「総合的な学習の時間」に対する取り組み状況と情報ネットワークの有効性
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(2) No.55. 「総合的な学習の時間」に対する取り組み. 2000.12. 「総合的な学習の時間」に対する取り組み状況と 情報ネットワークの有効性 小路 徹 (北海道教育大学附属札幌中学校). 並川 寛司 (北海道教育大学札幌校). 渡部 英昭 (北海道教育大学札幌校). Theperiodforintegratedstudyinelementaryand junlOrhighschooIsinHokkaidoandavailability Ofinformationnetworkforthestudy Toru KOJI,KanjiNAMIKAWA and Hide−akiWatabe. 外の学校,特に大規模校のそれと比較して差異を明らか. 1 はじめに. にすることを本稿の目的とした。. 2002年からの新学習指導要領の完全実施をめざし,教 育改革が進んでいる。新学習指導要領にみられる初等・. 2 総合的な学習の時間の特賞と実施状況. 中等教育の大きな特徴として,将来にわたる「生きる力」 の育成と,その具現化の一つの柱として「総合的な学習. 総合的な学習の時間の特賞と僻地教育. の時間」の設定を挙げることができる。総合的な学習の. (1)総合的な学習の時間の特質. 時間は,総合的な学習を位置付ける時間であり,一つの. 先に述べたように総合的な学習の時間の特質は,学校. 教科・領域ではない。この時間には,従来の教育の中で. 知を展開するカ,および社会の問題に興味を持ち,自分. 細分化され学校教育の中でしか生きることのなかったい. なりの考えをもとに追究していくカの育成にある。. わゆる「学校知」の転換があると考えられる。この時間. 前者は従来,学校の中でしか機能することのなかった. の中で「給合的な学習」を展開する際,今まで細分化さ. 「知識」であるいわゆる「学校知」を,児童・生徒が自. れて転移しにくいとされた「知」を総合的に用い,自ら. 分の生活や学校以外の学びの場において活用し,本当の. が感じ,自らの適性に応じた問題,課題を解決していく. 意味で学ぶことの意味を理解し,生きるための「知」へ. ことが必要となる。同時に,その間題・課題を感じ取る. と転換を図ることである。従来学校教育の中では「教科」. 感性や視点の育みも重要になる。つまり,総合的な学習. という枠組みがあり,その中で習得される知識はその教. の時間には二つのファクターがある。一つは「知」の活. 科の中の知識として児童・生徒に認識されていた。そこ. 用から課題を追求・解決していく力の育成であり,一つ. で身についた知識はその教科を学習するための知識であ. は社会の問題を自分の問題として捉える感性,視点の育. り,児童・生徒の生活における問題を解決するためのも. みの問題である。. のとは成り得なかったと言われる。このいわば不活性な. 一方,総合的な学習の時間の内容を策定し,実施して. 知識を活性化させ,自分の生活のための力,つまり,生. いくためには,実施母体としての学校をとりまく環境が. きる力に結び付けていこうとするねらいが総合的な学習. 重要になる。つまり,人的,物的,地域・社会的環境が,. の時間の根底にある。. 総合的な学習の時間の成立・方向性の確立に大きな影響. 後者は,児童・生徒の社会への見方,考え方の転換を. を持つことになる。この環境は僻地あるいは小規模校と. 意味している。義務教育を終え,社会と面と向って接し. その他の学枚,特に大規模校との問では明らかに異なり,. ていく場合,その社会の中における問題を児童・生徒自. それぞれが特有の環境を有している。このことは,総合. 身が敏感に感じ取り,その間題を自分自身の中に課題と. 的な学習の時間の具体的なカリキュラム(内容や実施形. して位置づけ,習得した知識をもとに課題追究の営みを. 態など)に大きな差異となって現れてくることが予想さ. 継続していくことのできる資質が必要であり,その資質. れる。この点に着目し,僻地あるいは小規模校における. の育成をねらうことが総合的な学習の時間の意義の一つ. 総合的な学習の時間に対する取り組みの実態を,それ以. である。そのためには,児童・生徒は社会に生きる人々. 一 35 −.
(3) 小路 徹・並川 寛司・渡部 英昭. と触れ合い,その中に内在する問題を自分自身の問題と して認識する視点を持ち,そこから解決すべき課題を捉. 地・小規模校は問題を抱えていると考えられる。. え,解決までの道筋を措き,過去に習得した知識や方法. 流も必要になる。一人の児童・生徒の課題追究を有効な. 知を用いて解決に当たることが必要である。. ものとするためには,それを共に考え,共に評価し合え. また,課題追究の過程でできるだけ多くの仲間との交. る多くの仲間とのかかわりが必要となる。同じ課題を追. これらが総合的な学習の時間に求められることであ. り,「社会との触れ合いや認識,習得した知の活用」が. 求する児童・生徒間での評価活動が,その活動を発展,. 必要不可欠な要素となる。この視点から予想される,僻. 向上させていく。僻地・小規模校ではこの部分で十分な. 地あるいは小規模校における総合的な学習の時間の扱い. 評価活動ができないことも問題として挙げられる。. についての優位性と問題点として,以下の点を挙げるこ とができる。. アンケートの実施とその趣旨・回答状況 (1)アンケート実施の趣旨 上に述べた僻地・小規模校の優位性と問題点を検証す. (2)総合的な学習の時間と僻地・小規模校の優位性. るために,アンケート調査を実施した。また,僻地・小. 僻地校や小規模校の特質として,学校を取り巻く地 域・社会とのかかわりが非常に密接であることが挙げら. 規模校だけでなく,その他の学校(大規模校)において. れる。僻地・小規模枚は地域にとって一つの学習・文化. も「総合的な学習の時間」の創設に関わって多くの問題. のセンターであり,学校と地域・社会との間に有機的な. 点が表出していることが予想されるが,その実態を把握. 結びつきが確立されている場合が多い。このことは,社. することもアンケートの目的とした。. 会との直接的な触れ合いを重視する総合的な学習の時間. の具現化にとって不可欠な条件の一つである。. (2)アンケート項目. また,僻地・小規模枚は,大規模校に比較して児童・. アンケートは,概ね以下のような項目で実施された。. 生徒一人一人の特性・行動を教師が把握しやすいという. 1. これまでに「総合的な学習の時間」に向けた試みが. 利点を持つ。総合的な学習の時間の中で児童・生徒一人 一人が自らの興味・関心に従い,社会との接点を求めて. 2.これまでに総合的な学習に関する研究会や公開授業. あるか。. 活動にあたるには,まず,児童・生徒一人一人の特性と. に参加したことがあるか。. 3.「総合的な学習の時間」のカリキュラムを検討して. 興味・関心を把握し,それに合わせた活動の助言・援助 を教師は求められる。その際,僻地・小規模校は大規模. いるか。. 4.「総合的な学習の時間」のカリキュラム開発に必要. 校にくらべ十分にその要求に対応できる可能性が高い。. また,児童・生徒が実際に社会へ出ていく活動は教師の. な情報をどのようにして得たのか。. 手を離れることから,様々なリスクが予想される。教師. 5.「総合的な学習の時間」のカリキュラム開発に必要. は通常,そのリスクの回避をまず優先的に考え,危険の. な情報を,今後どのようにして得るのか。. 6.どのような形態で「総合的な学習の時間」を実施し. ない範囲での活動に留めざるを得ない。したがって,大. ているのか(予定か)。. 規模校では児童・生徒一人一人の要望に沿った社会の中. での活動を十分に保障することが難しい。一方,僻地・. 7.「総合的な学習の時間」では自然,施設,地域,人. 小規模校では,児童・生徒一人一人の行動を把握しやす く,危険を回避しつつ十分な活動を保障することが容易. 材の活用がうたわれているが,これまでの活用事例, また今後の活用予定について(記述)。. であると考えられる。 (3)回答状況と集計方法. 札幌市,旭川市,帯広市など比較的人口の集中してい る都市部と,それ以外の群部に所在している小・中学校. (3)総合的な学習の時間と僻地・小規模校の問題点 総合的な学習に関しては,上に述べたように僻地・小. 規模校の優位性が考えられる。一方,次に述べるような. に対しアンケートを郵送し(送付先80校),回答を得た。. 問題点も存在する。 その一つは情報量の不足であろう。総合的な学習の時. また,北海道理科教育センター主催の短期研修参加者, 北海道中学校理科教育研究会(略称「道中理」)大会参. 間は,地域・社会と触れ合い,その中から課題を見つけ. 加者にも回答を依頼した。その結果,小学校29校,中学. 解決していくことで成立する。この課題を見つけ出すに. 校45枚から回答を得た。以下アンケートに対する回答を,. は,幅広く問題を提起する社会環境が必要である。同時. 必要に応じて小学校においては「複式校」と「その他の. に,多くの問題を把握するために必要な情報を提供可能 な施設・設備等も欠かせないものとなる。この点で僻. 小学校」,中学校においては総生徒数100人未満の「小規 模枚」と「その他の中学校」とに分けて集計した.ここ. ー 36 −.
(4) NO.55. 「総合的な学習の時間」に対する取り組み. 2000.12. で区分した複式校および小規模校のほとんどは,いわゆ. 移行しやすいのであろうと捉えることができる。また,. る群部に所在する小・中学校であり,これらを以後僻. 小学校では,複式校とその他の学校との差異はみられな. 地・小規模校と記述することとする。. かった。一方,中学校で実施していないと回答した19校. 回答を得た小・中学校の内訳をみると,小学校では複. のうち,小規模校は4校のみであり,小規模校での実施. 式校16枚,その他16校,中学校では小規模校12校,その. 率が高かった。これは,様々な要因が関係しているであ. 他33校であった。回答の有無は「総合的な学習の時間」. ろうが,中学校においては小規模校での「総合的な学習. への取り組みの状況と関わりがあり,実際に僻地・小規. の時間」の実施が比較的取り組み易い状況にあることを. 模校での取り組み,または「総合的な学習の時間」への. 示唆している。. 関心の高さを示唆している。/ト学校の僻地・小規模校の. 次にアンケート項目2,教師の研修参加状況の有無に. 占める割合が高く,「総合的な学習の時間」の関心の高. ついての回答分布を図2に示す。. さがうかがえる。また,このアンケート実施の趣旨を「情. この回答から,小学校においても中学校においても,. 報ネットワークの構築」ということを理解しての回答で. 僻地・小規模校における教師の研修率が低い傾向が見ら. あることを加味していくと,僻地・小規模校が,情報の. れた。僻地・小規模校ではその立地条件や教師の校務分. ネットワーク化に強い関心を持っていることも推察され. 担の過多から学校を空けることができないことが原因と. る。. 考えられる。アンケート項目1と併せてみるなら,僻地・ 小規模校では「総合的な学習の時間」の実施に対して積. 極的であるが,その主体である教師は研修に参加が困難. 総合的な学習の時間に対する学校・教師の意識. で,他の先進的な情報を取得することが難しい状況にあ. 「総合的な学習の時間」の試みの有無を問うアンケー. ト項目1に対する回答分布を図1に示す。. ると判断できる。また,僻地・小規模枚で行なわれてい る優れた実践情報を他へ発信する機会にも恵まれていな. いことを示している。 (小学校). 0. 20 40 $0 80 100. 0. 20 40 60 80 100 (中学校). 0. 20 40 60 80 100 回答割合(%). ■1田2 □3. 0 20 40 60 80 100 回答割合(%). 区= アンケート項目1「これまでに『総合的な学習の 時間』に向けた試みの有無」に対する回答分布。. [コ2. 1,ある;2,計画中;3,ない。. 図2 アンケート項目2「これまでに『総合的な学習の この回答から小学校と中学校の実施状況の違いが明ら. 時間』に関する研究会や公開授業への参加の有無」. かである。「実施」または「計画中」と回答した学校の. に対する回答分布。1,ある;2,ない。. 割合は,小学校で高かった。これは小学校の「生活科」 の存在が大きく影響しているものと考えられる。従来か ら存在している小学校「生活科」は,その方法が「総合. 「カリキュラム開発」に対する学校の取り組み カリキュラムの検討状況の有無を問うアンケート項目. 3に対する回答分布を図3に示す。カリキュラムの検討. 的な学習の時間」と似ている側面があり,その部分から − 37 −.
(5) 小路 徹・並川 寛司・渡部 英昭. 0. 20 40 60 80 100. 0 20 40 60 80 100. 回答割合(%). 回答割合(%). ■1田2 Eヨ3[]ヰ. ■1田2[コ3. 図4 アンケート時点で「総合的な学習の時間」に. 図3 アンケート項目3「『総合的な学習の時間』のカ リキュラム検討の有無」に対する回答分布。. 取り組んでいる学校に対し、実施に際し困難で. 1,学校全体での検討;2,特別組織における検討. あった点を問う質問に対する回答分布。 1,初めての試みで事例集がない;2,学習の. ;3,取り組みなし。. ねらいが明確でない;3,指導案が立てにくい ;4.その他(記述回答)。. に関しては,多くの学校が2002年からの実施に向けて取 り組んでいることが読み取れる。ただし,項目1の実施. 状況と同様に,中学校でやや取り組みの遅れがみられた。. 報」の充実がこの時間の充実を補償すると考えられる。. 「総合的な学習の時間」には,基本的に従来の教科教. 「総合的な学習の時間」に対する困難点に対し,以下. 育に見られるようなマニュアルは存在せず,自校重点カ. のような記述がみられた。「複式校なので学校全体で実. リキュラムの考えに基づいて構成される。しかし,今後. 施したいが1・2年生はどうするか」,「教師個々の『総. 取り組みを展開していく学校にとっては,それを例示し. 合的学習の時間』に対する理解・考え方に温度差が大き. てくれる情報が必要になる。そのために多くの情報が入. い(共通理解と学校の組織化)」,「校外に出る場合の安. 手できる情報ネットワークの存在が,これらの学校にも. 全策及び保健などの費用,実習費及び郵券などでの予算,. 必要となると考えられる。アンケート時点で取り組みが. 安全面での費用」,「生徒の側に立ち,生徒が本当に求め. 行われていない場合,その事由を求めた回答に対し「日. ていく必然性を感じるものをリサーチしていくこと,生. 常の校務に追われ,計画等をたてる機会も時間もない」. 徒が学枚外で探求活動を行う際の人的・施設的環境が十. という記述が比較的多かった。教師の過重な仕事の合間. 分に活用できないこと,生徒が学校外で探求活動を行う. でこのカリキュラムの策定を行うためには,ネットワー. 際の安全性の確保」,「教師側で総合学習の目的やねらい. クの利用が一つの有効な手段であると考えられる。. が全体理解されていない。また,地域学習にも限りがあ ると思われる」,「本校の場合,小1から中3まで一斉に. 既にカリキュラム開発を行っている学校に対し,その. 困難点を問う質問に対する回答分布を図4に示す。. 活動を行うため,それぞれの発達段階に応じた内容や作 業に苦労している」,「学習のイメージがつかみにくい」. 図より選択肢として挙げた困難点に対する回答の割合. に偏りはみられず,小・中学校での取り組みの困難性が. 「指導者の役割分担,時間割の作成」。 これらの各校が問題としている点も,他校の事例を参. 様々な側面から生じていることを示していた。学校教育. はこれまで各教科,道徳,特別活動という一定の枠の中. 照することで容易に解決していくことが可能であろう。. で行われ,その目的やマニュアルが充実していた。教貞. そう言った意味からも「情報ネットワーク」の充実が,. もその枠の中で教科教育等を実践し,充実させていた。 しかし,「総合的な学習の時間」は各校の独自カリキュ. この「総合的な学習の時間」の充実,拡充へつながると. 考えられる。また,このことは僻地・小規模校のみでな. ラムが必要であり,その構成から指導計画の立案まで各. く,学校教育全体として「情報化ネットワーク」の必要. 校独自で行う必要がある。このことは,教師に対しカリ. 性を示唆するものである。「情報」の必要性は,カリキュ. キュラムユーザーからカリキュラムメーカーへの意識変. ラム開発に際してどのような情報源を用いたかというア. 革を要求するが,この点が最も重要な点である。この点. ンケート項目4の部分でも見ることができる(図5)。. この結果をみると,多くの場合,情報源として研究会. に「総合的な学習の時間」の創設の難しさが内在してい. る。ただし,自校カリキュラムとはいえ,それらの成果. や公開講座,または事例集をあげていことがわかる。た. を比較分析しながら,「総合的な学習の時間」を充実さ. だし,細かな内容分析を行ってみると,僻地・小規模校. せることが重要である。成果を他校のそれと比較する「情. においては,研究会よりも事例集に頼る傾向が強いこと. − 38 −.
(6) NO.55. 「総合的な学習の時間」に対する取り組み. 2000.12. 視点を得ることができると考えられる。. (小学校). ただし,「情報ネットワーク」を組んでも問題点は残 される。それは,この上述したデータからもわかるよう に,インターネットの利用状況が非常に低いという側面 である。これには2つの要因が考えられる。一つはコン ピュータの活用率の問題であり,一つは情報源の不足, または存在自体が認識されていないことである。前者に 関しては教師個人,または学校としての意識改善が必要. 0 20 40 60 80 100. である。「総合的な学習の時間」自体が情報収集の能力 (中学校). を育成する側面もあることから,これらの意識改善を行 う必要があろう。問題は後者である。現在,インターネッ ト等での「総合的な学習の時間」の検索を行っても学校 単体としての配信は多く見られるが,それが「情報ネッ トワーク」を組み,多種の情報が検索できる総合的なサ. イトはあまり見られない。先にも述べたが,重要なこと は多岐にわたる取り組みを比較検討しながら自校に合う. 0 20 40 60 80 100. カリキュラムを策定し,それに対する評価を明確に行う 回答割合(%). ことである。このようなサイトが存在し,その存在の認. 四1団2田3■4日5口6. 識を十分に周知していくことが必要であり,各校の取り 組みに対する相互評価をタイムリーに行える「情報ネッ. 図5 アンケート項目4「『総合的な学習の時間』の. トワーク」の存在が必要であると考えられる。. カリキュラム開発の情報源」に対する回答分布。. 次に,実施形態に関する項目6についての回答分布を. 1,研究会や公開授業から得た;2,事例集を参 考にした;3,インターネットから得た;4,友. 示す(図6)。. 人から個人的に情報を得た;5,まったく独自に (小学校). 考えた;6,その他(紀述回答)。 がわかる。事例集も非常によい情報源とはなり得るが, 情報源が固定化されてしまうことや,それを基に自校の カリキュラムを組むとそれに似た傾向が現れ,本当の意. 味で独自のものにならないこと,また,自校の構築した カリキュラムのタイムリーな評価を得ることが難しい等. 0 20 40 60 80 100. の問題点がある。それに対して研究会や公開講座等は各 枚の交流が進み,広い視点に立てることや自枚の評価も. (中学校). 得やすい利点を含んでいる。僻地・小規模枚はその学校 環境からこれらの研究会や公開講座に参加しにくい現状. があり,事例集等に頼らざるを得ない現状があると考え られる。この状況を改善するには,環境要因にとらわれ ないインターネット等を利用した「情報ネットワーク」. の存在が必要である。また,僻地・小規模校に限らず, インターネットでの情報交換は非常に広い範囲での情報. 0 20 40 60 80 100. 交換を可能にする。研究会等に参加する範囲にも限界が. 回答割合(%). あり,近隣の教師・学校間での情報交流が中心となる。. ■1田2団3囚4□5. 近隣の学校間では,その素材となる教材も環境も似てく るために取り組み自体が似てくる傾向がある。これに対. 図6 アンケート項目6「『総合的な学習の時間』. して情報ネットワークでは,より広い地域の交流ができ,. の実施形態」に対する回答分布。. 教材開発の面でも多岐にわたる情報が得られ,地域教材. 1,学級単位;2,学年単位;3,学年横断的. が重要視される「総合的な学習の時間」の在り方に広い. ;4,課題別;5,その他(青己述回答)。. − 39 −.
(7) 小路 徹・並川 寛司・渡部 英昭. または大規模校においては,自然課題が比較的少ないと 同時にその内容も一般的なものが多い。これは「総合的. このアンケート結果から,それぞれの学校の特色を生 かした取り組みへの工夫がうかがえる。また,小学校, 中学校全体を通して同じような傾向を示していた。一方,. な学習の時間」の重要なファクターである児童・生徒一. 僻地・小規模校とその他の学校との間には差異が出てき. 人一人の興味・関心を考えてカリキュラム構築する際,. ている。僻地・小規校では,「学年横断的」,「課題別に. それが一般的なものに置き換えられる可能性があり,本. 行う」の回答が圧倒的であり,複式学級を伴う学校事情 としては当然であろう。学年横断的,課題別に行うこと. 当の意味で興味・関心を活かすことにつながらないこと が懸念される。. に関して,異学年間の交流を進められることは「総合的. 一方,施設に関わる活用においては(付表2)逆転現. な学習の時間」にとって非常に有益である。それは「総. 象がみられ,僻地・小規模校においては利用可能な施設. 合的な学習の時間」の目的が人々との接点を求めること. が限られている。これは地域環境の上からもやむを得な. であり,その具現化を学校環境の中で行うことができる. いことである。これに対しその他の学校では,多様な施. 点にある。自らの課題追求に対して,低学年に示唆を与. 設を利用した「総合的な学習の時間」への取り組みが試. えることは自らの学習の能力感・効力感を高めることに. みられている。多岐にわたる施設・設備は児童・生徒に. なり,自らの学習の高まりと意義を実感することにつな. 情報の広がりや興味・関心の広がり,ひいては課題設定. がる。また,低学年にとっては先輩の優れた学習成果を. や課題解決の糸口の広がりを与えてくれる点で「総合的. 認識することにより,自らの活動に対する啓蒙と身近な. な学習の時間」に重要な役割を果たすことが予想される。. 他人からの評価を得ることにつながる。これらの相乗効. この点で僻地・小規模校では,児童・生徒の興味・関心. 果を狙う上で,異学年交流は非常に有効であり,それは. や課題意識の変化や広がりに十分に対応できない場合が. 僻地●・小規模枚の優位性といえる。ただし,この場合,. 生じてくる。この際,対処療法的ではあるがインターネッ ト等の情報メディアの活用が必要になろう。. 僻地・小規模校では同一学年,すなわち同じ学習者の立. 次に人材の活用についてであるが(付表3(1)),「総. 場からの評価が不足するという問題も含んでいる。異学. 合的な学習の時間」の一つの目的として,地域・社会に. 年からの評価と同様に必要なことは,同じ学習をしてい る同学年からの評価である。互いにほぼ同じレベルで活. おいて実際に職業につきながら生活している人々と触れ. 動をする同学年からの評価も,子どもの学習を進めるう. 合うことやその触れ合いの中から社会で生きるというこ. えで重要になる。この点で僻地・小規模枚での充実を図. とを感じ取ること,さらにその活動を通して社会で生き. るためには,学校間で情報を交換しながら学習を進める. ていくための意義を感得することが挙げられる。この際. 必要性がある。そのために子ども自身も使える「情報ネッ. に重要な役割を果たす人材活用についても,僻地・小規. トワーク」の存在が僻地・小規模校には必要になってく. 模校とその他の学枚との間に差異がみられた。僻地・小. る。. 規模校では活用の対象となる人材が地域産業の従事者に. 限られる傾向があるのに対し,その他の学校では人材バ. ンク等を用い多種の職業の人材を活用可能である。その 結果,児童・生徒は自らの興味・関心に基づいた多種多. 総合的な学習の時間と地域教材のかかわり. 僻地・小規模校の優位性として,「総合的な学習の時 間」にかかわる地域教材の活用が予測された。それは先. 様な追究活動の中で,多くの人と触れ合いその中から自. に述べたように「総合的な学習の時間」が地域・社会と. らの生きる社会の様子を感得し,自らの生き方をも模索. 密接に結びついた状態で機能する学習であるためであ. していくことができると考えられる。その意味から地域. と直接結びつく僻地・小規模校では,その結びつきの強. る。. この点を明らかにするために,アンケート項目7で地. さから直接的な社会との触れ合いが行いやすいと考えら. 域教材の活用状況の質問をした結果,以下のような結果 が得られた(付表1”3)。. れる。しかし「総合的な学習の時間」が進む過程で,児 童・生徒は多くの社会に生きる人々と触れ合いながら総. それぞれの項目において僻地・小規模校と,その他の 学校では大きな差異がみられた。「自然に関わる活用」(付. 合的に自らの課題を解決していく必要がある。したがっ. 表1)では,小学校,中学校ともに圧倒的に僻地・小規. かの形で提供する必要がある。. て,僻地・小規模校においては人的環境の広がりを何ら. 模校の事例が多く目に付く。同時に,事例の多くに地域 教材が用いられていることにも気づく。これらは身近な. 4 考. 自然を教材化できる僻地・小規模校の特色であり,これ. 察. 「総合的な学習の時間」の成立や方向性に大きな影響. らの自然素材を有効に活用することが「総合的な学習の. 時間」を活性化させることを示している。一方,都市型. を与える要因の一つである学枚をとりまく環境が,僻. ー 40 −.
(8) NO.55. 「総合的な学習の時間」に対する取り組み. 地・小規模枚とその他の学校の間で遠いがあることを上. 2000.12. 5 おわりに. に述べてきた。僻地・小規模枚の優位性は,地域教材お. 「稔合的な学習の時間」は現在試行段階に入り,多く. よび社会との密接なかかわりを利用して地域・社会と有 機的なつながりを保ちながら学習を進めていくことがで. の学校でデータの蓄横が行なわれている。「総合的な学. きることである。一方,課題として学習の広がりに十分. 習の時間」は,我々にとって,また,児童・生徒にとっ. に応えられる施設など学校をとりまく環境の充実,課題. ても未知の学習であると同時に,現代教育における閉塞. そのものの広がりを補償する手段の提供などが挙げられ. 性を打破する可能性を持った時間である。この可能性を. る。これらの課題のうち学校をとりまく環境の改善は, 行政の問題であり,また短期間で解決できない問題であ. 追求するためには,各校で蓄積したデータを共有するこ. とが重要である。「総合的な学習の時間」は本来自校カ. ることから,情報ネットワークが果たす役割の重要性を. リキュラムを目指す取り組みであるが,その客観性や普. 指摘したい。この「情報ネットワーク」には2つの方向. 遍性を他校の実践と比較検討することで優れた実践へと. 性があり,一つは教師にとってのネットワーク形成,も. 発展させることができる。それぞれの学校で蓄積した. う一つは学習者としての児童・生徒にとってのネット. データを共有し,その中から自校に取り入れ可能なもの. ワーク形成である。. を選択しながら,自校の状況や独自性を加味しつつ実施. 教師にとってのネットワーク形成は,できる限り多く. されていくべきである。その情報バンクとしての「情報. の実践,またはその過程を盛り込んだものであり,情報. ネットワーク」を今後どのように構築していくかという. 発信と情報受信の双方向が機能するものとなることが望. ことは,僻地・小規模校はもとより,全ての学校にとっ. ましい。つまり,僻地・小規模校における地域性を重視. て重要な課題の一つである。. した優れた実践やその取り組みの過程が明確になり,他 校がそれを十分に活用できるものになると同時に,その. 6 謝. 運用面でのプロセスが明確になる構成が必要である。特. に異学年・課題別交流をどのように具現化しているか,. 辞. 本研究を行うにあたり,アンケート調査にご協力頂い. 地域との接点をどのように運用に活かしているか等はそ. た各校の先生方に深く感謝の意を表します。また,アン. の他の学校にとっても参考になる場合が多いと考える。. ケートの回収に際し,北海道立理科教育センター生物研. 同時に僻地・小規模校がその学習の広がりを持つことが. 究室,北海道中学校理科教育研究会事務局の皆様にご協. できるようなネットワーク構成,すなわち,多様な情報. 力頂きました.心より感謝申し上げます。. 提供(リンク先の整備,検索可能性)が必要になる。こ れらの条件を満たしたネットワークが作成されるなら,. 参考文献. 僻地・小規模校はその優位性を生かしながら,さらにそ の先の課題発展へ向けて,学習環境を充実していくこと. 1)宮原修編著「特色ある学校をつくる」.ぎょうせい,. ができると考えられる。. 2000年. 同時に,学習者である児童・生徒が直接利用可能な. 2)天野正輝編著「教育課程」.明治図審,2000年. ネットワークの作成も必要である。「総合的な学習の時. 3)北海道教育大学教育学部附属札幌中学校著「選択・. 間」は,児童・生徒が主体になる学習であり,その発展. 総合的学習による特色ある学校づくり」.2000年 4)北海道教育大学教育学部附属札幌中学校「学びの自. は児童・生徒自身が方向性をしっかりと持つことで充実. していく。この点で岩見沢市立メープル小学校の優れた. 立を求めた教育課程の創造」.北海道教育大学教育. 実践がみられる(参考文献参照)。メープル小学校の情. 学部附属札幌中学校研究紀要45集,1999年. とが予想されるが,その際,児童・生徒が他校の学習を. 5)新井孝書監修「総合学習と教育課程経営」.東洋館 出版,2000年. 見ながら自らの学習を評価,発展させていくことができ. 6)岩見沢市立メープル小学校「子どもの可能性を広げ. るネットワーク構成が可能になれば,児童・生徒自身が. る指導法のエ夫 ∼小規模校の特性を生かした総合. 探究の広がりを持つことができる可能性がある。つまり,. 的な学習の推進∼」,岩見沢市立メープル小学校研. 実践例を児童・生徒の学習を主体にした児童・生徒に. 究紀要,1999年. 報教育の狙い等が今後多くの小・中学校で実践されるこ. とってもわかりやすいものとして掲載し,それを通して 児童・生徒のネットワークができていくことが必要にな. ろう。. ー 41−.
(9) 小路 徹・並川 寛司・渡部 英昭. 付表1.自然に関わる地域教材の活用例 仁倉のしそ(化粧品に使う),仁倉川. 一本橋の四季. 僻地・小規模校. 農作物の栽培. 地域の山や川・植物. 学校田作り. 水と親しむ,雪と親しむ. 地域の公園,川. 地域自然環境マップ作り. 古平の立地. アヨロ川,アヨロ縄文遺跡. 川,海,牧場,山,雪 原生花園での雑草抜き,とうふつ湖でのえびすくいなど ホタル,河川(水,植物). ・公園,ゴミ. 十勝岳,旭岳,辺別川,動植物. ・雪のこと. ,野生生物. 地域の山道,動物の交通事故から課題化 ・湖畔の水質調査,水生動物調査 洞爺湖の水,湖畔の森林,小動物. ・茶路川の水質検査,地域の動植物調査. 海岸での清掃活動. サロマ湖のかき(養殖),マツカワの飼育(漁組協力),白花まめ 千歳川の自然. その他の学校. 柏木川の動植物,島松地区の動植物調査 川(水鳥,水生生物など). 地域の自然(学校周辺の川や原っぱなど). 厚別川の調査. 春採湖と春採公園. 市内の水資源(河川,海),大気,函館山. フィールドワーク. 環境学習. 石狩川の水. 校区の畑を使ってそば作り. 学校の回りの豊かな自然環境を活用したい. 付表2.地域における施設の活用例 網走土建. 学校田,学級園,町内の各種施設. 図書館,メディア館 特老ホーム,障害児施設,保育所. 僻地・小規模校. 炭焼きがま. 虎杖浜サケマス膵化場,白老町アイヌ民族博物館,仙台陣屋資料館 生涯学習センター,浄水場,ゴミ処理施設,図書館など. 図書館,科学館,病院,福祉施設 自然の家(洞爺),村内のセンター. ニッカウヰスキー ・老人ホーム. 西神楽ホタルの会の飼育施設,地域の農家,保育所,郵便局などの職場. 火山センター,老人ホーム,大雪青年の家,観光施設 郷土資料館. サケマス貯化場. 養護学校,特別養護老人ホーム. 市役所,郷土資料館,工場. 老人ホーム. その他の学校. 博物館,上川支庁など 病院,老人ホーム,各記念館. 水道科学館. 公共機関,自治会. 江別情報図書館,コンピューター室. 十五島公園. 青少年科学館の利用. サケ関係の施設. 博物館,科学館 図書館,公民館,郷土資料館,老人施設,. 北網圏北見文化センター 遺跡. 豊平川サケ科学館,駒岡清掃工場,室蘭漁港,道立図書館 教育委員会,市役所「花と緑の?」,花苗生産組合,恵庭工業団地 博物館,西部地区等歴史的建造物,老人ホーム,幼稚園など 福祉施設,地域の施設(ゴミ処理場,図書館,区役所,気象庁,警察,その他). ー 42 −.
(10) NO.55. 「総合的な学習の時間」に対する取り組み. 付表3.地域人材(1)およびその他の地域教材(2)の活用例 (1)地域の人材の活用例. ・お年より,酪農家. ・農家の方,お年より,博物館学芸員. ・漁師,酪農家,お年より. ・専門知識を待った人. ・PTA. ・地域の酪農家. ・学芸員,農家の人,百人一首の指導者(老人)・漁業従事者 小学校. ・地域人材活用一覧を作成予定. ・米作り農家. ・水産加工場の人々,漁師の人々. ・学校園の手入れの仕方を教わる. ・酪農業の方,老人会の方 ・田植え,稲刈り等地域の農業に関する協力・指導. 僻 地. ・しいたけ栽培業の方,読み聞かせサークルの方,地域のお年より,陶芸家,郷土歴史家 小 規 模. ・酪農業の方,しそ組合の方,PTA,帯音大の教官・学生,獣医. 校. ・西神楽地域づくり研究会の人,地域住民. ・人材バンク. ・とうきび人形の製作者,農業の方. ・老人ホーム訪問. ・地域の山道に詳しい人に講師をお願いした ・昔の遊び,そば作り,酪農について. 中学校. ニッカウヰスキーの酒造りの職人の方. ・地域産業関係者. ・漁業の方 ・果樹園の方,消防の方 ・カヌーの研修での指導者(父母,学校,OB),農作物の栽培(農業),焼き物のできる父母. ・稲作農家. ・地域の商店,鉱区内の住人 小学校. ・昔の遊び,地域歴史探訪などにおける人材活用 ・人材バンク(教育委員会). ・アンケートで希望者を募集する. そ の 他. ・人材リストを町で整備中. ・自治会,老人クラブ. の. ・町内会の方々,PTA保護者,玉ねぎ農家の方・PTA,祖父母 学. ・職場訪問,職場体験として多くの地域機関に協力頂いた 中学校. ・施設(保健所,老人ホーム,市役所,福祉センター) ・地域町内会,その他地域居住のスペシャリスト ・花の街づくりボランティアグループ,商店街. (2)その他の地域教材の活用例. ー 43 −. 2000.12.
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