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安全で安心できるe-社会を実現するソフトウェアとシステム技術:5.みずほのトラブルから何を学ぶか

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Academic year: 2021

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(1)特集 5.. 特 集:安全で安心できる e- 社会を実現するソフトウェアとシステム技術. みずほのトラブルから何を学ぶか. 工学院大学国際基礎工学科/畑村創造工学研究所. 畑村 洋太郎. [email protected].  みずほ銀行のシステムトラブルが起きてから約 2 年に.  システムを動かす人(経営者)が学んだことは,いっ. なる.あれだけの大きなシステムトラブルをやったのだ. たんシステムにトラブルが生じると,それぞれの作業の. から「せっかくやった失敗だ,しゃぶり尽くさなければ. 本質的な意味を知り,全体における部分の果たすべき役. もったいない」と考えて,このトラブルから学ぶべきこ. 割を十分に知覚している人間の存在こそが重要であると. とを筆者の提唱する失敗学の立場から瞥見してみよう.. いうことだ.システムが動かなくなったときに最後に頼 れるのは人力である.手書きの伝票に記入し,電話で伝 達する.紙面に作表し,それをファックスで伝送する..  システムを作る人(設計者)が学んだことは,異なる. ひとりずつがパソコンのキーを叩き,相手に伝送する.. 起源を持ったシステムを後から統合するのは,とうてい. 筆者はその現場に立ち会ったわけではなく,推測するだ. 無理だということである.次々に生じる要求を満たすべ. けであるが,多分この推測は合っているだろう.そして. く行われた「付加設計」は決して最良なものとはなり得. 手作業ができたからこそ 1 カ月余の緊急処置で曲りなり. ず,無駄と見えない欠陥(不具合)を内包し,思わぬと. にも銀行の基本機能を回復することができたのである.. きにそれらが顕在化する.このようなことを避けること. 今回は従来の手書き作業を経験した従業員が健在だった. はどんなに注意深く点検しても不可能であり,はじめか. からこそ対処できたが,コンピュータに依存した仕事し. ら要求機能と制約条件を明らかにし,それらを満たすべ. かしたことのない人たちだけで銀行を動かすようになる. く「全体設計」をやる以外に方策はない.このような考. 10 年後に今回と同じトラブルが起こったら対処不能に. え方は,すべての設計に当てはまることで,筆者が永く. なり,応急処置不能のまま新しいシステムができるまで. 親しんできた機械設計では当然視されているし,情報シ ステムの設計者にも,たとえば流用設計を行うときの問 題点として広く認識されている(図 -1) .  システム設計者が学んだもう 1 つの大事なことは,シ. 別館 3. ステムの不具合は,全体を動かしてみなければ分からな. 別館 2 別館 1 新館. いということである.別な言い方をすれば,部分確認の 積み重ねでは全体適正の確認はできない,ということで. 本館. まったく新しく建て直す. 対比. 十分な機能 余計な制約がない 安全. ある.でき上がった全体システムの一部分を取り出し, その周囲状況を仮に設定し,その部分の動的な挙動を確 認しても,部分を繋ぎ合わせて全体を再構築したときの 全体としての挙動は確認できない.なぜなら部分と部分 の接合部の状態がはじめに仮定しなかった状況になるこ とはいくらでもあり得ることだからである.. (a)付加設計. (b)トータル設計.  (便宜的処置). 図 -1 付加設計とトータル設計の例−山の中の温泉宿−. IPSJ Magazine Vol.45 No.4 Apr. 2004. 365.

(2) 2 ∼ 3 年待たなければならない,などという事態が起こ. れているのだろうか(図 -2).ここでいう逆演算とは. り得る.. 通常の設計の思考過程で行われる「これをやるとこう なるはず」という順演算のまったく逆で,まずくなる.  システムを使う人(利用者)が学んだことは,巨大シ. 結果を仮定し「それになるには,これが要る」と逆に. ステムは当てにならないことと,それでもそれに頼らざ. 論理をたぐってゆくやり方である.失敗学において,. るを得ないことである.利用者から見ればシステムはう. この逆演算は最も重要視されており,昨今我が国で起. まく動いていて当たり前の “ 空気のようなもの ” なの. こるさまざまな失敗は,この逆演算をせずにシステム. である.何の努力もせず,何の危険も想定せずとも,い. 構築し,しかも逆演算の必要性にすら気づかずにいる. つも便利さが取り囲んでくれていると思っていたものが. ことに根本原因があると筆者は考えている.なお,失. 突然動かなくなり,送金が届かなかったり,自動引き落. 敗分析では,失敗の樹木構造で示すことが広く行われ. としの料金が引き落とされずに督促がきたりしたのだか. ており,「逆演算」に近い考え方をしている.. ら,起こった途端は何が何やら分からず,事態が明らか. (2)システム設計に「全体設計」の考えはあるのか,ま. になるにつれてあきれ果て,怒り始めたのである.そし. た実用化されているのか.要求機能と制約条件を満た. て時間が経ち全容が分かってくると,身の回りが巨大シ. す解を,後から生じた要求を満たすべく変更し,それ. ステムに囲まれ,それの当てにならないことを考え,怖. が積み重ねられてでき上がったのが現実のシステムで. さを感じ始めている.利用者は情報システムだけでなく,. あるとすれば,それはいつも付加設計の固まりという. 今は空気のように思っている食料やエネルギー(電力を. ことになる.しかしシステムをまったく新たに構築す. 含む)にも同じことが起こり得ることに考えを広げなけ. るには費用も時間もかかりすぎると考えると,躊躇が. ればならない.. 起こる.これをどう乗り越えればよいのか.なお,主 1). に機械設計では Suh の「設計公理」  最後にシステムを考える人(研究者)はいったい何を. 2). 造設計原理」. や筆者らの「創. がこの課題を取り扱っている.. 学んだのであろうか.自分には関係のないことだと何も. (3)システム構築の途中で求められる設計変更への対. 学ばなかったのかもしれない.しかし,あのトラブルを. 処理論はあるのか,また実用化されているのか.実際. 真剣に考え,今までとは違った見方の必要性を感じた人. のシステム構築でははじめに定められた仕様がそのま. もいるかもしれない.情報システムについてはまったく. ま最後まで固定されることは稀で,作業途中でいろい. の門外漢である筆者の考えを披露し,システムを作る人. ろな変更が求められている.場合によっては作業途中. へのヒントとしたい.. ではじめから全部やり直さなければならないこともあ. (1)システムの適正さの検証に「逆演算」の考えが使わ. る.作業途中で加えられる変更の程度をあらかじめ仮 定し,そのような変更があっても対処できるようには じめに定める構造を構築することと,途中での変更の やり方を考える理論と方策が求められる.他分野の例. 順方向. では,さまざまなプラント設計でこのような考え方が 表の世界 逆方向 隠れた世界. 失敗の川. 逆演算だけが失敗の 脈絡を見つけ出す  左手 (順演算). 順方向演算と 逆方向演算の関係  右手 (逆演算). 人間の両手によるアナロジー. 図 -2 逆演算思考の必要性. 366. 45 巻 4 号 情報処理 2004 年 4 月. 採用されている.  約 2 年前に起こったみずほ銀行のシステムトラブルに ついて筆者の考えをいくつか紹介した.これをヒントに せっかく起こしたトラブルから将来のシステム構築の種 をぜひ引き出していただきたい. 参考文献 1)Suh, N. P.:The Principles of Design, OXFORD UNIVERSITY PRESS (1990), 畑村洋太郎(訳): 設計の原理 , 朝倉書店(1992) . 2)畑村洋太郎 , 小野耕三 , 中尾政之 : 機械創造学 , 丸善(2001) . (平成 15 年 2 月 8 日受付).

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