タンポポの開花に及ぼす気象要因
12
0
0
全文
(2) 森田 里未・加藤 央之. て早まっていることを示した。こうして様々な植物が気. データの観測開始年は,ほとんどの地点が 年であ. 温上昇などの影響を受け変化が起きている中,われわれ. るため, 年からを用いた。タンポポの開花日データ. の生活でごく身近な春季の植物の一つであるタンポポも. は在来種,外来種とあるが,在来種のみの地点は少ない。. 開花が早まっているという報告がなされているが,具体. これまでの研究では,在来種は夏季に休眠をし,外来種. 的な研究は小川・本谷ら()の在来種,外来種につ. は 年中咲いているという違いも発見されているが,今. いての生物学的な特徴と出現状況などのミクロ的な分布. 回は在来種,外来種とは分けず,一つの「タンポポ」と. 特性や 0HBXB()による外来種の発芽パターンとい. して研究を行った。欠測や準統計値は,近隣の観測地点. う研究であって,開花時期に関する気象学的な研究は少. (欠測を持つ地点と相関が高い地点)の値を用いて式(). ない。. を用いて補間した.. そこで,本研究では,気象庁により 年から . xC−μB ×σB +μB・・・() σC. 年に観測された 年間の長期間におけるタンポポの開. xB =. 花日データを使用して,タンポポの開花を支配する要因 を気象学的に調べ,タンポポの開花変動特性を明らかに することを目的とする。タンポポは野草で厳しい環境で. 9B:欠測値 9C:近隣の地点の値 σ σ :標準偏差 9 9 :平均値( 年間). 生息している植物であるため,気象条件に敏感であると. これらの補間値の合計は全データ ( 地点 ×. 考えられるが,タンポポの開花にも温度がどのぐらい関. 年間のうち 程度であるので,解析全体に与える影響. 係しているのか,また,どの時期から開花に各要因が影. は少ないとみられる。. B. C. B. C. 響し始めるのかを明らかにしていく。 ϩ 2.解析方法. ϩ㸬使用データと解析手法. タンポポの開花日時はタンポポの開花日データを,. ϩ 1.研究対象地域及び使用データ. 月 日を起点とする通日(閏年には 月 日以降には変. 解析は,日本全国の 地点の気象官署のデータを用. 換した値に+ )に変換して集計し,得られた開花通日. いた(図 )。近年における開花の影響や経年変化を探る. のピークから開花時期を明らかにした。また,各地点の. ため,解析対象期間は 年から 年までの 年間. 年間で平均した開花通日の変動から,開花推移を明. とした。使用データは気象庁の生物季節観測値の中のタ. らかにした。. ンポポの開花日データである。また,開花要因の推定に. 次に,タンポポの開花する要因を明らかにするために. は,気象庁気象官署の各地点でデータの整っている. 開花通日,ならびにこれを支配する気象要因について主. 年から年までの月平均,日照時間,日平均気温,. 成分分析を行った。主成分分析とは,実現象の変動パ. 最高・最低気温データを用いた。旬ごとに分けた気温. ターン(開花通日など)を基本的な変動パターンに分離 し,各パターンの特徴を検討するための統計手法であ る。本研究では,日本全国の開花変動パターンを明らか にするとともに月平均気温,日照時間にも主成分分析を 行いパターンの比較を通じて支配要因の関係性を明らか にした。 これらの結果をもとに,重回帰分析を行い,タンポポ の開花に関わる要因を具体的に明らかにした。重回帰分 析とは,一つの目的変数を,複数の説明変数で予測する 手法である。このような手続きをとることによって,ど の説明変数が,どの程度目的変数に影響を与えているか を知ることが出来る。本研究では,目的変数がタンポポ の開花通日の主成分スコア,説明変数が月平均気温や日 照時間などの気象要因の主成分スコアに対応する。 最後に事例解析を通じて開花に関する詳細な特性を検 討した。開花日の第一主成分の結果から得られた値から. 図 1 本研究の対象地点.. ( ). 開花の早かった年と遅かった年の数年を抽出し,全国の ─ ─.
(3) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 3᭶1᪥. 4᭶1᪥. 5᭶1᪥. 図 2 地点 年間の全データに対する日別頻度 横軸は 月 日を起点とした通日、縦軸は開花した地点数・日数の頻度.. 平均から開花が最も遅い地域と最も早い地域についてそ. Ϫ -2.開花ピークの空間的特徴. の年の開花から遡り,正負それぞれ数通りの積算気温を. 開花ピークの空間的特徴を調べるため,地点ごとに. 求めた。積算していくことで開花が早かった年,遅かっ. 年間の開花通日の平均をプロットしたものが図 であ. た年の開花までの温度の履歴を明らかにすることができ. る。図の数値は数が多い(赤色)と開花が遅く,数が少. る。. ない(青色)と開花が早いことを表している。全体的に 見てみると,南から北へ開花していく事が分かる。西郷,. Ϫ.結果および考察. 厳原などの離島では,対岸の本土の地点よりも開花が遅. Ϫ 1.開花ピーク. れる傾向にあった。このような結果は青野()のサ. 全国 地点, 年間の開花日全データを合わせた日 別頻度を図 に示す。この図は対象地域全地点の開花日. クラでも同じように見られ,この開花の遅れは海面水温 に関係しているとも言われている。. を合計することで一般にタンポポはどの時期から開花が. 次に, 年ごとに開花日を平均し,開花の推移を調べ. 始まり,どの時期に開花が集中しているのかを表してい る。開花は 月中旬から 月の終わり頃まで開花し,特 に 月上旬から 月中旬まで開花が集中していることが 分かった。今回タンポポの開花日のデータには外来種も 混合しているものの, 年中開花しているという特徴は 見られなかった。本研究では,この結果から,開花ピー クは特に開花が集中している 月上旬から 月の終わり までと考えた。 次に,図 で用いた全データを 年毎に区切り,期間 ごとの推移を図 に示す。全体として,開花が集中する 時期(開花ピーク)は 年と比べ 年の 方が早まる傾向にあることが分かった。また,開花ピー クは 年では短期間に集中しているが,最近で はピークが分散されて時期が明らかになりにくい特徴が ある。さらに 年ごとに開花傾向を見てみると,古いほ ど開花がほぼまとまっているのに対し,最近ではある期 間にまとまって開花している年もあれば,まとまらずに ばらついて咲いている年がいくつか存在していた。これ には最近の気候変動の特性が関連していることも考えら 図 3 年ごとに見た開花日頻度の推移.. れる。 ─ ─. ( ).
(4) 森田 里未・加藤 央之. た(図 ) 。代表として観測開始年 年から 年間の 平均(図 B) , 年からの 年の平均(図 C)を掲載す る。 年間の平均と比べ,古い時代ほど全体的に開花が 遅い地点が多かった。さらに日本海側の米子が近年に近 付いていくにつれ,より早く開花をする結果となった (図 C) 。また,近年は観測開始初期と比べ,北は近年 一層開花が遅れ,南は開花が早まるという南北差が大き くなった。観測開始初期と近年の開花日の変化を調べる ため,図Bと図Cの開花日を比較したものが図である。 これは図 B の各地点の開花通日から図 C の開花通日を 引き,正の値であると図 B よりも図 C では開花が早く, 負の値では遅く開花したことを示す。特に早くなったの 図 4 年間の平均開花日の分布.. (B). (C). 図 5 年平均の開花日の分布 B 年 C 年.. が長崎の 日,次に徳島で 日であった。逆に開花 が遅くなったのが 日の舞鶴で,次に 日の敦賀 が続いた。. Ϫ -3.タンポポの開花の変動パターン タンポポの開花通日に対する主成分分析結果を図 に 示す。図 B は第 主成分の因子負荷量の分布図で,全国 的に同一符号を持っていることから 年間の開花日の 平均分布と比べ全体的に遅い,または早い開花をあらわ すパターンである。因子負荷量が全体的に負であること から,開花通日の値が大きくなる(遅くなる)と卓越指 図 6 年と 年の開花日の変化.. ( ). 数(; スコア)は負となる。図 C は第 主成分の年々変 ─ ─.
(5) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 動を表している。 は 年間の平均を表し, よりも高い 値の年は平年より開花が早いのに対し, よりも低い年 は平年よりも遅い開花を表す。特に 年が最も開花 が早く, 年は開花が最も遅かった。丸岡ら() でも, 年は温暖であり,全体的にサクラの開花が早 まった現象が見られた。主成分分析でも,Ⅲ で述べ た通り開花日のデータの初期(約 年頃まで)は開花 変動は小さかったものの, 年以降から近年(∼ 年)では開花の遅速の振れ幅が初期と比べ大きいという 結果となった。トレンド(長期傾向)について見てみる と,初期はほとんど卓越指数が負だったのに対し,最近 では正の年が多く,上昇しているのがわかる。すなわち, 全国的に開花は早まっていると言える。 次に,図 Dに第 主成分の因子負荷量の分布図を示す。 因子負荷量の分布はばらついてはいるものの,おおまか 図 7 B タンポポの開花通日の第 主成分の因子負荷量分布 図(寄与率 ). C 第 主成分の卓越指数の年々変化. D 第 主成分の因子負荷量分布図(寄与率 ). E 第 主成分の卓越指数の年々変化. F 長崎と青森における地点での第 主成分正負年の開 花日比較.. に見ると南北に分かれているパターンとみることができ る。卓越指数が正の年には,因子負荷量が正(負)の地 域では,相対的に開花が平年より遅れる(早まる)こと を示す。言いかえれば,南が平年よりも開花が早く,北 は平年よりも遅くなる傾向を示す。また逆に卓越指数が 負の年には南が遅く,北が早い傾向を意味する。. ─ ─. ( ).
(6) 森田 里未・加藤 央之. 図 E は第 主成分の卓越指数の年々変動を表してい る。卓越指数が正の時には因子負荷量が負の地域(図 D. Ϫ -4.タンポポの開花の支配要因. の青の地域)で正の地域(図 D の赤の地域)より相対的. Ϫ -4-1.月平均気温. に開花が早まり,逆に卓越指数が負の時には因子負荷量. 本節ではタンポポの開花と開花前の月平均気温の関係. が正の地域(図 C の赤の地域)で負の地域(図 D の青の. について調べた。月平均気温は対象期間における 月,. 地域)より相対的に開花が早まる。すなわち, 年は. 月,月,月および開花前年の月のデータを使用した。. 九州,中国・四国で相対的に開花が早まり,中部から北. はじめに各月の気温について主成分分析を行い,それぞ. 海道地方では相対的に遅く,逆に 年には中部から. れの第 ,第 主成分の卓越指数と,開花通日の第 ,第. 北海道地方で相対的に早まり,九州,中国・四国で相対. 主成分の卓越指数との相関を計算した。この結果から,. 的に遅かったことを示す。また,近年,図 C と同様に. 開花通日の第 主成分はどの月の気温の第 主成分とも. 卓越指数が正になる傾向が見られることから,九州,中. %の危険率(約 )で有意な値であることから,これ. 国・四国では中部から北海道地方に比べて相対的に開花. らが開花に関係することは想定されるが,特に 月,. が早まる傾向にあるといえる。このことは前述の長崎や. 月の気温の第 主成分と関連が深いことがわかった。. 浜松で開花が特に早まっている傾向と一致する。この南. ,BUP()によれば過去 年以上前は北日本は 月と. 北パターンの変動を具体的に明らかにするために,温暖. 月の気温上昇が大きく,また西森ら()でも近年. な地である長崎(南)と,寒冷な地である青森(北)とで. は特に全国的に 月の気温上昇が見られているため,タ. 開花日の比較をした(図 F)。 年には青森は平年よ. ンポポの開花でも研究する必要がある。開花通日の第 . り開花が早く, 年には遅い開花であったのに対し,. 主成分と特に相関が高かった 月の月平均気温の主成分. 長崎はその逆の傾向を示した。さらに つの地点での開 花日は 年に比べて 年の方が平年との差が大き いことから,この開花日の変動についても近年は特に北. 表 1 開花通日の主成分スコアと ∼ 月各月の気温の各主 成分スコアとの相関.. は平年よりも開花が遅く,南は平年よりも開花が早まる という南北差が拡大しているという特徴が見られる。. 図 8 B 月の月平均気温の第 主成分の因子負荷量分布図(寄与率 %). C 第 主成分の因子負荷量分布図(寄与率 %). . ( ). ─ ─.
(7) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 分析結果を図 に示す。第 主成分の因子負荷量の分布. いても 月と同様なパターンである。図 B は特に相関の. (図 B)は開花通日の結果と同じく全国的に気温が上下. 高かった 月のパターンで全体に上下するパターンで. するパターンであった。一方, 月についても因子負荷. あったが,図 C は北西―南東のシーソーパターンであ. 量の分布パターンは 月のそれと同様であった。すなわ. り,開花通日の第二主成分は 月, 月, 月との相関が. ち,全国的に見た平均的な開花時期は,開花ピークより. 見られた。すなわち,全国的に見た平均的な開花時期は,. ヵ月および ヵ月前の全国的な気温の変動によって影. それより ∼ ヵ月前の日照時間の全国的な気温の変動. 響されているといえる。なお, 月の気温分布の第 主. によって影響されているといえる。一方,北西―南東の. 成分図 C については,因子負荷量分布図は北東―南西. シーソーパターンに分かれた開花時期については, カ. のシーソーパターンであるが,開花通日の第 主成分は. 月および カ月, カ月前の日照時間の変動によって影. 各月とも気温の各主成分との相関は弱かった。. 響してくることから,第 主成分については気温よりも 日照時間により南北差が生じると考えられる。. Ϫ -4-2.日照時間 本節では,日照時間についても月平均気温と同じ手法. Ϫ -4-3.2 月の上旬,中旬,下旬の平均気温. で検討を行った。期間も同じく 月, 月, 月, 月,昨. 月平均気温で最も相関の高かった 月の結果につい. 年の 月で行い,特に開花と相関の高かった 月の結果. て,さらに特に 月のどの時期の気温が開花に関係する. を示す。表 に示す通り,開花通日の第 主成分との相. のかを調べた。表 に上旬,中旬,下旬の気温の第 ,. 関は 月, 月に相関が高い結果となり,月平均気温の. 第 主成分の卓越指数と,開花通日の第 ,第 主成分. 相関結果に比べると有意なものは少なかった。 月につ. の卓越指数との相関係数を示した。上・中・下とも相関. 表 2 開花通日の主成分スコアと ∼ 月各月の日照時間の 各主成分スコアとの相関.. 表 3 開 花の主成分と 月の上旬,中旬,下旬の各主成分と の相関.. 図 9 日照時間の主成分の因子負荷量分布図.データソースは図 と同じ. B 第 主成分 寄与率 %. C 第 主成分 寄与率 %.. ─ ─. ( ).
(8) 森田 里未・加藤 央之. は高かったものの,特に上旬の気温に高い相関が見られ. が低いが目的変数と相関の高い 月の日照時間の第 主. た。 月上旬の気温の主成分分析結果は,どちらのパター. 成分スコアを組み合わせて重回帰式を作った。重回帰式. ンも図 の 月全体の結果とほぼ同じである。. は()式で示される。 Y = + X + X (). Ϫ -4-4.2 月の最低,最高気温. 重相関係数は で %の水準で統計的に有意であ. 次に, 月の最低,最高気温のどちらに開花が影響す. る。また。分散分析(F 検定)からもこの重回帰式は %. るのかを調べた。結果を表 に示す。どちらも 月の月. の水準で有意である。各偏回帰係数についてもそれぞれ. 平均気温のパターンと因子負荷量の分布はほぼ同じであ. %の水準で有意であることが確認された。. る(図は省略)。最低・最高気温どちらも相関は高かった。. さらに推定制度を高めるため,二つの要因と相関の低. 図 に示す通り,卓越指数の年々変化を比較してみる. い 月の日照時間を追加して重回帰分析を行った結果,. と, 月の最低気温も最高気温も高いとタンポポの開花. 重相関係数は から と高くなったものの, 月. は早くなり,また,逆に最低気温も最高気温も低い,す. の日照時間の偏回帰係数は t 検定では有意ではなかった。. なわち 月の気温が低いと開花は遅くなるという結果を. その他の要因とも検定してみたものの同じく相関が低. 表している。. かったため, つの要因だけを開花に最も関係する結果 とし,()式を最終結果として採用することとした。図. Ϫ -4-5.重回帰分析による開花要因の推定. に重回帰式を用いた開花日の推定値と実際の開花日. これまでの解析で,タンポポの開花は温度や日照時間 と関連があることが明らかになった。そこで,これまで 解析してきた結果を複合的に用いて,タンポポの全国的 な開花に関係する要因を定量的に示す。具体的には重回 帰分析を行い,目的変量をタンポポの開花通日の第 主. との関係を散布図(図 B)と時系列図(図 C)で示し た。. Ϫ -5.開花前の積算気温の特徴 Ϫ -5-1.積算温度の地点比較. 成分スコア,説明変量をこれまで検討してきしてきた気. これまでの結果から特に温度が開花に関係しているこ. 象要因の主成分結果から選び出すという作業を行った。. とがわかった。西川ら()によれば,開花は温度に. 説明変量同士で相関が低く,かつ目的変量と相関の高い. 強く依存しているが,温度変化に対する反応は,種や生. ものを抽出した結果,目的変数と最も相関が高かった . 息地によって異なる。そこで,タンポポの温度変化に対. 月の平均気温の第 主成分スコアに加え,これとは相関. する反応を調べるため,全国的に開花の早かった年と遅 かった年 年を開花通日の第 主成分結果に基づいて選. 表 4 開 花の主成分と 月の最低、最高気温の各主成分との 相関.. び,特徴的な地点について,その年の開花日から遡って ℃∼ ℃を基準としてそれぞれこれを超える気温の累 積(基準温度からの偏差の積算:暖かさ指数と呼ぶ), これを下回る気温の累積(基準温度からの偏差の積算: 寒さ指数と呼ぶ)し,その特性を調べた。. 図 10 最高・最低気温の第 主成分の卓越指数の年々変化.. ( ). ─ ─.
(9) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 推定値 実測値. 図 11 B 開花日に関する重回帰分析の推定値(横軸)と実測値(縦軸)の比較散布図 C 実測値(タンポポの開花日)と推定値( 月の月平均気温と 月の日照時間)の同時間推移の比較 . その中から特に ℃を基準としたものを載せる。本解 析では特に観測地点が密集している中部,関東地方にエ リアを絞り,第 主成分の因子負荷量の値から,比較的 開花の遅い地点と早い地点を抽出した。特に開花が早い 地点は伊豆大島であったが,大島は島嶼であるので次に 早い松本とした。開花の遅かった地点は高田で,その付 近に存在している地点についても検討を行った(図 ) 。 各 地 点 に つ い て 開 花 の 早 か っ た 年, 遅 か っ た 年の開花前積算温度を比較した(図 B C) 。両年と もほとんどの地点で開花の前に低温の期間が存在してい たが,その時期は地点によって異なった結果となった。 開花の遅かった寒冷年には開花 ヵ月以上前は長期間 にわたって寒冷期間が続いており,これが開花に必要な 休眠打破にあたるものとみられ,開花の早かった温暖年 とは温度の影響が異なることも考えられる。ここで,温 暖年では判然としないが,寒冷年では急激な温度上昇に ─ ─. 図 12 事例解析に用いた地点.. ( ).
(10) 森田 里未・加藤 央之. 図 13 B 地点ごとにみた 年の積算温度(暖かさ). C 地点ごとにみた 年の積算温度(寒さ).. よって地点差が小さくなっていた。この結果は,①その. 来種の交雑による種族の変化がそれである。③は約 . 温度がタンポポの有効積算温度として求められる可能性. 日前の急激な温度上昇が開花に影響を与えるものだと考. を示唆するが,一方,②気象環境が異なれば有効積算温. えるが,温度上昇が大きければ大きいほど開花が早まる. 度が異なる可能性,③開花 ヵ月以上前からの気温が有. ということではなく,Ⅲ で述べた通りどの月の気温. 効積算温度として効いているという つの可能性も残さ. とも関係があると言える。. れている。. ϫ . まとめと今後の課題. Ϫ -5-2.積算温度の年による比較. タンポポの開花に関する要因を調べた結果,タンポポ. 開花の早かった 年と遅かった 年それぞれの年につ. の開花時期は 月後半から開花を開始するが,最も開. いて,高田と松本で ℃を基準とした積算温度を調べた。. 花が集中している時期(開花ピーク)は約 月上旬から . 温暖年については,高田では開花直前 日には ℃に. 月下旬ということがわかった。 年間を 年ごとに開. な っ て い た 年 を 除 い て, そ の 他 は ∼ 日 に. 花ピークを見てみると,観測開始初期は開花ピークが集. ℃を超えるなどほぼ類似した結果が得られたが,松. 中しているが年を追う毎に開花ピークが早まり,開花時. 本では 年と 年が 日に ℃を超えたがそ. 期が集中せず広がって開花し,すなわち,開花する時期. の他は 日以降に ℃を超えるなどの違いが見られ. にばらつきが見られる傾向となってきた。. た。一方,高田の寒冷年ではどの地点も約 日までに. 開花推移は, 年間の開花日を平均すると全体的に南. 急激な温度上昇は見られるが, 日以降から急激な温. 北に開花の遅速が分かれているが,データ初期と近年の. 度上昇を示す 年を除いて,上昇度合いで 通りの結. 開花日の差を比較してみると,開花が早まっている地点. 果に分かれているように見えた。それは松本も同様で. が多く,特に九州で開花が早まっていた。逆に開花が遅. あった。. れている地点が東北地方と近畿地方に見られた。. Ⅲ で述べた①,②,③の考察を考えてみると,①. 開花要因を推定するため,開花日の通日に主成分分析. は高田の温暖年はまとまりのあるものの,寒冷年では. を行い,タンポポの開花するパターンを明らかにした。. 年と 年と約 ℃の以上の差が見られた。この. 第 主成分は開花が全体的に遅速するパターンで,第 . ことは逆ではあるが松本でも言える。 地点同士は近い. 主成分はおおまかではあるが開花が南北で異なるパター. ものの,高田は積雪が一番多く,松本は内陸盆地である. ンが見られた。近年,開花が全国的に早まり,変動の幅. ため地域性が表れたとも推測される。この結果,有効積. が大きくなっていることが明らかになり,また南北のパ. 算温度の絶対値を決定することはできないが,ある一定. ターンでも,近年開花が早まるだけでなく相対的に北で. の低温の期間と急激な温度の上昇がタンポポの開花に関. 開花が遅く,南で早い傾向が強まっている。. 係することがわかった。②に関しては温暖年と寒冷年で. タンポポの開花要因を明らかにするために,開花ピー. の差が大きいのと,タンポポは自らの開花のために異な. ク以前の月平均気温,日照時間にも主成分分析を行い,. る手段を選ぶ可能性も考えられる。例えば,外来種と在. 開花との関係を調べた結果,開花ピークから約 か月前. ( ). ─ ─.
(11) タンポポの開花に及ぼす気象要因. である 月の月平均気温と約 か月前の 月の日照時間. ンポポの開花の直接的な要因には開花前の低温の期間と. との相関が高かった。 つの要因をもとにした重回帰分. 急激な温度上昇が重要であるといえる。タンポポの開花. 析の結果,個々の要因の単回帰を用いた場合よりも推定. には他の植物と同じく気温が開花日に関して重要である. 精度が良かった。. といえるが,単に気温だけではなく,日照時間という要. タンポポの開花に温度がどの様な影響により開花して. 因もタンポポの南北での開花日差を左右する重要な要因. いるのかを調べるため, 年間の開花で開花の早かった. であることが明らかになった。今後は,より具体的なタ. 年,遅かった年 年ずつを抽出し,最も開花の遅かった. ンポポの開花までの有効積算温度を見つけ出し,開花日. 地点と早かった地点,そして付近の数地点のその年の開. を予測をすることで温暖化との関連について研究する必. 花した日から気温を遡り,温度変化を調べた。その結果,. 要がある。. 約 カ月前の気温から変化が生じているが,開花の遅い 年は早い年に比べそれ以前の気温は低い結果となった。 また,開花の直前の気温は開花の遅速と関係なく一定期 間の低温の時期とやや急激な気温の上昇との関連性が見 られた。特徴的な地点について,℃を超える気温,下 回る気温を積算し,その特性を調べた結果によれば,タ. 謝辞 本研究を進めるにあたり,日本大学非常勤講師の永野良紀 氏,ならびに日本大学研究員の田中誠二氏をはじめ多くの方 から助言を頂きました。心から感謝いたします。 本論文は,著者の一人である森田里未の平成 年度日本 大学文理学部地球システム科の卒業論文に加筆・修正を行っ たものである。. 参考文献 青野靖之 :温度変換日数法によるソメイヨシノの開花 に関する気候学的研究 大阪府立大学紀要,45 土居秀幸・高橋まゆみ :マクロスケールからみる温暖 化の植物フェノロジーへの影響気象庁・生物季節デー タセットによる解析(〈特集〉生物の空間分布・動態と生 態的特性との関係 マクロ生態学からの視点).日本生態 学会誌,60 藤沢茉莉子・小林和彦():日本におけるリンゴの発育 早期化にみられる温暖化の影響.農業気象,63 石神靖弘・清水 庸・大政謙次 :温暖化に対する日本 の自然植生のリスク評価.農業気象,61 丸岡知浩・伊藤久徳() :わが国のサクラ(ソメイヨシノ) の開花に対する地球温暖化の影響.農業気象,65 西川洋子・住田真樹子・棗 庄輔():温暖化にともな うアポイ岳ヒダカソウの開花時期の変化 保全生態学研 究,14 . 西森基貴・桑形恒男・石郷岡康史・村上雅則() :都市 化の影響を考慮した近年の日本における気温変化傾向と その地域的・季節的な特性について 農業気象, 小川 潔・本谷 勲() :南関東の年後調査から見た 在来倍体種タンポポと外来種タンポポの出現状況変化. 野生生物保護,6 清水 庸・大政謙次(): 年∼ 年のウメの開花 に関する経年変化・地域的傾向の解析.農業気象,66 ,BUP ) "4UBUJTUJDBMNFUIPEGPSTFQBSBUJOHVSEBOFGGFDU USFOETGSPNPCTFSWFEUFNQFSBUVSFEBUBBOEJUTBQQMJDBUJPO UP+BQBOFTFUFNQFSBUVSFSFDPSEJournal of Meteorological Society Japan, 74 0HBXB , 5IFHFSNJOBUJPOQBUUFSOPGBOBUJWFEBOEFMJ PO UBSBYBDVNQMBUDBSQVN BTDPNQBSFEXJUIJOUSPEVDFE EBOEFMJPOTThe Ecological Society of Japan, 28 . ─ ─. ( ).
(12)
(13)
関連したドキュメント
平成 29 年度は久しぶりに多くの理事に新しく着任してい ただきました。新しい理事体制になり、当団体も中間支援団
問 19.東電は「作業員の皆さまの賃金改善」について 2013 年(平成 25 年)12
層の積年の思いがここに表出しているようにも思われる︒日本の東アジア大国コンサート構想は︑
アドバイザーの指導により、溶剤( IPA )の使用量を前年比で 50 %削減しまし た(平成 19 年度 4.9 トン⇒平成 20 年度
「PTA聖書を学ぶ会」の通常例会の出席者数の平均は 2011 年度は 43 名だったのに対して、2012 年度は 61 名となり約 1.5
真竹は約 120 年ごとに一斉に花を咲かせ、枯れてしまう そうです。昭和 40 年代にこの開花があり、必要な量の竹
2021年5月31日
1997 年、 アメリカの NGO に所属していた中島早苗( 現代表) が FTC とクレイグの活動を知り団体の理念に賛同し日本に紹介しようと、 帰国後