中学生男児の夜尿における原因の分析と指導の試み
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(2) 北海道教育人学紀要(教育科学編)第56巻 第1弓一 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.56,No.1. 平成17年8月 August,2005. 中学生男児の夜尿における原因の分析と指導の試み 太田千佳子・青山 真二・上野. 樹・佐々木陽子. 北海道教育人学函館校障害児教育教室. ATrialofanalysisandguidanceofacauseinbed−Wetting Ofajuniorhighstudentboy OTAChikako,AOYAMAShinji,UWANOTatsuruandSASAKIYoko. DepartmentofSpecialEducation,HakodateCampus, HokkaidoUniversityofEducation.HakodateO40−8567. 概 要 本稿は,中学1年の男子生徒の夜尿の克服に向けて,家庭と合宿におけるベースラインの測定から夜尿 の原因を分析し,家庭におけるトレーニングを行った事例研究である.本研究の対象児は市内の中学校に通 う男子生徒で,日中の失禁がないことと機能的な異常が認められていないことから,一次性の夜尿症である と捉え指導を行った.. 過去に夜尿症の治療法として,アラームシーツ法(Mowrer,1938)やベッド訓練法(Azrin,1974),排 尿我慢(Kimmel,1970)などが行われてきた.AzrinとSneed&Foxx(1973)が行ったDBT(ドライベッ ドトレーニング)を,対象者に合わせて一部修正して行った例もある(内田,1987).本研究は,対象児の 夜尿を維持させている原因について仮説を立て,DBTの「覚醒練習」「モニタリング」を参考に,家庭に おいて夜尿指導に取り組んだ事例研究である.. 1.はじめに. DBTによる夜尿治療のわが国における報告は, これまで′ト学生や知的障害者を対象にしたものが. 1938年にMowrer&Mowrerが夜尿症治療の. 多かった.内田(1987)は,DBTに,本来であ. 基礎を築いて以来,これまで様々な治療法が実施. れば一定の治癒基準到達後の使用手続きである多. され,報告されてきた.Azrinら(1976)は,. 量の水分投与法を追加導入した修正を加え,知的. オペラント的な条件付けによる夜尿の治療とし. 障害を伴った成人夜尿症の治療を行っている.ま. て,ドライベッドトレーニング(DBT)を開発. た内田(1987)は,DBTの有効性が多くの研究. した.DBTは,Kimmel(1970)による排尿我. 者により報告されたことについて述べ,その治癒. 慢訓練法に,清潔訓練法と覚醒訓練法を加え,一. 率を評価しながらも,その効果は症例の年齢,発. つのパッケージとして開発されたものである.. 症時期,重症度,泌尿器科学的精査所見,治癒基. 243.
(3) 樹・佐々木陽ナ. 太田千住/一・青山 真二・上野. 準等によって異なることを指摘している.その後,. 検証することを目的とする.. 阿部ら(1988)は小児から15歳まで,神村ら(1989). は青年期における夜尿治療において,対象児の実 態に合うようDBTに修正・変更を加え,治療を. 2.対象児のプロフィール. 行なっている.. DBTでは,練習の持続を支える強い動機付け. 対象児については,以下に示すとおりである.. 夜尿症による相談のため,母親が大学の研究室に. が必要になってくるといわれている(赤木ら,. 来室した.. 1980).阿部ら(1988)は,排尿我慢が夜尿の減. (1)本人. 少につながることを母親に説明し理解を深めた.. さらに取り組みの効果を保証してきたことが,母. 市内の中学校通常学級に通う中学1年男児で,13 歳である.. 子のモチベーションの維持につながったと述べ,. WISCrⅢを実施したところ,VIQ92,PIQ97,. 今後も治療においてはこのモチベーションが重要. FIQ94で知的な遅れはみられない.. になることについて報告している.また,神村・. (2)家族. 吉田(1989)は,DBTによる中高生の夜尿症の 治療を行なった.そこでは,思春期・青年期の対. 両親が,本児が2,3歳の頃離婚し,現在は母 親と妹二人の四人で暮らしている.. 象者が,金銭や物質,家族からの賞賛などの社会 的強化による行動の維持・形成が,′ト学校時代よ. 市内には,母の両親が住んでおり,母親が仕事 で遅くなる日には祖父母宅で過ごすこともある.. りも困難になることや,トレーナーとなる両親と. 就学前,母親はしつけに厳しく,叱ったり叩い. の心理的な独立が顕著になることについて述べて. たりすることもあったようであるが,現在は叩く. おり,「本人の自主性と主張性」,「自分のために. ことはないとのことである.. 努力して克服していくという必要性の自覚」,「全. (3)症状の経過と夜尿にかかわる背景. 般的生活習慣の改善」が夜尿の克服において重要 である,と報告している.. 幼少の頃より,毎晩のように夜尿があり,′ト学 校入学後も続いていた.また,日中も頻繁にトイ. これら一連の研究は,近年応用行動分析におい. レに行きたがることから夜尿と頻尿で医師に相談. て提唱される対象者の生活への支援にもとづいて. したが,機能的に問題はないとの所見をもらう.. いる(平澤,2003).従来行われてきた行動変容. 同じ時期に家庭においてオムツをとる練習を行う. 法(W.L.ミクラス,1981)は,問題行動の減少. が,失敗に終わった.′ト学校高学年まで日中の失. のために,個人の生育歴や症状の経緯などを問題. 禁もあり,修学旅行など′ト学校での宿泊を伴う学. にせず,行動の抑制や除去が最優先されてきた.. 習は,本人が夜尿の心配から一睡もせずに過ごし. 標的とする問題行動に直接介入し,効果がないと. た.. きには,より強制的な介入が行われたりもした.. 中学校入学後は日中の失禁は見られなくなった. しかし近年では,問題行動の減少には,対象者の. ものの,夜尿は続いていた.毎晩のように夜尿を. 生活の質の向上や本人の自主性や自覚などを重視. 繰り返しており,就寝時は自分からオムツをつけ. した支援が提唱されるようになっている.平澤. て寝ている状況であった.本人は,夜尿のあるこ. (2000,2003)は,問題行動を維持している結果 要因,環境要因などの問題行動にかかわる全ての. とを他人に知られるのをたいへん気にしている. また,生活リズムが乱れがちで,就寝時問も遅. 環境に目を向け,包括的に支援していくことが,. く,睡眠をとる時間は一定していなかった.朝は. 適応行動へつながることについて述べている.. 母親に起こされてようやく起きており,朝食も食. そこで本研究では,これらの包括的支援が,思. 春期である対象児の夜尿の軽減に有効であるかを. 244. べずに附かけるRが多いとのことであった..
(4) 中学生男児の夜尿における原因の分析と指導の試み. 夜間起こしてトイレに行かせる日もあったが,. 3.ベースラインの測定. やはり失敗している状況が見られる.. 就寝時問は毎日遅く,生活リズムは乱れがちで. (1)測定Ⅰ(家庭における測定). 本児の家庭における状況を理解するため,いつ. あるとのことであった.そのため,朝は目覚めが. も通りの生活の様子を,2週間にわたって記録し. 悪く,布団を濡らしてしまった時は,母親が片づ. てもらった.. けをしているとのことであった.. 記録する内容は,「オムツの有無」「就寝時問が. (2)測定Ⅱ(合宿における測定). 冬休み期間中であったことから,5日間夜間の. 守れたかどうか」「夜尿の有無と尿の量」である.. 日によっては,祖父が夜間起こしてトイレに促し. みの合宿を行うことによって,覚醒の状況とモニ. ている日もあるので,その日は時間も記録しても. タリングの状況を測定した.測定においては,. らうこととした.測定者は,母親および祖父母で. DBTを参考に以下の方法で行なった.. ある.. ① 覚醒状況. 測定Iの結果は,Tablelに示すとおりである.. 寝る前には,350mlの水分を摂って寝ること で,尿意を高めるようにする.5日間の合宿で. 2日を除いては毎日夜尿が確認され,オムツも. 毎日装着している.日によってはオムツから漏れ. は,1,2日目に2時間おきに目覚まし時計を. 出るほど多量の尿をしてしまうこともあった.多. 用いて覚醒させ,目覚まし時計の音だけでは起. 量に尿が出ている時には,どの日も(12/23,12. きられない時にはスタッフが声掛けで起こすこ. /25,12/31)就寝前に多くの水分を摂取してい. ととした.3,4日目は,3時間おきに覚醒さ. る.. せ,いずれも起きてトイレに行った後には Tablel 指導前の家庭における夜尿の状況 口付. オムツ 夜尿と尿の量. 就寝 備考. ×. 多. × 就寝前,多量の水分摂取. 24R(金) 有. ×. 日 」丘. ×. 25R什) 有. ×. 多. × 就寝前,多量の水分摂取. 26R旧) 有. ×. 」丘. ×. 27R(月) 有. ×. 11k. 12月23R(木) 有. 28日㈹ 有. 日. ○. ×. ×. 29R〔水) 有. ×. 少. ×. 30R(木) 有. ×. 日 」丘. ×. 31R(金) 有. ×. 多. × 就寝前,多量の水分摂取. ×. 少. ×. 2R(日) 有. ×. :lli. ×. 3R(月) 有. ×. 日 」危. ×. 4R㈹. 有. ×. 日 」丘. ×. 夜間,0:00,2:30,6:30の3回起こす. 5R(水 有. (〕. ×. 夜間,0:10,3:00,6:00の3回起こす. 1月1R什) 有. 日. 就寝時間遅い(AM5:00∼AM9:00). (オムツ :無=オムツをしなかった 有=オムツをした) (夜 尿:○=夜尿なし. ×=夜尿あり). (就寝時間:○=22時間までに就寝した ×=22時以降に就寝した). 245.
(5) 太田千住/一・青山 真二・上野. 樹・佐々木陽ナ. 350mlの水分を摂るようにした.5日目につい. た1回を除いては,スタッフの声掛けが必要で. ては,1,2日目同様に2時間おきに覚醒させ. あった.夜尿は,2回確認された.. ることとした.. 5日目(15日)は,再度2時間おきに目覚まし. ② モニタリング. 時計をセットした.6時の目覚まし時計が鳴る前. 夜間にトイレに行けたかどうか,その際に夜. に自発的に覚醒できたが,その他の目覚まし時計. 尿はなかったかどうかについて,本人と指導者. の音には気付くことができず,スタッフによる声. で確認した.夜尿のなかった時には,「宿泊頑. 掛けが必要であり,目覚まし時計の音を聞いて自. 張りカード」(Fig.1)に自分でシールをはらせ,. 発的に覚醒することは,本児にとってたいへん難. 自分が夜尿をしなかったことを視覚的に確認で. しいようであった.. きるようにした.. 測定II(合宿)の結果は,Table2の通りで 4.方法. ある.. 5日間ともオムツを装着せず,就寝時間は22時. ベースラインの測定Ⅰ(家庭)と測定Ⅲ(合宿). とし,決まった時間に寝る生活を送るようにした.. を受けて,夜尿の原因を以下のように捉え,家庭. 1日目(11日)と2日目(12日)は2時間おき. における指導のプログラムを作成した.. に目覚まし時計をセットした.1日目は,目覚ま. (1)夜尿を維持している原因. し時計をセットした時間に自発的な覚醒はなく,. ① 睡眠が深く,夜間に尿意をフィードバックで. 2日目は,自発的な覚醒は1回,夜尿は1,2日. きないこと. 目ともに0回であった.. 対象児は,就寝時問が確定しておらず,毎晩. 3日目(13日)は,目覚まし時計のセットを3. 自由な時間に寝ている状況である.起床時問に. 時間おきとした.目覚まし時計による覚醒が1回. ついてもなかなか起きられない.そのことが,. あったが,他はスタッフによる声掛けが必要で. 就寝中の尿意の自覚につながらず,夜尿を引き. あった.夜尿は,2回確認された.. 起こしていると考えた.日中可能である尿意の. 4日臼(14日)は,3日巨=こ夜尿があったこと. フィードバックを夜間も可能にするため,睡眠. を受けて,1時に覚醒させた後は,1,2日目同. 時問と起床時問を決めて生活リズムを整えるこ. 様2時間おきに覚醒するよう,目覚ましをセット. とは,夜間トイレに行くために覚醒する時間を. した.目覚まし時計が鳴る前に自発的に覚醒でき. 決定する上でも,重要と考えた.. 時間. 就寝. シール 反省. 22:00. トイレ 0:00 トイレ 2:00 トイレ 4:00 トイレ 6:00. Fig.1宿泊頑張りカード. 246.
(6) 中学生男児の夜尿における原因の分析と指導の試み Table2 合宿における夜尿と覚醒の状況 オムツ 就寝. 0. 2. 3. 4. 5. 6. 7 予定時間以外に 自発的起きた時間. 時間. 1月11R㈹ 無 22:00. ノ C. C. ノ. 起床. 1:35. C. C. 3:35. 夜 尿. 1月12R㈱ 無 22:00. ノ. ノ. ノ. 起床. C. C. A. C. 4:54. 夜 尿 1月13R(木) 無 22:00. ノ. ノ. 起床. B. C. C. 夜 尿 1月14R(金) 無 22:00. ×. ×. ノ. ノ. ノ. 起床. A. C. C. C. ×. ×. 夜 尿 1月15R什). 無. 22:00. ノ. ノ. ノ. ノ. C. C. C. A. 固=トイレでの排尿、水分を350ml摂取 国=自発的な覚醒. 回=目覚ましによる覚醒 回=スタッフによる覚醒. 回=夜尿あり. ② 尿のコントロールの弱さ 本児は,日中何度もトイレに行く傾向にある ということが,母親の話から分かった.大学で. できるのではないかと考えた.. ⑨ オムツヘの依存 ′ト学校時代に夜尿を治そうと試みたが,失敗. の相談日においては,1時間の指導中トイレに. に終わっていることなどの背景もあり,“夜尿. 行かずに過ごせるものの,途中飲み物を摂取し. は治せない’’“しかたがない’’というような,. た日には,すぐにトイレに行きたがる様子が見. 本児自身のあきらめた気持ちがこれまで強かっ. られた.家庭においても,日によっては5分お. たようである.また家庭でも,夜尿を治すこと. きにトイレに行き,その様子は外出前などにさ. よりも布団を濡らさないためにオムツを装着す. らに顕著になるということであった.. ることのほうが優先されていたことも,本児が. このような状況から,本児が,尿意は我慢で きるけれども,過去の失禁などの経験から,わ ずかな尿意でも排尿しようとする傾向にあるこ とが伺えた.中学生になったこともあり,“失. 夜尿を治そうとする機会を奪ってきた要因と考 えられる. (2)家庭におけるトレーニングの方法. 家庭でのトレーニングは,ドライベッドトレー. 敗したくない’’という心理が強くはたらいてい. ニング(DBT)の「覚醒練習」と「モニタリング」. ると考えた.. を参考に行なうこととし,Fig.2のように進め,. そのため,夜尿の取り組みを適して成功経験 を積むことで,自信をつけ頻尿については克服. 対応していくこととした.本プログラムは,ベー. スラインにおける本児の実態と,夜尿の原因とし. 247.
(7) 太田千住/一・青山 真二・上野 樹・佐々木陽ナ. ての仮説を踏まえ,以下の3点で指導を行った.. ① 生活リズムを確立する. にした.. ② 夜間の覚醒を一晩2回とする. 睡眠の深さが尿のフィードバックをしづらく. 本児が睡眠中に尿のコントロールを充分にで. していると考え,生活リズム及び睡眠リズムを. きないことから,多量の夜尿をしてしまってい. 整えることを指導の方法として取り上げた.. る実態から,夜間の覚醒の機会をFig.2にあ. 本児は,夜間の寝ぼけが強く,夜間にトイレ. るように2回設けることとした.合宿中は,3. に行くという行動も一人では充分にできないた. ∼4回覚醒を促しているが,指導の場所が家庭. め,就寝時問と起床時問を一定にすることで,. であり,ある程度の期間継続した指導を行うた. 夜間に起きてトイレに行くリズムをつくること. めに2回とした.覚醒する時間については,ベー. 21:40 就寝準備(布団の準備、着替え、歯磨き) ※布団を敷く作業は本人が行うこと この時に、替えの下着やシーツの準備等もしておく。. Fig.2 家庭でのトレーニングの流れと対応. 248.
(8) 中学生男児の夜尿における原因の分析と指導の試み. スラインの測定からは決定できなかったが,母. 床の時間を守れず,夜尿しなかった日は14日中2. 親との話し合いで,1回目を1時30分,2回目. 日であった.合宿でのベースラインの測定時は,. を3時30分とした.. 就寝時問や起床時問を決めたが,夜尿は引き続き. また,夜間覚醒した際に尿意を十分感じるこ. 確認されている.. とができるよう,就寝前には水分をコップ1杯 摂取することとした.. ⑨ 強化子を使ってモチベーションを維持させる 夜尿の指導には時間がかかることから,本児. 家庭における指導では,起床時問は7週目に2 日守れない日があったが,それ以上守れていない 状況はない.母親の話から,起きる時間が一定に. なってきており,自分から目を覚ますことができ. の“治したい’’という気持ちを維持し続けるこ. るようになってきたとのことであった.就寝時問. とがたいへん重要であると考えた.また,就寝. については夜間のテレビ番組等の影響もあり,ど. 時問や起床時問を守ることも,本人の自覚を維. の週も4週目の6日を最高に,週のうち1∼4日. 持し続ける必要がある.. が守れずにいるが,指導前に比べると就寝時問を. 合宿でのシールの獲得は,今回の指導におい. 守ろうと本児が取り組んでいる様子が伺える.. て,本児のモチベーションを維持するには強化. 8週目では,就寝時問は3日守れなかったもの. 子として弱いと考えた.数週間継続して,夜尿. の,指導を開始してから初めて夜尿を一度もせず. の克服に向けて気持ちを維持し続けるために,. に1週間過ごすことができた.本児も母親も1週. 本児の好きな「調理」を強化子にすることとし. 間失敗がなかったことに対し,たいへん喜んでお. た.ここでは,調理を行うためのトークン強化. り,相談日にがんばりカードを指導者に見せなが. 子として,Fig.3のような「がんばりカード」. ら,「またがんばる」と今後の取り組みに対して. を使用し,就寝時問や起床時問が守れた際に丸. も意欲を見せていた.. を与えていき,Fig.4のように,丸の数によっ. てシールをはっていくようなシステムを設け た.丸を付ける項目としては,「家庭での勉強」 「就寝時問」「臼覚まし時計のセット」「夜間の. 6.考察 (1)生活リズムを整えることによる効果. 覚醒と夜尿の有無」「起床時問」である. また,母親や大学での指導者による本人の頑 張りに対する賞賛も大きな強化子になると考え. 生活リズムを整えることが夜尿の克服において 必要であると考え,就寝時問と起床時問を守るよ う取り組んできた.. た.大学での指導者間はもちろんであるが,母. 決まった時間に就寝・起床することに体が慣れ. 親とも共通理解のもと本児に対する賞賛の言葉. てくることで,夜間に覚醒する時間が3時と6時. 掛けや励ましの言葉掛けを行うこととした.. に固定されるようになった.また,覚醒する時間. が固定されることで,夜間の排尿がトイレでしっ 5.結果. かりでき,夜尿の量は下着を濡らす程度になって きた.. 測定Ⅲ(合宿)後,家庭における指導を8週間. このことから,生活リズムを整えることは,夜. にわたって行ない,Fig.5のような結果が得ら. 尿の指導においてたいへん重要であると考えられ. れた.. る.. 生活リズムを守ることが,夜間の覚醒のリズム. (2)尿意のフィードバックに向けた夜間の覚醒に. を整えるために重要と考え,就寝時問と起床時問,. よる効果. 夜尿の回数についてグラフ化した.. 就寝前にコップ1杯の水分を摂り,夜間に2回. ベースライン測定Ⅰの2週間は,毎日就寝と起. 覚醒することにより,我々は本児が日中できてい. 249.
(9) 太田千住/一・青山 真二・上野. 樹・佐々木陽ナ. る尿意のフィードバックを可能にしようと試み. 夜間に自分が排尿したことを自覚することは,睡. た.. 眠中に膀胱に尿がたまっていることに気付くため 当初,目覚まし時計や母親の声掛けによる覚醒. にたいへん重要と考え,4週目からは,夜間の覚. で,夜間の排尿を促していたが,第3週までの指. 醒の際,冷水にて洗顔を行うことを取り入れた.. 導で,本児が夜間のトイレでの排尿について起床. その結果,洗顔を取り入れる前に母親に対して. 後覚えていない,ということが明らかとなった.. 、J′ 一一■ ゃも㌔、Lつ←. 勉強時間. 言っていた「僕,トイレ行ったっけ?」という発. ′■■■、.:− u. 目覚まし 砲. (火). ;藍ヨ. 恩. セット 寝る時間. 8日. :藍ヨ. ・・.王. 起きる時間. ( )時∼( )時. ( )時 ( )時. ( )時−( )時. ( )時 ( )時. ( )時∼( )時. 腰 起きる時間. ( )時. ( )時. ( )時 ( )時. ( )時. ( )時. ( )時−( )時. ( )時 ( )時. ( )時. ( )時. ( )時∼( )時. ( )時 ( )時. ( )時. ( )時. ( )時∼( )時. ( )時 ( )時. ( )時. ( )時. ( )時∼( )時. ( )時 ( )時. ( )時. ( )時. 本人 母. 9日 (水). 本人 母. 10日 (木). 本人 母. 11日 (金). 本人 母. 12日 (土). 本人 母. 13日 (日). 本人 母. 14日 (月). 本人 母. Fig.3 がんばりカード. 250.
(10) 中学生男児の夜尿における原因の分析と指導の試み. … 目指せ. dごっちの料理 ショー. ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■. ●●●=●●●=●●●●=●l. ==●●●==●=●●●■■●. ★ 0個∼20個…・ メニュー. ○ポイント. ★ 21個∼30個…・1ポイント ★ 31個∼40個…・2ポイント ★ 41個∼50個…・3ポイント ★ 51個∼55個…・4ポイント. ★ 56個∼60個… ‥. 5ポイント. ★ 61個以上. 6ポイント. メニュー. Fig.4 トークン強化子のシール表. 251.
(11) 太田千住/一・青山 真二・上野 樹・佐々木陽ナ. 1過日. 2週日. 合宿. 家庭1週日 家庭2週日 家屋甘週日 家庭4週日 家庭5過日 家庭8週日 家庭7過日 家虐撤週日. [:::::::コ就寝時間守れなかった日■■起床時間守れなかった日→−一失敗のあった日. Fig.5 就寝・起床時間と夜尿の実態の変化. 言は聞かれなくなり,8週目には一度自分から3 時に覚醒し,トイレに行く様子が確認された. したがって,尿意のフィードバックの弱さは,. 置づけ,取り組みを行なった.. 今回の指導においては,週に一度の相談日にが んばりカードを見ながら1週間を振り返り,守れ. 本児の眠りの深さと大きく結びついており,夜間. たところを賞賛し,守れなかったことについては. の自発的な覚醒リズムの形成が最も重要であると. どうやったら守れるのか,という話し合いをもっ. 考える.. てきた.本児は,指導者からほめられることをた. (3)本児のモチベーションの維持と強化子の効果. いへん喜んでおり,毎回1週間の振り返りを楽し. 今回の指導において,本児が中学生であり思春. みにしているようであった.しかし,起床時問に. 期であることから,夜尿を治すことに対する本人. 比べ就寝時問が守れない日も多かったため,5週. の「治したい」という気持ちを維持させることが. 目より毎日の家庭学習のあと,大学の指導者に一. 重要であると考えた.. 日の生活について電話で報告することにした.そ. はじめに述べたように,中学生や高校生におけ. の結果,5週目は就寝時問が守れなかった日が1. る夜尿の指導では,配慮すべき部分も多い.また,. 日のみ,と本児の意識の変化がうかがえた.現在. 思春期の子どもたちの夜尿指導にあたっては,自. も,電話での確認は続いている.本児自身が取り. 立的に取り組むべき部分が多くなると考えた.就. 組んでいることを,他者から賞賛されたり,激励. 寝時問と起床時問,目覚まし時計をセットするこ. を受けたりすることは,モチベーションの維持に. となどに対して,これらが,夜尿を治すためであ. おいてたいへん重要であった.. ることを理解し,自覚して取り組むことがたいへ ん重要であると考えた.. 本児のモチベーションを維持するため,我々は. また,本児が「調理」に向けて,丸の数を増や. そうと,家庭学習や就寝時問等の生活リズムを整 えようとする様子が見られた.また,次の「調理」. 本児に対する強化子として,「他者(指導者,母. で何を作ろうか,と楽しみにする様子も見られ,. 親ら)からの賞賛」と「調理」を強化子として位. 調理することを得意とする本児にとって,自分で. 252.
(12) 中学生男児の夜尿における原因の分析と指導の試み. 調理するメニューを選ばせたことも,モチベー. ditioningmethodforthetreatmentofenuresis.Jour−. ションの維持にとっては効果があったと考える.. nalofBehaviorTherapy&ExperimentalPsychiatry, 1,121123,1970.. ・古賀愛人・久野能弘・小野隆章・南諭:「夜尿および. 7.今後の課題 (1)夜間の自発的な覚醒に向けて. 考察にも述べたが,本児は現在まだ夜間に一人 で覚醒することが難しく,母親や祖父母の声掛け で起きている状況にある.したがって,今後は,. 本児が目覚まし時計や尿意によって,一人で覚醒. 夜尿児の行動特徴一夜尿の行動分析(その4)」日本行 動療法学会12回大会発表論文集,40−41,19鋸.. ・Mowrer,0.H.&Mowrer,W.M.:Amethodforits Studyandtreatment.AmJ.Orthopsychiat.,8;436459, 1938. ・P.A.アルバート/A.C.トルーマン著:「はじめて の応用行動分析」,二瓶社,1992. ・R.M.フォックス N.H.アズリン/束 正監訳:「ト イレットトレーニング」川島書店,1976.. できるような手続きを考える必要がある. (2)強化子の検討. 今回の指導に際して,他者からの賞賛やポイン ト別のがんばりカードが効果を上げてきたといえ る.しかしながら,中学生である本児の興味や関 心が,今後大きく変化していくことが予想される.. それゆえに,強化子の内容や強化スケジュール について,定期的に検討していきたいと考えてい. ・佐竹其次:「ノト学校普通学級におけるADHDと疑わ. れる児童への機能的アセスメントによるアプローチ」 山形保健医療研究,4,43−49,2001. ・東條光彦・前田基成:「児童の一次性夜尿の治療にお. けるRetentionControITrainingの適用について」行 動療法研究,17,2,39−47,1991. ・内田一成:「DBT手続きの修正法が奏功した精神遅滞 を伴った成人夜尿症の1例」児童青年精神医学とその. 近隣領域 28(5),312−321,1987. ・内田一成:「行動療法における排泄障害の効果的治療」. る.. 愛知学院大学文学部,30,13−26,2001. ・W.L.ミクラス:「臨床 行動変容法」金子書房,19飢.. く参考文献〉 (太田千佳子:函館校大学院生) ・赤木稔・岩波文門:「Kimmel−Azrin変法による夜尿症. の治療」小児科,21,37−44,1980. ・Azrin,N.H.Sneed,T.]&Foxx,R.M.:Drybed:Arapid methodofeliminatingbedwetting(enuresis)ofthe. (上野 樹:函館校大学院生) (佐々木陽子:函館校大学院生) (青山 真二:函館校). retarded.Behav.Res.Ther.,11;427434,1973. ・阿部佳織・赤木稔・西川潔・吉岡重戚: 「KimmelAzrin変法による夜尿症の治療(Ⅲ)」行動. 療法研究,13,2,1−8,1988. ・平澤紀子:「発達障害者の問題行動に対する“Positive BehaviorSupport”一応用行動分析における意義一」. 西南女学院大学紀要,Vol.4,60−67,2000. ・平澤紀子:「積極的行動支援(PositiveBehaviorSup− port)の最近の動向一日常場面の効果的な支援の観点か ら一」特殊教育学研究,41(1),37−43,2003. ・藤原義博:「発達障害児者に対するPositiveBehavior−. alSupport一今日的意義と方法論の特徴一」日本行動 分析学会第17回年次大会プログラム・発表論文集,42, 1999.. ・神村栄一・古田朋子:「青年期夜尿症に対するドライ. ベットトレーニングの効果」BuletinofTsukuba PsychologicalClinic,Vo15,3138,1989. ・Kimmel,H.D.&Kimmel,E.:Aninstrumentalcon−. 253.
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