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絶縁性フレキシブルコンテナの静電気帯電・放電特性

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1 はじめに

フレキシブルコンテナ(FlexibleIntermediate Bulk Container. 以下,FIBCという)は,樹脂製の織布やシ ート製の柔軟な袋状容器であり,貯蔵,保管,輸送,運 搬等の用途で幅広く利用されている.特に,化学産業に おいては,各種粉体原料を可燃性溶剤が入っている反応 釜に投入(仕込み)する際に使用されることが多い. このような場面では,摩擦によりFIBCと粉体の双方 が激しく帯電し,各種着火性静電気放電が発生する可能 性がある.したがって,周囲に可燃性混合気体(溶剤蒸 気,あるいは粉じんと空気が爆発範囲の濃度で混合して いる状態)が形成されていれば,火災・爆発事故を引き 起こす危険性がある. FIBC関連の火災・爆発事故事例をみると,絶縁性材 質製のFIBCにおいて静電気による事故が多いことが確 認できる1)FIBCは,静電気対策の観点から,タイプA ~Dの4種類に分類されるが,事故の多い絶縁性FIBCは, タイプA,Bに該当する2).特にタイプAは静電気対策 の取られていないものであり,ブラシ放電や沿面放電な どの着火性静電気放電を防止することができないため, 可燃性混合気体が形成される環境での使用は想定されて いない.したがって,FIBC関連の静電気災害の多くは, 誤ったタイプのものを選択したために起こっているとい える.このような誤使用を防止するためにも,絶縁性 FIBC使用時の静電気による危険性,特に帯電したFIBC の表面電位および,発生する静電気放電の特性を実験的 に把握し,定量的に示すことが重要である. これまでに,FIBCの静電気安全に関する研究は国内 外で多く行われている3-10).各種FIBCの粉体排出時の表 面電位の測定が行われており,絶縁材質製のタイプA,B, タイプDの一部において,FIBCの表面電位が100kVを 超える高電位に達することが確認されている7-10).この ような状況で,FIBC近傍に接地不良金属が存在する場 合に静電誘導により着火性の火花放電が発生する危険性 がある.一方で,これらの測定は,比較的低湿度の環境 (相対湿度50%以下)で行われており,静電気危険性が 低下すると考えられるより高湿度の環境では検討されて いないため,湿度がFIBCの帯電に及ぼす影響は充分に 把握できていない.また,導電性材質が使用されるタイ プCのFIBCが接地不良となる場合には,帯電したFIBC から着火性の火花放電が発生することが確認されている が10),タイプA等の絶縁性FIBCについては,粉体取り 扱い時に帯電したFIBC表面から発生する放電の測定例 はほとんどない. そこで本稿では,相対湿度75% までの各湿度環境下 において,絶縁性FIBCによる粉体の充填・排出時の FIBCの表面電位を測定し,FIBC帯電の湿度依存性につ いて定量的に検討した.また,粉体取り扱い時に帯電し た絶縁性FIBCから発生する静電気放電を測定し,その 危険性を評価した.しかし , FIBCから発生する沿面放 電については先行研究11,12)があるため,ここでは省略す る. 2 実験装置および方法 絶縁性FIBCによる粉体取扱い時のFIBC表面電位お よび,FIBC表面から発生する放電を測定するための実 験装置の概要を図1に示す. 本実験装置は,主にFIBC(最大充填質量1000kg), スプリング式コンベア(日本興産,トランジー,高さ3.5 m),静電電位測定器(春日電機,KSD-1000),データ ロ ガ ー(GRAPHTEC,midiLOGGERGL900), 電 流

プローブ(プローブテック,PT-5),オシロスコープ (Tektronics, DPO7254, 2.5GHz,40GS/s),金属球電

絶縁性フレキシブルコンテナの静電気帯電・放電特性

崔   光 石

*

1

,遠 藤 雄 大

*

1

,長 田 裕 生

*

2

,鈴 木 輝 夫

*

2 絶縁性フレキシブルコンテナ(FIBC)の粉体取り扱いによる,静電気災害(火災・爆発)の危険性を定量 的に把握するために,粉体充填・排出時のFIBCの表面電位,FIBCから発生する静電気放電の測定を行った. 粉体試料として,ポリプロピレン(PP)ペレットを用いた.結果によると,表面電位は,粉体充填・排出時と もに絶対値100kVを超える高電位となり,帯電極性は充填時が負で,排出時が正であった.また,表面電位は 実験環境の相対湿度に大きく影響を受け,相対湿度が大きくなるほど小さくなったが,湿度75%の高湿度環境 においても40kVを超えたことから,高湿度化で必ずしも静電気災害の危険性が排除されない可能性が示された. FIBCから直接発生する静電気(ブラシ)放電は,放電電荷量が200nC以上であり,可燃性溶剤・粉体などを 取り扱う際,安全なレベルではない.さらに,帯電したFIBCからの静電誘導により,FIBC近傍に設置された 静電容量が10pF程度の比較的小さな接地不良金属から,放電エネルギーが3mJ程度の着火性が高い火花放電 が発生することも確認された. キーワード:絶縁性フレキシブルコンテナ,静電気帯電,静電気放電,粉体.

原稿受付 2019年4月24日(Received date: April 24, 2019) 原稿受理 2019年10月15日(Accepted date: October 15, 2019)

J-STAGE Advance published date: November 16, 2019

*1労働安全衛生総合研究所電気安全研究グループ *2春日電機株式会社 連絡先:〒204-0024 東京都清瀬市梅園1-4-6 労働安全衛生総合研究所電気安全研究グループ 崔 光石 E-mail: choiks@s.jniosh.johas.go.jp doi: 10.2486/josh.JOSH-2019-0015-GE 原著論文

(2)

極(接地した金属球,球径40mm),接地不良金属(SUS, 直径300mm,厚み2mm,絶縁性保持具で固定),除電 器(春日電機,JPK-3)などから構成されている. 本実験では,内側にポリエチレン(PE)製の内袋を 装着したクロスタイプのFIBCを使用した.静電電位測 定器は,データロガーに接続されており,FIBC表面で 発生した表面電位Vs [kV]の時間変化を記録する仕組み になっている.粉体は,スプリング式コンベアによって 輸送されFIBC内に落下して充填される.また,FIBC 表面から金属球電極に対して発生する静電気放電の電流 波形は,電流プローブで電圧に変換された後,オシロス コープで観察される. 一方,FIBCに接地不良金属を15cmの距離に設置し た時,帯電したFIBCから静電誘導を受けた際に発生す る火花放電を測定した.火花放電の測定には,放電波形 (特に電流の最大値)が大きくなる可能性があるため, 電 流 プ ロ ー ブ に ア ッ テ ネ ー タ( プ ロ ー ブ テ ッ ク, ATTENUATOR,20dB,1W,50Ω)を付けることで 測定可能とした.なお,放電波形のデータ解析において 算出する放電電荷量Q (C)は,以下の式(1)で表され る. (1) ただし,ikはプローブ電圧を電流プローブの電流電圧 変換係数2.5 (V/A)で割った放電電流,Δtは微小時間 である.なお,今回の実験では,20 dBのアッテネータ をつけたため,Qは式(1)の10倍とした.また,電流 プローブを使用した測定では,帯電したFIBCに金属球 電極を接近させると,静電誘導現象で誘導電荷が発生す るが,この誘導電荷は放電発生時に放電電流としては流 れないので,実際の放電電流は誘導電荷分だけ大きな値 になる可能性がある. 実験手順は以下の通りである. (1) 粉体試料約300kgを金属製貯蔵槽に入れる. (2) 粉体充填前に除電器を用いてFIBC表面の初期電 荷を除去する. (3) 吊り下げられたFIBCに粉体供給用配管を通じて 粉体試料を3分間,約120kg投入する(投入速度: 約0.65kg/s). (4) 充填後,FIBC下部で結束した紐を解き,粉体試 料を排出する. (5) 上記の一連の操作におけるFIBC本体のVsの時間 変化を観察する. また,充填中(開始30秒後),排出中(開始3秒後) のそれぞれにおいて,金属球電極をFIBC各部(本体部分, 排出口部分,内袋部分)の表面,あるいは接地不良金属 に接近させて,各部から発生した静電気放電(電流)を 観察・測定する. なお,本実験で使用した静電電位測定器の標準測定距 離は10cmに設定されているが,実験中においてVs の 値がオーバーレンジとなったため,今回は,約22cmの 距離に設置した.したがって,本稿で示すVsは22 cm の距離で較正したものである.   表面電位の測定は,相対湿度H = 39, 49, 59, 65, 70, 75 %において行った(放電の測定は相対湿度39 %で実施). なお,Hは,大型自動除湿機(三菱電機, KFH-P3A) で所定の値に調整した.粉体試料は,ポリプロピレン (PP)ペレット(粒子径:約2~3mm)を使用した.(図2) PPは,化学産業で広く使用されており,体積抵抗率が 1015Ωmオーダー以上であり絶縁性である. ܳ = ෍ ݅݇οݐ ܰ ݇=1 図1 実験装置の概要図 22 cm 表面電位計 15 cm 接地不良 金属 排出 金属製貯蔵槽 FIBC (最大充塡容 量1000 kg) 投入 3500 cm 500 cm オシロス コープ データ ロガ 粉体 300 kg スプリング式コンベア 粉体供給用配管 吊紐 1000 cm

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3 実験結果及び考察 3.1FIBCの絶縁性の評価 FIBCの絶縁性を評価するために,体積抵抗率ρv [Ω∙ m],表面抵抗率ρs[Ω] を測定した.FIBCの本体,投入 ・排出口,内袋の各部分についてのρv,ρsをそれぞれ評 価した結果を表1に示す.ただし,印加電圧は+1kVで ある.測定された抵抗率は,電極径,試料厚さから算出 した.また,温度は21℃,相対湿度は39% であった. これらの結果より,今回のFIBCは,全ての部分におい て1013Ω以上の絶縁性であり,帯電性の指標13)を見ると, 高帯電性物体に分類される.一方,抵抗測定器の電気抵 抗の上限値が1014Ωであり,抵抗測定時にはオーバーレ ンジとなることも複数回あったことから,実際の抵抗率 はさらに高くなる可能性がある. 以上より,今回の FIBCは絶縁性が非常に高く,FIBCの分類から見るとタ イプA(静電気対策が講じられていないタイプ)であり, FIBC自体が強く帯電する可能性が示唆された. 表1 体積抵抗率と表面抵抗率の測定結果 FIBCの部分 体積抵抗率ρv [Ω∙m] 表面抵抗率ρs [Ω] 本体 1.0×1013 9.1×1013 投入・排出口 9.5×1013 ≧1014 ※ 内袋 3.2×1013 1.3×1014 ※オーバーレンジのため,測定不可. 3.2FIBC表面電位の経時変化 気温21℃,相対湿度39%において,FIBCに粉体を充 填・排出した時の表面電位の測定結果の一例を図3に示 す.縦軸は表面電位Vs [kV],横軸は時間t [s] である. ただし,図1に示された接地不良金属がない時のもので ある. FIBCに供給される粉体は,スプリング式コンベアで 輸送される際に既に負に帯電(約-1.2µC/kg)になるこ とを確認している.この帯電した粉体をFIBCに供給す ると,FIBCの表面電位は,粉体充填開始と共に負極性 に増加し,tが約15秒後(粉体充填量:約9.75kg)には Vs =-150kV程度まで上昇する.その後,FIBCの漏洩抵 抗および気中放電の発生などにより,毎秒-0.78µCの帯 電粉体が一定供給されているのに関わらずVs =-120kV 程度でほぼ飽和値になっている可能性がある. 一方,FIBCから粉体の排出を開始すると,負極性に 帯電した粉体がFIBCから出ていくために,FIBC内の 負極性電荷量が減少し,それに伴いFIBCのVsも減少し ている.さらに,排出粉体と摩擦された内袋内壁表面に は正極性電荷が発生し,内壁表面の正極性電位が増加す ると同時に,負極性電荷を持つ粉体の量が減少していく ため,観測される表面電位の極性が逆転すると考えられ る.排出終了時にはVs = +100kV以上に達しており,そ の後の電位減衰も非常に緩慢である.以上のことから, 粉体の充填時と排出時のFIBCの表面電位は,主に前者 は帯電粉体が,後者は帯電した内袋に起因していること になる. 排出時の表面電位の最大値Vs-maxは充填時に比べると 若干小さいものの,依然として+100kVを超えており, 電位減衰も緩慢なことから,粉体の充填・排出時ともに, 静電気災害の危険性は極めて高いといえる.これらの結 果は,FIBCの絶縁性評価3.1節において高帯電性物体に 分類されたことを裏付けている. 3.3FIBC表面電位と湿度の関係 気温21℃,異なるH(39% ~75%)において,FIBC に粉体を充填・排出した時の表面電位Vsの測定結果の 一例を図4に示す.これより,湿度の上昇に伴い,Vsが 全体的に低下する様子が確認できる.さらに,図4を基 にHに対する充填および排出時の表面電位の最大値 Vs-maxの結果を図5に示す.これより,湿度60 %以下に おいては湿度上昇により順調にVs-maxが低下していく. これは,主に気中放電によって電位の上限が制限される と考えられる.一方,湿度65 %以上ではHの変化が小 さくなり,特に排出時のVs-maxの変化はほとんど見られ なかった.これは,主に導電による緩和に支配されてい ると考えられる.それでも,湿度75% における投入時 のVs-maxは約 -50kVであり,排出時では +45kV程度と 高い値を示している.FIBCのVs-maxがおよそ40kVにな ると作業員に激しい電撃を与えることが知られてい る1) 以上の結果は,絶縁性FIBCを使用して粉体を取り扱 う際に,高湿度環境下でも静電気による危険性が必ずし も排除されないことを示している.

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50 100 150 200 250 300

-200

-150

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50

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150

200

投入開始    (0 s)

表表

表表

, V

s

[kV]

排出開始  (208 s) 投入終了 (180 s) 排出終了  (223 s) 温度21℃,湿度39%

時時

, t [s]

図3 FIBC表面電位の経時変化の一例 図2 粉体試料(ポリプロピレン(PP)) Vol. 13, No. 1, pp. 57 63, (2020)

(4)

FIBCのVs-maxのHへの依存性の原因を明らかにする ために以下の追加の検討を行った.まず,粉体のFIBC 充填前の初期電荷量がHに依存すると予想し,スプリ ング式コンベア輸送後の粉体帯電量を各Hにおいて測 定した.粉体投入用配管下部に吊り下げられたファラデ ーケージ内(0.22m×0.28m×0.24m)に粉体を投入し, 粉体の電荷量Q [C]および重量M [kg]を計測し,比電荷 σ [nC/g] を求めた.測定結果を図6に示す.これより, FIBC充填前の粉体のσは,湿度Hによらず約-1.2nC/g となることを確認した(誤差範囲:3 %以内).これは, 一般的にPP粉体の撥水性が高いということの影響と考 えられる.従って,FIBCのVsのHへの依存性は,粉体 の初期電荷量の変化によるものではない. 次に,電荷緩和に影響するFIBCのρsがHに依存する と予想し,粉体と直接摩擦される内袋部分のρsを各Hに おいて測定した.Hは24時間所定の値に調整することに よって内袋がなじむように前処理を行った.ρsの測定に は,超高抵抗計(R8340A,アドバンテスト),同心円リ ング電極(PRF-911,ProstatCorporation)を使用した. 測定結果を図7に示す.これより,内袋についてはHの 上昇に伴いρsが明確に低下することが確認された.ただ し,湿度70%においても1014Ωを超えており依然として 高く,この程度のρsの変化により電荷緩和が促進される とは考え難い.しかしながら,ρsの測定における超高抵 抗計を使用する場合の印加電圧は最大1kVである.一 般的に樹脂類のρsの値は印加電圧への依存性が高いので, より高い印加電圧(例えば数十kV)で測定すればρsの 影響が顕著になると考えられる. 今後,実験中における 十分な安全を確保しながら再検討を行う必要がある. 以上より,FIBCの表面電位のHへの依存性について 充分な説明はできないが,FIBC表面の状態がHにより 変化していると推測され,粉体とFIBCの摩擦帯電にお ける電荷中和現象等になんらかの影響を及ぼしているも のと考えられる.

20

30

40

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-3.0

-2.5

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温度: 20℃ 比表 比

, σ

[n

C/

g]

相相相相

[%]

図6 FIBC充填時の粉体の比電荷と相対湿度の関係 図7 内袋の表面抵抗率と相対湿度の関係 70 1014 1015 1016 1017 表表表表 表 , ρs [Ω ] 内袋 温相::20℃ 30 40 50 60 相相相相, H [%] 図5 FIBC表面電位の最大値

30

40

50

60

70

80

-160

-140

-120

-100

-80

-60

-40

-20

0

表表

表表の

最最

, V

s, ma x

[k

V

]

相相相相

[%]

温度: 21℃ 30 40 70 80 20 40 60 80 100 120 表 表表表 の最最最 , Vs, max [kV ] 50 60 相相相相, H [%] 温度: 21℃ (a) 充填時 (b) 排出時 図4 各相対湿度におけるFIBC表面電位の経時変化 0 50 100 150 200 250 300 -200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 温度: 21℃ 39 % 49 % 59 % 65 % 70 % 表表 表表 , Vs [k V] 75 % 時時 [s]

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3.4)帯電したFIBC表面から発生する静電気放電 図8に帯電したFIBC表面に金属球電極を接近させた 時に観測された静電気放電波形(電流)の一例を示す. これより,帯電したFIBCの表面からは,電流ピーク値 Ip = -1200mA,放電持続時間d = 400ns程度の静電気放 電が発生することが確認できた.今回のように,数cm の曲率半径をもつ接地金属と絶縁性FIBC表面との間で 発生する放電は,ブラシ放電に分類されている. 表2に観測された電流を時間積分して求めたQを,観 測のタイミング,放電発生部分ごとに示す.これより, 粉体充填・排出時の両方において,帯電したFIBCからは, 一部の条件を除いて明確なブラシ放電が観測された.測 定ごとに大きなばらつきが生じるものの,充填時には全 ての条件で負極性の電荷が観測された.一方,排出時に はFIBCの放電部分により,電荷の極性が変化した.Q の絶対値については,充填時の方が排出時よりも大きく なることを確認した. 本測定でのQの最大値Qmaxは-286nC(充填時,排出 口)に達することが確認できた.Qのみで静電気着火危 険性を判断するのは簡単ではないが,その値は産業現場 における静電塗装機からの粉体への着火リスク管理 値14)200 nC[絶対値](等価エネルギー:2mJに相当) を超えており安全上の対策が不可欠であることを示して いる.ちなみに,静電気(ブラシ)放電は,負に帯電し た物体から発生する正極性放電の方がより着火性が高い ことが知られており15),今回の場合には,充填時の放電 は排出時に生じる放電よりも危険性が高い. 一方,FIBCが絶縁性のため,正確な放電エネルギー を算出することはできないが,ブラシ放電は最大4mJ の火花放電に相当する放電エネルギー(等価エネルギー) を有することも知られている16).化学プロセス等におい て,有機溶剤を含む粉体(ハイブリッド混合物)はブラ シ放電でも着火する可能性が高いため注意しなければな らない.なお,粉体のブラシ放電による着火性について は議論が続けられているが,最小着火エネルギー1mJ 以下の特に着火性の高い粉体についてもブラシ放電によ る着火に注意する必要があると考えられる. 3.5)帯電したFIBC付近の接地不良金属から発生する 静電気放電 図9に,FIBCから静電誘導を受けた接地不良金属(金 属円板)から発生する静電気放電波形の一例を示す. 図8のFIBC表面から発生したブラシ放電と比べると, 短時間のパルス状の放電であり,電流のピーク値も約6 ~7倍程度と高くなり,容易に知覚可能な閃光と破裂音 を伴った.今回のように,接地金属と接地不良になった 金属との間で発生する放電は,火花放電に分類されてい る.一方,すべての実験値のばらつきがかなり少なく再 現性も高く,Qmaxはそれぞれ -249 nC(充填時),164 nC(排出時)でありブラシ放電と同レベルであった. 次に,金属円板から発生する火花放電エネルギーを推定 するため,金属円板の静電容量を測定した.静電容量は, 試料の測定環境や姿勢によって変動するが,ここでは, 上記実験と同様の位置(姿勢)で測定したところ10pF であった.これより,火花放電エネルギーは,Qが-249 nCの場合には,W = (1/2) Q2/Cの式(W: 静電エネル ギー [J],Q: 放電電荷量 [C],C: 静電容量 [F])から3.1 mJとなり,各種可燃物(可燃性溶剤・粉体など)の着 火に充分な値であることが確認できる.また,この時の 電圧VW = (1/2) CV2より,25kVまで達したこ とも言える.今回の実験は,バケツ等の小型の金属製品 が帯電したFIBCに近接するような状況に該当し,静電 気による災害を防止するためには現場において接地不良 金属を徹底的に排除することの重要性を改めて示してい る. -200 0 200 400 600 -1600 -1200 -800 -400 0 Ip 放表 表放 , I [mA] 時時, t [ns] d 温度: 20℃ 湿度: 40% 図8 帯電したFIBC表面から発生した静電気放電波形の一例 (充填時) 表2 FIBC表面から発生するブラシ放電の電荷量 区分 放電部分 放電電荷量Q[nC] 充填時 本体 本体 -77, -77, -147 排出口 -218, -286, -232 内袋 -6, -20, -10 排出時 本体 本体 5, 48, 24 排出口 -76, -125, -145 内袋 放電なし *観測3回分の結果 -200 -100 0 100 200 300 400 0 2000 4000 6000 8000 10000

放表

表放

, I

[mA]

時時

, t [ns]

温度: 20℃ 湿度: 40% 図9 帯電したFIBCに近接した接地不良金属からの静電気放電 波形の一例(排出時) Vol. 13, No. 1, pp. 57 63, (2020)

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4 まとめ 本研究では,粉体充填・排出時の絶縁性FIBCの静電 気特性について定量的に調べた.その結果をまとめると 以下のようになる. (1)  FIBCのVsは,粉体の投入と排出時のいずれも絶 対値100kVを超え,非常に高く帯電している状 態であった.また,Vsは測定環境のHに強く依 存したが,湿度75% においても,Vs-maxは約45 kVに達した. (2) 帯電したFIBC表面からのブラシ放電は,Qの絶 対値が200nC以上となり,可燃性液体・粉体を 取り扱う現場に対しては安全なレベルではない. (3) 帯電したFIBCの周りに小型の接地不良金属が存 在する場合には,数mJの着火性の高い火花放電 が発生する危険性があるため,静電気による災害 を防止するためには接地不良金属を徹底的に排 除しなければならない.      文 1) 山隈瑞樹. フレキシブルコンテナに関連した労働災害と規 格の動向. 労働安全衛生研究. 2014; Vol.7,No.2: 67-76. 2) IEC 61340-4-4:2012, Electrostatics ‒ Part 4-4: Standard

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14) BS EN50050-2:2013. Electrostatic hand-held spraying equipment-Safety requirement- Part 2, hand-held spraying equipment for ignitable coating powder

15) W. D. Rees. Static hazards during the top loading of road tankers with highly insulating liquids: flow rate limitation proposals to minimize risk. J. Electrostat. 1981; Vol. 11: 13-25.

16) M. Glor and K. Schwenzfeuer. Direct ignition tests with brush discharges. J. of Electrostat. 2005; Vol. 63: 463-468.

(7)

Vol. 13, No. 1, pp. 57 63, (2020)

Electrostatic Characteristics of Insulating Flexible Intermediate Bulk Container

by

Kwangseok Choi*

1

, Yuta Endo*

1

, Yuki Osada*

2

and Teruo Suzuki*

2

Powder handling operations are conducted to support our daily lives and industrial society. However, industrial accidents caused by electrostatic charges or/and discharges on powder still happen along with the use of insulating flexible intermediate bulk containers (FIBC). This paper examines the surface voltages of charged FIBC along with the electrostatic discharges generated from charged FIBE during powder loading and unloading. A conveyor type test facility including FIBC and about 300 kg of polypropylene powder (PP, 2 mm) was used for this test. As a result, the maximum surface voltage exceeded 100 kV during both loading and unloading. As for the polarity, the charge was negative during loading and positive during unloading in this study. The surface voltage decreased with increas-ing relative humidity, However, even at above 75% humidity, about -50 kV with loadincreas-ing (about 45 kV in unladincreas-ing) still remained, which still does not meet the safety level. In the case where the grounded metal spheres approached the charged FIBC, the maximum discharge amount of electrostatic (brush) discharges was above 200 nC, which may ignite combustible liquids and very sensitive powders.

Key Words: Flexible intermediate bulk container, powder, electrostatic charge, electrostatic discharge

*1 Electric Safety Research Group, National Institute of Occupational Safety and Health *2 Kasuga Denki, Inc.

参照

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