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企業組織の政策科学的研究 : 経営戦略と組織の相 互浸透の視点から

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(1)

互浸透の視点から

著者 永井 久夫

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 1

ページ 173‑196

発行年 1999‑10‑20

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004715

(2)

1. 企業組織への政策科学的アプローチ 1. 1 問題の所在 戦略と組織の相互浸透

本稿の目的は、企業組織を、戦略と組織の相 . . . .

互浸透という視点から政策科学的に研究するこ とにある。従来より組織は、選択された戦略の 実施の仕組みと解されてきた*1。しかし戦略と 組織の相互浸透の考えは、戦略の策定と実施が、

組織過程そのものであること、すなわち①戦略 の選択→組織の形成→戦略へ影響(成果、およ び戦略へのフィードバック)→組織へ波及(成 員への影響、組織行動の変化、組織の再編)の プロセスを持つこと、②戦略の形成が、組織の 特性、および保有する経営資源を生かす形でな されること、の二点をベースにしている。この 相互浸透のなかで企業組織の成員は、戦略の策 定と実施のプロセスに参画することによって、

戦略の形成と成果に直接的・間接的に影響を及 ぼすと共に、自分自身を生かし能力発揮する機 会を得ることができる。また企業にとっては、

企業行動のプロセスを通じてダイナミックな企 業組織の生成が期待されることになる。ところ で、政策科学の方法的特徴は、その政策の持つ 実践性と科学の特性である客観性にある*2。本 稿では、総合という立場から、先行する経験諸 科学の成果を動員して考察を行なう。基本的に は、総合の基礎として専門分化を超え(学際的 で)、全体性を重視し生命体論へ至る一般システ ム論*3を採用し、先行する経営学の戦略と組織 の融合論*4に切り口のヒントを得、実際の企業 組織の調査から政策的な意味の抽出を試みる。

政策の最終目的が、正義の実現にあるとした ら(ここでは、正義については、人間を幸福に

あらまし

本稿の目的は、企業組織を、戦略と組織の相 . . . . 互浸透

. . .

の視点から政策科学的に研究することに ある。第2章では、経験科学である「政策科学」

の方法を探る目的をもって、客観性確保の視点 から、「価値判断」の意味を見ると共に、「正義」

の概念を再検討し、政策科学が研究成果に基づ き、政策判断に積極的に参加すべきことを述べ る。

第3章では、組織を社会システムのひとつと して捉える立場から、システムの意味を探るべ く、二十世紀の中葉までに登場したシステムの 古典理論を再検討し、組織の基礎理論として、

また政策科学との関係からシステム論を見る。

続く第4章では、システム論を踏まえ、組織有 効性と組織充足性に照らし、経営管理論(テー ラー、フェイヨル)、過程論(フォレット)、近 代組織論(バーナード、サイモン)の組織の古 典理論を政策科学の観点から、再検討する。

第5章では、理論と実際を架橋すべく、戦略、

そして経営進化について考察する。そして第6 章で、オムロン社を、戦略と組織の事例研究と してとり上げる。すなわち、製造部門に収益力 の基盤を保証する、品質、納期、生産工程の運 営の各面で、きっちりと

. . . . .

製造する能力を見、本 社の戦略立案と組織観に経営の可能性を展望す る。

第7章では、企業政策の将来に向けて、戦略 と組織、統治の三位一体論を述べる。

企業組織の政策科学的研究

−経営戦略と組織の相互浸透の視点から−

永 井 久 夫

(3)

することと要約しておく)、研究は、解決課題の 発見によってスタートする。筆者[永井]の企 業組織研究は、「人間の持つ価値創造の可能性を より大きく実現できる企業組織は、存在するの であろうか」、という疑問から出発し、修士論文 では、所属する個人の能力を生かし、人格を尊 重し、幸福にするに十分な企業組織はどのよう なものか、あるいは社会にとって有意義な企業 組織はどのようなものか、新しい企業組織の可 能性と成立基盤を探ることを課題とした。そし て結論として、①新しい企業組織は、環境や相 手と相互作用(inter-action)を行ない、自己創 出(auto-poiesis)、すなわち自らを形成し、境界 の設定を行なう存在であること、②その成立基 盤は、1)自立した存在である個人、2)多様 性を許容する企業組織、3)多元的な価値の生 成を行なう社会の存在と、その個人、企業組織、

社会の三者の相互作用にあることを見いだした。

ここでの自己創出は、企業を生命体(有機体)

と捉え、環境適応を超えて積極的に環境や組織 の成員、そして他のシステム(個人、組織、社 会)と関わりを持つ中で、創造的に自らの秩序 を形成していくことを意味する。具体的には、

開業によって企業が生まれ、事業が領域(品目)

と地域に展開されると同時に組織も編成される。

また経営環境の変化や企業組織の特性に応じて、

企業独自の経営戦略が形成され、新たな企業行 動も生まれ出てくる。実際に、組織の自己創出 とは、企業の創業、法人成り、提携、合併、バ ーチャル組織の編成、さらには部門の分社化や 売却等、企業組織のダイナミックな編成過程が、

企業自身の主体的な判断によってなされ、企業 組織が進化していくことをいう。

そして今、次なる課題も出現してきた。すな わち、企業組織に、多様性を許容することを求 めるとしても、その企業に、それに応じるだけ

の能力があるかどうか、という問題である。実 際のレベルでは、企業の収益力、および経営戦 略という経営力に焦点が絞られる。現下、現実 の企業では、経営環境激変の中で、急激な経営 資源の組み替え、すなわちリストラクチャリン グ(内容的には事業撤退、分社化、提携、合併 等の形をとる)が行なわれている。経済の不況 期には、表面の停滞感にも関わらず奥底では、

資源の再編(企業倒産、失業もそのひとつ)が 進み、人、モノ、カネ、情報、知識の新しい組 み合わせが生まれ、到来するであろう経済の次 のステップへの準備が進展していく。その過程 の中で企業組織と個人が、どの様に新たに、積 極的な関係を築いて価値創造を果たして行くか、

企業に新たな経営力が求められている。したが って、以下では、戦略と組織の相互浸透という 理解から、経営力の源泉を探り、企業組織を政 策科学的に研究することが、課題となる。図1 に、研究の概念図を示した。企業における戦略 と組織の融合に対して、政策科学の立場からア プローチする様を表している。

1. 2 本稿の構成

序章である本章では、企業組織への政策科学 的アプローチと題し、問題の所在として、戦略 と組織の融合という視点からの企業組織の政策 科学的研究を上げた。

以下、第2章では、経験科学である「政策科 学」の方法を探る目的をもって、客観性確保の 視点から、「価値判断」の意味を見ると共に、

「正義」の概念を再検討し、政策科学が、研究成 果に基づき、政策判断に積極的に参加すべきこ とを述べる。第2章は、第3章以下、第7章まで の、研究の方法と立場の基底音を成すものである。

第3章では、政策と組織の基礎理論を構築す る準備として、システムの古典理論を再検討す る。すなわち、組織を社会システムのひとつと して捉える立場から、システムの意味を探るべ く、二十世紀の中葉までに登場したシステムの 古典理論を再検討し、組織の基礎理論として、

また政策科学の持つ総合的な視点との関係から システム論を見る。

続く第4章では、第3章で検討されたシステ ム論を基礎理論として、組織論をシステム論の 図1 研究の概念図

(4)

特殊理論、あるいは人間系を軸とするシステム 論と理解する。そして、組織有効性と組織充足 性に照らし、経営管理論(テーラー、フェイヨル)、 過程論(フォレット)、近代組織論(バーナード、

サイモン)の各組織の古典理論を政策科学の観 点から、再検討する。これら第3章と第4章は、

先行研究のレビューとして対を成している。

第5章は、理論と実際を架橋すべく、戦略、

そして経営進化について考察し、第2章(政策 科学の方法)、第3章(システム論)、第4章

(組織論)の理論的基礎と、第6章の企業事例研 究(オムロン社)をつなぎたい。内容としては 事業を一つのシステムと捉え、組織と戦略の関 係を整理した上で、企業の境界について考察し、

経営進化の議論を展開する。

第2章から第5章までの準備を踏まえ、いよ いよ第6章で、実際の企業組織の記述を行なう。

すなわち、オムロン社を、戦略と組織の事例研 究対象として採りあげる。そして、製造部門に、

収益力の基盤を保証する、品質、納期、生産工 程の運営の各面で、きっちり

. . . .

と製造する能力を 見、本社の戦略立案と組織観に、経営の可能性 を展望する。この第6章は、第5章と共に、本 稿の中心をなす。

第7章では、第1章から第6章までを総括し、

今後の課題と方法を示すと共に、企業政策の将 来に向けて、戦略、組織、統治の三位一体論を 結語として述べる。

2. 政策科学の出発点

―客観性と正義、そして企業政策―

2. 1 なぜ政策科学が要請されるのか

財政改革、地球環境、企業統治など現実に山 積する諸問題に対して、自然科学・社会科学の

別を問わず既存の学問から、具体的で実行可能 な解決策が提示されていない。また、公共政策 や企業政策の現場は政策課題の発見の連続であ るが、既存の政策手段では、有効的に問題に対 処できず、また既存の思考や行動パターンでは、

現実の中に埋没してしまったままである。この ような中で政策現場と学術の側の双方から、問 題発見と解決の学として立ち上がってきたのが

「政策科学」*1である。下に政策科学の形成の モデル化を試みた(図2)。政策現実には、政策 の策定、選定、実施と政策評価を含む。

2. 2 政策科学と価値判断―客観性の問題―

政策科学(policy science)=政策(policy)+科学 (science)であるか、どうか。手短にいえば、政 策は実践、科学は客観性であり、政策科学はこ の相矛盾する特性を抱えている、といえる。政 策論の方法は、「目的の設定ないし価値判断の問 題」が、最も基本的な問題であり*2、政策実践 は、価値判断をし、目的設定をすることから出 発する。一方、実証主義においては、科学は価 値判断から独立して事実そのものを対象とする。

ここに、社会科学的認識からの価値判断の排除 という問題が出てくる。マックス・ウェーバー

[Max Weber]は、科学と価値判断(Werturteil)

について、①経験科学からの価値判断の排除

(経験科学の方法)、②「理念」を精神的に理解 することは、科学の現実を越えない(経験科学 に携わる者の姿勢)とした*3。これについて、

私[永井]は、ウェーバーの意図は、方法を確 立することによって、社会科学を政治的な実践 から独立を確保しようとするものであり、社会 科学者が研究に基づいて価値判断を行なうこと を禁止したものではない、と理解している。

これに対して、ユルゲン・ハーバマス[Jurgen

図2 「政策科学」の形成の場

(5)

Habermas]は、体系的な行動科学(経済学、社会 学、政治学)は、法則的な知識をもたらすこと を目標としているが、彼の批判的社会科学はさ らに進んで、どういう場合に、社会的行動一般 の法則が明らかにされ、イデオロギー的には凍 結した、しかし原理的には可変の従属関係が理 論的に明らかにされるか、を吟味しようとする、と 述べた*4。これは、単なるウェーバー批判では ない。ウェーバーのいう「理念」を精神的に理解 することによって、価値判断を科学的に扱おう とする姿勢を鮮明に示したものであるといえる。

一方、コンピュータ・サイエンスの創始者で あ る ハ ー バ ー ト ・ A ・ サ イ モ ン [Herbert A.

Simon]は、経験主義をより鮮明にし、社会科 学における価値判断の排除を貫徹し、「評価」は、

事実を判断し推定する過程を意味し、「価値」は 当為に関連し、「事実」は、現実に関連するとし、

意思決定が、最終目的の選択につながるものを

「価値判断」と呼び、目標の実行を意味するもの を「事実判断」と呼んだ。そして、彼は事実的 要素の探究に集中し、倫理的価値判断は、研究 の外に置いた*5

以上を踏まえた私達の立場は、研究の方法と して経験的な科学に立ち、研究成果に基づいて、

政策的な判断に関し積極的に発言を行なってゆ くことである。

2. 3 政策科学と正義

広義の社会政策(法政策、経済政策、社会設 計も含む)にとり、「資源の配分」と「所得分配」

が最大の課題であり、この配分と分配に関して、

社会の福祉を維持、向上させることが正義(jus- tice)とされる。A. M. オーカン[A. M. Okun]

は、1975年に「市場の持つ効率性と、成果の平 等配分は」共に享受できないとし、平等と効率 をアメリカの経済社会の最大のトレードオフで ある、と述べた*6(なお、日本の平井宣雄は、

効率性基準と正義基準は、異なる次元である、

と述べている*7)。さらに、1991年に、ロバー ト・B・ライシュ[Robert B Reich]は、アメリ カ社会全体の所得分配の不平等拡大を、三つの 船に分かれて乗っているとした(三つの船は、

シンボル分析>対人サービス>ルーチン生産>

は、船の速度(所得)の大小を示す)*8

現代社会科学の源泉の一人、ジェレミー・ベ ンサム[Jeremy Bentham]の功利主義(utilitari- anism)も、正義の原理の一つで、①功利性の原 理、②個人主義、③効用価値の計算可能性の三 点に要約できる*9。彼は、政府の政策について、

社会の幸福を増大させる傾向が、それを減少さ せる傾向より大きい場合には、功利性の原理に 適合している、と考えた。また、個人の利益と は何かを理解することなしに、社会の利益につ いて語ることは、無益であるとした*10

正義論の最後に、ジョン・ロールズ[John Rawls]を見ておこう。彼は、社会契約の理論を 一般化・抽象化して理論を展開し、功利主義よ り優れた代替可能な正義の体系を提案しようと した。ロールズの正義の原理は、第一原理(最 大の平等な自由の原理)と、第二原理( 機会 の公正な均等の原理、 格差原理)からなる11。 第一原理は、社会契約を、第二原理は、成果の 分配基準を成す。

以上、正義についての概観を踏まえ、さしあ たりここでは、正義を人間を幸福にすること

. . . .

、 と理解し、正義の達成が政策科学の最終目的で ある、と位置付けておく。

2. 4 小括にかえて;政策科学と企業政策

今までに、政策科学の必要性、客観性の問題、

正義について見てきた。以下で、本稿の研究対 象を図示する(図3)。

政策を、問題の発見と解決のプロセスと理解 し、この政策の基礎となる考えを、政策思想と 位置付ける。「政策思想」からは、問題発見/解

◯b

◯a

図3 政策現実と政策思想

(6)

決の矢が伸び、「政策現実」は、政策課題を通じ て、「政策思想」に影響をおよぼす。政策思想と 政策現実の相互作用の場を「政策過程」*11と呼 ぶことができる。また政策科学の研究範囲を編 み掛け部分で示した。これは、政策科学を、数 量分析や、シミュレーションに止まらない、厚 みのあるものにと、意図するものである。

最後に、企業政策研究の課題を上げて、小括 とする。政策は、政策主体が政府等(中央/地 方政府、国際機関)であるものを公共政策、企 業等であるものを企業政策と呼ぶことができる

(もちろん、公共政策と企業政策の境界領域や融 合領域があることは、言うまでもない)。このう ち、企業政策については、企業戦略(corporate strategy)や企業統治(corporate governance)が 中心論題であるが、組織

. .

という視点からの考察 が、ポイントの一つとなる。それは、政策と組 織が、もともと一つの盾の表裏を成すからである。

本章は、第3章以下、第7章までの研究の方 法と立場の基盤を成すものである。続く第3章 では、総合政策科学として、一般システム論の 成果を取り入れること、および組織をシステム のひとつとして捉える立場から、システムの古 典理論を再検討する。また第4章では、組織の 古典理論を、政策科学の立場から考察する。こ れら二つの章でなされる考察は、政策科学の形 成のための、言わば温故知新

. . . .

である。

3. システムの古典理論の再検討

―政策と組織の基礎理論に向けて―

3. 1 システム理論と政策科学および組織論

システム理論を再検討する理由は、政策科学 および組織論に、システム理論の方法や成果を

摂取することにある。一般システム論の方法的 特徴は、①専門分化を超えていること(interdis- ciplinary)、②還元主義を採らず、全体性を重視、

③生命体論(organicism)を基調、の三点で*1、 私達の総合政策の考えに親和性が高く、政策科 学にダイナミズムを与える。また、研究対象で ある組織も、システムの一つであり、当然組織 論も、システム論の成果を生かすべき立場にあ る。本稿では、組織―社会システム―システム、

という流れの中で、組織を理解する(これは、

ニクラス・ルーマン[Nikulas Luhmann]の第一

(システム)、第二(社会システム)、第三(組織)

の各水準の考え*2に近い)。図4にその関係を 示 し た 。 さ し あ た り 、 シ ス テ ム を 、 関 係 性

(relatedness)を持つひとまとまり . . . .

のものと定義 する。また以下では組織については、主に企業 組織を念頭に置いて議論を行なう。

システムとしての組織について、コンティン ジェンシー理論(contingency theory)のローレ ンスとローシュ[Lawrence & Lorsh]は、組織の システム性(オープン・システムであること、

メンバーの行動の相互作用性)を採り上げ、環 境(市場、技術・経済、科学の各要因)に対す る組織の適応を明らかにし、①管理行動に対す る内的諸要因の影響、②システムの分化と統合、

③外界の動きに適応する機能を指摘した*3。続 いてマリークとプロブスト[Malik & Prbst]は、

企業の進化的な特性を感知するための前提条件 として、企業をシステムとして理解することを 上げ、企業組織研究に自己組織性(self-organiza- tion)の概念を導入し、「組織内の内発的な変化 創造力を重視する」進化的マネジメントの議論 を進めた*4。以上、二例からも、組織論はシス テム論の影響を受けて発展してきたことが判る。

次節ではシステムの古典理論の今日的意味を探 ることにする。

図4 システムの階層

(7)

3. 2 システムの古典理論 3.2.1 古典理論の要約

私達の検討は、二十世紀の中葉までに出た古 典理論に戻り、組織論の基礎としての、システ ム科学の源泉に迫まる*5。以下、システム哲学 の 先 駆 け の A. N. ホ ワ イ ト ヘ ッ ド [A. N.

Whitehed](有機体の哲学)、システム全体へア プ ロ ー チ す る L. v. ベ ル タ ラ ン フ ィ [L. v.

Bertalanffy](一般システム論)、システム内部の

メカニズムに迫った N. ウイナー[N. Wiener]

(サイバネティクス)、そしてC. E. シャノン[C.

E. Shannon](情報理論)、システム間の相互作 用の理論の追求を試みた J. v. ノイマン[J. v.

Neumann] と O. モ ル ゲ ン シ ュ テ ル ン [O.

Morgenstern](ゲーム理論)の各理論を再検討 する。図5に、諸理論の位置関係を示した。図 表は、飾り罫線で示したシステム(システム内 に、様々な構成要素を含んでいる)が、他のシ ステムと相互作用し、新たな関係を作り出す一 方で、自らも変貌(自己創出)しようとする様 を、表している。

3.2.2 ホワイトヘッド 有機体の哲学

―過程重視の宇宙論―

ホワイトヘッドの考察(1927-28)は、「有機 体の哲学」と名付けられ、宇宙が、経験の多種 多様な諸要素の相互整合的な関係にあることを 示した。この哲学は、成ること the becoming、

在ることthe being、「現実的諸存在」の関係the

relatedness of ‘actual entities’を扱っている。そし て 主 題 は 、 現 実 的 存 在

. . . . .

の 関 係 性 . . .

と 整 合 性 . . .

(coherence)にある。現実的存在の「「有」はそ の「生成」によって構成されている」という*6。 この相互関係を強調し過程を重視する姿勢は、

構造や機能から過程へ、軸を移しつつある今日 のシステム論(例えば、自己組織性)にとって 大きな意味を持つ。また、複合的なもの(com- plex)や多岐性(multiplicity)を用いて考察を行 ない*7、今日の複雑性に議論の先駆けを成して いる。このような彼の有機体の哲学は、C. I. バ ーナードやフォン・ベルタランフィに影響を与 えている。

3.2.3 フォン・ベルタランフィ 一般システム論の提唱

第2次世界大戦の終わる1945年と翌1946年 は、システム論にとって重要な年となっている。

フォン・ベルタランフィの一般システム論の提 唱(1945)は、ウイナーのサイバネティクス

(1946)、シャノンの情報理論(1946)に先立つ 業績である。彼は、要素間の関係に注目し、シ ステムを「たがいに関係をもちあい、また環境 と関係をもって存在する一組の要素」と定義し、

システムに、①自己調節性、②オルガナイザー の出現、③階層的秩序、の三特性を見いだした。

開放システムとしての生物体(Organismus)の 研究から出発した彼は後に(1955)、「機械論的 な見解と反対に、全体性とか動的な相互作用と かオーガナイゼーションとかの問題が出てきた」

とし、また「一般化されたシステムに応用でき

図5 システム諸理論の位置図

(8)

るモデルと原理と法則」(一般システム論)の可 能性を述べた*8。そして、「現代の技術と社会 はいっそう複雑になってきた」ので、伝統的な 手法や手段では不十分であり、全体的・システ ム的な、あるいは全般的ないしは学際的なアプ ローチの必要性を強調した*9。このことは、政 策課題を総合的に捉えて解決して行こうとする、

総合政策科学の基本姿勢と共通するものがある。

3.2.4 ウイナーとシャノン 制御と通信の理論

ウイナー(1946)は、「制御と通信理論の全領 域を機械のことでも動物のことでも サイバネ ティクス(cybernetics)」と呼び、ギリシャ語の 舵手 から採った*10。W. R. アシュビー[W.

Ross Ashby]によれば、「 これは何であるか ではなく、 それは何をするか をたずねる」も のであって *11、システム自体を対象とするの でなく、その行動を対象とする*12。システムの 行動を観察することによってウイナーは、情報 の伝達と復帰の鎖(フィードバック(feedback))

を見いだした。それはシステムが、通信系によ って結びつけられ循環過程を持つ存在であるこ と、を示したものある。彼は、この通信系に着 目して、人間による制御

. . . .

の観点から、システム の研究を行なった。

シャノン(1947)は、情報源から情報を受け 取り再生するメカニズムに着眼し、通信(com- munication)の基本問題は、選択したメッセージ を、正確にあるいは近似的に再生することにあ る、とした*13。彼の研究は、情報の発信側と受 信側の間にある位置関係と作用を踏まえたもの であるが、焦点は、情報の物理的側面にあり、

意味的な側面は検討されていない。情報の持つ 意味的な側面の検討は、今後の私達、政策科学 の課題となってくると考えられる。

3.2.5 ノイマンとモルゲンシュテルン ゲーム理論―相互作用のシステム論―

二人(1944)は、戦略を初めてビジネスに導 入する橋渡しをしたが*14、彼らの最大の功績は、

プレイヤーと環境、プレイヤー間の相互作用を

記述したことにある。ゲームを、実体u と、他

の実体x,y,…との依存関係(u=ψ(x,y,…))で示

し、情報の完全性/不完全性の状態での行動を 明らかにした。ゲーム理論では、実情報下にお ける打つべき一貫した計画を、戦略と呼ぶが、

相互作用については、具体的には提携(coalition、

邦訳版では結託と訳されている)の形で示され ている*15。今日、ゲーム理論を応用した、交 渉・契約・入札の戦略分析*16や、競争(compe- tition)と協調(cooperation)によるコーペティ ション(co-opetition)の考え*17など、経営学的 分野でも応用が出てきている。また、ゲーム的 状況の問題構造は、さまざまな分野に見いださ れ、ゲーム理論は学問分野を横断する学際的で 総合的な理論の一つと見なされ*18、この点でも、

ゲーム理論は、私達の総合政策と方向を同じく しており、大いに価値を持つ方法と言える。

3. 3 小 括

本章では、組織をシステムとして捉える立場 から、組織の基礎理論としての、システムの古 典理論の持つ意味を再検討してきた。その中で、

一般システム論の方法が、総合政策の方法と親 和性が高いことを、また組織(企業組織)も、

社会システム、つまり人間系を軸とする構成体 であり、システム論が、組織へのメゾ的アプロ ーチ(個人と社会の中間項と捉える)の基礎と なることを、再認識した。また、現在、複雑性 と呼ばれている事柄が、すでにシステム論の先 達によって知覚されていることを知った。私達 は政策科学として、これら蓄積を生かして、課 題に立ち向かいたい。次章第4章では、第3章 で検討したシステム論を基礎理論と位置付け、

組織論をシステム論の応用理論、あるいは人間 系を軸としたシステム論と理解する立場から、

組織の古典理論を、政策科学的(問題解決と最 終的な正義の追求の志向)に再検討する。その 際にシステム論は、特に、相互作用と自己創出 を考える場面での有力な方法となるものである。

(9)

4. 組織の古典理論

―政策科学的再検討―

4. 1 組織論の意味

組織には国家、軍隊のほか、企業、病院、学 校、宗教団体など、さまざまな種類があるが、

共通することは、個人では成し得ない事柄(目 的)を、集団の力で達成しようとする点にある。

K. J. アロー[K. J. Arrow]は、組織の特徴とし て、集団的行動、非市場的方法による資源配分、

倫理や道徳の原則をあげ、組織を「価格システ ムがうまく働かないような状況下での集団的行 動の利点を実現するための手段」と理解した*1。 また、組織のうちでも、経済組織である企業

(firm)に注目した R. H. コース[R. H. Coase]

は、企業の特質を市場との対比のなかで、生産 要素の調整について価格メカニズムにとって代 わることにあること、を強調した*2。本章では、

さしあたり組織を、社会システムの一つで、目標 達成のために形成された人間の影響力の関係*3 と定義し、そのうちの企業組織(business organi- zation)を検討の対象とする。組織経営の基本課 題は、①組織有効性(organizational effectiveness)、

すなわち組織をうまく形成して協働の効果を高 めること、および②組織充足性(組織の能率、

organizational efficiency)、すなわち協働の成果を、

参加者(組織構成員)に分配し、満足を与えて 協働を維持すること、が上げられる(なお本稿 では、森本三男*4にしたがい、組織の能率に代 えて、C. I. バーナード[C. I. Barnard]の語義に近 い組織充足性*5を用いることにする)。政策の最 終目的が、正義の実現にあるとするならば*6、 政策研究の対象として「組織」を採りあげた場 合に、組織に参加する「個人の能力を生かし、

人格を尊重し、幸福にする」という充足性の問 題が、組織の有効性と密接な関係ないし同一性 を持つことが明らかになってくる。

4. 2 古典理論の再検討 4.2.1 古典理論研究の意味

以下では、組織経営の視点から20世紀中葉ま でに書かれた組織の古典理論を採りあげて検討

する。まず経営管理論の先駆けとされる F. W.

テーラー[F. W. Taylor]とH. フェイヨル[H.

Fayol]の所説を、続いて過程の組織論として最 近注目されているM. P. フォレット[M. P. Follet]

の企業政策思想を、最後に近代組織論と呼ばれ るC. I. バーナード[C. I. Barnard]とH. A. サイ モン[H. A. Simon]の組織観を見る。従来から 組織論の学派的研究(たとえばW. R. スッコト

[W. R. Scott]*7)があるが、本章の目的は、先 学の開いた古典理論を政策科学的に再検討し、

その今日的意味を探ることにある。

4.2.2 テーラーとフェイヨル

―経営管理論、

それ自体すぐれた組織論―

19世紀末から20世紀初頭の、産業の進展と大 規模経営の生成は、新しい経営管理と組織の理 論を生み出した。アメリカの技師テーラーの

「科学的管理法」(1911)*8は、課業管理(task management)を中心とする科学的な管理法によ り、非能率を救済し、繁栄と幸福を追求するこ とを主眼とした(能率追求に対する誤解から、

議会で喚問を受けたが、このことは彼の思想的 価値を減ずるものではない)。彼の、組織論に対 する貢献は、①科学的管理法を、単なる技法と してだけでなく課業思想まで高めたこと、②課 業を単位として、企業組織の活動を捉えたこと、

にある。図6は、時間分析と動作分析がなされ た課業を、職能組織として編成し、出来高払制 によって成果管理を行ない、そして結果として、

個人と社会の幸福と繁栄がもたらされることを、

示したものである。

フランスの鉱山経営者フェイヨル(『産業並び に一般の管理』(1916))は、管理(administra- tion)が、事業の経営(government)に重要な役 割を演じることを述べた。その背景には、近代 的企業の成立によって、問題の重点が、物の管 理から人の管理に移り、その重要性と困難性が 認識されつつあったことがある。彼は、企業の 活動(機能)を、技術、商業、財務、保全、会 計、管理の六活動に分け、管理機能に企業の全 活動計画の作成、社会体の組織と調整の責務を 認めた。そして経営の意味を、企業を目的(最 大の利益の注出)に向かって誘導し、先に挙げ

(10)

た六つの活動の進歩を保証することにあるとし た*9。図7は、彼の挙げた管理活動を中心とす る六つの企業の活動(機能)と経営の関係を表 している。図中の矢印❙は、人を通じた働きか け、矢印❊は、保証を示す。フェイヨルの特徴 は、組織を動態的に捉え、企業組織の社会体と しての特性を重視したことにあり、システム論 的な企業組織論の先駆けをなしている。

4.2.3 フォレット ―過程の組織論―

フォレットが脚光を浴びつつある理由は、現 在、システム論の中心的関心が、構造(structure)

や機能(function)から過程(process)へ移りつ つ あ る こ と に よ る 。 彼 女 の 思 想 の 根 幹 は 、 発展してゆく状況

. . . .

(developing situation)の概念 と、統合単位体(integrative unity)というシス テム観にある。企業管理・産業組織の評価の第 一に、「その企業を構成するいろいろな部分が、

うまく整合される(coordinated)」、すなわち各部 分の活動が密接に繋がり、調整し合い、関係し 合って、一つの単位体となっているかどうか、

であることを挙げ、企業を「機能的統一体ない し統合的統一体」と捉えた。また企業は、民主 主義の観点から、企業組織を統合する方法につ いて、広く理解を求めなければ、社会的に価値

ある存在になり得ない、と考えた*10。彼女の企 業観を表した図8は、統合的単位体である企業 組織が、時点1から、時点2を経て、時点Nへ 発展してゆく状況を示している。そこでは、組 織化における構成部分における関係も、*

……*と変遷して行く。また罫線で囲んだ

「相互作用、統一化、創出」*11は、特定の状況 下、あるいは状況と状況間に生ずる社会的側面 を指している。

4.2.4 バーナードとサイモン

―協働、そして意志決定論―

バーナード(『経営者の役割』(1938))の組織 論最大の概念は、協働(cooperation)である。

明確な目的のために二人以上の人々が協働する ことによって体系的関係にある構成要素の複合 体を、協働体系と呼び、組織(狭義)を、「意識 的に調整された人間の活動や諸力の体系」と定 義した*12。図9は、人間系と物理体系・社会体 系が統合されて、狭義の組織(人間活動や諸関 係)が生み出され、それら全体が、協働体系

(広義の組織)を構成することを示している。彼 は、近代組織論の創始者とされるが、①協働お よび組織問題への科学的な接近、②システム論 的なアプローチ、③組織(広義)の本質を協働

図6 テーラーの科学的管理観

図7 フェイヨルの経営と企業活動

図8 フォレットの過程論

図9 バーナードの組織体系

(11)

と見極め、協働のメカニズムに迫ったこと、が 貢献としてあげることができる。また、人間の 可能性(協働)を重視し、信頼感を寄せていた ことは、私達が政策科学の立場から、企業組織 を考察する際に大きな指針となる。

意思決定論のサイモン(『経営行動』(1945) は、「行為に導く選択の過程」を問題としたが、

基本的な彼の人間観は、合理性の限界 . . . .

(知識の 不完全性、および予測の困難性)にある。不完 全情報下の、かつ、ある水準で満足する、経営 人モデル(administrative man)を想定する一方 で、価値判断(政策)と事実判断価(管理)を 区分し、意思決定を事実判断に関わる事柄に集 中した*13*14。その結果、彼の意思決定論は、

分析的で管理的な問題領域で力を発揮する一方、

倫理的で政策的な課題を、判断領域から遠避け ることになった(この点では、倫理的・政策的 志向を持つ私達政策科学と考えを異にする)。こ のことは、野中郁次郎が指摘したように、彼の 意思決定論が、人と組織の情報処理システム

. . . . と しての側面を重視したことを示している(最終 的にサイモンは、組織や制度を含めた、人工物 の科学に到達し*15、コンピュータ・サイエンス の創始者とされている)。図10にサイモンのシ ステム論を図示した。

4. 3 小 括

本章では、組織の有効性と充足性を念頭に置 いて、組織の古典理論を再検討した。その中で、

企業組織の新しい展開に呼応して、新しい理論 と思想が生まれ、現実の政策に寄与してきたこ とを知り、また、企業組織の研究が企業政策研 究そのものである、との認識を深めた。これま で第2章では、政策科学の方法を、第3章では、

組織論の基盤としてシステム論を、本章第4章 では、システム論の発展として、人間的な側面 を重視する視点から、組織論の再検討を行なっ た。続く次章第5章では、経営進化を企業形態

の変遷の視点から、鳥瞰することを通じて、理 論と実際との架橋を試みる。具体的には、事業 をシステムとして捉え、組織と戦略の関係を整 理した上で、第6章の企業組織の事例研究につ なぎたい。

5. 戦略、そして経営進化

―理論と実際の架橋―

5. 1 事業というシステム

ク ラ ウ ゼ ビ ッ ツ [Clausewitz](『 戦 争 論 』

1832-34)は、戦争を、①構成している個々の要

素、②要素の集まりから成る個々の部分、③内 的連関を保つ全体としての戦争、と階層的に理 解し、幾多の要因の相互関係を含む大規模な行 動と説明した。さらに、戦闘そのものに関わる のは戦術であるが、戦略(Strategie)を、戦闘を 巧みに使用する技術である、と解した*1。この ことは、彼が戦争を、一体なったシステムと捉 えていたこと、戦争における戦略の役割を重要 視したことを意味する。今日の企業における事 業も、一体となったシステムであり、この点で 戦争と同じである。本章では、まず企業におけ る組織と戦略の関係を整理した後、企業と環境 の接点である境界、次いで経営進化について考 察する。

5. 2 企業組織と戦略

経営行動の主体である企業組織を、現代経営 学のキーワードを使って表したのが、図11であ る。二重枠(=)で示した組織(狭義)は、バ ーナードが示したものと同一で*2、制度面と機 能面からなる。制度は、管理職能、人事制度、

意思決定制度と情報伝達体系からなる。一方機 能は、M. ポーター[M. Poter]が示したように、

調達、生産、物流、マーケティング、R&D の価 値連鎖からなる*3。企業組織(広義)について は、バーナードの協働体系(物的、生物的、社 会的の各要因、そして組織(狭義))からなる。

また、経営行動の基盤として、経営理念/ビ ジョンがあり、経営行動の凝縮的な表現が、経 営戦略であり、経営戦略の具体的な表現が企業 図10 サイモンのシステム論

(12)

行動となる。「組織は戦略に従う」*4か、「戦略 は組織構造に従う」*5か、議論があるが、私は、

組織と戦略は相互浸透し、相互作用を及ぼす、

とするのが妥当と考える。同様に、組織(狭義)

の制度と機能、企業組織(広義)と市場/環境 は相互作用する。

5. 3 企業の境界

―利害関係者、そしてマーケティング―

境界は、自己の限界を示す一方で、自己以外

の接点をなす。図12に示すように、企業の境界 に位置する担当部署(または担当者)は、利害 関係者(stakeholder)と接している(たとえば、

経営―株主、営業―顧客、購買/生産―系列、

財務―金融、広報/総務―社会は、互いに向き 合っている)。以下では、マーケティング(mar- keting)機能と組織について考察する。

マーケティングは、「市場と連動して、人間の ニーズや欲求を満たすために交換を実現するこ と」*6とされるが、ここでは顧客と企業組織の 関係を考察してゆく。企業において組織は、従 来機能別(図13参照)であったが、マーケティ 図11 企業行動のシステム構造

図12 企業の境界 図13 企業の機能組織〈従来型〉

図14 機能とプロセス〈進化イメージ〉

(13)

ングは顧客の接点という意味でより重要となり、

今後、プロセス重視の観点から多層的となると 考えられる。図14に将来的な組織をイメージし た。組織の形を、機能があってプロセスを重視 . . . . する

. .

ことを基本として、プロセスを束ねる責任 者(チーフ)を想定した(このイメージ、およ び次節の企業の制度と評価の変遷は、オムロン 社の鈴木吉宣氏との議論の中から生まれてきた

*7)。これは、従来のマトリックス組織よりも 柔軟で、より顧客に接近したものを想定してい る。

5. 4 経営進化

経営進化については、すでに知識創造論(野 中郁次郎*8)や、認識システムの考察(北原貞 輔*9)、有機体論援用(海老澤栄一*10)により、

研究が進んでいるが、ここでは実際の企業の制 度や評価を整理して、経営進化を見ていく。企 業が、一い ち法人から出発して純持株会社に至るま でを表すと、図15となる。時間軸は左から右へ、

また集権と分権の程度は、事業遂行上の権限を 示す。なお、評価における経済付加価値(EVA)

や個別最適や全体最適の関係については、暫定 的に示している。図からは、企業が規模や事業 領域の拡大に伴い、組織や戦略も変遷してゆき、

また重要とされる資源や環境の変化に連れて、

評価や利害関係者も代わっていくことが見てと れる(なお、参考までに記せば、P/L(profit and loss);損益、B/S(balance sheet);資産/負債・

資本、C/F(cash flow);キャシュフロー、ROE

(return on equity);資本利益率、EVA(economic

value added); 経 済 付 加 価 値 、SBU(strategic business unit);戦略事業単位、である)。

5. 5 小 括

本章では、事業を一体となったシステムとし て捉え、戦略の必要性を見た。続いて、経営行 動の主体である企業を、現代経営学のキーワー ドを使って示し、組織と戦略や環境が相互作用 することを確認した後、企業の境界を利害関係 者を切り口にして見、その内で顧客を焦点に、

マーケティングの観点から、 機能が あってプロ . . . . セスを重視する

. . . .

組織をイメージした。そして最 後に、経営進化を、企業の制度や評価の面から 図示した。以上の作業を通じて、不十分ながら も組織の理論と実際の架橋と成るべく試みた。

第3章でのシステムの古典理論、第4章での組 織の古典理論、本章第5章での戦略論と経営進 化、の検討によりひとまず、企業組織の実際を 記述する基礎が整った。以上を踏まえ、次章6 章では、事例研究企業に、オムロン社をとりあ げ、より良き組織を実現するには、といった政 策科学的な観点から、記述を行なう。

6. 企業事例研究 ―オムロン社―

6. 1 企業選定の理由

より良き組織の実現を担保する力

人の価値創造能力を十分に生かし、幸せにす る企業組織は存在するのか、またいかに生成す

図15 企業の制度と評価等の変遷

(14)

るのか、現実の企業のなかで、理想型を見いだ すのは困難であるが、筆者[永井]は、調査対 象にオムロン社を選んだ*1。同社は、1933年に 立石一真氏により「電力用保護継電器の専門工 . . . 場

.

*2(傍点永井)として設立以来、一貫して 制御機器の専業メーカーとして成長し、最大手 となっている。同社の選定理由は、①人間主体 の経営を掲げていること*3、大企業病を克服す るためにベンチャー精神の復活を目指す経営を 進めていること*4である。本稿では、理想

. . の実 現を担保するのは、最終的には経営力であると 仮説を立てる。その経営力は、現在の力を現す

「収益」と、将来への枠組みを示す「戦略」とな って現れる。単純にいえば、理想を実現するの に十分な収益が確保され、理想の実現を志向す る経営戦略が揃って初めて、より良い企業組織 の実現が、可能となるからである。

以下では、製造業においては、「収益力」の基 礎は、商品となるべき製品を、きっちりと

. . . . . 作る 能力にあるという考えから、生産現場の組織行 動の記述を行なう。ここでの「きっちりと

. . . . .

」の 意味は、求められる品質水準や納期を守り、ま た生産工程の運営を円滑に行なうことを指す。

一方で、「戦略」については、本社における、戦 略の策定と実施のプロセスを見る中で、そこに ある組織観を調査しようと試みる。したがって、

本稿では、より良い企業組織の制度を、逐次個 別に調査立証することは、能力と目的を超えて お り 、 ミ ク ロ (micro、 個 人 ) 分 析 と マ ク ロ

(macro、社会)分析の中間ないしは媒介として、

さしあたり組織と戦略の相互浸透の視点から、

メゾ(meso)的に企業組織の姿を追求しようと するものである。

6. 2 生産のプロセスと組織

―システムとしての能力―

6.2.1 生産のプロセス

本節は、オムロンの製造部門の中核の一つで ある草津事業所の生産プロセスと組織の記述を 行ない、製品を、品質、納期、生産工程の運営 面できっちりと

. . . . .

作る能力、すなわちシステムと . . . . . しての力

. . . .

の把握を行なう。この「システムとし . . . . ての力

. . .

」は、課業の単純な連結を超えた、複合 的で総合的な協働を意味する。

草津事業所の主力製品である現金自動出納機

(ATM)の生産工程を、下に示した(図16)。生 産工程は、①モジュール/ユニット組立ライン と②製品組立ラインに二分される。①のモジュ ール/ユニットの組立ライン[第二製造課]は、

ATM の部分機能を担当するモジュール(メカニ カル・コンポーネント)およびユニット(サ ブ・モジュール)の組立を担当し、カンバン方 式によりで運営され、工場2階で、協力会社も 含め係制によって、ラインが流され(ただし、

検査については社員が担当する)、これには、一 定のスピードが要請されている。一方、②の製 品の組立(アッセンブル)ライン[第一製造課]

は、工場1階にあり、ATM の外壁をなす筐体へ、

モジュールを設置し、システム機器に編成して いく工程で、トータス(亀)と呼ばれる生産目 標台数に合わせてゆっくり移動するU字型ライ ンで、社員を中心とする十数名のグループ(3 グループ)により運営され、検査/調整とラン ニングに精力が割かれている。そして、この① モジュールと②製品の二つの組立ラインを制御

図16 生産工程略図

(15)

しているのが製造日程グループから出される生 産指示である。生産指示の流れを示せば、図17 になる。生産指示は、一週間分の生産順番を、

納期、生産負荷の平準化を勘案して、製品の種 類を考慮した生産投入ルールに基づくもので、

基本的には担当者段階で決定され、設営される。

以上の生産ラインの運営を支える基盤として、

もう一つのライン(情報ライン)がある。営業 部署から生産助成課に伝送される、三か月前に 判る先行情報(営業情報)により、部材、モジ ュールの発注を伝送する一方、各製造課の生産 人員計画を行なっている。この情報ラインは、

企業のサイバネティクスとしての側面を示して おり、生産と結びついて、企業の有機体として の特性が実現されることになる。

ATM は、受注生産、比較的高額(数百万〜数 千万円)な製品単価、継続取引を特徴とする。

モジュールの生産ラインは、ボード指示とカン バン方式を採用し、生産を同期化して後工程が、

前工程を引っ張るのに対して、製品のアッセン ブル・ラインは、組立❖検査❖ランニングの 工程を採り、前工程から、後工程に流す方式で ある。そして、工程上のトラブルが発生した場 合、平常時には各製造課に配属されて、品質改 善や教育指導を行なっている担当者から、レス キュー隊が編成されて解決に当たり、その経験 が、その後の実務に生かされることになる。

ここで、オムロン社の生産面の特徴を確認し ておく。第一は、部材はすべて協力会社からの 納入であることである。これは、第二次大戦後の 再建方針(1945)の「部品はすべて外注する」*5 という考えが継承されている。第二は、ライン は製品の組立そのものに増して、モジュールや 完成品の検査や調整に重点が置かれていること である。この点は、ATM の製品特性にも関係し ているが、このライン編成の基礎には、人間で

なくては成し得ない仕事を重視する企業哲学

(「機械にできることは機械にまかせ、人間はよ り創造的な分野での活動を楽しむべきである」

(1964))*6が生かされると考察される。

最後に、1990年に、15機種5ラインの製造ラ インが、現行の1ラインに統合されたことを記 す。ATM、CD(自動支払機)、両替機の種類、

国内・国外の顧客別、仕様の区分により、5ラ インで製造されていたものを、1ラインに統合 した。当時、ライン変更に対するアレルギー的 抵抗感もあったが、半年の期間を持って移行し、

1ラインで多様な製品の生産が可能となり、製 造グループの能力的向上と組織のスリム化をも たらした。

6.2.2 生産部門と他部門との調整

(相互作用)

製造業において、生産部門が製品を生み出し て商品としてユーザーに到達するまでには、当 然、他部門との調整が発生する。以下、実例を 見ておこう。

① 生産計画については、営業部門(各営業拠 点別)との定例会議(擦り合わせ)を、2

〜3か月に一回開催する。生産計画課の担 当者(状況によりマネージャー)、各営業 拠点の営業担当者およびマネジャーが出席 し、主に当月から3カ月先の商品別売上見 込みについて情報交換し、生産計画を詰め ていく。

② 定例品質会議が、月1回、生産の全課(5 課)から各課マネージャー、品質担当者に 生産開発部長を交え、毎月の品質状況の報 告と対策について検討する。また、クレー

図17 生産指示

(16)

ム処理については個別に翌朝、当該部署で 報告がされている。

③ 開発については、開発、生産、品質保証、

営業の代表者により、開発商品に対する各 専門分野からの意見交換や課題の擦り合わ せを行なう。次世代の商品開発の意思決定 は、開発部門、営業部門からの技術情報や 顧客情報を統合してプランを策定し、開発 商品の投資額や影響度により、担当役員ま たは統括事業部長が決済する。意思決定が なされ、開発の実施プロセスにはいると、

製造開発部の各課は、担当分野を推進、ま た大型商品で開発難易度の高いものは、プ ロジェクト制で実施している。

以上3例は、公式的なものであるが、非公 式・臨時的調整がなされている。これら調整の プロセスとその後の反応や影響を、組織の相互 作用と呼ぶことができる。このことは、企業が 市場のプレイヤーであるという点に止まらず、

企業組織内の各部門(およびその成員)がプレ イヤーとなって相互作用を行なっていることを 意味する。

6.2.3 生産部門の組織図および陣容

先に生産のプロセスおよび他部門との調整を 観察してきたが、生産部門の組織編成を確認す る。図18に示すように、ATM の生産(製造)

部門は、EFTS 事業部内の第一製造、第二製造、

生産助成、生産技術、企画管理の5課からなる。

そのうち、製造担当の製造担当の第一製造課は、

製造日程、製造、品質の3グループ、第二製造 課は、モジュール、サブモジュール、品質の3 グループからなる。なお、各課・グループの機 能は、図表の右側の*印に示した。また、組織 ラインの○

.

印は、ラインの結節点を指し、[ ] は、その職制ないしは呼称を示している。

組織としては、課―係制ではなく、課に所属 するグループを置くことによって、構造より機 能を重視して柔軟性の確保を、また、課長、係 長(職長)でなく、マネージャー、リーダーを 配する形をとり、階層的には、フラット化させ るともに、統合の確保に腐心している。

生産(製造)部門の陣容は、5課合計410人

(社員190人、パート85人、協力会社135人)で、

社員、パート、協力会社と多様化しているが、現業

図18 工場生産部門の組織図

(17)

の第一・第二製造課の非社員(パート、協力会社)

比率が高く、管理的・技術的な職務である生産技 術課・管理課では、社員(したがって、中核的 な労働力)の比率が高くなっている(表1参照)。

6. 3 経営戦略と組織 6.3.1 戦略と策定プロセス

経 営 戦 略 は 、 ビ ジ ネ ス と い う シ ス テ ム の より良い

. . . .

成果を得るための方策である。そして、

戦略と組織の浸透(融合)ということは、戦略 目的と組織編成が影響を及ぼし合う、というだ けでなく、戦略の遂行と組織行動が相互作用す ることをさす。当節では、オムロン社の経営戦 略を、経営と事業という観点から考察する。

オ ム ロ ン の 戦 略 は CSC(Corporate Strategy Center)と呼ばれる経営戦略室が、全社の戦略 を担当し、人員約20人(京都、東京各10名程 度)、プロジェクト方式で、部・課は設置してい ない。担当内容は、M&A、新規事業ドメイン・

新規エリアドメイン戦略、グループ中期経営計

画の策定、事業リストラ等である。そして、オ ムロンの基本的な認識は、戦略とは、「ドメイン と 地 域 を 定 め る こ と 」 で あ る 。 ド メ イ ン

(domain)は、事業領域を指し、地域は、事業

(製造と販売の両面を含む)を展開する世界の地 域を指す。また、戦略のうち、経営戦略(企業 戦略)は、企業やグループの経営に、事業戦略 は、事業部に関わること、と区分している。

戦略は、企業を取り巻く環境や企業目標によっ て変わってくる。オムロンの場合、現在の企業の 目指すべき目標を、12年間の長期ビジョン(ゴ ールデン’90s;1990-2001)にまとめている*7。 1988年1月、プロジェクトチーム(ゴールデン '90s 委員会)が、経営戦略室、本社機能部門、

事業部門の30名(兼務)から構成され発足、88 年3月に経営(常務以上)から、経営指針と施 策の全体像が示され、89年5月にゴールデン

'90s が決定され、90年からスタート、社名も立

石電機からオムロンに変更された。長期ビジョ ンと中期(3年)、短期(1年)の関係を図19 に示した。中期経営計画は、戦略目標が反映さ れてくる。また、短期経営計画は、戦略のフォ ローを成す。

表1 生産部門の陣容

課 名(人) 社 員 パート 協力会社 非社員比率

第一製造課( 80人) 内マネージャー1人、グループリーダー3人、担当36人 20人 20人 50.0% 第二製造課(180人) 内マネージャー1人、グループリーダー4人、担当55人 30人 90人 66.7% 生産計画課( 90人) 内マネージャー2人、グループリーダー4人、担当44人 30人 10人 44.4% 生産技術課( 30人) 内マネージャー1人、グループリーダー2人、担当17人 0人 10人 33.3% 管 理 課( 30人) 内マネージャー2人、グループリーダー2人、担当16人 5人 5人 16.7%

図19 ビジョンと経営計画

(18)

中期経営計画では、①戦略目標と②数値目標

(売上、利益、ROA(return on asset)等)が、掲 げられる。事業戦略では、3重点施策×3項目 の形で示され、アウトプットが求められる(策 定プロセスの概要は、表2の通りである)。

6.3.2 経営と事業部

オ ム ロ ン 社 の 事 業 部 制 (1970年 ス タ ー ト 、 1983年に小事業部化)は、1955年に採用された プロデューサ・システムを発展させたものであ る*8。プロデューサ・システムは、映画制作の プロデューサにヒントを得たもので、工場長は、

生産活動に専念し、間接部門は本社に集中する もので、分権と独立採算制を組み合わせた方式 である。基本的には、経営判断と執行の分離に 当たり、サイモンの政策と管理の分離*9の考え 方に近い。

すでに、戦略の策定プロセスで見た通り、経 営(ここでは、経営陣の意で使用)と事業部に それぞれ本来的な役割がある。戦略の策定にお いて経営には「こう在りたい」という思いがあ る。それを踏まえ、専門部門(経営戦略室や本 部機能)は、経済環境、業界、事業領域、地域

について調査分析する一方、事業部に対するヒ ヤリングを行なう。これに対して、事業部は、

経営に向かって提案を行ない、事業部は「この ように行ないたい」というところを示す。最終 的には、戦略は経営において決定され、事業部 が執行することになる。図20は、決定と執行が、

経営と事業部で左右に明確に区分されるべきこ とを表している。これは、事業部が経営の干渉 を排して執行に専念できるように、との考えが ある。戦略についての評価は、「最終的には数字 に出る」という考えを持っており、経営は事業 部は事業部に対してアドバイスは行なうが、戦 略の可否を含め、個別の評価は行なっていない。

制度としては社内監査制度があって、事業部の 権限で執行されているものの内、重要度の高い ものが対象となり、①社内の理念、制度、ルー ルに沿った処理が行なわれているか、②当初計 画されたスケジュール、内容からみた進捗等、

③ ①②の観点からの、助言、指示、経営への報 告、がその内容となっている。

オムロンの場合、経営と事業部の関係でいえ ば、全体(全社)最適と個別(事業部)最適に ついて議論されているが、(1)全体最適(1987 年、行動原則*10)→(2)個別(事業)≒全体 のバランス(1989年、ゴールデン'90s)→(3)

表2 中期経営計画の策定プロセス

時 期 事 項 担 当

N-2年度の3月 ガイド(事業についての戦略、目標数値、設備投資枠、人員枠(社員)を発表 経営、および経営戦略室、本部機能 N-1年度の7〜9月 事業部からの提案、経営と事業部間の調整 経営戦略室(事務局)

N年度の4月 スタート 事業部(執行)

図20 経営と事業の役割

(19)

個別最適(1998、今回ヒヤリング)と重視のポ イントが、変化してきている。これには、現状 認識が変わってきている結果である。現在の個 別最適の重視が登場した背景には、全社に対す る事業部の、組織に対する個人の最適を重視し、

成果を上げることによって、結果として全体

(全社)適に近付くという考えがある、といえる

(表3参照)。

6.3.3 事業領域

次にオムロンの戦略の内、事業領域(事業ド メイン)について観察する。現在、電機メーカ

ーでは、総合電機より専業メーカーの方が、業 績が好調といわれる*11。総合電機の代表である 日立製作所と事業領域を比べてみると、図21の 概念図で表すことができる。製品の品揃えから 見ても同様の現象が伺え、制御フルライン・メ ーカーのオムロンに比べ、特定制御のキーエン ス社の業績が好調といわれる。この点で、事業 領域と品揃えは、フラクタル(fractal)な関係に ある。オムロンの既存事業を、商品で見ると、

IB(Industrial Business;産業市場事業)として、

部品(スイッチ、リレー)・システム機器、SB

(Social Business;社会市場事業)として、自動 出納機、金銭登録機、駅務・交通システム、専 用商品として、車載、コピー機、情報端末、OA

表3 全体最適と個別最適の重点変化

重視ポイント 時期・根拠等 現状認識

(1)全体最適 1987/行動原則 SBU体制(事業分権)の弊害

(2)個別≒全体 1989/ゴールデン’90s 事業部重視、バランス欠く

(3)個別最適 1998/(今回ヒヤリング) 執行を速く、自由に

図21 事業領域の概念図

図22 三つの事業領域

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