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第 7 章 放送産業の構造変化 1

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第 7 章 放送産業の構造変化  1 放送産業の構造変化 

前章までに、デジタル化に対応した形で、地方局の経営危機を放送業界が自主的な 再編で解決できるよう、マスメディア集中排除原則や県域免許制度の緩和の前提とな る放送産業における規模の経済性の程度を測定した。また、デジタル化により中間生 産財としてのコンテンツの取引が標準化される中で、垂直分離した産業形態の方が競 争を促進することが可能であり、新たなビジネスモデルを生み易いという前提のもと、

アナログ時代の伝送路の種類に依存した垂直統合形態によって得られていた経済性を 放送産業において測定した。この二つの経済性の測定の結果、わが国の放送産業にお いては、規模の経済性の存在が認められ、垂直統合の経済性は特に見出せなかった。 

但し、上記のように垂直分離により番組制作部門がコンテスタブルな産業構造とな り、より効率的な状態の実現が期待されたとしても、それはあくまでも番組制作部門 に限られる懸念が残った。インフラそれ自体は依然としてサンクコストであり、イン フラの建設、管理、供給を競争的に行なうことは難しいからである。この場合、イン フラ面で効率的な維持、管理等がなされるための別の仕組みとして、ネットワークシ ェアリングを提案、経済効率性を測定した。実証結果から、統一的に運営、管理する この方式の経済効率性の存在が確認された。 

本章では、上記の結果を踏まえて、今後の放送業界の展望として、新たに生まれる 産業構造と統合・分業形態の変化について俯瞰することにする1。 

 

1.1 放送と通信の現状 

地上波放送局が番組制作と伝送を垂直統合し、他方、通信キャリアは垂直分離した 産業構造で伝送のみを請負する状態である。テレビ局は、営業・編成・制作という「番 組制作」と技術、管理陣からなる「伝送」という、利害の異なる 2 つのブロックに分 かれているが、これまで放送局は、放送コンテンツが作成されて、視聴者に届けられ るまでの過程の中で、伝送を押さえることによって利益を得てきた。同時に情報を視 聴者に送ることができる伝送を持つことは、放送局に特権的地位を与える一因となっ ている。伝送を保有することは費用的に大きな負担となるため、参入障壁が高い。特 に放送では、電波の有限稀少性に裏付けられ免許により事業が許認可されており、伝 送を持つことは特権的といえる。番組制作企業は自ら送信所を建設して電波を利用す ることは不可能であるため、既存放送局の伝送機能に依存してはじめて、経済的な参 入が可能となる。しかし放送局は従来自然独占的性格を帯びているため、自らの放送 計画にしたがって番組編成しており、放送には 24 時間という制約もあるため、他社の

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参入まで考慮していない。結果、番組制作市場に参入する企業が多ければ、伝送機能 の能力不足を来す。混雑(congestion)という現象が発生する(南部・西村[2002]を 参考)。既存のすべての放送局の効率性が、参入しようとする企業よりも高いなどとい うことは考えられない。民放が他業種に比較して高い利潤を上げることができるのは、

電波という制約の存在によってであるが、この電波という制約が失われて競争市場が 実現すれば、利権も失われることを意味する。生産手段が非常に稀少なときには、垂 直統合型の構造が効率的となるため、利益はほとんど伝送を持つ側に吸い上げられ、

番組制作側のインセンティブは著しく低下する。現在のコンテンツ制作体制において、

下表が示す通り、番組制作を担当する番組制作プロダクションの利益は 4%にすぎない。 

 

図表‑30:放送コンテンツの利益配分構造 

項目  内容  収入  費用  利益 

1  スポンサー(広告主)  0% 100%  ‑100% 

2  広告代理店  100% 80%  20% 

3  放送局  80% 24%  56% 

4  制作会社  24% 19.2%  4.8% 

5  下請プロダクション  19.2% 15.2%  4.0% 

(出典)村木良彦[1991]を基にして作成   

NHK は番組のほとんどを自社制作し、民放も下請プロダクションに安価で発注してき たため、日本には独立で経営の成立するプロダクションや映像作家がほとんど出現し ていない。さらに系列局はキー局から番組を供給され電波料を得られるという構造に なっているため、自主制作の番組は 1 日 1〜2 時間程度である。この構造の最大の問題 点は、番組制作と伝送が統合され、伝送を握る放送局が利潤を独占している点にある2。 日本の番組制作は、利益を伝送段階で吸い上げることによって番組制作能力を衰退さ せてしまっている。優良コンテンツは地上波キー局 5 局と NHK に偏在しており、番組 供給会社などプロダクションはいずれも経営基盤が脆弱である。このようなコンテン ツ制作・流通システムの特徴は、歴史的な映像産業発展の歴史的経緯に大きく起因し ており、米国システムと大きく異なる。 

また、外薗[1997]は「デジタル化された放送関連機器を十分に使いこなすためには、

それを操作する人間の側にも、従来のアナログ機器の場合とは異なったスキルを求め られているが、このようなデジタル環境に対応できる人材の不足が指摘されている。

例えば、今後 CG などの高度な表現技法を使いこなすためには、コンピュータやデジタ ル技術に通じかつアーティストの素養のある人材が求められる。わが国において、こ のような人材が育っていない背景には、創造的で優秀なクリエータが社会的・経済的 に評価されていない現状がある」と言及している。 

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しかし本来、番組制作側からすれば、伝送がどの路の経由であろうと、できるだけ 多くのマスに流れていけばビジネスモデルは完結する。放送局にとって最も重要なコ アコンピタンスは、伝送ではなく、どのように番組や CM を組み合わせるのかという編 成業務にあり、今後他の伝送選択肢が出現した場合、ますます本業務の重要性が増し ていくことになるだろう。 

 

図表‑31:放送と通信の現状 

番組制作 Production

(Pd)

通信 Transmission

(Tm)

放送と通信の現状 放送と通信の現状

B1 B2

B3 B4 A2

A1

Pd-Tm: 垂直統合 B-T: 水平分離

放送 Broadcasting

(B)

通信

Telecommunications (T)

  1.2 放送と通信の垂直分離 

番組制作者と伝送供給者を別の主体に分離する状態である。デジタル化により多チ ャンネル化が実現、ブロードバンド化、モバイル化が進展し、複数の伝送が選択可能 になると、良質のコンテンツを番組制作する主体と伝送する主体を分離するシステム の方が効率的となる。伝送手段の技術的発展に加えて、日本の番組制作が利益の大半 を伝送段階(具体的には番組制作と伝送を兼備している放送局)で吸い上げられるこ とによって制作能力を衰退させてしまっている現状の解消も期待される。垂直分離は 高品質、高価格の状況を導き、垂直統合は低品質、低価格の状況を導くので、品質を 重視しない消費者にとっては、垂直分離は望ましくないが、品質を重視する消費者(例 えば良質のコンテンツを求めるテレビ視聴者)にとっては、垂直分離の方が好ましいと いえる3。日本のゲーム産業において、制作側に利益の多くが分配されるというインセ ンティブが与えられたため、世界で有数の制作能力が発展することになったことが証 左となる。コンテンツ事業においては、競争的な状況の方が望ましいという見方であ る。舟田[1997]は、「ソフトしか持たない事業者に対するハード事業者による力の濫用

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を予防する、あるいは競争上の不当な優位性を排除する観点からも、分離型の方が望 ましい」と指摘する。第 3 章で述べた通り、垂直分離されている事業者は、利用度に 応じた支払いを行い、回避可能費用(avoidable cost)を負担するのに過ぎないのに対 して、地上波放送のような垂直統合された事業者は回避可能費用(avoidable cost)の みではなく、回避不可能費用、サンクコストをも負担することになる4。これはインフ ラ設備費用から放送局を解放することで他業種との競争条件を平等化し、放送局に経 営のインセンティブを与え、業種間に耐えうる環境を整備することになる。番組制作 部門(番組編成を含む)は垂直分離により、負担していた固定費のうち埋没性の高い 部分を除去することができ、より効率的な状態が期待される5。ネットワークシェアリ ングによって、設備投資によるサンクコストの低下、分散によって、プロダクション 会社のような番組制作事業者による参入機会が大幅に広がる状態である。しかし、そ れはあくまでも番組制作部門に限定されることに注意を要する。伝送部門は依然とし て多くのサンクコストを抱えるからである。この場合、インフラ部門である伝送部門 に効率的な仕組みを必要とする。インフラの建設、管理、供給を完全に競争的に行な うことは困難であり、第 6 章で見たような、伝送機能を共有するネットワークシェア リングの実現が必要となる。日本の放送局の場合、番組制作面で、東京の 5 つのキー 局を中心として地方の系列局を結ぶ縦のネットワークを構築してきたが、むしろ伝送 面ではこの系列を超えてクロスネット的に同一地域で統合する方が効率的である。垂 直分離することは、キー局を頂点としたピラミッド構造を成している番組制作と同一 地域で横断的にネットワークシェアリングする伝送のねじれ現象を解消することにも なる。一方、垂直分離後のネットワークシェアリングにより、伝送が独占されボトル ネックとなる6危険性は低い。通信、電力、ガスなどの地域独占、寡占型公益事業者に おいては、競争が導入されたとしても、公益事業者が構築してきた加入者間とのネッ トワークインフラ(加入者回線、配電網等)がボトルネック性を有するため、公益事業 者はなお支配的事業者としてあり続けることが可能である7が、地上放送局にとっての 末端ネットワークは周波数であり、事実上のボトルネックたり得ない。また、電力、

ガス等の公益事業が提供するサービスは、ひとびとの生活に不可欠であり、かつ他の サービスによる代替が不可能か非常に困難なものであるのに対し、放送局が提供する サービスの必需性はそれらより低く、視聴者はブロードバンド、衛星など他の選択肢 が魅力的なサービスを提供するようになれば容易に利用先を代替する可能性がある8。 

一方、垂直分離により番組制作部門はコンテスタブルな産業構造となり、より効率 的な状態が期待される。コンテスタブルな産業構造とは、参入がまったく自由であり、

そして退出費用がまったく必要のない市場である。コンテスタブルマーケット理論は、

1980 年代に Baumol et al によってまとめられたが、無数の企業を前提として成立する、

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新古典派完全競争モデルの効率性や社会構成の命題が、じつは企業数に依存しない9、 というものである。参入がまったく自由で退出費用を必要としなければ、潜在的参入 者による「hit‑and‑run」参入が可能であり、産業に関わる非効率性が是正される。米 国の番組制作部門については、参入退出自由が確保されており、独占的競争状態もし くは事実上の独占として見られる10(内山[2000])が、わが国特有の下請け的な取引・

契約が妨げとなっている可能性がある。番組制作での競争を促すことは、番組制作コ スト、番組流通コストを低下させるばかりでなく、事業者間の競争を通じて番組内容 の充実、改善も果たすと期待する。 

 

図表‑32:放送と通信の垂直分離 

B

1

B

2

A

2

A

1

Pd-Tm: 垂直分離

番組制作

Production

(Pd)

伝送

Transmission

(Tm)

放送

Broadcasting

(B)

通信

Telecommunications (T)

B

3

B

4

放送と通信の垂直分離 放送と通信の垂直分離

  1.3 放送と通信の融合 

従来、伝送しか持たなかった通信企業が番組制作企業と自由に取引し、垂直統合し た企業間で水平競争を行なう状態である。放送事業者と通信事業者は担ってきた役割 が異なっている。放送事業者は生産から流通のバリューチェーンのあらゆる領域をカ バーする垂直統合型のビジネスモデルを取ってきたが、あくまでもコア・バリューは 番組制作および編成能力にある。一方、通信事業者はインフラ(伝送路)部分にコア・

バリューがあり、確実に情報を伝達させることが第一の使命である。したがって、通 信事業者はコンテンツ流通のプラットホームを提供する能力に長けている反面、コン テンツ制作・調達のウェイトは低く、蓄積ノウハウも少ない。そのため、両者が手を 組むことによって確固たるバリューチェーンが構築できる。放送局が番組制作したコ

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ンテンツを、通信企業が持っていた伝送手段である、ブロードバンドやモバイルによ って伝送する11。この場合、通信企業が持っていた一つの伝送を、放送局と通信企業が 相互に利用することが可能になり、放送コンテンツとデジタルデータも一緒に流すた め、利用者にとっての利便性が増す可能性がある。利用者にとっては、パソコンや携 帯電話等の情報通信端末で TV 視聴する機会が創出されるため、通信サービスと親和性 の高い融合サービスを享受できることになる。通信サービスは、データを処理・加工 することにより媒体提供に限定された状態から情報の内容に関与することになり、放 送に近い存在となっている。各個別宅まで光ファイバーで有線化される FTTH になると、

映像情報を伝送するだけに留まらずテレビ放送が送れることになるため、送受信者対 数が 1:n になり、実態は放送と同じになる。特に注目すべきは、波長分割多重(WDM) 利用型の FTTH での映像配信サービスである。波長分割多重(WDM)利用型の FTTH 利用映 像配信サービスは、インターネットプロトコル(IP)型の伝送方式を取る NTT グループ の B フレッツと異なり、放送と通信の伝送方式を分けつつ 1 本の光ファイバーで混合 配信できる技術である。 

 

図表‑33:通信と放送の機能的比較 

項目  通信  放送 

サービス  情報を運ぶための媒体を提供  情報と共に媒体そのものを提供 対話性  対話型(双方向)  非対話型(一方向) 

送受信者対数  1:1  1:n 

(出典) 刀川眞[1994]217p.12 

ブロードバンドや衛星等、伝送路の代替手段が増えることによって、独立プロダク ションの活路が開拓される可能性も高く、番組制作産業の成長も期待される。視聴者 にとっては、最も安価な媒体(地上波とは限らない)により提供されることが望まし いということになる。 

重要となるのは、番組制作と伝送それぞれについて競争的な市場を形成することで ある。光ファイバーの伝送能力が飛躍的に高まった今日、メディアの特性に応じて無 線と有線を使いわけることは必然であり、放送局が無線以外の伝送路で放送するイン センティブを持てば、ブロードバンドのような他の伝送路も考えられるようになる。

最大のコンテンツである放送番組が、地上放送による電波の世界に囲い込まれると、

ブロードバンドの発展は非常に困難となる。メディア産業基本法検討委員会[1999]は、

番組の作成・供給者(ソフト事業者)と伝送経路の供給者(ハード事業者)の分離の 必要性を指摘し、「両者が別々になっていれば、ソフト・ハードの両事業分野において それぞれ新規参入が容易になり、放送事業の成長・発展につながるであろう」と述べ ている。通信と放送の融合は、ネットワークとコンテンツの結合を意味するが、日本

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の場合、コンテンツのコアは放送事業者にあり、デジタル化により、市場が競争的に なればなるほど、原材料(コンテンツ)の確保に関する不確実性や取引費用の最小化 を図る事を目的として、通信事業者は放送事業者を垂直統合しようとする。ブロード バンドが整備され、それが光ファイバーによって完成形に近づいたと言いながら、コ ンテンツの点で苦しんでいる理由は地上波で放送されている番組以上の良質なコンテ ンツが出せないためである。川上に位置する放送事業者が持つコンテンツと川下に位 置する通信事業者のネットワークが垂直統合すれば、市場取引を内部取引に代えられ る為に取引費用が削減され、また情報の欠如から生じる供給の不確実性も減少する。

こうした垂直統合は市場支配力を高める有力な囲い込みとなる可能性がある。垂直統 合が実現すれば、自ら製作したコンテンツを系列のネットワークで自在に供給するこ とが可能となり、傘下のコンテンツとネットワークを駆使して、互いを宣伝すること も可能となる。 

 しかし、デジタル時代には、垂直統合がむしろ放送と通信の融合の妨げとなる可能 性が高い。コンテンツ事業においては、通信事業者は、むしろ放送事業者との垂直統 合によるよりも、あえて競争的な状況を創出する方が望ましいという見方である。放 送事業者と通信事業者との取引は、通信事業者が事後的に機会主義的行動を採る事を 予想して、放送事業者の投資インセンティブは損なわれてしまう(ホールドアップ問 題として知られた現象である)。放送事業者は、自社の製品(コンテンツ)をマルチユ ースも含めて、出来るだけ多くの経路に流し、最も高値で買ってくれるところに売り 度いという誘因が働く。反面、通信事業者としては多くの放送事業者から魅力的なコ ンテンツを揃えたい。系列色があると、コンテンツは他の通信事業者から締め出され、

通信事業者は他系列からコンテンツを提供されないというリスクが存在する。両者を 統合するよりも垂直分離した方が効率的であるという考え方である。一方、通信事業 者はネットワークで水平統合(ネットワークシェアリング)し、放送事業者はコンテ ンツで水平統合する誘因も存在する。経営資源の無駄がなく、独占による規模の経済 で安くなり、競争力も高まるというデジタル時代の構造を活用したものであり、圧倒 的な競争力を活かし、ネットワークはネットワークで、コンテンツはコンテンツで、

それぞれ世界的な優位性を確立しようとする。 

 また、情報通信技術が急速に進展する近年においては、耐用期限に達していない放 送設備が陳腐する懸念がある。垂直統合した状況では、サンクコストを回収し切れて いないインフラを新技術の設備に更新した場合、不経済性が生じるため、サンクコス トを回収するために既存設備の使用を継続しなければならない。しかし、このような 場合、既存設備を支える技術の優位性が失われた時点で、伝送機能とともに番組制作 機能が有効に機能しなくなるという事態が起こりうる。たとえば、地上波放送でデジ

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対応の高画質の映像コンテンツが配信されるようになると、機能を低下させる。つま り、垂直統合の場合、技術の陳腐化によるリスクを負担せざるを得ないという点で非 効率性が認められる。垂直統合による組織形態では、同一機能を有する設備に対する 投資の重複でサンクコストが上昇することによって、個々の設備が有効に利用されな くなるため、垂直分離は設備共有の効率性を追及できるネットワークシェアリングを 選択できるという点で大きな効果がある。 

上記の通り、産業組織として垂直分離を念頭においたが、必ずしも垂直分離しなけ ればならないということではない。個々の企業の戦略としては、規模の経済性を追及 するために水平統合する戦略や二つの機能を垂直統合して統合サービスを提供する戦 略も考えうる13が、それは各企業の競争戦略上の判断に委ねられるべき問題である。企 業行動の立場から、従来と同様に、番組制作部門と伝送部門を垂直統合しようとする インセンティブが働く企業も出現してくるだろうが、競争促進の視点からは垂直分離 の方が望ましい形態と言える。個々の企業としては、分離と統合のバランスを取りな がら、各部門を一企業で排他的に利用するのではなく、他の企業にも開放してオープ ンな形で、プラットホーム型で展開することが望ましい14。 

 

図表‑34:放送と通信の融合 

放送と通信の融合 放送と通信の融合

B

1

B

2

B

3

B

4

A

2

A

1

Integration of broadcasting and telecommunications

番組制作 (Pd)

伝送 (Tm)

放送 Broadcasting

(B)

通信

Telecommunications (T)

  鬼木[2002]も、情報伝送事業とコンテンツ供給の兼業について原則自由でよいと指 摘し、両階層のいずれかで独占が生じ、独占力を保有する事業者が公正・公平競争を 阻害する場合に独占禁止規制が必要であると主張する。「競争領域の活動をインフラ

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供給活動が分離した上ですべて自由化し、事業者やユーザーの創意工夫が最大限に発 揮できる環境を作る」ことが重要であるという考えである。 

1 依田 高典[2001]『ネットワーク・エコノミクス』(日本評論社)58p.を参考にした。 

2 映像を使用する権利は、広告主や制作会社ではなく、放送局に集中している。現状 では、制作会社が企画・制作のすべてを行なったとしても、他局への販売をしたりビ デオ化しようとする時には、一次利用した放送局が「窓口権」によって独占している。

さらに、他局販売やビデオ化の際に放送局は、手数料を取るとともに、著作権者とし て利益配分を受ける仕組みになっている。使用する権利は放送局に集中し、広告主や 制作会社は権利を主張できず、二次利用するにしても制作会社は放送局に窓口管理費 を支払うことになっている。二次利用した時には、放送局側が 60%を受け取るため、制 作会社が受け取る分は、30%から 40%に目減りする。良質コンテンツを制作しても、放 送局に再放送や二次利用する気がなければ、二度と日の目を見ない。 

3 丸山 雅祥/南川 和充[2000]「流通チャネルの垂直統合と分離」『国民経済雑誌』(神 戸大学経済経営学会)p.43 を参考にした。 

4 放送局の創成期には、番組制作部門によって確保した高いレントの一部を伝送部門 に移転することによって、設備の耐用期間中にサンクコストを回収していた。 

5 垂直分離を行なえば、デジタル化のために必要な設備投資は別の経営主体によって なされるので、放送局にとってのサンクコストは大幅に減少する。それぞれの市場が 整備され、技能労働者の企業間移動がスムースになれば、コンテスタブル市場に近く なる(奥野 et al[1989]を参考)。 

6 伝送機能の共同利用者数が増えるほど、そのネットワークにはボトルネックが発生 しやすくなる恐れがある。ボトルネックは企業の市場行動に影響を与える。ボトルネ ックになる伝送事業者は、その地位を利用して市場支配力を発揮しやすくなる。 

7 鬼木[2002]は、「地上波放送の場合には、電波を使うので送受信用のアンテナによ って放送データを伝送する。しかしながらこの場合でも電波は地上電波スペースと呼 ばれる公共スペースを使用する(地上電波スペースには容量の限界があり、限界以上 の電波を発信すると混信を生ずる)。伝送用インフラの建設には何らかの公共スペー スを必ず使用しなければならず、そのためその供給から独占要因を除去することが不 可能である」として、「価格受容原理によるインフラ供給義務を課す」ことを提案し ているが、「これによって均衡価格による通信・放送インフラのオープン供給が実現 する、上限分離の結果、生成されるインフラ供給事業体については営利企業と非営利 団体の中間の性質を持つ通信・放送インフラ供給公社と呼ぶ事業形体を提唱する」と した。 

8 番組制作と伝送を垂直分離した場合、伝送部門に規模の経済が働き自然独占になる 可能性が高くなるとの指摘は存在するが、地上波、衛星、CATV がすべてデジタル化さ れると、伝送路の希少性という前提は存在しなくなる。 

9 衣笠達夫[1995]「公益事業の費用構造」11p を参照とした。 

10 内山隆[2000]「放送メディア市場の供給分析」『放送メディアの経済学』,中央経済

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11 放送と通信の融合に関わる産業構造の変化は、Ueda/Mitomo[2003] Vertical  Separation between Program Production and Transmission: Network Sharing in the  Japanese Broadcasting Industry ,COMMUNICATIONS & STRATEGIES Special Issue on Asia  Market Dynamic and Development Models に詳しい。また、放送とモバイルの融合につい ては、植田[2003]「モバイルTVとの融合によるテレビ広告効果の可能性の拡大」『広告 科学 第 44 集』に詳しい。 

12 刀川眞[1994]「技術変化とサービスの融合」,林敏彦編『講座・公的規制と産業③ 電 気通信』,NTT 出版,217p.

13 コンテスタビリティ理論からすれば、事業そのものへの参入(個々の財・サービス の供給)は容易であっても、複数の財・サービスの生産に劣加法性(subadditivity)が 生じ、コンテスタブルな独占が維持可能となる場合が存在する(衣笠[1995])。 

14 それぞれの事業者が自律的に行動した結果、複数モード、事業者間で培養効果が内 部化される可能性が生じる。 

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