天理スポーツ障害予防プログラム構築に関する研究(第1報)
:
大学生スポーツ競技者におけるスポーツ外傷・障害
ならびに前十字靭帯損傷調査
神 谷 宣 広
1),水野みどり
2),前 谷 健 佑
3)Sports injuries in collegiate athletes of Tenri University
Nobuhiro Kamiya1, Midori Mizuno2, Kensuke Maetani3Keywords
Sports injury, collegiate athlete, anterior cruciate ligament, 14 years, 5400 cases Abstract
More and more attention has been paid to sports activity in Japan these days, especially due to an expected host of 2020 Olympic Game and Paralympic Game. It is important to review sports activity from the point of sports injury, while the study of sports injury in college athletes is limited. The purpose of this study was to investigate the occurrence of injuries in collegiate athletes of Tenri University. The data is based on the insurance claim from 2001 to 2014 which includes over 5400 cases of sports injuries (age 18-23). Over 80% of injuries occurred in male students and 70% were in Faculty of Budo and Sport studies. Injuries highly occurred in Judo > Rugby > Soccer > American Football > Hockey > Basketball > Handball > Volleyball. Injury items were joint sprain > bruise > muscle/ligament rupture > bone fracture. The joint sprain were frequently occurred in knee > ankle > back and in Judo > Rugby > Soccer. Especially, half of injuries occurred in lower extremity including knee and ankle. Anterior cruciate ligament (ACL) injury occurred higher in female (4.7%) than male (1.8%) in all sports injuries. About 70% of students with ACL injury received surgery for ligament reconstruction (i.e. 87 cases), due to Rugby > Basketball > Judo > Soccer > Handball. More female occurred ACL injury in Basketball and Handball than male. Interestingly, about 60% of ACL injury occurred in March to May (i.e. highest in April, 40%). After 2007, the case of ACL injury significantly increased compared with before 2006. This study helps understand the characterization of sports injury in collegiate athletes, leading to an intervention of training exercise to prevent sports injuries as a next
1) 天理大学体育学部
2) 天理大学学生部(体育学部保健室) 3) 大学院体育研究科
1.Faculty of Budo and Sport studies, Tenri University 2.Student affairs office, School infirmary
1.緒言 2020年東京オリンピック開催が決まり,我 が国のスポーツに対する取り組みが様々な点 で注目される歴史的時期を迎えている。その 中でも,スポーツ競技において怪我(外傷・ 障害)予防のトレーニングを意識的に行う取 り組みは,開発途上といえる。学校管理下(中 学・高校)におけるスポーツ外傷発生調査は 日本体育協会から定期的に統計結果が報告さ れている(1―2)。しかしながら,大学生ア スリートを対象とした研究報告は少ない(3 ―4)。本研究は大学生アスリートにおけるス ポーツ外傷・障害の発生状況・頻度の調査を 行い,スポーツ外傷・障害予防のターゲット を絞ることを目的とした。今回,大学生アス リートにおけるスポーツ外傷・障害の調査研 究を14年間に渡る5400人以上の規模で行った。 全体の約6割が捻挫・靭帯損傷であり,その 部位としては,足関節,膝関節,腰部が多か った。また,前十字靭帯損傷は近年増加傾向 にあり,4月の受傷が多かった。競技種目別 に部位や疾患に特性があるかどうか検討する ことは,今後介入するスポーツ外傷・障害予 防プログラムの疾患ターゲットやトレーニン グ内容を定める上で有用であることが期待さ れる。平成27年10月にスポーツ庁が設置され 大学との連携が期待されているが,本研究は 大学生アスリートにおける外傷・障害の全体 像を理解するのに役立つものと思われる。 2.研究方法・研究対象 本研究は,天理大学体育学部研究倫理委員 会により承認されている(審査 No.29)。研 究資料は,本学体育学部を中心とした運動部 に所属する大学生のスポーツ外傷・障害の発 生状況を保険請求資料をもとに検討した。な お,この保険には学生全員が入学時から卒業 時まで継続して加入している。研究対象は平 成13年から平成26年までの14年間ののべ5400 件以上の疾病である。スポーツ活動(練習や 試合)におけるスポーツ外傷・障害が大部分 であるが,正課授業中の受傷も非常にわずか であるが含んでいる(全体の1%未満)。ス ポーツ外傷・障害の種類,年齢(学年),競 技種目別疾病特性,手術の有無などを詳細に 検討した。有意差の検定は student t-test で 行い,p<0.05以下を有意差とした。 3.研究結果 3―1 スポーツ外傷・障害の分布 ①H13年から H26年までの学生のべ人数合計 5320名(5404疾患)であった。スポーツ外 傷・障害の男女別分布は,男子4423名,女 子897名であった(図1)。 また,学年別男女分布は,以下のようであ った(図2)。 step. 図1 調査対象:スポーツ外傷・障害をおこし た男女の比較(合計5320人) 図2 調査対象:学年ならびに男女の比較(合 計5317人)
男子学生の割合は,1年生80.8%,2年生 84.5%,3年生82.4%,4年生84.9%となり 各学年とも8割を超えた。 ②スポーツ障害・外傷の学部別分布は以下の ようであった(図3)。 ③スポーツ外傷・障害のクラブ別の分布は以 下のようであった(表1)。 特に柔道,ラグビー,サッカー,アメリカ ンフットボールにおいて,400人以上の怪我 の報告が見られた。 ④スポーツ外傷・障害の疾患別分布を示す (表2)。疾患項目としては捻挫が最多で あった。 次に,捻挫をきたした体の部位の内訳を検 討した(図4)。部位としては,膝や足関節 に多く見られた。 また,捻挫をきたしたクラブ別分布を検討 した所,柔道が全体の42.4%を占めた(表3)。 捻挫をきたす上位3種目は,ラグビー,サ ッカーと続き,これら3種目で全体の70.2% に至った。これら3種目は,捻挫に対する予 防や対処・処置方法について適切な行動が実 践できる様,効果的な指導ならびに啓蒙活動 が必要であると考えられる。 さらに,怪我の報告が多かった4種目(表 1)において疾患項目を比較検討した(表4)。 柔道においては捻挫の頻度が全種目の平均よ り高かったが,挫傷・打撲の頻度は低かった。 一方,アメリカンフットボールでは捻挫の頻 度が低いが,挫傷・打撲の頻度,さらには骨 折の頻度が高かった。 ⑤スポーツ外傷・障害の部位別の分布は以下 図3 スポーツ障害・外傷の学部別分布(合計 5315人)注:国際学部には国際文化学部 を含む 表1 スポーツ障害・外傷のクラブ別の分布 (単位:人) 表2 スポーツ障害・外傷の疾患別の分布 (合計5404人) 柔道 1879 剣道 48 ラグビー 940 合気道 43 サッカー 538 ソフトボール 43 アメリカンフットボール 419 レスリング 36 ホッケー 293 水泳 36 バスケットボール 238 硬式テニス 34 ハンドボール 187 ソフトテニス 26 バレーボール 153 創作ダンス 22 空手道 142 馬術 5 硬式野球 94 アーチェリー 1 体操競技 85 卓球 1 陸上競技 73 弓道 1 バドミントン 66 合計 5403 疾患項目 疾患別発症件数(人) 頻度 捻挫 3021 55.9% 挫傷・打撲 569 10.5% 筋・腱断裂 567 10.5% 骨折 462 8.5% 脱臼 231 4.3% 創傷 144 2.7% 半月板損傷 118 2.2% 脳しんとう 31 0.6% 感染 25 0.5% その他 236 4.4% 合計 5404 100.0%
図4 スポーツによる捻挫の部位別分布(合計3021件) 表3 捻挫をきたしたクラブ別の分布(合計3021人) 表4 スポーツ障害・外傷の多かった柔道,ラグビー,サッカー,アメリカンフットボールの疾患項目 柔道 1282 42.4% 陸上競技 32 1.1% ラグビー 519 17.2% 硬式野球 25 0.8% サッカー 322 10.7% 硬式テニス 25 0.8% アメリカンフットボール 176 5.8% 剣道 22 0.7% バスケットボール 117 3.9% レスリング 22 0.7% ホッケー 98 3.2% 合気道 19 0.6% バレーボール 94 3.1% ソフトボール 13 0.4% ハンドボール 88 2.9% 水泳 11 0.4% 空手道 52 1.7% 創作ダンス 9 0.3% 体操競技 50 1.7% ソフトテニス 9 0.3% バドミントン 36 1.2% 合計 3021 100.0% 捻挫 挫傷・打撲 筋・腱断裂 骨折 脱臼 創傷 半月板損傷 脳震盪 感染 その他 全種目 55.9% 10.5% 10.5% 8.5% 4.3% 2.7% 2.2% 0.6% 0.5% 4.4% 柔道 68.2% 6.9% 8.3% 3.6% 5.6% 0.6% 3.0% 0.2% 0.4% 3.1% ラグビー 55.2% 12.2% 8.7% 8.4% 5.5% 3.0% 1.4% 1.0% 0.4% 4.1% サッカー 59.9% 10.4% 16.2% 6.3% 2.2% 0.9% 1.5% 0.0% 0.9% 1.7% アメリカン フットボール 42.0% 15.3% 17.9% 12.6% 5.0% 0.5% 0.7% 2.1% 0.2% 3.6%
のようであった(図5)。 スポーツ外傷・障害全体の中で,下肢に起 こるものが53.9%,続いて上肢(肩~手)が 23.5%であった。約半数は下肢に起きている ことが分かった。 次に,スポーツ外傷・障害の多い上位7種 目について(表1),部位別の内訳を示す(表 5)。下肢がどのクラブで最も怪我が多く, 続いて上肢(肩~手)に続く傾向であったが, バスケットやホッケーでは上肢より頭頚部の 怪我が多かったことが特徴的であった。 3―2 本学における前十字靭帯損傷の実態 について 近年,膝のスポーツ障害・外傷の中でも特 に前十字靭帯損傷が注目を集めている。その 理由としては,①靭帯再建の手術を要するこ とが多い,②手術後のリハビリに時間がかか り試合復帰には年単位の時間を要する,③試 合復帰後のパフォーマンスが必ずしも受傷前 のレベルに戻らないことなどが挙げられる。 これらの理由より,4年間の限られた大学競 技生活において,前十字靭帯損傷は致命的な 図5 スポーツ障害・外傷の部位別の分布(合計5502件) 表5 スポーツ障害・外傷の多い上位7種目の怪我の内訳(%) 部位 全体 柔道 ラグビー サッカー 頭頚部 8.9% 3.4% 12.4% 3.7% 肩~手 23.5% 30.5% 23.3% 8.3% 胸・腹・腰 11.8% 15.4% 11.0% 5.2% 下肢 54.0% 49.5% 51.7% 80.4% その他 1.8% 1.2% 1.5% 2.4% 合計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% アメリカンフットボール バスケットボール ホッケー バレーボール ハンドボール 9.7% 14.6% 20.5% 5.8% 16.6% 29.5% 9.2% 18.8% 21.2% 21.4% 13.5% 8.8% 6.2% 10.3% 8.6% 47.1% 64.2% 49.7% 61.5% 53.5% 0.2% 3.3% 4.8% 1.3% 0.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%
影響を与えると言わざるを得ない。 ①H13年から H26年までの前十字靭帯損傷件 数は合計121件で男女の内訳は,男子が79 人(65%),女子が42人(35%)であった (図6)。 次に,スポーツ外傷・障害の男女別のべ人 数(図1,男子4423人,女子897人)をそれぞ れ100%とした場合,前十字靭帯損傷の頻度 を男女で比較した(図7)。 男子の前十字靭帯損傷は男子怪我全体を 100%とした場合の1.8%,女子の前十字靭帯 損傷は女子怪我全体を100%とした場合の 4.7%であり,女子学生が男子学生より多く みられる傾向があった。この結果から,本学 における前十字靭帯損傷は,男子の母集団に 比べ女子母集団では2.6倍起こりやすい怪我 であると言える。 ②手術に至った前十字靭帯損傷件数は,男子 が79人中55人(69.6%),女 子 が42人 中32 人(76.1%)であり,全体では121人中87 人(71.9%)であっ た(図8)。約7割 の 受傷者が手術を受ける結果となった。 ③手術受けた前十字靭帯損傷の学年別分布は 以下のようであった(図9)。 次に,スポーツ外傷・障害発生件数の男女 学年別分布(図2)をもとに手術を受けた前 十字靭帯損傷の頻度を男女学年別に比較した (図10)。 男子の前十字靭帯損傷による手術頻度は男 図6 平成13年から26年までの前十字靭帯損傷 男女別比較(合計121人) 図7 前十字靭帯損傷男女別発生頻度(合計121 人) 図8 手術を受けた前十字靭帯損傷(合計121件 の内訳) 図9 手術を受けた前十字靭帯損傷の学年別分 布(合計87人) 図10 スポーツ外傷・障害発生件数全体に対す る手術を受けた前十字靭帯損傷の頻度
子怪我全体を100%とした場合の約1%,女 子の前十字靭帯損傷による手術頻度は女子怪 我全体を100%とした場合の2~4%であり すべての学年において,女子が男子より高い 発生頻度を示す結果であった。これは,前十 字靭帯損傷が女子に多く見られた前述結果に 一致する(図7)。 また,前十字靭帯損傷のうち,手術を受け た割合の男女別学年別分布を示す(図11)。 前十字靭帯損傷121名のうち手術を受けた87 人の男女別学年別分布によると,手術を受け た割合は女子に多い傾向があるようであった が,有意差は認められなかった。 ④手術を受けた前十字靭帯損傷について,ク ラブ別の発生件数を示す(図12)。 ラグビー,バスケット,柔道が上位3種目 であった。他に,サッカー,ハンドボールで も多い傾向があった。また,バスケット,ハ ンドボールは男子に比べて女子に多い傾向が あった。ラグビー,柔道は接触型の前十字靭 帯損傷,バスケットボール,サッカー,ハン ドボールは非接触型の損傷が多いとされてい る。 また,男女別部員数で補正した各クラブの 前十字靭帯損傷のグラフを示す(表6)。H 14年から H26年までの13年間の資料をまと めたものである。発生頻度は女子バスケット, 女子ハンドボールがそれぞれ男子と比較する と多いことが明らかとなった。その他,女子 ラグビーにおいても発生頻度が男子ラグビー と比べ高値を示した。なお,サッカーは女子 学生がいないため,全員男子学生の受傷とな った。 図11 手術を受けた前十字靭帯損傷の男女別学 年別分布(合計87人) 図12 手術を受けた前十字靭帯損傷のクラブ男女別分布(合計87人)
⑤手術に至った前十字靭帯損傷の受傷時期を 月別に検討した。年度初めの4月が極めて 多かった(39%)(図13)。また,3月から 5月にかけて受傷した件数は合計50件で全 体の57%を占め,春の時期に受傷の半分以 上が集中する結果であった。 次に,4月に受傷した34名の学年別分布を 検討したところ,どの学年にも見られたが,2 年生が最も多かった(35%)(図14)。 ④手術に至った前十字靭帯損傷の継時的推移 を検討した。各3年間の合計件数を比較す ると H19年より増加傾向にあることが分 かった(図15)。H25―26年(2年間)の合 計は14人である。本研究報告には含めてい ないが,H27年8月の時点ですでに手術に 至った前十字靭帯損傷件数はすでに10名い ることから,H25―27年(3年間)の合計 は24人以上になることが見込まれている。 H19年より増加傾向が見られたことから, 次に H19年の前後で比較検討を行った(図 16)。手術に至った前十字靭帯損傷は,H13― H15の3年間の年平均が5人,H16―H18の3 年間の年平均が4.3人,H19―H21の3年間の 年平均が8人,H22―H24の3年間の年平均 が7人,H25―H26の2年 間 の 年 平 均 が7人 であった。以上より,H13―H18年までの年 平均が4.6人,H19―H26年までの年平均が7.3 人となり約1.6倍に増加していた(p=0.014)。 これより H19年以降,優位には件数が増え ていることが明らかであった。 表6 スポーツ障害・外傷の多い上位7種目の前十字靭帯損傷の頻度(%) 図13 手術を受けた前十字靭帯損傷の月別分布(合計87人) 2002―2014年 ACL 損傷件数 部員数 発生頻度(%) クラブ名 男子 女子 男子 女子 男子 女子 ラグビー 21 2 1282 53 1.6% 3.8% バスケット 2 11 677 462 0.3% 2.4% 柔道 7 4 1348 318 0.5% 1.3% サッカー 9 0 698 0 1.3% 0 ハンドボール 2 5 362 239 0.6% 2.1% 体操 2 1 167 89 1.2% 1.1% バレーボール 2 2 331 344 0.6% 0.6%
図14 4月に受傷し手術を受けた前十字靭帯損傷の学年別分布(合計34人)
図15 手術を受けた前十字靭帯損傷の継時的推移(合計87人)
図16 手術を受けた前十字靭帯損傷の継時的推移(年平均,p=0.014)
4.考察 ①研究結果を確認する。 1,平成13年から26年の途中までで,スポー ツ外傷・障害ののべ件数は5400件以上で あった。 2,のべ件数の8割以上が男子学生のスポー ツ外傷・障害であった。また,学部別で は体育学部が71%を占めた。 3,スポーツ外傷・障害の多い種目は,柔道 >ラグビー>サッカー>アメリカンフッ トボール>ホッケー>バスケットボール >ハンドボール>バレーボールの順であ った。また,発生件数の上位5種目は, クラブの人数を補正した発生頻度におい ても上位5種目に入っていた(詳細は後 述)。 4,スポーツ外傷・障害の疾患項目としては, 捻挫が最も多く(約55%),挫傷・打撲, 筋・腱断裂,骨折と続いた。捻挫件数が 多い種目は,柔道>ラグビー>サッカー であり,捻挫の部位としては,膝>足関 節>腰に多く見られた。 5,スポーツ外傷・障害の疾患全体の部位別 分布では,約半数が下肢に起きているこ とが分かった。続いて上肢に多かった。 6,平成13年から26年までの前十字靭帯損傷 は合計121件の報告があり,男子の前十 字靭帯損傷は男子怪我全体を100%とし た場合の1.8%,女子の前十字靭帯損傷 は女子怪我全体を100%と し た 場 合 の 4.7%であり,女子学生に多くみられる 傾向があった。なお,前十字靭帯損傷が 女子に多い結果は先行研究に合致する。 女性が解剖学的に骨盤が大きく内股傾向 があり(Q アングルが男性より大きい), 関節弛緩性が男性より高く,前十字靭帯 が力学的に男性より弱いことなどが原因 として報告されている(5―6)。 7,前十字靭帯損傷の約7割が手術を受けて いたが,その学年別分布に大きな違いは 見られなかった。しかし,どの学年も女 子が男子より頻度が高かった。これは, 上記6に合致する。 8,手術に至った前十靭帯損傷のクラブ別分 布は,ラグビー>バスケットボール>柔 道>サッカー>ハンドボールであり,特 にバスケットとハンドボールで女子の割 合が高かった(サッカー部の女子学生は 在籍しない)。ラグビーや柔道は接触型 の前十字靭帯損傷であり,バスケット, サッカー,ハンドボールは非接触型の損 傷が主な受傷機転と考えられる。 9,手術に至った前十靭帯損傷の受傷時期は 4月が最も多く全体の約4割であった。 また,4月受傷の学年別分布では,どの 学年にも見られたが特に2年生の受傷が 多かった。2年生になった直後の4月は 要注意である。 10,手術に至った前十靭帯損傷の頻度は,平 成13年~18年に比べて平成19年~26年は 有意に増加していた(約60%の増加)。 ②スポーツ外傷・障害のクラブ別の発生頻度 は以下のようであった(表7)。 H14年から H26年までの13年間の資料をま とめたものである。なお,H13年のクラブ別 在籍人数は不明であった。表1に H13年か ら H26年までのクラブ別分布を提示したが その順序に示している。柔道の怪我発生頻度 が100%を超え,全体として在籍する4年間 の間に一度は怪我をする可能性が高いことを 示唆している。 また,表1で上位5種目(柔道,ラグビー, サッカー,アメリカンフットボール,ホッケ ー)は,表7においても同様に上位5種目に となった(表7,図17)。 クラブ部員数による補正をしても怪我の発 生件数と発生頻度は相関していると考えられ る(図18,R2=0.79)。 ③スポーツ外傷・障害発生は,16歳や19歳の 高校や大学入学により,練習環境や競技レ
ベルが大きく変わった時期に多いと予想さ れてきた。女子に限って言えば,確かに以 前は大学1年生に発生件数が多く,学年と ともに減少する傾向が見られた(図19)。 H13―H18年ならびに H19―H21年の6年間 あるいは3年間をまとめて解析した場合,発 生件数全体における各学年の割合は1年生が 約30%であり,4年生が約15%であった。一 方,近年の女子の傾向は,1年生よりも3年 生の方が多い傾向を示した(図20)。 ④近年,前十字靭帯損傷ならびに手術を受け た前十字靭帯損傷の頻度が多くなり,H19 年以降前十字靭帯損傷で手術を受けた人数 が有意に増加していることを前述した(図 13)。これは可能性として,前十字靭帯損 傷の治療法として保存的な手術をしない方 法より,手術による靭帯再建術が主流とな ったことが予想される。実際,前十字靭帯 表7 スポーツ障害・外傷のクラブ別の発生頻度(H14―H26) クラブ名 怪我件数 部員数 発生頻度 順位 柔道 1773 1666 106.4% 1 ラグビー 883 1335 66.1% 4 サッカー 532 725 73.4% 2 アメリカンフットボール 399 550 72.5% 3 ホッケー 275 784 35.1% 5 バスケットボール 227 1139 19.9% 11 ハンドボール 185 601 30.8% 7 バレーボール 150 675 22.2% 10 空手道 138 462 29.9% 8 硬式野球 93 1488 6.3% 18 体操競技 80 256 31.3% 6 陸上競技 72 1240 5.8% 19 バドミントン 65 427 15.2% 13 剣道 44 635 6.9% 17 合気道 35 192 18.2% 12 ソフトボール 43 300 14.3% 14 レスリング 36 153 23.5% 9 水泳 34 740 4.6% 21 硬式テニス 34 278 12.2% 15 ソフトテニス 26 499 5.2% 20 創作ダンス 22 197 11.2% 16 馬術 5 112 4.5% 22 アーチェリー 1 128 0.8% 23 卓球 1 238 0.4% 24 弓道 1 315 0.3% 25
図17 スポーツ障害・外傷のクラブ別の発生頻度(%)
損傷の学生の中で手術に至った割合を経時 的に見てみると,H19年以降増加している ことがわかる(図21)。治療法として手術 が選択される現状にあるが,大学競技生活 4年間の限られた時間の中で手術療法後の 競技・試合復帰が実際にどの程度実現され ているか検証する必要があると考えられる。 ④手術に至る前十字靭帯損傷が近年増えてい る傾向(図16)から,その予防をすべく2015 年8月に外部のアスレチックトレーナーを 招いて2回の講習会を行った(「膝損傷予 防トレーニング」8月9日,8月17日,天 理大学体育学部)。講習会に参加した学生 約100名のなかで前十字靭帯損傷で再建手 術を受けていたものは合計で19名おり,そ のうちで既に18名が競技に復帰していた。 手術後の現在の状態についてアンケート調 査を実施し,「回復して元のパフォーマン スに戻りましたか? また戻らなかった人 は何が戻らなかったのですか?」という質 問を行った。18人中10人が競技に復帰した が,パフォーマンスが受傷前と比べてもと に戻っていないと答えていた(55.5%)(図 22)。また,具体的には,膝・下肢筋力の 低下や膝の動きの感覚が戻らないことが内 容として報告された(図23)。このアンケ ートは調査人数が少ないが,前十字靭帯損 傷後の競技パフォーマンスが約半数で戻ら ないことを示唆すると考えられる。 図19 スポーツ外傷・障害の 女子学年別割合(%) 図20 スポーツ外傷・障害の 女子学年別割合(%) 図21 前十字靭帯損傷で手術に至る割合の経時的推移(%)
5.今後の展望 本学における怪我の特徴を踏まえた上で, 今後その予防が大切であると思われる。例え ば,前十字靭帯損傷は手術に至ると競技・試 合復帰まで1年から1年半を要することが多 い。限られた4年間の競技生活を充実させる ため,「怪我をしない」,「怪我をしっかり治 す」ための予防トレーニングや啓蒙活動を展 開したいと考える。 6.結語 本学スポーツアスリートにおける怪我調査 を保険請求資料に基づき平成13年から平成26 年までの14年間,のべ5400件以上について行 った。怪我発生頻度は,柔道,ラグビー,サ ッカー,アメリカンフットボール,ホッケー で高かった。受傷部位は,膝や足関節に多く 図22 前十字靭再建手術に至った学生の競技復帰後のパフォーマンスについて(%) 図23 前十字靭再建手術後,競技復帰後のパフォーマンスが戻らない内容(%)
見られた。また,近年,前十字靭帯損傷が増 えており,その対策が必要と思われる。本学 における怪我の特徴を認識する貴重な資料と して今後活用されることを期待したい。また, 本研究結果は,今後介入するスポーツ外傷・ 障害予防プログラムの疾患ターゲットやトレ ーニング内容を定める上で有用であると考え られる。 7.謝辞 本研究は,平成27年5月1日より天理大学 学術・研究・教育活動助成を受けている。「天 理スポーツ障害予防プログラム構築に関する 研究(スポーツ障害早期診断と予防トレーニ ング法)」に対する研究助成に深く感謝申し 上げます。また,本研究の一部を大学院体育 研究科1年,前谷健佑が第70回日本体力医学 会大会総会にて本研究結果の一部を口頭発表 した(「大学生エリートアスリートにおける スポーツ外傷・障害調査」2015年9月15日, 和歌山)。 8.引用文献 1)福林徹ほか(2013)日本におけるスポー ツ外傷サーベランスシステムの構築(第 3報)。公益財団法人日本体育協会スポ ーツ医・科学専門委員会 2)福林徹ほか(2014)ジュニア期における スポーツ外傷・障害予防の取り組み(第 1報)。公益財団法人日本体育協会スポ ーツ医・科学専門委員会 3)飯出一秀(2011)大学スポーツ選手にお けるスポーツ外傷・障害の現状と対策。 環太平洋大学紀要 第4号 127―132 4)飯出一秀(2012)大学スポーツ選手にお けるスポーツ外傷・障害の現状と対策 (第2報)。環太平洋大学紀要 第5号 117―124
5)National Collegiate Athletic Association ( NCAA ) . 1982― 1999 participation statistics report. Indianapolis, IN, June, 2000
6)ACL 損傷予防プログラムの科学的基礎, 福林徹 ほか,NAP,2008