技能実習制度の性格とその変化の方向 : 2つの二重 構造との関連を手がかりに
著者 山口 塁
著者別名 YAMAGUCHI Rui
発行年 2020‑03‑24
学位授与番号 32675甲第475号 学位授与年月日 2020‑03‑24
学位名 博士(社会学)
学位授与機関 法政大学 (Hosei University)
URL http://doi.org/10.15002/00023029
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博士学位論文
論文内容の要旨および審査結果の要旨
氏名 山口 塁 学位の種類 博士(社会学)
学位記番号 第718号
学位授与の日付 2020年 3月24日
学位授与の要件 本学学位規則第5条第1項(1)該当者(甲) 論文審査委員 主査 教授 上林 千恵子
副査 教授 田嶋 淳子 副査 准教授 多喜 弘文 副査 教授 佐野 嘉秀
技能実習制度の性格とその変化の方向
―2 つの二重構造との関連を手がかりに
1. 審査の経緯
本小委員会は 2019 年 9 月 24 日に社会学研究科教授会における論文受理の決定を受け、
同日発足した。受理小委員会からの修正要求を受けて 2019 年 12 月 24 日に再提出された 論文について、査読に基づく意見交換を適宜行った上で、2020 年 2 月 10 日に小委員会を 開催して最終的な意見交換を行い、口述試験の方針を決定した。2 月 19 日に口述試験を行 い、同日審査小委員会を開き、論文及び口述試験の結果について検討を加えた。
2. 結論
本委員会は山口塁氏の博士学位請求論文を、全員一致で博士学位授与に値するものと判 断する。
3. 論文のテーマ
外国人技能実習制度を外国人労働者受け入れ政策の一つとしてとらえ、その制度内容、制 度の特徴、日本社会で必要とされた背景、近年その利用者が拡大した社会的背景について記
2 述し、本制度の将来の方向性について触れた。
4. 研究の方法 1)理論的背景
本論文が依拠する理論的背景は、広くは分割労働市場論に分類される二重労働市場論で ある。この主張は主としてアメリカの制度学派に分類されるピオレによるものであり、労働 市場が優良な第1次労働市場と不利な第2次労働市場に分割され、その2つの労働市場間 に移動が前提にされていない、という内容である。これは有色人種の比率が高いアメリカで の理論的成果であるが、日本の移民研究でも参照されてきた経緯がある。この理論に依拠し ながら、日本の技能実習生が二重構造のうちの下位に位置づけられ、短期出稼ぎ労働者とし てローテーション方式の中で、外国人労働者として企業のニーズを満たしてきたという実 態とその社会的背景について研究が行われた。
この理論の前提は第2次労働市場部門分断の緩和を目指しているものであるから、この 理論に依拠した本論文は基本的には技能実習制度が長期的には発展的解消されることを期 待していることに間違いはない。現実への批判的な立場を取る制度学派に分類される二重 労働市場論を本論文の理論的支柱とすることにより、日本の移民政策の批判的検討が担保 されていよう。
また本論では労働市場の二重構造という分析軸と同時に近代―前近代部門の二重構造と いう分析軸を用い、その交差点に現在の技能実習制度が存在することを主張した。近代―前 近代の分析軸を導入することにより、歴史的視点からの分析を可能とした。具体的には、前 近代からの脱却を目指した職業訓練制度が、その発展形態とも位置づけられる技能実習制 度へ変化するにあたって、低賃金労働者を海外から呼び込む役割を果たしたという逆説性 を指摘している。
現実の日本社会では移民受け入れの歴史がほぼ 30 年という短さであり、その中での移民 受け入れ制度であるために、日本の移民研究にあたって海外で発展した理論的背景を持ち
3 込むことは必然的な結果と思われる。本研究はそうした研究史の流れの一角に位置づけら れよう。
2)研究で用いた方法
該当テーマに関する文献研究のほか、既存統計資料、歴史的資料、インタビュー調査、既 存のアンケート調査個票(2次分析)といった幅広い種類の資料を収集し、これらを適切に 用いて、研究課題の分析を行っている。多様な研究資料を用いた研究遂行能力が執筆者に備 わっていることを示す論文となっている。
3)研究対象
技能実習制度は日本の中小製造業での受け入れを出発点としているために、日本の中小 製造業を研究対象としている。しかし中小製造業だけでなく、中堅・大規模製造業も取り上 げた。その理由は、近代―前近代の中に出現する企業規模間の二重構造を見るためには、大 企業で雇用される労働者および技能実習生の雇用との比較が必要であったからである。ま た正社員―非正社員という企業内の二重構造においては、これは中小企業というよりも大 企業内部の企業内階層構造であり、非正社員雇用者と技能実習生を比較するために必要で あった。非常に調査協力を得ることが難しかったようだが幸いにも中堅・大企業も数社、調 査対象とすることができた。
5. 論文の構成
序章 課題と分析視角
―技能実習制度と 2 つの二重構造―
1 課題の設定と本論文の特徴 2 技能実習制度の概要と変遷
3 先行研究の検討:二重労働市場論と移民・外国人労働者 4 近代-前近代部門の二重構造と技能実習制度の活用
4 5 正社員-非正社員の二重構造とその緩和の方向性
6 本論文の構成
第 1 章 製造業における技能実習制度のインパクト
―既存の統計資料の観察―
1 産業構成
2 製造業における技能実習制度のインパクト 3 職種分野別の動向からみる活用実態の変化 第 2 章 養成訓練から技能実習制度へ
―前近代部門との関連をめぐって―
1 本章の目的
2 養成訓練と技能実習制度
3 養成訓練から技能実習制度への移行過程にかんする事例の検討 4 小括
第 3 章 非正社員の一類型としての技能実習生へのニーズ
―製造中・大企業での活用事例から―
1 本章の目的 2 事例企業の概要
3 非正社員の一類型としての技能実習生へのニーズと活用 4 技能実習生を対象とした人事管理施策の現状と可能性 5 小括
第4章 技能実習制度の活用と企業内雇用ポートフォリオの国際化
―企業アンケート調査の二次分析から―
1 本章の目的
2 先行研究の整理と本章での論点 3 データ
4 分析 5 考察 6 小括
第 5 章 技能実習生の受け入れと地域社会
―生活者としての技能実習生をめぐって―
1 本章の目的
2 自治体と外国人住民,技能実習生 3 調査の概要
4 産業政策としての妥当性
5 5 多文化共生施策の援用
6 「技能実習生と多文化共生」政策の効果と限界 7 小括
終章 結論
1 二重労働市場論を援用した技能実習制度の性格の解明 2 技能実習制度の変化の方向にかんする考察
参考文献
6. 論文の内容
序章では、外国人技能実習制度の製造業における成立の契機とその後の発展についてと いう課題設定と理論的枠組みが説明されている。その枠組みとは、近代―前近代部門という 二重構造および正社員―非正社員という二重構造の 2 つの軸である。技能実習生はいずれ の枠組みにおいても、前近代部門、あるいは非正社員という下位の階層に帰属するために、
その階層からの離脱、上昇の可能性が問われるべきだ、という理想が問題設定の中に込めら れている。また序章中、複雑な技能実習制度の概要と歴史的変遷が触れられているので、本 論文の意義と背景が理解しやすい構成となっている。
第 1 章では、既存統計資料から技能実習制度の実態に関わる基礎的な情報が示されてい る。技能実習生の属する産業と職種が、他の外国人労働者や日本人就労者と比較され、その 特性が明らかにされた。
第 2 章では、前近代部門と技能実習生との関連を解くために、もっともはやく技能実習生 を受け入れた歴史を持つ埼玉県川口市の鋳物業の事例が検討されている。川口市は日本の 産業社会学初期の貴重な成果である尾高邦雄編『鋳物の町』(1956)の調査対象地域でもあ り、この地域を本論文で再度取り上げたことは、これまでの産業社会学の歴史の中に技能実 習制度を位置づけることに成功したと評価できる。労働者の職業訓練の近代化を図るとい う施策の中に、現在の技能実習制度につながる要因が求められていることが発見された。こ の中から、技能実習制度が必ずしも労働者搾取だけを目的にしているのではないというプ
6 ラスの要素の発見と、また製造業の職業訓練全般に共通する要素、すなわちどのような職業 訓練も学歴とは見なされず階層上昇の機会付与につながらなかった、言い換えれば二重構 造の下位の地位からの脱出が困難であった、というマイナスの要素が読み取れるのである。
労働者に対する教育的配慮から実施された職業訓練が時代と共に訓練対象者である若年者 から見放されていった流れは、技能実習制度が海外への技術移転というよき意図を持ちな がらも、その担い手が今や生活水準の向上が著しい中国人からベトナム人へのシフトして いく流れと軌を一にしているのである。
第 3 章は、日系南米人の集住地域での製造中堅・大企業 4 社での技能実習生の活用事例 をもとに、当該企業の派遣社員と技能実習生との比較から技能実習生の性格が検討された。
ともすれば詳細な調査報告になりやすい章であるが、正社員―非正社員の二重の企業内階 層構造を手がかりに、本論文の文脈に沿って分析が抽象的なレベルまで達している。近代的 で先端的な製造技術を有する大企業においても、川口市の前近代的な事例とは対照的な位 置づけにあるにもかかわらず、同じように技能実習生の活用を不可欠としているという発 見があった。この場合、技能実習生を雇用する企業にとっては、労働移動の自由が禁じられ ているという技能実習生の不自由さが逆に雇用する企業にとってのメリットとなっている ことが記述されている。労使は対立関係にあるという労使関係上の基本的前提が本章でも 確認されている。
第 4 章では、2015 年に実施された企業アンケート調査の二次分析から、技能実習制度を 活用する製造企業での雇用ポートフォリオの国際化が検討された。日系人の派遣・請負社員 と技能実習生が同一企業で雇用されていること、海外直接投資という形で海外生産拠点で の外国籍社員の雇用、という形で今や中小企業レベルでも外国人の雇用ポートフォリオが 編成されていることが発見された。本論文では技能実習生に焦点を当てているが、より広い 見地から企業行動を見れば、技能実習生は外国籍社員の雇用の一形態であるにすぎず、日本 国内、国外での日本企業による外国人雇用は今後も進展していく道筋が明らかにされた。
7 第 5 章では、第 2 章で取り上げた川口市に再び注目し,2016 年から当該自治体で展開さ れた技能実習生支援政策が可能となった背景と、技能実習生に対して多文化共生の枠組み を適用することの効果が検討された。本章では第 1 章から第 4 章までと異なり、「生活 者」としての側面から技能実習生を取り上げた。労働研究では、職場研究と労働者生活研 究はコインの両面を形成し、その両面の関係性の追求が従来の研究手法となっているが、
その研究手法の中で、第 5 章のテーマが検討された。その結果、「多文化共生」という地 域社会研究でのキーワードが重要となってそれらが自治体施策の結びついている実態を明 らかにした。一昔前の自治体施策は「内なる国際化」というスローガンを掲げていたが、
現在はより実質的な政策効果が求められる「多文化共生」施策と変化しており、その中で 技能実習生の地場産業にとっての重要性がこうした施策と結びついている経緯が記述され た。
終章の結論において、本論文では技能実習制度を技能者養成のための「孵卵器」である との性格を付与している。移民労働者は二重労働市場での下位に位置づけられ、日本の技 能実習生もその例外ではないものの、そこで一定の職業訓練教育が就労経験を経て与えら れる結果、日本社会でもその技能向上と相応する社会的地位の上昇が望まれる、と結論づ けられた。
7. 論文評価
1) 学術的研究・論文としての形式的要件
本論文は、論述の形式、注の示し方、文献リストの表示など、学術論文として必要な形式 的要件を満たしていると判断される。本論文の主題である「外国人技能実習制度」について、
日本のこれまでの研究を先行研究としてきちんと理解、検討した上で、直接的にはつながら なかった日本の職業訓練制度の一形態である養成訓練制度との関連性を川口市の歴史的資 料から見つけ出した。また数量的分析については、厚生労働省委託による外国人受け入れに 関する全般的な調査を、技能実習制度と製造業という執筆者の問題設定に沿って再構成し、
問題発見を行なった。執筆者の独自の視点が生かされた問題設定とその解答である。
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2)達成と貢献
本論文の貢献として評価されるべき点は、以下の 3 点である。
第1に、外国人労働者政策という論争的なテーマに関わる研究課題にも関わらず、実証的 な資料に基づき説得的に議論を進めている。論争的なテーマであるだけに、この研究課題は 流行の波に影響されやすく、1980 年代後半に続いて 2000 年代は第 2 のブームとなってい る。しかし、執筆者は一貫して研究者の立場から調査対象との距離(いわゆる detached concern)を適正に保って論文を完成させた。労使関係とは労使間の対立関係であると同時 に協調的関係という一つの関係性が二重の意味を持つことは、労働問題研究者ならば周知 の事実であるにもかかわらず、世間では技能実習生雇用が労使関係であるとの基本的な事 実認識を欠いた議論が横行している。こうした知的雰囲気の中で、研究者としての見識が示 されているといってよいだろう。
第 2 に、量的データと質的データによる複眼的な分析が成功している。外国人労働者受け 入れの歴史が短い日本では、移民に関する統計整備が遅れており、依拠できる量的データの 不足は他の移民国家と呼ばれる先進諸国と比較して大きい。そうした限界を踏まえ、本論文 では個票データを用いてより踏み込んだ分析がおこなわれている。記述的な数値の提示に とどまりがちであった先行研究に対し、多変量解析を利用して新たな知見を提示したこと は評価に値しよう。執筆者の多様な研究資料を用いた研究遂行能力を示す論文となってい る。
第 3 に、第 1 点とも関わるが移民研究分野において企業内技能実習生の雇用実態調査に 基づき、その役割についての新しい知見を得たことである。本論文のような調査に基づいた 論文では、信頼に足る実証性を確保することはもっとも基本的な優先課題である。しかしそ の対象とする企業は、私的存在で営利を目的とする集団であり、公的存在である地方自治体 や学校、政党、労働組合、宗教機関などと異なって他者に開かれていない。そのため研究者
9 が企業を調査対象とすることには困難が伴う。しかも外国人雇用という、どちらかといえば 受け入れ社会で下層に置かれている集団の調査を、こうした営利組織から許可されること は容易ではない。その意味で、移民研究分野で企業を対象とする外国人雇用について実証性 を確保したことの意義は少なくないであろう。
以上、難しい研究テーマにも関わらず、本論文はテーマの一貫性を確保しており、実証的 な資料に基づいて無理のない議論を展開して新たな学術的貢献を実現している。
3)問題点と今後の課題
技能実習制度についての実証的研究の成果として技能実習制度を存続させている社会的 要因の精緻な分析が行われたが、その中でいくつかの問題点が残されていることを指摘し ておきたい。
それは、技能実習制度と二重構造との関連である。これは本論文を貫くテーマであるが、
企業規模を基本とする近代―前近代の軸と、近代企業部門の企業内の正社員―非正社員と いう雇用形態の軸について、その相互の軸の関係性の問題である。前近代部門はいずれ消え ていくものとして、したがって技能実習制度もその流れでは自然に消滅していくものとと らえているのか、あるいは、近代化の軸こそが技能実習制度を必要としているために、この 制度は今後に更に興隆を見せるのか、こうした問題については、近代化された大企業の非正 社員雇用者という事実を指摘することにより、解答が得られている。その点について、自覚 的な記述がなされればよかったとの思いがある。技能実習制度は、一方では低生産性の中小 製造業を温存させるという側面と、グローバル化の変動を大きく蒙る製造業の非正規員の 供給源としての側面を合わせ持っている。その主張は本論文の章構成としては理解できる が、本論文の終章でも繰り返し強調されてしかるべきであった。
その結果、論文のタイトルの「技能実習制度の性格とその変化の方向.....
」とされているにも かかわらず、記述が近代―前近代、正社員―非正社員という軸を対照させるだけの静態的分
10 析に留まったという指摘もあった。変化の方向性という動態的な観点から、技能実習制度は 技能者育成についての孵卵器になりうるという将来展望について、その論理的筋道がより 強く打ち出されていれば、読者の理解が進んだであろう。
今後の課題として次の点を挙げておきたい。第 1 は移民研究分野での貢献も目指してほ しい。日本では、外国人の受け入れ実態が他の先進諸国と比していまだ少ないために、移民 研究そのものが緒についたばかりである。そうした研究環境の中で、本論文は二重労働市場 論というアメリカの移民研究の枠組みを利用し、産業・労働分野からの外国人労働者の実態 解明に成功した。しかし、移民研究を労働分野の領域に止めおくことができないことは周知 の事実である。
たとえば、移民研究の中で、二重構造論は構造的に過ぎるとの批判がある。こうした批判 に執筆者はどう答えるのか。序章でも触れられているように、今後、高度外国人材も視野に 入れた、外国人労働者の定義を本論文のように労働者一般ではなく、高技能者レベルまで拡 大していくのか。あるいは労働法学者が、移民研究を労働法研究と入管法研究の中間に置い ているように、産業社会学者が移民研究をする場合にも、外国人労働者のエスニックな側面 まで踏み込まなければならないだろう。高度人材の問題、あるいはエスニック・アイデンテ ィティの問題などいくつかの移民研究分野の蓄積を執筆者が将来、自分のものとして取り 入れることを期待する。
第 2 の点は、送り出し国側事情の究明を今後の課題の中に含んでほしいことである。本論 文は日本の特に技能実習生を雇用する企業に焦点を当てて、いわばプル要因の解明を研究 テーマとしてそれに成功した。今後は、プッシュ要因である送り出し国側の社会構造、階層 構造との関連で日本の移民受け入れ制度の将来を解明してほしい。21 世紀の現在、第 2 次 大戦後の南北問題が移民受け入れ―送り出しという相貌をとって出現している。そうした 国際情勢の中での日本の移民政策の立ち位置の検討を期待したい。
第 3 の点は、技能実習生、広義には労働者の視点の導入である。執筆者は序章において
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「労働需要側に立つ企業ニーズに主要な関心をおき」と問題設定の限定を行っている。これ は論文の論旨を明確に、必要なデータを準備するために役立った視点であり、その点では成 功した。企業からの視点、地域社会からの視点で本論文は構成されていた。
そこで、今後は本論文の成果を踏まえた上で労働者個人の視点も入れた研究も実施して ほしい。本論文中でも、ベトナム人技能実習生のヒアリング結果の引用が行われていて、執 筆者が労働者の視点を見逃しているとは言えない。だが、技能実習生そのものに言及した箇 所が少なく、技能実習生自身へのアプローチについての試みがなされたのかどうかの言及 もない。今後、社会学者として学術的貢献を移民研究や労働問題研究の分野で行なおうとす るならば、是非、他の学問分野の人が果たしにくい労働者の視点からの外国人労働研究も執 筆者の研究課題の中に含んでもらいたい。
8. 口述試験の結果
口述試験では、以上のような点について活発な質疑・討論がなされた。執筆者は指摘され た問題を明確に認識して、自らの今後の課題として引き受けようとしており、既にいくつか の具体的な研究の方向性も示した。今後、執筆者には理論と実証の両面から、世界的な移民 政策の中での日本の移民政策の位置づけ、あるいは外国人労働者の雇用問題研究として研 究を発展させることが期待できよう。審査員一同は、執筆者の将来性について異論はなかっ た。
以上、審査小委員会は本論文が、明確な問題意識をもって、日本の外国人労働者制度であ る技能実習制度について、理論的根拠に基づき、実証的にその構造と問題を明らかにしたこ とを確認した。また技能実習制度の今後の方向性を展望していることも確認した。よって博 士号の授与にふさわしいものと判断した。
以上