教育実習前CBTの実施にみられた学生の意識
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第71巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 71, No.1. 令 和 2 年 8 月 August, 2020. 教育実習前CBTの実施にみられた学生の意識 星 裕・福岡真理子・横藤 雅人*・引地 秀美*・林崎 俊一**・ 山中 謙司**・小田 将之***・玉井 康之**** 北海道教育大学釧路校 *. 北海道教育大学札幌校. **. 北海道教育大学旭川校. ***. 北海道教育大学函館校 ****. 北海道教育大学. Student Attitude in Implementation of Pre-Teaching Practice CBT HOSHI Yutaka, FUKUOKA Mariko, YOKOFUJI Masato*, HIKICHI Hidemi*, HAYASHIZAKI Shunichi**, YAMANAKA Kenji**, ODA Masayuki*** and TAMAI Yasuyuki**** Kushiro Campus, Hokkaido University of Education *. Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. **. Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. ***. Hakodate Campus, Hokkaido University of Education ****. Hokkaido University of Education. 概 要 北海道教育大学では,学生が教育実習前に教育実習に関する基礎的な内容を確認し,学校現 場のイメージをもつことで,教育実習への意欲と自信を高めることを目的として,教育実習前 CBT(Computer Based Testing)を開発した。本研究では,この教育実習前CBTの実施に関 する学生の意識について検討することを目的とした。 本研究の結果,学生の意識として次の3点が示された。1点目は,学生が教育実習前の取組 に対して必要感をもっていたことである。2点目は,教育実習前に必要と考えられる内容を問 題形式で出題することについて,学生が学校現場で想定される場面とその対応方法をイメージ する上で肯定的にとらえていたことである。3点目は,学生が学校現場で想定される場面とそ の対応や必要であるもののよく理解していなかった内容に関して,学ぶ必要性を感じたことで ある。. 445.
(3) 星 裕・福岡真理子・横藤 雅人・引地 秀美・林崎 俊一・山中 謙司・小田 将之・玉井 康之. 1 問題の所在と研究の目的. 教育実習前までに学生に身に付けさせたい資 質・能力を示したものの1つとして,教職課程コ. 中央教育審議会(2006)は,大学の教職課程を. アカリキュラムがある。教職課程コアカリキュラ. 「教員として最小限必要な資質能力を確実に身に. ムの在り方に関する検討会(2017)は,教育職員. 付けさせるものへ」と改革することを求めた。こ. 免許法及び同施行規則に基づき全国すべての大学. こでいう 「教員として最小限必要な資質能力」は,. の教職課程で共通に習得すべき資質・能力を示し. 教育職員養成審議会(1997)が示した「採用当初. たものとして教職課程コアカリキュラムを提示し. から学級や教科を担任しつつ,教科指導,生徒指. た。その中には,教育実習の事前指導に関する到. 導等の職務を著しい支障が生じることなく実践で. 達目標が例示されており,「教育実習生として遵. きる資質能力」を指す。これは,教員養成段階で. 守すべき義務等について理解するとともに,その. は,採用当初から学級担任,もしくは教科担任と. 責任を自覚したうえで意欲的に教育実習に参加す. して実践できる力を学生に育成すること,した. ることができる」ことが示された。これらは,教. がって,即戦力となり得る人材の育成が求められ. 育実習前に教育実習で遵守すべき義務について触. ていることを示したといえる。. れる必要性や学生が意欲的に教育実習に向かうこ. さらに,中央教育審議会(2015)は,教員養成. とができる動機づけを行う必要性を示したと考え. 上の重要課題に適切に対応し,併せて,各大学の. られる。また,中野(2000)は,教育実習を控え. 個性や特色を発揮した教員養成を行うためには,. た学生の多くが教育実習に不安感をもっているこ. 「学校現場や教職を体験させる機会の充実」と「総. とを指摘した。この学生の不安感について,大杉. 合的かつ体系的に教員の養成を図っていくような. ら(2017)は教育実習を控えた学生の不安感は現. 取組」が必要だとした。これらのことから,教員. 場の実態がわからず,その実態に対して自身のも. 養成では即戦力となり得る人材の育成に向けて,. つスキルがどの程度通用するかわからないことに. 学校現場を体験させる機会の充実とそれらを含め. 起因するとした。つまり,学生の不安感といった. た総合的なカリキュラムが求められたといえる。. 点からも教育実習前に必要な資質・能力を明確に. 特に,学生が学校現場を体験する機会という点か. し,その育成に向けた学習を充実させることが求. ら,その中心となる教育実習を核とした総合的な. められたのである。. カリキュラムを充実させていくことが重要視され た。. 以上を踏まえ,北海道教育大学(以下,本学と 記す)は,学生が教育実習前に必要な知識等を身. 教育実習に関して,中央教育審議会(2006)は. に付け,教育実習への意欲と自信を高めることを. 教育実習の改善・充実を図るために,履修にあ. 目的として,教育実習前CBTを開発した(北海. たってあらかじめ履修しておくべき科目を示すこ. 道教育大学,2018) 。CBTとは「Computer Based. とだけではなく,履修に際して満たすべき到達目. Testing」の略であり,コンピュータの画面上で. 標をより明確に示し,事前に学生の能力や適性,. 問題を出題し,学生がそれに解答するなどの方法. 意欲等を適切に確認し,必要に応じて補完的な指. をとることができる。CBTのメリットとして,. 導を行う必要性を示した。このことから,教育実. 受検者ごとにランダムに問題を出題できることや. 習を中心とした総合的なカリキュラムを充実させ. 受検者の好きな時間や場所で受検することができ. るため,教育実習の履修前までに学生にどのよう. ること,瞬時に採点できることなどを挙げること. な資質・能力を育むことを目的とするのか,また,. ができる。特に結果がその場でわかり,学生に即. それをどのように確認するのかという育てたい資. 時にフィードバックすることができるという点. 質・能力とその評価基準・方法の2つを明確にす. は,結果を学生の学びにつなげるという点から効. ることが求められたといえる。. 果的であると考えられる。. 446.
(4) 教育実習前CBTの実施にみられた学生の意識. 本学では,2017年度に教育実習を履修する学生. ⑵ 教育実習前CBTの目的と内容. から教育実習前CBTを実施し,教育実習に向け. 教育実習前CBTの目的は,教育実習前に必要. て身に付けてほしい知識等を学生に育むことを意. と考えられる知識の確認と学校現場での実践のイ. 図した。受検の結果,学生に不足している知識等. メージトレーニングを行うことで,教育実習を履. があれば,教育実習前にそれらを補完するための. 修するにあたり最小限必要な資質・能力を学生に. 指導を行うことで,学生が教育実習への意欲や自. 育成し,自信をもって意欲的に教育実習に臨める. 信を高めることができると考えた。そこで,本研. ようにすることにある。教育実習前CBTの受検. 究では,この教育実習前CBTの実施に関する学. 結果によっては,学生に再検定や補講等の指導を. 生の意識を検討することを目的とした。. 行うことで,不足している知識等を必要に応じて 補完することにした。また,教育実習前である前 期の4~7月には並行して教育実習事前指導を各. 2 方 法. キャンパスで行った。この教育実習事前指導と教. ⑴ 対象学生,実施時期. 育実習前CBTの2つを通して,最低限必要な知. 本研究で,対象とした学生は,2019年度に小学. 識・技能を確認し,教育実習前に学校現場で想定. 校及び中学校での教育実習を履修する予定の学生. される場面とその対応方法に関わるイメージを膨. であった。本学は,札幌・旭川・釧路・函館・岩. らませることで,学生が教育実習によりよい状態. 見沢の5キャンパスで教育実習前CBTを実施し. で臨むことができるように意図した。. ており, 本研究では,このうち札幌・旭川・釧路・. 教育実習前CBTは,教育実習前に学生が身に. 函館の4キャンパスの学生789名を対象とした。. 付けることが必要だと考えられる内容を問題とし. 本学では教育実習前CBTを受検して一定の成績. て出題した。2019年度用の問題の作成に向けて. を収めることが,教育実習を履修するための要件. は,学校現場経験者と大学教員で構成するワーキ. 1). の1つとなっている 。2019年度の教育実習前. ンググループを立ち上げ,このワーキンググルー. CBTは,キャンパスによる日程のずれはあるも. プが中心となって問題を作成した。. のの教育実習前である5月に実施した。1回目を. 出題する問題は,教育実習前に必要と考えられ. 本検定,2回目を再検定とし,1回目の本検定で. る知識を問う問題と学校現場で想定される場面で. 不合格であった場合の再検定は,学生が再度学習. の対応方法を問う問題の2つで構成した。特に,. した後の6月に実施し,再検定が不合格の場合,. 学校現場で想定される場面でどのような対応を行. その後に補完するための補講を行った(表1)。. うかを問う問題を多く取り入れることで,実践の イメージトレーニングとなることを意図した。こ. 表1 教育実習までの主な流れ. 「児童生徒理解」, 「特別支援教育」, 「生徒指導」,. 取組の内容 1月 2月 3月. 〇オリエンテーション ※2年生後期の終わりに実施したキャンパ スと3年生の前期の最初に実施したキャ ンパスがある。. 5月. 本検定. 6月. 再検定. 7月. 補講. 8月. 教育実習開始. 教育実習 事前指導. 4月. れらの問題は, 「教師論」, 「学級経営」, 「学習指導」, 「危機管理」,「学習指導要領」,「教育課程」,「法 規」の10の大項目から構成されており,問題の数 は,2020年度以降に向けて作成した問題も含める と全てで1300問超を作成した。その中から教育実 習前に特に必要だと考えられる問題150問を校種 別に精選し,問題集として学生に配付した2)。 本学では,これらの問題に一定程度の割合で正 答できることを教育実習の履修に関わって最低限 必要な到達目標と考えた。2019年度は,教育実習. 447.
(5) 星 裕・福岡真理子・横藤 雅人・引地 秀美・林崎 俊一・山中 謙司・小田 将之・玉井 康之. 前CBTで出題する問題について問題集を活用し. よって異なっていたものの,1~4月の間で行っ. て事前に学習することとした。これは,2018年度. た。オリエンテーションでは,教育実習前CBT. までは出題範囲等を指定し,学生が自分自身で調. の目的や内容,実施方法等について説明し,学生. べて学習することにしていたものの,現場経験の. はオリエンテーションの終了後,受検までの期間. 少ない学生にとってどこが重要なのかポイントを. に各自で学習を行った。. 掴みにくいという課題がみられたためである。そ. 教育実習前CBTは,学生が主として取得する. こで,問題として出題することによって,学生が. 免許状の校種での教育実習前の5月に本検定を実. 教育実習前に身に付けてほしい内容に焦点化して. 施した3)。問題は,学生ごとにランダムに50問を. 学習することができると考えた。. 出題し,7割以上の正答率で合格とした。. また,これらの問題は5択式とし,一部には,. 受検の日時は,キャンパスごとに設定した時間. ふさわしくないものを選択するという出題形式を. 枠のなかで学生が都合のよい時間帯を選んだ。1. 取り入れた(表2)。これは,学生がふさわしく. 回の受検は60分以内で,学生はコンピュータを用. ないもの以外の選択肢をみることによって学校現. いて問題に回答した。1度目の受検である本検定. 場で想定される場面における多様な対応の方法を. で基準に到達しない場合,再検定とした。検定の. 学習することができると考えたためである。これ. 結果は,受検後にその場でフィードバックされ,. らによって,学生の学びを教育実習前に必要な内. 各自がデータや紙面で持ち帰ることが可能になっ. 容に焦点化することでき,かつ,選択肢から学校. ていた。各自の結果には,出題された問題とその. 現場で想定される場面とそれに関する多様な対応. 正誤が記載されるようになっており,それによっ. 方法を学ぶことができると考えた。. て,再検定までの間に学生が各自で間違った部分 を確認し,再検定に向けての学習を行うことがで. 表2 問題の例 「運動時の昏倒」 問題 小学校高学年の体育の授業において,準備運動 後,持久走を実施したところ,2分ほど走った ところで,ある児童が倒れ,担当教諭が駆けつ けた時には,顔面蒼白で返事をすることもでき ない状態でした。この際の対応として不適切な ものを1つ選びなさい。 ア 児童の意識の有無や呼吸,脈拍などを素早 く確認する。 イ 他の職員(児童)へ保健室への連絡を指示 すると同時に救急車を要請する。 ウ 管理職へ報告するとともに,保護者へ連絡 をとり状況を説明する。 エ 呼吸が確認できない場合は, 心肺蘇生(AED を含む)を行う。 オ そのまま寝かせて安静にし,様子を見る。. きた。再検定でも基準を満たさない場合は,個別 指導の中で問題に取り組ませることに加え,別途, 課題の提出を課した。これらの取組によって,学 生が教育実習前に不足していると考えられる部分 がある場合は,補完することができると考えた。 ⑷ 記録・分析の方法 記録の方法としては,受検前と受検後に質問紙 を実施した。受検前の質問紙は,2019年4月中旬 から下旬にキャンパスごとに実施した。また,受 検 後 の 質 問 紙 は, 教 育 実 習 前CBTの 受 検 後, 2019年5月下旬から7月上旬までの期間にキャン パスごとに実施した。質問の内容は受検前,受検 後ともにほぼ共通した質問内容とし,教育実習前 CBTの必要性や方法,学習の内容に関して学生 に問う質問を実施した。受検前と受検後にほぼ同. ⑶ 実施方法. 内容の質問で構成した質問紙を実施したのは,受. 教育実習前CBTの実施に向けては,学生にオ. 検前と受検後の学生の意識を比較することで,意. リエンテーションを行うことからスタートした。. 識の変容を見出すことができるのではと考えたた. オリエンテーションの実施時期はキャンパスに. めであった。質問紙への回答を受検前は750名,. 448.
(6) 教育実習前CBTの実施にみられた学生の意識. 受検後は766名から得ることができた。. dを求めた。その結果から,受検前後にみられる. 分析の方法としては,以下の2点を用いた。1. 学生の学習内容に関する意識を分析した。. 点目は,教育実習前CBTの必要性や方法に関す る学生の意識を検討した。教育実習前CBTの必. 3 結果と考察. 要性に関しては「CBTは教育実習前に実施して. ⑴ 教育実習前CBTの必要性や方法に関する学. おいたほうがいいと思いますか」 ,方法に関して は「CBTの問題を解くことは,現場での実践を. 生の意識の検討. イメージすることに役立つと思いますか」という. 教育実習前CBTの必要性に関する質問紙の結. 質問内容に対して,「①そう思う」,「②ややそう. 果は,表3の通りであった。受検前,受検後とも. 思う」 , 「③どちらとも言えない」,「④あまり思わ. 平均が4前後と比較的高くなった。このことから,. ない」 , 「⑤思わない」の5件法で回答を学生に求. 教育実習前CBTを教育実習前に実施したほうが. めた。回答には,①に5,②に4,③に3,④に. よいと考えた学生が受検前,受検後のいずれにも. 2,⑤に1を割り振った。その結果について,受. 多くみられたといえる。. 検前と受検後の平均,等分散性を仮定した2標本. 一方で,受検前と受検後の変化に関して有意水. によるt検定を用いてp値,また,効果量として. 準5%で有意な差はみられなかった(t(1514)=. Cohenのdを求めた。その結果を分析することで,. 1.51, p= .13, d=0.08)。これは,受検前の時点. 受検前後にみられる学生の意識を検討した。. で平均が3.98と高かったことから,学生は教育実. 2点目は,教育実習前CBTの学習内容に関す. 習前の取組に関してもともとの必要性が高く,そ. る学生の意識を検討した。 「教師論」, 「学級経営」,. のため変化がほとんどみられなかったのではない. 「学習指導」 , 「児童生徒理解」, 「特別支援教育」,. かと考えられる。したがって,受検前後での変化. 「生徒指導」 , 「危機管理」,「学習指導要領」,「教. はあまりみられなかったものの,学生は教育実習. 育課程」 「法規」の10項目に関して,受検前は「教 ,. 前CBTへの必要感をもっていたと考えられる。. 育実習に向けて取り組んだほうがよいと感じてい. 次に,教育実習前CBTの方法に関する結果を. る内容はありますか」 ,受検後は「教育実習に向. 検討した(表3)。平均は,受検前が3.67,受検. けてCBTに取り組んでよかったと感じた内容は. 後が3.85とこれも比較的高く,教育実習前CBTの. ありましたか」という質問を行った。回答は, 「①. 方法に関して肯定的な回答をした学生が比較的多. よい(よかった)と感じている」,「②少し感じて. かったといえる。. いる」 , 「③あまり感じていない」の3件法で行っ. また,受検前と受検後の比較では有意水準5%. た。回答には,①に3,②に2,③に1を割り振っ. で有意な差がみられたが,とても小さな効果量で. た。その結果について,教育実習前CBTの必要. あった(t(1515)=3.29, p< .01, d=0.17)。こ. 性や方法に関する検討の際と同様に,受検前と受. れは,実際に取り組んでみたことで,教育実習前. 検後の平均,等分散性を仮定した2標本によるt. CBTが学校現場で想定される場面とその対応方. 検定を用いてp値,また,効果量としてCohenの. 法のイメージをもつことにつながるという意識が. 表3 教育実習前CBTの必要性や方法に関する学生の意識 受検前. . 受検後. t値. 自由度. p値. 効果量 Cohen’s d. 平均. 観測数. 平均. 観測数. 必要性. 3.98. 750. 4.06. 766. 1.51. 1514. .13. 0.08. 方法. 3.67. 750. 3.85. 766. 3.29. 1514. < .01**. 0.17 **< .01. 449.
(7) 星 裕・福岡真理子・横藤 雅人・引地 秀美・林崎 俊一・山中 謙司・小田 将之・玉井 康之. 少し高まったためと考えられる。. 答への偏りがみられた。また, 「学習指導(t(1494). 具体的な例として,受検前の質問紙の自由記述. =3.60, p< .01, d=0.19)」,「児童生徒理解(t. 欄には, 「現場に行かなければ分からないことが. (1491)=2.64, p< .01, d=0.14)」,「危機管理(t. 多く,CBTの学習で解決する課題は少ないと感. (1497)=2.21, p= .03, d=0.11)」の3項目に関. じます」 , 「CBTで実践力が身につくのか」等の. しては否定的な回答への偏りがみられた。いずれ. 現場での実践と問題は別物であるという意見がみ. もとても小さな効果量であった。. られており,受検前に問題を解くことが現場での. 項目別に平均を比較してみると,最も平均が高. 実践につながるのかという学生の疑問がうかがえ. かったのは,受検前,受検後とも「危機管理」で. た。. あった。一方,最も平均が低かったのは,受検前,. 一方,受検後には,「実際の現場で起こり得る. 受検後とも「教師論」(受検前は,「法規」がほぼ. 状況が問題となっていたので良かったです」,「実. 同じ)であった。. 践に関する問題を増やすと実習でのイメージが広. これらの結果から,受検の前後の比較では, 「法. がると思います」といった意見がみられたことか. 規」について肯定的な意識がわずかに高まったこ. ら,教育実習前CBTに取り組んでみたことで,. とが示唆された。このことに関して自由記述に,. 受検後に学校現場で想定される場面とその対応方. 「法規等の知識はあまりなかったので勉強になり. 法のイメージをもつことにつながったと感じ,学. ました」,「指導要領や法規などこれから役に立つ. 生が肯定的にとらえるようになったといえる。. 知識が得られた」などの記述がみられた。「法規」 には, 「信用失墜行為の禁止」や「秘密を守る義務」. ⑵ 教育実習前CBTの学習内容に関する学生の. などが出題されていた。学生が実践に役に立たな. 意識の検討. いととらえがちな「法規」であるが,教育実習中. 教育実習前CBTの学習内容に関する学生の意. に守らなければならない内容や学生が知らなかっ. 識についての結果は,表4の通りであった。. た内容について触れられており,学習していく中. 受検前と受検後の平均を比較してみると,「法. で学ぶ必要性を感じたのではないかと考えられる。. 規(t (1490)=3.41, p< .01, d=0.18)」は,受. 一方,「学習指導」と「児童生徒理解」,「危機. 検前と受検後の結果に有意水準5%で肯定的な回. 管理」の3項目で,肯定的な意識がわずかに低下. 表4 学習内容に関する学生の意識 受検前. 受検後. t値. 自由度. p値. 効果量 Cohen’s d. 平均. 観測数. 平均. 観測数. 教師論. 2.39. 742. 2.35. 755. 1.06. 1495. .29. 0.05. 学級経営. 2.44. 742. 2.43. 755. 0.28. 1495. .78. 0.01. 学習指導. 2.60. 741. 2.48. 755. 3.60. 1494. < .01**. 0.19. 児童生徒理解. 2.59. 739. 2.50. 754. 2.64. 1491. < .01**. 0.14. 特別支援教育. 2.54. 742. 2.57. 757. 0.92. 1497. .36. 0.05. 生徒指導. 2.56. 742. 2.54. 755. 0.60. 1495. .55. 0.03. 危機管理. 2.65. 744. 2.58. 755. 2.21. 1497. .03*. 0.11. 学習指導要領. 2.54. 740. 2.56. 760. 0.60. 1498. .55. 0.03. 教育課程. 2.49. 739. 2.54. 758. 1.48. 1495. .14. 0.08. 法規. 2.39. 736. 2.51. 756. 3.41. 1490. < .01**. 0.18. . 450. *p<.05 **p<.01.
(8) 教育実習前CBTの実施にみられた学生の意識. していた。これに関しては,質問紙の自由記述欄 に「実践が現場でできるか不安である」,「子ども の理解において選択で割り切れないことの方が多 いと思う」という記述がみられた。これらは,そ. 4 全体考察 本研究の目的は,教育実習前CBTの実施に関 する学生の意識を検討することであった。. の後の教育実習における実践に関する部分である. 本研究の結果から,教育実習前CBTの実施に. ため,学んだ内容を実践できるかという不安が表. 関する学生の意識は,次の3点に整理することが. れたと考えられる。. できると考える。. また,項目間の比較では,「危機管理」が相対. 1点目は,学生が教育実習前の取組に対して必. 的に最も平均が高くなっていた。 「危機管理」に. 要感をもっていたことである。本研究において,. 関しては,自由記述欄に「危機管理の項目は実習. 教育実習前CBTを実施した方がよいと考える学. 中にも起こり得るので大切だと感じた」,「給食へ. 生が受検前,受検後を問わずに多くみられ,学生. の異物混入の話がリアルでした」等の記述がみら. 自身が教育実習前にCBTに取り組む必要性を感. れた。これらの記述から,「危機管理」は,実習. じていたことが示唆された。これは,教育実習に. 中に起こり得る内容と学生がとらえ,それによっ. 臨む学生の多くが不安感を抱いているということ. て,項目間の比較で平均が高くなったと推察され. とつながりがあると考えられる。学生は教育実習. る。具体的には, 「危機管理」に含まれている「電. に向けての不安感を抱いているが故に教育実習に. 子データの持ち出し」や「著作権」 ,「SNSへの書. 向けた取組の必要性を感じており,そのため,今. き込み」 , 「けがや病気への対応」,「給食への異物. 回の教育実習前CBTの実施に関してその必要性. 混入」などに関する問題は,学生にとって学校現. を意識していたといえる。. 場で想定される場面やその対応方法であり,学ぶ 必要性が高かったと考えられる。 その一方,相対的に平均が低かったのは「教師. 2点目は,教育実習前に必要と考えられる内容 を問題形式で出題することについて,学校現場で 想定される場面とその対応方法をイメージする上. 論」である。このことに関して,質問紙の自由記. で,学生が肯定的にとらえていたという点である。. 述欄には, 「教師論はやや易しすぎたと感じた」,. 教員養成の世界においては,従来,大学の授業に. 「わかって当たり前だと感じる問題が多かったな. おける疑似体験的な取組よりも,現場での実際の. と個人的に思います」などの記述がみられた。「教. 経験の方が即戦力になる教員としての能力形成に. 師論」には, 「服装」,「言葉遣い」などに関する. つながるのではないかという声が根強くみられ. 問題が含まれていたが,これらは学生にとって「当. (国立教育政策研究所,2015),実際に学生の声. たり前」という意識がみられ,学習する前からわ. の中にも同様の内容がみられた。もちろん,学校. かっていたことから平均が低くなったと考えられ. 現場で学ぶべきこと,学校現場でしか学べないこ. る。. とは多くある。. これらのことから,教育実習前CBTの学習内. その一方で,本研究の結果からは教育実習前. 容のうち, 「法規」や「危機管理」にみられるよ. CBTの実施方法に関して学生は比較的肯定的に. うな教育実習で想定される場面とその対応方法や. とらえていたことが示されており,受検前と受検. 学生がよく理解していなかった内容については,. 後を比較すると有意に受検後が高くなった。それ. 学生が学ぶ必要性を感じたことが示唆された。し. ゆえ,教育実習前の学生に学校現場で想定される. かしながら,既にわかっていた内容については,. 場面とその対応方法のイメージをもたせるという. 学ぶ必要性をあまり感じなかったといえる。. 点で,教育実習前CBTの実施方法について学生 が肯定的に感じていたといえるだろう。これは, これまで自身が経験した狭い範囲における具体的. 451.
(9) 星 裕・福岡真理子・横藤 雅人・引地 秀美・林崎 俊一・山中 謙司・小田 将之・玉井 康之. な実践場面が多くを占めていた学生が,教育実習. た(中央教育審議,2006)。これは,学校現場で. 前CBTの問題に取り組むことで,学校現場で想. 想定される場面に関して学生が学ぶ機会がない,. 定される場面とその対応方法に関するイメージを. また,学んでいても具体的にどのように対応する. 広げることができたためと推察される。学生が問. とよいのか考える機会は限られていた等の状況が. 題を解くことで,多様な場面をイメージし,その. あったことを示していたといえる。そのため,学. 場面で考えられる対応方法を増やすことにつな. 生にとって学校現場で想定される場面とその対応. がったのではないかと考える。. 方法について具体的にイメージすることは難し. 3点目は,学校現場で想定される場面とその対 応方法や必要であるもののよく理解していなかっ. く,学生が教育実習前に不安感を抱くことにつな がっていたと考えられる。. た内容に関して,学生が学ぶ必要性を感じていた. 本研究の結果,教育実習前CBTの出題方法に. ことである。教育実習前CBTで取り上げた10項. 関して,学校現場で想定される場面とその対応方. 目のうち, 特に「危機管理」や「法規」に関して,. 法のイメージを広げる上で学生が肯定的にとらえ. 学生が学ぶ必要性を強く感じていた。. たことが示唆された。したがって,大学での学習. その一方で,学生は,「当たり前」と感じる内. と学校現場での教育実習をつなぐ学習として教育. 容に関しては,学習の必要性を低く感じていたこ. 実習前CBTに取り組むことで,現場経験の不足. とが示唆された。例えば,「教師論」は受検前,. している学生が現場で想定される多様な場面をイ. 受検後のいずれも項目間の比較では低くなる傾向. メージし,対応の仕方を学ぶ方法の1つとなり得. がみられた。 「教師論」で出題した問題は,学生. ると考えられる。. にとって新たに学ぶという意識をもてなかったこ. 2点目は,学生自身が何を学ぶとよいのか考え. とが推察できる。しかしながら,教育実習に向け. る手がかりとなる可能性があるということであ. て, 「服装」や「言葉遣い」などのマナーに関す. る。教育実習への学生の不安感として,現場の実. る内容は確実に身に付けてほしい内容でもある。. 態がわからず自身のもつスキル等が通用するのか. 教育実習前CBTが,教育実習に臨むにあたって. ということが挙げられていた(大杉ら,2017)。. 最低限身に付けておいてほしい知識の確認を目的. 学校現場で求められる資質・能力としては多くを. の1つにしている以上,これらの確認をする場も. 挙げることができるが,教育実習前という時期を. 必要である。実際に,学校現場からは学生に確実. 勘案し,本当に必要なものを精選し,それを教育. に指導してほしい内容として最低限のマナーや挨. 実習前CBTの学習内容として示すことで,学生. 拶などに関する要望がある。教育実習前CBTは,. にとっても教育実習前に何を学ぶとよいのか考え. 教育実習に向けて最低限身に付けてほしい知識を. る手がかりとなる。. 確認するという目的もあることから,これらの内 容を出題することも必要だといえる。 これらのことから,教育実習前CBTの実施の 意義として次の2点が考えられる。. 本研究の結果,学生が学校現場で想定される場 面への対応やよく理解していなかった内容に関し て学ぶ必要性を感じていることが示唆されてい た。教育実習前CBTの取組が,学生にとって自. 1点目は,教育実習前CBTの取組は,学生の. 分自身に不足している部分に気付き,学ぶ機会と. 学びを広げることにつながる可能性があるという. なっていた。したがって,学生が自らの学びの不. ことである。これまで大学での授業に関して, 「大. 足部分を補完し,自信をもって教育実習に向かう. 学の教員の研究領域の専門性に偏した授業が多. ことができるようになることが期待できる。. く,学校現場が抱える課題に必ずしも十分対応し. 最後に,今後の課題として,2点を示す。. ていない」 「指導方法が講義中心で,演習や実験, ,. 1点目は,教育実習前CBTに関する教育実習. 実習等が十分ではない」等の課題が指摘されてい. 後の学生の意識に関する検討を挙げておく。本研. 452.
(10) 教育実習前CBTの実施にみられた学生の意識. 究では,受検前と受検後での比較を中心としなが. 引用文献. ら,教育実習前CBTの実施に関する学生の意識 に関して検討した。今後,教育実習を終えた学生 に調査を行うことで,教育実習前CBTに取り組 む中で教育実習に向けた意識に変化がみられた か,実習後に学びたい内容として何を考えている. 中央教育審議会(2006) 「今後の教員養成・免許制度の在 り方について(答申) 」 中央教育審議会(2015)「これからの学校教育を担う教員 の資質能力の向上について~学び合い,高め合う教員 育成コミュニティの構築に向けて~(答申) 」. かなどを検討していきたい。それらを踏まえつつ,. 北海道教育大学(2018) 「平成31年度用CBT問題集」. 教育実習前CBTを学生にとってより意味のある. 国立教育政策研究所(2015)「教員養成教育における教育. ものに改善していくとともに,教育実習後の学生 にどのような取組が必要なのかについても明らか にしていきたい。. 改善の取組に関する調査研究~アクティブ・ラーニン グに着目して~」 教育職員養成審議会(1997)「新たな時代に向けた教員養 成の改善方策について(第1次答申) 」. 2点目は,教育実習前CBTを通して学んだ学 校現場で想定される場面とその対応方法を教育実 習における実践といかに接続するかを検討してい. 教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会 (2017) 「教員養成コアカリキュラム」 日本教師教育学会編(2017) 『教師教育研究ハンドブック』 学文社.. くことである。これは,「学習指導」と「児童生. 中野靖彦(2000)「教育実習に関する研究-実習前後の心. 徒理解」 , 「危機管理」の3項目に関する自由記述. 理的変化について-」,愛知教育大学研究報告(教育科. に「実践が現場でできるか不安である」,「子ども の理解において選択で割り切れないことの方が多. 学編) ,49,81-85. 大杉稔・山本幸夫・田村壽(2017) 「 『小学校教育実習』 における事前・事後指導の在り方:学生の意識調査か. いと思う」という記述がみられ,学習した内容を. ら見た指導効果と課題」,大阪樟蔭女子大学研究紀要,. 実践できるかという学生の不安が示唆されたため. 7,39-49.. である。今後,学生が自信をもって,意欲的に教 育実習に向かうことができるようさらに努めてい きたい。 以上の2点を今後の課題として挙げておく。. 注 1)小学校及び中学校の教育実習を履修する学生は,教 育実習前までに,教育実習前CBTを受検することが必. . (星 裕 釧路校准教授). . (福岡真理子 釧路校教授) . . (横藤 雅人 札幌校教授) . . (引地 秀美 札幌校教授) . . (林崎 俊一 旭川校教授) . . (山中 謙司 旭川校准教授). . (小田 将之 函館校教授) . . (玉井 康之 副学長) . 須となっているが,高等学校の教育実習又は養護実習 を履修する学生は,受検を必須としていない。任意で の受検は可能である。 2)問題集にはすべてで168問が載せられており,「学習 指導要領」に関する問題以外は共通とした。共通の問 題が,132問あり,それ以外に「学習指導要領」に関す る問題は,小学校で教育実習を行う学生用に18問,中 学校で教育実習を行う学生用に18問を設定した。これ らを合わせるとそれぞれの校種が150問ずつとなるよう に構成した。 3)本学では,小学校教員免許状取得を主とする学生は 小学校での教育実習,中学校教員免許状取得を主とす る学生は中学校で教育実習を原則として3年生で行う ことになっている。. 453.
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