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「地域の人口変動に着目した効率的な都市整備のあり方に関する基礎的研究 -川崎市をケースステディとして-」

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地域の人口変動に着目した

効率的な都市整備のあり方

に関する基礎的研究

―川崎市をケースステディとして―

〈要 旨〉 本研究は,地方自治体が地方公共財の適切な投資配分を判断するための基礎研究であり, 便益を発生させる公共投資需要の高い人口が更新される地域に着目し,その要因を明らか にするものである.少子化・高齢化,人口減少に伴い今後厳しくなる財政状況の中,限られた 財源の中で最大限の便益を生み出す公共投資配分を行うことが求められている.本研究に おいては,便益を最大化させるという観点から今後,公共投資を行うことが望ましい地域 として人口が更新され続ける地域を取り上げこの地域要件を明らかにするものである.こ れにより便益を最大化させる公共投資配分を実現する指標を示すことを目的としている. 将来,人口減少が見込まれる一方で,現在の人口が増加に伴い公共投資需要が高い地域 である神奈川県川崎市を対象として居住地選択について分析を行った.その結果,居住地 選択における選好が年代,世代,時代によって異なることを明らかにし,このことが,人口が 更新される地域と人口が更新されない地域を発生させている一因であることを指摘した. 一連の分析から得られた知見に基づき,便益を最大化するという観点からは人口が更新 される地域において重点的に公共投資配分を行うことが望ましく,公共投資を判断する際 に行う費用便益分析において,本研究で示した人口更新の確率が考慮されるべきであるこ とを提言している. 2012 年(平成24年)2月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU11020 塙 綾子

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2

目次

1. はじめに ... 3 1.1. 研究の概要 ... 3 1.2. 前提条件 ... 3 1.3. 論文構成 ... 5 2. 理論分析 ... 5 2.1. 本研究における人口が更新される地域の定義 ... 5 2.2. 人口動向が異なる地域への公共財供給における便益の比較 ... 5 3. 対象地域の選定理由 ... 7 3.1. 川崎市の概要 ... 7 3.2. 川崎市の人口動向 ... 8 3.3. 川崎市を対象とする理由 ... 8 4. 地域ごとの人口及び年齢構造の傾向 ... 8 4.1. 人口総数と高齢化率の変化 ... 9 4.2. 地域ごとの年齢別人口増減数の比較 ... 10 5. 実証分析 ... 12 5.1. 検証したい仮説について ... 12 5.2. 分析方法 ... 12 5.3. 推計モデル ... 14 5.4. 推計結果と考察 ... 16 6. まとめと今後の課題 ... 24 6.1. 本研究において得られた結論 ... 24 6.2. 政策提言 ... 24 6.3. 今後の課題 ... 24 謝辞 ... 25 参考文献 ... 26

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3

1.

はじめに

まず,本研究の概要,前提条件,論文構成について示すこととする. 1.1. 研究の概要 わが国においては,少子化・高齢化の進展に加え,人口も減少局面に突入している.それに 伴い今後さらなる社会保障費の増大が見込まれ,投資的経費の縮小が余儀なくされている. 日本全体では人口は減少傾向にある一方で,首都圏においては現在も人口が増加傾向にあ り,それに伴うインフラ整備需要が存在する.さらに,高度経済成長期に整備した既存スト ックの老朽化に伴う更新需要も高まっているなど,依然として公共投資に対する需要は高 い状況となっている. このように,今後厳しくなる財政状況の中,全ての公共投資需要に対応していくことは 困難であることが予見される.限られた財源の中で最大限の便益を生み出す公共投資配分 を行う必要性がある.公共投資はそのスパンが長いことから現代世代だけでなく将来世代 についても考慮して,判断されるべきである.特に現在人口増加が続いている首都圏にお いても,将来は人口が減少することが既に予測されていることから,そのことを十分に踏 まえた上で公共投資を判断することが必要である. 半澤(2009)はインフラ維持・更新費用に着目し,基本的には人口密度が高い地区を優先 して維持・更新すべきであると整理する一方,郊外部であっても人口・インフラが集積す る地域ならば地価が高く維持されることを示し,負担と便益を一致させるという観点から 郊外部を市街地として維持・再生することは非効率でないことを示している.ただし,半澤 (2009)の研究結果からは具体的にどのような地域において人口が集積するかといったと ころまでは示されていない.藤井(2008)は世代間バランス係数を提案し,これを用いて市街 地特性と世代間バランスとの関係を分析している. 本研究においては,便益を最大化するという観点から人口が更新される地域において重 点的に公共投資配分を行うことが望ましいと考え,その地域要件を明らかにしている.藤 井(2008)が世代間バランスを用いたのに対し,本研究では人口が更新されるか否かは,年代 間,世代間の選好の違いにあると考え,神奈川県川崎市を対象として年代,世代別に居住地 選択における選好について分析を行った.その結果,居住地選択における選好が年代,世代, 時代によって異なることを明らかにし,このことが,人口が更新される地域と人口が更新 されない地域を発生させている一因であることを指摘している. 1.2. 前提条件 本研究では費用便益分析に基づいて公共投資判断をすることを前提とする.現実の政策 ではほとんどの公共投資の前提として費用便益分析が求められており,本研究でもそれ を踏襲する.公共財は一般的に非競合性や非排除性といった性質を備えており,市場に委 ねれば効率的な供給が達成できないことから,政府などの公共部門による供給が必要と

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4 されている.しかし,資源配分において非常に優れた機能を果たすとされている市場を介 さずに政府が行う公共投資配分は果たして適切に行われてきたのかということも指摘さ れている.山崎,浅田ら(2008)は戦後から近年にかけての公共投資配分に対して人口と投資 配分が見合っていないことから適切な公共投資配分がなされていないのではないかと指 摘している.一方,奥野(1999)は戦後から近年にかけての公共投資配分はそれぞれの時代に 掲げられた政策課題を踏まえてなされたものであり,国民所得を最大化し地域格差を最小 にするという目標に対して最適に近いものであったと評価できるとしている.こうした評 価は前者が公共投資の効率性に重点を置いたもの,後者は再分配的な側面にも配慮したも のと位置付けられる.しかし,わが国において 1990 年代以降は公共投資の再分配の度合 いが大きく,非効率的な配分がなされているという批判が拡大し,公共投資の実施にあた っては費用便益分析による事前評価が求められるようになった. 費用便益分析には様々な限界があり,必ずしも公共投資の最適供給条件を保証するもの ではない.しかし,事前評価として効率性基準を採用することは,少なくともそれがない時 に比べて非効率的な投資を減少させることができる.また,投資に関する一定の基準を示 すことによって相対的な比較が可能になり,投資配分の透明性に寄与しているということ もできる.そこで本研究においては,費用便益分析による事前評価を前提に将来の需要も 勘案できる手法を,川崎市の事例をとりあげて検討することとする. 公共投資において供給される施設等は一度整備されるとその後の維持・管理費用が発 生する上,解体にも費用を要する.このことから将来を見据えた上で投資を判断する必要 があると考えられる.そこで,本研究においては便益を発生させる需要を示す指標として 人口動向を用いることを前提とし,特にその年齢構造に着目する. 人口更新が行われない地域において,将来を見据えず投資時点の人口が多いという理由 から公共投資を行うことは,将来その地域における公共財の供給が過大となり,長い目で 考えると非常に非効率な投資となってしまうことが懸念される.自然増減,社会増減によ り将来にわたり地域内の年齢構造の変化が小さい人口が更新され続ける地域において,便 益を発生させる需要が高いと考えられることから,本研究においては,この人口が更新さ れる地域に着目することとする. 資本化仮説の「地方政府の活動がもたらす,全てのメリット,デメリットは地代,地価に反 映され,土地所有者に帰着することとなる.」(中川,2008,p187)という考えを踏まえると,便 益を図る指標としては地価を用いた方が妥当ではないかとも考えたが,公共投資はそのス パンが長いことに重点をおき,本研究においては,将来の需要をより直接的に反映するも のとして人口動向を採用している. 本研究においては人口更新されない地域は,居住地としての需要が低く地域の地価が低 いものであると仮定し,人口動向が間接的に地価動向を示しているものであると考えるこ ととする.

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5 1.3. 論文構成 なお,本研究の構成は次のとおりである. 第 2章において,なぜ人口が更新される地域において重点的に公共投資を行うことが望 ましいかについて理論分析を行う. 第3章において,今回分析対象とした川崎市の概要と選定した理由について整理する. 第4章においては,人口の総数だけではなく,年齢構造を踏まえた投資判断をする必要性 について,地域ごとの傾向を踏まえて整理する.また,人口が更新される地域の年齢構造に ついても併せて整理する. 第 5章においては人口が更新され続ける地域要件を各年代,世代別の居住地選択行動の 実証分析を通して示している. 最後に第6章において,本研究における分析結果を踏まえた政策提言を述べるとともに 今後の課題を整理している.

2.

理論分析

本章では,なぜ人口が更新される地域において重点的に公共投資を行うことが望ましい かについて整理する. 2.1. 本研究における人口が更新される地域の定義 分析の前にまず,人口が更新される地域について具体的に定義することとする.本研究 においては人口が更新される地域とは時を経ても出生による自然増や転入に伴う社会増 により,時間の経過に伴う地域住民の加齢による影響が少なく,地域内の年齢構造の変化 が小さい地域であると定義する.年齢構造の変化が小さいという指標として,地域内の高 齢 化率を 用いる.時を経 ても 高齢化 が進行し ていない ことを 年齢構造 が小さい と定義 す る. 2.2. 人口動向が異なる地域への公共財供給における便益の比較 人口動向が異なる地域Aと地域Bに公共財を供給する場合を考える.公共財は地域Aか 地域Bどちらかにしか供給できないものとする. 地域Aの現在の利用者数がXA_present地域Bの現在の利用者数がXB_presentであり, XA_present>XB_presentであるとする.

現時点の便益は△BOXA_present>△BO XB_presentとなり,地域Aに公共財を供給した方がより 大きな便益が得られる.

しかし,将来,地域Aの利用者数が減少するのに対し,地域Bの利用者数が変わらないと したら

△BOXA_present+△BO XA_future1+△BOXA_future2<△BO XB_present+△BO XB_future1+△BOXB_future2 となり,地域Bに公共財を供給した方がより大きな便益が得られる.

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6 図 2-1 人口動向が異なる地域への公共財供給における便益の比較 以上のことから,将来の人口動向を考慮するか否かで,地域間の便益の大小が異なると いうことが示された. この傾向はさらに以下の2つのケースにおいて顕著となる. 2.2.1. 一定の年齢の人を対象とした公共財の投資の場合 人は時間の経過とともに加齢することから,ある地域において,将来,出生や転入による 人口更新が見込まれない場合,その地域の人はそのまま歳をとり,高齢化が進行すること となる. 保育所,学校などある一定の年齢の人を対象とした施設を前述の地域Aのような人口が 更新されない地域において整備した場合,その施設が使用される期間は短期となる上,施 設整備によって得られる総便益は小さいものとなることが懸念される.また,将来,施設の 供給が過大となってしまうこととなる.一方,前述の地域 B のような人口が更新される地 域においては,その施設は長い期間使用されることとなり,人口が更新されない地域より も投資によって得られる総便益が大きくなる可能性が高い. 得られる便益が費用を上回るのであれば,人口が更新されない地域において整備をして その後,解体すればいいではないかという考えもある.確かにその通りではあるが,実際に 整備する際にはその解体までを見込んだ投資判断をされていないと考えられる. また,便益を最大化するという観点からは,人口が更新される地域において投資がなさ れることが望ましい. 2.2.2. 耐久期間が長い公共財の投資の場合 前述の地域Aのような人口が更新されない地域において,徐々に地域人口が減少するの に対し,地域Bのような人口が更新される地域は将来にわたり何世代も続いていくことと なるため,長い期間において公共財の利用者数が大きくなることから,より大きな便益を 発生させると考えられる. このことから全ての年代が使用する公共投資においても,人口が更新される地域におい XA_present

XA_future2 XA_future1 XB_present =XB_future1=XB_future2

便益 便益

利用者数 利用者数

O O

DA_future2 DA_future1 DA_present

DB

B B

S S

(7)

7 て投資を行う方が便益を最大化する観点から望ましいと考えられる. だからといって,人口が更新されない地域に不便を強いることとは果たしてよいのかと いう指摘も考えられる.このあたりは公平性の観点からも慎重に判断しなくてはいけない 点ではあるが,本研究においては人口更新されない地域は,居住地としての需要が低く地 域の地価が低いものと仮定していることから,負担している費用が少ないものと考える. 負担している費用が少ない分,公共投資配分も少なくなるということは受益と負担の観点 から妥当であると考えられる.

3.

対象地域の選定理由

本章では,今回分析対象とする川崎市の概要と選定理由を整理する. 3.1. 川崎市の概要 川崎市は神奈川県の北東部に位置し,北は多摩川を挟んで東京都に,南は横浜市にそれ ぞれ隣接している.1972(昭和42)年に政令指定都市に指定されており,人口約142 万6千 人1,面積約144㎢を有する.川崎区,幸区,中原区,高津区,多摩区,宮前区,麻生区の7つの区で 構成されている.市域は多摩川の上流に向かって次々に拡大されたため,南東から北西へ 延長約33kmにわたる細長い地形となっている.自然的,地理的条件あるいは市域を分断す る形で通過している鉄道,道路網と相まって南東部(臨海部)の工業地域と,北西部(内陸部, 丘陵部)の住宅地域という性格の異なった地域の結合により都市が形成されている. 川崎市は,主要都市に挟まれ,2010(平成22)年10月に再拡張・国際化がなされた羽田空 港に近接するなど首都圏の中でも交通の利便性や潜在的な集客力を含む優位な立地条件 を有している. 産業面においては,戦前・戦後を通じて,京浜工業地帯の一翼を担い日本を代表する工業 地帯として発展してきた.その産業構造はバブル経済崩壊後大きく変貌しており,全国的 な傾向と同様第2次産業から第3次産業へ大きくシフトしてきている2.ただし,第2次産 業の割合が低下している中,素材型産業や加工業などのものづくり産業が依然として活発 であることや,研究開発型企業の集積が産業面における特徴となっている. 財政面においては,市税収入が人口は増加傾向にあるにもかかわらず,ここ数年におけ る日本の景気の低迷を受け,大幅な増加が見込めない状況にある.一方で,歳出においては 高齢化の進展や社会経済状況の影響,そして待機児童対策等により増加の一途を辿ってい る.財政を取り巻く状況は年々厳しいものとなっている. 首都圏の中心に位置する利便性の高い地理的条件から,人口は増加傾向にあり,民間に よる開発も活発に行われている.2010(平成22)年3月には,JR横須賀線武蔵小杉駅が開業 し,その利便性をさらに高めている. 12011(平成23)年10月26日に総務省から公表された2010(平成22)年国勢調査結果(確定値)による 2 川崎市市民経済計算における市内総生産の構成比より

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8 3.2. 川崎市の人口動向 人口は政令指定都市に指定された 1972(昭和 47)年から常に増加を続けており,近年そ の増加率を高めている.特に25歳から34歳を中心とした若い働き盛りの年代の転入が活 発になっている3.また,出生率も2009(平成21)年において1.04%と大都市(19政令都市及 び東京都区部)の中で最も高くなっている.大都市の中で平均年齢も高齢化率も最も低く なってものの,高齢化率は年々高くなっている.近年の若い年代の転入超過傾向に伴い保 育所や小・中学校等の公共施設の不足が問題となっている.一方で,一部の地域においては 高齢化が進行し,小・中学校の余剰が生じている状況である. 川崎市の将来人口推計4によると市の人口は 2030(平成 42)年まで増加を続け,ピーク時 には 150 万 8 千人になり,その後,減少に転換することが予測されている.年少人口(0~14 歳)は,2015(平成 27)年まで増加を続けるものの,それ以降は減少していくことが予測され ており一方で,老年人口(65歳以上)は今後も増加を続け,2030(平成42)年には33万9千人 (総人口比22.5%)になることが予測されている. 以上のことから川崎市においても将来において,人口の減少及び更なる高齢化の進展が 予測されている. 3.3. 川崎市を対象とする理由 本研究が対象とする川崎市では将来人口の減少が予測されている一方で,現在の人口が 増加傾向にあることから,公共投資需要が依然として高い自治体である.人口が増加傾向 の現在においても,すでに一部の地域においては小中学校の統廃合や高齢化の進展に伴い 地域自治が難しくなりつつある団地などが生じている.地域の人口及び年齢構造のメカニ ズム及びその要因を把握しないまま,現在増加する人口に合わせた公共投資を行うことで 将来において公共財の供給が過剰になるとともに維持費の問題が生じることが懸念され ることから,対象地として選定した.なお,川崎市と同様,将来において人口の減少が予測さ れている一方で,現在において増加する人口に対応すべく公共投資需要が高い地域におい ても有用な知見となると考えられる.

4.

地域ごとの人口及び年齢構造の傾向

本章 では,地 域ご と の人口 及 び年 齢構 造 の傾 向を確認 する.1995(平成 7)年,2000(平成 12)年,2005(平成17)年の国勢調査データの 5歳階級別人口を用いて,地域ごとの人口増減 及び年齢構造の変化を確認した. 行政区画が変化しても時系列分析ができるように昭和48年7月12日行政管理庁告示 第143号に基づく 「標準地域メッシュ」の1kmメッシュ単位を用い,川崎市の行政域に 3 川崎市統計情報 川崎市の人口動態より 4 川崎市総合企画局(2010)『第3期実行計画の策定に向けた将来人口推計について』より

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9 1㎞メッシュの中心座標が含まれる地域を対象としてその傾向を確認した. 4.1. 人口総数と高齢化率の変化 人口が増加している地域では,人口が更新されているのではないかと考えるのが一般的 ではあるが,人口が増加している地域は果たして人口更新がなされているのだろうか. 直近の2000(平成12)年,2005(平成17)年,2時点のデータを用いて,人口総数と高齢化率 の変化に着目し,1㎞メッシュ単位ごとにその傾向を確認する. 人口総数の変化は 2005(平成17)年における総人口から 2000(平成 12)年における総人 口の差で示し,高齢化率の変化はそれぞれの年における高齢化率の差で示すこととする. それぞれの変化のパターンを表 4-1 のように分類することとする.なお,本市において 全体として高齢化が進行しているという傾向を踏まえて,高齢化率が増加していても,そ の変化が全体の平均以下である場合は微増として比較的高齢化が進行していないものと 判断した. また,地域の総人口と高齢化率の変化の傾向を図 4-1に示した.パターンA,及び Fは比 較的高齢化が進行していない地域である.ただし,パターンFのような人口が減少している の にもかか わらず,高 齢化が 進行して いない地 域はわず か であった. また,パターン A,D,E から,人口が増加していてもの高齢 化が進行している地域も進行していない地域もあることが 分かった.このことから,減少している地域及び人口が増加 しているからといって人口更新がなされているとは限らな いということが示された. 人口の増減だけでは,やはり地域の年齢構造の変化を踏ま えた公共投資を判断することが困難であるといえる. 総人口 高齢化 率 A 増 減 B 減 増 C 減 微増 D 増 増 E 増 微増 F 減 減 表 4-1総人口と高齢化率変化の分類

(10)

10 図 4-1地域における総人口と高齢化率変化の傾向 4.2. 地域ごとの年齢別人口増減数の比較 分類 し た 地 域 ご と に,そ の 傾 向 を捉 え る た め に さ ら に 年 齢 別 の 人 口 増 減 数 に つ い て 1995(平成7)年,2000(平成12)年,2005(平成17)年におけるデータを用いてその傾向を確認 することとする. 年齢別人口増減数(5 年前と同じコーホートの人口増減数)を算出し,累積値について比 較した5.表 4-1で示した分類A,B,Fを代表する傾向を示すグラフを図 4-2,図 4-3,図 4-4 にそれぞれ示した.なお,人口が減少し,高齢化が進行していない地域はその数が少ないこ とから省略している. 4.2.1. 高齢者の移転傾向 今回対象とする,ほぼ全ての地域において,65 歳以上の高齢者人口は減少傾向にあるこ とが確認された.この増減数は社会増減及び自然増減の両方を含んでいるが,高齢者の自 然減の可能性が高いことから,この傾向は高齢者世代の自然減の影響が社会増の影響を上 回っていると考えられる.このことから,高齢者の転入・転出等の社会増減は少なく,高齢者 が移転する傾向は低いものと考えられる. 5 この手法は [小田崇徳, 2011]が用いた手法を参考としている.小田は生存率を用いて,より社会増減に近い値とし ているが本研究においては,生存率は用いなかった.(i年国勢調査,a~b歳人口増減量)=(i年国勢調査a歳~b 歳人口)-(i-5年国勢調査a-5歳~b-5歳人口)

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11 4.2.2. 人口更新がなされている地域の特徴 人口の更新がなされていると考えられる,図 4-2 のように人口が増加し,高齢化率が低 下している地域においては,15歳から34歳の若い年代の増加数が大きいという傾向が見 られる. その他の地域においても図 4-3のように若い年代の増加数が一部見られるものの,その 増加数が少なかったり,図 4-4のように一部の年齢の増加数が大きいものの他の年齢の増 加数が少なかったりすることから高齢化の進行を抑えるには至らないといった傾向が確 認された. 以上のことから若い年代に選ばれている地域において,人口更新がなされているものと 考えられる. 図 4-2人口が増加し高齢化が進行していない地 域における年齢別人口増減数 図 4-3人口が減少し高齢化が進行している地域 における年齢別人口増減数 図 4-4人口が増加し高齢化が進行している地域 における年齢別人口増減数 -500 0 500 1000 5_ 9 10_ 14 15_ 19 20_ 24 25_ 29 30_ 34 35_ 39 40_ 44 45_ 49 50_ 54 55_ 59 60_ 64 65_ 69 70_ 74 75_ 79 80_ 84 53393419 H12_7 H17_12 -500 0 500 1000 5_ 9 10_ 14 15_ 19 20_ 24 25_ 29 30_ 34 35_ 39 40_ 44 45_ 49 50_ 54 55_ 59 60_ 64 65_ 69 70_ 74 75_ 79 80_ 84 53392527 H12_7 H17_12 -500 0 500 1000 5_ 9 10_ 14 15_ 19 20_ 24 25_ 29 30_ 34 35_ 39 40_ 44 45_ 49 50_ 54 55_ 59 60_ 64 65_ 69 70_ 74 75_ 79 80_ 84 53393445 H12_7 H17_12

(12)

12

5.

実証分析

5.1. 検証したい仮説について 人口が更新される地域とされない地域は若い年代が選好する地域と他の年代が選好す る地域が異なることから生じると考えられる. 地域の人口更新に影響を及ぼす若い年代の居住地選択行動を明らかにすることで,人口 が更新される地域の要件を明らかにする. 併せて,他の年代の居住地選択行動を明らかにすることで,なぜ人口が更新される地域 とされない地域が生じるのかを明らかにする.特に交通利便性と住環境に着目する.一般 的に都心に近接する交通利便性の高さと住環境はトレードオフの関係にあると考えられ る.働き盛りの若い年代と中高年とでは,住環境や交通利便性に対する選好が異なるので はないかと推測される.住環境や交通利便性が各年代の居住地選択にどのように寄与する かについて検証する. また,インフラが整備されており,住環境が良い地域であれば人口が減少しないのでは ないかという考えもある.ある時期においては,人口の減った地域に重点的に公共投資を 配分されていたという山崎,浅田(2008)の指摘を踏まえると,公共投資の配分を変化させる ことで人口をコントロールすることができるのではないかという期待があったことが伺 われる.住環境が居住地選択にどれほど影響を及ぼすのかを明らかにすることで,公共投 資により人口をコントロールすることができるのかにということについても併せて検証 する. 5.2. 分析方法 第 4 章で示した,人口の増減だけでは地域の年齢構造を判断できないこと,また,高齢者 の移転傾向が低いこと,若い年代に選ばれる地域において人口更新がなされていることを 踏まえ,青年層,壮年層,熟年層,高齢層の年代(年齢区分)別そして,1995 年,2000 年,2005 年 の時代(時系列)別,さらに5年前調査時にはマイナス5歳,10年前調査時にはマイナス10 歳といった世代別に分類したうえで,集計ロジットモデルを用いて,住民の居住地選択に 影響を及ぼす要因について分析を行った. 5.2.1. 対象地域について 分析には,昭和48年7月12日行政管理庁告示第143号に基づく「標準地域メッシュ」 の1kmメッシュ単位を用い,川崎市の行政域に 1㎞メッシュの中心座標が含まれ,かつ平 成17年時点で住宅系建物延床面積が0より大きく,かつ単位地域内の総人口が0より大 きい116区画を対象とした.

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13 図 5-1 分析対象エリア 5.2.2. 年齢の区分について 居住地を選択する年代として,15歳以上65歳未満の生産年齢人口,65歳以上の老年人口 に着目する.さらに生産年齢人口を15歳以上25歳未満の「青年層」25歳以上45歳未満 の「壮年層」,45歳以上65歳未満の「熟年層」に分類し,65歳以上を「高齢層」と分類す ることとする.さらに5年前調査時にはマイナス5歳,10年前調査時にはマイナス10歳と いった世代別に分類することとする. 表 5-1年齢区分 年代(年齢階層) 年少人口 生産年齢人口 老年人口 0 ~ 4 歳 5 ~ 9 歳 1 0 ~ 1 4 歳 1 5 ~ 1 9 歳 2 0 ~ 2 4 歳 2 5 ~ 2 9 歳 3 0 ~ 3 4 歳 3 5 ~ 3 9 歳 4 0 ~ 4 4 歳 4 5 ~ 4 9 歳 5 0 ~ 5 4 歳 5 5 ~ 5 9 歳 6 0 ~ 6 4 歳 6 5 ~ 6 9 歳 7 0 ~ 7 4 歳 7 5 ~ 7 9 歳 8 0 ~ 8 5 歳 8 5 歳 ~ 時 代 ( 時 系 列 ) 2005 (H17) 青年層 壮年層 熟年層 高齢層 2000 (H12) 青年層 壮年層 熟年層 高齢層 1995 (H7) 青年層 壮年層 熟年層 高齢層 青年層世代 壮年層世代 熟年層世代 高齢層世代

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14 5.3. 推計モデル 5.3.1. 居住地選択モデル 本研究では,住民の居住地選択に影響を及ぼす要因について分析するため,個人がある 地域を居住地として選択したときの効用を被説明変数とする. 居住地選択モデル(集計ロジットモデル)の考え方に基づくと,個人 iが地域 j=0,1,2,…,J の選択肢に直面しており,個人iは効用が最も高くなる地域 jを居住地と選択し,そして個 人の選好は第一種極値分布に従うと仮定されるとき,個人iが地域jを居住地として選択し たときの効用は地域jのシェアの対数値と基準とする地域0のシェアの対数値との乖離で 示すことができる. 居住地選択モデルの考えに基づき,個人の居住地選択モデルを定式化する. 個人iが川崎市内の地域j=1,2,…,Jを居住地として選択したときに得られる効用Uijは, 以下のように表される.  α+xβ+  xj は地域属性を考慮した変数を用いる.地域間により異なる値を示す変数によって構成 される.ξjは地域jの観察できない属性,∊ijは個人の選好とする. そして,個人iが居住地jを選択する確率Pjは,以下のように表すことができる.  ഀబ∑ಉశೣೕഁశ഍ೕ಻ ഀశೣೖഁశ഍ೖ ೖసభ …① 個人 i は川崎市以外に居住することも可能である.本研究では川崎市以外の居住地とし て,隣接する東京都及び神奈川県(川崎市を除く)をアウトサイドオプション地域 0 と設定 する6.個人iが地域0を居住地として選択する際に得る効用Ui0及び確率P0は,以下のよ うに表される.  α    ഀబ∑಻ ಉబഀశೣೖഁశ഍ೖ ೖసభ …② こ の と き,個 人 の 選 択 確 率 は 市 場 全 体 で 見 た 場 合,各 地 域 の 居 住 者 割 合 と 一 致 す る た め,Pjは地域jの居住者割合Sjに一致する.ここで,qjはj地域の居住者数(対象地域の各年代 別人口数),M は潜在的市場規模として東京都及び川崎市を含む神奈川県の総居住者数と するとSjは以下のように表すことができる.    ①及び②より以下の推計式を導くことができる. 6 川崎市転入前転出後住所別移動人口より移動人口の多い東京都と神奈川県をアウトサイドオプションとするこ ととした.

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15     = ೕ ೕ బ ln    ln    =α  α     ここで,α0=0と基準化すると ln    ln    =α     となり,個人の選好を除いた個人iが川崎市内の地域jを居住地として選択したときにと等 しくなる.得られる効用Uijと等しくなる. 5.3.2. 推計式 個人 iが地域 jを居住地として選択した効用に影響を及ぼす要因を分析するため,5.3.1 より導き出した推計式を用いて,OLS(最小二乗推計法)による推計を行う. 被説明変数は,以下のとおりである. ln    ln  地域 jのシェア 基準地域0のシェア  本分析においては,図 5-1 で示した 116 区画を対象地域と設定し,地域 j=0,1,2,…,116 とした. 推計式は以下の通りである. ln    α  β  住環境  β 交通利便性 説明変数については表 5-2 に示すとおりである.住環境に関する説明変数として,1km 単位区画内の住宅系建物の延べ床面積,都市公園面積,商業系土地利用面積,そして最寄り の病院までの距離,各区役所・支所までの距離,直近に開発された地域ダミー7を用いた.ま た,交通利便性に関する説明変数として最寄駅までの距離,市内主要部への所要時間,都心 への所要時間を用いた.市内主要部として川崎駅を設定した.都心として新宿駅を設定し た.都心を表す駅として,新宿駅の他に東京駅,渋谷駅が候補として挙がったが,相関が高か ったことから平成20年東京圏パーソントリップ調査において乗降客数が最も多い新宿駅 を都心を表す駅として用いた. 7 調査年よりも5年前までに完了した土地区画整理事業を対象としている.なお,1995(平成7)年調査に関しては 5年前までに完了した事業がなかったことから,10年前までに完了した事業までを対象とした.

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16 表 5-2 説明変数 ※ArcGISソフトウェアを用いて,集計,計測,抽出を行った. 5.4. 推計結果と考察 5.4.1. 年代別推計結果 主な説明変数の基本統計量は表 5-3,推計結果は表 5-4表 5-5表 5-6のとおりである. 表 5-3 推計モデルの基本統計量[年代別1995(平成7)~2005(平成17)年] 8 川崎市の承認を得て同市保有の 都市計画基礎調査データを使用 承認番号(川崎市指令ま計第145号) 9 国土数値情報データをベースに川崎市都市計画調査データを用いて時点修正を行った. 10川崎市の承認を得て同市保有の都市計画データを使用 承認番号(川崎市指令ま計第99号) 11 川崎市内の駅に関しては川崎市データを近隣の駅に関しては国土数値情報データを用いた.2000年,1995年時 においては開業前のはるひ野駅を除外している. 12 2012年1月12日午前8時30分 目的駅着という条件のもと計測.JR横須賀線小杉駅は開業していないもの とし,経路から除外している. [住環境に関する説明変数] 住宅系建物の延べ床面積 ㎡ 川崎市都市計画基礎調査8[建物現況](2005,2000,1995 年)を用いて集計 ※ 都市公園面積 ㎡ 川崎市都市計画基礎調査[都市公園の整備状況] (2005,2000,1995年)を用いて集計 ※ 商業系土地利用面積 ㎡ 川崎市都市計画基礎調査[土地利用現況] (2005,2000,1995年)を用いて集計を用いて集計 ※ 最寄りの病院までの距離 m 国土交通省国土数値情報データ[医療機関](2010年),川崎 市都市計画基礎調査[建物現況](2005,2000,1995年)を用 いて計測9※ 各区役所・支所までの距離 m 川崎市地図情報システムデータを用いて計測 ※ 直近に開発された地域ダミー 都市計画データ 10(2011 年)を用いて抽出 ※ [交通利便性に関する説明変数] 最寄りの駅までの距離 m 国土交通省国土数値情報データ[鉄道](2007年),川崎市地 図情報システムデータを用いて計測11※ 市内主要部への所要時間 最寄りの駅から川崎駅までの所要時間 分 えきから時刻表を用いて計測12 http://www.ekikara.jp/top.htm 都心への所要時間 最寄りの駅から新宿駅までの所要時間 分 えきから時刻表を用いて計測13 http://www.ekikara.jp/top.htm 2005(H17)年 2000(H12)年 1995(H7)年 サン プル 数 平均値 標準 偏差 最小値 最大値 サン プル 数 平均値 標準 偏差 最小値 最大値 サン プル 数 平均値 標準 偏差 最小値 最大値 ln(Pj/P0)_青年層 116-7.699953 1.084456-13.52576-6.635492 115-7.6809540.9329507-13.66077-6.647453 115-7.6780950.8541559 -12.2855 -6.692118 ln(Pj/P0)_壮年層 116-7.642584 1.106834-13.57547-6.538222 115-7.635308 1.015064-13.19895-6.545386 115-7.6295760.9408341-12.15892 -6.532667 ln(Pj/P0)_ 熟年層 116-7.771745 1.01324-13.87309-6.709607 115-7.7514180.8613347-12.27789-6.607455 115-7.7803880.8830811-12.35241 -6.485329 ln(Pj/P0)_高齢層 116-7.883394 0.9915651 -14.3968-6.584622 115-7.882783 0.844664-12.68989-6.632848 115-7.918373 0.857389-12.57509 -6.629017 延べ床面積(㎡) 116 422112.5 209854.7 1536.69 796405.9 115 327661.3 160273.7 1315.346 615362.2 115 329493.3 172218.1 1702.062 674320.6 都市公園面積 (㎡) 116 57549.11 102210.5 0 635149 115 59076.14 102501.1 0 635149.3 115 55868.33 103012.9 0 635149.3 商業面積(㎡) 116 14062.7 13335.45 0 85762.64 115 10924.64 9987.119 0 56882 115 7608.984 7874.299 0 52654.1 病院までの距離 (m) 116 1232.502 855.4691 120.3388 4222.995 115 1262.26 860.8381 120.3 4223 115 1262.26 860.8381 120.3 4223 各区役所・支所 までの距離(m) 116 1378.215 815.6092 122.6212 4960.825 115 1373.435 817.5451 122.6212 4960.825 115 1373.435 817.5451 122.6212 4960.825 直近に開発され た地域ダミー 1160.0517241 0.2224304 0 1 1150.03478260.1840306 0 1 1150.04347830.2048236 0 1 最寄駅距離(m) 116 911.2922 596.0076 126.7 2827.4 115 918.9426 601.833 126.7 2827.4 115 918.9388 601.833 126.6789 2827.391 市内主要部への 所要時間(分) 116 28.77586 14.68634 2 60 115 28.81739 14.60749 2 58 11528.81739 14.60749 2 58 都心への所要時 間(分) 116 38.90517 8.20496 23 64 115 38.73043 8.050631 23 64 11538.730438.050631 23 64

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17 表 5-4 推計モデルの推計結果[年代別2005(平成17)年] *印は***1%有意,**5%有意,*10%有意をそれぞれ示す ln(Pj/P0)_青年層 ln(Pj/P0)_壮年層 ln(Pj/P0)_熟年層 ln(Pj/P0)_高齢層 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 延べ床面積(㎡) 0.00000290***0.000000454 0.00000302***0.000000445 0.00000289***0.00000289 0.00000281***0.000000472 都市公園面積(㎡) -0.00000033 0.000000752 -0.00000063 0.000000737 -0.00000027 -0.00000027 -0.00000026 0.000000782 商業面積(㎡) -0.00000225 0.000006000 -0.00000157 0.000005880 0.00000074 0.00000074 0.00000193 0.000006240 病院までの距離(m) -0.00004590 0.000095400 -0.00005490 0.000093500 -0.00002400 -0.00002400 -0.00000538 0.000099100 各区役所・支所までの距離(m) -0.00010690 0.000107300 -0.00007870 0.000105200 -0.00006520 -0.00006520 0.00002730 0.000111500 直近に開発された地域ダミー 0.33444950 0.334643600 0.67458110** 0.327994500 0.30922580 0.30922580 0.10163580 0.347854800 最寄駅距離(m) 0.00004550 0.000127600 0.00004830 0.000125000 0.00021490* 0.00021490 0.00016840 0.000132600 市内主要部への所要時間(分) -0.00366100 0.005796400 -0.01200860** 0.005681200 -0.00719960 -0.00719960 -0.00700940 0.006025200 都心への所要時間(分) -0.04590260***0.010033400 -0.04328700***0.009834100 -0.02741320***-0.02741320 -0.02370040** 0.010429500 定数項 -6.83673600***0.651371600 -6.73407700***0.638429500 -7.80457900***-7.80457900 -8.14840700***0.677086700 決定係数 0.5806 0.6132 0.5132 0.4579 自由度調整済み決定係数 0.5449 0.5803 0.4718 0.4119 サンプル数 116 116 116 116 表 5-5 推計モデルの推計結果[年代別2000(平成12)年] *印は***1%有意,**5%有意,*10%有意をそれぞれ示す ln(Pj/P0)_青年層 ln(Pj/P0)_壮年層 ln(Pj/P0)_熟年層 ln(Pj/P0)_高齢層 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 延べ床面積(㎡) 0.00000371*** 0.000000449 0.00000397*** 0.000000471 0.00000343***0.00000043 0.00000340***0.000000423 都市公園面積(㎡) -0.00000025 0.000000554 -0.00000027 0.000000582 0.00000000 0.00000053 -0.00000005 0.000000522 商業面積(㎡) -0.00000006 0.000006340 -0.00000061 0.000006660 0.00000273 0.00000612 0.00000395 0.000005980 病院までの距離(m) -0.00005480 0.000076900 -0.00005080 0.000080800 -0.00002800 0.00007420 -0.00002370 0.000072500 各区役所・支所までの距離(m) 0.00002480 0.000084400 -0.00002790 0.000088700 -0.00004690 0.00008140 0.00007560 0.000079600 直近に開発された地域ダミー -0.15621420 0.318091600 -0.06383460 0.334195800 0.11345090 0.30701880 0.19225000 0.300099200 最寄駅距離(m) 0.00002500 0.000103700 0.00002460 0.000108900 0.00021090** 0.00010010 0.00007630 0.000097800 市内主要部への所要時間(分) -0.00407510 0.004903200 -0.01124770** 0.005151400 -0.01147110** 0.00473250 -0.01523350***0.004625900 都心への所要時間(分) -0.03847940*** 0.007664600 -0.03545270*** 0.008052600 -0.01903470** 0.00739780 -0.01719390** 0.007231100 定数項 -7.25516500*** 0.467929100 -7.13568600*** 0.491619300 -7.93569900***0.45164050 -8.08116500***0.441461500 決定係数 0.6339 0.6586 0.5999 0.6025 自由度調整済み決定係数 0.6025 0.6294 0.5656 0.5684 サンプル数 115 115 115 115 表 5-6 推計モデルの推計結果[年代別1995(平成7)年] *印は***1%有意,**5%有意,*10%有意をそれぞれ示す ln(Pj/P0)_青年層 ln(Pj/P0)_壮年層 ln(Pj/P0)_熟年層 ln(Pj/P0)_高齢層 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 延べ床面積(㎡) 0.00000340*** 0.000000388 0.00000339*** 0.000000419 0.00000333*** 0.00000043 0.00000328***0.000000392 都市公園面積(㎡) -0.00000050 0.000000524 -0.00000083 0.000000566 -0.00000043 0.00000058 -0.00000064 0.000000530 商業面積(㎡) -0.00000682 0.000007320 -0.00000373 0.000007900 -0.00000501 0.00000811 -0.00000737 0.000007400 病院までの距離(m) -0.00003940 0.000068400 -0.00000905 0.000073900 -0.00003250 0.00007580 -0.00004100 0.000069200 各区役所・支所までの距離(m) -0.00001930 0.000075900 -0.00007760 0.000081900 -0.00006650 0.00008410 0.00010200 0.000076700 直近に開発された地域ダミー -0.13644020 0.257826800 -0.11645290 0.278486800 0.23213560 0.28571240 0.47187070* 0.260714500 最寄駅距離(m) 0.00008870 0.000091500 0.00004720 0.000098900 0.00019350* 0.00010150 -0.00002630 0.000092600 市内主要部への所要時間(分) -0.00376020 0.004443700 -0.01079220** 0.004799800 -0.01013730** 0.00492430 -0.01634920***0.004493500 都心への所要時間(分) -0.03547600*** 0.007071100 -0.03566160*** 0.007637700 -0.02361670*** 0.00783590 -0.02207910***0.007150300 定数項 -7.23713900*** 0.443198300 -6.90041400*** 0.478712300 -7.66285100*** 0.49113290 -7.66590900***0.448162200 決定係数 0.6599 0.673 0.6093 0.6549 自由度調整済み決定係数 0.6308 0.645 0.5758 0.6253 サンプル数 115 115 115 115

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18 どの時代,どの年代においても都心への近接性が居住地選択に影響を及ぼすという結果 が得られた.「都心への所要時間」の係数に関して,各時代において青年層,壮年層の方が他 の年代よりも統計的に高い水準で有意であり,その係数がマイナスであることから若い年 代の方が他の年代よりもやや都心への近接性に対する選好が強いということが伺える.ま た,全ての年代において「都心への所要時間」の係数の値が 1995(平成 7)年から 2005(平 成 17)年にかけてマイナス方向に大きくなっていることから,徐々に都心への近接性に対 する選好を強めているという結果が得られた. 2000(平成 12)年までは「市内主要部への所要時間」の係数に関して統計的に高い水準 で有意であったことから,壮年層以上の年代において市内主要部への近接性を選好したと いう結果が得られた.特に高齢層の方が統計的に高い水準で有意であり,その係数の値が 他の年代よりもマイナス方向に大きくなっている.このことから,2000(平成 12)年までに おいては市内主要部への近接性は高齢層が強く選好していると考えられる.2005(平成17) 年においては,壮年層のみ市内主要部への近接性を選好するという結果が得られた.ただ し,「都心への所要時間」の方が「市内主要部への近接性」の係数よりもマイナス方向に 大きくなっていることから,都心への近接性の方が市内主要部への近接性よりも居住地選 択に与える影響がやや大きいと考えられる. 住環境に関しては,「延べ床面積」の係数が,全ての時代,全ての年代においてにおいて, 統計的に高い水準で有意となった.ただし,係数の値から,年代間においてあまり差がない ことが伺える. また,「直近に開発された地域ダミー」は,2005(平成17)年の壮年層,1995(平成7)年の高 齢層において統計的に高い水準で有意となり,居住地選択に寄与するという結果が得られ た.2005(平成17)年の壮年層は2000(平成12)年から2005(平成17)年に造成された地域に 1995(平成7)年の高齢層は1985(昭和 60)年から1990(平成 2)年に造成された地域に多く 居住していることが伺える. 「最寄駅距離」は交通利便性を示す変数として用いたが,熟年層においてのみ全ての時 代において統計的に高い水準で有意となりその値がプラスであることから,最寄駅から離 れた地域を選好していると言える.これは駅から離れた閑静な住宅を選好しているものと 解釈できる.

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19 5.4.1. 世代別推計結果 主な説明変数の基本統計量は表 5-7,推計結果は表 5-4表 5-8表 5-9のとおりである. 表 5-7 推計モデルの基本統計量[世代別1995(平成7)~2005(平成17)年] 2005(H17)年 2000(H12)年 1995(H7)年 サン プル 数 平均値 標準 偏差 最小値 最大値 サン プル 数 平均値 標準 偏差 最小値 最大値 サン プル 数 平均値 標準 偏差 最小値 最大値 ln(P j /P 0 )_ 青年層 116-7.699953 1.084456-13.52576-6.635492 115-7.7207490.9669382-14.44468-6.860922 115-7.678095 0.8541559 -12.2855-6.692118 ln(Pj/P0)_ 壮年層 116-7.642584 1.106834-13.57547-6.538222 115-7.6229890.9836297-13.45605-6.512817 115-7.629576 0.9408341-12.15892-6.532667 ln(Pj/P0)_熟年層 116-7.771745 1.01324-13.87309-6.709607 115-7.7282370.8879311-12.36012-6.727664 115-7.780388 0.8830811-12.35241-6.485329 ln(Pj/P0)_高齢層 116-7.8833940.9915651 -14.3968-6.584622 115-7.8478390.8228566-12.51778 -6.57673 115-7.918373 0.857389-12.57509-6.629017 延べ床面積(㎡) 116 422112.5 209854.7 1536.69 796405.9 115 327661.3 160273.7 1315.346 615362.2 115 329493.3 172218.1 1702.062 674320.6 都市公園面積 (㎡) 116 57549.11 102210.5 0 635149 115 59076.14 102501.1 0 635149.3 115 55868.33 103012.9 0 635149.3 商業面積(㎡) 116 14062.7 13335.45 0 85762.64 115 10924.64 9987.119 0 56882 115 7608.984 7874.299 0 52654.1 病院までの距離 (m) 116 1232.502 855.4691 120.3388 4222.995 115 1262.26 860.8381 120.3 4223 115 1262.26 860.8381 120.3 4223 各区役所・支所 までの距離(m) 116 1378.215 815.6092 122.6212 4960.825 115 1373.435 817.5451 122.6212 4960.825 115 1373.435 817.5451 122.6212 4960.825 直近に開発され た地域ダミー 1160.05172410.2224304 0 1 1150.03478260.1840306 0 1 1150.0434783 0.2048236 0 1 最寄駅距離(m) 116 911.2922 596.0076 126.7 2827.4 115 918.9426 601.833 126.7 2827.4 115 918.9388 601.833 126.6789 2827.391 市内主要部へ の所要時間(分) 116 28.77586 14.68634 2 60 115 28.81739 14.60749 2 58 115 28.81739 14.60749 2 58 都心への所要 時間(分) 116 38.90517 8.20496 23 64 115 38.73043 8.050631 23 64 115 38.73043 8.050631 23 64 世代別の結果においても「都心への所要時間」の係数が全ての時代全ての世代におい て統計的に高い水準で有意であることから,都心への近接性が居住地選択に寄与している と言える.1995(平成7)年から2005(平成17)年にかけて係数の値がマイナス方向に大きく なっているという結果も年代別の分析結果と同様である.このことから,時代を経て都心 への近接性に対する選好を強めていると言える. 市内主要部への近接性は,「市内主要部への所要時間」が1995(平成7)年の熟年層,高齢 層において統計的に高い水準で有意であることから,これらの世代の居住地選択に影響を 及ぼしていると考えられる.2005(平成17)年において統計的に高い有意水準が得られず居 住地選択に寄与しなくなっているのは,熟年層においては 60 歳の定年により,高齢層にお いては加齢に伴う自然減によるものではないかと考えられる. また,「直近に開発された地域ダミー」の係数において統計的に高い水準で有意である ことから,熟年層世代は1995(平成7)年においては1985(昭和60)年から1990(平成2)年に 造成された地域を選好し,さらに「最寄駅距離」の係数において統計的に高い水準で有意 であることから,2000(平成 12)年においては駅から離れた地域を選好しており,この選好 は2005(平成17)年においても続いている. 「都心への所要時間」「市内主要部への所要時間」の係数から壮年層世代は,1995(平成 7)年においては都心 への近接性 のみを選好していたもの の,2000(平 成 12)年,2005(平 成 17)年においては市内への近接性も選好するようになっている.さらに「直近に開発された 地域ダミー」の係数から2005(平成17)年においては2000(平成12)年から2005(平成17) 年に造成された地域を選好するようになっていると言える.

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20 青年層世代は,1995(平成7)年においては5歳以上14歳未満と居住地を選択する年代で はないと考えられる.熟年層世代と同様な選好が見られることから熟年層世代の子ども世 代にあたり,親世代と同居していたものと考えられる. 表 5-8 推計モデルの推計結果[世代別2000(平成12)年] *印は***1%有意,**5%有意,*10%有意をそれぞれ示す 表 5-9 推計モデルの推計結果[世代別1995(平成7)年] *印は***1%有意,**5%有意,*10%有意をそれぞれ示す ln(Pj/P0)_青年層世代 ln(Pj/P0)_壮年層世代 ln(Pj/P0)_熟年層世代 ln(Pj/P0)_高齢層世代 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 延べ床面積(㎡) 0.00000357*** 0.000000468 0.00000340*** 0.000000384 0.00000342***0.00000043 0.00000329***0.000000389 都市公園面積(㎡) -0.00000049 0.000000632 -0.00000074 0.000000519 -0.00000048 0.00000058 -0.00000059 0.000000525 商業面積(㎡) -0.00000560 0.000008820 -0.00000485 0.000007240 -0.00000385 0.00000814 -0.00000594 0.000007330 病院までの距離(m) 0.00003900 0.000082500 -0.00003140 0.000067700 -0.00000995 0.00007610 -0.00003100 0.000068500 各区役所・支所までの距離(m) -0.00010410 0.000091500 -0.00003260 0.000075100 -0.00006440 0.00008440 0.00004100 0.000076000 直近に開発された地域ダミー 0.00025720** 0.000110400 0.00003680 0.000090600 0.00017060* 0.00010180 0.00008400 0.000091700 最寄駅距離(m) 0.08267860 0.310924100 -0.18852190 0.255263100 0.11825810 0.28677180 0.36126350 0.258238500 市内主要部への所要時間(分) -0.00749280 0.005358800 -0.00664900 0.004399500 -0.01024530** 0.00494260 -0.01310000***0.004450800 都心への所要時間(分) -0.02449170*** 0.008527400 -0.03747740*** 0.007000800 -0.02651410***0.00786500 -0.02162520***0.007082400 定数項 -7.80815300 0.534471300 -6.96523900*** 0.438791300 -7.53326500***0.49295410 -7.74907000***0.443906000 決定係数 0.5751 0.6916 0.6222 0.6434 自由度調整済み決定係数 0.5387 0.6652 0.5898 0.6128 サンプル数 115 115 115 115 5.4.2. 考察 (1) 交通利便性に関する選好 居住地選択の際,青年層,壮年層といった若い年代は住環境よりも交通利便性を重視し, 熟年層,高齢層といった中高年代は交通利便性よりも住環境を重視するのではないかとい う予測に反し,どの年代どの世代においても交通利便性が居住地選択に影響を及ぼしてい るという結果が得られた. ただし,市内主要部への近接性と都心主要部への近接性といったその交通利便性の内容 ln(Pj/P0)_青年層世代 ln(Pj/P0)_壮年層世代 ln(Pj/P0)_熟年層世代 ln(Pj/P0)_高齢層世代 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 延べ床面積(㎡) 0.00000383*** 0.000000514 0.00000394*** 0.000000446 0.00000355*** 0.00000044 0.00000337***0.000000411 都市公園面積(㎡) -0.00000010 0.000000635 -0.00000030 0.000000550 -0.00000007 0.00000054 -0.00000005 0.000000508 商業面積(㎡) 0.00000039 0.000007270 -0.00000058 0.000006300 0.00000195 0.00000621 0.00000401 0.000005820 病院までの距離(m) -0.00001490 0.000088100 -0.00005910 0.000076400 -0.00002910 0.00007530 -0.00002270 0.000070500 各区役所・支所までの距離(m) -0.00002000 0.000096800 0.00001630 0.000083800 -0.00004730 0.00008270 0.00005420 0.000077400 直近に開発された地域ダミー -0.00795470 0.364723900 -0.13837480 0.315928900 0.05584300 0.31168290 0.17701300 0.291703700 最寄駅距離(m) 0.00016010 0.000118900 -0.00000598 0.000103000 0.00017510* 0.00010160 0.00013200 0.000095100 市内主要部への所要時間(分) -0.00531030 0.005622000 -0.00903630* 0.004869900 -0.01116240** 0.00480440 -0.01381360***0.004496400 都心への所要時間(分) -0.03107310*** 0.008788200 -0.03793470*** 0.007612500 -0.02167390*** 0.00751020 -0.01680230** 0.007028800 定数項 -7.71759600*** 0.536527600 -7.09926400*** 0.464747600 -7.80927600*** 0.45850170 -8.11738700** 0.429111200 決定係数 0.5519 0.6751 0.6120 0.6042 自由度調整済み決定係数 0.5135 0.6473 0.5787 0.5703 サンプル数 115 115 115 115

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21 が異なっている.1995(平成7)年から2005(平成17)年にかけて,市内主要部への近接性より も都心への近接性が強く選好されるようになっている. この傾向は,国勢調査における従業地調査の結果からも確認できる.1965 年から徐々に 市内における従業割合が減少している.川崎市の臨海部において,以前は京浜工業地帯と して重化学工業が活発であったものの,その後の産業構造の変化に伴い臨海部において産 業の空洞化が進み,従業地としてのシェアを減少させていったことが背景として伺える. さらに,都心への近接性の選好の兆しは 年代別時代別の分析における 1995(平 成 7)年の青年層の選好に既に現れてお り,そ の 世 代 が歳 を 重 ね る な か,他 の 年 代にも影響を及ぼしていたという様子 が伺えた. 2005(平成 17)年の青年層が都心への 近接性を選好していることから今後も この傾向は続くものと考えられる. (2) 住環境に関する選好 居住地選択において熟年層,高齢層といった中高年ほど住環境を重視するかと予測して いたが,延べ床面積の大きさが居住地選択に一定の影響を及ぼすもののその影響は年代間 において差は見られなかった. 直近に開発された地域は,2005(平成 17)年の壮年層が選好していることから,このよう な開発 が居 住者 を惹 きつけ る結 果が 伺え た.ただ し,1995(平成 7)年 にお いて,2005(平成 17)年熟年層の直近に開発された地域に対する選好が見られたが,その後は居住地選択に 寄与していないことから,このような開発は一時期のある年代の居住地選択にしか寄与し ていないとも考えられる.開発された地域において,今回どの年代においても顕著であっ た都心への近接性のような条件が満たされていないのであれば,このような地域は,その 後,若い年代の転入が見込まれず人口が更新されないことが懸念される. また,全ての時代において熟年層が駅から離れた地域を選好しているという結果が得ら れた.最寄駅距離はもともと交通利便性に対する選好を評価するために用いた変数であっ たが,この結果から駅から離れた地域に対する選好は静かな住環境を選好していると解釈 できる.そして,この静かな住環境に対する選好は,2005(平成 17)年熟年層世代に特有のも のであると考えられる. 2005(平成 17)年の青年層,壮年層の居住地選択において,住環境が及ぼす影響は交通利 便性が及ぼす影響と比較して小さいことから,居住地選択における住環境に関する選好は 今後弱まるものと考えられる. 図 5-2 従業地の推移(国勢調査を用いて作成)

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22 (3) 市内主要部への所要時間 図 5-3は今回有意水準の高かった市内主要部への所要時間を図示したものである.各駅 から川崎駅までの所要時間を基に予測した結果13であり,徒歩の影響を考慮していないこ とから傾向を捉えるための概念図として示すこととする. 市南部(図右側)の地域が市内主要部への近接性の高い地域となる. 図 5-3[概念図]市内主要部(川崎駅)までの所要時間 (4) 都心への所要時間 図 5-4は都心への所要時間を図示したものである.作成方法等は図 5-3と同様である. 市北部(図左側)の地域が都心への近接性が高い地域となる.1995(平成7)年から2005(平 成 17)年にかけて,市内主要部への近接性よりも都心への近接性が強く選好されるように なっていたことから,選好される地域が市南部から市北部へシフトしてきているものと考 えられる.第4章で示した高齢者の移転傾向が低いことを踏まえるとこの選好される地域 の違いによって人口が更新される地域と更新されない地域が生じるものと考えられる. 図 5-5は2010(平成22)年に開業したJR横須賀線武蔵小杉駅を考慮して都心までの所 要 時間 を 図 示 し た も の で あ る.併 せ て 2005(平 成 17)年 ま で に 行 わ れ た 大規 模 開 発 と 2005(平成17)年の壮年層が選好する2005(平成17)年から2000(平成12)年の間に行われ た大規模住宅系開発が行われた地域を図示したものである.過去に大規模住宅開発が行わ れた地域でかつ都心への近接性が低い地域においては若い年代の転入が見込まれないこ 13 ArcGISソフトを用いてスプライン変換により作成した. 川崎駅

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とから人口が更新されず,高齢化の進行が進むことが予測される.

図 5-4[概念図]都心(新宿駅)への所要時間

図 5-5[概念図]2010(平成22)年開業JR横須賀線武蔵小杉駅を考慮した都心(新宿駅)への所要時間

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6.

まとめと今後の課題

6.1. 本研究において得られた結論 第2章において,人口が更新される地域において公共投資を行った方が,公共財消費者で ある地域住民の便益が大きくなる可能性が高くなることを示した. また,第4章において人口の増減や総数だけでは年齢構造を踏まえた投資を行うことは 困難であることを示した. さらに人は高齢になると移転をしなくなること,高齢化が進行していない人口が更新さ れている地域は若い年代に選ばれる地域であることを示した.こういった年代間,世代間 の選好の違いによって,人口が更新される地域と更新されない地域が生じているものと考 えられる. 第 5 章においては,居住地選択モデルを用いて各年代,各世代の選好を明らかにした.予 想とは反し,若い年代もその他の年代も交通利便性を重視した居住地選択を行っていたが, 交通利便性の内容が異なるという結果が得られた.このことが,人口が更新される地域と されない地域が生じる一因であると考えらえる. また,住環境は居住地選択に一定の影響を及ぼすものの世代間において差はみられず交 通利便性による影響と比較すると小さいという結果が得られたことから,住環境に関する インフラを整備することにより人口をコントロールすることは難しいものと考えられる. 6.2. 政策提言 便益を最大化するという観点からは人口が更新される地域において重点的に公共投資 配分を行うことが望ましい. 公共投資を判断する際に行う費用便益分析において,将来の便益の流列を設定する際, 本研究で示した人口更新の確率が考慮されるべきである. また,時代によって各年代,各世代の居住地選択の選好が変化することから定期的に人 口が更新される地域の選定を行うことが望ましい.若い年代の選好が時を経て各年代に広 がっている傾向が確認されたことから,時代によって変化する居住地選択の選好を捉える 上で,特に若い年代の選好を注視していく必要がある. また,住環境が居住地選択に及ぼす影響が交通利便性と比較して小さいことから,住環 境を向上させるための公共投資を行うことで人口をコントロールするといったことは,今 後は期待できないものと考えられる. 6.3. 今後の課題 今回の研究においては便益を最大化するという観点から投資が望ましい地域要件を明 らかにした.ただし,公共投資の最適供給条件を達成する手法は確立されておらず,その判 断指標の是非をめぐっては判断が分かれるところである.中川(2008)が言うように公共投

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25 資配分は効率性・公平性の観点から判断されるべきであり,特に,公平性の判断は特定の価 値観の選択と密接に絡むため,政治的プロセスを経て,慎重に判断される必要がある. また,本来であれば,他地域の住民に地方公共財供給コストの一部負担を求めれば,受益 地域の住民は過大な供給を求め,非受益地域の住民は供給を減らすことを求めるといった ことが生じることが懸念されることから,地方公共財の供給は受益と負担に応じて行われ るべきである.本研究では,住民の所得の差や負担していると思われる税金等を分析時に 考慮していないことから受益と負担に応じた公共投資配分といった観点を十分に反映で きていない.受益と負担に応じた公共投資配分を考える上では地域住民が負担する固定資 産税,都市計画税等のより詳細な分析が必要である.さらに,地域に財源徴収の権限と公共 投資実施の権限を与えるといった受益と負担に応じた配分を実現するその他の方法につ いても検討されることが望ましい. 本研究は居住者(夜間人口)に着目して分析を行っていることから,家計の日常生活に役 立つ公共投資配分の判断指標を示したこととなる.今回の分析において居住地として選好 されない地域であっても,業務地として先行される地域である可能性も十分にあることか ら,民間企業の生産活動に役立つ公共投資配分の判断に関しては,さらに昼間人口や企業 立地等に着目して分析をする必要がある. 本研究では,具体的にどれぐらい人口が更新されていれば投資が妥当であるかといった, 投資が望ましい人口更新なされている地域と人口更新がなされていない地域の厳密な境 界を明らかにするまでには至っていない.また,今回は高齢化が進行しているか否かで人 口更新を表現したが,投資が望ましい人口更新を表現するより適切な指標についても検討 の余地があると考える. これらについては,今後の研究に委ねたい.

謝辞

本稿の作成に当たっては,中川雅之教授(主査),福井秀夫教授(副査),鶴田大輔准教授(副 査),丸山亜希子助教授(副査)から丁寧なご指導を頂いたほか,まちづくりプログラム及び 知財プログラムの関係教員及び学生の皆様からも大変貴重なご意見をいただきました.こ こに記して感謝申し上げます. また,ご多忙の中,本稿に用いたデータ及び有益な情報を提供してくださった川崎市ま ちづくり局都市計画課澁谷主任,総合企画局統計情報課市川裕之職員をはじめ,関係機関 の職員の皆様にお礼申し上げます.また,政策研究大学院大学での研究の機会を与えてく ださった派遣元にも感謝申し上げます.なお,本稿は個人的な見解を示すものであり,筆者 の所属機関の見解を示すものではありません.また,本稿における見解及び内容に関する 誤りは,全て筆者の責任であることを申し添えます.

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参考文献

[論文] 加藤一誠. (2009). 「交通政策における『地域の視点』-道路政策を事例にして-」. 経済 地理学年報 第55巻 第1号, pp.49-64. 小田崇徳. (2011). 「鉄道沿線における年齢構造の時系列分析―東京圏を対象として―」. 政策研究大学院大学開発政策プログラム修士論文. 清瀬麻美. (2011). 「ニュータウンにおける若年層転入促進のための家賃補助政策の効果 に関する考察」. 政策研究大学院大学まちづくりプログラム修士論文. 藤井多希子. (2008). 「東京大都市圏ミクロレベルの世代交代と市街地特性」. 日本建築 学会計画系論文集 第73巻 第633号, pp.2399-2407. 藤井多希子,大江守之. (2005). 「世代間バランスからみた東京大都市圏の人口構造分析」. 日本建築学会計画系論文集. 第593号,pp.123-130. 半澤浩司. (2009). 「インフラ維持・更新費用に着目した持続可能な市街地整備のあり方 に関する考察~地方郊外部ニュータウンをモデルケースとして~」. 政策研究大学院大 学まちづくりプログラム修士論文. [参考文献] 奥野信宏. (1999). 森地茂・屋井鉄雄編著『社会資本の未来』第1章 . 日本経済新聞社. 金本良嗣. (1997). 『都市経済学』. 東洋経済新報社. 山崎福寿・浅田義久. (2008). 『新エコノミクス都市経済学』. 日本評論社. 中川雅之. (2008). 『公共経済学と都市政策』. 日本評論社. 土井丈朗. (2002). 『入門公共経済学』. 日本評論社. 八田達夫. (2008). 『ミクロ経済学Ⅰ』. 東洋経済新報社. [参考資料] 川崎市(2011)『川崎再生フロンティアプラン第3次実行計画』 川崎市(2011)『川崎市市勢要覧2011年度版』 川崎市総合企画局(2010)『第3期実行計画の策定に向けた将来人口推計について』

図  5-4[概念図]都心(新宿駅)への所要時間

参照

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