1.はじめに
著者は
1980
年から2011年まで公立中学校社会科の教員として勤務してきた。完全週五日制の実施,授業「内容」の三割削減,「総合的な学習」の新設等を「特徴」とした
1998
年告示,2002年完全実 施の学習指導要領改訂によって,中学校担任の場合,自分の専門教科,道徳,学活の授業準備に加え て,総合的な学習の時間と選択教科の準備が加わることになった。しかし,改訂に際して教員増など の措置は行われず,教員一人当たりの授業時数は増加した。また,週五日制により1
日当たりの授業 数が増えたために,それまで教材研究(授業準備と同意,以下教材研究)等に充てていた授業のない「空き時間」が減った。したがって,十分な教材研究ができないまま授業に臨むことが起こってきた。
教員が「学び続ける」ことは自明のことであり,その成果を授業によって子どもたちに還元してい くことこそ教員のやりがいであると考える。教材研究が十分にできないことは,教員だけの問題では ない。子どもの学習権,さらには発達保障の観点からもとらえる必要があると考え,教材研究を含め た教員の研修に関心を持つようになり,大学院就業休業制度(1)を利用して大学で研修条項の成立過 程等の研究,学校現場の教員及び退職教員の研修に対する意識調査を行ってきた。
2012
年8
月28
日の中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上 方策について」(以下,2012年答申)において,「Ⅰ 現状と課題」の「2.これからの教員に求めら れる資質能力」を,「(ⅰ)教職に対する責任感,探究力,教職全体を通じて自主的に学び続ける力」,「(ⅱ)専門職としての資質能力」,「(ⅲ)総合的な人間力」の
3
点に「整理」して,「学び続ける教員 像の確立」を掲げていた(2)。さらに,2015年12
月21
日の中教審答申「これからの学校教育を担う 教員の資質能力の向上について~学びあい,高めあう教員育成コミュニティの構築に向けて~」(以 下,2015
年答申)においても,「1.検討の背景」で,「平成24
年8
月の中央教育審議会答申」で,「学 校が抱える多様な課題に対応し新たな学びを展開できる実践的な指導力を身に付けるためには,教員 自身が探究力を持ち学び続ける存在であるべきであるという『学び続ける教員像』の確立を提言し ており,真の意味で『学び続ける教員像』を具現化していくための教員政策を進めていく必要があ る」(3)と述べて,2012年答申が継承されていた。そこで,「学び続ける教員像」が登場した2012
年 答申では現職教員に向けて,「3.現職段階及び管理職段階の研修等の改善方策」,「(1)現職研修等の 改善」の「②校内研修や自主研修の活性化」では,次のように述べられていた。教員の研修に関する考察
―
退職教員・現職教員の研修に関する意識調査より
―宮 崎 敦 子
「教員は,日々の教育実践や授業研究等の校内研修,近隣の学校との合同研修会,民間教育研究 団体の研修会への参加,自発的な研修によって,学びあい,高めあいながら実践力を身に付けて いく。しかしながら近年では学校の小規模化や年齢構成の変化によってこういう機能が弱まりつ つあるとの指摘もある。」(4)
この箇所は,「授業研究等の校内研修」,「近隣の学校との合同の研修会」,「民間教育団体の研修会 への参加」,「自発的な研修」と「学び続ける教員像」の「学び」の内容を具体的に示したものとして 捉えることができる。同時に,「研修」の用語がいずれも使用されていることから,「学び続ける教員 像」とは換言すれば「研修」の継続であり,まさに,1949年に施行された教育公務員特例法(以下,
教特法)の研修条項を想起させられる。研修は次のように規定されていた。(なお,現行では,「第
4
章 研修」として第21
条,22条に該当するが,本稿では19
条,20条で表記する)「第
3
章 研修 第19
条(研修)①教育公務員はその職務を遂行するために,絶えず研究と修養に努めなければならない。
②
教育公務員の任命権者は,教育公務員の研修について,それに要する施設,研修を奨励
するための方途その他研修に関する計画を樹立し,その実施に努めなければならない。
第
20
条(研修の機会)①教育公務員には,研修を受ける機会が与えられなければならない。
②
教員は,授業に支障のない限り,本属長の承認を受けて,勤務場所を離れて研修を行
うことができる。
③
教育公務員は,任命権者の定めるところにより,現職のままで,長期にわたる研修を
受けることができる。」
本稿では,
2012
年答申で,「学び続ける教員像」を掲げた背景として,教員の「自発的研修」が「弱 まりつつある」ことを挙げ,その要因として,「学校の小規模化」や「年齢構成の変化」を述べてい るが,果たして,教員の「自発的研修」は「弱まりつつある」という指摘は妥当だろうか。また,そ の要因は「学校の小規模化」や「年齢構成の変化」なのだろうか。以上の2
点を著者が行ってきた教 材研究を含めた教員の研修についての意識調査の結果をもとに考察していきたい。2.教育公務員特例法研修条項について
先にも述べたように,「学び続ける教員像」の「学び」とは換言すれば「研修」のことであり,教 特法の施行に際して,教特法の立案にあたった文部省から,辻田力監修・文部省内教育法令研究会編
『教育公務員特例法―解説と資料―』(時事通信社,1949年,以下,解説書)が出版されている。同
著は教特法成立の国会での審議の過程や逐条解釈によって構成されている。解説書は,教員の研修の 特殊性について次の点を述べている。
第
1
に,第19
条1
項「努めなければならない」という義務に対して,「本項に背くものがあった場 合にこれに対する罰則は本法には規定されていない。いわば本項は教育公務員に対する一種の道徳規 範である」(5)と述べて,この研修条項が教員の自主的・自律的な研修活動を奨励するための条文であ ることを述べている。第
2
に,第20
条2
項について,研修は「法律の範囲内で創意と工夫をもって行われるべきである」,「授業時間外その他授業に支障がない場合には,むしろ勤務場所を離れてたとえば学校外で見学を行 い,或いは図書館,研究所等に出向いて研修を行うことがかえってその職務遂行上有効な場合が少な くない」と,多様な研修の在り方を示していることである(6)。
第
3
に,「『研修』とは,『研究』と『修養』を併せて一語で呼んだもの」であり,「一般公務員の研 修が「一般人の生活の便宜をはかること主目的」とする「対人業務」であるのに対して,「教育関係 は人格と人格との関係」であり,「教育者の人格は意識的,無意識的に被教育者の人格形成に影響す るところが大」であると述べて,「職務の遂行のために先ず研さん,修養を必要とする」として,「研 修に努めずしては教育公務員の職務は遂行されない」とさえ述べている(7)。立法を担当した文部省 は当時,第19
条,第20
条を,わずか2
カ条ではあるが独立した第3
章「研修」とし,教特法の「へ そ」(8)と呼んでいた。研修を通じての教員のあり方が子どもにも影響するという,子どもの学習,発 達と結びつけて捉えていたと考えられ,教員の自主的・自発的な学びの姿勢としての「研修」が児 童・生徒の探究心や,創造性,学ぶ意欲に影響を与えるというまさに「学び続ける教師像」と合致す るものであると考えられる。しかし,1964年
12
月18
日に文部省は教特法の研修条項の行政解釈を転換して,研修を①職務と して行わせる研修,②職務専念義務(地方公務員法35
条)を免除されて行う研修,③勤務時間外に 自主的に行う研修に三分類した(9)。よって,「職務」としての研修は職務命令に基づく研修のみとな り,教特法が本来奨励していた自主的・自律的研修は勤務時間外に行う場合を指すものとなった。3.研修についての意識調査の概要
既述したように,行政解釈の転換によって教特法立主旨である職務としての自主的・自律的研修は 勤務時間外に行うものとされ,教員が勤務時間内に認められる職務としての研修は校内研修,行政研 修となった。
そこで,上記の点を踏まえて,2012年答申で,「学び続ける教員像」を掲げた背景として,教員の
「自発的研修」が「弱まりつつある」ことが挙られたが,実際に学校に勤務する教員は
1964
年の行政 解釈の転換,さらには1988
年の初任者研修制度(教特法第23
条),2002年の十年経験者研修(教特 法第24
条)と,研修条項が行政主催の研修へと転換されていくなかで,研修をどのように捉えてき たのだろうか。本稿では,教特法研修条項の適用を受ける公立の小中高等学校に勤務する現職教員,および研修条 項の行政転換以前から勤務した教員を含む退職教員を対象に行ったアンケート調査をもとに,教特法 制定の立法趣旨として掲げられた自主的・自律的な研修に対する教員の意識を考察していきたい。
(1)退職教員を対象とした調査
2013
年6
月に,日本教育公務員弘済会埼玉支部が行なった巡回健康診断(毎年6
月に県内14
か 所で実施・校長等の管理職経験者も含む)の際に,主催者に趣旨を伝えて会場(熊谷・東松山・川 越・所沢・大宮・浦和の6
か所)で研修に関するアンケート用紙を配布し,郵送による回収を行っ た。300名に配布して,128名から回答を得た。回収率は42.7%であった。なお,内訳は小学校教員
が
57.8%,中学校教員が 40.6%,高等学校教員及び特別支援学校教員が各 0.8%であった。
(2)現職教員を対象とした調査
2014
年から2017
年の夏季及び冬季休業中に,東京・埼玉(過密地域・大規模校が立地),島根県(過 疎地域・小規模校が立地)に勤務する教員(校長等の管理職も含む)に対して,学校を訪問して,ア ンケート用紙を配布し郵送による回収を行った。392名に配布して,199名から回答を得た。回収率 は50.8%であった。内訳は小学校教員 59.8 %,中学校教員 33.7%,高等学校教員 6.5%であった。なお,
表
A
は回答のあった教員が教員となった(就職年)を年代別に示したものである。4.研修に関する意識
(1)研修の在り方について
表
1
は「教員の研修について,1.学校で,そこに勤務する教員が集団で行うもの(校内研修)2.行政が主催するもの(行政研修) 3.自主的に個人で行うもの(個人研修)のうち最も適切である
ものを1
つ選んでください」と聞いたものである。表 A 退職教員・現職教員 就職年代別表
退職教員 現職教員
就職年代 就職年代
1950年~59年 7.8(10) 1970年~ 79年 10.6(21)
1960年~69年 29.7(38) 1980年~ 89年 34.1(68)
1970年~79年 56.3(72) 1990年~ 99年 16.6(33)
1980年~89年 6.2( 8) 2000年~2009年 21.6(43)
計 100.0(128) 2010年~ 17.1(34)
計 100.0(199)
注:表中の数値は%,括弧内は人数を示す。以下の表も同様とした。
退職教員では「校内研修」が
56.6%と最も多かったが,現職教教員では「個人研修」が 38.2%で「校
内研修」の36.2%をやや上回っていた。現職教員は表 A
からも70
年代以降に学校現場に入った教員 であり既に行政解釈の転換により職務としての研修が「行政研修」及び「職務専念義務免除」のみと された世代の教員であるが,退職・現職教員共に「行政研修」は少なく,退職教員の場合は7.8%で
あった。現職教員では,校内研修の割合が退職教員と比べて20%も少なかったが,表 1-A
は就職年 代別に見た退職・現職教員の割合である。現職教員の場合には,校内研修が年代を追うごとに少なく なり,行政研修・個人研修に移っていったことが分かる。一方,行政研修が2000年代に増えていくが,
1988
年の初任者研修(教特法第23
条),2002年の十年経験者研修(教特法第24
条)と,教特法研修 条項に命令として行われる行政研修が追加されていった影響と考えられる。しかし,後述するように 表2
からは行政研修が増えたといっても,教員の側の行政研修への評価が個人研修に反映されている と考えられ,相互に影響しあった関係になっていると思われる。(2)教員の資質向上のための条件整備とは
表
1
で,研修条項の行政解釈の転換から既に50
年以上が経過しているが,退職・現職教員共に行 表 1 研修の在り方について校内研修 行政研修 個人研修 計
退職教員 56.6(75) 7.8(10) 32.8(42) 100.0(128)
現職教員 36.2(72) 24.1(48) 38.2(76) 100.0(199)
表 1-A 研修とは 退職・現職就職年代別
退職教員・就職年代 校内研修 行政研修 個人研修 計 1950年~59年 60.0( 6) 10.0( 1) 30.0( 3) 100.0( 10)
1960年~69年 57.9(22) 5.2( 2) 36.9(14) 100.0( 38)
1970年~79年 61.1(44) 9.7( 7) 27.7 (20) 100.0( 72)
1980年~89年 37.5( 3) 0 62.5( 5) 100.0( 8)
計 56.6(75) 7.8(10) 32.8(42) 100.0(128)
現職教員・就職年代 校内研修 行政研修 個人研修 計
1970年~79年 47.6(10) 0 47.6(10) 100.0( 21)
1980年~89年 33.8(23) 25.0(17) 39.7(27) 100.0( 68)
1990年~99年 42.4(14) 9.1( 3) 45.5(15) 100.0( 33)
2000年~09年 37.2(16) 32.6(14) 30.2(13) 100.0( 43)
2010年~ 26.5( 9) 41.1(14) 32.4(11) 100.0( 34)
計 36.2(72) 24.1(48) 38.2(76) 100.0(199)
政研修の割合が低かった。教特法は,教員に「研修に努めなければならない」と義務を課す(第
19
条)と同時に,研修を保障するための行政側の義務(第
20
条)を規定している。そこで,表2
では「教 員の資質向上のための条件整備に必要な事は次のうちどれですか。必要だと思うもの全てに〇をして ください。1.学級の人数(学級定数)を減らす 2.正規採用の教員を増やす 3.教員の持ち時数を 減らす 4.雑務を減らす 5.会議を減らす 6.行政主催の研修(行政研修)を増やす 7.教師の自 主研修を保障する(夏季・冬季の学校外研修を認める) 8.その他」を聞いたものである。退職教員(80.5%)・現職教員(85.9%)共に「雑務を減らす」が最も高かった。ここでいう「雑務」
とは,行政から依頼されるアンケート調査や集計,初任者研修や十年次研修に向けての提出レポート 等である。一方で,「行政研修を増やす」は退職教員(7.8%)・現職教員(10.6%)共に最も低かった。
本来教員の資質向上を目的として行政側が企画した研修であるが,行政研修は授業のある平日に実 施されるので,その研修に向けてのレポート等の課題作成,さらに出張により授業ができないので担 当授業の自習課題の作成等のため,教員が本来行うべき担当授業に向けての教材研究の時間が圧迫さ れて,雑務として認識されている場合もあると思われる。行政研修は,夏季・冬季休業期間中の実施 などの配慮が必要であると考える。また,行政研修は職務命令によるいわば強制的な研修であり,「自 主研修の保障」が退職教員(54.7%)・現職教員(53.3%)と共に半数を超える教員が挙げているのは 行政研修への批判ではないかと考えられる。2012年答申で「自発的な研修」が「弱まりつつあると の指摘」にはこの調査結果からは,妥当ではないといえる。
また,「その他」が退職教員(3.9%)に対して現職教員(10.6%)と多かった。その他を挙げた現 職教員
21
名のうち16
名の自由記述があった。そのうち9
名が「部活動負担の軽減」「部活動の見直し」等部活動について挙げていた。部活指導に関しては,ここ数年メディア等でもとりあげられるように なり,認識が広がったと考えられる。また,退職教員でも,その他を挙げた
5
名中2
名が「部活動の 軽減」を挙げ,他に,「行政研修の質の向上」,「民間教育研究会に参加研修を認める」を記述していた。7
割近い教員が指摘していた,「1.学級定数を減らす」「2.正規採用の教員を増やす」「3.教員の
表 2 資質向上のための条件整備とは
退職教員 N=128 現職教員 N=199
1.学級定数を減らす 68.0(87) 67.8(135)
2.正規教員を増やす 64.1(82) 65.8(131)
3.教員の持ち授業数を減らす 79.7(102) 69.8(139)
4.雑務を減らす 80.5(103) 85.9(171)
5.会議を減らす 43.0(55) 42.7(85)
6.行政研修を増やす 7.8(10) 10.6(21)
7.自主研修の保障 54.7(70) 53.3(106)
8.その他 3.9(5) 10.6(21)
持ち時数を減らす」は教員が授業を行う条件整備として相互に関連しているが,同時に,児童・生徒 にとってもゆきとどいた教育による児童生徒の授業理解という観点からもとらえる必要がある。既述 のように「職務の遂行のために先ず研さん,修養を必要とする」として,「研修に努めずしては教育 公務員の職務は遂行されない」と解説書が述べていたように(本稿
3
頁),学校教育の特徴は,教員 のあり方がたんに教員の問題にとどまらず児童生徒にも反映される点である。今回,最も指摘の多 かった「雑務の軽減」は,「教諭は児童の教育を掌る」(学校教育法37
条⑦)からも,教員の側から の行政への切実な訴えであると考える。(3)長期休業中の研修について
表
3
は夏休み・冬休みの長期休業中に教員が,どのような研修を行ったのかを調べた。問いは,「あなたが研修届を出して行った研修について,次のうち当てはまるもの全てに〇をつけて下さい。
1.自宅で行う 2.図書館に行く 3.美術館・博物館等に行く 4.映画・演劇に行く 5.国内・国
外旅行に行く 6.民間教育団体主催の学習会や講演会に行く 7.ボランティアに参加する 8.学会 に参加する 9.その他 」と聞いた。いずれの項目も,退職教員の世代に比べて現職教員は減っており,2012年答申で「自発的な研修」
が「弱まりつつあるとの指摘」の通りである。しかし,既にみてきた表
1,表 2
の結果からも,減っ てきたのは命令研修のみを研修と見なすようになり,「自主的研修」を勤務時間外の自主的研修と行 政解釈したこと,さらに,後述する多様な自主的研修が可能な夏季休業中の校外での研修を規制した ことにこそ要因があるのではないだろうか。「6.民間教育団体の研修会参加」は減少したとはいえ3
人に1
人が行っている。「9.その他」については退職教員
18
名(うち15
名自由記述)であった。その内容は,「行政研修」(5名),「遺跡の発掘調査」「公共施設,工場見学等教材研究に出かけた」,等の内容が書かれたものや,
表 3 休業中の研修
退職教員 N=128 現職教員 N=199
1.自宅で行う 57.8(74) 16.1(32)
2.図書館に行く 25.0(32) 12.1(24)
3.美術館・博物館に行く 26.6(34) 12.1(24)
4.映画・演劇などに行く 7.8(10) 5.0(10)
5.国内・海外旅行に行く 29.7(38) 13.6(19)
6.民間教育団体の研修会参加 63.3(81) 36.7(73)
7.ボランティアに参加する 1.6( 2) 2.5( 5)
8.学会に参加する 14.8(19) 12.6(25)
9.その他 14.1(18) 10.7(15)
「校長によって,研修承認の対応が異なった。認められる時とだめな時があった」,「全て認められて いたのに退職の
7~8
年前からクレームが来るようになった」,「年休消化がなかなかできない中,研 修届を出していく必要はない」という体験談や意見が書かれていた。現職教員は15
名(うち14
名記 述)であった。内容は,行政研修(4名)の他に科学・芸術等,教員の興味・関心,さらには自分の 専門教科と関連付けた「野外観察」,「水族館に行く」,「科学館に行った」,「日本地理学会参加」等長 期休業を利用した自主的で多様な研修の取り組みが記述されていた。2002
年7
月4
日に文部科学省から出された「夏期休業期間等における公立学校の教育職員の勤務 管理について」によって,教特法22
条の「勤務場所を離れての研修」が認められなくなった(10)。そ こで,表3-A
は「研修と位置付けて,年休を取って行ったものにすべて〇をつけてください」と聞 いたものである。研修条項の行政解釈の転換から,既に50
年以上が経過して教員の「自発的研修が」勤務時間外の研修として見なされるようになったが,表
3-A
にみられるように,「6.民間教育団体の 研修会参加」(42.7%)をはじめ,多様な研修を行っているのではないだろうか。特に,養護教員,美術・体育・音楽・技術家庭科などの教員は規模の大きい学校でも
1~2
名のため校内での研修交流 は難しいが,「9.その他」(7名うち5
名記自由記述)の中には,「地域の養護教諭の自主研修」参加,「市内の技家教師の自主研修会」への参加,などの研修内容が書かれていた。しかし,これらの内容は,
「年休」として扱うのではなく,行政の側が積極的に「研修」として奨励すべきものではないだろうか。
「教育関係は人格と人格との関係」であり,「教育者の人格は意識的,無意識的に被教育者の人格形成 に影響するところが大」である(解説書・本稿
3
項)と述べたように,教員の「意欲」を引き出す機 会を創り出すことこそ行政の役割ではないだろうか。他にも,「母校の大学主催の講演会」,「大学の
OB
会」等「その他」の自由記述があった。今 回,現職教員(190名)に,「教員としての力量形成に影響を与えたものは次のどれですか」と聞い て,「1.先輩の教員 2.同世代の教員 3.管理職の教員 4.校内研修 5.初任者研修 6.行政研修表 3-A 現職教員・年休の届けを出して行った研修 1970~79年
N=21 1980~89年
N=68 1990~99年
N=33 2000~09年
N=43 2010年~
N=34 現職教員
N=199
1.自宅で行う 47.6(10) 33.8(23) 51.5(17) 23.3(10) 35.3(12) 36.2(72)
2.図書館に行く 33.3( 7) 20.6(14) 33.3(11) 16.3( 7) 26.5( 9) 24.1(48)
3.美術館・博物館に行く 57.1(12) 20.6(14) 30.3(10) 14.0( 6) 29.4(10) 26.1(52)
4.映画・演劇などに行く 52.4(11) 26.5(18) 21.2( 7) 16.3( 7) 23.5( 8) 25.6(51)
5.国内・海外旅行に行く 38.1(8) 27.9(19) 24.2( 8) 16.3( 7) 26.5( 9) 25.6(51)
6.民間教育団体の研修会参加 52.4(11) 51.5(35) 48.5( 8) 25.6(11) 35.3(12) 42.7(85)
7.ボランティアに参加する 19.0( 4) 1.5( 1) 0.9( 3) 7.0( 3) 0.3( 1) 6.0(12)
8.学会に参加する 23.8( 5) 7.5( 5) 0 4.7( 2) 8.8( 3) 7.5(15)
9.その他 0 1.5( 1) 0 7.0( 3) 8.8( 3) 3.5( 7)
7.民間教育研修 8.教員以外の友人・知人 9.教育に関する書籍・雑誌」の 9
項目を挙げ,「強い 影響を受けた」「少し影響を受けた」「あまり影響を受けなかった」「全く影響を受けなかった」で評 価を聞いた。「強い影響を受けた」の評価が最も高かったのが「1.先輩の教員」(57.9%,
81
名)であった(11)。「先 輩の教員」との出会いは,勤務校をはじめ,実に多様であるが,情報の提供者として,励ましや助言 者として,さらには「こういう教員になりたい」という目標の存在として位置づけられると考える。研修とは『「研究」と「修養」を併せて呼んだもの』(解説書・本稿
3
頁)とあるように,特に夏季の 長期休業中は2
学期に児童生徒との再会に備えて,職場を離れて自主的・自発的な研修に参加する中 で,地域や社会の人々と交流し,これから行う授業の構想や,教員としての自分を励まし,意欲を駆 り立てる「修養」の側面を見逃してはならないと考える。(4)小規模校の教員の研修についての意識
今回の調査で現職教員
199
名のうち,140名が東京・埼玉の過密地域に立地する学年3
クラス以上 の中~大規模校の学校に勤務する教員であり,残り59
名は島根県の中山間地域の学校(10校)で,学校規模は過小規模校
2
校(複式学級3
クラス)と小規模校8
校(単学級6
クラス)に勤務する教員 であった。両地域の研修に関する今回の意識調査で差異が出たのは「表1-B 研修のありかたについ
て」であった。東京・埼玉では「個人研修」(47.9%)が1
位で,「行政研修」(15.7%)は3
位であっ た。一方,島根では「行政研修」(44.8%)が1
位,「個人研修」(15.5%)は3
位であった。小規模校 の多い地域においては,研修の機会という観点から,行政研修に頼らざるを得ない側面(「最新の情 報が得られる」という情報を得る機会として,「自分たちだけの集団では視野が狭い」というより多 くの教員との広範な交流の機会という観点からの自由記述があった)がうかがえる。しかし,表
2
の「条件整備」―A
では島根(N=59)では,「雑務を減らす」(86.4%),「授業時数 を減らす」(78.0%),「正規教員を増やす」(57.6%),「学級定数の削減」(55.9%),「会議を減らす」(39.0%),「自主研修の保障」(39.0%),「行政研修を増やす」(10.2%)と「行政研修を増やす」は最 も低かった。東京・埼玉のような民間教育団体等による豊富な自主研修の機会,交通の利便性という 環境の差異が結果に表れたのではないかと考えられる。したがって,「自発的な研修」が「弱まりつ つある」という指摘の要因として「小規模化」が取り上げられたが,この小規模校・過小規模校の立 地する地域の調査の結果からは妥当ではないといえる。
表 1-B 研修のありかたについて
校内研修 行政研修 個人研修 計 表1-B 東京・埼玉 35.0(49) 15.7(22) 47.9(67) 100.0(140)
島根 39.7(23) 44.8(26) 15.5( 9) 100.0( 59)
(5)「年齢構成の変化」について
また,「小規模化」と並んで「年齢構成の変化」が挙げられたが,中堅層の
40
代教員が全国的にも 少なく,大量退職に伴い20
代の世代が多いという教員の構成は,全国的にみられる実態である。し かし,表2-A
の「6.行政研修を増やす」が最も低く,それに対して「7.自主研修の保障」の項目が 高いという点からは,「自発的な研修」が「弱まりつつある」という指摘は妥当ではないと考えられる。むしろ,自主的な研修を保障することによって,人的交流を促し,要因とされた「小規模化」や「年 齢構成の変化」を抱える学校の課題解決の方策ともなりうるのではないかと考える。
5.まとめ
本稿では,戦後間もない
1950
年代に学校に勤務した退職教員から,現在,学校に勤務している現 職教員まで幅広い世代層を対象に意識調査を行い,教員がどのように研修をとらえているのかを考察 してきた。教員の研修は他の公務員とは異なり,教育公務員特例法の研修条項によって規定されてい る。研修条項は,1947年に制定された教育基本法(旧)の6
条(教員),10条(教育行政)をもとに 教員の自主的研修を奨励する目的で制定された。しかし,1964年の行政解釈の転換により,本来教 特法研修条項が目的とした自主的研修は勤務時間外に行うものなった。しかし,今回の調査からは,世代間の差違はあるものの,行政解釈の変更から
50
年以上が経過しても教員の自主的,自発的研修 への志向は弱まってはいないことが明らかになったと考える。教員にとってのやりがいは,学校での,児童・生徒との関わりの中でその成長を感じる時である。
その感動が,教員の原動力となって教員生活は続いていく。研修とは「『研究』と『修養』を併せて 一語で呼んだもの」であり,今回の調査からは,この「研究」の自由,換言すれば自主的研修をどの ように行政が保障していくのかがむしろ問われていると考える。「自発的研研修」が「弱まった」要 因として挙げられた「小規模化」や「年齢構成の変化」は今後一層全国的にも進むと考えられるが,
退職・現職教員が共に挙げているように,教員の自主性を尊重するという教特法研修条項の制定時の 表 2-A 資質向上のための条件整備とは
東京・埼玉 N=140 島根 N=59
1.学級定数を減らす 72.9(102) 55.9(33)
2.正規教員を増やす 69.3( 97) 57.6(34)
3.教員の持ち授業数を減らす 66.4( 93) 78.0(46)
4. 雑務を減らす 85.0(119) 86.4(51)
5. 会議を減らす 43.6( 61) 39.0(23)
6. 行政研修を増やす 10.7( 15) 10.2( 6)
7. 自主研修の保障 59.3( 83) 39.0(23)
8. その他 13.6( 19) 3.4( 2)
原点に立ち返り,地域や社会で「学びあい,高めあいながら実践力を身に付ける」多様な研修の機会 を教員自身が創り出していくことによって,むしろ「小規模化」や「年齢構成の変化」にも対応でき るのではないだろうか。
注⑴ 2000年に教育公務員特例法「第4章 研修」に20条の3として追加され,2001年より実施された。2003 年には「第5章 大学院就業休業」として改正されて,第26条~28条から成る大学院就業休業制度が創設 された。
⑵ 2012年8月28日 中央教育審議会「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上政策について」
(答申),2~3頁
⑶ 2015年12月21日 中央教育審議会「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について~学びあ い,高めあう教員育成コミュニティの構築に向けて~」(答申),4頁
⑷ 前掲,中央教育審議会「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上政策について」(答申)
23頁
⑸ 辻田力監修・文部省内教育法令研究会編『教育公務員特例法―解説と資料―』時事通信社,1949年 , 127頁
⑹ 同前,129頁 ⑺ 同前 ,126~128頁
⑻ 文教研究同人会編『教育公務員特例法解説』文治書院,1949年,46~47頁
⑼ 高野和子「第4章研修」荒牧重人・小川正人・窪田愼二・西原博史編『新基本法コンメンタール 教育関 係法』日本評論社,2015年,339頁
⑽ 同前,339頁
⑾ 現職教員(199名)に,「教員としての力量形成に影響を与えたものはなにですか」と聞いて,「強い影響 を受けた」と答えたのは,「1.先輩の教員」(57.9%),「7.民間教育研修」(30.0%),「9.教育に関する書籍・
雑誌」(26.4%),「2.同世代の教員」(25.7%),「3.管理職の教員」(18.6%),「8.教員以外の友人・知人」
「(18.6%),「4.校内研修」(8.6%),「5.初任者研修」(5.7%),「6.行政研修」(5.0%)の順であった。