多文化社会と言語教育 Vol.1 March 2021 63
【JLP プログラム実践報告】
理工系学生のための日本語教育の開始
長谷川由香1.理工系学生のための日本語教育プログラム設置
2020 年度より小金井キャンパスにおいて新たに日本語科目が設置された。従来、各学期 3コマの日本語科目が提供されていたが、これらは大学院英語学位プログラム生向けの初 級レベルの科目であり、上級レベル以上の学部生・大学院生を対象とした日本語科目は設 置されていなかった。そこで、理工系の授業に苦労せずについていく日本語、上級のアカ デミック日本語(レポートや論文を書く力・発表する力)の教育を施し、小金井キャンパ スにおける留学生の日本語力の向上を図ることとなった。対象は、外国籍の学部生・大学 院生であるが、入学経路を問わず日本語教育を必要とする学生(帰国生など)も受講可能 とした。以下では小金井キャンパスにおける日本語教育プログラムの授業の概要および 2020 年度の実施状況について報告する。2.プログラムの概要
日本語科目の概要を表1に示す。当初は「理工系の日本語 1S/F」から「理工系の日本語 6S/F」までの計 12 科目を設置する計画であったが、2020 年度は設置初年度で履修者数が 予測できないこともあり、「理工系の日本語3S/F」と「理工系の日本語4S/F」を除く計 8科目を開講することとなった。 【表 1 日本語科目の概要(2020 年度)】 授業名 主な目的 内容 理工系の日本語 1S/F レポート作成 基礎練習(文体、図表の表現、仕組み、定義、要約、 引用など)、2000 字程度のレポート作成、スライド作 成と発表、等 理工系の日本語 2S/F プレゼンテーション プレゼンテーション、ディスカッション、スピーチ、 メモの取り方、意見の述べ方、質疑応答の方法、レジ ュメ・スライドの作成方法、等 理工系の日本語 5S/F 論文作成 基礎練習、4000 字程度の論文作成、スライド作成と発 表、等 理工系の日本語 6S/F ビジネス日本語 敬語とマナーの基本、自己分析とエントリーシート作 成、面接練習、インタビュー、グループディスカッシ ョン、ケーススタディ、BJT(ビジネス日本語テスト) 演習、等 「理工系の日本語1S/F」は中上級の学習者を対象としたレポート作成の科目である。 文体の使い分けや図表の説明、引用といった基礎的な練習を中心に行い、最後に 2000 字程多文化社会と言語教育 Vol.1 March 2021 64 度のレポートを書く。「理工系の日本語2S/F」は口頭表現の科目であり、発表や討論とい った活動を行うために必要な基本的な日本語力を身につける。「理工系の日本語5S/F」は 上級以上を対象とした、研究に必要な高度な日本語力を養うクラスである。特に論文を書 く力を高めるとともに、研究発表等の口頭表現を身につける。「理工系の日本語6S/F」は ビジネス日本語に焦点を置いたクラスである。敬語の運用能力やマナーを身につけ、就職 活動に必要となる知識や能力を高める。 これらの日本語科目は、必修科目と重ならない時間帯である平日5限および土曜に設定 されている。また、情報科学部以外において、日本語科目は卒業所要単位外の位置づけで ある。成績評価は P/F(合格/不合格)とし、また GPA から除外することで、学習者の負 担を軽減し、履修へのハードルを下げている(表2)。 【表2 小金井キャンパスにおける日本語科目の扱い(2020 年度)】
3.プログラム 実施報告
2020 年度の開講にあたり、市ヶ谷・小金井のグローバル担当と協力して以下を実施し た。まず、3月末にアンケートを行い、学習歴や学習動機、履修意思などについて確認し た(回答者 27 名)。次にオンライン日本語テストを Google Forms で実施した(受験者 31 名)。4月 17 日にはオンラインガイダンスを Zoom で実施し、授業予定と内容、単位およ び成績認定等の説明を行った(参加者 22 名)。なお秋学期にもテストとガイダンスをオ ンラインで実施した。授業は Zoom と Google Classroom を使用し毎回オンラインで行った。新型コロナ感染症 拡大の影響により春学期は 12 週となったため、毎回 20 分延長して 14 回分の総授業時間 数を確保した。履修者の延べ人数は 37 名であり、春学期 25 名、秋学期 12 名と春学期の 方が多かった。内訳は学部生 16 名、大学院生 21 名と、大学院生の方がやや多く、大学院 英語学位生の受講も見られた。なお、学部3、4年生と博士課程学生の受講はなかった。 オフィスアワーは週に1コマ、Zoom で実施した。オンライン国際交流会(Zoom)をグロ
多文化社会と言語教育 Vol.1 March 2021 65 ーバル担当、国際交流支援室と協力して計6回実施し1、国際交流に関心を持つ日本人学生 と留学生の交流を行った。 今年度の所見は以下の通りである。まず、全体的に学習者の授業参加態度は真面目で意 欲的であった。最大7名という少人数クラスのため一人一人に目を配ることができた。一 方で、大学院生のレベル差が著しく、授業によっては上級レベル後半の学部生と中級レベ ルの大学院生が混在したため調整に苦心した。「理工系の日本語1S/F」および「理工系 の日本語5S/F」は作文のクラスであるため個々の書く作業が多くさほど気にならない が、「理工系の日本語2S/F」は討論や質疑応答などの活動が多いため、レベルの差が際 立ち、各参加者を満足させるような工夫が必要であった(具体的には個々への指導を増や すなど意識した)。しかしその一方で、混合クラスであることは日本語レベルや学年を超 えてよい一面もあり、特に大学院生の豊かな知識や研究に対する真摯な姿勢は学部生にも よい影響を与えていたように感じられた。課題の負担度については、「理工系の日本語2 S/F」および「理工系の日本語5S/F」で一部の学習者がやや負担に感じたようだが、他の 授業では適切であったようである。「理工系の日本語6S/F」は春・秋学期ともに全員が 大学院生で、就職活動中および就職先が内定している学習者も含まれたが、特に敬語の練 習が役に立ったとの意見があった。オンライン授業に対しては、大多数の学習者が満足し ている。なお、春学期に中国からの1名のみ Google の機能の一部を使用できず個別の対応 を行った。