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〔論文〕
曰本企業の海外事業管理
一海外現地法人の管理会計一
佐藤 康男
るが,それはつぎのような要件を備えているもの をいうい)。
(1)市場を国内と海外に区分しないで,全世 界的な観点から経営戦略を立案し,それを遂 行するための経営活動を実施する。
(2)上記の戦略を実現するために,生産・販 売活動だけでなく,研究開発・鱗買・財務・
人事などの経営活動も最適な海外市場に移転 する(2)。
(3)経営活動をそれぞれの拠点となる現地企 業に権限を委譲し,地域に密着した独立企業 の育成をめざす。
はしがき
日本企業の97年3月期の決算をみると,製造業 の復活がいちじるしいことがわかる。これはいう までもなく最近の円安が原因となっているが,日 本企業の製造業の底力を示しているともいえる。
しかし,すべての製造業が復活しているわけでは ない。グローバルな市場競争のなかで生き残るこ とができる製品をもつ企業のみが好業績をあげて いる。最近の傾向をみると,特定の業種に属する 少数の企業のみが業績をあげていることがわかる。
つまり,ある企業がマーケットシェアを上昇させ ると,その勢いはますます強くなり,場合によっ て市場を独占するような様相を呈するのである。
世界のパソコン市場でMPUを独占するインテル や,基本ソフト市場を牛耳るマイクロソフトなど は,その典型的な例である。
こうした状況のなかで,日本企業も単に国内市 場のみを視野に入れた戦略ではなく,広く世界的 な規模で展開するようになっている。たしかに,
日本企業が海外で事業を展開するようになったの は,85年のプラザ合意後の円高が契機となったが,
経営戦略を世界的に展開しなければならなくなっ ている時代になっていたのである。
もちろん,日本企業は70年代から80年代にかけ て輸出主導型で拡大してきたのであるから,十分 に世界市場を視野に入れた戦略をとってきた。資 源の少ないわが国は原材料を輸入し,それを加工 して製品として輸入することが生きる道であった から,企業活動の国際化は明治時代から行われて きた。しかし,今日いわれている企業のグローバ リゼーションとか,グローバル化した企業という 用語はいままでの国際化とは異なった意味で用い
られている。
グローバル企業とは多国籍企業とも呼ばれてい
これからわかるように,企業のグローバリゼー ションとは,国際化一原材料・製品の輸出入,
ライセンス生産,海外販売子会社の設立一が さらに進み,生産・R&D・金融などの海外現地 法人の設立,地域統括会社の設立などを指して いる(3)。
さて,このような企業のグローバル化の進展は,
管理会計の領域に新しい問題を生み出している。
すなわち,海外現地法人を会計数値を通じていか に管理するかという問題である。これは海外現地 法人の業紙評価にほかならないが,事業部管理と 類似している。しかし,海外現地法人は,たとえ 100%出資であっても別会社であること,現地法 人であるために会計規則やその他の法的規制も日 本とは異なること,為替変動のリスクにさらされ ていること,従業員が外国人であること,などか ら同じ会社の組織である事業部制とは異なって いる。
米国ではこのような管理会計の領域は国際会計 の一部に組み入れられ,米国の多国籍企業が海外 現地法人をどのようにして管理しているかの実態 調査も70年代末になされている。筆者もわが国で
60
初めて日本企業の海外現地法人の実態をアンケー ト調査によって明らかにし,その結果をいくつか の論文にまとめている(4)。このアンケート調査は 91年3月に行われたので,まさにバブル崩壊が始 まった時期である。
この後,日本経済は土地の暴落,証券不況とい うこれまで経験したことがないような長期の不況 のトンネルに入ることになる。円高も進み,日本 企業は海外に生産拠点を移したり,あるいは海外 から広くアウトソーシングするようになった。し たがって,日本企業の海外現地法人の実態は91年 当時とはかなり状況が変化していると考えられた し,現地法人の管理方法も経験が豊富になったの で改善されたと予想した。そこで,前回とあまり 違わない内容で再度アンケート調査して,前回の 結果と比較することが有意義であると考え,96年 に実施した。質問内容は前回の調査分析で不適当 と思われたものは削除あるいは訂正したが,大部 分は同じ内容で実施した。本稿は,そのアンケー
ト調査の結果を明らかにしたものである。
図(2)海外現地法人の地域別進出状況
(96年までの累計)
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧'97」より 比較すると,6年間で海外現地法人は5,700件増 えており,年平均にすると950件である。海外現 地法人の地域別内訳をみると,アジアの伸びが目 立っており,北米がその代わりに比率を下げて いる。
1.日本企業の海外現地法人の実態
日本企業の海外現地法人数は90年10月現在で12, 522社,96年10月現在では18,223社に達している。
90年時の地域別進出状況は図(1)で示されてお り,96年現在のそれは図(2)である。これらを
図(1)海外現地法人の地域別進出状況
(90年までの累計)
日本企業の海外進出は70年代にブームを迎えた が,それはやはり円の切上げおよび円高であった。
そして,85年のプラザ合意後の円高によって海外 進出はいっそう拍車がかかった。この時期は日本 経済のバブル期に当たり,余剰資金が米国の金融・
不動産投資へと向けられ,これがバブル崩壊後に 日本企業を苦しめる原因にもなった。しかし,日 本企業の新規現地法人数は90年まで増加し続けた。
91年から93年までの3年間は前年と比較して新 規現地法人数は減少したが,94年からまた増加に 転じている。これはとくに中国とASEANへの進 出がめざましいのが原因であるが6第3次進出ブー ムといえる。表(1)は製造業と商業の地域別進 出状況を示したものである。日本企業の海外現地 法人数を業種別にみると,これら両業種が1位と 2位を占め,次いでサービス業の1556件,金融・
保険業の1,137件となっている。
これからわかるように,件数でみると製造業で は圧倒的にアジアの比率が高く,次いで北米となっ ている。しかし,商業ではアジア,北米,欧州の 3極地域ではあまり大差はない。つまり,生産拠
1 F、その他81
=i篝!、(
アジア4,706 (37.6)
世界計 12,522 (100%)
計四刑
欧州 20549 (20.4)
北米 3,593 (26.7)
93
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧'91」より
61
がトップであるが,撤退比率はアメリカが23.2%,
台湾が21.6%と大きい。しかし,ここでは示され ていない韓国の進出数(581件)に対する撤退数 (148件)から比率を求めると25.5%にもなる。
日本企業の撤退比率17.4%という数字が高いか,
低いかはそれぞれの見方によって異なると思われ る。しかし,海外進出の決定プロセスに問題があ ることは誰も否定しないであろう。アメリカから の撤退が多いのは進出時期から年数が多く経てい るからともいえるが,意思決定の誤りから短期に 撤退するケースも多いという指摘もなされている。
アジアへの進出は最近数年間に増大しているので,
その決定の結果を判断するためには,もう少しの 時間が必要であろう。
本稿に示す調査結果の対象は製造業であり,表
(1)で示したようにアジアに63%と集中してお り,北米と欧米が続いている。これを国別にみる と,アメリカが1,593件で第1位,中国が1,577件 で第2位となっており,以下タイ762件,台湾665 件,マレーシア558件,インドネシア463件,韓国 448件と続き,欧州ではイギリスの260件が最高で ある。
点をアジアに移転するのはやはりコストダウンが 目的であり,低廉な人件費によって実現すること であるのがわかる。しかし,販売拠点は有効需要 のあるすべての国際市場がターゲットになるので,
これら3大市場に現地法人が設立されることに なる。
表(1)製造業・商業の地域別進出状況
(96年までの累計)
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧'97」より 作成
表(2)は海外現地法人の国別進出・撤退状況 を96年までの累計で示したものである。これをみ ると,進出累計数に対する撤退数の比率は全体で 17.4%となっている。進出数も撤退数もアメリカ
表(2)海外現地法人の国別進出および撤退状況(96年までの累計)
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧'97」より作成
外進出企業-1990年版」より,海外現地法人 を比較的に多くもっている企業が抽出された。進 出企業数の多い電気機器,一般機械が必然的に多 くなったが,アンケート調査の有効回答数は118 社一有効回答率48%-であった。
2.調査対象企業の内容
前回(91年3月)の調査対象となった企業は,
東証の上場企業のうち製造業245itを抽出して行っ た。これら245社は東洋経済新報社の「業種別海
製造業
件数 比率
商業
件数 比率
全世界 8,878 100% 6,459 100%
アジア 5,617 63.3 2,117 32.8 北米 1,716 19 3 1,759 27 2 欧州 876 9 9 1,909 29 1 中南米 419 4 7 313 4 8
オセアニア 164 1 8 297 4 6
アフリカ 52 0 6 25 0 4
中近東 34 0 4 39 0 6
進出 撤退
国名 件数 比率 国名 件数 比率
全世界 22,401 100% 全世界 3,893 100%
アメリカ 5 028 22.4 アメリカ 1,169 30.0
中国 2 133 9 5 台湾 231 5 9
香港 1 387 6 2 香港 209 5 4
タイ 1 289 5 8 シンガポール 168 4 3
シンガポール 1 268 5 7 オーストラリア 153 3 9
イギリス 1 129 5 0 韓国 148 3 8
台湾 1 069 4 8 イギリス 144 3 7
マレーシア 926 4 1 マレーシア 131 3 4
その他 8,172 36 5 その他 1,540 39 6
62
表(6)回答企業の従業員別分布 調査対象を製造業に限定したのはつぎのような
理由からである。第1は業種別の海外進出企業数 をみると製造業と商業が圧倒的に多く,そのなか でも製造業が全体のおよそ50%を占めて1位となっ ている。調査対象を製造業に絞った第2の理由は,
アンケート調査の質問内容から業種を特定化する 必要があったことである。製造業と商業や金融・
保険業では営業内容も異なるので,同じ質問項目 で行うのは不適当である。そして,第3の理由は 調査の主たる目的が海外現地法人の会計的管理に あったからである。とくに,管理会計上の問題は 原価計算とも関連しているので,製造業において
こそ典型的に発生するからである。
今回の調査も前回と同じ方法で東証第1部上場 の製造業から,海外現地法人を比較的に多くもっ ている企業200社を抽出し,1996年3月にアンケー ト調査を郵送し,最終的に55社から回答を得たが
-有効回答率27.5%-,前回よりも回答率 は低かった。回答企業数55社の業種別内訳は表
(3)で示されている。
3.海外現地法人の進出形態と管理
日本企業が海外現地法人を設立するまでにはさ まざまな経緯をもっている。それまでまったく関 連をもっていない地域や国に突然に現地法人を設 立するようなことはない。たとえば,販売目的の 現地法人を設立するさいには,まず最初にいわゆ るアンテナ・ショップ機能をもつ駐在員事務所の 設置からスタートする場合が多いであろう。
また,生産目的の現地法人を設立する場合には,
すでにその地域や国で自社製品を販売しているケー スが多いであろう。企業が海外に生産拠点を移す 理由は二つある。ひとつはコストダウンのためで あり,もうひとつはできるだけ消費者あるいはユー ザーの近いところで生産するためである。これは 消費者やユーザーの趣向に直接ふれることができ るために,顧客満足に合った新製品開発ができる からである。
海外現地法人の形態をどのようにするかは,設 立するさいの状況によって異なるであろう。最近 ではアジアの国々も外国投資を呼び寄せるために 出資制限を撤廃しているので,マジョリテイをもっ たり,100%出資の現地法人を設立することが可 能になっている。しかし,中国とかインドのよう に,日本とはかなり異なった文化や経済システム をもつ国々に現地法人を設立する場合には,やは り現地企業との合弁になることが多い。表(7)
は,海外現地法人の進出形態について質問した結 果をまとめたものである。
表(7)現地法人の進出形態
1100%出資の現地法人631社45.1%
2現地企業との合併42030.1
(このうちマジヨリテイのあるもの)(161)(11.5)
3国内(関連)会社との共同出資1128.0
(このうちマジョリティのあるもの)(51)(3.6)
4海外関連会社との合併362.6 5その他(上記の混合を含む)19914.2
(このうちマジヨリテイのあるもの)(96)(6.9)
表(3)回答企業の業種別内訳
震
つぎに回答企業の規模を払込資本金,売上高,
従業員数でみてみよう。表(4),表(5)およ び表(6)に示されている。
表(4)回答企業の払込資本別分布
表(5)回答企業の売上高別分布
合計1,398100.0%
*アンケートの現地法人の合計数は1,503社 従業員数 1,000人
以下 3,000人 以下
5’000人
以下 10,000人 末満
1.000人 以上 企業数 3 17 14 10 11
業種 企業数 比率
電気機器 9 16.4%
一般機械 11 20 0
精密機械 2 3 6
食料品 4 7 3
化学 10 18 2
自動車 8 14 5
非鉄金属 2 3 6
繊維 2 3 6
その他 7 12 8
合計 55 100 0
払込 資本金
100億円 以下
200億円 以下
500億円
以下 1,000億円 末満
1,000億円 以上 企業数 9 15 17 5 9
売上高 1,000億円
以下 2,000億円
以下 5,000億円 以下
1兆円 未満
1兆円 以上 企業数 15 17 11 4 8
63
今回のアンケート調査で回答企業のもつ海外現 地法人の合計数は1,503社であったが,2社がそ の内訳を示していないので,ここではそれらを除 外した数で比率を求めている。前回の調査と比較 すると,100%出資の比率が上昇している。これ はすでに述べたように,かつてはアジアの一部の 国で100%出資の現地法人が認められていなかっ たからである。この調査の目的は,日本企業が海 外現地法人をどのようにして管理しているかを明 らかにすることである。つまり,日本の親会社が どのような管理会計手法を用いて現地法人をコン トロールし,業績評価しているかを知ることであ る。したがって,出資比率でマジョリテイをもっ ている現地法人が調査対象となる。マジョリティ をもっていなければ,親会社の管理会計システム を適用できないからである。
マジョリテイをもっている現地法人とは,出資 比率が51%以上もっていることであるが,関連会 社との共同出資であれば,51%以上でなくても結 局マジョリテイを握っていることになる。表(7)
でいえば,海外関連会社との合弁はマジョリティ をもっているとみなされるので,今回の調査結果 ではマジョリティを握っている現地法人の比率は およそ70%となる。
現地法人の社長と経理責任者
日本企業の海外現地法人は本稿の最初に述べた ように,北米・欧州・アジアの3極に集中してい る。前回の調査では,現地法人のマネージャー (最高責任者)と経理責任者の日本人と現地人の 割合について質問したが,そこでは合計数で回答 して貰った。そこで今回では地域別の特徴がみら れるのを期待して,上記の3地域とその他に区分 して回答して貰ったが,その結果は表(8)に示 されている。
表(8)地域別のマネージャーと経理資任者の状況
}よ全体では66%,34%となっている。この5年間 で現地人マネージャーが着実に増えているが,地 域別にみた場合にはあまり大きな違いはなかった。
日本企業は欧米企業と比較すると,現地人を管理 職やマネージャーに登用するのが少ないといわれ る。ここでは比較できる材料がないので一概に否 定も肯定もしないが,日本企業の現地法人がマジヨ リティをもっているのが70%であることを考える と,妥当な数字かもしれない。
つぎに,経理資任者の日本人と現地人の比率を みると,全体では52%,48%となっており,前回 の調査とまったく同じ結果になっている。また,
地域別にみると北米に比べて欧州やアジアでは現 地人の経理責任者が多くなっている。日本企業の 海外現地法人は,運転資金などは現地で調達する ことが多くなっている。そのさい,北米には日系 銀行が進出していたり,金融子会社をもっていた りするので日本人の経理責任者でも問題はないカミ アジアのような地域では現地人のほうが銀行との 交渉がうまくゆくのかもしれない。
しかし,現地法人のマネージャーや経理責任者 に現地人を登用するのか,あるいは日本人を当て るのかは,親会社の方針によって左右されている。
その証拠となるいくつかの事例を示すことにする が,会社名は調査依頼の時点での約束なので伏せ ることにする。
わが国を代表する総合電機メーカーのH社は全 世界に75社の現地法人をもっているが,現地マネー ジャーに占める日本人の比率は73%であり,経理 責任者もほぼ同じ比率である。同じ総合電機メー カーでもT社の場合,88社の現地法人のうち日本 人マネージャーは55社である。そして,北米では 18社のうち日本人マネージャーは17社を占め,欧 州では26社のうち8社のみが日本人マネージャー,
アジアでは33社のうち日本人マネージャーが26社 を占める。また,経理責任者をみると日本人は42 社となっており,現地人も46社であってあまり大 差ない。
大手塗料会社のN社の場合,28社の現地法人の うち日本人マネージャーは5社,日本人の経理責 任者は4社のみである。これは現地人を登用して いる典型的な例であるが,「統括会社を除けば,
経理責任者を派遣するよりは,経験および能力を
L圷翻■…E配、■聰■
圖蠕=霞謡謡畠麗 圓騒囮mmmm
前回(91年)の調査では,マネージャーの日本 人と現地人の比率は75%,25%であったが,今回
!Z分 北米 欧州 アジア その他 合計
マネし〉ヤー
現地人日本人 65% 35 68% 32 64% 36 69% 31 66% 34経理
現地人日本人 61 3951 49
48 52
52 48
52 48
64
有するローカルスタッフを採用するほうが効果的」
と記入されている。
また,日本人の自動車メーカーのなかでも国際 化を早くから展開したD社は134社の現地法人を もっているが,日本人マネージャーは107社,日 本人経理責任者は49社となっている。この会社の 地域別内訳をみると,日本人マネージャーの多い 地域では現地人経理責任者も多く,逆に現地人マ ネージャーの多い地域では日本人経理責任者も多 くなるという傾向がある。つまり,マネージャー と経理責任者のいずれかは日本人が占め,本社と の意思疎通を円滑にするという図式が見えてくる。
地域総括会社
グローバル企業の特徴のひとつは,地域統括会 社をもつことである。すでに述べたようにグロー バル企業あるいは多国籍企業の要件は,市場を国 内と海外に区分しないで,全世界的な観点から経 営戦略を展開することである。この地域総括会社 もグローバル戦略の一環であり,分権化の拡大で ある。
一般に,日本企業の海外進出は80年代に始まっ たばかりで歴史は浅く,日本の親会社が現地法人 を直接に管理する方法がとられている。しかし,
比較的に早くから海外に進出し,しかも現地法人 を多くもっている大企業は,親会社を経由しない で現地法人間で取引するケースも増えてくる。そ して,すでにみたように日本企業の海外現地法人 は北米・欧州・アジアの3極地域に集中している ので,意思決定の迅速化を図るためにも,それら の地域に本社機能をもつ地域総括会社が必要とな る。たとえば,北米地域ではニューヨークに,欧 州ではロンドンに,アジアではシンガポールにと いうケースが多い。
これまでどのくらいの日本企業が地域統括会社 をもっているかという調査データはなかった。そ こで今回のアンケート調査で地域統括会社をもっ ているかどうかを質問し,その地域についても明 らかにしようとしたが,結果はつぎのようになっ ている。
l統括会社はもっていない27社 2統括会社をもっている26
イ北米地域(24)
ロ欧州地域(12)
ハアジア地域 3その他
1 92
く
55社 この結果からみると,日本企業で海外現地法人 を比較的多くもっている一同業種で-場合,
ほぼ半分の会社が地域統括会社を設立している。
また,地域統括会社をもっている企業は北米がもっ とも多く,次いで欧州,アジアとなっている。そ して,それぞれの地域統括会社を設立している国 名を記入して貰ったが,北米ではすべての会社が アメリカに,欧州ではオランダが1社のみでそれ 以外はイギリスに,アジアではシンガポール,中 国,香港となっている。ただ,数社については地 域統括会社の意味を理解されていない疑義がもた れる。
海外進出の目的
日本企業の海外直接投資が活発化したのは70年 代であったが,当初は販売拠点をつくるのが目的 であった。すなわち,それまでは日本の総合商社 を経由したり,あるいは直接に現地代理店に輸出 して販売していたが,よりいっそうの市場拡大を めざして販売子会社を現地に設立して直売方式を 採用し始めたのである。
その後,85年のプラザ合意により円高が進むと 生産拠点を海外に移すようになり,生産子会社の 現地法人の設立が盛んになった。とくに,米国と の貿易摩擦が激しくなるにつれて,自動車や機械 メーカーは現地生産を余儀なくされ,系列の部分 メーカーも追随して米国に生産拠点をもつように なった。
また,80年代後半になると海外進出の先発組で ある日本の多国籍企業は,金融子会社をもつよう になり,進出先で資金調達をすることになる。さ らに,先端技術が必要なハイテク製品あるいは医 薬品のメーカーは研究開発拠点も海外にもつよう になる(`)。
さて,最近の新規現地法人の地域別推移と累計 をみてみよう。表(9)は全産業,表(10)は本 稿の対象となる製造業の推移であるが,アジア・
欧州・北米の3極地域に集中しているという様相 は変わらないとしても,とくに製造業ではアジア への進出が急激に拡大していることがわかる。も
ちろん,中国への進出件数がもっとも多い。
65
表(9)現地法人数の地域別推移(全産業)(01
(件,%)
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧'97」より作成 表(10)現地法人数の地域別推移(製造業)
(件,%)
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧'97」より作成
さて,日本企業が海外進出するさい,どのよう な目的で行うかを知るために,つぎのような質問 を行った。
「貴社が海外進出するさい,重要視する項目は つぎのうちどれでしょうか。()の中につぎの 基準によって数字を記入して下さい。
l=もっとも重要である2=重要である 3=重要性が少ない4=ほとんど重要でない
1コスト優位(為替変動を含む)
2現地消費者のニーズを直接把握
3親会社あるいはグループ企業の進出に 追随
4海外資源の確保 5進出先の税制上の優遇 6その他(具体的に)
たが,それを集計したものが表(11)である。下 の修正合計欄は,この質問で示した重要性の尺度 とは逆に,「もっとも重要である」と回答した企 業数に4を掛け,「重要である」と回答した企業 数に3を掛け,「重要性が少ない」企業数に2を 掛け,最後に「ほとんど重要でない」企業数に1 を掛けたものをそれぞれ合計したものである(7)。
こうした操作を行ったのは,回答企業の合計数値 だけでは傾向を読み取ることができないからであ る。ちなみに,この質問に対して無記入の企業は 3社で,「その他」の項目への回答はなかった。
これらの項目に重要性を示す番号で記入して賞っ
1987年以前 88-90年 91-93年 94-96年 合計 アジア 3,734
(37.7) 1,828
(38.7) 1,543
(50.2) 2,649
(72.0) 10,101 (45.1)
欧 1,782
(18.0) 1,075 (22.7)
733 (23.9)
378
(10.3) 4,157 (18.5)
北米 2,752 (27.8)
1,423 (30.1)
558 (18.2)
440
(12.0) 5,470 (24.4)
その他 1,644 (16.5)
402 (8.5)
239 (7.7)
213
(5.7) 2,684 (12.0)
合計 9,912
(100.0) 4,728 (100.0)
3,073
(100.0) 3,680 (l0qo)
22,412 (100.0)
1987年以前 88-90年 91-93年 94-96年 合計 アジア 1,980
(56.9)
952 (53.1)
824
(68.0) 1,723
(82.9) (63.3) 5,617 欧州 326
(9.4)
229 (128)
160 (13.2)
115 (5.5)
876 (9.9)
北米 (209) 729
528 (29.5)
188 (15.5)
185
(8,9) 1,716 (19.3)
その他 446 (12.8)
83 (4.6)
40 (3.3)
56 (2.7)
669 (7.5)
合計 3,481
(100.0) 1,792
(1000) 1,212
(100.0) 2,079
(100.0) (100.0) 8,878
66
表(11)海外進出の目的 たが,日本企業が考えていることとほぼ妥当する といえる。
さて,「コスト優位」が海外進出の目的でもっ とも重要性が高いことはあらかじめ予想されたの でつぎのような質問を行った。
「製品をどの国で,あるいはどの地域で生産す れば,コスト優位が得られるかは同一の原価計算 手法によって比較されなければなりませんが,貴 社の海外現地法人の原価計算手法はどのようになっ ていますか。つぎのうち該当する番号を丸で囲ん で下さい」
1会社内に統一された原価システムがあり,
海外現地法人でもそれを採用している 2上記の統一原価計算システムは,一部の現
地法人でのみ採用されている
3原価計算の方法は現地法人にまかされて いる
4会社内に統一された原価計算システムはな いが,その工場の状況に応じて日本の本社が 指導している
5その他(具体的に)
 ̄団、■■■河口、而 一■p■■■団■円■円
■■■■■■■■Ⅲ■口、
■ ̄■田四四■■■団■、
01
この結果をみると,コスト優位と現地消費者の ニーズを直接把握するという目的が予想通り上位 を占めている。それについで進出先の税制上の優 遇と海外資源の確保があげられている。すでにみ たように,日本企業はアジアに生産拠点を移して コストダウンを実現し,そこで生産した製品をア ジア地域や国内で販売するようになっている。
前回の調査の質問項目では,今回の2,3,4,
5の項目は同じであるが,これら以外に「世界戦 略の一環のため」,「日本における人件費の上昇」,
「為替変動一円高」および「貿易摩擦の解消の ため」という四つの項目が含まれていた。そして,
その結果は「世界戦略の一環のため」がもっとも 重要視されていた。しかし,その後の分析でこの 質問項目は回答者に誤解を与えるだけでなく不適 当であると判断した。というのは世界戦略という 意味のなかにはコスト優位とか,消費者あるいは ユーザーに近いとかさまざまな問題が含まれるか
らである。
しかしながら,回答する企業側からすれば,現 地へ進出する目的は,その地域あるいは国によっ て異なるので一概にはいえないであろう。したがっ て,たとえばアジアのこの国の現地法人はどうい う目的で設立されたとかというような質問形式が 望ましいわけであるが,数多くの現地法人がある のでとてもそのように行うのは不可能なのでこの
ような方法をとったのである。
前回の調査でも「消費者のニーズを直接把握す るため」が2番目に重要視されていたが,今回で も同じであった。また,前回では「為替変動一 円高」も重視されていたが,これは今回ではコス ト優位の項目に含まれているし,「人件費の上昇」
も同じである。このようにみると,今回の調査結 果の内容はほとんど常識的なものになってしまつ
この結果は,1=11社,2=3社,3=21社,
4=14社,無回答が6社となっている。3と4が 多いということは,社内に統一原価計算システム はなく,国内はともかく海外現地法人の原価計算 はやはり工場にまかされている状況となっている。
この理由は現地法人の原価計算システムはやはり 現地法人の財務会計と結びついているので,たと えマジョリテイがあったとしても,日本の親会社 の原価計算方法をそのまま採用できないのであろ う。というのは,現地法人の財務諸表は現地の会 計規則にもとづいて作成され,現地の公認会計士 によって監査されるからである。
それに対して,社内に統一原価計算システムを もっている企業が11社ある。これらの企業の場合 は,世界のどの地域あるいは国で生産すべきかと いう「比較生産費」の計算が可能になる。もちろ ん,どこで生産すべきかという決定はコスト以外 の要素も考慮しなければならないが,コスト優位 がもっとも重要であることはいうまでもない。
資金調達と予算編成の方法
今回の調査でも,日本企業の現地法人の資金調
1 2 3 4 5 合計
1 27 22 2 4 3 58
2 21 24 14 18 24 101
3 2 2 11 15 16 46
4 1 18 9 2 30
合計 50 49 45 46 45 235 修正合計 175 165 90 109 118
67
日本の親会社が海外現地法人を管理する場合,
会計報告脅を提出されることによって行う方法が とられている。そのさい,会計報告書としては貸 借対照表と損益計算書をほとんどの企業が提出し,
これら以外に売上高明細表,借入金明細表,資金 フロー表なども提出されている。もちろん,地域 統括会社がある場合には,日本の親会社に代わっ て直接に管理することもあると思われるが,その ような詳細な実態までは明らかになっていない。
ただし,これらの報告書をどのような周期で提 出を求めているかは企業によって異なっている。
もっとも一般的なのは月次報告書の形式であるが,
四半期・半年・1年ごとの企業もある。また,B
/SやP/Lのような基本的な会計データは月次 に提出させるが,それ以外のデータは四半期とか 半年ごとにしているケースもある。しかし,逆に グローバル・ネットワークを構築している企業で は売上高とか受注高を毎日あるいは週単位で把握
しているケースもあるが,これは稀である。
前回に続いて今回もどのような会計資料を,ど のくらいの頻度で報告を受けているかという質問 をしたが,前回とあまり違いがなかった。ただし,
前回よりも月単位で報告書を受けとっている企業 の比率が増えている。このような項目については,
管理体制が整っている大企業と,比較的に最近に なって海外進出を果たした中堅企業ではやはり差 異があることは否めない。
海外現地法人から日本の親会社に報告される会 計データは,一般に現地の通貨単位で作成される。
日本の本社は,その会計報告書の通貨単位を円に 換算することになるが,そのときのレートとして どのようなものを採用するかが問題となる。もち ろん,決算時において日本の本社が現地法人を含 めた連結財務諸表を作成するさいには,財務会計 のルールーわが国では「外貨建取引等会計処 理基準」-にもとづいて為替レートが採用さ れるが,ここでは現地法人の業紙評価を行うため の管理会計データが対象である。そこで前回と同
じくつぎのような質問をした。
「海外現地法人からの会計報告書は現地通貨で 作成されていると思いますが,日本の本社でそれ を円換算する場合,どのようなレートが用いられ ますか。ただし,ここではあくまでも管理会計目 達の方法を明らかにするために,つぎのような質
問をした。
「現地法人の創業投資を除く運転資金や更新投 資などの資金調達はどのようになっているのでしょ
うか。つぎの1から5まで掲げた資金調達の方法 を,利用する度合の高い順に1,2,3,4,5 の数字を()のなかに記入して下さい」
1現地での調達(借入)()
2現地法人の自己資金()
3日本からの送金()
4増資(出資比率で負担)()
5海外でのCPなどの発行()
6その他(具体的に)()
この項目に無回答の企業が2社あったが,結果 は表(12)のようになっている。
表(12)資金調達の方法
この結果をみると現地での調達が多く,次いで 現地法人の自己資金,日本からの送金および増資 となっている。前回も資金調達の方法について調 査したが,運転資金や更新投資に限定しなかった こと,さらに資金調達の方法を現地での調達,日 本からの送金,両者の併用,その他の四つだけに したことが今回と異なっている。その結果は現地 での調達と両者の併用がもっとも多かった。
しかし,資金調達の目的でも運転資本と新規設 備投資(創業投資)ではかなり性格が異なると思 われる。後者についてはマジヨリテイのある日本 の親企業から調達するケースが多いであろう。し たがって,今回では主として運転資金に焦点を当 ててみた。海外でのCPの発行は予想外に多くな されている。また,現地法人が現地の銀行から借 り入れする場合にも親企業の保証がなされるのが 一般的であろうから,CPの発行と並んで大企業 の現地法人は現地調達できる状況にあるといえる。
調達方法 1位 2位 3位 4位 5位 合計
1 19 23 5 4 18 69
2 18 18 8 4 1 49
3 10 6 11 14 6 47
4 7 11 20 8 46
5 1 5 22 28
6
合計 54 59 44 35 47 239
68
的のためであります」そして,つぎに示すよう なレートを掲げたが,その結果は表(13)のよう になっている。
いうことは奇妙なことである。しかし,日本企業 のなかには現地法人の業績評価を積極的に行って いない企業がかなりある。したがって,現地法人 からの会計報告書は,単に現地の状況を知るため のものであったり,月次の連結財務諸表を作成す るためのものであるケースも多い。
現地法人の業綴評価
多国籍企業の管理会計の中心的テーマは,海外 現地法人の業績評価をどのように行うかというこ
とである。すなわち,これまで述べてきた進出目 的,資金調達および予算編成などに関する決定の 良否は最終的に業績に現れることになるので,業 績評価が中心となる。欧米の研究では,しばしば 現地法人の業績評価と現地マネージャー(現地法 人の社長)の業績評価を区分する。前回の調査で は,それに倣って業績評価の目的を区分したが,
明確な回答―どの目的が重要であるか-が 得られなかった。しかし,それをもう一度確認す るために,今回もあえて同じくつぎのような質問 をした。
「貴社における海外現地法人の業繍評価の目的 はつぎのうち,どのようなものですか。つぎの基 準によって数字を記入して下さい。1=もっとも 重要である2=重要である3=重要性が少な い4=使用していない」これからわかるように,
企業側でこれら以外に重要と思う目的があっても,
ここではそれについて回答することはできない。
この結果は表(15)に示されているが,それぞれ の目的別の合計が回答企業数に一致しないのは,
このアンケート項目に無記入な企業が3社あった ことと,一部の企業はこれからの目的のすべてに 回答していないからである。
この結果からわかるように,日本企業は現地マ ネージャーの評価を目的としていないことである。
現地法人の状況を知るためという抽象的な目的よ りも,具体的に収益をあげているのか,目標値の 設定が妥当であったのか,というのに回答が集まっ たのは当然であろう。このような結果は前回の調 査のときとあまり変わらない。ただ,日本企業で は同じ組織内にある事業部制に対しても業緬評価 システムが確立していない場合が多い。しかし,
最近では能力給の必要性や拡大が盛んに叫ばれて,
年俸別あるいは目標達成度によるポーナスプラン 表(13)会計報告の換算レート
予算編成時の実際レート1社 予算編成時の予想レート15
(社内レートも含む)
報告時の実際レート22 予算期間末の実際レート17 その他(具体的に)1 56社
*複数記入1社あり 1
2
(2)%
(27)
345 (39)
(30)
(2)
(100)%
この結果をみると,報告時の実際レートがもっ とも多く,ついで予算期間末の実際レート,予算 編成時の予想レートとなっている。前回の場合に は予算期間末の実際レートを使用している企業が もっと多かったので,今回はいくぶん異なってい る。為替変動は現地法人のマネージャーの管理不 能的な要素であるから,それを業績評価のなかに 含めるのは理論的には問題あるが,実際の財務諸 表上の利益と管理会計上の利益を乖離させないた めには実際レートを使用せざるを得ない。
つぎに,年度予算の決定権についても前回と同 じような質問をした。つまり,現地法人の年度予 算を編成するさい,最終的な決定権はどこにある かというものであるが,結果は表(14)のように なっている。前回と同じく本社と現地法人の交渉 がもっとも多く,ついで現地法人と本社が同数と なっている。前回は現地法人の決定が33%であっ たが,今回は低くなっている(本社の比率は前回
と同じ)。
表(14)現地法人の年度予算の決定権 本社13社 地城本部2
(統括会社)
現地法人13 本社と現地法人の交渉24 地域本部と現地法人の交渉l その他0
(24)%
(4)
1 2
111 452 24
くくく3456
53社
*無記入2社あり
(100)%
年度予算の達成度にもとづいて業紙評価をする のであるから,予算の決定権が現地法人にあると
69
表(15)業績評価の目的
'よ今回の倍以上あったので,これだけでは判定が 困難である。いずれにしても,日本の会計原則も グローバル・スタンダートに近づくことになるの で,このような問題も解決されるが,管理会計目 的からすれば社内に統一された内部報告書用の会 計規則があることが望ましい。
つぎに,業績評価をどのような基準にもとづい て行うのかを知るために,つぎのような質問をし た。「現地法人の業績評価をするさい,どのよう な会計数値にもとづいて行いますか。()の なかにつぎの基準によって数字を記入して下きい。
1=もっとも重要である2=重要である3=
重要性が少ない4=使用していない」
前回の調査でも同じ質問をしたが,現地法人と 現地マネージャーを区分した。しかし,結果的に は日本企業は現地マネージャーを評価するという 目的がないのがわかった。そこで今回は現地法人 の評価のみにしたが,その結果は表(17)に示さ れている。
の制度の導入も増えている。ただし,海外現地法 人のように為替変動や現地の国内事情に業績が左 右される場合,いっきにそのような方向に進むと は思えない。
業績評価は会計数値によって大部分なされるの で,どのような会計規則にもとづいて会計資料が 作成されているのかも重要な要素である。そこで,
現地法人の業績評価(管理会計目的)のためには どのような会計規則にもとづいているかを尋ねた が,その結果は表(16)のようになっている。
表(16)業績評価のための会計規則
(79)%
(11)
(8)
(2)
現地会計規則 本国会計規則 内部報告用の会計規則 その他
社1641 4
52社(100)%
*無記入3社あり
現地会計規則は前回と同じ比率でもっとも多い が,今回では本国会計規則が増えて,内部報告用 の規則が減っている。しかし,前回の回答企業数
表(17)業綱評価のための会計基準
- ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄----
- ̄■■■■■■■■。
*無記入3社あり これをみると,会計数値では利益と売上高が多
く,ついで売上利益率となっている。これに応じ て利益と売上高の予算・実績比較が業績評価の基 準として用いられている。この結果は前回の調査 と同じであるが,投資利益率(ROI)をあげた企
業は前回よりも大幅に上回っている。最近,日本 企業でROE(株主資本利益率)を目標値として 掲げるのが多くなっているが,資本効率を重視す
るようになってきている証拠といえよう(8)。
業績評価には上述のような定量評価のほかに定
目的 1位 2位 3位 4位 計
1非会計データを含めて現地法人の状況を知るため 15 22 7 4 48
2現地マネージャーを評価するため 3 14 20 13 50
3適正な収益を確保しているかどうかを知るため 36 14 2 0 52 4当初設定した目標あるいは戦略が妥当であるか
どうかチェックするため 17 31 3 1 52
計 71 81 32 18 202
会計基準 1位 2位 3位 4位 計
1投資利益率(ROI) 4 24 7 11 46
2売上利益率 10 29 6 2 47
3利益 33 17 0 0 50
4売上高 13 31 3 2 49
5ROIの予算・実績比較 2 16 12 15 45 6利益の予算・実績比較 27 21 0 0 48 7売上高の予算・実績比較 17 28 3 1 49
70
性評価がある。前回の調査でも同じ内容で行った が,「定性評価は導入していない」という項目を 明示的に含めなかったために,回答者にいくぶん 誤解を与えたことは否めない。今回の調査結果を みると,記入なしの企業6社を定性評価を使用し ていないものとみなすと33社になり,導入してい るのは12社(22%)にすぎない。どのような定性 評価を用いているかをみると,もっとも多いのは マーケット・シェア,ついで品質管理,そして親 会社およびグループ企業との協力度となっており,
前回の調査結果と同じ内容となっている。
ただ,今回の調査対象は製造業であるとはいえ,
さまざまな地域および国に多くの現地法人をもっ ている企業からすれば,どのような定性評価を重 視するかはそれぞれの現地法人によって異なるの が実情であり,一概には回答できないかもしれな い。しかし,それぞれの現地法人ごとに回答を求 めることはもちろん不可能であるので,ここでは 親会社の業綴評価の基準方針を明らかにしたかっ たのであるが……
つぎに,「現地法人の業績評価によって,当該 現地マネージャー(最高責任者)のボーナスや昇 進・査定に影響を与えますか」という質問をした が,その結果はつぎのようになっている。
1まったくない2社 2少しある23社 3相当ある18社 4わからない6社
現地法人の月次報告書をとりまとめている-
に意見を求めたところ,現地法人の業紙は為替変 動や景気変動など現地マネージャーの管理不能な 要素によって左右されることが多く,その点で現 地マネージャーの評価も多分に運・不運をともな
うという。
現地会計担当者
表(8)で示したように,日本企業の現地法人 の経理責任者は現地人が48%,日本人が52%となっ ている。この数字が欧米先進国と比較して多いか,
少ないかはデータがないので判断できないが,一 般に日本企業は現地法人のカネの管理については 親会社が派遣する人間に任せる傾向があるといわ れる。
それでは現地法人に経理責任者を派遣するさい,
どのような点を考慮するかを尋ねたが,表(18)
に示した項目に対して,1=もっとも重要である 2=重要である3=重要性が少ない4=重 要でないという基準によって記入して貰った。
この項目に無記入が1社だけあったが,結果はつ ぎのようになっている。
表(18)経理責任者を現地法人へ派週する基準
…雪雲==
 ̄Ⅳ■可■
計49社
無記入の6社と「わからない」の6社は,回答 者が下位レベルなのでトップの業績評価について は答えようがないと解される。したがって,これ ら12社を除くと現地マネージャーの以後の昇進あ るいは査定に関連していると回答した企業は95%
にもなる。つまり,現在では日本企業の管理者の 業紙評価は厳しくなっており,前回の調査結果を 上回っている。しかし,表(15)で示したように 業繊評価の主たる目的として「現地マネージャー を評価するため」と回答した企業は非常に少なかっ た。ここに本音と建前の違いがでているが,現実 に現地法人の業績によってマネージャーが評価さ れていることは事実である。
この点に関していくつかの企業の経理担当者一
これからわかるように,現地法人の経理責任者 としてもっとも重要な要件は管理能力であり,次 いで会計知識ということになっている。語学力は もっとも重要な要件ではないが,2位にあげてい る企業が多い。経理責任者であるから,会計知識 が必要であることはいうまでもないが,やはり大 きなウェイトがおかれている。この結果は前回の 調査とほぼ同じになっている。なお,今回の調査 では含まれていないが,前回では現地法人の経理 責任者の予備軍として余剰人員を抱えているかを 尋ねた。その結果25%の企業で将来に備えて,そ のような施策をとっており,経理以外のセクショ ンである国際企画部とか,海外業務部などに保有 している。今回の調査に含めなかったのは,この 数年間でリストラの対象となったのは総務部,経 1位 2位 3位 4位 計 財務会計の知識 19 29 5 53 管理会計の知識 13 34 5 52 語学力 3 40 7 3 53 管理能力 27 25 2 54 計 62 128 19 3 212
71
理部のような本社スタッフであり,今日の日本企 業ではこうした余剰人員は含まれていないと判断 したからである。今後,現地法人の経理責任者は 現地人(外国人)の占める比率がますます多くな ることは確実であるが,日本を代表するような大 企業ではやはり親会社が派遣することになるだ ろう。
日本企業の現地法人は当然に経理あるいは財務 担当者を現地で採用することになる。そこで,現 地経理担当者のレベルを知るために,つぎのよう な質問をした。「現地の会計担当者は,採用の条 件にもよると思いますが,入社時に簿記などの基 本的な会計知識をもっていますか。北米,欧州,
アジアの三つの地域に該当するマス目に九をつけ て下さい」
この結果は表(19)に示してあるが,回答企業 は必ずしも北米,欧州,アジアの3地域に現地法 人をもっているとは限らないので,それぞれの地 域ごとに回答数は異なる。したがって,回答数で 集計しても意味がないので,地域別の合計回答数 に対する比率で示してある。たとえば,北米の(1) マス目が86%ということは,北米地域に現地法人 をもつ回答企業数のうち,86%は「(基本的な会 計知識は)ほとんどもっている」と回答している
ことを意味している。
表(19)現地担当者の会計知職
教育をどのように行っているのであろうか。前回 と同じように,今回でも日本の親会社の社員教育 に対しての調査を行ったが,現地法人のそれは今 回が始めてである。アンケート調査では「現地の 会計担当者に対して,OJT以外の社内教育をし ていますか。その場合,どのような方法によって 行っていますか。該当する記号を丸で囲んで下さ い」として,つぎのような項目を掲げた。
(1)社内教育はしていない52%
(2)社内教育を行っている48%
イ.現地の経理責任者が行う(27)
ロ.現地の監査法人に依頼する(20)
ハ.本社から派遣して行う(17)
二.現地の教育機関に行かせる(27)
ホ.その他(9)
現地経理担当者に対して社内教育をしていない 企業は52%であるが,これは採用時に会計の基礎 知識をもっている比率が高いことを考えれば,妥 当であるといえる。もっとも,OJTによる社内 教育は行われているわけだから,日常の業務には 支障がないのであろう。
他方,社内教育を行っている企業は48%である が,それらの企業がどのような方法で行っている 力、の内訳が示されている。現地の経理責任者や教 育機関に任せているケース,さらには現地の監査 法人に依頼するケースが多い。また,ここでの
「その他」は日本への研修であるから,本社から の派遣と合計するとかなりの比率になる。
今回の調査で日本の親会社の経理人一新入 社員から部長クラスまで含めて-の社員教育 の実態を明らかにしたが,その結果はつぎのよう になっている。
1OJT以外にはない45%
2社内にキャリアに応じた経理マンの教育プ ログラムがある90 3外部講師に委託する20 4指定した人を外部の教育機関に
通わせる90 5本人の努力にまかせる43 6その他(通信教育)7 この結果から,採用時の現地経理担当者の会計
知識の有無は北米,欧州,アジアの順になってい る。しかし,このことはアジアの教育水準が低い ということを意味しているのではない。北米地域 にある日本企業の現地法人は比較的早く進出し,
規模も大きいと考えられる。それに加えて,伝統 的に職種別に求人するのであらかじめ専門的知識 をもっている人が応募してくるケースが多いであ ろう。それに対して,アジア地域では最近の進出 が多く,規模も小さいので職種別に採用する状況
にはないと考えられる。
それでは現地法人は採用した会計担当者の社内 この項目の回答は55社であったので,OJTT以
---------- 北米 欧州 アジア
(1)ほとんどもっている 86% 81% 66%
(2)半分くらいはもっている 7 9 28
(3)もっている人は少ない 7 7 4
(4)ほとんどもっていない 3 2
72
外はないとした回答数25社の比率は45%となる。
何等かの形で社員教育を行っている企業は30社あ るが,キャリアに応じた教育プログラムをもって いる企業と外部教育機関に通わせているのがそれ ぞれ90%となっている。経理人に対する社員教育 を行っている企業の比率は55%となっており,現 地法人のそれよりも多くなっている。
これは一見すると当然のように思われる。日本 の親会社は大企業であり,経理部門の人員も多く 抱えており,従業員の定着率も高いからである。
それに対して,現地法人は中小企業のレベルであ り,当然に日本よりも労仇移動率は高いと考えら れるからである。
しかし,もうひとつの要因がある。日本企業は 高卒でも大卒でも職種別に採用することはほとん どない。したがって,経理部に配属される人のう ち会計の基礎知識をもっているのは,現地法人の 場合と比較してもかなり少数であろう。日本の大 学教育の貧困も一因であるが,企業が単に大学の 偏差値を基準にして採用している限り,専門的知 識をもつ人間を大学レベルで育成することはむず かしい状況にある。
法人同士が互いにコミュニケーションをとり,自 己の戦略にもとづいて行動する。このようなパター ンはメッシュ・グローバリゼーションと呼ばれる こともあるが,多国籍企業よりもいっそうグロー バル化したものとして位置づけられるのである。
さて,本稿でとりあげた「海外現地法人の管理 会計」は,わが国ではあまり問題とされていない 分野である。しかし,アメリカの会計学会では国 際会計の一分野として毎年のように主要なジャン ルのひとつとして多くの論文が発表されている。
筆者はこのテーマではわが国で初めて91年に実態 調査を実施した。しかし,初めての試みでもあり,
またアンケート調査の質問項目にも不適切なもの もあった。
今回の調査は大部分の内容が前回と同じである が,一部分については質問内容を変えると同時に 新たに追加した。今回の調査目的はつぎの2点に あった。第1は前回の調査は初めての試みであっ たので,その結果が果たして妥当であるかどうか 確認がもてなかった。しかもバブル崩壊というショッ キングな時期に,日本企業の現地法人に対する行 動パターンがどのように変化しているのかをみる
ことも目的であった。第2の目的は,新たに設定 したいくつかの質問項目に対しての結果を得るこ とであった。
これら二つの目的のうち,前者については今回 の調査でも前回と同じような結果が得られた。こ れによって前回の調査結果の追認が得られたこと になるが,現地法人の会計管理という点からすれ ば,多少の環境変化があったとしても一朝一夕に は変わらないということであろう。第2の目的に 対しても一定の成果が得られたが,問題は今回の 有効回答率(27.5%)が前回のそれ(48%)に比 較してかなり低かったことである。これはやはり 企業のリストラによってスタッフ部門が縮小し,
それだけ人員に余裕がないということであろう。
さて,このテーマに関する将来の展望であるが,
管理会計の領域でも比較会計学とも呼ばれるべき アプローチがとられつつある。これまでにも,財 務会計の領域では各国の制度会計と日本のそれを 対比した比較会計制度論とも呼ぶべきアプローチ がとられてきた。これは会計に関連した法律の比 較になるので,その違いは明確であり,誰もが疑
おわUに
日本企業の海外進出はめざましい。バブル崩壊 後,日本企業の海外現地法人の設立数は一時的に 減少したが,最近はまた増加傾向にある。とくに,
アジア地域への進出が目立っている。しかも,こ の地域では製造業の比率が高くなっている。国内 の生産拠点が海外に移転するにともなって,いわ ゆる“国内の空洞化,,がかって叫ばれたが,今日 では日本企業の存続のためにはもはや避けられな いものとみなされている。
また,本稿でもみてきたように金融や研究開発 のための現地法人の設立も増えつつあり,日本企 業のグローバル化はいっそう進展しつつある。本 稿では多国籍企業とグローバル企業を同義語とし て用いてきたが,これらを区分することもある。
その場合,多国籍企業とは親会社が存在する国と,
現地法人がある国とのリニア・コミュニケーショ ンが中心となる。それに対して,グローバル企業 とは親会社とは関係なしに,それぞれの国の現地