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組木の研究

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Academic year: 2021

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(1)Title. 組木の研究. Author(s). 大塚, 哲郎. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. C, 教育科学編, 34(1): 309-323. Issue Date. 1983-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/4916. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 組. 木. 大. の. 塚. 研. 哲. 究. 郎. 序 千数百年の歴史と伝統をもつわが国の木造建築, とりわけ京都, 奈良を中心とした古建築の美し さは, 今日のわれわれを魅了してやまないものである. これら木造建築の美は, 木そのものの魅力 とあわせて木組構造の構成美によるところが大きい。 校倉造で有名な正倉院の ダイナミ ックな木組 構造, 数寄屋風書院造の代表建築 である柱離宮の軽快・簡素な空間構成, 飛弾高山の日下部邸にみ る豪壮な梁の骨組み構成など, 数々の名建築をあげることが出来る。 私はこれら木造建築の木組構造の中にひそむ造形原理を探り出し, そこからイメージを得て組木 の立体造形作品を創作するという活動 を続けているが, 私をこのような方向へ導いてく れたもう 一 つのきっかけは, 箱根小田原の山中成夫の組木細工であった. ここでは, 木造建築の木組, 箱根細 工の組木について考察し, これらの影響を受けながらも独自の展開を試みてきた自作の何点かをと りあげて, 制作意図や組木造形の可能性について述べてみたい。. 1. 木造建築の木組. 西欧は石の文化, 日本は木の文化とよくいわれてきたが, わが国ほど木造建築の技術の発達して いる国はない。 7・8世紀に大陸から伝来した建築技術の成果は, 法隆寺, 唐招提寺, 新薬師寺を 見ることにより, その木工技術の高さを知ることが出来る。. このような優れた木工技術が発達した理由の一つは,わが国が古くから豊かな森林資源に恵ま れ, 松, 杉, 桧などの良質の建築用木材をふんだんに使用することが出来たことである。 やがて時代を 経るにしたがって, 次第にそれらを使い果たし, 良質の木材を得ることが難しくなっ てきて, 質の 悪い木材 でも利用しなければならなくなり, そういう不良材で真っ 直ぐな家を建てるような技術を 考え出さなければならなくなった. それがいろいろの工具や木材加 工技術を開発させた理由 であろ. う。 すなわち, 森林の減少により大きな木材を自由に使えなくなっ たことから, 木材と木材を継い だり, 組み合わせて使う 「木組の技法」 が考え出さ れたのである. わが国の建築物は, 柱と梁を垂直と水平の部材を交差して組み立てる方法がほとんどであっ て, 部材が三次元で互いに直角に交わる木組が規準になって出来あがっている。 この垂直と水平に あた. る部材をどのように組み合わせるかということ, たとえば柱と梁を継いだり, 柱の台の上にのせた り, あるいは梁の上に別の梁をのせたりするために, いろいろな継手と仕口が考え出されたのであ る. 継手, 仕口というものは, 建築物の構造と強さ, あるいは美しさを表現する重要なポイン トで 309.

(3) . 大 塚. 哲. 郎. あ る.. ところで, 柱と梁で組み立てる方式とは別に, 材木を横に積ん で建築物をつくるやり方がある . 校倉造は, 耐久力のある構造とかたち の美しさを兼ね備えた代表的な木組建築 である 奈良時代の . 遺 構としては, 正倉院宝庫, 唐招提寺宝蔵など数棟のこっている 古くは甲倉と呼ばれ 正方形に . , 近い平面のものと, それを二つ並べ, 中間を板倉でつないだ双甲倉と があった 校倉造は 正式に , . せいろ ぐみ. は蒸寵組といわれ, 水平に組まれた接合部 が木材の乾湿によっ て開いたり閉じたりして 室内の湿 , 度を一定に保 つように工夫さ れているといわれてきた.. 校倉の壁体を構成 する三角材は各頂点を削って面を取り, 厳密にいえば断面不等辺六角形をなし ている。 そして垂直に使っ た面は平らであるが, 他の二面すなわち外側 にあたる面をゆるやかな凹. 曲線に削っ てある. これに ついてはいろいろな説があるが, 直線の固さをやわらげるための意匠と みるのが隠当であろう. 校木を三角形に用いた理由としては, 製材が容易 で経済的である 点があげら れている さらにこ . れに つけ加えると, 板倉に比して堅牢 である. 正倉院中倉の板倉壁が風化のためにその最も甚だし. い所では当初の約半分 の厚さになっ ているのを見ても, 三角材校 木の頑丈さがうかがわれる . ちような 法隆寺などの古 い時代の建築 では, 大工道具の主役は手斧 であり, 手斧 であれだけのものを削り. 出していたわけである。 したがって, 継手, 仕口も後世のものに比べると 構造も簡単で種類も少な か った. 突き付け, そぎ継ぎ, 腰掛け継ぎ, 相欠き継ぎなどがあり, それらが時代を経て改良を加 えられ, 特に工作工具の進歩した江戸時代に今日残っている継手, 仕口の技法のほとんどが完成 し た と い わ れ て い る.. ここでは, 多種多様にある継手と仕 口の中から, 組木造形への応用の可能性のある代表的なもの をいく つか選び, 図解して示すことにする.. 1 1 箱根細工の組木 一般に箱 根細工といわれているものは歴史が古く, 13 00年 ぐらい前に, 南方より木工細工の巧み な 「紀の族」 という種族が, 小田原市内の早川に土着し, 木材を求めて付近の箱根山に登ったこと から, 箱根細工の名 がついたと伝えられている.. 箱根細工は最初挽物からは じまり, 指物 (箱物, 寄木, 組木を含む) は, 江戸時代から盛んにな り, 江戸末期から明治時代に入り, 各種指物玩具が作られるようになっ た . 今日では, 箱根細工といえば組木細工をさすといわれる程指物 の中 でも特色のあるものとして知 られているが, もともとは左甚五郎などの名工が遊 びとして作っ たものから始ま ったものである . 天保7年 ( 1836年) の 「名陽見聞図絵」 という古文書に 「この節, 知恵組というものはやり, 所々 に売り出す」 とあり, これは 「六本木組木」 をさしていると思われる . 欧州にも ドイ ツあたりに古い組木があるそうだが, 日本と西欧のどちらに 早く発生したのかを正 確に裏づける資料はまだとぼしい. 日本の組木が, 柱と梁できた建築 物の風土と関係して 直線的 , 構造をもち, ユニ ッ トの部品が外側 に集積して一つの完結した世 界をつく ろうとするものが多いの. に対して, 西欧の組木は, 内側 に向けてさま ざまな切り方を試みた曲線的構成のものや 軸を60度 , に交差させた多面体構成のものなど, 柄を一切使わずに互いにからみ合わせて差し込んでいくだけ で組み上がる原理のものが多い. 現在, 組木細工の名 匠といえば, 箱根小田原に工房をもつ山中成夫 (伝統工芸重要文化財指定) 310.

(4) 組木の研究. 相欠き接ぎ. 横栓, しゃち継ぎ. 込み栓三枚組み継ぎ 十字目違い継ぎ. 四方柄継ぎ. 目違い入り腰掛け蟻形継ぎ. 肩付き三枚組み継ぎ. 杵形千切り継ぎ 1 罰朝. 目違い入れ鎌継ぎ. し1 )はさみ継ぎ. 腰掛け鎌継ぎ. 追い掛け大栓継ぎ. しゃち継ぎ. 箱目違い継ぎ. 股欠き蟻形柄接ぎ. 図1 311.

(5) . 大 塚 哲 郎. 鞄A. 留め形隠し蟻三枚接ぎ. 地獄蟻柄接ぎ. 包み蟻形腰掛け接ぎ. 肩付き矩柄接ぎ. 井桁接ぎ. いすか継ぎ. 扱き柄組み接ぎ. 違い柄の座枠. 隠 、し蟻形組み接ぎ. 股柄組み接ぎ. 組枠と脚の納まり. 柄組)枠台輪. A 〆. 剣留め寄せ組手の納まり. 鏡板蔽め枠戸 図2 312.

(6) . 組木の研究. 00年前, の名が第一にあげられる, 彼は四代目に当たり, 初代で祖父の山中常太郎が, 今から約1 三輪車 明治の初期に 「組木細工」 として始めて開発したそうだ. その代表作には, 折鶴, , サイ ド カー, オートバイ, 飛行機, 五重塔, 日光陽明門などがあり, それらは今見ても十分 観賞にたえる. ものである. 単純化した形が素朴な仕上りを見せているが, 当時としては, ここまでの単純化はか なりの冒険であっ たろうと想像される. そこにはまた, 指物細工の元祖の様相が示されている. 二代目で伯父に当たる和市は, 組木の新構造の考案に専念したと伝えられており, 作品としては, 天守閣, 国会議事堂, 戦車付重砲, ロン ドン塔やピサの斜塔など, 世 界中の建物が多く, 構造と具 象的な形態との バランスが良い. この時期になると, もう山中組木の評判は不動のものとなった. 三代目で父の広吉は, 「全世界の人々に一番愛されているのは動物である」 という信念をもって,. 2支の動物を手始めに, 象, 豚, ライオン, カ バ, ラクダなどあらゆる動物を手がけ, 世界中にそ 1 れらの作品を輸出して, その名は名実共に世界的になった. 四代目の山中成夫は, それま で三代続いた具象的形態から脱して, 抽象的形態の組木を創案した. 彼は, 自分の家に伝承されてきたいくつかの普遍的な構造と構成の 上に立ち, 更に多くのものを開 発し発展させた.. 彼の作品は, 近代建築に見られる直線の美とか, 無駄のない合理性の美感というようなもの, 一 種の建築構造体のような感じをもたせたものが多い. それらは, 抽象彫刻として見ただけでも美し い形態でありながら, 級密に計算されていて, 組み立て分解出来るパズルとしての面白さ, 楽しさ を 合 わせ も っ て い る.. 代表作としては, 赤玉, 清水, マス, 6本, 19本, 27本, 51本, 暁のパズル, 夢遊, 集積組木な どがあげられる. これらは, 柄の入れ方や組み方に名 人芸ともいえる技術をこらしたものが多く, 数学者でもおいそれとは解けないものもある.. 赤玉. 27本. 1本 5. 図3. 1 1 1 組木立体造形 先に述べたとおり, 箱根細工の組木は高度なパ ズル的要素をもちながら, その構造美は芸術にま で高め られている. 私はこれら山中成 夫の作品に啓発されて組木造形にとりくみ始めたが, 箱根組木の精巧をきわめ. た小さなオブジェ, 手の中におさまる量感に飽き足らず, もっとスケールの大きな立体造形に展開 させることを試みてきた. ナラ, カツラ, イ タヤなどの手近に入手できる木材をふん だんに使い, 313.

(7) . 大 塚 哲 郎. 木の魅力をたっ ぷりと見せながら, あくまで組木という 条件の中で, シン プルでダイナミ ックな現. 代造形を生み出してきた. ここに未熟ながら, 自作のいくつかを分類して提示し, それぞれの造形思考のポイントを述べて い き た い.. 1. 角材によるもの. 作 例( 1 ) 北斗. (作例1-作例3). (w.112× d.130× h.135 ) 1980 桂 材 部 材 数 84 第 31 回 モ ダ ン ア ー ト展 出 品. 部門賞受賞. 新会員推挙. この作品は, 山中成夫の「赤玉組木」にヒントを得て作っ たものである. まず, 角材12本で立方 体を組み, その外側に-まわり大きな立方体を積み重ねて組み, 次々と同じように組んでいくと, 七重の立方体が出来上がる. これを一 つの頂点で立たせると, 不安定の中の安定という極めて緊張. 感のある立体造形となる. この作品は, 見る角度によって様々な形が現われ, 神社の棟木を想わせ たり, 北斗七星を連想させるところから, 「北斗」 と名づけた.. 写1. 北. 斗. 基本形は, 「赤玉組木」と全く同じであるが, 部材の切り込み方と組み立て方が異っている. すな わち, 「赤玉組木」は5種類の部材12本で組み立てられているのに対し, 「北斗」は2種類の部材12 本で組み立てており,この上にどんどん積み重ねの出来る構造 である.そして 「北斗」 の方は, 部材 の交差する隠 、れた部分 に4分の1の空洞ができている. 山中成夫は, 「組木の部材が互いに交差する部分は完全に密 であり, 空洞をつく ってはならない」 314.

(8) . 組木の研究. という条件を課しているのに対して, 私の組木の考え方では, 空洞の出来ることを許容し, あくま でも立体造形としての完成度を重視しているということである 作 例(2 ) ネ ガと ポジ 1981. (w.92× d.92× h.92 ) 楢 材 部 材 数 84. モ ダ ンア ー ト新 鋭 作 家展 出 品. この作品は,「北斗」 の制作からかな. り 後 日,ふ とイ メ ー ジ が 浮か び,ひ ょ っ. とするとこの 「北斗」 を裏返した形が 作れるのではないかと直感した.早速, 分解して同じ部材をいじくりま わして い る う ち に, ピタ ッ と 決 ま る と こ ろ が. でき, 次々と組み上がっていった. 眺. 』. 望. 斗」 の部材が1本残らずきちんと収ま. j. り, 造形的にも 「北斗」 のイメージと は正反対の内側に向って凝縮したフォ ルムが出来上がっ た. 組み立てる順序 も, 同ヒ斗」が中心から雪だるま式に積 み重 ねていく のに 対して, 「ネ ガと ポ. ジ」 は, まず一番外側の木を組み, 順 次内側に向って組み上げていくという. 写2. ネガと ポジ. 手法である.. こ の 形 の 面 白 い と こ ろ は, 外 観 だ け でなく, 内. 部空間が一つの小宇宙を形成していて, まるでゴ シック建築の大聖堂の内部を覗き込んだような感 じがすることである. この作品は, 置く方向を9 0 度変えると, かなりイメージの違った別の作品の ように見えるのも特長である. 作例( 3 ) まつ り. (w・1lox d・50× h,140 ). 1982 桂材. 部材数2 24. 第5 7回北海道美術協会展出品 「北斗」 と同じ手法で作られた立方体4つを結 び合わせ, 斜め方向に4本の脚 で立たせた形であ る. それぞれの面には漸増する正方形が見られ, 快いリ ズム感がある. この作品の造形上のポイン. トは, 4つの立方体がある間隔をもって結び合わ されており, それが十字形の深い谷間をつくり, 強 い ア ク セ ン ト と な っ て, グラ フ ィ カ ル な パ タ ー. 写3. まつり 315.

(9) . 大 塚 哲 郎. ンを浮か び上がらせていることである. 全体的には, 神社の棟木や 祭犯を想わせるところから 「ま つ り」 と名づけた. 2. 角材と板材によるもの. (作例4-作例6). ) (w.40× d.40× h.160. 4 ) 桂の塔 作例(. 1979 桂材. 部材数14. 第3回北海道現代美術展出品 この作品は, 真っ 直ぐに伸 びる柱と6枚の板による単純明快な構成である. それは ぐんぐん生長 を続ける植物を連想させたり, 五重の塔を象徴したよう なフォ ルム である. 垂直の柱を十字に交差 させ, 水平面の板には規則 的な切り込みを入れることによって, プロ ポーショ ンのまと まりを考え, 簡潔で端正 な美しさをねらっ た. 写4 桂の塔 作例( 5 ) あぜく らの棚. (w.88× d.45× h.160). :83 1 977 桂材 部材数 第2 7回モ ダンアート展出品 316.

(10) . 組木の研究. レンガを積 み重 ねたような角 材の壁を, 45度に傾けた別の角材が水平に貫ぬく構造である. これ. らはただ積み重ねたように見えるが, がっ しりと組んであり, 押しても引いても, びくともしない くさび 頑丈なものである. この組木の仕組は, 角材の内部を上から下ま で貫通している鋸状の形をした襖 材がポイントである. この棚は, 木の魅力をたっ ぷりと生かした重厚なものであり, 機能性も十分そなえているので, 無垢の木の少ない今日の住空間によく調和しそう である.. . . . ー. 総 L一だ --. - --- -′ ー. . ド 【 L 」 - [ 「一 【 t 「 十 一 - 「 L , - ド 」 十 十 だ 「 」. 写5. 6 ) キ ャ タ ピラ の 棚 作 例(. あぜく らの棚. ) (w,96× d.45× h.165. 197 8 桂材 部材数32. 第28回モダンアート展出品 この作品は, 組手の仕組のはっきり見える極めて単純な構成である. このような単純 な手法で, 魅力あるフォ ルムを生み出していくことは大変難しいことではあるが, 複雑な手法で作り出した作 品よりも, 自然の原理にかなった無理のない形が出来るよう である. この作品でも, 角 を丸く した正方形の板2枚ずつを, 角を削っ た丸棒で継ぐという手法で, 基本 的には直線的構成でありながら, 柔らかな曲線的イメ ージの出ている重厚な作品となっ た。 317.

(11) . 大 塚 哲 郎. この棚も 「あぜく らの棚」 と同じように, 一般に使われている棚などと比べると, 大変無駄の多 い賛沢な作り方である. しかし, 棚そのものが何かを語りかけてくる魅力あ る在存, そのようなも のを私は作り出していきたいと考えている.. ■. ヲ ′//. ′ ノ - ー - - - - --. 写6. 3. キ ャタ ピラの棚. 板材によるもの. 作 例( 7 ) 風車. (作例7-作例9) (w.120× d.25× h.120 ). 1 978 桂材. 部材数12 0. 第2回北海道現代美術展出品 この作品も 「キャ タピラ」 とほとんど同じ構造である. 長方形の平板2枚ずつを, それぞれ穴が 合うように重ねて, その中に 「相欠き継ぎ」 の手法で切り込んだ板を差し込んで, 両側に押しひろ. げ, 最後に襖板 で締めつけて組み立て完了する. この組木は, 実用的な棚としても使えるが, 立体 造形として見せる時は, 斜め方向に一点で立たせると, 格子の陰影が一層美しく見える. またこの 作品は, エン ドレスに どこまでも拡げていけるのと, どんな形に でも展開していけるのが特長であ る.. 318.

(12) . 組木の研究. 写7. 風. 車. 作例( 8 ) ジャバラの棚. 1976 桂材. (w.100× d.50× h.125 ). 部材数1 8. 第2 9回モダンアート展出品 この作品は, 側板が屑風のように折れ曲がった日本的な雰囲気のある形である. そして, 三次元 に交差した部材をどのように合理的に継ぎ合わせるかという難題に対する私の一つの解答 である. すなわち, 斜めの板と水平の板を前後に貫ぬく板で固定するという構造になっ ているが, この構造. から必然的に出てくる棚板の間に出来るわずかな隙間が, この造形の大きなポイントである.. に . 写8. ジ ャ バ ラの棚 319.

(13) . 大 塚 哲 郎 作 例( 9 ) ホ ー ン 16. (w。180x d.25× h.180). 1980 楢材. 部材数16. 第30回モダンアート展出品 この作品は, 長尺板8枚ずつ をそれぞれ60度に傾けて水平, 垂直に交差させたもので, 衝立のよ うに空間を遮断する造形である. 継手としては, 最も基本的な 「相欠き継ぎ」 を応用しているが, 傾斜した板同志を交差させ るための切り込み角度の計算に大変苦労した.. この作品の面白さは, スタジオの音響板のようなものが規則的に連なって交互に凸凹を繰り返し ており, 表と裏はプラスとマイナスの関係に なっていて, それぞれに表情が異なって見えることで ある. 構造や構成が単純 であっ ても, このように複雑な形が生まれてくるのが組木造形の特長であ る.. ご. Wぁ 歩ノ く き. 写9. 4. 桟材によるもの 作例(1 0 ) まる. ′ 繋 ご お. ホーン16. (作例10一作例12 ) (w.46× d。46× h.38 ). 1981 桂材. 部材数252. あそびの木箱展出品 この作品では, 桟 材の特長を生かして龍のように軽快な造形を試みた. 組手そのものは大変単純 である が, 木のね じれによる 曲線が 美しいフォ ルム を形成 している. 一 見 して, 竹 寵 を編むよ うに一本ずつ木を曲げながら組んでいっ たように見えるが, まず板状になったスクリーンのような. 形に全体を組み上げ, それらの両端を丸めて筒状に留めるという組み立て方をしている. すなわち, 320.

(14) . 組木の研究. て ず を 響 報ぜ鰍“亀 メ ミ . 写10 ま. る. こ, すべ ての桟材が一斉に元に戻ろうとする強 この木のね じれは, 筒状に結び合わせ よう とする時も い弾力を, 強引に引 っ 張っ て端と端を留めることにより, 自然に生まれたね じれである. 作例( 11 ) シ ンフ ォ ニ ア. ) 善× h.85 (w.300× d.9 〔. 1982 イ タヤ. :37 部材数 0. 第2回個展 (札幌時計台画廊) 出品 この作品は, 「まる」 とほとん ど同じ構造の組み立て方である. 「まる」 を組み立てる途中に, 巻 貝のような, 竪琴のような, オーロラのような美しい形が出来上がる. この曲面の形を更に大きく 発展させたのがこの作品である. 大きくうねるウエー ブが躍動的に展開し, 大海原の波涛を連想さ せたり, 壮麗なシンフォ ニアを想わせる. この作品は, 見る人の視点の移動につれて, 次々と違っ たフ ォ ル ム が 見 え て く る の が 面 白 いと こ ろ であ る.. 写 11. シンフォ ニア. 321.

(15) . 大. 作 例(12). 響. 塚. 哲. 郎. (w.221× d.96× h.34 ). 1 98 2 イ タヤ 部材数15 0 北海道の美術’ 8 3「北のイメージ展」 出品 こ の 作 品 は, 「シ ン フ ォ ニ ア」 の バ リ エ ー シ ョ ン で あ る。 「シ ン フ ォ ニ ア」 が, 曲 線 あ る い は 曲面. の面白さを見せたのに対して, 同じ部材を使って直線的で幾何学 的な空間 構成を試みた. この作品も, 見る人の視点の移動につれて, 形がどんどん変っ ていき, 様々なイメージを誘い出. すものとなっ た. 私自身は, 「北のイメージ」という課題に合わせて, 湿原を飛び立つ白鳥の姿をイ メージし, 樹氷の透き通っ た爽やかさを連想しながら制作にとりくんだ.. 写12 響. 結. び. 以上, 組木について考察してきたが, 木造建築の木組構造についてはなかなか奥深いものがあり, 継手一つを掘りさ げても様々な発見がありそうに思う. しかし, 木組構造の研究を深めれば, それ. がそのまま組木の造形制作に直結するものでもない. 様々 な継手や仕口を使 って組み立てられた木 造建築の全体像から受けるイ ンスピレーショ ンこそ, 創作の原動力になるもの だと考える.. 組木造形では, 何よりもまず組手のアイ デアを考え出すことが第一条件にはなるが, 組手の構造 そのものが単純であっても, あるいは既によく知られている手 法であっ ても, それらの生かし方次. 第 で, すばらしい造形作品を生み出すことはできる.. 教育の面からとらえると, 組木造形というのは木工の分野に 入れられるが, 同時に立体構成, 空 間構成などのデザイン能力を開発させる格好の教材となりうるものである。 すなわち, このような 322.

(16) . 組木の研究. 組木の制作を通して, 美的直観力, 計画的発展的な独創力, 表現技術を身につけさせることができ る であろう。 私の今後の研究テーマとしても, 創作活動と合わせて, 組木教材の構造化にとりくん でいきたい と 考 え て い る。. 参考文献 70 清家 清:日本の造形 (木組) 淡交社 19 97 7 坂根厳夫:遊びの博物誌 朝日新聞社 1 7 3 坂根厳夫:美の座標 みすず書房 19 9 80 鳥海義之助:木工の継手と仕口 理工学社 1 パズ 8 1 平凡社 1 9 ル百科 高木茂男: 小学館:原色日本の美術 (正倉院) 19 64年5月号) 美術出版社:デザイン ( 197 8年8月号) 美術出版社:デザイン ( (本学助教授 岩見沢分校). 323.

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