記憶のなかの断片 : 上目黒1丁目の空地利用を巡る アーティスト・イン・レジデンスと展示公園の提案
著者 上條 悠
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 1
ページ 1‑3
発行年 2012‑03
URL http://doi.org/10.15002/00009155
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.1(2012年3月)
法政大学
記憶のなかの断片
-上目黒 1 丁目の空地利用を巡るアーティスト・イン・レジ デンスと展示公園の提案-
The fragment in memory
The proposal of the artist in residence involving vacant lot use of kamimeguro1-chome, and an exhibition park
上條悠 Yu Kamijo 指導教員 渡邊眞理
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
Now, there is a place used as a vacant lot. Scenery which was here once. It is lost at the same time something is made. The fragmentary thing which remains slightly then. Even if it is used by nobody but loses a role and a meaning, to be sure, it exists in the place. In this design, the past and the present context which can be read in this place are extracted, and that fragment is proposed to reliance.
Key Words: artist in residence,exhibition park
1. この場所の風景
上目黒1丁目にある広大な空地。穴が空いているよ うに配置されている木や、今は使われていない古びた 階段を見ると、この場所に存在した、かつての風景を 感じる事が出来る。
没場所性と言われる現代。建築という限りあるもの は、いずれ失われていく。しかし、確かに残る断片的 な記憶。本研究ではこの場所の持つ断片的な記憶を抽 出し、それを繋ぐ建築の提案を行う。
2. 敷地概要
敷地は上目黒1丁に位置し、約8400㎡の広大な面 積を持つ。ヒルサイドテラスの裏手、旧山手通りと目 黒川の2つの軸に挟まれ、この両軸をつなぐ要衝とな っており、現在の空地状態は、その分断を起こす原因 となっている。
また、「先行まちづくりプロジェクト」といった、目 黒区の再開発地域に指定されてはいるものの、未だに 計画の見通しは立っていない。
本提案では、代官山、中目黒を結ぶルートとして新 しい環境を作り出し、2つのまちの魅力による相乗効 果を生み出す事を目的とする。
3. プログラム
(1) ア ー テ ィ ス ト ・ イ ン ・ レ ジ デ ン ス + 展 示 公 園 代官山、中目黒エリアは、アパレルショップ、デザ イン事務所等、アート、デザイン、ファッションに関 心のある人が多く集まる地域である。
現在、空地となっているこの敷地を、都市一体型のア ーティスト・イン・レジデンスと展示機能を持つ公園 の提案を行う。一定期間、招聘されたアーティストは、
ここで滞在制作、ワークショップ、展示などを行い、
図1 敷地写真 Hosei University Repository
周辺地域の人々と、交流を行う。
周辺の人々にとっても、アーティストの驚くような視 点により自分たちの普段の生活やその場所を、これま でとは異なる目で見直すきっかけとなったり、見逃し ていた身の回りの美しい風景や素敵なモノに気づいた りするきっかけを得ることもある。
生きたアーティストの制作活動は、通常では出会うこ とのなかった人同士を結びつけたり、思いもかけない 思考をもたらしたりする。
この場所は、アーティストと周辺の人々の相互関係に よって作られていく。
( 2 ) プ ロ グ ラ ム に 対 す る 提 案 a)敷地全体が展示空間
アーティストは作品を展示する場として、主にホワイ トキューブと呼ばれる展示空間が与えられる。
しかし、現代アートに目を向けると、その表現方法は、
絵画をはじめ、彫刻、写真、映像、インスタレーショ ン等、平面的なものから、立体的なものまで様々であ る。
このように現代アートの多様化が進むなか、展示の方 法も様々であり、美術館や画廊などのギャラリースペ ース、住宅など私的空間、広場・ビルディングなどの 公的空間、人のいない自然の中などどのような場所を 用いるか、などは特に問われない。つまり、ホワイト キューブのような内部空間に限らず、この敷地全体が 展示室であるべきだと考える。
b)ニュートラルかつ固有な空間
アーティスト・イン・レジデンスというプログラム上、
そこにはアーティストの「つくる」という行為が発生 する。滞在型の創作活動は、必然的にその場所の影響 を受け、サイトスペシフィックな作品となる場合が多 い。
そこで私が感じるのは、展示空間はホワイトキューブ のような無個性な均質空間だけなのだろうか、という 事である。
展示だけをするのであるならば、ホワイトキューブの ような空間に対して私も賛成である。ただ、つくると いう行為が発生する以上、そこではアーティスト自身 が空間から意味を感じ取り、その場の様相を変えてい くべきであると考える。
「いたれりつくせりの空間ほど、つくる意欲を削がれ るものはない。空間は空間として、ただし建築家の恣 意でなく、強靭な論理でつくられているとき、ちょう ど、自然がそうであるように、そこにある確かな実在 を感じる事ができる。そういう実在にぶつかると、そ れにどう向かえばいいか、いろんな方向に想像が膨ら む。」と青木淳氏は述べている。
つくるという行為において、空間は使いやすさや機能 性だけではなく、アーティストに対してその空間が、
「どういう思考をもたらすか」という事が重要なので
はないかと私は考える。それは恣意的な操作を排除し、
作者の意図するものが消えたときに、アーティストの ための空間になるのではないだろうか。
4 .設計手法
(1)コンテクストのコラージュ
この敷地に存在する、過去のコンテクストをオーバー レイしたもの、加えて現在のコンテクストを抽出した もの、それらをコラージュする。これらのコンテクス トはフットプリントのみを抽出し、あくまで形態のた めに用いる。そしてそれらの重なった部分を、削る、
繋げるといった操作によって再編集を行う。
(2)土、ガラス、壁を用いた境界の操作
すべての場所が展示空間として考えるならば、どれが 地か、どれが図か、見方によって反転し続け、その前 後関係が入れ替わるような同等性を持たなければなら ない。そこで、床面は自然の土による床と人工の床、
壁面は、白壁とガラスを用いて境界の操作を行った。
5.設計内容
G.Lにギャラリー、アトリエなどの公共的な空間を 設け、2、3、地下1階に居住空間を設けた。
図2.コラージュ後の操作
図3.重なる部分を操作して生まれた形態
図4.断面図
Hosei University Repository
6.謝辞
本研究を進めるにあたり、ご指導頂いた渡邊眞理先 生、坂本一成先生。テーマが一転二転するなか、最後 まで丁寧にご指導頂き、心より感謝致します。短い期 間ではありましたが、副査指導教員の高村雅彦先生、
下吹越武人先生。指導して頂いた全ての先生方に、こ の場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございま した。
参考文献
1) ジャン・ボードリヤール「芸術の陰謀―消費社会と 現代アート」 NTT出版
2) 青木淳「原っぱと遊園地」 王国社
3) エドワード・レルフ「場所の現象学―没場所性を越 えて」 筑摩書房
4) コーリン・ロウ「コラージュ・シティ」 鹿島出版 会
5) 佐々木正人「レイアウトの法則―アートとアフォー ダンス」 春秋社
6) 佐々木正人「アフォーダンス入門―知性はどこに生 まれるか」 講談社
図5.俯瞰パース
図6.らせんスロープ
Hosei University Repository