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タンポポの開花に及ぼす気象要因

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Academic year: 2021

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(1)日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 /P () QQ−. タンポポの開花に及ぼす気象要因 森田 里未*・加藤 央之**. 5IF8FBUIFS'BDUPST&YFSUFEPOUIF#MPPNPGB%BOEFMJPO. 4BUPNJ.03*5" *BOE)JTBTIJ,"50 ** ("DDFQUFE/PWFNCFS ). *OUIJTTUVEZ XFJOWFTUJHBUFUIFNFUFPSPMPHJDBMGBDUPSTDPOUSPMMJOHUIFnPXFSJOHEBUFPGEBOEFMJPOVTJOH+."QIFOPM PHZEBUB()'MPXFSJOHEBUFPGUIFEBOEFMJPOJTDPODFOUSBUFEGSPNFBSMZ.BSDIUPUIFFOEPG.BZ TIJGUJOHGSPN TPVUIUPOPSUI1SJODJQBMDPNQPOFOUBOBMZTJTXBTDPOEVDUFEVTJOHUIFnPXFSJOHEBUFSFOVNCFSEGSPN+BOVBSZ5IF GJSTUQSJODJQBMDPNQPOFOUEFTDSJCFTUIFFBSMJFSPSMBUFSGMPXFSJOHEBUFBMMPWFS+BQBO5IFTFDPOEQSJODJQBMDPNQPOFOU TIPXTOPSUITPVUITFBTBXQBUUFSOPGnPXFSJOHEBUF i.e.,FBSMJFS(MBUFS)JOOPSUIFSO+BQBOXJUIMBUF(FBSMJFS) JOTPVUIFSO +BQBO'SPNUIFUSFOEPGUIFQSJODJQBMDPNQPOFOUTDPSFT SFDFOUMZ JTOPUPOMZFBSMZnPXFSJOHOBUJPOBMMZ UIFUSFOEJTTMPX MZOPSUInPXFSJOH FBSMZnPXFSJOHTPVUIUIBUCFDBNFDMFBS.FUFPSPMPHJDBMGBDUPSTUIBUNBJOMZDPOUSPMMJOHnPXFSJOHEBUF XBTUIFBWFSBHFNPOUIMZUFNQFSBUVSFJO'FCSVBSZ"NVMUJQMFSFHSFTTJPOFRVBUJPOSFQSPEVDJOHBWFSBHFnPXFSJOHEBUFPG +BQBOXBTDPOTUSVDUFECBTFEPOUXPGBDUPST i.e.,NPOUIMZNFBOUFNQFSBUVSFJO'FCSVBSZBOENPOUIMZTVOTIJOFEVSBUJPO JO+BOVBSZ  Keywords %BOEFMJPO nPXFSJOHEBUF QIFOPMPHZ QSJODJQBMDPNQPOFOUBOBMZTJT NVMUJQMFSFHSFTTJPOBOBMZTJT. Ϩ.はじめに. )。清水・大政ら()によれば,生物季節の変. 生物季節(フェノロジー)とは,気象の季節変化にと. 化は生物が示す変化のなかで最初に現れ,そして観測し. もなって動植物がほぼ一年周期に示す生態や形態の変化. やすい現象であるため,気温上昇など環境条件変化が見. のことである。こうした生物季節現象の現れる時期は年. られるなか,さまざまな地域において現れる変化および. 毎の気象条件によって変動する。特に,植物の開花や落. その地域的傾向に注視する必要がある。逆に言えば,石. 葉などの時期は,気温に密接に関係している事が知ら. 神ら()では気候条件が変化した場合に植生が大き. れ,サクラの開花などが農業,漁業,養蚕の作業時期の. く変化する危険性が高いとされ,より早くの解明と対策. 目安にもなってきた。また,生物季節観測の結果は他に,. が必要である。. 害虫駆除,農業気象災害の危険地判定,防疫,養蜂など. 生物季節で代表的に取り上げられているソメイヨシノ. に応用することもできる。このように,生物季節は我々. は,近年の気温上昇傾向を受けて,全国的に開花が早く. の生活にとってとても重要なものである。生物季節が変. なっているだけでなく,九州などの暖地では休眠期間が. 化してしまうと,例えば,植物を餌資源として利用する. 短い事で開花しない恐れのある地点が増えている(丸. 動物群集にとっては餌資源の時空間変動が起こり,結果. 岡・伊藤ら,) 。また,西川ら()によると高山. として植物と動物の生物間相互作用に変化が生じたり,. 植物のヒダカソウも開花時期の早期化が見られ,藤沢・. 新たな相互作用が駆動されることがある(土居・高橋ら,. 小林ら()でもリンゴの発芽が春の気温上昇によっ. *.  日本大学大学院総合基礎科学研究科   〒 − 東京都世田谷区桜上水 −− ** 日本大学文理学部地球システム科学科   〒 − 東京都世田谷区桜上水 −−.  *. **. ─  ─.  SBEVBUF4DIPPMPG*OUFHSBUFE#BTJD4DJFODFT /JIPO6OJWFSTJUZ −  − ( 4BLVSBKPTVJ 4FUBHBZBLV 5PLZP −+BQBO %FQBSUNFOUPG(FPTZTUFN4DJFODFT $PMMFHFPG)VNBOJUJFTBOE4DJFODFT  /JIPO6OJWFSTJUZ−−4BLVSBKPTVJ 4FUBHBZBLV 5PLZP − +BQBO. (  ).

(2) 森田 里未・加藤 央之. て早まっていることを示した。こうして様々な植物が気. データの観測開始年は,ほとんどの地点が  年であ. 温上昇などの影響を受け変化が起きている中,われわれ. るため, 年からを用いた。タンポポの開花日データ. の生活でごく身近な春季の植物の一つであるタンポポも. は在来種,外来種とあるが,在来種のみの地点は少ない。. 開花が早まっているという報告がなされているが,具体. これまでの研究では,在来種は夏季に休眠をし,外来種. 的な研究は小川・本谷ら()の在来種,外来種につ. は  年中咲いているという違いも発見されているが,今. いての生物学的な特徴と出現状況などのミクロ的な分布. 回は在来種,外来種とは分けず,一つの「タンポポ」と. 特性や 0HBXB()による外来種の発芽パターンとい. して研究を行った。欠測や準統計値は,近隣の観測地点. う研究であって,開花時期に関する気象学的な研究は少. (欠測を持つ地点と相関が高い地点)の値を用いて式(). ない。. を用いて補間した.. そこで,本研究では,気象庁により  年から . xC−μB ×σB +μB・・・() σC. 年に観測された  年間の長期間におけるタンポポの開.   xB =. 花日データを使用して,タンポポの開花を支配する要因 を気象学的に調べ,タンポポの開花変動特性を明らかに することを目的とする。タンポポは野草で厳しい環境で.  9B:欠測値 9C:近隣の地点の値 σ σ :標準偏差 9€ 9€ :平均値( 年間). 生息している植物であるため,気象条件に敏感であると. これらの補間値の合計は全データ ( 地点 ×. 考えられるが,タンポポの開花にも温度がどのぐらい関. 年間のうち  程度であるので,解析全体に与える影響. 係しているのか,また,どの時期から開花に各要因が影. は少ないとみられる。. B. C. B. C. 響し始めるのかを明らかにしていく。 ϩ 2.解析方法. ϩ㸬使用データと解析手法. タンポポの開花日時はタンポポの開花日データを,. ϩ 1.研究対象地域及び使用データ. 月  日を起点とする通日(閏年には  月  日以降には変. 解析は,日本全国の  地点の気象官署のデータを用. 換した値に+ )に変換して集計し,得られた開花通日. いた(図 )。近年における開花の影響や経年変化を探る. のピークから開花時期を明らかにした。また,各地点の. ため,解析対象期間は  年から  年までの  年間.  年間で平均した開花通日の変動から,開花推移を明. とした。使用データは気象庁の生物季節観測値の中のタ. らかにした。. ンポポの開花日データである。また,開花要因の推定に. 次に,タンポポの開花する要因を明らかにするために. は,気象庁気象官署の各地点でデータの整っている. 開花通日,ならびにこれを支配する気象要因について主. 年から年までの月平均,日照時間,日平均気温,. 成分分析を行った。主成分分析とは,実現象の変動パ. 最高・最低気温データを用いた。旬ごとに分けた気温. ターン(開花通日など)を基本的な変動パターンに分離 し,各パターンの特徴を検討するための統計手法であ る。本研究では,日本全国の開花変動パターンを明らか にするとともに月平均気温,日照時間にも主成分分析を 行いパターンの比較を通じて支配要因の関係性を明らか にした。 これらの結果をもとに,重回帰分析を行い,タンポポ の開花に関わる要因を具体的に明らかにした。重回帰分 析とは,一つの目的変数を,複数の説明変数で予測する 手法である。このような手続きをとることによって,ど の説明変数が,どの程度目的変数に影響を与えているか を知ることが出来る。本研究では,目的変数がタンポポ の開花通日の主成分スコア,説明変数が月平均気温や日 照時間などの気象要因の主成分スコアに対応する。 最後に事例解析を通じて開花に関する詳細な特性を検 討した。開花日の第一主成分の結果から得られた値から. 図 1 本研究の対象地点.. (  ). 開花の早かった年と遅かった年の数年を抽出し,全国の ─  ─.

(3) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 3᭶1᪥. 4᭶1᪥. 5᭶1᪥. 図 2  地点  年間の全データに対する日別頻度 横軸は  月  日を起点とした通日、縦軸は開花した地点数・日数の頻度.. 平均から開花が最も遅い地域と最も早い地域についてそ. Ϫ -2.開花ピークの空間的特徴. の年の開花から遡り,正負それぞれ数通りの積算気温を. 開花ピークの空間的特徴を調べるため,地点ごとに. 求めた。積算していくことで開花が早かった年,遅かっ.  年間の開花通日の平均をプロットしたものが図  であ. た年の開花までの温度の履歴を明らかにすることができ. る。図の数値は数が多い(赤色)と開花が遅く,数が少. る。. ない(青色)と開花が早いことを表している。全体的に 見てみると,南から北へ開花していく事が分かる。西郷,. Ϫ.結果および考察. 厳原などの離島では,対岸の本土の地点よりも開花が遅. Ϫ 1.開花ピーク. れる傾向にあった。このような結果は青野()のサ. 全国  地点, 年間の開花日全データを合わせた日 別頻度を図  に示す。この図は対象地域全地点の開花日. クラでも同じように見られ,この開花の遅れは海面水温 に関係しているとも言われている。. を合計することで一般にタンポポはどの時期から開花が. 次に, 年ごとに開花日を平均し,開花の推移を調べ. 始まり,どの時期に開花が集中しているのかを表してい る。開花は  月中旬から  月の終わり頃まで開花し,特 に  月上旬から  月中旬まで開花が集中していることが 分かった。今回タンポポの開花日のデータには外来種も 混合しているものの, 年中開花しているという特徴は 見られなかった。本研究では,この結果から,開花ピー クは特に開花が集中している  月上旬から  月の終わり までと考えた。 次に,図  で用いた全データを  年毎に区切り,期間 ごとの推移を図  に示す。全体として,開花が集中する 時期(開花ピーク)は  年と比べ  年の 方が早まる傾向にあることが分かった。また,開花ピー クは  年では短期間に集中しているが,最近で はピークが分散されて時期が明らかになりにくい特徴が ある。さらに  年ごとに開花傾向を見てみると,古いほ ど開花がほぼまとまっているのに対し,最近ではある期 間にまとまって開花している年もあれば,まとまらずに ばらついて咲いている年がいくつか存在していた。これ には最近の気候変動の特性が関連していることも考えら 図 3  年ごとに見た開花日頻度の推移.. れる。 ─  ─. (  ).

(4) 森田 里未・加藤 央之. た(図 ) 。代表として観測開始年  年から  年間の 平均(図 B) , 年からの  年の平均(図 C)を掲載す る。 年間の平均と比べ,古い時代ほど全体的に開花が 遅い地点が多かった。さらに日本海側の米子が近年に近 付いていくにつれ,より早く開花をする結果となった (図 C) 。また,近年は観測開始初期と比べ,北は近年 一層開花が遅れ,南は開花が早まるという南北差が大き くなった。観測開始初期と近年の開花日の変化を調べる ため,図Bと図Cの開花日を比較したものが図である。 これは図 B の各地点の開花通日から図 C の開花通日を 引き,正の値であると図 B よりも図 C では開花が早く, 負の値では遅く開花したことを示す。特に早くなったの 図 4  年間の平均開花日の分布.. (B). (C). 図 5  年平均の開花日の分布  B  年  C  年.. が長崎の  日,次に徳島で  日であった。逆に開花 が遅くなったのが  日の舞鶴で,次に  日の敦賀 が続いた。. Ϫ -3.タンポポの開花の変動パターン タンポポの開花通日に対する主成分分析結果を図  に 示す。図 B は第  主成分の因子負荷量の分布図で,全国 的に同一符号を持っていることから  年間の開花日の 平均分布と比べ全体的に遅い,または早い開花をあらわ すパターンである。因子負荷量が全体的に負であること から,開花通日の値が大きくなる(遅くなる)と卓越指 図 6  年と  年の開花日の変化.. (  ). 数(; スコア)は負となる。図 C は第  主成分の年々変 ─  ─.

(5) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 動を表している。 は  年間の平均を表し, よりも高い 値の年は平年より開花が早いのに対し, よりも低い年 は平年よりも遅い開花を表す。特に  年が最も開花 が早く, 年は開花が最も遅かった。丸岡ら() でも, 年は温暖であり,全体的にサクラの開花が早 まった現象が見られた。主成分分析でも,Ⅲ  で述べ た通り開花日のデータの初期(約  年頃まで)は開花 変動は小さかったものの, 年以降から近年(∼  年)では開花の遅速の振れ幅が初期と比べ大きいという 結果となった。トレンド(長期傾向)について見てみる と,初期はほとんど卓越指数が負だったのに対し,最近 では正の年が多く,上昇しているのがわかる。すなわち, 全国的に開花は早まっていると言える。 次に,図 Dに第  主成分の因子負荷量の分布図を示す。 因子負荷量の分布はばらついてはいるものの,おおまか 図 7  B タンポポの開花通日の第  主成分の因子負荷量分布 図(寄与率 ).     C 第  主成分の卓越指数の年々変化.     D 第  主成分の因子負荷量分布図(寄与率 ).     E 第  主成分の卓越指数の年々変化.     F 長崎と青森における地点での第  主成分正負年の開 花日比較.. に見ると南北に分かれているパターンとみることができ る。卓越指数が正の年には,因子負荷量が正(負)の地 域では,相対的に開花が平年より遅れる(早まる)こと を示す。言いかえれば,南が平年よりも開花が早く,北 は平年よりも遅くなる傾向を示す。また逆に卓越指数が 負の年には南が遅く,北が早い傾向を意味する。. ─  ─. (  ).

(6) 森田 里未・加藤 央之. 図 E は第  主成分の卓越指数の年々変動を表してい る。卓越指数が正の時には因子負荷量が負の地域(図 D. Ϫ -4.タンポポの開花の支配要因. の青の地域)で正の地域(図 D の赤の地域)より相対的. Ϫ -4-1.月平均気温. に開花が早まり,逆に卓越指数が負の時には因子負荷量. 本節ではタンポポの開花と開花前の月平均気温の関係. が正の地域(図 C の赤の地域)で負の地域(図 D の青の. について調べた。月平均気温は対象期間における  月,. 地域)より相対的に開花が早まる。すなわち, 年は. 月,月,月および開花前年の月のデータを使用した。. 九州,中国・四国で相対的に開花が早まり,中部から北. はじめに各月の気温について主成分分析を行い,それぞ. 海道地方では相対的に遅く,逆に  年には中部から. れの第 ,第  主成分の卓越指数と,開花通日の第 ,第. 北海道地方で相対的に早まり,九州,中国・四国で相対.  主成分の卓越指数との相関を計算した。この結果から,. 的に遅かったことを示す。また,近年,図 C と同様に. 開花通日の第  主成分はどの月の気温の第  主成分とも. 卓越指数が正になる傾向が見られることから,九州,中. %の危険率(約 )で有意な値であることから,これ. 国・四国では中部から北海道地方に比べて相対的に開花. らが開花に関係することは想定されるが,特に  月,. が早まる傾向にあるといえる。このことは前述の長崎や. 月の気温の第  主成分と関連が深いことがわかった。. 浜松で開花が特に早まっている傾向と一致する。この南. ,BUP()によれば過去  年以上前は北日本は  月と. 北パターンの変動を具体的に明らかにするために,温暖.  月の気温上昇が大きく,また西森ら()でも近年. な地である長崎(南)と,寒冷な地である青森(北)とで. は特に全国的に  月の気温上昇が見られているため,タ. 開花日の比較をした(図 F)。 年には青森は平年よ. ンポポの開花でも研究する必要がある。開花通日の第 . り開花が早く, 年には遅い開花であったのに対し,. 主成分と特に相関が高かった  月の月平均気温の主成分. 長崎はその逆の傾向を示した。さらに  つの地点での開 花日は  年に比べて  年の方が平年との差が大き いことから,この開花日の変動についても近年は特に北. 表 1 開花通日の主成分スコアと  ∼  月各月の気温の各主 成分スコアとの相関.. は平年よりも開花が遅く,南は平年よりも開花が早まる という南北差が拡大しているという特徴が見られる。. 図 8  B  月の月平均気温の第  主成分の因子負荷量分布図(寄与率 %). C 第  主成分の因子負荷量分布図(寄与率 %).   . (  ). ─  ─.

(7) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 分析結果を図  に示す。第  主成分の因子負荷量の分布. いても  月と同様なパターンである。図 B は特に相関の. (図 B)は開花通日の結果と同じく全国的に気温が上下. 高かった  月のパターンで全体に上下するパターンで. するパターンであった。一方, 月についても因子負荷. あったが,図 C は北西―南東のシーソーパターンであ. 量の分布パターンは  月のそれと同様であった。すなわ. り,開花通日の第二主成分は  月, 月, 月との相関が. ち,全国的に見た平均的な開花時期は,開花ピークより. 見られた。すなわち,全国的に見た平均的な開花時期は,.  ヵ月および  ヵ月前の全国的な気温の変動によって影. それより  ∼  ヵ月前の日照時間の全国的な気温の変動. 響されているといえる。なお, 月の気温分布の第  主. によって影響されているといえる。一方,北西―南東の. 成分図 C については,因子負荷量分布図は北東―南西. シーソーパターンに分かれた開花時期については, カ. のシーソーパターンであるが,開花通日の第  主成分は. 月および  カ月, カ月前の日照時間の変動によって影. 各月とも気温の各主成分との相関は弱かった。. 響してくることから,第  主成分については気温よりも 日照時間により南北差が生じると考えられる。. Ϫ -4-2.日照時間 本節では,日照時間についても月平均気温と同じ手法. Ϫ -4-3.2 月の上旬,中旬,下旬の平均気温. で検討を行った。期間も同じく  月, 月, 月, 月,昨. 月平均気温で最も相関の高かった  月の結果につい. 年の  月で行い,特に開花と相関の高かった  月の結果. て,さらに特に  月のどの時期の気温が開花に関係する. を示す。表  に示す通り,開花通日の第  主成分との相. のかを調べた。表  に上旬,中旬,下旬の気温の第 ,. 関は  月, 月に相関が高い結果となり,月平均気温の. 第  主成分の卓越指数と,開花通日の第 ,第  主成分. 相関結果に比べると有意なものは少なかった。 月につ. の卓越指数との相関係数を示した。上・中・下とも相関. 表 2 開花通日の主成分スコアと  ∼  月各月の日照時間の 各主成分スコアとの相関.. 表 3 開 花の主成分と  月の上旬,中旬,下旬の各主成分と の相関.. 図 9 日照時間の主成分の因子負荷量分布図.データソースは図  と同じ. B 第  主成分 寄与率 %. C 第  主成分 寄与率 %.. ─  ─. (  ).

(8) 森田 里未・加藤 央之. は高かったものの,特に上旬の気温に高い相関が見られ. が低いが目的変数と相関の高い  月の日照時間の第  主. た。 月上旬の気温の主成分分析結果は,どちらのパター. 成分スコアを組み合わせて重回帰式を作った。重回帰式. ンも図  の  月全体の結果とほぼ同じである。. は()式で示される。 Y =  + X + X  (). Ϫ -4-4.2 月の最低,最高気温. 重相関係数は  で %の水準で統計的に有意であ. 次に, 月の最低,最高気温のどちらに開花が影響す. る。また。分散分析(F 検定)からもこの重回帰式は %. るのかを調べた。結果を表  に示す。どちらも  月の月. の水準で有意である。各偏回帰係数についてもそれぞれ. 平均気温のパターンと因子負荷量の分布はほぼ同じであ. %の水準で有意であることが確認された。. る(図は省略)。最低・最高気温どちらも相関は高かった。. さらに推定制度を高めるため,二つの要因と相関の低. 図  に示す通り,卓越指数の年々変化を比較してみる. い  月の日照時間を追加して重回帰分析を行った結果,. と, 月の最低気温も最高気温も高いとタンポポの開花. 重相関係数は  から  と高くなったものの, 月. は早くなり,また,逆に最低気温も最高気温も低い,す. の日照時間の偏回帰係数は t 検定では有意ではなかった。. なわち  月の気温が低いと開花は遅くなるという結果を. その他の要因とも検定してみたものの同じく相関が低. 表している。. かったため, つの要因だけを開花に最も関係する結果 とし,()式を最終結果として採用することとした。図. Ϫ -4-5.重回帰分析による開花要因の推定.  に重回帰式を用いた開花日の推定値と実際の開花日. これまでの解析で,タンポポの開花は温度や日照時間 と関連があることが明らかになった。そこで,これまで 解析してきた結果を複合的に用いて,タンポポの全国的 な開花に関係する要因を定量的に示す。具体的には重回 帰分析を行い,目的変量をタンポポの開花通日の第  主. との関係を散布図(図 B)と時系列図(図 C)で示し た。. Ϫ -5.開花前の積算気温の特徴 Ϫ -5-1.積算温度の地点比較. 成分スコア,説明変量をこれまで検討してきしてきた気. これまでの結果から特に温度が開花に関係しているこ. 象要因の主成分結果から選び出すという作業を行った。. とがわかった。西川ら()によれば,開花は温度に. 説明変量同士で相関が低く,かつ目的変量と相関の高い. 強く依存しているが,温度変化に対する反応は,種や生. ものを抽出した結果,目的変数と最も相関が高かった . 息地によって異なる。そこで,タンポポの温度変化に対. 月の平均気温の第  主成分スコアに加え,これとは相関. する反応を調べるため,全国的に開花の早かった年と遅 かった年  年を開花通日の第  主成分結果に基づいて選. 表 4 開 花の主成分と  月の最低、最高気温の各主成分との 相関.. び,特徴的な地点について,その年の開花日から遡って ℃∼ ℃を基準としてそれぞれこれを超える気温の累 積(基準温度からの偏差の積算:暖かさ指数と呼ぶ), これを下回る気温の累積(基準温度からの偏差の積算: 寒さ指数と呼ぶ)し,その特性を調べた。. 図 10 最高・最低気温の第  主成分の卓越指数の年々変化.. (  ). ─  ─.

(9) タンポポの開花に及ぼす気象要因. 推定値 実測値.       図 11  B 開花日に関する重回帰分析の推定値(横軸)と実測値(縦軸)の比較散布図       C 実測値(タンポポの開花日)と推定値( 月の月平均気温と  月の日照時間)の同時間推移の比較 . その中から特に ℃を基準としたものを載せる。本解 析では特に観測地点が密集している中部,関東地方にエ リアを絞り,第  主成分の因子負荷量の値から,比較的 開花の遅い地点と早い地点を抽出した。特に開花が早い 地点は伊豆大島であったが,大島は島嶼であるので次に 早い松本とした。開花の遅かった地点は高田で,その付 近に存在している地点についても検討を行った(図 ) 。 各 地 点 に つ い て 開 花 の 早 か っ た  年, 遅 か っ た  年の開花前積算温度を比較した(図 B C) 。両年と もほとんどの地点で開花の前に低温の期間が存在してい たが,その時期は地点によって異なった結果となった。 開花の遅かった寒冷年には開花  ヵ月以上前は長期間 にわたって寒冷期間が続いており,これが開花に必要な 休眠打破にあたるものとみられ,開花の早かった温暖年 とは温度の影響が異なることも考えられる。ここで,温 暖年では判然としないが,寒冷年では急激な温度上昇に ─  ─. 図 12 事例解析に用いた地点.. (  ).

(10) 森田 里未・加藤 央之. 図 13  B 地点ごとにみた  年の積算温度(暖かさ).   C 地点ごとにみた  年の積算温度(寒さ).. よって地点差が小さくなっていた。この結果は,①その. 来種の交雑による種族の変化がそれである。③は約 . 温度がタンポポの有効積算温度として求められる可能性. 日前の急激な温度上昇が開花に影響を与えるものだと考. を示唆するが,一方,②気象環境が異なれば有効積算温. えるが,温度上昇が大きければ大きいほど開花が早まる. 度が異なる可能性,③開花  ヵ月以上前からの気温が有. ということではなく,Ⅲ  で述べた通りどの月の気温. 効積算温度として効いているという  つの可能性も残さ. とも関係があると言える。. れている。. ϫ . まとめと今後の課題. Ϫ -5-2.積算温度の年による比較. タンポポの開花に関する要因を調べた結果,タンポポ. 開花の早かった  年と遅かった  年それぞれの年につ. の開花時期は  月後半から開花を開始するが,最も開. いて,高田と松本で ℃を基準とした積算温度を調べた。. 花が集中している時期(開花ピーク)は約  月上旬から . 温暖年については,高田では開花直前  日には ℃に. 月下旬ということがわかった。 年間を  年ごとに開. な っ て い た  年 を 除 い て, そ の 他 は  ∼  日 に. 花ピークを見てみると,観測開始初期は開花ピークが集. ℃を超えるなどほぼ類似した結果が得られたが,松. 中しているが年を追う毎に開花ピークが早まり,開花時. 本では  年と  年が   日に ℃を超えたがそ. 期が集中せず広がって開花し,すなわち,開花する時期. の他は  日以降に ℃を超えるなどの違いが見られ. にばらつきが見られる傾向となってきた。. た。一方,高田の寒冷年ではどの地点も約  日までに. 開花推移は, 年間の開花日を平均すると全体的に南. 急激な温度上昇は見られるが, 日以降から急激な温. 北に開花の遅速が分かれているが,データ初期と近年の. 度上昇を示す  年を除いて,上昇度合いで  通りの結. 開花日の差を比較してみると,開花が早まっている地点. 果に分かれているように見えた。それは松本も同様で. が多く,特に九州で開花が早まっていた。逆に開花が遅. あった。. れている地点が東北地方と近畿地方に見られた。. Ⅲ  で述べた①,②,③の考察を考えてみると,①. 開花要因を推定するため,開花日の通日に主成分分析. は高田の温暖年はまとまりのあるものの,寒冷年では. を行い,タンポポの開花するパターンを明らかにした。.  年と  年と約 ℃の以上の差が見られた。この. 第  主成分は開花が全体的に遅速するパターンで,第 . ことは逆ではあるが松本でも言える。 地点同士は近い. 主成分はおおまかではあるが開花が南北で異なるパター. ものの,高田は積雪が一番多く,松本は内陸盆地である. ンが見られた。近年,開花が全国的に早まり,変動の幅. ため地域性が表れたとも推測される。この結果,有効積. が大きくなっていることが明らかになり,また南北のパ. 算温度の絶対値を決定することはできないが,ある一定. ターンでも,近年開花が早まるだけでなく相対的に北で. の低温の期間と急激な温度の上昇がタンポポの開花に関. 開花が遅く,南で早い傾向が強まっている。. 係することがわかった。②に関しては温暖年と寒冷年で. タンポポの開花要因を明らかにするために,開花ピー. の差が大きいのと,タンポポは自らの開花のために異な. ク以前の月平均気温,日照時間にも主成分分析を行い,. る手段を選ぶ可能性も考えられる。例えば,外来種と在. 開花との関係を調べた結果,開花ピークから約  か月前. (  ). ─  ─.

(11) タンポポの開花に及ぼす気象要因. である  月の月平均気温と約  か月前の  月の日照時間. ンポポの開花の直接的な要因には開花前の低温の期間と. との相関が高かった。 つの要因をもとにした重回帰分. 急激な温度上昇が重要であるといえる。タンポポの開花. 析の結果,個々の要因の単回帰を用いた場合よりも推定. には他の植物と同じく気温が開花日に関して重要である. 精度が良かった。. といえるが,単に気温だけではなく,日照時間という要. タンポポの開花に温度がどの様な影響により開花して. 因もタンポポの南北での開花日差を左右する重要な要因. いるのかを調べるため, 年間の開花で開花の早かった. であることが明らかになった。今後は,より具体的なタ. 年,遅かった年 年ずつを抽出し,最も開花の遅かった. ンポポの開花までの有効積算温度を見つけ出し,開花日. 地点と早かった地点,そして付近の数地点のその年の開. を予測をすることで温暖化との関連について研究する必. 花した日から気温を遡り,温度変化を調べた。その結果,. 要がある。. 約  カ月前の気温から変化が生じているが,開花の遅い 年は早い年に比べそれ以前の気温は低い結果となった。 また,開花の直前の気温は開花の遅速と関係なく一定期 間の低温の時期とやや急激な気温の上昇との関連性が見 られた。特徴的な地点について,℃を超える気温,下 回る気温を積算し,その特性を調べた結果によれば,タ. 謝辞 本研究を進めるにあたり,日本大学非常勤講師の永野良紀 氏,ならびに日本大学研究員の田中誠二氏をはじめ多くの方 から助言を頂きました。心から感謝いたします。 本論文は,著者の一人である森田里未の平成  年度日本 大学文理学部地球システム科の卒業論文に加筆・修正を行っ たものである。. 参考文献 青野靖之  :温度変換日数法によるソメイヨシノの開花 に関する気候学的研究  大阪府立大学紀要,45  土居秀幸・高橋まゆみ  :マクロスケールからみる温暖 化の植物フェノロジーへの影響気象庁・生物季節デー タセットによる解析(〈特集〉生物の空間分布・動態と生 態的特性との関係  マクロ生態学からの視点).日本生態 学会誌,60  藤沢茉莉子・小林和彦():日本におけるリンゴの発育 早期化にみられる温暖化の影響.農業気象,63  石神靖弘・清水 庸・大政謙次  :温暖化に対する日本 の自然植生のリスク評価.農業気象,61  丸岡知浩・伊藤久徳() :わが国のサクラ(ソメイヨシノ) の開花に対する地球温暖化の影響.農業気象,65   西川洋子・住田真樹子・棗 庄輔():温暖化にともな うアポイ岳ヒダカソウの開花時期の変化  保全生態学研 究,14 . 西森基貴・桑形恒男・石郷岡康史・村上雅則() :都市 化の影響を考慮した近年の日本における気温変化傾向と その地域的・季節的な特性について  農業気象,   小川 潔・本谷 勲() :南関東の年後調査から見た 在来倍体種タンポポと外来種タンポポの出現状況変化. 野生生物保護,6  清水 庸・大政謙次(): 年∼  年のウメの開花 に関する経年変化・地域的傾向の解析.農業気象,66   ,BUP )  "4UBUJTUJDBMNFUIPEGPSTFQBSBUJOHVSEBOFGGFDU USFOETGSPNPCTFSWFEUFNQFSBUVSFEBUBBOEJUTBQQMJDBUJPO UP+BQBOFTFUFNQFSBUVSFSFDPSEJournal of Meteorological Society Japan, 74  0HBXB ,  5IFHFSNJOBUJPOQBUUFSOPGBOBUJWFEBOEFMJ PO UBSBYBDVNQMBUDBSQVN BTDPNQBSFEXJUIJOUSPEVDFE EBOEFMJPOTThe Ecological Society of Japan, 28 . ─  ─. (  ).

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参照

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