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英文法学習用「エキスパート」・システムの開発

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Academic year: 2021

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英文法学習用「エキスパート」

・システムの開発

佐々木 勝 志

0.

はじめに

 コミュニケーション能力の育成が叫ばれ、「オーラル・コミュニケーション」が高校の 教科科目として明確に位置づけられてからかなりが経過しているが、高等学校では文法を 重視する傾向は特に進学校ほど相変わらず強いと言われている。文法知識の学習それ自体 が自己目的化され、受験目的でその状態が固定化される場合は、本来の目的としての文法 の現実的活用(直接には実際のコミュニケーションでの活用)が阻害されることから文法 指導についての否定的な見方も増幅される。  本稿では、このような見方が文法指導の必用・不必要の問題ではなく、その必用を前提 としたうえでの、文法指導の方法の限界の反映であるという観点から、文法指導のひとつ の手段としての学習者の誤答を指摘してその学習を援助する CALL ソフトを試作し、この 分野での今後の可能性を検討してみる。 1. 文法の意識的学習指導にとっての課題

 文法の知識には明示的なもの(explicit knowledge)と非明示的なもの(implicit knowledge) の二通り考えられるが、同時にその学ばれ方も意識的な方法と無意識的な方法があって、 前者が外国語の習得に、後者が母語の習得にそれぞれ対応する傾向にあると言われる。た だし、一方に固定する方法は様々な弊害が出て、受験目的での文法学習の固定化もその一 つと言える。  合理主義的発想で意識的な指導をより重視すべきか、それとも経験主義的な発想で無意 識のうちに文法規則が身に付く工夫をより重視すべきかは、基本的には、学習の目的と学 習者の実態に応じて、それにふさわしい方法を学習の進度に応じて具体的に判断するべき ものと言える。  ところで、明示的な知識の指導を行う上で重要なことは、文法的な概念を直接には抽象 的な理論として教えるが、これを具体的な文(章)の解釈や創造に活用できるということ を教えることだと言える。したがって、実際にはわずかな文法の試験問題でこの能力を判 別することは至難だと言わざるを得ない。  他方、文法指導の一つの手段としての練習問題などにおいて、問題が「出来た」か「出 来なかった」かという○×式で評価する発想は、大きな集団を全体として把握する上では 実際上不可避であるとは言え、個々の学習者にとっては、自分の学習成果としてこれまで 培った知識が正当に評価されないという意識を生み出す恐れがある。そのことによって、

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不十分ではあれこれまで培った知識を実際に受信したり、発信したりする上で意識的に活 用する意欲を低下させ、意欲的なコミュニケーションから遠ざける結果となる心配があ る。したがって、どこまで分かっていて、どの点が不十分なのかを具体的に指摘して次の ステップへの糸口とする必用がある。すなわち、学習者の限界を個別的に具体的に示す指 導が求められることになる。しかし、このようなことは、教師がごく限られた数の学習者 を個別に指導する場合はある程度可能であるが、一斉授業を一般的な前提とする学校教育 の場では、極めて困難である。そこで、教師が個別指導をする場合を想定し、そこでの指 導の一部を補助するシステムを考えてみる。

2.システムの基本構造(機能)

2−1.想定される指導内容例  例えば次のような文法問題を考えてみる。

 これは、いわゆる間接疑問文を作らせる問題であるけれど、正答の Do you know where he lives? を導くに当たって、おおよそ次のような内容と①∼③のプロセスとによって指導す るものと思われる。 【基本的な考え方の説明】 ① (1)と(2)の文の内容が理解できているかの確認。  (1)は「彼はどこに住んでいますか。」  (2)は「あなたはそのことを知っていますか。」 ② (1)の文の内容と(2)の文の内容の間にどんな関係があるかを考えてみる。  両方に共通の情報になっているのは、(2)の「そのこと」つまり it が示す部分。 そして、この it が指し示す内容は何かというと、

(1)の文全体、つまり(1) Where does he live?「彼はどこに住んでいますか。」

だから、

(2) Do you know it?

   (1) Where does he live?

そこで、(it を Where does he live? と置き換えて) Do you know [(1) Where does he live?]?

次の(1)と(2)の2つの分の示す内容を1つの英文で表しなさい。 (1)Where does he live? (2)Do you know it?

(3)

「あなたは「彼はどこに住んでいますか。」を知っていますか。」

③ ところで、このままでは英語の文としてはおかしい。Where does he live の部分を名詞

節として整えることを指導する。(上を見ると日本語でも意味はわかるが何か変だ、とい

う説明も可能かも知れない。)

そこで、これを正しい英文にするためには、 [(1) Where does he live?]のうちの

whereを除いた疑問文の部分[does he live?]を通常の文(平叙文)にする。 つまり、[he lives](he は3人称単数だから live に s がつく) 次に where をこの文につけて[where he lives]

最後に、これをもとに戻して、 Do you know where he lives?

 以上、①∼③のプロセスから、次のような誤答例を想定することができる。 ②→ Do you know where does he live?

③→ Do you know where he live?

 これらの誤答例は、一つ前までのプロセスについては一応理解できていることを示して いる。そこで、これらを一種のデータ・ベース化して、この問題について同様の解答がな された場合は、それに対応するメッセージを表示して、そこまでできたことを評価すると ともに、誤りや弱点を指摘して、再度解答を求めるシステムを考えてみる。 2−2.システムの基本的考え方  CALL ソフトとしてシステム化するためのフォーマットとして次のようなものを考えて みた。

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 このフォーマットでは、*[[Question]]*がマーカー(タグ)となっており、これからあ との部分が、問題文としてコンピュータの画面に表示されることを意図している。次に、 * [[Right_Answer]]*は、この問題についての正答を示し、正答が入力されたときのメッ セ ー ジ が RIGHT_MESSAGE_01 以 下 で 定 義 さ れ て い る。誤 答 へ の 対 応 は、 * [[Wrong_Answer]]*をマーカーとして、これ以下に誤答の内容に即してメッセージを データ化している。  正答についても誤答の場合同様、例えば RIGHT_Ans01というように01という枝番を付 しているが、これは、正答が複数ある場合や些細な間違いであるため正答扱いをしたほう が学習者の励みになる場合を想定している。実際に人間である教師が評価する際には、学 習者の実態に応じてこれ以上の配慮をするのであるけれど、ここでは、そのような教師の 評価姿勢や・評価方法をある程度反映させることを意図している。  解答の最初の文字が大文字でなければならないとか、終端がクエスチョンマークでなけ ればならない、というようなことについては、これをすべてデータ化するというのでは煩 雑であるため、前者についてはフォーマット上に *[[uppercase= 1]]*というスイッチをお くことで、後者については独自の処理回路を作成して自動的に対応するようにしている。  次は、実際にこのフォーマットをもとにプログラムを書いて学習ソフトとして動かした

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画面で Do you know where does he live? が入力された場合である。  解答に対するメッセージに基づき、まず、does を消しているのが次の学習画面例2であ る。 doesを削除する作業のあとで、すぐエンター・キーを押した場合の応答が学習画面例3で ある。ここでは、where からあとの部分の時制と人称について指摘している。 学習画面例1 学習画面例2 学習画面例3

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2−3.誤答分析と学習プロセスの記録  上に見た誤答予測は、当該の文法項目についての指導内容そのものから導き出されたも のであるが、実際の場面では誤答はこれにとどまるものではない。しかし、学校教育の場 で一クラスかなりの数の学習者がいる場合に、この程度のものでもこの文の形式につい て、何人くらいがどの程度理解しているかについて、○×式の場合に比べると詳しく知る ことができると言える。また、ここで示した2つのタイプの限界を持つ学習者には弱点を 示し学習の機会となる。  言うまでもなく、教師が自分で採点した方がはるかに詳細なデータを得ることができ る。しかし、数多くの学習者についてある限界の範囲で少しでも細かな実態を把握しよう とする場合、あるいは、少数の学習者の場合でも多くの学習項目について詳しく理解度を 確認しようとする場合、教師一人の手に余るものと言える。既に述べた方法はこの点に対 応して、教師にとっての道具を提供するものと言えるが、さらに、学習者の問題への応答 のプロセスを記録することで、2つのメリットがある。  一つは、学習者の達成度について統計的な情報を得ることができること、もう一つは、 データを元にこの種の教材の改良ができると言うことである。  次の学習記録例は、非英語専攻の学生に取り組んでもらったものであるが、1:∼5: の5つのプロセスで学習が進んだことを示している。はじめの2つのプロセスは既に予測 された2つの誤りを示しているが、3つ目は Do you know where he live in? と入力された状 況を記録したものである。当初このような例は予測誤答として登録していなかったのであ るが、他の学生によるこれ以前の段階での学習記録に複数この種の誤りが記録されていた ため誤答予測データの中に加えておいたもので、教材改良の基本的なプロセスの一つが反 映されていると言える。  さらに、この学習者の場合、2:と3:の応答の関係を比べてみると、2:で「動詞の live については時制と人称を考える必要があります」という指示を受けているのにも関わらず

これへの反応が Do you know where he live in? であったということは、「人称」や「時制」

にかかわるメッセージがこの学習者には有効でなかったことを示している。この場合、 「人称」や「時制」という表現それ自体が理解できなかったのか、この表現で示された内 容がわからなかったのか、ということが形式的には問題となるが、4:で示された情報から

綜合して考えると、「人称」ということについては、前置詞 in を付加していることから内

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容的に理解できていないと思われ、「時制」については、この問題の正答を基準としたと き変更不要であるのにこのようなメッセージが示されたため混乱したものと思われる。い ずれにせよ、この点を考慮して改良が可能か検討することになる。

 学習記録例2は、1:においては、Where do you think he lives? という表現との混同を示し ている。また、2:では does が< dose >とスペルミス入力されたために入力された文全体 が、予測誤答に含まれていなかったものである。ここでは正答と単純比較して正答には含 まれていない単語を< > で囲んで示して再考を促すように処理してある。1  ところで学習記録のメリットとして達成度を統計的に把握できることについてはじめの 方で述べたが、既に見たように、この記録は学習者の思考のプロセスが反映されていると 言える。従って統計的な処理だけではなく、教師が直接的に学習者に指導するうえで役立 つ情報が記録されることが期待できる。 2−4.学習に活用する上での条件  このシステムでどんなことができるか、またどんな可能性があるかについて述べてきた が、実際に教材として活用する条件については、ある程度学習経験を積んで、学んだ様々 な知識を整理し確認するプロセスで用いることを基本とすべきものと言える。  中学校・高校の指導要領では、かつては文法項目の提示順序が決められていたが、現在 ではそのような「学年指定」がなくなっている。一方でコミュニケーション活動を重視す るとともに、他方で文法の習得については経験的な学習プロセスを重視しているためであ る。とは言え、このことは意識的に文法を学ぶことを排除するものではない。  ESL の環境で第二言語として英語を学ぶ非英語圏から英語圏への移民者の場合は、日常 の必要が学校での学習のカリキュラムを outpace(追い越す)2ために、そこで生じる誤り は、必ずしも学校で習ったこととは関わらないと言われている。これに対して、EFL と呼 ばれる日本の学習者の環境は、テレビ・コマーシャルやカタカナ英語を除けば、英語にふ れるのは主に学校であり、それ故生じる誤りも習ったことの未消化から来る「誘発された 誤り」だと言われる。3現れる誤りの原因に相異はあるが、後者の場合は誤りを避ける指導 よりも誤りから学ぶ指導が重視される必要がある。しかし、そのためにも様々な誤りを経 験することが避けられない。ここで示すシステムはその意味で誤りから学ぶことを目指す ものとも言える。既に述べたように、これまでの学習で学んだ知識を基本的な事項として 学習記録例 2

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整理し綜合するプロセスにおいて活用することが望ましい。またそのように考えた場合、 学習者自身においても学習の方法を意識的に反省するように自覚を促す必要がある。

3.

「エキスパート」

・システムという位置づけについて

 技術的な側面でこのシステムを特徴づけるために「エキスパート」・システムという表 現を用いているのだが、それは、AI(人工知能)という考え方と異なることを示すためで ある。既に、2−3.で見たような学習者の応答から教材内容を改良していくプロセスの 積み重ねは、AI に期待されるようなことの一部を部分的に実現するように見えるが、これ を一般化することはできない。

 この点については Winograd, T. & Flore, F. (1986)が次のように述べている点が参考に

なる(下線は引用者)。  かつて Winograd, T. (1972)では SHRDLU(積み木の世界)によって AI による自然言 語理解の可能性を示していたのだったが、これを否定し、コンピュータに可能なのはある 一定範囲に限定された機能だとしている。この指摘は重要だと言える。言語を生み出すの は人間による主体的な行為であって、本質的に機械にできることではない。ここでの指摘 は、一見人間と同じように自然言語を機械であるコンピュータが理解しているように見え ても、実際は、ある限定された範囲で類似した機能を発揮しているにすぎないというもの である。  同様に、本稿で示したシステムも人間教師の代わりをするものではない。あえて言えば その機能を一部補完するものと言える。また、このことの反映として、実際の教材開発は 経験的で ad hoc な方法を採らざるを得ないのである。学習者の情報が集積されるシステム だと言っても、それが自動的に新たな教材を創り出すのではなく、情報を人間が判断しそ れにふさわしい教材を人間が創り出すしかないのである。  とは言え、このようなことを前提にその限界を具体的に限定しかつ明確にした上で教材 を開発し活用することの可能性と意義については前節で検討したとおりである。そして、 このようなシステムをエキスパート・システムの一種として規定し発展させていくべきも のと考えている。4 エキスパート・システムを AI の一つと位置づける見解も多くあるが、 本稿で取り扱う CALL 教材のレベルではあくまでもここで示したような限界の範囲で有効 だという認識が、この種のシステムについて過大な期待を排除して、技術的なレベルで可 能な範囲を確定しておくうえで重要だと言える。5  いずれにせよ、最終的には、学習者の状況について人間である教師の総合的判断なしで は実際の効果は期待できない。

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4.今後の課題

 本稿で示したシステムは、これから教育場面で活用しようするものである。そのため具 体的な活用に当たっては、指導目標を絞ってそれに基づいて計画を立て、教材を開発する 必要がある。本稿では、間接疑問文の問題一つを例に検討を行ったが、実際には同一文法 項目について複数の教材を制作し認識内容の普遍化を図る必要がある。複数の教材を作成 する上では、文法的な説明や誤答パターンは文法項目において類似するため、語彙・人称・ 時制を変化させるなどの手法で、既存教材をコピー・修正して活用できることは、この種 の教材の大きなメリットといえる。  十分に学習者の思考のプロセスを反映できるものを開発する必要があるが、この点で、 学習記録のうちの文法的誤りについてのカテゴリーの精査が必要になる。2−3. で示した 学習記録のについての記述では言及しなかったが、技術的には、00:を正答として、01:、 02:、などの表記法を用いて当面の誤答を分類しているが、よりシステマティックなものへ と改良していく必要がある。6  技術的な問題としては、スペルミスの処理がある。2−3. では、正答の一部である does を基準に< dose >をスペル・ミスとして扱ったが、dose という単語自体はここで意図した 意味とは異なるとは言え実際には存在するため厳密にはスペル・ミスとは言えない。した がって、いわゆるスペルチェッカーが、この種の誤りに有効ではないのであるが、この場 合のような特定の文脈での思い違いによる一種のスペル・ミス(この例では、does を意図 していながら dose とタイプしてしまった)についても、具体的な指摘が可能な方法を考え ていく必要がある。  コンピュータ自体は0と1のデジタルな機械であるが、本稿で考察したシステムでは、 ○×式のデジタルな発想を学習者に対してより具体的な援助ができるツールへと、いわば アナログ化していく方向で改良していくべきもの思う。 1 ここで< dose >をスペルミスと表現したが実際にはこのスペル自体は存在する。これについて は、「4.今後の課題」でさらに検討する。 2 Richards.J.C.(1974:46) 3 垣田直巳監修、小篠敏明、深沢清治、萬屋隆一(1983:40) 4 「エキスパート」・システムというような中途半端な表記をしているのは、この点でまだ確定的に 規定すべきか技術的な詰めができていないためである。 5 本稿の筆者はコンピュータ・サイエンスを専門とする者ではないが、今後の技術的改良に当たっ ても、この点での区別立てをすることが、過大な期待に基づく誤解を避ける上で重要だと思われ る。

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文法を基準とした分析が必ずしも有効ではなかったことを示しているが、自由な発話に見られる 誤りの分析を中間言語という位置づけのもとに行っているように思われる。しかし、EFL の環境 においては、自由な発話ではなく、ある程度定式化された意味に対する形式についての認識の定 着度を系統的に整理し評価することは重要であろうと思う。この点、金谷他(1992)などが取り 上げている学習文法の規定の検討がなされるべきものと思う。 参考文献 垣田直巳監修、小篠敏明、深沢清治、萬屋隆一(1983)『英語の誤答分析』大修館書店 金谷 憲編著、及川賢、片山七三雄、武井昭江、投野由紀夫、馬場哲生(1992)『学習文 法論』河源社

Ellis, R. (1994) The Study of Second Language Acquisition Oxford University Press

Richards, J. C.(1974) “ Error Analysis and Second Language Strategies”. In: Schumann, J. & Sten-son, N. (eds.) New Frontiers in Second Language Learning Newbury House Publishers, Inc. Winograd, T. (1972) Understanding Natural Language, New York: Academic Press

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参照

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