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路上生活経験者の内的世界に関する心理臨床学的研究

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Academic year: 2021

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(1)路上生活経験者の内的世界に関する心理臨床学的研究  専攻   学校教育学専攻 コース  臨床心理学コース. 学籍番号     M07074E  氏名      山際志穂.        1.問題と目的. あてていることから,検討すべき課題が考えら.  我が国のホームレスは,1992年のバブル崩壊. れる。どの様な人生を送ってきたのかを聴く際. とともに顕在化した(岩田,1997)とされてい. に有効な手段として,rライフストーリー」研究. る。しかし阿部(1926)は,日本の賎民の歴史. がある。人間は変化する日々の行動を構成し,. についての文献を関し,その発生年度を推古天. 秩序づけ,「経験」として組織し,それを意味づ. 皇の時代と推測し,『この輩は,人類社会のあら. けながら生きている。この経験の組織化,そし. ん限は滅亡なかるへし。』と記述している。ホー. てそれを意味づける行為がr物語」と呼ばれる. ムレスとは,誰もが使い,存在することができ. (やまだ,2000)。本研究では路上生活者のラ. た世界を私的に切り囲い込んだことによって,. イフストーリーを聴き取り,心理臨床学的に考. 生み出されたものであり,排除される者をなく. 察することを日的とした。. すことはできない(笹沼,2008)。しかし,路.          方法 (1)調査協力者. 上生活者の生活が「飢餓と死」の紙一重の状態 である(高間,2006)ため,その存在を無視す.  調査協力者はA市カトリック教会の炊き出し. ることはできない。路上生活者に対する支援は. に参加している路上生活経験者4名であった。. 行政や各自治体によって行われているが,路上. 協力者の概要は以下に提示した(Tab1e1)。 (2)調査期間. 生活者をとりまく環境は複雑化しており,現支 援体制には限界があるとも考えられている(野.  2008年8月∼1O月であった。 (3)手続き. 上,2002)。後藤(2007)は,路上生活者が施 設から自己退所する要因を検討し,物質的な援.  路上生活経験者に書面で調査協力をお願いし三. 助に傾斜している現行の援助に,心理的な援助. 書面でインフォームドコンセントをとり,1人. を加えていくことの必要性を唱えている。野上. 1回30分から90分の半構造化面接を3∼5回. (2002)は,路上生活者の喪失体験と悲哀の心. 行った. 理を面接調査から明らかにしているが,結果か.          結果. ら,路上生活者の多くが路上生活に至る以前に.  ここではAさんの事例について記述する。. 複数の喪失を体験していること,喪失に対する.  子ども時代は友人が少なかったと語る。小学. サポートがないこと箸,病的な悲哀を抱えてい. 校5年生の時に両親が離婚。中学校以降「ずっ. ることを考察している。しかし,先行研究では,. と閉じこもっていた」と語った。18歳の時に母. 路上生活者に至る前後の喪失体験に主に焦点を. 親が亡くなり,その後父親の元に行くがすでに. 一162一.

(2) 再婚し,連れ子もいた。「(親が死んで)1年も. りからも示唆される。. たたないのになれるわけない」折りあいが悪く. 2.転回するための出会い. て,家を飛び出して自衛隊に入隊したが,「試験.  やまだ(2008)は,ナラティブ・ターンにつ. に1個も通らなかった」ため5年で辞める。そ. いて述べているが,現在居宅に入居し,支援団. の問にr親父ぽっくり逝きおった。死に目にも. 体との交流があり、生活保護を受けている2名. 会ってない」と語った。友人にお金の面で騎さ. のライフストーリーにも【欠如(ない状態)】が. れたため「人間不信になった」その後10年ほ. 【出会い(人との出会い)】によって[転回(こ. ど路上生活をしたが,そこでボランティアスタ. れまでの人生の見方が変わる)】というライフス. ッフのMさん,Fさん,Nさんと出会い,r180. トーリーの転回が見られた。このことは,重要. 度変わった。」と語った。「殻に閉じこもってど. な他者との出会いによって,それまでの喪失の. うしても一人では抜け出せなかった」が,そこ. 経験の意味づけが変わっていくということを示. から助け出してくれたのがrこの3人だ」であ. 唆している。現在路上生活をしている2名のラ. る。マイナスだったのはr路上生活をしていた. イフストーリーには,【欠如(ない状態)】の転. 時期」しかし振り返って,rマイナスだった時期. 回は見られなかった。r祖父が大好きだった」rま. はないかな。全部プラスになってきたから」と. わりの大人が世話してくれた」等,重要な他者. 語った。プラスの経験は「今。友達がたくさん. の存在は語られたが,自分の人生を振り返って. できたから」と語った。友人は人生で手に入れ. r今でも親を恨んでる」r私の人生ってなんだっ. たものでr宝物」であるという。人生で喪った. たのかしらね」と,自分の過去の経験を肯定的. ものは「両親。自分がないってことだから」今. に意味づけられることは未だ困難な状態である。. も「楽しみがない」状態は続き,「酒飲んでぱた. 過去の記憶が転回される様な出会いやきっかけ. んと寝たい」「何も考えたくない」と語った。. が体験されることが重要となってくるであろう。.         総合考察. 3.喪失体験.  Aさん以外の3名の語りも含め,4名の路上.  4名ともに「離婚」「肉親との死別」「引っ越. 生活者の考察における類似点を以下に概略した。. し」等,幼少期からなんらかの喪失体験を経験. 1.ライフサイクル上の問題点. していることが語られたが,喪失の受け止め方.  4名の路上生活経験者ともに,そこに至るま. や悲哀の過程の体験のされ方は,幼少期からの. での過程や反応は様々であるが,「ここはもう違. ライフサイクルやその当時の周りの環境等によ. う世界やから」「な一んにもする気おきなくなっ. って全く異なっていることが明らかにされた。. ちゃった」rなんでか働きたくなかった」という. 悲哀の情緒を感じることは重要であるが,たと. 語りから,なんらかのアイデンティティ拡散状. え悲哀の過程が遂行され新しい対象を得たとし. 態にあることが明らかになった。拡散状態にな. ても,喪失した対象は補完されるものではなく,. った場合に,さらに対人関係をも喪失し,相互. 対象喪失は個人が一生抱えなければならないも. 性が失われ,この危機が解決されることは難し. のであることが示唆されている。. かったと考えられる。Aさんの「一人ではどう.           主任指導教員 藤生英行. しても抜け出すことができなかった」という語.             指導教員 辻河昌登. 一163一.

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