る 数 理 的 理 解 に 関 す る テ ス ト に 与える影響を調査・検証する。

③ こ れ ら を 通 じ て 、 経 済 的 意 思 決 定 に お け る 数 理 的 理 解 の 機 能 ・ 意 義 に つ い て 知見を得る。

の3点 で あ る が 、 ① ② の 仮 説 と し て 次 の2つを設定した。

(1)先行要件としての数理的理解

ビ ジ ネ ス ゲ ー ム に お け る 意 思 決 定 が デ ー タ に 基 づ い て 数 値 を 扱 う 判 断 で あ る 以 上 , 何 ら か の 情 報 処 理 モ デ ル が 前 提 と な っ て い る は ず で あ る 。 そ の モ デ ル こ そ 数 理 的 モ デ ル で あ り , こ の モ デ ル の 理 解 が ゲ ー ム 遂 行 に と っ て 有 効 な 先 行 要 件 と な る と 考 え ら れ る 。 従 っ て 、 ビ ジ ネ ス ゲ ー ム の 実 施 前 に 、 ゲ ー ム を 統 括 す る ビ ジ ネ ス モ デ ル の 数 学 的 な 理 解 を 測 る テ ス ト ( 数 理 テ ス ト ) を 実 施 す れ ば 、 そ の テ ス ト の 成 績 と ゲ ー ム を 遂 行 し て 挙 げ た 経 営 成 績 ( ゲ ー ム 成 績 ) の 聞 に 正 の 相 闘 が 見 ら れ る と 恩 わ れ る ( 仮 説 1)。

( 2)知 識 構 成 基 盤 と し て の 経 験

ゲ ー ム に お い て 、 生 徒 は 意 思 決 定 と そ の 結 果 の 吟 味 ・ 反 省 、 次 の 意 思 決 定 と い う過程を反復していく。そこには生徒なりのやり方が成立しているはずであるが、

生徒はゲームの過程を通じて数理的理解を達成・深化させていくものと恩われる。

そ し て 、 そ の 理 解 は ゲ ー ム に お け る 意 思 決 定 に 反 映 さ れ 、 理 解 の 進 ん だ 生 徒 ほ ど 優 れ た ゲ ー ム 成 績 を 収 め る と 考 え ら れ る 。 従 っ て 、 仮 説 1とは逆に、ピジネスゲ ー ム 実 施 後 に 数 理 テ ス ト を 実 施 す れ ば 、 そ の テ ス ト の 成 績 と ゲ ー ム 成 績 の 聞 に

E

の 相 闘 が 見 ら れ る と 思 わ れ る ( 仮 説 2)。 3  方 法

(1)被験者

長 崎 市 内 中 学 校 3年 生 2クラス,共に生徒数は 35名, 1ク ラ ス に ゲ ー ム 開 始 前 に 数 理 テ ス ト を 実 施 , も う 一 つ の ク ラ ス に は ゲ ー ム 終 了 後 に 実 施 し た 。 実 験 実 施 は 2013年 11月であった。

( 2)使 用 ビ ジ ネ ス ゲ ー ム

(3)

YBG(Yokohama Business Game)の レ ス ト ラ ン ( オ リ ジ ナ ル パ ー ジ ョ ン 、 シ ナ リ オ A)  (福田・佐藤 2014参 照 ) を 使 用 し た 。 各 ク ラ ス 12チ ー ム を 構 成 し , ク ラ ス 内 で レ ス ト ラ ン 経 営 を 競 い 合 う ゲ ー ム で あ る 。 意 思 決 定 項 目 は , 料 理 の 価 格 と 材 料 費 , 広 告 費 の 3つ で あ る 。 こ の 3つ の 値 が 評 価 さ れ , そ れ ぞ れ の 庖 に 顧 客 が 配 分

される(図 1)。

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ストランゲーム」の構造 担問で相損しても捕いまぜん)

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図 1 レ ス ト ラ ン ゲ ー ム の 構 造 11''

( 3 )

数理テスト

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図 2 数理テスト

本 実 験 で 使 用 し た 数 理 テ ス ト は 図 2の 通 り で あ る 。 こ れ を 1つ の ク ラ ス で は ゲ ーム実施直前に、もう 1つのクラスではゲーム終了直後に実施した。テストは個々 人 で 回 答 さ せ た が 、 本 ビ ジ ネ ス ゲ ー ム は 3人 の チ ー ム で 遂 行 し て い る た め 、 回 答

に際してはチーム内での相談も可とした。

(  4 )

実 験 手 続 き

① ゲ ー ム 結 果 の 評 価

ゲームの成績は各期(ラウンド)の営業利益と累積(営業)利益で評価するととも に , チ ー ム の 判 断 の 適 切 性 を 示 す 指 標 と し て , 充 足 率 ( そ の 都 度 の 損 益 分 岐 点 販 売 量 ( 来 客 数 ) に 対 す る 実 販 売 量 ( 来 客 数 ) の 比 率 ) を 求 め 使 用 し た 。 具 体 的 に は以下の式で算出した。

充 足 率 = 実 来 客 数 / 損 益 分 岐 点 来 客 数

損 益 分 岐 点 来 客 数 = (固定費用+広告費) /  (価格一材料費)

② 数 理 テ ス ト の 評 価

図 2に示すように、本ゲームのビジネスモデルと利益モデノレを記号化して表現 す る テ ス ト を 実 施 し た 。 具 体 的 に は 会 計 諸 項 目 を 記 号 表 記 し た (Q1)後 , 損 益 分 岐 条 件 式 を 書 き (Q2),具体的状況で解く (Q3) という課題である。本実験では、

(4)

Q1でほぼ全員が正解していたので、 Q2、Q3についてそれぞれ4点,合計8点 で 評 価し,チーム内の最高点を分析データとして採用した。

③ 分 析 手 続

上記①②のデータを事前テストクラス,事後テストクラスで集計,比較した。

4  結 果

実験及び分析結果を以下に示す。

4. 1ゲ ー ム の 成 績

1200 160000 

140000 

1000 .

120000 

8田00 100000 

600  T. 800 

60000  400 

40000 

200 T8 200 

T9 

20000 

200∞  40000 

n

400∞  60000 

3 事 前 テ ス ト ク ラ ス の ゲ ー ム 成 績 4 事 後 テ ス ト ク ラ ス の ゲ ー ム 成 績

ゲームの成績であるチームの累積利益の推移は図 3,図 4に示すとおりである。

両クラスとも殆どのチームが,ラウンド進行に連れて累積利益を増大させており,

順調なゲーム展開を示しているといえる。

4.2数 理 テ ス ト の 成 績 と ゲ ー ム の 成 績

表 1 数 理 テ ス ト と ゲ ー ム の 成 績

事前テストクラス 事後テストクラス

チーム 最高点 平均充足率 累積事l チーム 最高点 平均充足率 累積串l 6.0 1J!09  80.740  6.00  1.054  19.600  8.0 1.202  71.373  5.0 1.237  88.780  6.0 1.024  5.557  5.00  1.077  24.030  4.0 1.038  5.191  3.00  0.958 37.655  7.0 1.036  10.199  8.00  1.179  62.210 

6.0 1.231  80.831 

7.0 1.357  133.170  8.0 1.267  94.675  8.0 1.175  59.844 

8.0 1.285  108.712 

8.00  1.300  107.310 

8.0 1.151  50.854  4.0 1.242  78.721  10  8.0 1.103  29.790  10  4.00  1.104  34.181  11  o

. o o 

1.273  94.869  11  2.00  0.926 27.500  12  7.00  1.136  52.313  12  8! 1.267  97.782  平均 6.8 1.183  56.892  事 均 5.87  1.156  53.373  1.Z 0.096  36.877  2.15  0.135  52.624 

数理テストの平均点は,事前テストクラスが 6.83,事後テストクラスが 5.67, また標準偏差は前者が1.27,後者が 2.15で あ っ た 。 事 前 テ ス ト ク ラ ス が 全 体 的 にばらつき少なく高得点であるといえる。

また,ゲームの成績は,両クラス止も平均充足率,累積利益で大きな差はない。

しかし、それぞれの標準偏差は, 事前 テ ス ト ク ラ ス が 0.096,36877,事後テスト クラスが

o .

135, 52564となっており,事後テストクラスのばらつきが大きくなっ ている。

(5)

4.3数 理 テ ス ト の 成 績 と 充 足 率

宅弓 U~

15

f11~

1

⑨  4 @

OY '0 

00 J()3 CG 4̲30  CG r; JG3 且口白 000  tl警手:下炉

5 数 理 テ ス ト と 充 足 串 ( 事 前 テ ス ト ク ラ ス )

相関係数=O.  468  p=n. s. 

13~

13 

12~ P

11

4

1

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0.9 

3品。 :00 l W  1ffil 白也 :.UJ  (>u Ji w 主む自

数 理 手 アf̲s

6 数 理 テ ス ト と 充 足 率 ( 事 後 テ ス ト ク ラ ス )

相関係数=O. 705  p(O. 05 

各 チ ー ム の 数 理 テ ス ト の 得 点 と 充 足 率 を 図 示 す る と 図 5,図 6のようになる。

事 前 テ ス ト ク ラ ス で は 比 較 的 狭 い 範 囲 に 分 布 す る の に 対 し , 事 後 テ ス ト ク ラ ス で は 広 範 囲 に 散 ら ば っ て い る 。 得 点 と 充 足 率 の 相 関 係 数 を 求 め る と , 事 前 テ ス ト ク ラスが 0.468,事後テストクラスが 0.705となっており,後者は 5%水 準 で 有 意 で あった。

5  考 察

5.  1仮 説 の 検 証

(1)仮説(1)について

図5に 示 す と お り 、 事 前 テ ス ト ク ラ ス で は 、 数 理 テ ス ト の 点 数 が 高 い チ ー ム が よ り よ い ゲ ー ム 成 績 を あ げ る 傾 向 が あ る こ と が 窺 え る が 、 有 意 で は な か っ た 。 こ の こ と か ら 仮 説 (1)は 棄 却 さ れ る と い え る 。 そ の 原 因 は 、 事 前 テ ス ト ク ラ ス で は 、 数 理 テ ス ト の 得 点 と 充 足 率 の 値 が チ ー ム 聞 で 接 近 し て お り 、 相 関 係 数 と し て 値 が 出 に く か っ た の で は な い か と 推 量 さ れ る が 定 か で は な い 。 し か し な が ら 、 本 当 に ゲ ー ム 前 の 数 理 的 理 解 が ゲ ー ム の 意 思 決 定 に 関 わ ら な い の で あ ろ う か 、 こ の 点 に ついては後で検討する。

(2)仮 説 (2)について

図6に 示 す と お り 、 ゲ ー ム 成 績 と 事 後 テ ス ト の 得 点 の 聞 に 相 関 関 係 が 認 め ら れ る こ と か ら , ゲ ー ム の 経 験 が 数 理 的 理 解 に 影 響 を 与 え て い る と い え る 。 生 徒 は ゲ ー ム を 通 し て 損 益 分 岐 条 件 に 気 付 い て い く の だ が 、 こ の 条 件 に 早 く 気 付 き , 意 思 決 定 を コ ン ト ロ ー ル で き た チ ー ム が ゲ ー ム で 好 成 績 を 挙 げ た と 恩 わ れ る 。 数 理 テ ス ト は こ の 気 付 き を 数 学 的 に 表 現 す る と い う 活 動 な の で 、 ゲ ー ム で 好 成 績 の チ ー ム ほ ど 数 理 テ ス ト の 得 点 も 高 く な っ た と い え る 。

5 . 2

数 理 的 理 解 と 意 思 決 定

仮 説 検 証 の 結 果 、 ゲ ー ム 成 績 と 事 後 テ ス ト の 成 績 と の 有 意 な 相 関 関 係 は 認 め ら れ た も の の 、 事 前 テ ス ト と ゲ ー ム 成 績 の そ れ は 否 定 さ れ た 。 こ の 事 態 を 我 々 は ど う 解 釈 し た ら よ い の で あ ろ う か 。 事 前 の 数 理 的 理 解 が 意 思 決 定 に 影 響 を 与 え な い と は 考 え に く い 。 む し ろ 、 事 前 に ゲ ー ム の ビ ジ ネ ス ・ 利 益 構 造 に つ い て 数 理 的 理 解 を 行 っ て い た 方 が 、 ゲ ー ム で の 意 思 決 定 も よ り 合 理 的 と な る し 結 果 と し て ゲ ー ム の 成 績 も よ く な る は ず で あ る 。 そ こ で 、 こ の 点 を よ り 詳 細 に 検 討 す る た め 、 事

(6)

前 テ ス ト ク ラ ス か ら 典 型 的 と 思 わ れ る チ ー ム の 意 思 決 定 過 程 を 取 り 上 げ 、 そ の 合 理性を検証してみたい。

と こ ろ で 、 こ こ で 取 り 上 げ る べ き 典 型 的 な チ ー ム と は 、 数 理 テ ス ト の 成 績 と ゲ ー ム の 成 績 の 相 聞 か ら 外 れ て い る チ ー ム 、 す な わ ち 数 理 テ ス ト の 成 績 は い い が ゲ ー ム の 成 績 が 振 る わ な い チ ー ム あ る い は 数 理 テ ス ト の 成 績 は 悪 い が ゲ ー ム の 成 績 は ょ い と い う チ ー ム で あ る 。 こ こ で は 前 者 の 数 理 テ ス ト の 成 績 は い い が ゲ ー ム の 成 績 が 振 る わ な い チ ー ム を 選 択 し て み る 。 ま た 、 我 々 の こ れ ま で の 研 究 ( 福 田 2005)に お い て 見 出 し た ゲ ー ム 成 績 の 下 位 チ ー ム に 見 ら れ る 意 思 決 定 パ タ ー ン の 特 徴 を 選 択 基 準 と し て 援 用 し て み る 。 そ の パ タ ー ン と は 、 行 き 当 た り ぼ っ た り の 経 営 を 繰 り 返 し 、 意 思 決 定 が 安 定 し な い と い う も の で あ る 。 本 研 究 で は 、 こ の 意 思 決 定 の 不 安 定 さ を 価 格 戦 略 の 不 安 定 さ 、 つ ま り 販 売 価 格 の 変 動 率 の 大 き さ と し て捉え、選択基準とした。

表 2は 、 事 前 テ ス ト ク ラ ス 各 チ ー ム の 平 均 販 売 価 格 、 そ の 標 準 偏 差 、 価 格 の 変 動 率 お よ び 数 理 テ ス ト の 成 績 を 一 覧 す る も の で あ る 。 表 よ り 、 第 10チーム(T10) が 平 均 価 格 815、 標 準 偏 差 242、 価 格 変 動 率 0.30で 最 大 で あ る 。 ま た 同 時 に 数 理 テ ス ト の チ ー ム 内 最 高 得 点 も 8.0で 高 得 点 で あ る 。 こ れ ら の こ と か ら T 10を 分 析 対象とした。

表 2 事 前 テ ス ト ク ラ ス 各 チ ー ム の 数 理 テ ス ト の 成 績 と 価 格 変 動 率 TOl  T02  T03  T04  T05  T06  T07  T08  T09  TIO  TlTl平均価 920  883  757  826  680  966  774  833  812  815  687  844 

価格標 190  229  163  94  3  133  37  121  97  242  71  84  準偏差

価格変 0.21  0.26  0.22  0.11  0.00  0.14  0.05  0.15  0.12  0.30  0.10  0.10  動率

数理テ 6.0  6.0  6.0  4.0  7.0  6.0  8.0  8.0  8.0  8.0  8.0  7.0  スト

5.3 T10の 意 思 決 定 分 析

T10の ラ ウ ン ド 毎 の 意 思 決 定 内 容 と そ の 結 果 、 お よ び そ の 意 思 決 定 内 容 で 求 め ら れ る 損 益 分 岐 点 来 客 数 と 実 際 の 来 庖 状 況 を 示 す 充 足 率 を 表 3に 示 し た 。 ま た ラ ウンド毎の販売価格と充足率、および営業利益の大きさをパブ、/レ表示したものが 図7である。

3 事前テストクラスT10の 意 思 決 定 と 結 果 事前下10販売価格材料費広告費来客数 損益分岐点営業利益充足率 Rl  799  280 42.000  155  177  ‑11.555  0.87  R2  840  420  6000  157  133  9940  1.18  R3  499  290  7000  185  273  ‑18335  0.68 

l 13

1.2

R4  1000  480  5000  152  106  24040  1.441112

l

1150 550  7500  135  96  23500  1.411110

R6  600  275  5000  176  169  2200  1.04 

0.40  0.20  0

T1

R05 

()() o 600  000  1000  12 14 眠売価格

図 7 T10の価格一充足率の動き

(7)

T10は、販売価格 799から開始するものの 42000という過大な広告費のため赤 字を計上し、 2ラワンドでそれを解消、黒字転換を成し遂げている。しかし、 3

ラワンドで 499という低価格路線を取り再び赤字に陥っている。 4ラウンド、 5 ラウンドで 1000、1050という高価格に転じ再び黒字となっている。しかし、 6ラ ウンドで販売価格600に減じ、大きな減益を招いている。このようにT10は 不 思 議な価格変動を示している。なぜ黒字になったのに路線を変更し、赤字・減益と なるのか、それは数理的無理解から来るのか。この点について、特徴的な第3ラ ワンド (R3) と第6ラウンド (R6) の意思決定の様子を利用可能なデータをもと に再構成してみたい。

5.3.1  R3の意思決定

T10の R3の意思決定は、販売価格を前ラウンドの 840から一気に 499にまで下 げるというものである。その結果、単位粗利益(ー皿当りの粗利益)は 420から 209まで低下し、その分損益分岐点が 273にまで上昇している。呆たしてこの損 益分岐点を超える来客数を実現することは可能だろうか。T10の 意 思 決 定 の 根 拠

は何か。

このゲームでは、全チームの既ラワンドの意思決定内容と来客数をデータとし て見ることができる。T10が販売価格を 499に設定する際、おそらくこのデータ を見ているはずである。価格 500というチームは足下の R2にはなく、 R1の T03 のデータがあるのみである(表 4)T10は こ の デ ー タ か ら 損 益 分 岐 点 近 く の 来 客 数を少々強気で見込んだのではないかと推量される。

表 4 第1ラワンド (R1)の市場状況

Team:  01  02  03  04  05  06  07  08  09  10  11  12  販売価格 1200 850

日 司

880  680  945  800  599  900  799  698  900 

材料費 100  4001 350l 300  238  473  350  180  300  280  250  500  広告費

500018000l 10000  20000 7875 10000 

10000 42000  7000 10000  来庖客数 52  193ヒ~ 9 128  198  212  10 95  155  211  214 

5.3.2  R6の意思決定

T10の R6の意思決定についても、販売価格を前ラウンドの 1150から一気に 600 にまで下げるというものである。その結呆、単位粗利益は 600から 325ま で ほ ぼ 半減し、損益分岐点は 96から 169にまで上昇している。比較的楽な経営から厳し い経営に舵を切っているわけである。このT10の意思決定の根拠は何なのか。上

と同様にデータを見てみる。

表 5 第5ラワンド (R5)の市場状況

Ten: 01  02  03  04  05  06  07  O 09  10  11  12  販 売 価 格 1000  1200  700  749  678  900  800  900  850  850 

材 料 費 380  600 300  399  327  450  350  350  375  550230 400  広 告 費 20000 15000 2500 1000 15000  12000 10000  15000  8000  7500800~ 18000  来 庖 客 数 166  154  156  151  193  161  162  162  152  17

(8)

すると R5にT11が 598と い う 販 売 価 格 で 材 料 費 230、 広 告 費 8000で 187の来 客数を得ている事実がある。T10は こ れ を 把 握 し て お り 、 損 益 分 岐 点 来 客 数 を 十 分達成可能な数字であると判断したと思われる。

5.3.3  高 価 格 時 の 意 思 決 定

以 上 R3とR6についてT10の 意 思 決 定 の 様 子 を 再 構 成 し て み た が 、 そ れ ら は い ず れ も 過 去 の デ ー タ に 基 づ き 先 例 の あ る 、 あ る 程 度 損 益 分 岐 点 を 満 足 す る 経 営 戦 略 と し て 案 出 さ れ た も の と い え る 。 こ の よ う に T 10が 、 価 格 引 き 下 げ 時 に は 実 証 的な手法で意思決定を行っていることが可能性として示された。

ところで、T10は 販 売 価 格 を 引 き 上 げ た 際 に は 確 実 に 利 益 を あ げ て い る 。 ビ ジ ネ ス ゲ ー ム で は 高 利 益 を 生 み 出 そ う と 、 値 上 げ に 踏 み 切 る ケ ー ス が よ く あ る が 、 そ の 全 て で 所 期 の 利 益 が あ げ ら れ て い る わ け で は な い 。 そ こ で 、 追 加 的 な 分 析 に なるが、数理テストの成績の下位のチームで価格変動率の大きいチームを選択し、

高価格時の意思決定を分析し、T10の そ れ と 比 較 し て み よ う 。 し か し な が ら 、 事 前 テ ス ト ク ラ ス で は こ の 条 件 を 満 た す チ ー ム が な か っ た た め 事 後 テ ス ト ク ラ ス か ら 選 択 し た 。 そ の 結 果 、 事 後 の 数 理 テ ス ト の 得 点 が 2.0で 、 価 格 変 動 率 が 0.40 という第 11チーム(事後T11) を比較対象とすることにした。

事後T11の ラ ウ ン ド 毎 の 意 思 決 定 内 容 等 は 表 6、図 8の通りである。

表 6 事後T11の 意 思 決 定 と 結 果

事 後 T ‑ 1販 1 売 価格材料費広告費来客数損益姉点営業 利 益 充 E 率 R

1

  8 0 0 4 0 0   1 0

0 0 0 1 8 8   1 5 0   1 5

2 0 0   . 1 2 5  

ll

R 2   8 0 0 4 0 0   5 . 0 0 0 1 5 3   1 3 8   6 . 2 0 0  

1.1

1.4

R 3   6 0 0  2 5 0   6

0 0 0 1 4 6   1 6 0   ‑ 4

9 0 0   0 . 9 1 

1.2

0

R 4   3 0 0 1 0 0   1 0

0 0 0 1 3 8   3 0 0  ‑ 3 2

4 0 0   0

4.

O

R 5   . 1 0 0 0  1 0 0   2

0 0 0 1 5   6 1 1 3  ‑ 5

2 0 0   0 . 9 0 

0.4

R 6  

12

0 0  8 0 0   3 0

0 0 0 1 8 4   2 0 0

6

4

0 0 0 . 9 2  

0.20  R04 

0

2∞  岨0

T1

ROl 

。 ‑ ‑ ‑ ‑ " ' ‑ 0  0 

600  000  10 世 田 '4 脹売価 格

図8 事後T11の価格一充足率の動き 事後T11の経営は先のT10に比べ価格変動も大きく、収益も改善されていない。

R3から急激な価格引き下げに走り赤字を拡大させ、 R5で反転、高価格路線に転換 す る も の の 赤 字 は 解 消 し て い な い 。 こ こ で は 事 後 T 11の R5とR6の 高 価 格 時 の 意 思決定を取り上げ、T10の高価格時の R4とR5のそれと比較したい。

表3お よ び 表6の 当 該 ラ ウ ン ド の 損 益 分 岐 点 の 値 に 着 目 す る と 、 両 チ ー ム の 違 いが一目瞭然に理解される。すなわち、T10は 高 価 格 に 移 行 す る に 連 れ 損 益 分 岐 点 を 引 き 下 げ て い る (R4では 106、R5では 96に 下 が っ て い る ) の に 対 し 、 事 後 T11で は 逆 に 上 昇 さ せ て い る (R5では 173、R6では 200に 上 が っ て い る ) 。 し か も、事後T11の こ の 価 格 帯 で の 損 益 分 岐 点 は 、 そ れ 以 前 の ラ ワ ン ド の も っ と 低 価 格 の 時 の そ れ よ り も 高 い 値 に な っ て い る 。 通 常 、 高 価 格 商 品 は 低 価 格 商 品 に 比 べ 大 き な 需 要 が 見 込 め な い も の の 、 利 幅 が 大 き い た め 低 い 損 益 分 岐 点 で 採 算 が 取 れ る よ う 販 売 計 画 を 立 て る も の で あ る 。 こ の 点 に つ い て T 10の判断は的確で、あると いえるが、事後T11のそれはそうとはいえない。事後T11は 、 価 格 を 上 げ る と 同 時 に そ れ 以 上 に 材 料 費 も 上 げ 、 単 位 粗 利 益 を 引 き 下 げ て し ま っ て い る の で あ る 。

(9)

恐 ら く 彼 ら は 、 収 益 改 善 の た め に 価 格 の 引 き 上 げ を 決 断 し た の で あ ろ う が 、 利 益 構造に従った行動ではなく、単に集客を狙っただけの行動となってしまっている。

これでは収益改善にはならない。このような事後Tllの 意 思 決 定 は 、 彼 ら の 数 理 テ ス ト の 成 績 が 示 す 通 り 、 本 ゲ ー ム の ビ ジ ネ ス の 利 益 構 造 に 対 す る 不 十 分 な 理 解 から来ているのではないかと考えられる。

以上から、TlOと事後Tllは 価 格 変 動 率 の 大 き い チ ー ム で あ る が 、 前 者 は 利 益 構 造 に 適 合 し た 判 断 、 後 者 は 適 合 し な い 判 断 を し て お り 、 そ こ に 数 理 テ ス ト の 結

果が示す数理的理解の差が決定的にあるように思われる。つまり、TlOは「分か

つて」価格を変えているのに対し、事後Tllは 「 分 か ら ず に 」 価 格 を 変 え て い る といえるのではないだろうか。ただ、TlOが 高 収 益 を あ げ て い な が ら 、 な ぜ あ え てその時の戦略を変更したのかは不明のままであるが。

6  結 論 と 課 題

こ れ ま で の 考 察 よ り 、 本 研 究 の 目 的 に つ い て 暫 定 的 で は あ る が 次 の よ う に 結 論 付けることができる。

① ゲ ー ム 前 に 実 施 し た 数 理 テ ス ト の 成 績 と ゲ ー ム の 成 績 の 聞 に 有 意 な

E

の相 聞 は 確 証 さ れ な い が 、 ゲ ー ム 前 に 数 理 テ ス ト を 実 施 し た ク ラ ス で は 、 そ う で な い ク ラ ス に 比 べ 偏 り の 少 な い 意 思 決 定 が な さ れ て い る 。 こ の こ と か ら 、 ピ ジ ネ ス 構 造 や 利 益 構 造 の 数 理 的 理 解 を 事 前 に 確 認 す る 数 理 テ ス ト は 、 ゲ ー ム の 遂 行 に肯定的に影響するといえる。

② ゲ ー ム 後 に 実 施 し た 数 理 テ ス ト の 成 績 と ゲ ー ム の 成 績 の 聞 に 有 意 な 正 の 相 闘 が 確 証 さ れ た こ と か ら 、 ゲ ー ム の 遂 行 と そ の 後 の ビ ジ ネ ス 構 造 や 利 益 構 造 の 数理的理解には関係があることが分かった。

③ 経 済 的 意 思 決 定 に お い て 数 理 的 な 理 解 は 、 目 的 を 達 成 す る た め の 正 し い 判 断 を 導 く 思 考 道 具 と し て 機 能 し て お り 、 合 理 的 な 意 思 決 定 を 支 え る 基 盤 で あ る

といえる。

しかし、この結論は、チーム単位のデータを統計的に分析した結果と、一部、

学 習 者 の 思 考 過 程 を そ の デ ー タ に よ っ て 推 測 的 に 再 構 成 し た 結 果 を も と に 導 か れ た も の で あ る 。 そ の 意 味 で 暫 定 的 な の で あ る 。 本 研 究 で は 、 ビ ジ ネ ス ゲ ー ム を 通 し て そ れ ぞ れ チ ー ム の 構 成 員 は ど う 考 え た の か 、 結 果 と し て ど の よ う な 学 習 を な し え た の か に つ い て は ま だ 十 分 に 手 の 届 か な い 分 析 と な っ て い る 。 そ れ ぞ れ 異 な っ た 能 力 、 概 念 、 価 値 観 を 持 ち 合 わ せ た チ ー ム 構 成 員 が 協 働 し な が ら ゲ ー ム を 遂 行 す る 中 で 、 彼 ら が ど の よ う に チ ー ム に 関 わ り 、 ど の よ う に 変 容 を 遂 げ て い く の か 、 こ の 点 に 分 析 の 光 を 当 て 、 ピ ジ ネ ス ゲ ー ム と い う 具 体 的 文 脈 下 で の 意 思 決 定 と 数 理 的 思 考 の 関 わ り 、 さ ら に は ピ ジ ネ ス ゲ ー ム そ の も の の 教 育 的 意 義 に つ い て 明らかにしていきたい。

附記

本研究は,平成 26 年度 ~29 年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究 (c)

「新しい価値を追求する Wi‑Fi利 用 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 教 材 の 開 発 と 実 践J(課題番

(10)

号 26381275, 研 究 代 表 者 福田正弘)による研究成果の一部である。

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