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ロシア東部のエネルギー資源開発と日本企業の動向

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ロシア東部のエネルギー資源開発と日本企業の動向

著者 室田 武

雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー

巻 10

ページ 272‑282

発行年 2009‑03‑31

権利 同志社大学ワールドワイドビジネス研究センター

URL http://doi.org/10.14988/re.2017.0000015972

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ロシア東部のエネルギー資源開発と日本企業の動向

室田 武

(同志社大学経済学部教授)

は じ め に

この公開セミナーの名前は「世界の巨大市場圏とワールドワイドビジネス」ということなの ですが,私はあまり巨大スケールの研究はしていません。しかし,そういうタイトルになって いるので,なるべくそれに近いような話を,大風呂敷を広げてやってみようかと思います。

まず,ロシア東部と言いましたが,Russian Eastの範囲を述べます。ロシアにはエコノミッ ク・リージョンという概念があって,連邦全体が七つのエコノミック・リージョンに分かれて いるといわれています。そのうちここで取り上げるのは,日本に比較的近い「東シベリア」と

「極東」といわれる二つのエコノミック・リージョンです。

今日は,まず,東シベリアと極東とはどんなところなのかということを概観した上で,そこ でいま展開されているエネルギー資源の開発と,それに伴う環境問題といったことを,四つに 分けてお話ししたいと思います。

まず,東シベリア太平洋石油パイプラインを略してESPO(East Siberia and Pacific Ocean)

オイルパイプラインといいます。その建設がいま西から東へ向って進んでいるということで,

その内容の紹介です。

二つ目は,日本に入ってきている北洋炭は,ほとんどが極東に属するサハ共和国のネリュン グリ(Neryungri)というところから来ている良質のネリュングリ炭なのですけれども,ネリ ュングリの開発の次として注目されているエリガ(Elga)炭田の状況についてお話ししたいと 思います。

そして,日本で一番ニュースになることの多いサハリンの大陸棚の石油・天然ガスの開発で す。これは既に日本にもサハリンから原油が入り始めているということで,その状況です。

最後に,東シベリアのイルクーツク州にコビクタ(Kovykta)というところがあって,コビ クタのガス・コンデンセートの埋蔵量が非常に大きいということが前から話題になっていま す。それをガスパイプラインで太平洋岸まで運んだらどうかという議論がだいぶ前からあるの ですけれども,これが今どうなっているのか,現在進行形の状況をお話しできればと思いま す。

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1.東シベリアと極東の概観

私が東シベリアと極東に注目している理由は,何といっても日本に近いということです。日 本だけではなく,北朝鮮,南朝鮮,中国,モンゴルといった北東アジアの一部分としての東シ ベリアと極東。日本もその北東アジアの一員だという観点で,ここに注目したいと思います。

東シベリアも極東も,天然資源に非常に恵まれています。再生可能な資源と枯渇性の資源の 両方に関して大変豊富なのですが,かなりの部分が永久凍土に覆われているような地域で,生 態学的に見ると極めて脆弱な要素を持っているのではないか。そしてもう一つ,この地域の大 きな特徴として,日本と似て地震地帯だということがあります。東シベリア,極東の一部は世 界有数の地震地帯であるということが,開発を考える場合に考慮しないといけない要素になっ ています。

自然地理的にいうと,この地域の特徴として,世界最長の河川の上位10位か11位くらいま でに入るアムール川,レナ川,エニセイ川という三つの大きな川が流れています。

主要部分の地形図がありますが,ここが日本の北海道で,この線の北側がロシア連邦です。

一番分かりやすいのがバイカル湖だと思いますが,世界で最も深い湖で,水深1637 m,世界 に存在する液体の淡水の20% はこの一つの湖の中に蓄えられています。

2.ESPO

パイプライン

石油パイプラインの話というのは,バイカル湖の西側あるいは北側が出発点の話です。この 辺りに油田が幾つかあって,その原油を太平洋側までパイプラインで運ぼうという計画で,そ の工事がいま始まっています。そのパイプラインの総延長は,工事の進行によって少し変わる 可能性はあると思うのですけれども,完工すれば約4700 kmという世界最長の石油パイプラ インになります。

その起点として,タイシェトというところが選ばれたのですけれども,この辺りから初めは 北東に進み,やがて南下してレナ川沿いに行って,シベリア鉄道と,その支線みたいなリトル バムといわれる鉄道のジャンクションポイントの辺りを通って,アムール川の左岸を通ってハ バロフスクの辺りに来て,ここからウスリー川の右岸側を通って,ナホトカのちょっと東の辺 りまでをつなぐという話です。

このように北の方まで延びるということですけれども,地震の問題と世界自然遺産であるバ イカル湖とその周辺の自然環境保全の問題がありまして,もともと目的は原油を太平洋側に出 すことですからもちろんパイプラインは近い方がいいわけです。それで,この大規模な地震が 起こる地域の辺りを通る計画もあったのですけれども,ロシア国内ですごい反対があって,だ

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んだん話が予定路線より北の方に延びていったという状況です。

東シベリアと極東

まず,東シベリアというのはどこかということですけれども,大まかにいえばバイカル湖の 西と東の広大な範囲です。東がある以上,当然西シベリアというのがあるわけですけれども,

西シベリアはウラル山脈まで続いていて,ウラル山脈の西側はもうヨーロッパです。

ロシア連邦は,日本に対応するものがないので表現が難しいのですが,連邦国家なので,例 えばアメリカの州に当たるようなものが84くらいあって,東シベリアという場合,その州に 当たるようなものの表現が,その地域の歴史的な事情や民族構成によっていろいろステータス が違っていて,言い方は「オブラスト」と「クライ」というのと,それから「レスプブリカ」

というので共和国,それと「オクルグ」の四種類があります。ただし,話を簡単にするため,

以下ではオブラスト,クライ,オクルグについては州と記します。トゥヴァ共和国,ハカシア 共和国,クラスノヤルスク州という面積の大きなところがあります。それと,このバイカル湖 の西岸に位置するイルクーツク州。バイカル湖の南および東,北をカバーするブリヤチア共和 国,それから,ザバイカリスク州で,そこまでが東シベリアです。

そしてその東が極東といわれます。その中で一番面積の広いのがサハ共和国,別名ヤクーテ ィアともいいますけれどもヤクーツクが首都で,愛知万博のときに展示された凍土の下から発 見されたマンモスは,ここからやってきました。世界の寒極(Pole of Cold)という概念があ りますけれども,寒さが一番寒いというので有名なのがこの辺りで,それがサハ共和国です。

それから,アムール州,ハバロフスク州。それから,非常に面積は小さいのですけれども,ユ ダヤ人が1930年代に移住させられたユダヤ自治州があります。それから,沿海州。サハリン 州。このクリル列島(千島列島)はサハリン州に入っています。これはロシアの地図を基にし ているので,国後,択捉が日本に属していません。それからカムチャツカ州,マガダン州。チ ュクチ人という人たちがたくさん住んでいるチュクチ自治州です。ベーリング海峡をはさんで そのすぐ先はアラスカで,アメリカです。この間の一番狭いところは50 kmくらいだそうで す。天気のいいときはアラスカの一番近い島が肉眼で見えるという,非常にアメリカに近いと ころまで広がっています。

ESPOパイプラインの三つのセクション

ESPOパイプラインの予定されている経路は,まず,タイシェトというところがあります。

シベリア鉄道がここを通っているわけですけれども,その北側にもう一つバイカル・アムール 鉄道というのがあって,太平洋側の間宮海峡に面するところからコムソモリスク・ナ・アムー レを通っていく鉄道で,略してバム鉄道あるいはバム鉄といわれますが,そのバム鉄とシベリ ア鉄道が交わる,交通の要衝がタイシェトです。そこからからずっと,タラカンという油田地

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帯の原油を集めたりしながら,それで,ここにバイカル・アムール鉄道とシベリア鉄道をつな ぐ鉄道で,小さいバムというような意味でリトルバムといわれる鉄道があるのですけれども,

それに沿う形で行く,これが一つ大きなセクションです。

日本との関係で言うと,スコボロディーノというところからアムール川の左岸沿いにハバロ フスクの辺りを通って,ナホトカの少し南東のコズミノというところにターミナルを設けよう というのが,第2セクションです。

ところで,中国は経済発展が非常に著しい。石炭ばかり使っていると環境問題が悪化するば かりということで,中国はロシアの原油と天然ガスが欲しい。大慶油田が開発されるに伴っ て,ここに日本の技術協力もあって製油所があります。この大慶油田というのは,サウジアラ ビアみたいな大規模油田がぼんとあるというよりは,小さな油田がこの辺りに散在していると いうことで,かなり掘り尽くしかけているらしいのです。ところが,製油所の施設があります から,中国としては,スコボロディーノから国境を越えるパイプラインを引いてほしい。これ がどうなるか分かりませんけれども,多分いつかは実現するのかもしれません。絶えずロシア と中国の間で政治的な駆け引きが行われて,計画が確定しそうになってはキャンセルになると いうことが,過去何年間にわたって繰り返されています。ですので,第1のセクションと第2 のセクションと,それともう一つ,中国への区間もあり得るということです。

ESPOプロジェクトの背景

なぜ,東シベリア・太平洋パイプラインプロジェクトが出てきたのか。イルクーツク州とサ ハ共和国(ヤクーティア)はどうやら原油と天然ガスの埋蔵量が非常に大きい。それが地質学 的に分かっています。数年前にサハ共和国を実際に訪ねたことがありますけれども,その西部 にあるダイヤモンド都市のミールヌィで聞いた話だと,1970年代から80年代初めくらいま で,サハでは地下核爆発を十数回やっているらしいのです。なぜかというと石油をはじめとす る地下資源の探査のためです。ダイヤモンドもあるのですけれども,そういう地下資源探査の ために地下で核爆弾を爆発させて,その地震波の伝わり方で資源探査をする。ソ連時代はもの すごいことをやっていたのだなと思いますけれども,そういう調査もあって,原油,天然ガス の埋蔵量が非常に多いということが分かっています。

それともう一つは,言うまでもなく太平洋諸国です。日本,中国,韓国,台湾といった国々 での石油や天然ガスに対する需要がどんどん伸びているということが,大きな背景だと思いま す。

それで,中国と日本の場合,日本の産業界と中国政府がこのプロジェクトに非常に興味を持 っているわけですけれども,理由は両国間で恐らく違っていて,中国の場合は,とにかく石炭 でないクリーンなエネルギーを大量に必要とする。日本の場合は,原油供給国の分散化で,サ ウジアラビア,イラン,イラクとそういったところに全面依存するのではなく,供給源の多様

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化を図りたい。これは常識的なことで,本当は違うのかもしれませんけれども,一般的にはそ のように考えられています。

エネルギー資源の輸送ルートと方法

原油をどうやって運ぶのかということで,その通るべきルートと方法については,これまで ロシア国内でいろんな議論がなされてきました。例えば,鉄道で運んでもいいではないかとい うことで,シベリア鉄道の線路をもっと強化して頻繁に貨物列車を走らせるということもあり 得るでしょうし,それから,シベリア鉄道よりもっと北側に造られたバム鉄道が,あまり使わ れていないのです。人口の非常に少ない地域を走っている鉄道ですから,能力より少なくしか 利用されていない。そういうものを利用すればいいではないかというようなことも含めて,い ろんな議論がありました。

パイプラインにする場合に,バイカル湖一帯はバイカルリフトといいますけれども,地質学 的に非常に地震の多い断層地帯ですから,そういうところであるが故に,景観が美しいばかり でなく,生物多様性の宝庫です。そういうことで,バイカル湖の南にパイプラインを走らせる というような話も近道としてはあったのですが,それはトゥンカ渓谷という非常に自然環境の いいところを通過するので,バイカル湖の南を通る案は駄目になりました。では北ということ になって,北も地震の巣だということで,もっともっと北,つまりサハ共和国を通るほど北の 方に計画が変わっていきました。

それで,先ほど地図で見たことの中身を詳しく言いますと,このパイプラインの第1のセク ションは,タイシェトからスコボロディーノまで,これが大きく北を回っていくので,2757 km といわれています。それから,第2のセクションはスコボロディーノから東に向かってナホト カの近く,コズミノ湾をパイプラインのターミナルにするとして,スコボロディーノから1963

km,合わせると先に述べたように4,700 kmくらいという世界最長のパイプラインになりま

す。それから,スコボロディーノから大慶に至る中国支線です。これは地図の上で距離を測れ ば分かると思うのですけれども,今日は何キロあるのかデータを持っていません。

世界最長のパイプラインの建設

もし完成すれば世界最長になるこの石油パイプラインには,幾つかのポイントがあります。

タイシェトというのは,シベリア鉄道とバム鉄道の交わるところで,イルクーツク州の南西端 に近い所にあります。このタイシェトの近くに油田があるわけではないのですけれども,交通 の要衝なのでここを出発点にする。さらに言えば,タイシェトは西シベリアの油田と昔からパ イプラインでつながっているのです。この ESPOパイプラインが完成するとして,初期の段 階で問題になりそうなこととして,イルクーツク州の原油でそのパイプをいっぱいにできるか ということがあるらしくて,初めの段階ではもしかしたら西シベリアの油田からもこのパイプ

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に送油するということもあり得るとすると,西シベリアに近いタイシェトというところ,交通 の要衝を基点にするのがいいということで決まったようです。それから,スコボロディーノと いうのは,シベリア鉄道とリトルバムの交差点,これも交通の要衝です。コズミノはナホトカ の近くです。

このパイプラインの建設計画は,一番初めの段階の工事は2006年5月にタイシェトで始ま っています。路線を決めるのにすごく時間がかかっているわけですが,決めると工事はすごく 早いようで,タイシェトとタラカンを結ぶ部分が,もう2008年4月にはパイプラインとして 使えるようになりました。そのタラカンというのはサハ共和国の一番南西の隅っこにある非常 に大きな原油の埋蔵地で,そのタラカンとタイシェトを結ぶ部分は既に完成しています。

国営のトランスネフチ(Transnefte),ネフチというのはロシア語で石油という意味ですが,

この会社がパイプライン建設の主役です。それに原油の生産や精製に携わるロスネフチ。スル グートネフチガス,あとは,TNK-BPというブリティッシュ・ペトロリアムの関連会社がこの 計画に参加しています。

インターネットで見られた写真を幾つか紹介します。トランスネフチ社が建設・所有するこ とになるパイプラインの写真があります。これはもうできているところで,タラカンというと ころです。バム鉄道のヴィチムという駅の近くです。典型的なタイガ(北方針葉樹林)地帯を 切り開いてできています。ですから,当然タイガの森が失われていくという犠牲を払わない と,こういうことはできない。これもタイガというにふさわしい景観だと思いますけれども,

その中に森林がはぎ取られた土地がどうしてもできて,広がってきています。これがパイプの 一番太い部分だと思うのですけれども,こんな感じです。

質問者:ここは永久凍土ですか。

室田武:この辺は全部永久凍土ですね。

質問者:これが溶けたら,この辺の施設はどうなるのですか。

室田武:ぐらぐらっとなる可能性があります。この辺の建物は,凍土よりもっと下の硬いとこ

ろまで鉄筋コンクリートを打ち込むのです。彼らは慣れていて,どういう対策をしないといけ ないかということは,多分ある程度は分かっていると思います。日本などにパイプラインを作 るのとはまた違った話で,相当深くまで基礎を作らないといけない。

森が開かれてという環境破壊の問題は,こういう形にする以上,どうしても出てきます。

地震対策は特に非常に重要な要素になってきます。地震ということで言うと,バイカル湖で 1862年,日本の幕末に近いころですけれども,意外に思われるかもしれないですが,湖で大 津波があったのです。大津波を引き起こすくらいの地震がバイカル湖の南部であったのです。

それで村が幾つか津波をかぶって消失したくらいの,そういうことも起こり得るような地域で す。そのような地域をできるだけ避ける形でパイプラインの建設が進んでいるということで す。

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3.エリガ炭田の開発

新聞記事などにはあまり出てきませんが,もう一つ進んでいるのが,エリガ炭田の開発で す。

先ほどネリュングリと言いましたけれども,サハ共和国の南の方で,硫黄分の含有量が非常 に少ない良質の製鉄原料になるコーキングコールが露天掘りできる,そういう条件の非常にい いところがあって,そこに日本の場合,日本輸出入銀行が多額の融資をして,日本の鉄鋼産業 がこぞって開発に乗り出したというのがネリュングリ炭田です。このネリュングリの開発が一 挙に進んだのは,1970年,当時の田中角栄首相とブレジネフ書記長の間の共同声明で話がぐ っと進んで,ネリュングリ開発が進みました。ネリュングリについていえば,日本鋼管,新日 本製鐵,神戸製鋼,川崎製鉄,住友金属工業,日新製鋼といった会社が,この開発に積極的に かかわりました。最近も日本に1年に100万トン単位で石炭が入ってきているのが,このネリ ュングリというところです。ただ,ネリュングリは非常に大きな世界規模の露天掘りのできる 良質の炭鉱ですけれども,その石炭も無尽蔵ではなく,あと15〜20年くらいしかもたないと いうことで,最近注目されているのが,それより450 kmほど東のエリガ炭田です。サハ共和 国の南東部にあります。

エリガ炭田からの輸送ルート

エリガ炭田も,タイガの深い森の中にある地域で,そこからどうやって石炭を運ぶのか。そ の辺りには全く石炭の需要がないわけで,結局,日本などの太平洋諸国へ輸出するか,あるい はロシア国内での消費ということなので,輸送が一番大きな問題になります。

2001年に長さ316 kmの新しい鉄道が計画されました。ロシア連邦で新たに計画されている

本格的な長距離鉄道としてはこれが今のところ唯一のようですけれども,そういうものをエリ ガ炭田から,南にあるアムール州のウラクというバム鉄道の小さな駅があるところまで,その 間にスタノボイ山脈が横たわっているわけですが,そのスタノボイ山脈を横切って鉄道を敷い て,バム鉄道の駅まで運んで,あとはあまり使用率が少なくて,まだまだ幾らでも輸送能力が あるといわれるバム鉄道を使って間宮海峡沿いのヴァニノまで運びましょうというようなこと で計画されて,その一部で工事も始まっています。

地図で,ネリュングリは白く書いてあるところで,エリガ炭田はその東の方です。エリガ炭 田の開発がいま計画されて,一つはバム鉄道でヴァニノ港に持っていく。そこからは船でウラ ジオストクの近くのボストーチヌイ・ポートという国際港に運び,日本などの国際市場に出荷 する。もう一つは,バム鉄道の途中にウルガルという所があります。そこから南にバム鉄道ウ ルガル支線が延びており,イズヴェトヴァヤという所でシベリア鉄道の幹線とつながっていま

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す。この径路で極東の各地へ石炭が運べる。そういうような二径路を想定した計画です。

今,鉄道建設と言いましたけれども,鉄道建設は2005年7月の段階まで進んで,今ストッ プしてしまっています。エリガ炭田の南の方にスタノボイ山脈があります。このどこかを越え て,バイカル・アムール鉄道が通っているところまで鉄道を敷こうという,これもまたとんで もない大規模開発計画です。それでタイガの森が切り開かれているわけです。こういうところ

に320 km近い鉄道を通そうというのが,エリガ炭田の輸送ルート計画です。

なぜこんな奥深くのところから石炭かというと,原油が世界的に値上がりしています。原油 が上がれば石炭も当然上がるということで,新規の炭田開発に利益を感じる人たちが出てきて いるのです。それで,こんなところにこういう鉄道まで敷こうということです。

4.サハリンの石油・天然ガス

サハリンについてはニュースが多いのであまり詳しく述べませんけれども,日本との関係で 言うと1970年代,当時のソ連と日本の間でサハリンの大陸棚の海底下にある原油,天然ガス の開発をしましょうということで,生産物分与協定(PSA)という,出てきた原油からの利益 を半分半分に分けるというやり方で来ています。鉱区がサハリン1〜8とたくさんあります が,そのうち早くから開発されたのがサハリン1とサハリン2で,既にこれは機能し始めてい ます。鉱区としては,サハリン1, 2というのは狭い範囲であるわけですけれども,それを取 り囲むようにしてサハリン3があって,サハリン4が上段にあると。こんなふうに鉱区が決ま っています。

投資と最近の出来事

サハリン1の場合は,ロシアと日本を含む海外諸国が共同でお金を出し合って,サハリン2 は,ロシアは鉱区を開放するけれども全部外国資本でということで開発が始まりました。た だ,ロシアが石油価格の高騰などで発言力を強めてきて,2006年にサハリン2に関して,サ ハリン2は主にロイヤルダッチシェルがやっていたわけですけれども,その開発の仕方が環境 破壊的だといって,ちょっとイチャモンを付けたみたいな部分もあるような気がするのです が,環境問題を理由にしてロイヤルダッチシェルの利権に制限を加えた。そして,そこに国営 の世界最大級のガス会社であるガスプロムが入り込んできたというようなことで,状況が変わ ってきました。

サハリン1は,オペレーターはエクソン・ネフチガスです。インベスターは,エクソンモー ビルの関係会社と,ロシアの会社が二つ,それから日本で丸紅や伊藤忠などの商社が中心に作

っているSODECO(サハリン・オイル・アンド・ガス・デベロップメント)と,インドのONGC

ヴィデッシュという会社です。2006年の10月には最初の原油が大陸側のデ・カストリという

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ところから日本などに向けてタンカーで出荷されて,具体的にサハリン1が機能し始めていま す。

サハリン2の方は,サハリン・エナジー・インベストメント・カンパニー(SEIC)がこの 開発をリードしているわけですけれども,ガスプロムが途中から入ってきて資本の50% プラ ス1株を占めて,全体をロシアペースで開発を進めようということになっています。当初のオ ペレーターであったロイヤルダッチシェルは27.5%,日本との関係で言うと,日本の三井が

12.5%,ダイヤモンド・ガス・三菱コーポレーションという三菱系が10% と,日本の割合は

そう大きくはありません。サハリン2からの原油の輸出は2001年で,サハリン1よりも早く 始まっています。

もう一つサハリン2の特徴は,LNGをサハリン島内の中で製造するという点です。北の方 で生産される天然ガスをパイプラインで南に運んで,サハリン州の州都ユジノサハリンスクの 南東の方にあるプリゴロドノエという,かつてはただの草原だったのですけれども,そこに LNG工場を作ったということで,この工場は既に完成して,そこからの出荷が近々始まるく らいのところまで来ていて,東京ガス,東京電力,九州電力などがLNGをサハリン2から輸 入する計画を立て既に数年前に契約しています。そのLNG工場建設について,日本の企業と しては千代田化工などが参画しました。

最新の技術

ここでは最初から,世界最新の掘削技術が取り入れられています。掘削というのは昔は垂直 に真っすぐ下に掘るしかなかったのですが,1970年代,80年代に,英語で directional drill- ing,最近ではextended reach drilling(ERD)といいますけれども,全方向,どんな方向にでも 掘り進むことができるという技術が進んで,これが早くもサハリン1に取り入れられたので す。海底からかなりのところに原油があるということが地質調査で分かって,通常は海上にオ イルリグを浮かべて掘っていくわけですけれども,ここの場合は陸上の海岸部にやぐらを建て て,そこから掘り進めていくという技術が採用されています。

サハリン1と2の全体として,サハリンの中を南に向かうルートと,もう一つは間宮海峡の 下を海底パイプラインで大陸側にということで,受け入れ側がデ・カストリという地域です。

1809年に間宮林蔵が,山丹交易の実情調査のため樺太(現サハリン)から大陸に渡ったと き,彼が着いたのがこのデ・カストリの辺りです

開発に伴う課題

問題は,パイプラインの敷設で,ところどころに圧力調整などのためにステーションが設け られます。800 kmくらいのパイプラインが作られてきたわけで,これが大きな環境問題とし て議論されてきたところです。特にサハリンはサケの遡上河川が多くて,サケが遡上するのが

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分かっている川が200ほどあるのだそうです。そういう川が,このパイプラインの工事で汚さ れる。そうすると,サケは汚い水を嫌いますから,遡上が妨げられるということで問題になっ ているわけです。ですので,開発する側としては川の汚染がないように,工事を非常に慎重に やらないといけないという状況になっています。

あと,今,アイヌ人はほとんどサハリンにはいませんけれども,北方の少数民族の人たちが いて,そういう人たちの伝統的な文化や伝統が,外から入ってくる外国資本による開発で失わ れないようにということも,開発に伴う課題としてあります。

もう一つ環境問題としては,サハリン周辺の海域はグレーホエール(コクジラ)と呼ばれる クジラの生息域で,開発によってそのグレーホエールがいなくなるということが心配されてい ます。

5.コビクタ・ガス田

コビクタというのは,イルクーツク州のバイカル湖の西にあるガス・コンデンセートのガス 田です。そこから太平洋岸までその天然ガスパイプラインで運ぶという計画があって,どこに そのパイプを敷くかということが,東シベリア・太平洋パイプラインと似たような問題として あるのです。太平洋までの路線については議論があるだけでまだ決まっていないようで,むし ろ最近のニュースで見ると,イルクーツク州内での消費が優先されるような感じになって,こ れがどれだけ日本にこれから関係してくるかは,ちょっと先が読めないような状況となってい ます。

ただ,その近くにチャヤンディンスク・ガス田があって,コビクタとチャヤンディンスクを 一緒に開発すると大量にガスが得られるので,それをどこか外国の需要まで当てにして開発す るかどうかというようなことでいろんな議論が今行われています。とにかく大規模な開発計画 なので,拙速に進めるとタイガの森や湖,川が,非常に大きな打撃を被るのではないかという ことです。確かに原油や天然ガスは必要かもしれませんが,乱開発は避けなくてはいけないと いうことと,あとロシア経済の大きな特徴として,物を原料のまま売ってしまうということが あって,どうしてもこれをやると環境に対する負担が大きくなる。ロシア人自身がいつも言っ ていることですけれども,もっと製造業を国内で発達させて,たとえば石炭のまま大量に輸出 するというのではなくて,炭鉱の近くに製鉄所を作ればいいわけで,そういう方向での環境負 荷の軽減もできるのではないかという印象もあって,その辺を結論部分で少し記して,まだ論 文の形になっていないのですが,そういうことを書いて終わりにしようかと思っています。以 上です。どうもありがとうございました(拍手)。

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質 疑 応 答

司会:質問はありませんでしょうか。

室田武:ここに「リメンバー・ネフチェゴルスク」と書いてあるのですけれども,1995年に サハリンの北部を大地震が襲いました。ネフチェゴルスクというのは,もともと石油天然ガス の開発のために労働者がロシア各地から集まってきてできた,人口3500人の新しい町でし た。地震で3500人のうち2000人が死亡するという恐るべき被害が生じ,今この町は完全に廃 墟になっているのです。そういう地震地帯でもあるので,そのことも含めて,開発には相当慎 重でなければいけないというようなことで,これを書いてみたのです。

質問者:ロシア東部の油田の開発は国主導でされているのですか。それともプライベート主導

でなされているのですか。

室田武:まあ半々というか,国営企業も参加しているし,その一方で,先ほどTNK-BPとい う会社の名前が出ましたけれども,あれは私企業です。資源開発の許可を出すのは国,連邦政 府ですので,国営企業の方が多分認可が得やすいというところがあるのだと思います。その中 で民間も食い込もうとして,特にブリティッシュ・ペトロリアム(BP)などは,かなりロシ アのエネルギー資源に興味を持って入ってきています。ただ,日本企業はBPほど積極的には 動いていない感じです。サハリンなどに投資はするのですけれども,自分がどこかの開発のオ ペレーターまでにはならない。

質問者:経済誌などを読みますと,ロシアの埋蔵量はそれほどではない,推定量も入っていな

いと。現状の量がたかだか世界ランク10番目くらいですか。最近で言うとオイルシェルとオ イルサンドとか,ここら辺は国家機密的に扱われていて,非常に低い埋蔵量が推定されている ようですが,ここら辺はいかがなものでしょうか。また,現在の年間のオイルの産出量は非常 に衰えているのではないかという見方があるようですが,ガスプロスペクトとの関係で,いか がなものなのでしょう。

室田武:西シベリアでの産出量が少なくなりつつあるとはよく言われています。ただ,どこま

でお金をかけて開発するかということで,東シベリアのクラスノヤルスク州,イルクーツク 州,そして極東のサハ共和国の場合,埋蔵量としてはすごくあるのではないでしょうか。た だ,場所が場所なので,サウジアラビアやイランなどに比べると,タイガの森の奥深くで輸送 手段もない。ないからこそパイプラインが問題になっているわけですから,そういうところに どれだけ費用をかけるかということです。かければ幾らでも出てくる。ただ,ほかで安いのが あれば,そこまでお金をかけないということで,恐らく埋蔵量としてはすごくあるのではない かと思います。

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