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農村フィールドワークで迷子にならない方法 (フィールドワーク心得帖 第15回)

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Academic year: 2021

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農村フィールドワークで迷子にならない方法 (フィ

ールドワーク心得帖 第15回)

著者

塚田 和也

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

190

ページ

54-55

発行年

2011-07

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004208

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54

アジ研ワールド・トレンド No.190 (2011. 7)

第15回 

塚田和也

  筆者は東南アジア農村を対象 とするフィールドワークを実施 し、 農 家 調 査 に 基 づ く 研 究 を 行 っ て き た。 筆 者 に と っ て フィールドワークの目的は、⑴ 問題背景と事実関係を確認する こと、⑵問題の理解を促す仮説 を形成すること、⑶仮説を検証 するための実証手段を見出すこ と、の三点に要約される。実際 の分析に先立って行われるこう し た 作 業 の 重 要 性 を 鑑 み る と、 研究の良し悪しは分析を開始す る前におおかた決まってしまう と考えて差し支えないように思 う。フィールドワークが重要な 理由である。   残 念 な こ と に、 フ ィ ー ル ド ワークが目的に沿って理路整然 と進むことは稀であり、満足で きる仮説や実証手段を見いだせ ないまま帰国の途に就くことも ある。目的にたどり着く道筋が あ ら か じ め 見 え な い こ と は フィールドワークの醍醐味であ る が、 そ れ 故 に、 迷 子 の ま ま フィールドを去ることも珍しく ないのである。迷子になる理由 には、調査の時間的な制約もあ るが、それ以上に筆者の経験不 足によるところが大きい。その た め、 筆 者 が 語 れ る こ と は フィールドワークで迷子になる 方法なのだが、ここでは我が身 を反省して迷子にならない方法 を考えてみたい。 ● 農村フィールドワークで わかること   農村フィールドワークの目的 を達成するためには、関連する 全ての情報を収集する必要があ る。農村は生活と生産の現場が 重なり合う空間であり、実際に はそこを訪れるだけで様々なこ とがわかる。農家の暮らしぶり はもちろんのこと、農地利用や 作目選択、家畜や農業機械の保 有、 イ ン フ ラ 水 準 な ど 観 察 に よってわかることも多い。農家 にインタビューを行うことがで きれば、さらに多くのことを学 ぶことができる。個々の農家の 経済状況に加えて、農村の組織 に つ い て も 知 る こ と が で き る。 農村には水利を中心とした生産 関連組織や生活を支える社会組 織が存在し、研究テーマによっ てはこうした組織の役割に十分 な関心を払う必要がある。   これらの情報を得るため、農 家インタビューでは必ず聞くべ き 内 容 が あ る 程 度 定 ま っ て お り、それらをこなすだけでも結 構な時間がかかる。一通り定型 化された質問をしたあとは、思 いつく範囲で関連する情報を尋 ねていくことになる。ところが こ こ で、 厄 介 な 問 題 が 生 じ る。 関連する全ての 情報として何が 含まれるか、事前にはわからな い という問題である。 一般的に、 初めて訪問した先で、農家が質 問されないことを雄弁に語りだ すことはあまりない。調査に非 協力的だからではなく、こちら の知りたいことに応えようと質 問を待っているのである。その ため、農家インタビューで自ら の想像の範囲外にある情報を得 る こ と は ほ と ん ど 期 待 で き な い。   最初に得られた情報の印象に 引きずられて、関連する情報の 収集が疎かになってしまうケー スもある。いま、土地生産性の 上昇が、生産規模分布にどのよ う な 影 響 を も た ら す か 知 り た かったとする。筆者らの調査地 では、ダム建設に伴って、西側 では地表灌漑が利用可能になっ た一方、東側では灌漑建設がな さ れ て い な い 状 況 が 確 認 さ れ た。そこで、灌漑建設による土 地 生 産 性 上 昇 効 果 を 利 用 し て、 西側と東側の農業生産構造の変 化を比較することを考えた。灌 漑建設以前の状況は、差がない と い う 話 を 聞 い た た め で あ る。 ところが実際には、ダム建設に 伴う地下水位上昇により、東側 でも農家個別投資による地下灌 漑が普及していたのである。こ の事実を確認したのは、調査も ほぼ中盤に差し掛かったころで ある。東側では灌漑が存在しな いという思い込みから、西側の 灌漑利用状況を調べることに専 心していたのである。   本来は知り得たにもかかわら ず、知識や経験の不足、想像力 の欠如、思い込みによって見過 ごされる情報の存在は、筆者に とって現実的な懸念である。懸 念を最小限にするため、基本的 だが以下の方法が有効だと思っ

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アジ研ワールド・トレンドNo.190 (2011. 7) ている。第一は、同様の質問を なるべく異なる階層の農家に尋 ねることである。回答の違いと 理由から、予期しなかった情報 の存在に気づくきっかけが与え られる。経済発展が進む東南ア ジアの農村は、農家だけが居住 する空間ではないため、時間が あれば非農家からも話を聞ける と良い。第二は、熟練した他の 研究者と一緒に調査を行うこと である。他の研究者は自らとは 異なる視点を提供してくれるた め学ぶことが多いうえ、自らの 思い込みを正してくれる。第三 は、相手に調査意図を正確に伝 えることである。これは、意図 を 理解してもらうことで 関連す る情報が自発的に提供されるこ とを期待するものである。ただ し、調査意図をあまりに強調し すぎると、農家の 回答に一定の 方向性を押しつけることにもな りかねない 。少なくとも、調査 の初期段階で研究者の仮説を披 露するようなことは控えた方が 良いと思う。 ● 農村フィールドワークで わからないこと   関連する全ての情報を得るこ とができれば、仮説の形成やそ の検証方法を見出すことはぐっ と 容 易 に な る。 し か し、 農 村 フィールドワークで あらゆる分 析 が 可 能 に な る わ け で は な い。 情報には量だけでなく質の問題 もあるが、 農村フィールドワー クで得られる客観的で正確な情 報 は 実 の と こ ろ ほ と ん ど な い。 農家の生産活動は季節性や各 圃 場 の条件に左右されるため、時 期や圃場を区別して質問をする ことがある。ところが、細かい 区分ごとに正確な情報を提供で きる農家は多くない。記憶には 曖昧さがともなううえ、今のと ころ正確な記録をとどめておく インセンティブが農家にとって も大きくないためである。した がってある程度の誤差を含む情 報で満足することになる。この 問題を避けるために、農家と取 引関係にある業者の情報を用い ることがある。例えば、サトウ キビ農家であれば、製糖工場と の取引履歴情報から、 収穫時期、 販売量、単価、糖含有率を得る 方法があるだろう。地理情報シ ステムの活用も、近年ますます その重要性を増している。圃場 位置や面積、耕作者属性などの 基本的情報がシステムに統合さ れていれば、分析の正確さが増 すうえに、 適用範囲も拡大する。 ただし、こうした客観的情報が 利用できる文脈は依然として限 られている。   農村フィールドワークでわか らないもうひとつのことは、全 ての農家間で共通する情報の意 味である。農村フィールドワー クでは調査を効率的に実施する ため、対象を特定の地域に限定 することが多い。こうした 地域 内では、市場環境やフォーマル な制度・政策が同じになる。 農 家の経済状況を規定する重要な 要素であるが、 違いが見当たら ないため、農村 フィールドワー ク によって影響を分析 すること は 至難の業である 。インフォー マルな制度や農家の主観的態度 についても同様のことがいえよ う。 筆者の経験によれば リスク への態度、現在と将来に対する 考え方、他人に対する信頼感な ど、主観的態度は農家間で全く バラバラになることはなく、む しろ地域で一致する傾向が強い ように思う。 外生的な要素であ れ、農村の 社会的相互作用を通 じて 形成される内生的な要素で あれ、地域で共通する情報につ いては、ひとつの農村フィール ドワークから直ちに結論を導か な い と い う 自 制 心 が 必 要 で あ る。これらの点に 関心がある場 合は、農村フィールドワークの 範囲を広げ、様々なタイプの農 村に注意深く目を向けることが 求められる。   農 村 フ ィ ー ル ド ワー ク で 迷 子 に な る 状 況 は 二 つ に 大 別 で き る 。 第 一 は 、 農 村 フ ィ ー ル ド ワ ー ク で わ か る は ず の こ と を 見 過 ご し た ま ま 、 仮 説 形 成 や 検 証に 向 か う 状 況 で あ る 。 こ の 情 況 を 直 接 確 か め る す べ は な い が 、 そ の 場 合 、 自 ら も 結 論 に 対 し て し っ く り こ な い 感 覚 を 味 わ う こ とに な る 。 第 二 は 、農 村 フ ィ ー ル ド ワ ー ク で わ か ら な い こ と を 考 慮 せ ず に 、 仮 説 形 成 や 検 証に 向 かう 状 況で あ る 。 そ の 場 合 、 当 然 な が ら 上 手 く い く 可 能 性 は 小 さ い 。   こうした状況に陥らないため に、やはり同じ農村に何度も足 を運んで継続的に調査すること は重要である。時間を通じた変 化を観察することで、それまで 見落としていた情報の存在に気 付くことがある。また、変化の 対 象 が 一 部 に 限 定 さ れ る 場 合 は、仮説検証が容易になること も あ る。 現 実 に 起 こ る 変 化 は、 研究者にとっては予想の範囲外 で あ る こ と も し ば し ば で あ る が、 継続的にフィールドワーク をしていればこそ、突然の変化 から学ぶ機会も大きくなるので ある。 つかだ かずなり  アジア経済研究所 ミクロ経済分析グループ

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1 Library, Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization (3-2-2 Wakaba Mihama-ku Chiba-shi, Chiba 261-8545). 情報管理 56(1), 043-048,

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